少しずつ物語が進み始める段階で、展開的にはそこまで大きくはないです。
世界観を崩さないで陽乃を書くのは苦労しますね…
スキンシップ。
辞書的な意味では肌と肌の触れ合いによる心の交流と定義されている。
主に親子や自分のペットなどとのやりとりで使われることが多いのだが、魔王こと雪ノ下陽乃はスキンシップと言って俺に絡んでくる。
しかも辞書的な意味と同じ行動をとって。
なんなの俺はペットみたいにしか思われてないの??
確かにあちこち連れまわされてペットみたいだけれども…。
彼女のスキンシップは
夏ともあってか露出度が高くなる服装のままでボディタッチがやけに多いのだ。
おまけに俺のパーソナルスペースにズカズカと侵攻してくる。その侵攻スピードはまさに縮地で、気付いたらゼロ距離にいるなんていうのはザラである。
おかけで俺の絶対防衛線の半径1メートル(約半歩程度)のパーソナルスペースは魔王の前で瞬く間に占領され現在はほぼ皆無になってしまった。東條内閣のように内閣総辞職レベルの失態である。
長年のぼっち生活で作り上げた俺のATフィールド(絶対防衛線)は魔王のアンチATフィールドの前に歯が立たなかったのだ。
魔王の占領下に入った俺はまさに戦後の日本のように魔王による占領政策をされた。
今まではカフェや本屋など比較的おとなしめの陽乃さんいわくデートだったのが最近はやたらとファンション系の店に連れ回されることが多い。
腕を引っ張られ、女性特有の柔らかさに包まれながら俺は千葉の街を駆け回った。
普段絶対に行かないようなオサレな服屋やアクセサリーショップの数々に俺はただただキョドるしかなかった。
もう半分黒歴史レベル…。
そして今日も………。
「ねー、比企谷くん。どっちがいいと思う?」
「どっちも似合ってますよ。はい。」
「そんな適当に言わないでよ。
もっと真剣に選んでよ」
「いや、本当に俺ファッションとか分からないんで…」
「別にファッションセンスとか関係ないよ。私は君とっていいか、悪いかを聞いてるの」
「だからどっちも似合ってるって言ったじゃないですか…」
「そう?」
「はい、超大丈夫です(棒)」
「じゃあ、この服着たら君はお姉さんにときめく?」
「はい?何言ってるんですか
そういうのいらないんで はい。」
「えー結構 私にとっては重要なことなんだけどなぁ〜
私は君を陥落させないといけないから」
何その使命感…
「行き着く先が死地なのに、そんな易々と行くわけないでしょう…」
「まだ、そんなこと言ってるのー?
そんなこと気にしなくていいって言ってるでしょう?」
「いや、俺は気にするんですよ…」
「比企谷くんはもう少し身持ちを軽くするべきだと思うよ?」
「いや、そんな簡単には行きませんよ。人間早々変わるもんじゃありませんよ」
「じゃあ、私限定っていうのは?」
「は?」
「だから 私限定でもいいから
もっと軟化していいんじゃない?」
「なんでですか…」
「そりゃ こんなに一緒にいるからだよ♪」
そう言って、いつものお綺麗な笑顔を披露する。
彼女の顔というのはどれだけ見ても飽きない。そうやって見る人を惹きつけるのだろう。だがその魔の手は俺にも迫ってきていた。それによって心のどこかで彼女の魅力に当てられ動揺している自分がいる。
ただその動揺が何を意味してるかなど考えてしまうほど俺はロマンチストじゃない。一時的な心の揺れとしか思わないし、こういったところから勘違いが生まれることを分かっているから俺は常に戒めることにしよう。
それが自分にとって一番の安寧となるから。
「まぁ 世の男子ならそう行くかもしれませんね….」
「相変わらずだなぁー
比企谷くん陥落は予想以上に苦戦しそうだよ」
「別にそんな無理してやる必要ないですよ。」
こんな会話をいつもしていると思うのだが。相変わらず陽乃さんは
「はいはーい」
と、いつも分かってるのか分かっていないのかわからないような返事をしてくるのだ。
陽乃さんとのファッション店の物色を一通り済ませ、ようやく一息つけると、俺たちは本屋へ向かった。
陽乃さんと出かける時はもうほとんど本屋には出向いている。
俺が読書好きというのもあるのだが、何より静かに落ち着いた雰囲気だということでいつも足を運ばせてもらっている。幸い 陽乃さんも普通に読書が好きだってこともあり彼女自身も書店に行くことにはいつも快く同意してくれる。
場所は千葉駅近くの比較的大きな書店。豊富な種類と圧倒的に在庫数で、俺の行きつけの店である。
基本的にこの店だけで俺の読みたい本のほとんどは手に入る。
俺たちはとりあえず入店し、2人で新作を一通り物色した後、お互いの好みの本を探すということで別行動することにした。
俺はとりあえず文庫本と、受験用の問題集やら参考書を探し、陽乃さんは意外にも自己啓発本だったり経済史などの一般的に見たら敬遠されがちな本を探すとのことだ。
とりあえず俺は探している本が多いため時間がかかるかもしれないので、その時は適当に書店の入り口近くで待っていてくださいと一言据え、別れた。
基本的にこの書店では人気のあるコミックやライトノベルは陽乃さんの探している小難しい書籍から離れている。
とりあえず目的の1つのライトノベルのコーナーに立ち寄り、新刊や気になる題名の本を確認する。
最近のラノベってタイトルやけに長いし、異世界モノ多いよなぁ…
俺も異世界に転生すればハーレムにでもなれるのだろうか?
