お母さんから聞いた話だと。
かなでがうちの子であることが判明したのは4ヶ月前のことだったそうだ。
かなでの両親はかなでが幼い頃に離婚。かなでは父に引き取られたが、父は単身赴任により海外へと飛び立ちそれから先の行くへは不明とされている。
必然的にかなでは父方の祖父母に育てられてきたのだが、血液検査により親族と血が繋がっていないことが判明した。
それから調べたところ、かなでが生まれた病院で入れ違いが起こっていた事がわかり、その線から朱石家まで辿り着いた。ということらしい。
かなでを育ててくれた祖父母の考えは「実の両親の家で暮らした方がいいだろう」との事なので、それから、かなではうちの両親とできる限りの都合を合わせ、色々なところへ出かけたり、話し合いを重ねて親睦を深めていったらしい。
ただし、それを俺の全く知らないところで……なんでここで仲間外れにされちゃうのかね?俺。
そして、かなでがちょうど中三、受験校を決める頃だったということもあり、緋扇高校を受験し無事に合格。
この春から朱石家に来ることは決まっていたらしい。
説明してもらったがうまくは理解出来ていなかった。ただ、かなでが明日から朱石家で暮らすということ、今度かなでの祖父母には挨拶しに行かなくてはならないのだろう、ということはわかった。
「本当にあいつが妹なの?俺の」
だが、わかってはいるが何度も確認してしまう。だって髪色とかうちにはあんな色の人いないし、身長だってあんなに低くない。あと、うちに美人はいない!
「そう言ってるでしょう?あ、ほらこれ」
そういってお母さんがカバンから取り出したのは一枚の写真だった。だいぶ古い写真なのか端はボロボロになっていて色あせている。
写真には3人のセーラー服を来た女子高生が並んでいた。顔立ちは中の中くらいではないだろうか。
これなに?という顔でお母さんを見ると、何も言わずに写真の一点をさされた。
「これがお母さん」
写真の中のお母さんは髪の色がかなでにそっくりだった。色あせている分、少しわかりにくかったが……
お母さんは、就職する時に髪の毛を黒に染めていたらしい。
「とにかく、かなではうちの子よ。あんただって家族なんだから、見ただけで何となくわかってるんじゃないの?」
「……まぁ、無性に腹立つな……ぐらいには思ってるけど」
「はぁ……朱羅の家族に対する印象がよーくわかったわ……」
あ、と言ってから気づいた。くっ……謀ったな!
俺が苦い顔をしているとお母さんは、とにかく、と仕切り直すように息をついた。
「わかった?ちゃんとお兄ちゃんとして優しくするのよ?」
「そんなに念押ししなくてもわかったってば……」
昨日から、すきさえあれば両親は口を揃えて「兄として妹に優しくしろ」と言ってくる。……そんなに俺は優しさの欠けた息子に見られてたの?ちょっとガチでショックだぜ……
それからリビングへと戻ると、かなでは我が家のようにくつろいでいる。いやまぁ実際我が家なんですけど……今日来たばかりなのにこれって……どうなの?
夕飯の支度をするためにキッチンへと向かうお母さんが、俺とかなでに向かって再三問う。
「朱羅もかなでちゃんも、兄妹なんだから仲良くするのよ?」
「……はぁーい」
嫌そうに、ともすれば怠そうに答えたかなで。ほらぁ、あんまりしつこいと嫌われますわよ?奥様。
既にうんざりとしている俺は少し悪態をつくことにした。あんまり嫌味を言うと晩飯がなくなるからな……
「はいはい。ま、あっちにその気はなさそうですけどねー」
「兄妹なんだから、大丈夫よ」
兄妹って言われても……今さっきあったばっかりなんですけど?
それに、俺にある兄妹の知識とかラノベくらい……え、なに、妹とフラグ建てちゃうのん?妹と恋しちゃう?
