俺は一般人なので帰ってくるのに4年かかりました
「なんかさぁ、かなでちゃんが来てからベランダにばっかりいない?」
「俺の日常にはいつからジェットコースターが搭載されたんだ、マジ、感情の高低差激しすぎて耳キーンなるわ」
「あの、無視しないでくれます? 愛しの幼馴染が目の前にいるんですよ〜」
ほんと、色々ありすぎて、心労とかで禿げそう。
ラノベ主人公はよく、あんな理不尽ヒロインに振り回されて平気でいられるよな、俺なら禿げる自信ある。巻数追うごとに頭皮薄くなってく主人公とかちょっと気になる誰か書いてくれ。
「ねぇ朱羅大丈夫? いつも以上にブツブツ喋ってて……その、あれだよ」
「おい、いつもは包み隠さず俺のガラスのハートを抉るくせに、ちょっと濁して言うのやめろ、やめろくださいまじで」
「ジメジメしててナメクジっぽい。あ、ちょうど塩あるよ」
ストレートに言われるのが最近は気持ちよくなってきた。那由多、その塩全部俺にかけてくれ。ナメクジ朱羅は溶けてなくなりニュー朱羅になって帰ってくるからさ。
「いやだよ、塩がもったいない」
「だからといって盛り塩もやめて? 傷つくし、てか俺さっきから全部口に出してる?」
「……相当お疲れだね、かなでちゃんとのデート上手くいかなかったんだ」
こんだけ酷いこと言ったあとに優しくするの那由多かDV男だけだろまじで。慈愛に満ちた手を伸ばされたら涙が出ちゃうね、とびっきり赤いやつが。
「……かなでの男嫌いは知ってるよな。その理由はかなでから聞いてるか?」
那由多がかぶりを振る。かなでがよほど懐いている那由多に話していない、ということは機会がなかったか、知られたくなかったか……俺に話していない理由があったりするのか。
それはわからないが、原因を知らないとなると、那由多に今回の件を頼るのはちょっと難しい。……那由多に頼れないとなると俺っち本当に禿げちゃわない? 大丈夫そ?
ただまぁ、せっかくの相談ムードだ。那由多に聞いてほしいことなんてこの短期間でいくつも抱えてる。
「反朱石朱羅同盟」とか、手料理食べてから妙にお通じが悪いとか、4年ぶりの執筆で手が震えるとか、エトセトラエトセトラ……ほとんど那由多絡みだな、これ。
「ま、今回のデートの件は一人でなんとかするわ」
「……なんか今日の朱羅いつもよりマトモっぽいよね」
俺はいつだってまともじゃい! 決して4年のブランクがあるとか、そんなんじゃないんだからね! 昼にかなでとデートして、ここに至るまでの間に謎の空白期間なんて存在しないんだからね!ほ、ほんとにすみませんでした!
「かなでの男嫌いの理由については忘れてくれ、口が滑った」
「わかってるわよ、かなでちゃんが自分から話してくれるまで」
「話が早くて助かる。貴公に朱石兄妹検定2級を進呈しよう」
「私ほどの理解者が2級……!?」
何でそこでショック受けれるんだよ、お前俺ら兄妹のこと好きすぎだろ……照れるじゃねーか、ウレシクネーゾーコノヤロー。
「朱羅検定なら1級超えて特級なれる気がするんだ」
「特級超えて、もはや特急呪物だろ」
那由多の俺への理解度はもはや呪いと言っても過言じゃない。いや、過言ではあるが、あとで監視カメラ仕掛けられてないか確認しとこ。もしも俺のラフテルを見つけられたら恥ずかしさで死ねる。
「冗談は置いといて、どーだったのさデートは」
「……お前にデリカシーないって言われたの、もうちょい気にかけてればなぁ」
「女の子の警告は聞いておくものだぞ、少年よ」
「かなでの女心難し過ぎ……ってのは言い訳臭くてダサいな。那由多くらいわかりやすければなぁ」
「いやいや、朱羅が一番私のことわかってないよ、あまり自惚れるなよ貴様」
「那由多検定1級所持者だぞ俺は」
「非公式の資格を履歴書に書くのは犯罪ですよ?」
あー、これはあれだ。理解されたいけど、理解されすぎるのは癪ってやつだ。さすが朱羅様、1級の名に恥じない名推理でございます。
「はぁ……その調子だと、かなでちゃんに酷く失礼なことしてそうで怖いよ」
これみよがしにため息をつく那由多に、俺は自分への愚痴混じりに、今日の事のあらましを伝えた。かなでの男嫌いのことには触れず。
言葉に出して振り返ると自分の不甲斐なさを痛感してしまう。
話を聞き終わったあと、那由多は何かを言いかけて口を噤んだ。俺の表情から色々察したのだろう。さすがは特急呪物。
「朱羅がデートに行くと3歩後ろを挙動不審についてきていたのは意図的だったんだね」
「……え、もうちょい俺を労って? 本気で泣くぞ、男子高校生が泣き喚くぞ」
「どんな脅しよ……大丈夫、感情が決壊するギリギリ攻めてるから」
それって何も大丈夫じゃないよぅ……ふえぇ……特急呪物怖いめぅ……
なんだか、かなでと一緒にいるせいで那由多のサドヒストっ気に拍車がかかっている気がする。俺の精神衛生上、非常によろしくないですね。
「で、いつにする? 次の週末空いてるかかなでちゃんに訊いといてよ」
少し逡巡して、3人でおうちパーティーをしようって話だと気づく。こいつは話を端折りすぎるきらいがある。
ま、那由多検定1級所持者(非公式)の俺からすればこれくらい容易いがな(髪の毛ファッサァ)。那由ラーにはできない芸当だろぅ?
「俺から聞くより、那由多から誘ったほうがあいつも喜びそうだ」てかぶっちゃけ日程調整めんどくさい。
「ふーん、ちょっとはわかってきたじゃない。調教のかいがあったわね」
「もう高2だしな、女心の1つや2つ……って今調教って言った?」
女の子がそんなことを口にするんじゃありません!……モラハラおじさんムーブも、うっかり口に出したらかなではかなり嫌がりそうだな。やめないけど。
「ちょっとは見直しなよ、自分の発言」
「ねぇ、俺の心読むのやめない? 不公平でしょうが」
「1級を自称するなら心ぐらい読んでみな〜」
このあと、他愛のない話をして部屋へと戻った。正直かなり気持ちが楽になった。
那由多がいなかったら俺はラノベから兄妹の距離のとり方を学んだ挙げ句に行動に移しかねなかったからな。ふー、危なかったぜ。
4年間放置していたこと、謝らないっす。朱羅が謝ったので(クズ野郎)
再開するかは、わかりません。気持ち的にはやりたい思いです。
ただ、別の新しい物語を先日アップしまして、そっちと同時進行で書いていくことになると思います
再開するにあたって、全話読み返したのですが、感想は四年前の俺って若かったんだなぁって感じです。あと、普通に面白かったのが若干悔しい