2年生になってから4回目の登校日。俺はいつもと同じように家を出た。昨日那由多からメールで今日はかなでと登校すると聞いていたため、今日俺はぼっち登校だ。
「まぁいつもの事だけどね……」
そうしてとぼとぼと学校へと向かい教室の扉を開いた。
「ちょっ!朱羅!話!あるんだけど!」
すると既に教室にいた那由多からものすごい剣幕で言い寄られた。ついでにクラスの男子も物凄い剣幕で俺のことを睨んできた……この状況に慣れつつある自分が嫌になりそう……
「んで?今度はなんすか?」
「その……かなでちゃんの事なんだけど…」
かなでのこと…?今日の登校中に何かあったのだろうか──?
「もしかしたらかなでちゃん────百合……なのかも……」
……ん?よく聞こえなかったんだけど…特に百合ってところが聞こえなかった。って聞こえてるじゃねぇか!
「なんで、だ?はっ!もしかしてなんかされたのか!?」
那由多は背も女子にしては大きなほうだし美人だ、女子の理想像みたいなものだってクラスの女子が言っていた……
かなではそんな那由多に昨日結構懐いていたわけだし……え?マジ?マジで百合なの?
「いや!?違う違う違う!」
あ、なんだ。違うのか……じゃあなんで百合なんて言い始めたんだろ…
「その……かなでちゃんがね?男の人が苦手だって……」
あぁ……その事ね?それなら昨日物置でかなでから聞いている事だ。前にいた家の兄に虐めを受け、そのせいで男の人──特に年上の男を苦手としている。でもこの話でかなでを百合だと勘違いするとは……那由多って意外と想像力豊か?
「それでね、今すっごく仲のいい麻那ちゃんって子がいるんだって……だから、そのかなでちゃんに聞いてみてくれない?」
「聞くって…俺が?お前が聞いた方が正直に話すだろ」
「女の子には話せなくてもお兄ちゃんになら話せることもあると思うんだ」
「だからってな……そもそもあいつは俺のことを兄とは思っていな──っていないし……」
自分の要件だけ言ってとっとと教室に戻りやがったな…那由多のやつ……
それから俺はかなで百合説を否定しきることが出来ず……気づいたら家に帰っていた……いや、悩みすぎだろう、俺。
「はぁ……ただいまー……」
言ってから思ったが今日は直帰したため今家には誰にもいないんだったな。玄関に靴も置いてないし。
「…暇だし、久しぶりにラノベでも読むか。」
俺は自室からラノベを3冊ほど持ってリビングへと降りた。
そうして30分ほど経ってからだろうか、玄関から鍵を開ける音が聞こえた。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
かなでと………もう1人、知らない女の子の声だ。
えーっともしかして……那由多が朝言ってた、確か麻那?だったか?……なんか嫌な予感がする…?
「おかえりー──えーっとかなでのお友達?」
「はじめましてー星井麻那って言います。かなでちゃんとは仲良くさせてもらってまーす」
身長がかなでと同じくらいで、かなり小柄な子だ。雰囲気が柔らかい感じでゆるほわ系?って感じの子だ。
「はじめまして。朱石朱羅です。いつもうちの妹がお世話になってます」
「あたしと麻那はあたしの部屋に行くから。あんたは近くに来ないでよね」
それは………もしかしてそういうことですか?いやいや!そういうことってなんだよ!
「……ああ、わかった」
かなでが少し不思議そうな顔をしていたがすぐに麻那を連れて階段を上っていった。
……俺は携帯を取り出し那由多にメールする。
『かなでの友達が家に来たんだど……どうしよ』
いつも通りすぐに返信が来るだろう。そう思い携帯をポケットにしまわずに見たが……
「遅い……」
30分たっても返信が来ない……普通に考えればどうってことのない時間だが那由多の場合は例外と言っていいだろう……
「もしかしてメールの内容を見てショックで倒れたとか…?」
有り得なくもない話だった。那由多はかなでのことを実の妹のように可愛がっていた…それに続いてかなで百合疑惑とこのメールだ…
那由多の家まで行って安否を確かめるべきかどうかを真剣に考えていると──
「あ、兄貴……ちょっといい…?」
控えめなかなでの声が聞こえてきた……んん!?
今…なんて言った!?兄貴!?兄貴って言ったよな!?
いや、今のは幻聴か。うん、そーだよな。かなでが俺のことをあんたじゃなくて兄貴って呼ぶわけが──そう思ってリビングの入口を見るとそこにはかなでが立っていた。しかも以前俺があげたプレゼントの髪留めを付けて。
「か…なで…?どうしたんだ?その呼び方……それに髪留め……」
今更な話だが、俺が誰かにあげた初プレゼントはかなでにあげた髪留めだ。かなではそれを昨日今日と付けてくれていなくて内心かなりショックだったりもした。
「いや…その、色々あって…。髪留めは…貰ったものだしちゃんと使わなくちゃ失礼だな…って…」
恥ずかしいのか身を捩りながら話すかなで。
………何この生き物!可愛すぎだろう!
「そ、そか…ありがとな…」
「ううん…そんな、こっちこそありがと」
……なんとも言えない沈黙が続いた。それこそ体感的には3時間ほど…
「兄貴、ありがとね!いつもあたしなんかに優しくしてくれて!」
そう言ってかなでは顔を真っ赤にさせながら部屋を出ていった。階段を上っていく音が聞こえたため自分の部屋へと戻ったのだろう。
?…ってか今麻那が来てるんだよな?なんで俺にお礼なん会いに来たんだ……?罰ゲーム?じゃないか、かなではそういうことはしなさそうだ……
ってことは今の本音?ってかデレ?デレですか?
めぉぉおお……と悶えていると玄関の方から麻那の声が聞こえた。
「おじゃましましたー」
随分早い帰宅だな……そう思って壁にかけてある時計に目をやると……もう既に晩御飯を食べ始めているような時間になっていた。
つまりかなでがリビングに来てから……2時間が経過していた……え?嘘、俺そんなに長い時間悶えてたの?……キモいな……うん、我ながらきもいぞそれは……
「……あんた、なにしてんの…」
麻那を見送ったかなでがリビングに入ってきてからそんなことを言った。なにって……手足をちょっと気持ち悪い感じに絡めているだけだよ?
「あ、うん……えっと、呼び方……」
かなでがあんた呼びに戻っていた……いや、もしかしたらさっきのは夢だったのかもしれない……もし本当に夢だったのなら俺病気だな、完全に……
「キモッ……」
そう言ってかなではテレビを見始めた。ってかキモいわないだろ、そう言おうとして今まで床に送り続けていた視線をかなでに向けた。そこには”髪留めをしたかなで”がいた。
…………俺はそのまんまの体勢で固まってしまい気がついたら良い子はおねんねしている時間になっていた…………