なんて、身の毛もよだつ気持ち悪い考えをしているとインターホンがなった。
「あら?もうそんな時間なのね」
お母さんは夕飯の支度の手を止めて玄関へと向かう。少ししてから「朱羅ーかなでちゃんー」と呼ぶ声が聞こえた。……嫌な予感しかしねぇ。
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嫌な予感ほど的中率の高いものは無いと思う。天気予報よりもよく当たる。そりゃあもう牡蠣を食べまくった時並に。
結論から言うと、俺とかなでは引越し会社の荷物の運び入れを手伝わされた。まぁ、気づくとかなではいなくなっていたわけだが。
かなでの部屋は俺の部屋の隣、元物置だった場所だった。……そこに運び入れるのだから、辛いったらありゃしない。
作業を終え、リビングへと戻るとかなでは呑気にテレビを見ていた。なんでお前の荷物なのに、俺が労働してお前が休憩しちゃってんの?という思いがこみ上げてくる。ってかお母さんも注意しようぜ……
と2人をジトっと非難の目で見ていると、かなでがそれに気づき睨み返してきた。
「あんた、あたしの荷物に触れてないでしょうね」
「……あーはいはい、指一本触れてございませんよ」
どうやって触れずにものを運ぶのかは俺にはわからなかったが、適当に返事をしておく。なに?俺ってばかなでに魔法使いかなんかだと思われてんの?ま、まだ30歳じゃないから、ま、魔法使いじゃねぇし!な、何言っちゃってんの!?
ま、まぁいい。俺の輝かしい歴史(彼女いない歴=年齢)は一旦置いておこう。
普通、妹ならばこの状況で「お兄ちゃん、ありがとう」ぐらいは言うもんじゃないの?そう言われたのなら、力仕事は男の仕事だし、妹のかなでがやらなくても、まぁいいか。と、なるのに。……たぶん。
「は?何その態度、ムカつく」
「むかつくのはこっちだ……お前こそなんだよその態度」
「お前って言うなし、あたしの名前はかなでなの」
「じゃあお前も俺のことあんたって呼ぶのやめろよ」
「それは今関係ないでしょ!」
関係大ありなんだよなぁ……なにこいつ、まともな会話も出来ないのん?理不尽にも程があるでしょうに……
だが、この数時間のあいだにわかったことが俺にはある。かなでとまともに話そうとしても無駄だということ、かなでに妹を求めても無駄だということ、だ。
「あーはいはい、そうですね。わかったよ、かなでちゃん」
しつこく噛み付こうとするかなでを適当にあしらい、俺は自室へと戻ることにした。
後ろで「ちゃん付けとかキモイんだけど」と聞こえたが、いちいち反応しているとキリがないので無視する。
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「はぁ……あいつマジでなんなの?」
そう言いながら俺は疲れた体をベットへとダイブさせる。ギシギシとベットが悲鳴をあげたがこの際は気にしていられなかった。
仰向けになりながら、昨日ちょうど読んでいたライトノベルを机から拾い上げる。
表紙には小柄なツインテールの少女が上目遣いに両手を前に掲げて「お兄ちゃん……」と言っているイラストが描かれている。
「妹ってのは、こういう可愛げのあるもんじゃねぇのかよ……」
確かに、俺とかなではつい数時間前に出会ったばかりだ。いきなり「妹として好感度MAXでかかってこいやァ!」とは言わない。
が、あそこまで強く当たってくる必要は無いんじゃないかと思う。もしかして、俺が気づいてないだけで、嫌われるようなことしちゃった、とか?
タ、タ、タ、と階段を登ってくる音が聞こえた。
お母さんかな? そう思い何となく居住まいを正す……しかし、足音は俺の部屋の少し手前で立ち止まり部屋の中てさへと入っていった。
「あ、かなでか……」
今までは階段を登ってくる足音=お母さんだと思っていたのだが、これからはかなでの可能性も出てくるのか。
兄妹、ねぇ……これからどうしたもんか……。そう考えたところで急激な眠気に襲われる。さっきの肉体労働の疲れが溜まっていたのだろう。
俺は意識と思考を手放した──
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「──へぼあぁっ!?」
突然、腹部に衝撃が走った。同時に変なうめき声が聞こえる。誰だよ、と思ったら僕でした。
意識が覚醒してくるのと比例して、どんどんお腹が痛みを増していく。痛みの元凶を探ろうとお腹を見ると、そこには細い足が乗っかっていた。
俺が足を見るとグリグリとお腹をえぐろうと足が右へ左へと回る。やめて!俺に踏まれて喜ぶ性癖はないんだから!ほ、ほんとだからァ!
「ちょっとあんた!何妹に欲情してんのよ!」
声の方をむくと、そこには顔を真っ赤にさせたかなでがいた。
ってか何言ってんの?こいつ。
俺が?妹──つまり、かなでに?浴場?なんだよお風呂一緒に入りたの?兄妹水入らずってか?いや、お湯入らずか。
じゃなくて……欲情?なんでそんな発想が出てくるんだ?と思ったが、かなでが机の上を指さしていることで何となく察した。
さっき俺が手に取ったライトノベルだ。
だがこれを見て欲情って……女子高生にもなってちょっと純粋過ぎるんじゃ……はっ!まさか純粋アピールか!そういうのは女友達いなくなるからやめておいた方がいいと思うな!お兄ちゃん心配だよ!
