仮面ライダーW 『Case of Chaotic City』 作:津田 謡繭
◇
世界で一番たこ焼きに詳しいのは何者であるか。
このなんともくだらない質問に対する人々の回答は様々だろう。
日本コナモン協会の会長。食文化を研究する大学教授。ひねくれ者はウィキペディアだと言い、自信のある者は自分だと答えるかもしれない。
だが、答えた本人達にもそれが正しいかどうかはわからない。
「──じゃないの?」
回答は常に疑問形である。
むしろそれが当然だ。普通の人間にとって、それは回答の正誤を確かめようのない問いなのだから。
ところが、この質問への左翔太郎の答えは実に明瞭だ。彼は当たり前という顔で、もしかするとため息も混ぜ込みつつ、こう答えるだろう。
「俺の相棒フィリップだ」
そしてそれは正答である。
世界で一番たこ焼きに詳しいのは間違いなく、翔太郎の相棒フィリップだ。
この誰もが認める変わり者の青年は、興味を持った事柄について気がすむまで調べ上げずにはいられない、という困った
特筆すべきは傾倒の度合い、その極端さだ。
「興味深い。ゾクゾクするねぇ」
そうつぶやいて、ひとたび何かに興味を持てば。寝食を忘れ、昼夜を問わず、他人の制止もお構いなしで。時に実践し、時に実見し、すべてを調べ上げるまで止まらない。
たこ焼きを例にするならば、その発祥から今日に至るまでの歴史はもちろん、地域ごとの形態の差、材料や調理法による味の変化。さらには最大のもの最小のもの、最高値のもの最安値のもの、それらを提供する店の名前まで。文字通り、すべてを調べ尽くす。
故に、フィリップは世界で一番たこ焼きに詳しい人間なのだ。
もちろん、その興味の矛先が向くのはたこ焼きに限った話でもなく。その対象は「富士山」だったり、「じゃんけん」だったり、「減量」だったり、「ストリートダンスのコンビネーション技」だったりと多種多様。
湧きあがる興味にまかせて、のべつまくなしに突っ走るその知識欲は、翔太郎に言わせればまるで知識の暴走特急だ。
ちなみに言うまでもないことだが、その暴走特急に一番振り回されているのはその翔太郎である。
これでも出会った頃に比べれば、数年の
さて。そんな困ったフィリップの性格だが、実のところここまでは長い長いただの前置だ。
いま重要なのはフィリップの知識欲そのものではない。それを満たす手段の方である。
普通の人が調べものをするならば、使用するのは本やインターネット検索だろう。
だが、フィリップは違う。ある意味では『本』や『検索』というのは正しいが、原理根本はまったくの別物だ。
フィリップは書店に並ぶ無数の本や、クリック一つで表示されるネットの検索結果などは当てにしない。
異なる主観からの一貫性に欠ける情報と、意図的に混入された
では、いかにしてフィリップはたこ焼きのすべてを知り得るのか。それも誤りのない正確な情報だけを。
それを可能にしているのは、フィリップの持つある特殊能力だ。
『
誕生から今この瞬間まで。地球は、あらゆる生物を、あらゆる器物を、あらゆる概念を、記憶として脈々と刻み続けてきた。
そんな地球の記憶そのものと直結し、そのデータベースを『本』という形で自由に閲覧できる能力。それが『
その記憶には一片の誤りもなく、またわずかの漏れもない。まさしく完璧な情報源である。
これだけ聞けば、それはすなわち全知の力。読んで字のごとく全てを知り得る神に届かんという能力だ。
だが、実際に使いこなすのはなかなか難しい。
なにせ蓄積された情報量はたっぷり46億年分。端から読んでいては調べたい項目にたどり着くのに人生が数千万回は必要だ。
故に、フィリップは『キーワード』を使って本を絞り込む。
膨大なデータベースにアクセスし、そこにキーワードを打ち込んで欲しい情報を探す。そう、これは『検索』なのだ。
翔太郎とフィリップは、この『
翔太郎が持ち前の洞察力と行動力、そして広い人脈と情報網から『キーワード』を見つけ出す。
そしてそれをもとに、フィリップが『
それが二人で一人の探偵の捜査スタイルであり、フィリップが
◇
『というわけで、今回も
オフィスに残ったのはレオ、ギルベルト、そして翔太郎とフィリップの四人。
フィリップの説明を受け、レオの頭に最初に浮かんだ感想は──
(いやいやいや……とんでもないチートなんじゃないか、ソレ?)