そんなアホなことを考えてしまうが、あり得ない話なので適当に脳内で流す。
まぁ今日の本命はラノベではなく
参考書なので、ある程度見回して早々にコーナーを移動することにした。
市内でも最大クラスの書店であるこの店は参考書類の在庫も豊富である。
とりあえず赤本ほとんどの大学を十分に揃えているため吟味するにはもってこいな場所である。
とりあえず第一志望の早稲田大学は既に用意してあるので併願で受けるMARCH辺りの赤本と新しい英語の問題集を探すことにした。
ただ、やはり大学受験ともなると英語の参考書や問題集の種類は膨大であり、どれを選べばいいのかが分からない。
本棚から少し距離を置いて全体を見回せば英語の書籍だけでワンコーナー作れそうなレベルである。
陳列されている本はどれも
「絶対分かる!」「これさえあれば完璧!」「絶対でる!」などなど目を引くような題名がつけられたものが多い。
だがその題名通りの効果が得られるのは人それぞれまちまちであり、安易に選んでは金をドブに捨てることになる。
重要なのは自分の学力と志望校の傾向、苦手分野を多角的に判断した上で、自分に最も合ったものを選ぶことだ。
だが、この膨大な数の中から選び出すのはなかなか難しい。
こういう時こそ、友人や先輩のアドバイスを参考にすればいいのだろうが、残念ながら俺はぼっちであるため、そんな人間はいない。
一応 部内には優秀な雪ノ下雪乃がいるが、残念ながら今現在ここにはいない。だから俺は仕方ないので独力で選び出さないといけない。
とりあえずAmazonなどのレビューと見合わせながら中身をチェックするというなんともマニュアルな作業をすることになった。
とりあえず、有名著者、有名出版社、長年の実績のあるものを中心に選んでいくことにした。まぁそれでも膨大な数があるんだけども…
「何探してるの?」
そう言って、本棚に集中していた俺の真横からいきなら顔をのぞかせてきた人間がいた。
「うわっ」
たまらず 小さく後ろに二歩後退りして距離を取る。まぁ覗いてくる人間っていうのは……
「うわってひどくない?」
もちろん安定の陽乃さんなんだけども…
「いや、集中してるところいきなり真横から覗き込まれたら誰でも驚きますから…」
本当にこの覗き込むのやめてほしい。
心臓に悪過ぎる。
「で、何探してるの?」
「とりあえず、英語の問題集を…」
「へぇー それで何を選ぼうか迷ってたわけだ?」
なんで分かんだよ…
「まぁ、そんなところですね…」
「それなら私を頼ればいいのにー」
陽乃さんに頼れよって思った奴いただろ?確かに彼女は先輩だし今一緒に行動してる人間ではあるのだが、残念ながら俺と陽乃さんは文系と理系で違うし、さらには私立と国立ということでも違うのだ。
私立と国立だと問題傾向は全然違うしおまけに文系と理系で違うともなればさらに違ってくる。
だからあえて聞かなかったのだ。
まぁ 陽乃さんも家庭事情的に厳しい状況だから変に頼って困らせたくないという気持ちもあったのだが。
「志望してる大学が全然違うのであえて聞かなかったんですよ…」
「あーそういうことかぁー
でも私多分私立文系の問題も解けるよ?それに私立文系の友達多いし理系だけど結構英語のオススメ問題集知ってるよ?」
確かにこの人に解けない問題の方が少ないだろうな…。
「じゃあお言葉に甘えて…」
「ありゃ 意外な反応だね。」
「いや、進路に関わる問題なので捻くれても仕方ないでしょ。頼れるものは頼っておかないと…
それに、まぁ、数少ない先輩なので…」
「ほうほう 随分と嬉しいことを言ってくれるじゃないか〜
比企谷くん攻略作戦もようやく展望が見えてきたね」
「後半の発言内容には疑問が残りますがとりあえず早くお願いします。」
「はいはいっと〜」
そう言って俺たちは再び本棚と睨めっこすることになったのだ。
時間にして10分。
陽乃さんは本人の経験と知り合いからのアドバイスに基づいたオススメ問題集をテンポよく選び出すと。問題集の内容、解説方法などを詳しく簡潔に教えてくれた。さすが超人。説明まで完璧。
この人は文系っぽい仕事もできるのかと改めて関心してしまう。
ならば俺をからかうために論理を飛躍させることをやめてほしいものだが…。
「ま、説明はこんなもんかなぁ
あとは比企谷くん次第だよ?」
「はい、ありがとうございます」
「よろしい。じゃあ私は適当に回ってから店の入り口で待ってるね」
「分かりました。」
彼女は手を振りながら俺の前から消えて行った。
本棚の中に消えて行った彼女の背中を見送ると、俺は陽乃さんに見繕ってもらった数冊に目を落とし、中身を確認する。
ザッと全部に目を通し、その中から自分に合いそうなものを二冊選んだ。
とりあえず今日買う学習書籍はこんなもんでいいだろうと、選ばれなかった残りの書籍は元の場所に丁寧に戻した。
俺は今日一番の目的が達成されたので、後は適当に文庫本にでも少し目を通してから店を出ようと、文庫本が陳列されたコーナーに向かった。
いつもと同じように、目のつきやすいところには話題の本や有名作家の作品が多く陳列されていた。
ライトノベルの時のように気になる題名や作者の本をとってみる。
パラパラと中を眺め、裏表紙のあらすじを読んでみる。こうして俺はいつも次に買う本に目星をつけておくのが書店に来た時のルーティーンワークである。
もちろんなんの予定も立てずに本を眺めて選ぶのもいいのだが、俺はこうしてあらかじめあらすじを読んで楽しみを次に取っておくタイプなのだ。
とりあえず現段階で数冊 気になる本を見つけることができた。だが自分の金銭的問題もあるのでここから最終的に買うものを一冊選ばないといけないのだが、この最後の一冊を選ぶために悩むのもまた一興である。
特集陳列棚を見た後はゆっくりと目線を上げて他の書籍も見てみる。
そういえばこの前、陽乃さんに借した本はなかなか好評だった。今まで人に本を借したり勧めたりすることがなかったので、自分の勧めた本が認められ好評だったのは内心すごく嬉しかった。
続きも少し前に借したので時期的にはそろそろ読み終えた頃だろうか?
なら次は何にしよう?
