朝になり、視界がぼやける中意識が覚醒していく。
体には上手く力が入らず、何とかして枕元の携帯を手に取った。
時刻を確認すると7時半。起きないと学校に遅刻する時間だ。
「……くぅ……」
呻きながら上半身を上げると意識が明確になり始め、閉じかけていた瞼も上がってくる。
唐突に、昨日のことを思い出した。
布団を剥いでベットの上を確認するが、実妹を名乗る謎の美少女が同衾している、「どこのラノベだよ」という展開は当然なかった。
朝イチからよくそんなこと妄想できるよなぁ……と、朝イチで思いつくことがそれかよ……と自分に尊敬を通りこして呆れていると、お母さんが部屋に入ってきた。
「朝ごはんできたわよ? 早く降りてきなさい」
「……はいはーい」
朝、息子の部屋に入る時はノックをしましょうね?息子の朝の生理現象とか見たくないでしょ?
内心そう毒づきながら、未だに重たい体を動かしなんとか立ち上がって部屋を出た。
リビングに向かうといつもどうりの光景が広がっていた。テレビを見て朝食を食べるお父さんに、俺の朝食を用意してくれているお母さん。
そこに妹の姿は見受けられない。
──昨日のは夢……だったのか?
お父さんは昨日確かに”明日から“家に妹も住むと言っていた。
現状を鑑みるに、やはり昨日のは俺の夢だったのだろう。妹のことを考えて眠れなかった日々の疲れが夢に出てきたのか、俺が心の底では妹に生きていてほしいと願っているのか。
わからないが、現実は非情だ。やはり妹はいない。
しかし、時間というのは平等に流れる。
妹のことを考えすぎて、今日から始まる新学期を疎かにはできない。
新しいクラスに新しい担任。1つ上がる学年、入学してくる後輩。
その一つ一つに胸が高鳴り、期待している。
俺はいつもどうりに支度をして学校へと向かった。
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4月とはいえ、ここの地域はまだまだ肌寒く上着を着ている生徒も多く見られる。俺もカーディガンを羽織っているしな。
その中に、一際背が高くブレザーの袖をまくっている目立つ生徒が紛れていた。
知り合いだが……声を掛けるのは少し謀られた。この時期に腕まくりとかイキっている奴か、よっぽどの暑がりか、バカだけ。
周囲からの注目も確かに浴びていて、一緒にはできればいたくな──
「お、朱羅じゃねぇか!」
と思ったが、イキってる暑がりのバカがたまたま振り返り俺は見つかってしまった。
石澤 彩斗。1年生の時に同じクラスで仲も良かった男で、現役バスケ部。1年生の頃からレギュラーに入れるほどの実力を持つ。
背は高く短髪。theスポーツ少年。バカ。この3つでだいたいみんなにも伝わるはずだ。……顔は整っている。
「よ、久しぶり」
「春休みなんで1回も連絡してこねぇんだよォ」
「部活、忙しかったんだろ?」
「ああ、そうだけど?」
俺から連絡して断られるとか絶対にしたくない。そこから絶対に「俺ってあいつに嫌われてるのかな……」という考えに至るし。
人の誘いは断るのにね。人にやられて嫌なことはしちゃいけないっていうが、そもそも俺には誘いなんてめったに来ないからいいよね?
