仮面ライダーW 『Case of Chaotic City』 作:津田 謡繭
◇
「報告のあった案件のうち、二つはそう緊急性が高いというわけでもない。まあ、そうは言っても非常事態には変わりないんだがな」
おかわりしたコーヒーをすすりながら、スティーブンが報告書を読んでいく。
「まず、最近動きが活発になってきたコットドロ・ファミリアだが、どうもガルガンビーノ一家を相手に抗争を始めるつもりらしい」
「ガルガンビーノって、たしかクローン幻獣の闘技場やってる巨大地下マフィアでしたよね?」
首をかしげつつ、レオ。
それにザップが答える。
「おう。ヘルサレムズ・ロットでもそこそこデカい組織だぜ。えらく思い切りやがったな、あのカイワレダイコン共。んなとこに喧嘩売っても揉み潰されるだけじゃねえすか?」
「普通に考えればな。当然、なんらかの隠し玉を用意してるんだろう。いずれにせよ、大きな動きがあれば我々も動かざるをえない。とりあえず、今のところはツェッドに監視をさせてる状況だ」
「うははは! そりゃピッタリだ。アイツのあの
「またザップさんはそういうことを……」
「んだよ、事実じゃねーか」
「あれ? というかそもそも、なんでマフィア同士の勢力争いにわざわざライブラが動くんですか。言い方はアレですけど、抗争なんてここじゃある意味BGMみたいなもんじゃないすか」
「身も蓋もない言い方するなよ少年。まあ正直、俺もゴロツキ共が勝手やって共倒れになるのは知ったこっちゃないがな。地下コロシアムが襲撃された場合のことを考えるとただ見てるわけにもいかないだろう。疑似生体とはいえ神話級の幻獣が飼われてるんだ。地上に逃げ出せば旧ウィリアムズバーグの半分はさら地になるぞ」
「ったくメンドクセエ。どうしてマフィアってな、こう喧嘩っ早い連中が多いのかねェ」
「いやいや喧嘩っ早さで言ったらマフィアどころか全人類足し合わせてもザップさんの足元にも及びませんって」
「んだとレオてめコラなめたこと言ってっと即死デストロイだぞコラ」
「うわすげえ反論がそのまま証明になってる。一秒とかからずにQEDなんですケド……って、おおおいウソだろマジかこの人!?」
「座れ座れザップ。言い負かされて悔しいからっていちいち刃身を出すんじゃない。次だが、あー、パンドラム
「でええウッソでしょ!? ありゃ第六深度の超高度術式防壁じゃねえっすか!」
「だから緊急案件なんだろ。なんでも極小サイズの隕石らしき何かが結界と装甲壁を突き破って侵入。そのまま最深下層極秘要塞までノンストップで貫通したらしい」
「ハ、ハマーさん無事だったんですかね?」
「バッカ野郎。あいつ
「ああ、デルドロとハマーは全くの無傷だ。もっとも、アリス獄長の機嫌は最悪だがね。まあ無理もない。結界が稼働してから2年半、初めてその鉄壁が破られたわけだからな。こっちには落下物の解析のためにパトリックとニーカ、それと護衛としてK・Kを行かせてる。とまあそういう感じで。この二件は今のところ、厳戒態勢ながらもとりあえずは様子見だ」
ミーティングが始まってからここまで。矢継ぎ早な会話はスティーブンとザップ、そしてレオの三人だけで行われていた。
翔太郎とフィリップは黙って会話を追うだけだ。事情をよく知らないで口を挟めば邪魔になるだけだとわかっている。
とりあえず知らない単語はそういうものがあるとだけ認識し、語感から意味を推測。固有名詞についてもそういう人物(もしくは組織)がいるとだけ理解して状況の把握に努めていた。
クラウスはというと、こちらもデスクで手を組んだままじっと会話を聞いているだけだった。
表情がまじめなせいでさらに顔面の厳つさを増したクラウスが、大きな背中を猫のように丸めて話に耳を傾けている様子には、なんというか独特のシュールさが漂っている。
組織のリーダーでありながらクラウスがあまり発言しないのは、あらかじめ大まかな打ち合わせをしたうえで、作戦の立案や細かな指揮を副官ポジションのスティーブンに任せているがゆえだろう。
そういえば、とフィリップはいつか翔太郎が言っていたことを思い出す。
