第9話との2部編成となってます
次の日俺は寝起き特有の心地良さを存分に堪能してからベットから身体を起こした。
重たい瞼を頑張って開き、壁にかかっている時計に目をやる。
「………やべぇ!?12時じゃねぇか!」
新学期になって日も浅いというのに完全に遅刻だ!
やばいやばい!先生にこっぴどく怒られっちまうぞ!
そう思い、俺はベットから飛び降りパジャマを脱ぎながら制服を着るという、出来ないことをやってしまったせいで余計に着替えに時間をかけてしまう。
いつもの倍近い時間をかけて着替えてから俺は、階段を転げ落ちるように降りていく。もちろん優雅に朝ごはんを食べている時間も無いためそのまま玄関へと直行し靴を履いた。
そしてそこで1つの違和感を覚える。玄関に置かれている靴が多いいのだ、いつもの朝より。
そしてさらにもう1ついつもと違う事がある。リビングから声がするのだ。テレビから発せられる声ではなく、生の人の声が……
「…あんた、何してんの?」
ちょうどそこに、ちっちゃな顔から生えた形のいい眉を寄せた、かなでがリビングの扉を開いてこちらを覗いてきた。
「なんで制服なんて着て──」
言葉の途中でなにかに気づき腹を抱えて笑だしたかなで。「え…なにそれ…現実でそんなことする人…いる…?」とか言ってやがる。
そこでようやく気がついた。今日が土曜日だということを……!は、恥ずかしい……!
「今日土曜日だよ?」
だから知ってるっての!今思い出したってだけで!
「い、いや…違ぇんだよ!」
「なにが?」
面白いものみーっけって感じの笑顔をして廊下に出てきて聞いてくるかなで。
「こ、これから……部活…そう、部活に行くんだよ!」
「じゃあなんでそんなに慌ててたの?」
「ね、寝坊して……遅刻しそうだったから」
「……へぇ…そうなんだ」
よし!なんとか誤魔化せそうだぞ。
「そ、そうなんだよ。じゃあ、いってきま──」
「部活に入ってないのに部活にいくんだー」
ぐふっ!そ、そうだった……かなでは俺が部活に入ってないこと知ってるんだった……
「えぇっと……あ!い、今のは冗談で、これから那由多の家に遊びに行くんだよ!」
「わざわざ制服で?」
「そ、そう。制服で……制服デート的な?」
おぉ、俺結構すごくないか?寝起きの頭でここまでそれっぽい感じの嘘をつけるなんて。
「変わったことするんだね……」
「ま、まぁなぁー…」
「でも、那由多さんうちにいるよ?」
ぐはぁっ!!1度ならずとも2度までも嘘を看破されてしまった……
やはり寝起きの頭では起ききった頭には勝てないというのか……
そうして、項垂れている俺にかなではしれっといいやがった。
「まぁ嘘だけど」
「嘘なのかよ!」
もう耐えられない……と言った感じに再びお腹を抱えて笑いだすかなで。ちくしょう……妹に弄ばれた……!
だがしかし、このまま妹に弄ばれたままで良いのか?兄貴として。いや、よくない!
という考えと同時に俺は最高の反撃材料を見つける。よし……寝起きの頭で勝ってやろうじゃねぇか!起ききった頭に!
「おいおいかなで……兄貴をいじるのは良くないぞ」
ぴくっ、さっきまで「何この人うける、今時代休日と平日間違えるとかアニメでもないから……www」って感じに笑っていたかなでが、動かなくなる。
「聞こえなかったのか?兄貴をいじるのは良くないぞ。あれ?今日は俺があげた髪留めは付けてくれていないのか?」
兄貴や、髪飾りといった、ワードを強調してかなでに言うと。
「う、うるさいうるさいうるさい!」
ボボボボボボボボとアリア並の急速赤面術を見せるかなで。
「き、昨日のあれは忘れなさい!」
忘れなきゃ風穴!と言った感じに睨みつけてくるかなで。何こいつリアルアリアなの?