「今度、バスケしよーぜ」
「……なぜ現役バスケ部レギュラーと野良バスケしなきゃならんのだ」
「お前だって中三までバスケ強豪のレギュラーだったろ」
「1年も動いてなかったらなんも出来ねぇよ」
バスケを辞めた理由は単純だ。めんどくさくなった。それだけ。
怪我もしてなければ、バスケが嫌いになった訳でもない。
他愛もない話をして歩いていると、程なくして俺達が通う高校──緋扇高校が見え始める。
緋扇高校は新設校で施設が真新しく、校長が言っていた話によると注目を浴びている高校でもあるらしい。
新設校というのは基本的に偏差値が低かったり、不良が多かったりというイメージがあるが、緋扇高校は違った。
偏差値平均、生徒真面目、部活動も少しだが実績を出している。そういった意味で注目されているのだろう。
春休み中に届いていた成績表に同封されていたクラス表。それに従って俺は2年5組へと向かう。
ちなみに彩斗も5組だったようだ。
教室に入ると様々な生徒がいた。数人のグループになっている人、孤立している人。読書に携帯、居眠り。
俺達が登校したのは8時40分より少し前。ギリギリな時間だったので、教室内の座席はほとんど埋まっていた。
黒板に張り出されている座席表を見て、自分の名前を探す、がすぐに見つかった。
──朱石 朱羅 出席番号1番
当然1番前の席だ。ここはもう俺の指定席と言っても過言ではないかもしれない。
「んで?今年もお前が後ろかよ……」
「んだよ、不満か?」
「もちろん」
「だろー、不満な点なんて1つも……あれ?」
2年間連続で同じ奴が後ろとか嫌だろ、普通。
まぁ、顔見知りが近くにいるって言うのは心強くはあるからな……100%の不満って訳では無いけれど。
席で彩斗と少し雑談をしていると担任の先生が入ってきた。
男の先生でジャージの上からでもわかる筋肉のついた肌白の先生。なんで始業式なのにスーツじゃないんですか。
「……!」
後ろから息を呑む音が聞こえて思い出した。確かこの先生はバスケ部の顧問をやっている神戸先生だ。
なるほどつまり、彩斗君は目をつけられてるってことですね、ハハ。
少しからかってやろうと後ろを向くと、彩斗は真っ青になっていた。あー、ショックだったんだねぇ。わかる。
かく言う俺も、中三で現役バスケ部だった頃。担任の先生はバスケ部の顧問だった。
あの時は俺も相当のショックを受けたが、おかげで成績は上がるし、授業態度も良くなった。こうして地域では割と頭のいい高校にも通えていれる。
神戸先生が軽く諸連絡をした後に、
「2年は1年の後に体育館に移動だ。それまで静かに待機していろ」
と言って教室を出ていったので、今は生徒間での関係構築時間になっている。
俺や彩斗も近くの席の人と、最近どんな大人ビデオを見たとか、どんな大人アニメを見たとか、誰が誰と大人シたとか、大人シたことあるのかとか、とっても大人な会話をして過ごした。
男子の友情を深めるには下ネタが最適。あ、これ世界共通な。たぶん。
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『この度は栄えある緋扇高校に入学できたことを心から喜ばしく思っております。───』
現在、緋扇高校のステージ上では一人の女の子が1年生の代表演説を行っている。
遠目から見てもくっきりとわかるほどに大きな瞳に、整った顔立ち。スピーカーから聞こえる声は可愛らしく、しかし凛々しさと力強さを持っていた。
だが、それらよりも皆の目を惹いたのはその小柄な体型だろう。べ、別に俺がちっちゃな女の子が好きとか、そういうのでは無い。
あの小さな身体から発せられる可愛らしい声の声量、堂々とした佇まいが、俺は皆の目を惹いていると思えた。
立っているためそろそろ足が辛くなった頃に、演説が終わりそうな雰囲気が漂ってきた。
『──1年代表 朱石 かなで』
へぇ……
拍手をしながら俺は小さく零した。あの子とは別に親戚とかではない。全くの赤の他人だが、苗字が同じと言うだけで妙に誇らしい気持ちになれた。
というのも、こういう演説をする人間は入試トップの生徒だからだ。
「なぁ、あの子可愛くね?」「だよなー、あとで1年のとこ行ってみる?」「やめとけって……迷惑だろ」
チラホラと拍手に紛れてそんな声が聞こえてきた。
最初は男女共に朱石 かなでを「可愛い」と評価する声が聞こえていたのだが……
チラリと首を巡らせて、後ろを見る。そこでは女子が男子へと面白くなさそうな視線を向けていた。しかし、男子はそれに気づく気配はなく、女子の不満をさらにつのらせていた。女子って怖いっ!
校長やら生活指導の先生やらのありがたいお言葉を拝聴してから教室へと戻った。
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「それでは、順番に自己紹介をしてもらう。発言するものは自分の席で構わないので、しっかりと起立するように。では、朱石。頼んだ」
女子からは安堵の息。男子からは悲鳴が聞こえた。
こういうのってジャンケンとかでトップバッター決めるもんじゃないの?なんで男子が先だよ。レディーファーストという概念をご存知ない?
俺も実際悲鳴をあげたい気分なので心の中でいつもより少し多めに毒づく。
まぁ、慣れてはいるんですけどね?最初。それにこれから起こる事態にも。
「1年の時も5組だった朱石 朱羅です。よろしく」
特に何か言わなくてはいけないという制約もなかったので、ぶっきらぼうに終わらせる。
元々、趣味とか特技の話をしても誰も聞いてないしな。というのも──
「え?朱羅?」
「名前かっけー」
「いやいや、むしろだせぇだろ」
「厨二病こじらせすぎ……」
「しかも朱石と朱羅で朱って漢字2回使うとかww」
「親のネーミングセンスヤバ」
てな具合に俺の名前についての話題でもちきりになるからだ。
俺は朱羅って名前嫌いじゃないんだけどなぁ……相手の印象に残るし。将来の名刺交換とかに役立ちそう。今から社会での生き方を考えてるとか、俺ってば意識高すぎ!