ボスの仕事というのは、士気を高めることと責任を取ることだそうだ。これができていれば、有能な部下が勝手についてきて組織はちゃんと回るらしい。
なるほどその通りかもしれない。クラウスとスティーブンを見ていると確かに、組織としてはひとつの理想的な構成だと感じる。
おやっさんの受け売りだけどな、と翔太郎は言っていたが、さすが鳴海荘吉。含蓄ある言葉である。
一通り話をし終えたスティーブンは軽く鼻を鳴らすと、今からが本題だ、という顔で一冊のファイルを開きテーブルに置いた。
「で、取り急ぎ最優先で片づけなきゃいけないのがコイツだ」
ザップ、レオ、翔太郎、フィリップが一斉にファイルを覗き込む。すると四人のうちザップの顔だけがあからさまな苦い表情に変わった。
「げえ……ツェバイバ爆卵蟲の産卵っすか。よりによってなんでこっち側で……」
「どこかのバカが
「あのぅ、質問イイですかね」
レオが手をあげる。
「名前でだいたい察しはつくんですけど……卵が爆発するんですかソレ?」
ちょうどフィリップもそれを聞こうと思っていたところだった。
隣の顔を見るに、翔太郎も同様に気になっていたようだ。
「お前カマキリの卵見たことあるよな?」
ザップの言葉に、フィリップはあの卵がぎっしり詰まったモコモコを思い浮かべた。
おそらく同じものを想像しつつ、レオがうなずく。
「ええ、ありますけど」
「あれの直径50フィートぐらいのやつが、花火みてえにエンパイアステートビルと同じ高さまで打ちあがって爆発すんだよ。で、爆発と同時に飛び散った幼虫どもが周辺の生物を片っ端から食い散らかしながら爆速で成長していくっつうメーワク極まりない虫だ」
「うえぇぇ……なんか前にも似たようなの退治しませんでした、僕ら?」
「堕落王の合成魔獣だろ。寿命が長い分、ヘタすりゃあれより厄介だぞ」
うんざりという顔のザップとレオ。
隣では翔太郎が頭を抱えるようにしてため息をついている。無理もない。話を聞く限り、この街では燃えるゴミの日と同じ頻度で世界の危機が勃発しているらしいのだ。
この街を守ると意気込んだ矢先にそんなめちゃくちゃな話を聞かされれば、いかに翔太郎といえどもため息ぐらい出るだろう。
とはいえ、どんなに頭を抱えようと、ため息に埋もれようと、決して折れはしないのが翔太郎であるのだが。フィリップもその点について彼への信頼は揺るがない。
そんな相棒を気にかけつつも、フィリップはその奇抜な虫の生態にも思いをはせていた。むろん、ただ興味をひかれてというだけでもなく、その被害については深刻に考えながら。
50フィートというと約15m。なかなかの大きさだ。卵がそれなら当然、それを産む成虫も相応にでかいと推測できる。
嫌な話だが、サイズ的に人間などちょうどいいエサではないだろうか。
「逃げ出した成虫の行方は現在、人狼局と共同で捜索中だ。街中に幼虫がばらまかれれば間違いなく被害は万単位。なんとしても産卵を食い止めるぞ」
スティーブンの言葉に皆がまじめな表情でうなずいた。
その瞬間だった。
何か硬いもの同士をぶつけるガゴオンという音と、「ぴげっ!」という悲鳴がオフィス内に響いた。
何事か、と音のした方向に目をやり、翔太郎がうわずった声をあげる。
「な、なにやってんだザップ!?」
視線の先では、ザップがソファに座ったまま体をくの字に折り曲げテーブルに突っ伏していた。
美しい天然石のテーブルにみるみる真っ赤な模様が広がっていく。
「血が出てるじゃないか……いったい何が気に入らなくて、そんなテーブルを破壊するほどの勢いで頭を天板に叩きつけたりしたんだいザップ……?」
おそるおそるたずねるフィリップ。
「ち……ちが……こんの……いぬ……」
頭をテーブルにめり込ませたまま、ザップはぷるぷると震える手で自分の頭上を指さす。
と、突然その指がペキッと逆方向に折れ曲がった。
「おぎょわああああ!!」
再び悲鳴をあげるザップ。
その悲鳴にかぶせるようにして。
「その成虫の産卵場所を特定しました」
虚空から。正確に言えばザップの頭の上から。凛とした声が響いた。
そしてそれと同時に黒髪の美女が姿を現した。比喩表現でなく、本当に何もなかった空間から溶け出るように