眼を除いては普通の青年であるレオだが、このなんでもありの魔境都市で決して少なくはない時を過ごしている。それも、その裏側で暗躍する秘密結社の一員として、だ。
特殊な眼を持っていることもあって、これまで数えきれないほどの超越的な、いわゆる
ライブラの面々も相当であるが、世界は広く、異界は深い。
レオ自身の持つ『神々の義眼』を筆頭に。
超技術を有する
人間を生きたまま液状化して別の人間の血液と入れ換える少女。
数時間で人類を超えるレベルまで進化した蚊。
超魔導アイテムの時計が人型になったと思しき時間を加速させる男。
そして本気のライブラ全員を相手に無双する不死身の種族。
とかく超常異能の数々は枚挙にいとまがない。
だが、そんな中でも『
適切なキーワードさえ見つければ、知りたいことがなんでもわかる脳内図書館?
(いやいやいや……マジでどんなチートだって……)
同じ内容の思考をもう一度。
(アカシックレコードって言うんだっけ? うーわ……これスティーブンさんが知ったら発狂しそうだな……)
どれだけ高い戦闘力を持っていても、やはり秘密結社の活動の生命線は情報だ。ライブラが、中でも主に番頭スティーブンが、精度の高い裏の情報を得るのにどれだけ苦心しているかは誰もが知っている。
レオは不眠不休の
そんな筆舌に尽くしがたい苦労をしてきたというのに。
人間を怪物に変える超高度術式合成麻薬の流出ルートも、万単位の犠牲者を出す震災召喚の詠唱ポイントも。その他、ライブラが総力を挙げてようやく尻尾の先端に手をかけたようなアレやコレや全て。
フィリップの『
(……あれ? でもそれってかなりヤバいんじゃないか?)
レオの横顔を冷や汗がつたった。
言うまでもなく、出回らない情報を簡単に得られるという能力は、その情報を出回らせたくない連中、つまり後ろめたいことをしている本人達にとっては非常に都合が悪い。
かなりの時間とそれなりの代償を支払って立てた計画も、水泡に帰すのは一瞬だ。それをみすみす許すほど呑気な連中ばかりではない。
さらに『
なにせここはヘルサレムズ・ロット。それなりの金さえ出せば、脳はもちろん、場合によっては魂の摘出まで医療の範疇だ。
情報の持つ力は恐ろしい。
レオがライブラの一員として役に立ているのも、そしてクラウス達から最大限の守護を受けているのも、『神々の義眼』という超高度の視覚情報収集器官を保持しているが故だ。
実際、義眼がらみで死にかけたことも一度や二度ではない。
眼でさえこれだ。それがもし、全知の脳だったら。
思わず身震いした。
ふと、隣で話を聞いているギルベルトが目に入る。
いつものように静かに、背筋を伸ばし執事然として立っている。だがレオの眼は、その包帯の下のわずかな動揺と危惧の感情を読み取った。
ギルベルトも同じ危険性に気づいている。
そしてもうひとつ。レオは確信し、ごくり、と唾を飲み込んだ。
(翔太郎さんとフィリップさんは……たぶんわかってない……)
いや、理解はしているのだろう。
聞けばこちらに来てそうそうに臓器強盗に出くわしたらしい。故におそらく、そういう危険があるということは理解している。
だが、そこには実感が伴っていない。
目の前に表情のない人外の顔が迫り、ナイフのような鋭い指でまぶたをこじ開けられる。あの悪寒を二人は知らない。
彼らの意識はまだ
『どうかしたのかい、レオ君?』
そう書いた紙を目の前に差し出されて、レオはハッと我に返った。
翔太郎とフィリップが心配そうな表情でレオを見ていた。
どうする? 伝えるべきか? その力の危うさを。
少し混乱した頭で考えるレオ。
そこに──
『レオナルドさんが呆然となさるのも無理はありませんな。いやはや、私にとってもずいぶんと突拍子もない話でしたから』
ギルベルトが流れるような達筆で
同時にその口元が素早く、そして静かに動いた。レオの眼でなければ読み取れないであろう、わずかな口の動きだけでのメッセージだ。
(ここで彼らに余計な恐怖感を与える必要はないでしょう。まだお伝えすることではありません。少なくとも、今のこの状況では)
そうですね、と心の中で同意し、レオは乾いた笑顔でペンを持った。
『すいません。話、進めてもらって大丈夫です』
嘘をついたり何かをごまかしたりするのは、正直、得意ではない。相手が探偵だというならなおさらだ。
だが、翔太郎とフィリップは特に不信感は持たなかったようだ。
それに安堵しつつ、レオはたずねる。
『それで、なんか僕にも手伝えることってあるんですかね?』
『もちろんあるとも。むしろ、ぼくも翔太郎もキミの眼が頼りだ』
真剣ではあるが、どこかいたずらっぽい笑顔でフィリップが微笑む。
『今のところ、敵のメモリについてわかっているキーワードは、動物の鳴き声、そして口。この二つぐらいだ。さすがにメモリの正体を絞り込むにはキーワードが足りない』