陽乃さんの好みのジャンルはあるのだろうか?どうせ選ぶならもちろん喜んでもらえるものがいい。だがそれを選ぶのが難しいことくらいわかっている。
本の好みは人によって違うし、おまけに陽乃さんが読んだことない本を選ばないといけない。
あまりに万人ウケするような本は嫌いそうだし、あまりにマニアック過ぎてもダメなのであろう。しかも相手は同級生や友人に勧めるならまだしも、相手は先輩で美人。今まで周りの人間からプレゼントや贈り物なんていくらでも貰ってきただろうし、その辺の人間よりはるかにそういったものに対する目利きはできるのであろう。
そうなれば、自然と選ぶべきもののハードルは上がる。前回好評だった本はたまたま彼女のお気に召すことができただけで次もそんなうまくいく保証はない。
陽乃さんに合う本を選ぼうとも選び出すための判断材料が俺にはほとんど手元にはない、完全な手探り状態である。
つまりいくらここでいくら時間をかけて本棚を見つめ考えても何も発展しないのだ。
そう思うと 一気に気持ちが冷めてきた。人間、無駄と分かると気持ちは一気に後退するものだ。骨折り損のくたびれもうけなどにはなりたくないしな。
そもそもなんで俺は陽乃さんが喜びそうな本を選ぼうとしているのだろうか?
そこまで人にプレゼントなんてしたこともないのに。
プレゼントを渡すだけの関係になれた人間も僅かなのに。
俺はまたこうやって一緒にいることをいいことに出しゃばって過去の過ちを繰り返そうとしていたのだ。
そんな考えが一度 頭をかすめると気持ちはますます冷めていった。
俺はこれ以上の自分への失望から避けるために踵を返し、会計を済ませ店を出ることにした。
問題集二冊で約2500円。
収入の高校生にとってはなかなか高い出費だが、勉強のための出費なら親からの支給が入るので痛くはない。
久しぶりの高額な買い物(俺にとっては)をして商品袋を受け取り店を出る。
出ると同時に待たせている人を探す。
店の入り口近くで待っていると本人が言っていたので見つけるのは簡単だろうと、適当に周囲を見回す。
すると彼女はすぐ見つかった。
まぁ元々綺麗な人だから目立つってのもあるが今はそれ以上に目立っていた。
理由は簡単。
彼女の周りに数人の男が囲んでいた。
またか……。離れるとすぐこれだ…
と 彼女と出かける時にかなりの頻度で遭遇する光景に思わずため息がでた。
前述したと通りここら千葉駅周辺は市内でも有数のナンパスポットであるためある程度のルックスを持つ女性なら結構な確率でお声がかかる。
陽乃さんも例に漏れずナンパ師達に引っかかることが結構あった。
だが今回は様子が違った。
陽乃さんはいつもよりナンパ師と親しげに話していた。(少なくとも表明上では)
話している相手は髪を染め、ネックレスやらブレスレットやらやたらアクセサリーを身体に散りばめた見るからに偏差値低…じゃなくてチャラチャラチャラ男くんであった。(年上なんだろうけど)まぁ遠目で見ててもどうにもならないので、
俺はとりあえず近くによってみることにした。
ある程度会話が聞こえてくる程度くらいまでに近づくが距離はとっておく。下手な行動はトラブルに巻き込まれる可能性があるからだ。(特にこの偏差値低…じゃなくてチャラ男相手だと)
A「いやぁ 久しぶりぃー陽乃〜」
「そうだね〜」
B「え?お前この可愛い子のこと知ってんの?」
A「そうそう中学の同級生なんだよなぁ」
「そうなのー 雪ノ下陽乃でーす」
C「えーめっちゃ可愛い子じゃん」
B「おい、勝手に割り込んでくんなよ!俺と話してるんだよ」
C「うるせぇなぁ 別にいいじゃんかよぉ」
A「え、それにしてもなん年ぶり?めっちゃ久々じゃん?」
「3ぶり年ぶりくらい?高校生の時 何回か街で会ったくらいかな〜」
「そうそうー いやぁーそれにしても陽乃めっちゃ綺麗になってんじゃん」
「えぇそう?全然だよー」
うわ、いつも俺に綺麗なお姉さんとか自分から言ってくるのに…。
「いや マジ陽乃めっちゃ可愛いよ〜
1番可愛いよ、マジで」
軽々しく1番って言っちゃうあたりやっぱり偏差値低…じゃなくてチャラ男だわ…
「えぇー でもリュウの周りにも可愛い子いっぱいいるでしょー?いっつも彼女いたじゃーん」
なるほどAはリュウって名前なのか。(ABCは勝手に俺が脳内で命名した)
なんて偏差値低… おっと名前は関係ありませんね!
話を聞くにこの2人は知り合いなのか
おまけにお互い下の名前呼び…
別に嫉妬とかしてねぇーよバーカ。
リュウ「いや でもー 喧嘩とかしてすぐ別れちゃったりとかしてたしー全然だよ?それに陽乃の方が可愛いよー」
B「いや マジで陽乃ちゃん可愛い!」
こいつらどんだけ可愛い可愛い言うんだよ… なんですか?インスタ映えするとか言って人気のあるスイーツの前で「可愛い可愛い」言いながらバシャバシャ写真とるバカ女かこいつらは。
「えぇ〜そうかなぁー?」
「マジだってー
それに陽乃はぁスタイル超いいじゃんー おっぱいだって大きいし〜!」
C「ほんとそれなー! え、何カップ何カップ?」
は? え?何言ってんのこいつら?
そんなこと軽々聞けんの?
完全なセクハラだろこれ?
そんなこと平気で言えんのかよチャラ男って… 俺が言おうものなら社会的に抹殺されるぞ…
いや、でも確かに何カップかは気になる… だって男の子だもん。
「ちょっと〜 やめてよーエッチだぞ〜」
リュウ「えーだって事実じゃーん」
陽乃さんは相変わらず笑って対応しているけど大丈夫なのかこれ…。
よかったなコイツら雪ノ下の妹じゃなくて姉で。これが妹なら殺されてるぞ…
リュウ「陽乃みたいなのが彼女だったら男は超嬉しいと思うわ〜」
「別にそんなことないでしょ〜
他にもいい子はいっぱいいるよー」
リュウ「いやマジマジ。俺だったら超嬉しいよ!」
「本当にー?でもそう言っておきながらすぐ私のこと捨てそう〜」
リュウ「そんなわけねーよーずっと大事にするに決まってんじゃん」
なんて説得力のない言葉。
これだからやっぱり偏差値低…じゃなくてチャラ男なんだよ。
C「それよりさ陽乃ちゃんはー
今彼氏とかいるのー?」
B「あ、それ気になった!」
「今は全然いないよ〜」
B「えぇーマジマジ?そりゃいいこと聞いたわー」
リュウ「じゃあさ、久しぶりに再会したことだしこの後俺らと飲みに行こうよ〜」
なるほど… こうやってナンパ師は誘ってくるのか…。 それにしても偏差値低…じゃなくて頭悪そう…。 あ、これほとんど同じ意味でしたね☆
「えー ダメだよ〜。絶対長くなるし〜変なことしてきそう〜」
リュウ「そんなことするわけないじゃん〜 ちょっとでいいからさ!なんなら俺らおごるから!な?」
B「そうそう優しくするよ?」
全部嘘にしか聞こえない…
ちょっとだけとか言って酔い潰してそのまま襲うなんてのはチャラ男の常套手段だ。「おまけに優しくするよ」とか意味深すぎるだろ。
「いや、でもねー お誘いは嬉しいんだけど〜。ちょっとねぇ〜」
C「え、この後 特別な用事とかあんの?」
「いや、特別な用事とかはないんだけどねぇ」
リュウ「じゃあいいじゃん〜 楽しく飲もうぜー」
このままじゃらちがあかないな….