と、俺が将来の社蓄生活に思い馳せていると、後ろからダンッという音が響いた。
「お前ら!人の名前を馬鹿にしてんじゃねぇよ!」
一瞬ウルっと来てしまった。友情って素晴らしい。ありがとう彩斗。これで去年はお前が1番俺の名前を馬鹿にしていたことを許してやらんこともないぞ。今までの人生であそこまでバカにされたのなんて初めてだったしな……割と傷ついてたんだよ……?
「俺の名前は石澤 彩斗。1年間よろしく!」
そのまま、何事も無かったかのように自己紹介をした彩斗は座り際に「気にすんなよ」と俺に小声で語りかけた。
一瞬ウルっと来てしま(以下略
しかし、彩斗のおかげで俺の名前についての意見は聞こえなくなった。その代わりに、
「彩斗くんかっこよくない?」「だよね!背も大きいし」「バスケ部なんだってぇー」「……彩斗×朱羅」
という声が聞こえ始めた。最後のは聞こえなかった絶対に聞こえなかった聞こえな言ったら聞こえないんだからね!
そのあとも着々と自己紹介は進んでいき、男子の自己紹介が終わった。次は女子の番だ。
「元1年1組の赤城 那由多です。今は帰宅部で、趣味は料理です。1年間よろしくね」
あ、あいついたんだ。気づかなかった。
というのも、先程の始業式、5組は雑談に花を咲かせすぎて時間が無くなり、バラバラの順番で体育館へと行ったためだ。
本来なら男子の先頭が俺。女子の先頭が那由多になるはずだった、という訳だ。
呼び方からわかるように……いや、わかりずらいな。まぁとりあえず、俺と那由多は幼馴染だ。
那由多と俺はお互いに少し変わった名前というのもあり仲がいいと言える。
那由多は黒髪のロングに整った顔立ちにくっきりと大きな瞳。人懐っこい表情を浮かべている。身長は女子にしては少し高め、スタイルもいいとあって街中でモデルにスカウトとかされててもおかしくはない。まぁ、それにしてはすこぉーし胸元が寂しい気がするが……
「え?那由多?」
「那由多って確かあれだろ?10の50乗の単位」
「ばっかちげーよ10の60乗だよ」
彩斗が怖いからか那由多の名前に対する声は大きくは上がらなかった。当の本人は自分の名前がいじられないことに少し違和感を感じているみたいだけれど。
女子の自己紹介も終わり、先生が「自由にしていろ。ただし煩くはするなよ?」と、押すなよ、みたいなことを言って出ていったので教室内は控えめに言って煩い。
「なぁ……赤城さん、可愛くね?」
「それ、アグリ」
「それあるー!」
男子間では基本的に那由多のことが話題に上がっていた。さすが美少女。
そんな男子の様子を見て那由多はニンマリと笑っているのがここから伺えた。おいおい……もうちょい表情隠せよ……
女子達がなんの話しをしているのかは……聞こえなかった。彩斗くん、彩斗くんって単語がたまに聞こえるくらい。サイトクンってなんだろ、僕わかんない!
今日は始業式以外にやることもないので、ホームルームをおこなって帰宅という流れになる。
「どっか寄ってくべ!?」「このあとどうするー?」と直帰する生徒は少なそうだが……
俺は迷わず直帰。するためにカバンを背って教室から出ようとすると、
「あ、朱羅ー。一緒に帰ろー」
後ろから那由多にそう声をかけられた。思わず振り向くとそこには満面の笑みの悪魔。般若の顔の日本男児。
「あれ?行かないの?先行くよ」
そう言って俺の横を通りすぎた那由多はしかし、教室を出たすぐの所で立ち止まるのが見えた。
黒い髪が広がり、その光景はマジ悪魔。
「なぁ……あかい……朱羅。さっきのどゆこと?」
おい今朱石って言おうとしてたよね!?ねぇ!?
俺をさっきまで朱石と呼んでいたその生徒は、どことなくぎこちない笑顔でそう聞いてきた。
後ろに控える男子生徒も一様にして同じ疑問を持っているようだ。
「あー……っと、幼馴染……みたいな?」
『なん……だと……』
男子の3分の2くらいがハモる。確か……那由多のファンクラブ(自称・非公式)のメンバー達だ。
ショックにより固まっている隙に俺はさっさと教室から退散。視界の隅にいた彩斗すらも石化していたように見えたが……気のせい、だよね?