ぽかんと口を開けたまま、いきなり現れた謎の美女を見つめる翔太郎とフィリップ。
ちなみに現れたのはその女性だけではなく、モアイ像を三面阿修羅にしたような謎の石像も一緒にザップの頭の上に出現していた。
どうやらザップは頭に突如のせられたこの石像(と女性)に押しつぶされる形でテーブルに頭突きをかましたらしい。
「詳細はこっちに」
「ごくろう。チェイン」
でろでろと血を流し続けるザップをまったく気にする様子もなく、チェインと呼んだ女性からファイルを受け取り、平然と中身を読み始めるスティーブン。
「それで、こっちの二人は……?」
セミロングの黒髪をさらりと揺らしつつ、こちらに向けられた透き通った墨色の瞳。
その艶麗さに、フィリップは絶句した。
翔太郎はともかくとして、フィリップが女性に見惚れるのは珍しい。過去に親愛を感じて惹かれた女性はいたものの、基本的に彼は異性の容姿に対して無頓着である。
そんなフィリップですら、目の前の女性から目が離せなくなっていた。
水濡れたように輝く艶やかな髪。黒曜石のような深く涼しげな瞳。月夜のヨルガオを思わせるきめ細かな肌。飾り気のないスーツ越しにもはっきりとわかる、柔らかくも研ぎ澄まされたプロポーション。
等々、後から思い返せばいくらでも詩的な表現ができるのだが、この時フィリップが抱いた感想はとにかく「ものすごい美人」それだけであった。
後で聞いたところ、翔太郎も「どえらい美人」としか思えなかったそうだ。
言うまでもないが、この時点で二人はチェイン(の足の下の巨大な石像)の下でひしゃげているザップのことなどキレイに忘れている。
「紹介しよう。彼女はチェイン・
ファイルに目を通しているスティーブンに代わって、クラウスが立ち上がった。
「チェイン。翔太郎君とフィリップ君だ。しばらくの間、この二人にはライブラの仮メンバーとして我々の活動に協力してもらう」
仮メンバーとして、とは初耳だったが、その方がいろいろと融通が利くのだろう。クラウスの気遣いを受け入れつつ、フィリップはチェインに会釈をする。
「はじめましてチェインさ──」
「んっんん!」
と、翔太郎の咳払いがフィリップの言葉をさえぎった。
隣に目をやれば、翔太郎はいつのまにやらネクタイを整え、シャツのしわを伸ばし、帽子を押さえてモデルのようなポーズで立っていた。
ああまたか、とフィリップは心の中でため息をつく。
普段からことあるごとにハードボイルドを気取ってかっこつけている相棒だが、どうも相手が女性(それも美人)の時はそれが5割増しでひどくなる。
「はじめましてお嬢さん。左翔太郎だ。こっちは相棒のフィリップ。二人で私立探偵をやってる。もしも何か困ったことがあればなんでも俺達に言ってくれ。街を泣かせるどんな難事件でも、たちどころに解決してみせるぜ」
解決してみせるぜ、の部分でキメ顔をつくる翔太郎。
だが悲しいことにチェインの視線はとんでもなく冷ややかだ。
本当になんの興味もない、道端に吐き捨てられたガムにでも向けるような視線が、翔太郎のキメ顔に容赦なく注がれる。
「ああ、そう。よろしく」
そのそっけない返事すら、チェインのせめてもの恩情だったのかもしれないと思えた。
あまりに惨めな相棒の状況に心の底からいたたまれなくなったフィリップは、「神でも悪魔でもいいから誰かこの空気を変えてくれ」と祈る。
そんなフィリップの願いを叶えたのは──
「んんがあああああ!!」
ザップの絶叫と、石像が床に落ちる鈍い音だった。
むりやり上体を起こしたザップの頭上からチェインが軽やかにジャンプし、空中で一回転して音もたてずに着地する。
翔太郎とフィリップは「おお」と拍手をしかけたが、その前にザップの怒号が飛んだ。
「っんのクソ犬ぅぅう!! 毎っ度、毎っ度、てめえは俺を踏みつけながらじゃねえと入ってこれねえのかゴラアア!!」
額から血を噴き出しながら激昂しているザップに対し、チェインはまったく悪びれることなく涼しげな顔だ。
「キーキーわめくなって褐色モンキー。アンタの頭部なんて踏んで靴底の汚れを取るくらいしか使い道ないんだからさ」
「ふっざけんな雌犬!! 人を犬用玄関マットか何かだとでも思ってやがんのか!?」