普段のナンパ師とは違って知り合いな分断りづらいのかもしれない。
やりたくなかったがここは強硬手段でいくか…
「陽乃さん」
「あ、比企谷くん」
「早くしてください。待ってる人間が逆転してるじゃないですか」
リュウ「え、誰?」
「あーごめん。」
「あ、うーんなんて言えばいいのかな、私の後輩??」
B「へー 悪いね君 俺たちこっちで楽しんでんだわ。だからお引き取り願いまーす」
C「お前 それは言い方酷過ぎ〜」
そう言って彼らはゲラゲラ笑う
完全に俺のことバカにしてきてるな…
まぁ雑に扱われるの慣れてるから痛くもないんだが…。
「すみません。こっちは予定があるで失礼させていただきます。
ほら陽乃さん行きますよ」
俺は陽乃さんとこの場を離れようとする。
「あ、うん、」
B「おいお前無視して勝手に進めてんんじゃねぇよ。聞こえなかったのか?俺たちが今話してんだろ。高校生のガキはすっこんでろよ」
「ちょっと、みんな落ち着いて」
陽乃さんが諌めようとする。
リュウ「可愛い子がいるからってイキってんじゃねぇぞお前」
C「ホント腐ったような目しやがってよぉ〜」
なるほどこいつらナリヤンか…
そしてリュウさんよ、その言葉そっくりそのままお前にお返しするぜ。と言ってやりたい。
「ちょっとリュウまで」
「バカらし」
俺はそっぽを向きそう吐き捨てるように言って再び陽乃さんを見て歩きだすよう催促する。が、しかし
C「おいおい俺らお前より年上なんだけど?先輩に対してその態度はないんじゃねぇの?先輩と話す時はちゃんと誠意を持ってこっち向いて話さないとダメだろー?」
B「そうそう ホント礼儀のなってねぇガキだわ」
そう言って俺の目の前に立ち塞がる。
どうせ今まで大人にろくな礼儀を払ったことない奴ら自分のこと棚に上げてがぐちぐちとうるさいな。
俺は慣れているはずの自分に向けられた汚い言葉に何故だかイライラしていた。
「話す?あんたらこれが会話のつもりだったのか?一方的に意見を押し付けているようにしか聞こえなかったんだが、気付かなくて悪かったな。あんたたちの生態系に詳しくないもんだから、つい類人猿の威嚇だと思っちまったわ。お山の大将気取りで虚勢を張るのは結構だけど自分のなわばりの中だけにしとしな。あんたらの常識が万人に通用すると思ったら大間違いだ。お前らの嘘同様、すぐ剥がれ落ちるぞ」
はい、雪ノ下のを丸パクリしました。
完全に相手怒らせただろうけど…
リュウ「はぁ?テメェ マジで調子乗んなよ?!」
そう言ってリュウが俺の胸ぐらを掴んでくる。そしてそのまま押され壁際に追いやられる。
去年の文化祭に葉山にこれやられたなぁ〜 完全にデジャヴだわ。状況は前より酷いけども…。
「何するんですか 話してくださいよ」
リュウ「はぁ?テメェの礼儀がなってねぇから言ってんだよ。」
「自分のこと棚に上げてよく言いますね。いきなり突っかかってきたのはそっちじゃないですか」
リュウ「テメェ、マジでぶっ飛ばす」
リュウがそう言って腕を振り上げる。
完全に殴る体勢だ。
こういう奴らってだいたい自分にとって都合の悪いこと言われたりとか論破されると逆ギレするよなぁ…
その時点で人間性として下等だと思うわ。
「ちょっと やめてリュウ!」
陽乃さんが止めるよう言うが奴は聞かない。
まぁいいや。
「おい 知ってるか?」
殴る直前俺は普段より低めのトーンで言い放つ。
リュウ「あぁ?」
リュウは腕を止める。
「知らないぞ?いいのか?こんなところで殴っても。
刑法第204条、人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金。同じく第206条。前2条(刑法204条又は205条)の犯罪が行われるにあたり現場においてその勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくも幇助として1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料に、同第208条、暴行を加えた者が傷害に至らなかった時でも暴行罪として、2年以下の懲役または30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料だ。
つまりお前が俺に手を出した瞬間、お前らは社会的なクズ烙印を押されるんだ。それでもいいならやれよ…」
反撃すると思ったか?残念!