案の定教室から出ると那由多が壁に寄りかかっていた。こういう仕草がいちいち様になっているのだから美人はズルい。男子が夢中になるのもわからなくはない、が
「どしたの?生気が抜けたような顔しちゃって」
このニヤつき顔は腹立つ。それでもって女子って言うだけで強く当たれないのも腹が立つ。
「誰のせいなんでしょーねー」
しかし、そんな感情は幼稚園の時には克服済みだ。伊達に物心着く前からの付き合いじゃない。
もう菩薩なんじゃないのって位、悟ってたね。俺超菩薩。
無表情で佇む俺に少し笑ってから那由多は歩き始める。那由多から俺が見えなくなってから、わざとらしく両手を上げてため息をつくふりをしてから、那由多の横に追いつき歩いていく。
5組からは再起動した男子の怒号が聞こえた気がしたが気のせいだと信じておく。……明日学校行きたくねぇ……
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俺と那由多は幼馴染なだけあって家が近い。というか隣。
なので、小学生の頃はよく一緒に登下校することがあったのだが……いつからか2人で歩くことはなくなっていた。
確か、小学校高学年の頃から俺と那由多の間に”そーゆー噂“が流れ始めて、何となく一緒にいるのが気恥ずかしくなり、中学からは一緒にいることがほとんど無くなっていた。
勿論、家が隣同士なので家族ぐるみの付き合いや、話したりなんてことはしていたが、どこかへ出かけたりというのは全くなかったはずだ。
「にしても、朱羅が一緒のクラスとはねー」
「まぁ、そうな。いつ以来だ?クラスかぶるの」
「えーっと……小6?かな」
ほー、と適当に相槌を打つ。
那由多とクラスが被らなかったのはむしろ、よかったと言える。5組男子の反応を見てわかるように、那由多はそこら辺にはいないほどの美人だ。そんな美人の幼馴染キャラ、とか仲良く話す男子ってだけで割と妬まれるもんだ。
おいおい、幼馴染の評価随分と高いな……俺。
そんなことを考えながら那由多を見ていると、那由多が居心地悪そうに身を攀じった。
「……何?じっと見ちゃってさ……惚れたの?」
「……一緒に歩くのも久々だと思ってよ」
ちょ、ボケたんだから突っ込んでよー……恥ずかしいじゃん。と横がうるさいが、実際問題、俺が那由多に惚れるわけがない。
俺の中では──たぶん那由多もだが──那由多は双子の兄妹みたいな認識なんだ。姉なのか妹なのかはイマイチだが。
世の中には色々な恋の形があると思うし、どの恋を選ぶかは個人の自由だと思う。けれど、兄妹の恋が許されるのはフィクションだけだと俺は思う。
フィクションの中なら兄妹ものは大好きなんだけどね。
それから俺達は取り留めのない会話をして家へと向かう。赤城家が手前にあるので、必然那由多を送ってから俺も家へと帰った。
「……たでーまー」
しかし、「おかえりー」という声が返ってくることがないのは知っている。うちの両親は共働きでこの時間帯は基本的に誰もいないのだ。
鼻歌交じりに靴を脱いでリビングへと入ると、
「あ、おかえりー」
そこには一人の少女がいた。
ソファーに体育座りで座っているのに、その体勢でも窮屈じゃないくらいに少女は小さい。片手にはリモコン。もう片方にはアイス。赤のかかった茶髪は頭の左右で短めのツインテールにまとめられている。
この少女にはどこか見覚えがあった。
「……朱石……かなで」
そう言うとかなでがこちらを初めて向いた。
少しツリ目がちの大きな瞳に、小ぶりだが整っ鼻。抜けるように白いのは頬と触れば折れてしまいそうな程に細い首。小さく可憐な桜色の唇しかし、わなわなと大きく開かれていた。
「あ、あんた誰!?」
「それはこっちのセリフじゃね!?」
怪訝そうな顔をしたかなではしかし、次の瞬間にはあっ、と何かを思い出したかのような顔になりこっちに指をさしたが、上手く思い出せないのか再び思案に戻る。
こめかみに人差し指を添えて考えながら、ぽつりと呟いた。
「たしか……じゅら」
「なぜ年代の名前……」
「は?」
いやほら、ジュラ紀だよジュラ紀。知らなかった?いやでも、1年代表なんだしそれくらいは知ってるかな?ならあれか、俺のギャグがつまらなすぎたってことですか……
「あ、朱羅か」
「なぜ呼び捨て……ってかタメ口」
こいつ年下じゃねえのかよ……
と、そこで思い出した。「お前の妹は生きていたんだ。明日から家(ここ)に住むことになる。そう、家族みんなで暮らすんだ」というお父さんの言葉を。
朱石かなで。普通に考えればこいつが俺の妹と言うことになる。いや、その普通はおかしいが。
だが、かなではあまりに俺と似ていない。そもそも俺は黒髪だし、残念ながら顔も特別整っているわけではない。普通だ普通。あれ……?普通、だよね?