そう言ってリビングへと戻っていってしまったかなで。
ある程度かなでに仕返しができた俺はとぼとぼと制服から私服に着替えるために階段をのぼって自室へと向かった。
にしてもさっきのかなで、アリアにそっくりだったな……髪型も短いけれどもツインテールだし…セリフも釘宮さんの代名詞といってもいい、「うるさいうるさいうるさい」だったし。
はっ!やばい!そんなことを考えていたら釘宮病が再発してk………くぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
と、きもい……いや、至極真っ当なことを考えながら自室の扉を開き「ゼロの使い魔」でも見直そうかな、と考えていると携帯が振動した。
「ん?那由多から……動画か?」
ふと、那由多の部屋へと視線を向けると、めっちゃニヤニヤしながらこっちを見ていた。ベランダから。
嫌な予感がしながらも動画を見ると、それは──
「俺の着替え動画じゃねえか!しかもさっきの!」
ベランダへと飛び出て那由多に叫んだ。近所の皆様すみません……
「最高に面白かったよ、さっきの朱羅」
「うるせぇ!この覗き魔」
「覗き魔とは心外だなぁー」
「お前のせいでもうお嫁……じゃなくて、お婿に行けねぇじゃねぇか!」
「じゃあうちにおいでよ」
「誰が覗き魔と結婚するか!」
「そ、そんな……結婚しようだなんて……急すぎるよ…あ、あなた」
「誰もそんなこと言ってねぇー!」
つ、疲れた……朝っぱらから、いやもう昼だけどさ、まぁとにかく寝起きに叫びすぎた。喉が痛い。それになんで寝起きに連続で2人にからかわれなきゃならんのだ……
もう那由多の相手をするのも面倒になってしまった俺はベランダから部屋に戻った。那由多の「ちょ、まてよー」といったからかうようなセリフを無視して。ついでにカーテンも閉めて那由多に覗かれないようにしておく。
「ハァ……疲れた……」
そして現在俺はヘッドホンで釘宮理恵さんによる「恋愛サーキュレーション」を聞いて心を癒している……結局釘宮病は再発してしまったのでした。
「……にしても、そもそも寝坊した理由は昨日のかなでのせいなんだよな」
昨日、かなではかなでの友達の麻那とうちに来て遊んでいる時に俺を兄貴と呼んだり、ありがとうって言ってきたり、俺がプレゼントした髪留めをしたりと普段のかなでからは考えられないような行為を俺にしてきたのだ。
そのせいでろくに飯も食えず、眠れずで寝坊してしまったのだ。いや、重傷すぎだろ……
でも結局何だったんだろうな……あれは。
着替え終わった俺は朝食、いや昼食?を食べるためにリビングへと向かった。
「おはよう。お母さんお昼ご飯なに──」
「あ、やっと降りてきた」
「あら、朱羅。おはよう。ご飯はスパゲッティよ」
「お、やった。あ、お父さんおはよ」
珍しく今週は土曜日も休みだったらしくリビングでくつろいでいるお父さんにも挨拶しておく。
「おはよ。寝すぎじゃねぇのか?朱羅」
「いや、5時間ぐらいしか寝てない」
たしか寝た時間は7時だったはずだ。かなでのせいで。いや、だから重傷すぎだろ……
そして俺は食卓テーブルについた。
「「「「「いただきまーす」」」」」
5人で挨拶をし、スパゲッティを食べる。そう……5人で。
「……なんで那由多がいる?」
ついさっきまで自分の部屋にいたはずの覗き魔さんが当然のように朱石家の食卓を囲んでいた。
「………」
「おい、無視すんなよ」
「さっきまで無視してたくせに」
「幻聴かと思ってたんだよ。てか思いたかったんだよ……」
どうせさっきのことでからかいに来たんだろ?俺が途中でカーテン閉めたからからかい足りなかったとかそんなところだろ?