……寝起きで少し(だいぶ)頭がおかしくなっているらしい。
俺が自分の頭の心配をしていると、かなではそれを答えに仇している、と勘違いしたようで更にまくしたててくる。
「妹ができた瞬間にこんなもの読むなんて!この変態!」
「いや、まて違う!これはお前のことを知る前に買ってたもんなんだよ。お前どうこうっていうのはない」
「うっさい!言い訳すんなぁー!」
げしっ!
もう1発。かなで選手の足フルスイングが横腹に超激ぃ!立ち上がっていた朱羅選手はは再びベットへとノックダウン!3ー!2ー!1!0!カンカンカーン!
割とヤバい勢いで倒れ込んでいた俺が苦しんでいうる内に、かなでは俺の部屋を出ていっていた。何しに来たのん?あれか、お兄ちゃんと親睦を深めようとしてたのかな?なにそれかわいい。
……やっぱ、俺の頭ヤバイわ。何がヤバイってちょーヤバイ。
ってか、寝起きに2発も蹴られて怒ってないとか俺紳士すぎたろ……
そんなことを考えながら、未だに痛むお腹をさすっていると、勢いよくドアが開かれた。
「ご飯……できたって」
あ、さっきもそれを言いに来たのね……
よっこらせ、とおっさんくさい声を上げて1階へと向かった。
食卓では既に両親とかなでが座って俺を待っていた。いつもなら寝ていようが問答無用でたたき起こし、晩飯の手伝いをさせられているはずなのだが、今晩はそれ無くして晩飯が食卓に並んでいる。きっとかなでが手伝ったのだろう。
俺がいつもの席へと座ろうとすると、右から殺気を感じた。それもそのはずで──ってのもおかしな話だが──隣にはかなでが座っているのだ。
なるべく意識しないよう心がけて座る。
「おお、朱羅。かなでとは仲良くできそうか?」
寝ている間に家に帰ってきていたお父さんがそう聞いてきた。
「さっきの殺気見てなかったの?どう見ても険悪でしょ」
「はは、そうか」
いやいや、「そうか」じゃないでしょ。どうにかして兄弟の中を取り持とうとか、そういうのはないわけ?
ってかかなで。「さっきの殺気」でツボってんじゃねぇよ……プルプル震える振動がつたわってきてるんですけど?
その肩を震わせているかなでと、お父さんが向き合う。
「かなでちゃんは、朱羅と仲良くできそうか?」
「……」
フルフル、と首を振って頭の両側につく髪の束をでんでん太鼓のように揺らすかなで。
ってか今の誰のこれだよ……え、普通にキモかったんだけど。お父さんの猫なで声。軽く鳥肌が立っちまった。あ、猫と鳥で鳥が襲われちゃうってことですか……いや!やめて!俺にそんな趣味はありません!
自分勝手にげんなりとして食欲をなくしていると、3人が口を揃えて「いただきます」と丁寧に合掌していた。
こうしてみると、かなでが本当に家族なんだな、と思った。一緒に食卓を囲っているその姿はなんの違和感もなく溶け込んでいる。
やはり、長くの時間離れていても家族の在り方というのは変わらないのだろう。
むしろ、一緒に合掌できなかった俺は家族に溶け込めてないまである。
3人が今日あった出来事や、この4ヶ月間にあった出来事なんかを話し合い、食事の場を和やかにしている。しかし、俺は静かに食事を済ませ、風呂場へと向かった。
話を振られれば適当な相槌をうつし、聞かれれば答える。だが、俺は基本的に静かな食事をしたい。そしてそれは両親もよくわかってくれていることなので、俺に話を振ってくることは無い。
風呂場でちゃっちゃと体を洗ってからすぐに上がった。
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黒く、どこまでも続いている暗い空を眺めていた。
暗闇の中には点々と淡く、小さな光が浮かんでいる。都会ではないが、田舎という程でもない。そんな中途半端なこと地域では、注意してみなければ星を見つけるのは少し難しい。
俺は昔から、物事を整理したり、落ち着きたい時にはこうしていることが多かった。
冷たい風や静かな住宅路が子供の頃から好きだったんだ。
今日は色々なことがあった。始業式にクラス替え、那由多の騒動に──妹のかなで。
今までの短い人生の中でも最も濃い1日だったのではないだろうか。
「はぁ……妹、ねぇ?」
本当にこれからうまくやって行けるのだろうか、そんなことがつい頭をよぎる。
視線を左へと移すとそこでは、窓に冊子が付いている。明かりは点いておらず、まだ部屋には戻っていないようだ。風呂かな?