まぁ、俺の顔の造形どうこうは置いとくとして、俺も両親もかなでみたいに身長は低くない。むしろ平均よりも少し上くらいだ。
であれば、かなでを素直に妹として認識するのは難しい。接点が少なくぎる。
と、思案していると不意に声をかけられた。
「いつまで立ってんの?座れば?」
「ん、あ、あぁ」
言われた通り、俺はソファに腰を下ろす。
「え、なんで横に座んの違うところに座ってよ」
「いや、座るところここしかないんですけど……」
「はぁ?ん……」
そういってかなでは床に視線を落とした。……いやいやそれはおかしい。別にソファを独り占めしていたわけでもないのに座らないでとか。床に座れとか。
せめて、ダイニングに椅子があるんだからそっちに座ってよ!って言うべきじゃないの?
俺が頑として席を譲ろうとしないでいると、かなではため息をついて一番端へと寄った。
「……そろそろ聞いてもいいか?」
「なに」
「なんで家(うち)にいんの?」
俺の中では勝手に妹という扱いにしていたが、本人からの証言を取ったわけではない。証左が何のであれば、かなでは不法侵入か、真昼間から堂々と空き巣をしているかのどちらかになり、即刻警察に連絡をしなくてはならない。
「なんでって、ここのおうちの子だからに決まってんでしょ?」
あんたバカじゃん?とでも言いたげな視線を向けてくる。流石に菩薩の俺でも少しピキリと来るものがあるよね……
「じゃああれか、お父さんが言ってた俺の妹ってのは……」
「ちっ……あたしなんじゃない?」
「おい、わざと聞こえるような舌打ちは──」
「なに?兄妹だってわかった途端に説教?そういうのウザイからやめてくれない?」
あー、かなでと話していると根拠の無いイライラが募ってくる。もちろん、普通にこいつはむかつくのだ。だが、那由多で日々訓練され続けた俺こと菩薩はこれくらいのことでは本来むかつかないのだ。
「あのなかなで、その喋り方──」
「ってか、なんであたしの名前知ってるの?」
「……そうやって人が話している最中に割り込──」
「いや、そういうのいいから」
おまえなぁ!と、今にも叫びそうになった時、玄関の方からガチャリと音がして「ただいまー」という間延びした声が聞こえてきた。
お母さんだ。今日は早番だったらしい。
すぐにリビングの扉が開きお母さんが顔を覗かせた。
「かなでちゃん、待たせちゃってごめんねー」
いや、誰だよこれ。一瞬本気でそう思った。もしかしたら俺は帰ってきた家を間違えているのかもしれないと。
しかし、見た目はいつもと変わらぬお母さんだ。ただ……声と顔が……今までに見た事がないほどおっとこれ以上は俺の親の沽券に関わるので言えないな!
「あ、お……お母さん。お、おかえり」
「ふふ……まだ無理しなくてもいいのよ?」
「いや、大丈夫……おかえり、お母さん」
うわっ!誰だよこれ!思わずさぶいぼ立っちゃったよ!
さっきまでの辛辣で強気な生意気娘はどこに行っちゃったの?
「あら、朱羅。帰ってたのね」
「ん、あぁ……」
俺が無言でかなでを顎で刺し説明を求める。
するとお母さんは、
「昨日言ったじゃない。妹のかなでちゃんよ」
半信半疑だった認識が確証に変わる。お母さんが言っているのであれば、そうなのだろうが……
え、まじでこれが妹なの……?
「2人とも、兄妹なんだから仲良くするのよ?」
「……はぁーい」
俺は反応できなかったが、かなでは嫌そぉーな顔をして俺を見ながら渋々と返事をしていた。
お読みいただきありがとうございます!
もし良ければ、感想、指摘等々よろしくお願いします!
──余談
「新たな兄妹の日常」は17話時点でのリメイク版です。以前の「新たな日常」を読みたいという方は、コメントなどでお申し付けください。