「えーっと…今日の授業はこれだから……これ入れて……」
昨日あたしは今日の準備をしておくことを忘れてしまっていたため朝起きて朝ごはんを食べてから準備をしている。
「そもそも物置に閉じ込められたのが悪い訳だし……」
思い出されるのは昨日の夜、あいつと将棋盤を物置に取りに行った時のこと。あの時は真っ暗で怖かったため覚えていることは少ないが、あいつと将棋を指したこと、それとあいつのあの言葉ぐらいしか覚えていない───
「──俺はかなでには物理的にも精神的にも傷を与えることをしない。安心してくれとまでは言わないが俺には怯えなくても大丈夫だぞ?」
すごく真剣で、それなのに優しい頬笑みを浮かべた顔であたしに言ってきた言葉だ。
「悪い人……ではないんだろうな…」
那由多さんもあいつの事を「優しくてとってもいい人だよ」とまでメールで言っていた。最近あったばかりの人の言葉を鵜呑みにする訳では無いけど、那由多さんのこと言葉は信じてもいいと思う。
あたしは通学用のカバンに勉強道具を詰め最後に小さな箱を入れチャックを閉めた。
「あ、かなでちゃーん。おはよー」
「おはようございます。那由多さん。もしかして待たせちゃいました?」
「そんなことないよ」
あたしは家を出るなり隣の家の塀によりかかっていた那由多さんに駆け寄った。昨日の晩那由多さんとメールで一緒に学校に行く約束をしていたのだ。
那由多さんは長くて綺麗な黒髪に綺麗な顔立ち、女子としては割と高めの身長にモデルさんのような体型をした女子の理想を形にしたような人だ。いや、少し違った。お胸がもう少し大きければ女子の理想像そのものと言えただろう。
「じゃあ行こっか、かなでちゃん」
「はい!」
那由多さんはなんというか「お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな」っていう感じの人だ。昨日那由多さんが「かなでちゃんって妹みたい」って言ってくれた影響もあるかもしれないけど……
「かなでちゃんは学校楽し?」
「そうですね。同中の人がいなくて最初は心細かったんですけど、すぐに仲良くなれた子がいて」
「へぇー、そうなんだ。今度私にも紹介して?」
「はい、もちろん。麻那も喜ぶと思います」
それからあたし達はこれまでの三日間の学校生活の話や那由多さんから学校の先生や授業についての話をしながら学校へと向かっていった。
「あの、那由多さん。あの人ってどんな人なんですか?」
「あの人………あぁ朱羅のことね。うーん、どうって言われても昨日メールで言った通りの奴っていうか……」
「そこをもう少し詳しくお願いします」
「へ?あ、あぁうん……」
那由多さんが言うにはあの人は、気だるげで無気力でも悪い人ってわけではなくってむしろ、優しいところもわかりづらいけどちゃんとあるし何気に気遣いもできる良い奴なのだそうだ……惚気話……?
「あの……もしかして那由多さんって……」
「ん?なにかな?」
「あの人のこと……好──」
「違うよ。ただの幼馴染」
「即答なところが逆に怪しいですね…」
「クラスメイトに嫌になるほどその事聞かれてるからね」
そう言って那由多さんは少し困ったようにはにかんだ。それが本当のことなのか照れ隠しなのかは恋愛経験のないあたしには分からなかった。はぁ……
あたしも今年から花の女子高生なのだ。今の今まで恋愛経験……ひいては想い人の1人もできたことがないというのは自分でもどうかと思う。
「かなでちゃんはどう?好きな人とかいる?」
ドキッとしてしまった。まさか心の中を読まれた?とも考えてしまったが話の流れからしてこの質問が来るのは普通だということに気がついた。まぁ2、3秒ほどかかってしまったけど。
「その反応……もしかしているの!」
那由多さんが大きなお目目をキラッキラさせて聞いてくる。
「い、いませんよ」
「じゃあ付き合っていた人は?」
「それもいません……」
「告白されたとかは?」
「いません……」
なんかだんだん自分が情けなくなってくる……うぅっ……
すると急に那由多さんが真剣な顔をしてあたしの顔を覗きこんできた。
「かなでちゃん……嘘は…あんまりついて欲しくないな……」
「いや!嘘じゃないですよ!本当の本当にないんですってば!」
なんで那由多さんはそこまであたしのことを疑ってくるんだろう……少し不思議だ。こんなちんちくりんなんて誰も相手にしないのぐらいわかるだろうに。
「………もしかして……かなでちゃんは男の人、苦手?」
苦手です。そう答えようと思ったが少し踏みとどまった。
あたしが男の人を苦手な理由は前に住んでいた家の兄に虐め──暴力を受けていたためだ。幸い体に傷が残るようなことは無かったけれどもあたしが男の人を怖い存在、として見るのには充分なことはされていた。
この話は話していても楽しいものでもないしあまりあたし自身も思い出したくない。まぁ昨日あいつに喋ってしまったため那由多さんに伝わるのも時間の問題か……
「苦手です」
「そ、そうなんだ……」
那由多さんはかなり驚いた様子だった。それに加えて何故か数歩ほどあたしから離れていってしまう。
そんなにおかしなこと言っちゃったかな……?