そこでふと思い出した。
「妹もののライトノベル……どうしましょ」
寝起きの騒動。あれだけであんなに動揺するかなでのことだ。俺の本棚にあるライトノベルを全て見たら卒倒するんじゃないだろうか……
かといって、捨てたりするのはもったいない……どうしよ。
本棚の奥の方に隠す?いやむしろ、後ろめたさがあるみたいで逆にまずいだろう。
逆に、堂々と本棚に列べる。下心などなく、ただ純粋に物語を楽しんでいるのだよ、という主張。いや、この感覚は意外とオタクな人にしか伝わらないんだよなぁ……
むしろかなでをオタクの道に引きずり込むっていうのは?そうすれば全て解決……いや、あいつにラノベ持たせた瞬間に惨殺されそう……
そう思案していると、向かいの赤城家──その那由多の部屋のカーテンから那由多が顔を覗かせた。
「どしたの?朱羅。」
そう言いながらベランダへと出てくる那由多。
幼馴染の那由多は俺が悩みなんかがあるとベランダに出るという習性を知っている。なんだよ習性って……
つまり、こと「どしたの?」というのは、副音声をつけるなら「悩みか?聞いてやるぜ」ということだ。なにこれイケメン。
先にベランダに出ていた方の悩みを聞く。これは俺と那由多。幼馴染の暗黙の了解ってやつなのかな。普段は俺ばかり悩み相談しているが、もちろん那由多の悩みを聞くこともあるってことだ。
本当に、那由多にはよく助けてもらっている。今回も早速相談を持ちかけようとしたのだが、
「とりあえず、頭乾かして来いよ」
「へ……?あ、うん」
風呂上がりなのか、バスタオルを携えてベランダに出てきた那由多を部屋へと戻す。4月も始まったばかりなのだ。頭が濡れていたら風邪を引いてしまう。なにより、女の子が体を冷やしてはいけません!
しばらくして戻ってきた那由多(上着を着用。恐らく、俺に指摘されるのを知っていたからだろう)に、かなでのことを話した。
「へぇー、あのステージに上がってた子が朱羅の妹ねぇ。よかったじゃん、可愛い妹ができて」
「いや、お前話聞いてた?その見た目は可愛い妹が終始不機嫌で困ってる。って話だったろうが」
「……そこは……さ、しかたないんじゃない?今日会ったばっかりの1歳とはいえ、年上の男の人と一緒に暮らせって言われたら、誰だってそうなるよ。いくら兄妹とはいえさ」
「それはわかってるんだけどよ?いくらなんでも限度ってもんがさ……知らん内に嫌われるようなことでもしちゃったかなぁー、と」
「あぁー……それは……朱羅だからね、なんとも言えない」
そんなに俺って無意識に傷つけるようなことしちゃってるの!?
え、マジかよ。だから未だに彼女の1人もできないのか?うわ、ショック……
と、軽く絶望しているとニヤニヤと那由多が笑っていた。からかうためだけに幼馴染を絶望させるのはようないと思います!
「だからよ、なんか機嫌を取れるような方法がないかなぁ……と、思いまして」
「なら、手っ取り早くプレゼントとかがいいんじゃない?」
「ほほう?例えば?」
「それは自分で考えなさいよ……」
考えれって言われてもなぁ……今まで女子どころか男子にすら贈り物なんてしたことがない。あ、いや、誕プレとかを那由多に送ったことはあるけど。まぁ、それはほとんど例外みたいなもんだろ。
ってかなんだよ「プレゼント」って。わずか5文字に含まれたこのリア充感は異常。
思いつかん。と悩んだが割とすぐ近くに答えがあった。わからないなら聞けばいいじゃん、と。
「じゃあさ、明日学校終わったら買い物に付き合ってくれよ。んで、アドバイスとかしてくれ」
リア充っぽい那由多なら詳しいだろうと思い、思い切ってそう提案してみた。そもそもプレゼントって提案事態、こいつがしたわけだしな。
「………………」
と思ったのだが……あれ?
