季璃風停にようこそ   作:akiresu

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春の出会い

 春中旬、温かく穏やかなそよ風が吹き、多くの者の笑顔があふれる宿場町の周りは桜や菜の花などの多くの花が咲き誇り、大地を明るい色で華やかに染め上げ、青く澄んだ空から白い陽の光が辺りを照らしていた。

 そんな青空の下で季璃風停の中庭の庭仕事をする人物がいた。その姿は長い銀髪に同じ毛色の耳と尻尾を生やして、男女何方ともとれる中性的な顔立ちをしており、そよ風に靡いた髪が陽の光を浴びてキラキラと輝き、より一層美しく見せていた。彼の名はイツキ、季璃風停で働く化け狐、つまり妖狐である。

 

 「はぁ~、こんなにも温かくて気持ちがいいと今日は何か良いことがありそうだな~」

 

 イツキは済んだ青い空を見上げながら物思いにそう呟いた。しかしその時、後ろから一つの声が響いた。 

 

 「あーいたいた、イツキこんなところにいたのね」 

 

 その声を聴いたイツキは後ろを振り返ると縁側に一人の女性が立っていた。長い黒髪を頭の後ろでまとめ紫色の着物を着て黄色い帯を巻いており、豊満な胸にすらっと伸びた細い手足に色白の肌を持ち合わせておりその姿は十中八九の男が振り向くであろうまさに大人の女であった。その女性の存在に気が付いたイツキは彼女に対して声をかけた。 

 

 「あれ?姐さん、いったいどうしたんですか?」

 

 イツキが姐さんと呼んだこの女性の名はユウギ、この季璃風停の仲居頭をしている毛倡妓、つまりは妖怪である。イツキの言葉に対してユウギはキョトンとした表情になり、イツキを見て口を開いた。

 

 「忘れたの?今日は新しく此処で働く娘がくるって」

 

 ユウギの言葉を聞きイツキは何かを思い出したかのように口を開いた。

 

 「あーそういえば今日でしたっけ?確か神社の娘さんでしたよね。いつ頃こちらに来るんですか?」

 

 「もうそろそろ来るはずよ。だから早く出迎えの準備するわよ」

 

 「はい、わかりました。他の皆さんは?」

 

 「みんな仕事中だから中を案内する時に紹介すればいいでしょう?」

 

 イツキは縁側に畳んで置いていた背に白い字で季璃風停と大きく書かれた藍色の羽織に袖を通し、ユウギの後について玄関へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所かわって、ここは宿場町。今日も店の客寄せや行きかう人々でにぎわい、その道を歩く狐の耳と尻尾をはやした少し高めの背丈のベージュの髪の女性とその後について両手と首に荷物を包んだ風呂敷を持って歩く前の女性より少し低めの背丈の金髪の少女の姿があった。女性の名はヨネ、とある村にある大きな稲荷神社のお使い狐をしており、神社の巫女の妹でもある。少女の名はキヌ、神社の娘でありヨネの姪でもある。

 今この二人はある場所へと向かうために宿場町の道を歩いていた。二人が向かう場所、それはこの町に住むものならば誰もがその名を知っているこの町の名所、温泉旅館 季璃風停

 季璃風停には神社等から将来神様に使える仕事をするために、その修行の一環として神々が泊まりに来る温泉旅館、季璃風停へ奉公に来て、仲居として働く者が何人かいるのであった。神社の娘であるキノも将来、稲荷大明神に使える立派なお使い狐となるための修行として季璃風停へ向かうその道中であった。キヌは賑やかな街の風景を物珍しそうに目を丸くして周りをキョロキョロと見渡しながら口を開いた。

 

 「わぁ~とても賑やかですね」

 

 賑やかな街の様子にどこかほっこりとしながら言ったキヌのその何気ない一言を聞いたヨネはフフフっと小さく笑みをこぼすと言葉を紡いだ。 

 

 「そうですね、久方ぶりに来ましたけどあの時と全く変わっていませんね・・・」

 

 無意識にヨネが口にしたどこか昔を懐かしむような一言にキヌは反応しヨネに質問を投げかけた。

 

 「え?叔母様ここに来たことがあるのですか?」

 

 キヌの問いにヨネは口元に笑みを浮かべながらどこか遠くを見つめ、過去のことを懐かしみながら答えた。

 

 「ええ、私もちょうどあなたと同じくらいの歳の時に季璃風停に修行として奉公に来たことがありましてね、今の仲居頭の方とも一緒に仲居の仕事をしまして・・・」

 

 「え、そうだったんですか!?初耳です!」

 

 「ええ、とても懐かしいです。仕事は少々大変でしたけど、それ以上に季璃風停(あそこ)での日々はとても楽しかったです・・・あっ、着きましたよ。此処です」

 

 話しながら町の道を歩いていると二人はいつの間にか石段の前へとつきいったん足を止めた。

 

 「え?わぁ~~~とっても綺麗ですね」

 