「そんなわけないでしょ。心配しなくても、アンタのことを『喋るクソ』以上の存在として認識したことはこれまで一度たりともないって」
「ハアーー! 週5ペースで人の顔に靴跡つけといてウンコ呼ばわりたァおもしれ―じゃねえか! だったらテメエこれから道にウンコ落ちてたら欠かさず踏めよコラ! 絶対踏めよコラ!!」
「アンタ自分がウンコであること前提にケンカふっかけて恥ずかしくないわけ? ああ、恥なんて感情あったらとっくに自害してるか。全方位に生き恥まき散らしてる、粗暴、バカ、下半身脳、甲斐性なし、ギャンブル狂のダメ男ロイヤルストレートフラッシュだものね」
「んぬぬぬんんんぎいいいい!!」
反論できない罵詈雑言で滅多打ちにされたのがよほど悔しいのか、額どころか目からも血を噴きそうな勢いでザップが歯を食いしばる。
そんなザップを横目に見つつ、ギルベルトにコーヒーのおかわりを求めるレオ。そして視聴覚の情報を完全に遮断しているかのごとく騒ぎを完全に無視し、ファイルを読んでなにやら話し込んでいるクラウスとスティーブン。
そんなライブラの面々を見てみれば。どえらい美人と褐色のチンピラが互いを犬だ猿だと罵り合い、子供のように「ウンコ」を連発して言い争うこの珍妙な喧騒も、
「そんでなんなんだよあれは!?」
ザップが涙目で叫び、床に転がる阿修羅モアイ像を指さした。
「いきなり頭の上で
「逆になんで生きてんのか聞きたいんだけど。生命力と繁殖力だけは猿よりゴキブリに近いってことなの? せっかく苦労して頸椎ヤれそうなサイズの石像もらってきたってのに」
チェインが心の底から不服そうに口をとがらせる。
そしてその表情のまま、めちゃくちゃに振り回されるザップの腕をヒョヒョイとかわし、壁際の本棚の上にちょこんと飛び乗った。
「ちっくしょうぅうぅうぅ……! おぼえでやがれ……いづが絶対ぶぢおがじでやるがらなぁグゾ犬ううぅ!」
しくしくと涙を流しながら阿修羅モアイにすがりつくザップに若干の哀れみを感じつつ、フィリップは正面のレオにたずねた。
「こういうのも、やっぱりよくあることなのかい?」
「ええ、まあ。お恥ずかしながら」
「でも少しやりすぎじゃないだろうか。あんな重量を首にかけたら本当に死んでしまってもおかしくない」
「あー、なんというか、そのへんは……」
どう言えばいいのか、と言葉を探るレオ。
そこに翔太郎が割り込む。
「ま、これもある意味での信頼関係っていうことだろ。ことあるごとにザップがクラウスの旦那に襲い掛かってるってのも、多少はそういう意味を含めてんじゃねえか?」
「信頼関係?」
フィリップは首をかしげる。
「背後から殺す気で不意打ちを仕掛けたり、石像で首の骨を折ろうとすることも信頼関係のひとつとは……興味深いね」
「おいまてフィリップ、間違っても俺で試そうとすんじゃねえぞ。俺は石像で殴られてもただ単に大怪我するだけだからな? そういうことじゃなくてだな。互いが互いの丈夫さというか、強さを信頼してるからこそああいう無茶ができるってことだ」
「なるほど。本気で殺そうとしつつも、本気で殺そうとしても死にはしないだろうと信頼しているわけだね。ややこしいけれど面白い『信頼』だ」
「平たく言やあ、そういうことだろレオ?」
翔太郎の言葉に、レオは「そう言われればそうなんでしょうかね」と曖昧な返事をした。
ちなみに後からフィリップが聞いてみたところ、わざわざ答えを濁したのは本棚の上からこちらを見ているチェインが、「信頼」という言葉が出るたびにとんでもなく気持ちの悪そうな顔をしていたからだそうだ。
「というかお二人とも」
今度は逆にレオがたずねる。
「ザップさんやチェインさんの能力については聞かないんですね。初見だとっていうか見慣れてても、かなり摩訶不思議じゃないかと思うんですけど」
「ん、まあ、さすがになあ……」
「ここまでくると、ね」
翔太郎とフィリップは顔を見合わせ、ため息まじりに口を開く。
「「そういうことができる人なんだな、としか……」」
特に示し合わせたわけでもないのにキレイにハモッたその答えに、レオは思わず苦笑した。
◇