そんなイケメンみたいに華麗に戦えるわけねぇだろ。それに俺超平和主義だし。痛いの嫌だし。だからできることと言えば言葉責めのみ…。でもこれだってやり方を上手くやれば結構効くもんだ。
特に今回のような対峙する人間に一気に負の現実を突きつけることで相手の気持ちをへし折る。特にコイツらのような見た目だけのナリヤンはこの程度で十分。
相手に怪我をさせることが犯罪だと分かっていても人間はその場の勢いに任せて人を傷つけてしまうことは多々ある。だがそんな状況でも普段聞かない法律の条文をズラズラと言ってしまえば、人間は犯罪行為に手を染めるということが現実味を帯びてくるのだ。それに法律の条文をペラペラと喋れる人間はあまりいないたからそれを唱えることができる時点でかなりの威嚇にもなる。まぁこれによってこっちが訴えるという意思表示にもなるから結構オススメではある。所詮こいつらはポンコツだからな。結局勢いだけでろくに喧嘩なんかしたことない奴らだ。まぁ多分暴力団とかにはこれは効かないとはおもうが。
リュウ「テメェ」
テメェしか言わねぇなこいつ。
どんだけ語彙力カスなんだよ。
さすが低偏差値。
「だから言ってるだろ。別に殴ればいいって。ただそれ相応の責任が待ってるけどな。それが嫌ならこの手を離せ。それとも何か?まだこのくだらない、いざこざを続けるか?周り見てみろよ」
OK超クール。こういう時は冷静に。変に無駄なことは喋らず、必要なことだけ相手に突き付けるように話す。なるべく声のトーンを落として。冷静でいるだけで相手への威嚇になる。
動物は何よりも沈黙を恐れる。ただ黙って目線を晒さず対峙していれば相手はそう簡単には手をだしてこない。
事実、熊と遭遇した時もそう。目線をそらしてはいけない。そして刺激するような声を出すのもいけない。ただ黙って目線を晒さないだけで、それだけで熊は怯むのだ。
そしてそれは人間も変わらない。
喋らない時は黙って目線を晒さずに対峙する。決して表情は出さずに。
それにここは普通に街中。おまけに千葉駅周辺であるため常に人通りは多い。
つまりこうやって胸ぐらを掴むような体勢になれば自然と周囲の注目を集めることになる。そうなればこっちのもの。
先に手を出したほうが負け。もし殴られれば痛みに耐えなければいけないかもしれないが社会的には俺が勝つ。
狡猾な手口だと言われようが知ったこっちゃない。これが俺のやり方。普段は周囲のことを頼らないが、存分に公僕は頼らせてもらうぜ。なんたって税金払ってんだからな。
「ほら、どうすんだ?このまま殴ってもいいがここにいる全員が証人になるが?そしたらそのまま罰金刑or懲役刑だ。ついでに高額の慰謝料も請求させてもらうけどな。」
こうやってジワリジワリと相手にとって不都合なことを突きつけてやれば人間はかなりの確率で弱り始める。
「チッ」
リュウは舌打ちをして俺から手を離した。
OK ナイス判断だ。低偏差値ながら褒めてやろう。何でもかんでも暴力を振るうことしかできない猿みたいなDQNではないようだな。少しだけ見直したぞ。0.01㎜くらいな。
「ってことで、行きますよ陽乃さん。
今日まだ勉強してないんでカフェ行きましょう」
リュウ「ちょっと待てよ。まだ話は終わってねぇーんだよ。それに陽乃なんでこんな奴と一緒にいるんだよ。こんな根暗みてぇーな奴といたってつまんねぇだろ」
C「そうそう俺らと遊んだ方が楽しいよ?」
チッまだ懲りてねーのか。暴力沙汰にならなかったから見直したのにまたお前の株は大暴落だわ。もやは世界恐慌レベル。
「それはあんた達が決めることじゃなくて陽乃さんが決めることだ。」
リュウ「テメェさっきからうるせーな。どーせテメェなんか陽乃のこと追っかけてるだけだろ?」
「だったらそう勝手に思っておけ。残念ながら実際は俺は陽乃さんにデートという大義名分を持ってここにいるんだよ」
やばいな 相手を怒らせるワードがどんどん出てくる。完全にアドレナリンが出まくってる。もう雪ノ下になった気分だわ。今なら誰でも怒らせられる気がする!
あと、できるならデートってワードは使いたくなかった…。あとで陽乃さんにからかわれそう…
リュウ「はぁ? それお前の勝手な妄想だろ?お前が陽乃と釣り合うわけねぇだろ」
B「ほんとそれー!」
C「そういう奴に限ってストーカーとかするんだよなぁー」
釣り合わないって言葉もそっくりそのままお返しするぜ。
「じゃあ陽乃さん本人にに確認してみたらどうだ?」
そう言うと一斉に全員の目線が陽乃さんに向かう。さすがの陽乃さんも目線が一度に自分に集まったので驚いていた。しかし、さすがの魔王も状況を理解したのか「うん、そうだよ」と肯定をしてくれた。
するとこのナリヤン達は驚きを隠せないのか陽乃さんに問い詰め始める。
どういうことだ?
本当はどんな関係なんだ?
こいつのどこがいいんだ?
などなど。
何、そんなに俺と一緒にいちゃいけないの?
確かに捻くれててぼっちで目が死んでて常に猫背みたいな俺だけどさ!