那由多がフリーズしてしまった。もしかして充電切れ?今どき耳なし猫型ロボットでも充電をみつようとしないぞ。いや、あれは21世紀だったな。
馬鹿な考えをしていると、那由多が頭を振るのと同時に再起動した。ヴォーンという再起動音が聞こえてきそうだ。
「なになに?それってデートってことぉ?」
「デートってか買い物だろ。普通に」
からかうような笑顔で聞いてきたが、普通に答えておく。ってか、今までも普通にふたりで買い物とかしてきたのに、なんで今更デートっていう発想になる。
すると、普通に返されたことが恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめる那由多。
「そもそも、デートだったら俺以外の男といくらでも行ってるんじゃないのか?」
「デートなんか……朱羅としか行ったことないよ」
「お、おう……?」
「じゃ、明日ねー」
いやだから、デートじゃなくて買い物……そういう前に那由多はさっさと足早に部屋へと戻って行ってしまった。
俺も釈然としない想いをしながら部屋へと戻ろうと、窓を開けるとそこには、
「え──?」
何故か、かなでがいた。
「どう、した?」
「……はぁ。ベット、組み立てるの手伝ってくれない?」
あぁ……なるほどな。確かに、あれは女の子一人で組み立てるのには少し大変だろう。
俺が那由多と話をしている間にかなでは部屋へと戻ってきていて、それからなにかの作業をしているな……とは思っていたが、ベットの組み立てだったか。
かなでの額には薄く汗が滲み出ていて、自分なりに試行錯誤していたのが伝わる。恐らく、お父さんに頼むのは申し訳なくて俺のところに来たのだろう。
「あぁ、いいぞ」
そういって俺は後ろ手に窓を閉めてかなでの部屋へと向かった。
かなでの部屋はダンボールがいくつか置いてあったが、引越し初日にしてはそれなりに片付いているのではないかと思う。
机やらタンスやら本棚なんかは引越し業者の人が梱包を解いていってくれたので、ダンボールに入っているのは小物のものばかりなのだろう。
しかし、このベットってまさか……
「なぁ……これって新品?」
「なに……新品だけど?悪い?」
「そうじゃなくてだな……これってお父さんが買ったんじゃ……」
俺がそう言うとかなでは「あら?よくわかったわね」みたいな表情を浮かべた。
やっぱりかぁ……お父さんのさっきの猫なで声といい、最近妙にニトリに行ってみたり、通販サイトでベットを調べてると思ったら……
「引越し祝いに……ってね。お父さんとお母さんが」
お母さんも共犯者だったかぁ……え、なに、俺にはなんにも買ってくれないのん?両親が娘に甘すぎる件。
それから、説明書と照らし合わしながらベットを黙々とくみ上げていった。と言っても大きいだけで大して大変でもなかったので、だいたい10分もしない内に組み上がったのではないだろうか。
最後にネジの閉め忘れ、緩みなどを確認したら完成だ。
「こういう力仕事だったら気軽に頼んでいいんだからな?一応俺も男なわけだし」
「それに、怪我したら大変」そうつけ足して振り返ると、かなでがポカーンと口を開けて突っ立っていた。まるで、ありえないものを見た、とでも言いたげだ。
整った可愛らしい顔が台無しである。
「ど、どうした?」
そういえば、作業中もやけに静かだったな……と今になって思い出す。集中してたからなぁ。
つまり、ずっとこの顔で後ろに立ってたの?なにそれなんてホラゲー?
「いや、だって……今日結構キツく当たっちゃったのになんか……普通に優しかったから……」
もじもじと、ダンボールだらけの部屋を照らす電灯の下で小柄な少女はそう言った。そう、小柄な少女。誰だよこれ……
ってか、キツく当たっている自覚あったんなら少し自重してくれませんかねぇ……ってか誰だよこれ。
「……これぐらいの作業、普通にやから。じゃ、おやすみ」
未だに呆然と突っ立っているかなでの横をすり抜けて部屋を出る。チラリと部屋を覗いたがかなでに動く気配はなく、仕方なく後ろ手に扉を閉めた。
「──ありがと……」
と、扉を占める寸前に聞こえたが扉を締め切る。
すぐ隣の自室に戻ってからやはり思った。誰だよ……あれ、と。
お読み頂きありがとうございました!
感想や指摘、アドバイス等々。遠慮なくお願いします。
リメイク版の2話となっておりますので、投稿日時がおかしくなっておりますが、お気になさらないでください。
余談
5000文字が9000文字になってしまったのはなぜ──!?(内容は変わっていない)