「いい知らせと悪い知らせがあるんだが、どっちから聞きたい?」
クラウスとの話し合いを終えたスティーブンが、ザップ、チェイン、レオ、そして翔太郎とフィリップに語りかける。
が、その場の全員が察していた。スティーブンの何かをあきらめたような疲れた笑顔が雄弁に語っているのだ。
間違いなく、悪い知らせの『悪さ』が尋常じゃない。
「じゃあいい知らせから行くか」
誰も何も言わないので、スティーブンは勝手に順番を選択する。
「逃げ出したツェバイバ爆卵蟲だがな。目撃情報から鑑みて、どうも特殊な種類だったらしい。クイーン種の中でも
朗報ではあるのだろうが、場の空気は沈んだままだ。
これに対する悪い知らせがなんなのか。聞きたくはないが聞かねばならない。
ザップに背中を小突かれて、おそるおそるレオが手をあげる。
「じゃあ、悪い知らせっていうのは……?」
実のところ、その答えは大方の予想通りではあったのだが。
「
全員がいっせいにため息をついた。
と、再びレオが手をあげる。
「具体的には、どのくらい……?」
「交戦中に一瞬でも気を抜けば冗談抜きで死にかねないレベルだ」
再びため息の合唱が場を包んだ。
と、三度レオの手があがった。
「別に自由に発言してもらって構わないんだが……」
「いえなんとなく」
「で、なんだレオ?」
「その戦い僕も行かなくちゃダメですかね?」
「おおーいおいおい! レオてめえ自分だけ逃げようったってそうはいかねーぞ! ったくトモダチ甲斐ってもんがないのかねーこの陰毛エキセントリックパーマヘッドには!」
ザップがレオをヘッドロックで締め上げつつ、わめく。
「いだだだだだだ! いやだってどう考えても僕足手まといじゃないっすか!」
特別な眼を持っていること以外は普通の、いや普通より若干ひ弱ですらあるレオにしてみれば、ごくごく当たり前の思考だろう。
だが残念なことに、スティーブンはその首を横に振った。
「悪いが、今回の作戦にはキミの眼が不可欠だ。写真で見てもらった通りこの虫には16本の脚があるが、そのすべてに個別の眼球と副脳が存在している。神々の義眼で視界だけでも奪ってもらわないと、とてもじゃないが手が足りないんだ」
後にレオはこの時を思い返し、申し訳なさそうなスティーブンの微笑みが殺人ピエロの笑みに見えた、と語っている。
ざまあみろ、とザップひとりがはしゃぐ中。再び冷え込んだ場の空気。
その時だった。
フィリップの中の五感のいずれでもない知覚が、ゾクリ、と見えない何かを捉えた。この空間に
反射的にあたりを見回す。が、何も変化はない。
気のせいだったのか、と気を抜きかけた時。
クラウスが無言で重い一歩を進み、スティーブンの前に出た。
やたらに強いという巨大な虫との決戦を前に、彼はどんな言葉を放つのだろうか。
その場の全員が、しん、とクラウスに注目していた。
そしてクラウスは、固く握った拳を前に掲げ、皆を激するために口を開いた。
「プァオオオーーーン。プオオ! パオオオオオオオーーーーン!!」
轟いたのは名言至言の類でなく、甲高い管楽器ような謎の音。
場の全員が目を真円まで見開いてクラウスを凝視した。
その視線に気づいたクラウスが顎に手をあて首をかしげる。
まさか自分の出した妙な音に気づいてないのか、とフィリップが考えた瞬間、嫌な予感がした。
そして。
クラウスを指さしたスティーブンが
「カアア……アア?」
とつぶやき。
それを見たザップが
「キー! ウキャッキキ!?」
と叫んだ瞬間、全員が状況を理解した。
自分以外の『言葉』がすべて、意思疎通不可能な動物の鳴き声のように、まったく意味不明に聞こえる──!!
「プァオオオオオーーン!?」
「カァアー! カアアア!?」
「ウッキャキキィーキー!?」
「ニャ、ミ、ミニャアー!?」
「ッチュウ!? チュー!?」
「ワウ! アオオォーン!?」
「キュイッ! キューゥ!?」
次々あがった混乱の声によって。
世界を守る組織の本部は、まるで動物園のような喧騒に満ちた。
セリフの量が半端ない笑
キャラクターに原作っぽく会話をさせるのは楽しいですけど難しいですね。
キャラ崩壊してたらごめんなさい!