あ、確かに客観的に見ると俺って不審者っぽい…
だが陽乃さんの言質もとれたしもうここには用はない。まぁこいつらには元々ないけど…
「ってことなので、俺たちは行かせてもらいます。勉強しなきゃいけないんで。」
俺はそう言い放ち、陽乃さんの手を取り今度こそこの場を離れる。
陽乃さんのは「ということだから、ごめんねー」とさすが八方美人ぷりですかさず低俗人種にもフォローを加える。
さすがにここまでくると奴らは呆然としている。陽乃さんの言葉がトドメだったな。この機に乗じて去ってしまったほうが得策。変に揉めて目立つのも面倒だしな。
つーか ちゃっかりこうやって手を繋いじゃってるのが本当に恥ずかしい。
後でしっかり弁明しておこう…。
そうして夜のネオンで溢れる千葉の街を俺たちは抜けて行く。
完全に予定より大幅に遅れ俺たちはカフェについた。
この店は行きつけで陽乃さんと会う時はよく利用させてもらう。黒と茶を基調としたアンティーク調の店内は仄かに流れるジャズと相まって独特の雰囲気と落ち着きを醸し出している。大通りに面した側は大きな窓ガラスが張られ、そこから町を眺めることができ、店内のあちこちに並べられたアンティークはさらにその空間を彩っていた。インスタ映えしか考えてないバカ女子が行くようなスタバやドトールなどのチェーン店ではないため、穴場スポット的な感じでいつも程よい混み具合でリラックスするにはなかなか良い環境であった。
静かに本を読んだり勉強するには、必然的にここに足を運ぶ回数は多くなる。
俺たちはいつものように4人がけの席に向き合うようにして座る。
注文した品はいつものように俺特性の甘めのカフェラテ。陽乃はさんも普通のコーヒーと特に変わりばえのないものを注文した。
俺たちは席に着くと揃って注文したものに口をつける。通常より甘い味とひんやりとした冷たさが舌に踊る。
もちろん今は夏であるためお互い飲むのはアイスコーヒー、あまり飲みなれていなかったのだがここ最近 陽乃さんに連れ回されてるのもあって慣れてきてしまった。
特に会話もなくお互いが注文した飲み物をじっくりと味わう。
一口その味を味わうと、俺たちはカップから口を離し、ゆっくりとテーブルに置く。
相変わらず美しい彼女の一連の動作に目線が集中してしまう。
だが女性は視線に敏感であるとは有名なので俺は陽乃さんにバレる前に目線をズラす。そのズラした目線の先には彼女のコーヒーカップがある。
その真っ白なコーヒーカップに薄く残る彼女の口紅の跡がなんとも官能的であった。
暫しそれを物思いに耽るように眺めていると、
「さっきはありがとね」
陽乃さんが口を開いた。
「いえ、別に…」
「かっこよかったよ比企谷くん
お姉さん見直しちゃったよ」
「そんなことないですよ。法と公僕に頼る気満々だったし」
「いやいや むしろ暴力沙汰にならずにあの場を収めたんだから大したことだと思うよ?」
「たまたま上手くいっただけですよ。むしろ俺みたいな人間は武力行使はできないんで、あの手しかなかったんですよ。」
「でも、それを見事に実践して成果を出したじゃない。それは十分賞賛できるところだよ。むしろあの場で何も動けない人の方が多いんじゃないかな?」
「まぁ、周りから罵られたりするのは慣れてるんで、暴力沙汰にならない限りは別に大したことないですよ。
それよりも、できることなら陽乃さん一人でどうにかして欲しかったですよ」
「あーその最後の発言は陽乃的にポイント低いよー」
「なに小町の真似してるんですか、
それに実際、陽乃さんならあの場を収めることくらいできたでしょう?」
「まぁね。でも知り合いだったからすごくやりずらかったよ? 知らない人なら適当にやれるけど流石にお互い知り合いだと言葉とか選んじゃうしなかなか断りにくいんだよね。」
まぁ確かに彼女の言い分は分かる。
声かけてきた奴が見ず知らずの人間ならそこでないがしろに扱ってもその場限りの関係で終われるが、それがもし知り合いならそれは後々まで響くことになってしまう。特に陽乃さんのような周囲から羨望の眼差しを向けられ常に世間から好かれるような人間の場合、変な行動で相手にショックを与えでもしたら今まで築き上げてきた地位が揺らぐことになってしまう。例えばその人間に自分と共通の知り合いがいたとすればさらに状況が悪くなるだろう。雑に扱った人間が腹いせに裏で陰口や不都合な情報を拡散する可能性だってあるだろうし。なんなら俺に関しては別に雑に扱わなくても拡散されるまである。やだ悲し…
となれば やはり言動も慎重になり断るのに一苦労ということなのだろう。
好かれる人間だからこそのやりにくさということなのだろうな…
「でもさ比企谷くん」
ん?
「私1人であの場を収められるって分かってたならどうして私を助けたの?」
突然のカウンター質問に俺は声がでなかった。なぜならそんなことかんがえてもいなかったからだ。
ただ自然と体が動いたとしか言いようがなかった。
「気まぐれ、ですか、ね…
とりあえず体が勝手に動いた…みたいな…。答えにはなってるかどうか分かりませんけど…」
「ふーん気まぐれか、、」
「自分が苦手な人でもそうやって君は助けてくれるんだね。」
「別に… まぁあれですよ。
工藤新一的に言えば人を助けるのに理由は必要ない的なやつですよ。」
「えー嘘だぁ 比企谷くんはそんなクサいこと言う人だったの?」
「いや、まったく」
「まったくそうやって屁理屈言ってごまかさないの。君がそうやって色んな人を助けるには他に理由があるんでしょ」
「他に理由ですか… 残念ながら思いつかないですね…」
「そっかぁ。いつかその理由が分かったらお姉さんに教えてね。私君のこともっと知りたいな。」
「まぁ、そんな機会があれば…」
「あー またそんなこと言って〜
君はそうやってすぐ、誤魔化して全部無かったことにするんでしょ〜?そんなのダメだよ! 教えるのは
できるだけ早くだよ!早急に!」
「そんな無茶な…。何でもかんでも急かさないでくださいよ。」
「それは仕方ないの!」
「何でですか…」
「それはこっちの都合!」
「うわ、それって自己中ってやつですよ」
「もー口答えしないの!」
「それはあなたが自己中なこと言うから…」
「これくらいに慣れないと女の子の相手はできないよ?」
あなたは女の子じゃないでしょう魔王でしょ…
「あ、今失礼なこと考えたでしょ?」
何でいつもいつもわかるのこの姉妹は?怖いんですけど?