 キヌは満開の桜並木に挟まれた長く続く石段を見上げながらその美しさに見惚れ思わずそんな言葉が出てしまった。二人は幻想的な石段を登るために再び歩を進め始めたがキヌにいたっては桜に魅了され街中を歩いていた時と同様に目を輝かせながら横や上に視線を向けていた。そうしているうちに二人は石段を登り切った。すると目の前には大きな建物が現れ圧倒されてしまった。

 

 「わぁ~~ここが、ここが季璃風停なんですね!」

  

 「ええ、そうです。そしてここが、これからあなたのがお世話になる修行の場です」

 

 

 ヨネがそう言ったのと同時に入口から二人の人物が出てきた。そのうちの一人はヨネが見知った顔だった。あの長い黒髪に絵にかいたような美しい容姿、忘れるはずもない。かつて若かりし頃に共に学び共に働いた仲間にしてそして、自身の大親友である人物、ユウギの姿がそこにはあった。そして、そんなユウギの隣を歩くキヌと同い年位の羽織を身にまとった銀毛の妖狐、その姿を見てヨネは悟った。彼こそ、うわさに聞くあの狐だと。そう思った瞬間、こちらの存在に気がついたユウギが驚いた表情となり手で口元を抑えながら口をパクパクと動かして何かを言っていた。少し距離があったがその声は僅かながらに聞こえてきた。

 

 「う、うそ・・・よーちゃん?」

 

 そう言うと彼女はこちらに駆け寄ってきて、隣にいた少年も彼女の突然の行動に驚いていた。そしてヨネは足を踏み出し駆け寄ってきたユウギへと近づき、二人は久方ぶりの再会を喜び合った。

 

 「よーちゃん久しぶり!」

 

 「ええ、ユウギもお久しぶりです。元気そうで何よりです」

 

 「よーちゃんこそ元気そうでよかったわ。ところで今日はどうしたの?」

 

 「ええ、それはですね・・・キヌ、こっちにいらっしゃい」

 

 「は、はい!」

 

 ヨネは振り返り後ろで立ち尽くしていたキヌを呼ぶと、彼女は返事をして二人の下へと駆け寄った。

 

 「今日は姪を見送りに来たんです。キヌ、こちらは私のお友達のユウギ。ご挨拶なさい」

 

 「ど、どうも初めまして。キヌと言います。と、歳は17です・・・これからお世話になります。よ、よろしくお願いします!」

 

 キヌは少し緊張しながらユウギに挨拶をするとユウギはキヌに笑顔を見せ、自身も自己紹介をした。

 

「初めましてキヌちゃん。私はユウギ、季璃風停(ここ)の仲居頭をしているわ。これからよろしくね?」

 

 「は、はい!」

 

 互いの自己紹介を終えたその刹那、 

 

 「あの~僕のこと忘れてませんか~?」

 

 後ろから一つの声が響きそこに視線を向けるとユウギは「あっ、すっかり忘れてた・・・」と小さく呟いた。そこには耳をぴくぴくと動かし、若干不機嫌な表情をしたイツキが腕組みをしながら立っていた。イツキは三人の近くに行くとキヌの方を向き微笑みかけた。

 

 「初めましてキヌさん。僕はイツキ、この季璃風停の亭主をしているものです。どうぞ気軽にイツキと呼んでください」

 

 キヌは自分に向けられた少年の笑顔に思わずドキッ//としてしまい、頬が赤く染まってしまった。

 

 「ご、ご丁寧に・・・ど、どうも//、・・・キ、キヌと言います・・・・こ・こ・これからよろしく・・・お願いします//」

 

 イツキから挨拶を受け、その美しい笑顔に見惚れてしまったキヌは少しおろおろとしながら若干たどたどしく挨拶を返した。その様子を見たイツキは「フフッ」と微笑を浮かべた。

 

 「そんなに硬くならなくてもいいですよ。一応同い年なんですから」

 

 同い年、イツキのその言葉を聞きキヌは驚愕した。そして・・・

 

 「え?えっーーーーーーーーー!?お、同い年!?そ・そ・そ・そ・それって本当ですか!?」

 

 あまりに衝撃的な事に思わず声を荒げて叫んでしまった。

 

 「え、ええ、そうですけど・・・それがなにか?」

 

 「だ、だって、亭主ですよ!まだ17なのに!」

 

 「そ、それには色々とありまして・・・まあ、そのことについては後々お話しするとして、こんなところで立ち話しているのもなんですし、長旅でお疲れでしょうから、とりあえず中に入りませんか?」

 

 イツキの言葉を聞きユウギも「あっ!」思い出したかのように声を上げ、ヨネとキヌを旅館の中へと案内するのだった。

 

 「それではご案内いたしますね。と、その前に・・・」

 

 そう言うとイツキは二人の方へと向き直り、ペコリと頭を下げて二人にお辞儀をすると口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

   ーいらっしゃいませお客様、季璃風停にようこそ。心からおもてなし致しますー

 

 

 

 そして、顔を上げると先程キヌに見せたような明るい笑顔を二人に見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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