「……もしかして……女の子が好き……なの?」
「…………は?」
あぁいけない。ついつい素で返事してしまった…那由多さんは目上の人のため極力言葉遣いには気おつけていたというのに……
いや、でもそれも仕方ない。那由多さんは今あたしに……えーっと確か…百合?って言うんだっけ?百合ではないのかと聞いてきたのだ……
そこであたしは那由多さんがあたしから距離をとった理由がわかってしまった。
「ち、違います!そんなんじゃありません!」
う、ううぅ……とんだ誤解をされてしまった……せっかく仲良くなれると思っていたのに……あ、友達的な意味でね!
それからあたしと那由多さんは少々ぎこちのない雰囲気で学校へと向かっていった。
「かなでーおはよー」
「あ、おはよ。麻那」
教室に入ると1番に麻那──星井麻那に挨拶された。
麻那は高校に入ってから仲良くしている友達だ。席が隣同士て、麻那も最近ここら辺に越してきたばかりで友達がいなかったため自然と話すようになったのだ。見た目はあたしと同じぐらいの身長、髪はショートで天然のパーマがかかっているおっとりした感じの女の子。私と同じ将棋部に所属しているまぁ、まだ部活自体はできてないんだけどね。
ちなみに凄く頭がいい。入学式の演説も本来なら麻那がやるはずだったのだが体調不良のためあたしが代わりにやったりもした。
「ところでかなでちゃん」
「ん?どしたの」
「今日お家にあそびにいってもいーい?」
「いい……けど、なんで?」
「かなでのお兄さんを見てみたくって」
麻那にはあの人のことを色々と相談している。麻那にも兄がいるので参考にさせてもらおうとあたしから色々と聞いたのだ。
でも麻那をあの人と合わせるのは少し……いやかなり危険だ。麻那とは付き合いこそ浅いがわかったことがいくつかある。その1つがこの子……天然なのだ……そのためあの人にあたしが麻那に相談していた内容を話してしまう可能性がある。大いにある。
でも相談をしておいて会わないでとも言いずらい……
「会うのはいいんだけど……相談していたことは内緒ね?」
「だーいじょうぶだってー」
正直すごく不安なんですけど……
そんなこんなで1日があっという間に終わっていく。なれない環境というのは時間が経つのが本当に早い。中学三年生の時なんかは学校にいる時間を恐ろしく長く感じたものだ……
先程担任の先生から聞かされた話だと将棋部設立については次の職員会議──つまり来週の月曜日にわかるのだそうだ。明日明後日はせっかくの休日だと言うのに部活ができないのは少し悲しい……
ということであたしと麻那は朱石家へと向かった。
こっちへと越してきた時には学校から家への帰り道が少しわかりにくかったが今ではなんの問題もなし。
「そう言えば麻那。うちからの帰り道わかる?」
「大丈夫じゃないかな。道は大体覚えれてるしー」
「そうなの?」
「うんー、この町の地図ぐらいだったらほぼ覚えたかなー」
えぇ!?それはいくらなんでも凄すぎない!?あたしまだよく使う道をやっと覚えられたぐらいなのに!?頭のいいやつはズルい……
あたしなんて部屋にこの町の地図を貼って毎日覚えようと努力しているのに……流石にあいつが部屋に入ってきた時には外したけどね。だって恥ずかしいし。
あたし達は最寄りのコンビニで少しお菓子を買ってから家へと向かった。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
するとリビングのドアが開かれあいつが出てきた。
「おかえりー…──えっと…かなでのお友達?」
「はじめましてー星井麻那って言います。かなでちゃんとは仲良くさせてもらってまーす」
「はじめまして。朱石朱羅です。いつもうちの妹がお世話になってます」
朱石朱羅、あたしの実の兄だ。割と整った顔立ちに平均ぐらいの身長に体型。the普通って感じの人。
「あたしと麻那はあたしの部屋に行くから。あんたは近くに来ないでよね」
「……ああ、わかった」
一瞬困ったような表情をしたがすぐに優しい笑顔で答えてきた。??昨日まではあたしが少しキツく当たると不満そうな顔をしていたのに……
「いい人そうだったじゃん」
部屋に着くなり麻那がそんなことを言い始めた。たぶんあいつのことだろう。
「それはもう知ってるって……」
「じゃあかなではなんであんな態度とってたのー?」
「それは……なんとなく……」
「お兄さんも可愛そーに……それに…いっつもあんたって呼んでるの?」
「そう……だけど?」
「呼び方……変えよ?」
「……いやだ…」
「なんでー?」
「恥ずかしいし……」
「かなで可愛い……ふふ」
「笑うなー!かなでは真剣に考えてるの!」
あっ……しまった……つい昔の癖が…
あたしは昔、一人称が“あたし“ではなく“かなで“と自分の名前だった。中学生の後半あたりから一人称は変えていたのだが……つい感情さ的になった時などには一人称が“かなで“になってしまうのだ……
チラッと麻那の方を見ると面白いもの見っけ。みたいな顔をしていた……なんでそんな楽しそうなんだよ!あたしは結構困ってるんだからな!
「そう言えば麻那。あたしからも相談があるんだけど」
あたしはいじられる前に話題転換という秘技を使ってこの場を脱した。まぁこの後それについていじられるのだが───
私は男なので女子目線で書くのは慣れないですね……
読みずらかったらすいません