「女の子ってそういうのは敏感なんだから気をつけなきゃダメだよ?」
考えることすらダメとかどんな無理ゲーだよ。
「善処します。」
「デタラメな返答だなぁ」
あなたも「善処します」使ってたじゃん…。
「あーあー話が逸れちゃったよ。
比企谷くんのせいだぞー」
えぇ俺のせいかよ…。
「じゃあ、いいですよ話したいこと話して。とりあえず聞いてあげますよ。教科書読みながら」
「何その態度 ムカつくー。」
「いや、俺一応受験生なんで」
「仕方ないなぁ。まぁ でももういいや。話すのやーめた」
「いいんですか?聞きますよ?教科書読みながら」
「最後の発言煽ってんの君?」
そう言って彼女は睨んでくる。
「冗談ですよ。冗談」
「へー。君 私に冗談言えるようになったんだ。」
「まぁ、慣れですね慣れ。ここまで一緒にいると多少は慣れてきますよ。」
「ふーん。慣れか…」
そう言って何かを考えるような態度で彼女は一口 付け合わせのパンを食べる。パン食べた時に指に着いた砂糖をペロリと舐める姿はまたエロい。
俺はその姿を見ながらコーヒーを啜る。
ここ最近、陽乃さんと向い合わせに座り彼女がコーヒーを飲んだり、何か食べたり、外の景色を眺めている姿を見る時間が何だかんだ気に入っている。
本人にバレないようにするのには苦心するものの、眺めているうちに見られる小さな動作や発見に個人的に関心を寄せてしまう。
何度も言うように陽乃さんの動作のほとんどが様になるわけで、その優美さに俺は心を奪われていた。
美しい芸術作品に見惚れたり心打たれる時の心情が少し理解できた気がした。
もちろん陽乃さんは芸術作品なんかではなく間違いなく人間である。だが、俺と同じ人間とは思えないほどに彼女には気品と美しさがあった。
そんな人を目の前という特等席でじっと眺めていられることに優越感さえ抱いている自分がいることに俺自身が気づくのはもう少し経ってからのことであった。
陽乃さんと一緒に過ごすようになってから2週間と数日が経過した。
7月も後半に差し掛かり始めようとしている。一日の暑さは日が進むにつれて増して行く。チャリ通である俺は朝から照る太陽光線によって毎日の登下校は苦痛でしかない。夏は始まったばかりだというのに冬が恋しくて仕方がない。
だが幸運にもあと数日もすれば待ちに待った夏休み。毎日の学校への登下校からは解放される。できることならダラダラと1日を家で過ごしたいのだが、生憎今年は受験生であるため基本的には勉強に時間を割くことになりそうだ。
そんなことを考えるとますます憂鬱になってきた。
そんな自分に鞭を打ちながら、俺は今日もギアを踏む。
午前8時05分。俺は暑さと戦いながら学校に到着。いつものように駐輪場にチャリを置き、かいた汗を小町から渡されたタオルで拭きながら校舎に入る。
放課後、陽乃さんと共に過ごしているため、普段なら行くことのない場所に連れ回されることも多いため。良くも悪くも濃密な1日を過ごしていたことが多かったこの頃、新鮮な時間を過ごす放課後とは対照的に学校は普段と代わり映えしない時間が流れていた。
いつものように朝の昇降口は喧騒に包まれ、多くの生徒でごった返す。
夏休みが近いということもあり、1、2年生は心なしかいつもより騒がしい。
おそらく、夏休みの予定でも話しているのだろう。長期休みが近くなると騒がしく浮き足立つのはどんな年齢になっても変わらないようだ。
残念ながらその楽しみは3年生は享受できないが。受験生にとって夏は重要な時期である。
街中にある大手予備校の広告には
「勝負の夏」だの「夏は天王山」
だの色々と書かれている。
てゆーか天王山ってみんな言ってるけどみんな天王山って何なのか分かってる?山崎の戦いのことだからな?
羽柴秀吉が明智光秀を破った戦だからな?そんなことも知らないで日本史選択で受験するとか笑えるぜ。
ちなみに俺は安定の私立文系志望であるため、基本的に受験で使用する科目は英語と国語と日本史である。
国語と日本史に関してはもともと得意であるためにほとんど問題はない。
よってあとは英語が完成すれば第一志望が確実に見えてくる。
よって今のところは順調と呼べる学力推移を辿っていると言える。
まぁぼっちな分 普段から勉強する時間があったおかげでもある。
やっぱりぼっち最強だわ。ぼっち万歳!
「おはよー ヒッキー!」
俺が歓喜に沸いているところに声がかかる。
「おう」
声の主はアホの子ガハマちゃんこと由比ヶ浜であった。今日も右上の頭には綺麗にお団子を結い、ブラウスのボタンを開け胸元を随分と開けたスタイル。
うーーーんエロい…。
どうしたって男ならそのイタズラな胸元に目線が集中してしまうだろう。
に 由比ヶ浜は学校でのカーストは上位であり顔も整っているし人当たりも良い。おまけにメロンである。陽乃さんにも劣らないメロンを所持しているということはつまり、それだけで視線を集めてしまうということである。
「な、なに?ヒッキー そんなジロジロ見て…」
「あ、悪い なんでもない…」
やばい 俺そんなにメロンを見てしまっていたのか…。陽乃さんじゃないからって油断していたぜ…。
だって仕方ないじゃん、万乳引力には勝てないよ!
「えー 何その反応… ちゃんと言ってよ!」
そう言いながら詰め寄ってくるのやめてもらえませんかね….。余計に目のやり場に困る…。
「いや、だから本当に…」
「私、ヒッキーが嘘ついてるの分かるよ?」
まさか、こいつまでエスパーだとは…。
本当、俺って周囲の女子に敵わないなぁ…。
「あぁ そ、その あれだ。
もう少し ブラウスのボタンとめたほうがいいと思うぞ…」
「え?」
そう言って、由比ヶ浜は自分の胸元を見る。
「もう!ヒッキーの変態!」
「いや、忠告してやっただけだろ!
それに先生とかにも注意されるかもしんないし」
忠告を装ってるが、実際は結構見てましたとは言えない…
「あ、そっか、ごめん。ありがと」
そう言って由比ヶ浜はブラウスのボタンを止めた。まぁそれでも第2ボタンまでは空いてるんだけども…
つーか第3ボタンまで外すとかどんだけだよ!