「幻聴って……あぁ、まだ頭が寝ぼけてるのかなぁ?」
ほらやっぱり。
「ってか、家隣なんだから昼飯ぐらい自分の家で食ってこいよ」
「パパもママも出掛けてて自分で作らなくちゃいけなくて面倒だったんだもん」
「……お前、元料理部だろうが、めんどくさがるなよ」
「那由多さん料理部だったんですか!」
と、今まで黙っていたかなでがおっきなお目目をキラッキラさせてテーブルから身を乗り出しながら那由多に尊敬の眼差しを向けている。
「う、うん……そうだよ」
当の那由多は少し面白い顔をしていた。なんというか、若干引きながらも「何この子可愛い!」って思ってる顔だな。
那由ラー(那由多ファンクラブ会員の通称)の皆様がこれを見たら萌え死ぬかもしれないな。そしてこの顔を俺の家でしていたことがばれたら俺が那由ラーに殺されるな。
「そう言えば中学の時、調理実習の時那由多がみんなの期待値上げるだけ上げて大失敗したって話本当なのか?」
男子には「美少女の手料理」的な意味で。
女子には「理想の女子」的な意味で。
「は、はぁ!?な、なんで朱羅がそれ知ってるのよ!」
この慌てよう……今朝の仕返しがてきそうだな…
「へぇ、本当だったのか。あとさ、俺ってお前の手料理食べたことないんだけどさ───」
「はい!この話、終了!早く食べなきゃ麺が伸びちゃうよ!」
そう思ったが即話題変換されてしまった。
「あの……那由多さん?スパゲッティは伸びませんよ……?」
しかし、盛大に墓穴を掘る那由多。
「え、えと……そ、そう!麺が冷えちゃうよ!だから早く食べなきゃ!ね!」
「ひっ……」
こ、怖ぇ……那由多が今までに見たことないほどに怖ぇ……かなでが思わず悲鳴あげるぐらいには怖ぇ…
はぁ……じゃあない、今は朝の仕返しをするのはやめておくか。
俺は諦めて大人しくスパゲッティを食べることにした。
かなでと那由多は、かなでは那由多の剣幕によって半泣き状態。それに必死になって謝っている那由多。おいおい2人共、麺が伸びちゃう……もとい、麺が冷めちゃうぞ。まぁ元々スパゲッティは暖かい食べ物でもない訳だが。
俺はスパゲッティをみんなより一足先に食べ終え食器をさげ、黙々とそのちっちゃなお口にスパゲッティを運び続けるかなでに話しかけた。
「かなで、今日って暇か?」
「……あんなには関係ないでしょ」
「関係あるから聞いてるんですけど……」
「詰将棋するか勉強するかのどっちかよ」
……意外とすんなり教えてくれたな……朱羅驚きですぅ!それにお前勉強熱心なのな。なのに成績はあまりよろしくない……朱羅不思議に思いますぅ!
「そうか、じゃあ後で一局指してやるからお菓子作りやろうぜ」
「「「……は?」」」
かなでとお父さんとお母さんの声が完璧にハモった。さすがは親子。
それにしてもお父さんもお母さんも息子に対してその反応はひどくない?泣くよ?俺。
「…………なんで」
かなでが説明して欲しそうにこちらを見ている。厳密に言えばさっさと説明しろやって感じに睨みつけている。体は小さいくせに威圧感は大きいなうちの妹様は。
まぁ、理由は説明出来ないからその視線は無視させてもらうけどね。
「那由多もどうだ?お菓子作り」
「いいわよ」
「え!那由多さんやるんですか!じゃあ、あたしもやる」
お前どんだけ那由多のこと好きなんだよ……昨日のかなで百合説また浮上してきたぞ……
って、あれ?那由多今やるって言った?
と、俺が困惑している最中に
「じゃあ、何作るー?」
「クッキーがいいです!」
「クッキー好きなの?」
「はい、大好きです」
なんて言う会話が繰り広げられていたが頭には入ってこなかった。