でもアホの子でよかったぁー
変な追求は免れたぜ。
まぁ 由比ヶ浜のメロンが男どもの獲物を見るような目線から救われたと思えば、善行をしたようなもんだ。我ながらグッジョブだな。
そうして由比ヶ浜のメロンの防衛を果たした俺たちは教室に向かった。
多くの部活で三年生達は引退し、世代交代が行われ、ついに受験生としての様相が濃くなり始めたこの頃。
部活を引退し朝練が亡くなった分、朝早くに来て自習をしている生徒を何人か見かけるようになった。意識高いなぁと感心しつつも、俺は安定の8時登校。
それ以降は特に変わらない風景。
それを恙無く過ごし、今日も部室に向かう。
アホの子は今日も教室に置いてきた。
だって喋ってんだもん。
変に待ってたら周りに「あいつぼっちのくせに」とか言われそうだし。
それに部室に行けばどうせ顔もまた会わせるし無理して待つ必要なんかない。
渡り廊下を抜け、いつもの階段を上がって部室に向かう。
奉仕部に入る前はあまり使うことのなかったこの特別棟も1年も過ごせば多少の愛着もわいてくるものだ。
他の校舎とは違って静けさのある廊下を歩き部室に到着。
ドアを開ければいつものように1人の少女が座っていた。
名を雪ノ下雪乃とし、闇の魔王の一族の娘であり通称氷の女王。
ちなみにレリゴー レリゴー 少しも寒くないわー
じゃないからな。こいつはもっと恐ろしいから。喋るだけで凍らせるから。
それにしてもアナ○雪の女王がヒットした時の動揺ったら半端ない。なんならこいつが題材になってた可能性まである。
そんなことを考えていれば、
「あら、いたの?ごめんなさい、全く気づかなかったわ。申し訳ないのだけれどもう少し存在感を出してくれないかしら?」
今日初めて会った第一声がこれである。彼女の罵倒語dictionaryは豊富で特に俺相手だと息をするように罵倒の雨を降らせる。これを一般人にやろうものなら全体を凍りつかせ、絶対零度の吹雪が巻き起こる。まさにエターナルブリザード。吹雪くんもびっくりである。
「お前、最近酷くない?俺が部室に入るたびに罵倒されてる気がするんだけど。イジメって訴えていい?」
「好きにしたら?あなたのような人間のことなど誰が信じるというの?」
「否定できないのが悔し過ぎる…」
「ま、冗談は置いておいて、座ったら?」
冗談で済ませんなよ…
俺の気持ちを蔑ろにしやがって…。
もう本当に訴えちゃうからね?
俺の気持ちは悔しくもも届かず、あえなく席に座る。
すると雪ノ下は席を立ち、紅茶を用意する。今は夏であるために最近は彼女の出すものはアイスティーが多い。
雪ノ下が自宅で作ったきたものを水筒に入れて持ってきてくれる。
だがわ紅茶の温度は変わっても相変わらず雪ノ下の淹れた茶は美味い。
雪ノ下と由比ヶ浜が買ってくれた俺専用の湯のみに冷えた紅茶を淹れ、俺の前に置かれる。
冷えていれば猫舌の俺でも関係なく飲める。湯のみを取り口を潤す。
んーやはり美味い。程よい苦味と俺に合わせて甘めに作った紅茶が俺の身体に染み入る。
陽乃さんといる時はアイスコーヒー。
雪ノ下といる時はアイスティー。
なんとも姉妹で違う組み合わせが感慨深い。俺はそんなことに想いを馳せながらしみじみと紅茶を堪能する。
「姉さんと会ってるそうね」
「ぶっ?! ゲホッ ゲホッ」
「ちょっと汚いわよ」
いきなり何を言い出すかと思えば、爆弾ぶん投げて来やがった…
「お前がなんでそんなこと知ってんだよ」
「クラスの人から聞いたのよ。
あなたの部員の人が綺麗な人と一緒に歩いてたって。それにあなた最近、部活終わったら急ぐように帰るでしょう。おおよそ姉さんと何かあるとは思ってはいたけど」
「成る程な…」
「どうして何も言ってくれなかったの?」
「いや、毎日のように陽乃さんに会ってたらお前が怒るかと思って…」
「怒る?どういうことかしら?」
「下心があるんじゃないか?とか、腐った目でどうたらこうたらと、酷く罵倒されるような気がしたらな」
「はぁ… そんなことするわけないでしょう。流石にこの件はそんなこと言わないわ」
「できるならこの件以外でもやめてもらいたいんですけどね」
「それは致しかねるわね」
「なんでだよ…」
やっぱりお前は罵倒しないと生きていけないのか?そのために俺は犠牲にならないといけないのん?
そんなの理不尽過ぎる…。
「姉さんは何か言ってた?」
「何かって?」
「自分のことよ。」
「いや、特には…。」
「そう…。このまま何も言わないつもりかしら」
「さぁな」
「比企谷くんには何か言うと思ったのだけれど」
「なんだそれ。俺そんな信用されてんの?」
「さぁ どうかしらね。あくまでも私の推測の範疇よ。でも姉さんここ最近は大学は除いてそれ以外ではあなたとしか会ってないのだろうし。」
「そうか?俺と待ち合わせる前には日によっちゃあ時間あるし誰かと遊んでるだろ」
「いいえ、大学がない時はずっと家にいるって使用人の人が言っていたわ」
「ほー ついに引きこもりの仲間入りか?」
「勝手にあなたと一緒にしないでもらえるかしら?あれでも雪ノ下の長女なのだからそんなことあってはならないわ」
「冗談だよ。そんな本気にすんな」
「まったく…」
そう言って雪ノ下は呆れたような態度で紅茶を飲む。
俺も吊られるように紅茶を飲む。
「まぁ、色々と難しい時期なんじゃねぇの?分からんけど」
「そうね………」
雪ノ下はそう、一言答えた。
いくら仲が良くない姉妹でも、血を分けた姉である以上、何か思うところがあるのだろうか?
あの陽乃さんのことなら別にそこまで気にする必要なんてないような気もする。が、あの日の雪ノ下陽乃の表情と、この妹の反応を見る限り状況は簡単なものでもないらしい。
雪ノ下がどこまで事情を知っているのかは分からないが、表情を見る限りは納得しうる情報は手に入っていないのだろう。それでも、家族や周囲の人間の雰囲気や態度から状況の悪さをなんとなくは察してはいるという状況か…。
憂さ、悲しさ、不満のあらゆる感情を孕んだようなその顔を見れば雪ノ下自身がこの状況を気にしていて何か思うとこがあるのは間違いない。無論、その感情が良いものなわけがないのは明白だ。
俺が何か有益な情報を持っていれば、少しはその表情が和らぐのだろうか?それともさらに険しくなるのだろうか?
いずれにせよ、今の俺たちに状況を判断できる情報も、解決する手段もない。
ただ刻々と刻まれる時間の流れに流されるだけだ。
「姉さんが何を考えているのか、、
私には分からないわ、、。」
目の前にいる少女はどこか悔しさを含むような口調で、自分が写っているであろう紅茶が入ったカップを見ながら言った。
「神のみぞ知るレベルだな…本当に」
ただ振り回されれるだけの俺たちに一生分かることはないようなそんな疑問が生み出すものは、沈んだ気持ちと浮かない表情だけだった。
折角の紅茶もこれでは台無しである。
続きは近いうちに投稿できればと思います。