いつもは検索と並行してキーワードを増やしていくのだが、『
『とにかくなんでもいい。ドーパントを視て、ザップとの戦いを視て、気になったことをすべて教えてくれ』
そう言われて。レオは一つ気づいたことがあったのを思い出した。
『あのドーパント、体のあちこちに口が付いてたじゃないですか。で、最初はそっちに気を取られてわかんなかったんですけど、口以外のごちゃごちゃしたところって、たぶんアレ、ぜんぶ文字だったんですよね』
『文字?』
『ええ。アルファベットに、漢字もいくつか知ってるやつが。あと、たぶんですけどアラビア文字も。その細かい文字が寄り集まって、ドーパントの体を形成してるように見えたんです』
『なるほど。文字、か。うん、いいキーワードになりそうだ』
やや興奮気味に字を乱すフィリップ。
その様子を見て、レオは「あれ、この人ちょっとワクワクしてないか?」と妙に心配になる。
思わずそらした視線の先で、翔太郎と目が合った。
さすがは探偵の観察眼か、もしくはフィリップの性格を知り尽くしているからか。
翔太郎は「言いたいことはわかってる」という表情で、レオに向かって申し訳なさそうにうなずくのだった。
と、そんな翔太郎をよそに。さっきまで目を輝かせていたフィリップが、今度は何かに悩み始めた。
『どうかしました?』
『さっそく検索を始めたいところだが、ぼくの本がない』
『本……?』
フィリップによると、いつも『
『最悪、メモ帳みたいなものでもあればマシなんだが、何かないかな?』
『でしたら、ちょうど良いものがありますよ』
答えたのはギルベルトだ。
壁の本棚から厚みのある茶色い表紙の本を一冊もってくると、中身を開いて見せる。
『ご覧の通り、人間の可視領域外のインクで書かれておりまして。近々、レオナルドさんに読んでもらい写しを作ろうと思っていたんです。もしかすると、何か貴重な文献かもしれませんので』
なるほど。確かにレオの眼に映った文字は普通の眼には見えない類のものだった。一般人が見ても白紙の本にしか見えない。
もっとも、流しで読んでみた限り、内容は「季節の深淵魚を使ったお手軽レシピ集」だったのだが。まあ、それは今言うことでもないだろう。
『これはいい! ぼくが愛用していた本とそっくりだ』
異界の料理本を片手にペンを踊らせるフィリップは目に見えてご機嫌だ。
翔太郎がため息をついた。指をさしてフィリップの視線を時計へ誘導し、「早くしろよ」と無言でせかす。
いつのまにか5時をまわっていた。状況はかなり切迫している。
フィリップはこくん、とうなずくと本を開き、静かに目を閉じた。
そして、レオの眼に映ったのは。
フィリップの体が緑色の光に包まれ、幽体離脱のようにそのオーラが別の空間へと溶ける、不思議な光景だった。
◇
目を開けたフィリップがいたのは、白の中。
まっさらな白がどこまでも果てしなく続く、広大な空間だった。
「さあ、検索をはじめよう」
その言葉を発した瞬間、彼方から無数の本棚が現れた。風圧にフィリップの髪が揺れる。
一瞬で、白い空間は縦横に並ぶ無数の本棚で埋め尽くされた。
以前に一度だけ、本棚の数を数えてみようとしたことがあるが、14万と6225まで数えてやめてしまった。新しい概念や人間が次々と生まれる現代では、数えるより早く本棚が増えていくことに気づいたからである。
ひとつひとつの本棚には100冊ほどの本が隙間なく並んでいる。数えきれない本棚と、単純計算で100倍の本。
その無限のアーカイブから敵の情報を得るべく、フィリップは検索を開始した。
「知りたい項目は敵のメモリ。キーワードは『動物の鳴き声』、『口』……」
本棚の数が一気に減っていく。キーワードに関連する内容の本だけがその場に残り、他の本は再び彼方へと消えていく。
「そして『文字』だ」
減った本棚からまた本が消える。フィリップの前には30冊ほどの本が残った。
「ん、まだこれだけあるのか。もう一段くらい絞り込みたいとこだが……」
(だったらフィリップ、キーワードを追加だ)
翔太郎の声が響いた。
フィリップの意識が『
「何かひらめいたのかい?」
(ああ。あいつは戦いの最中でも、やけに『会話』にこだわってた。もしかしたら、メモリとなんか関係があるのかもしれねえ)
「うん、良い着眼点かもしれないね。追加キーワードは、『会話』だ」
さらに本が減った。
そして──
「ビンゴだ! 敵の能力がわかったぞ」
目の前に残った一冊をフィリップは手に取る。
表紙の文字は『language』。
「敵のメモリはランゲージ。言葉、言語の記憶を内包したメモリだ」
パラパラとページをめくり内容を読んでいく。
おそらく、レオ達にはフィリップがただ白紙のページをめくっているようにしか見えないだろう。だが、フィリップにはランゲージメモリに関する情報がしっかりと読めている。
「なるほど。これはなかなか興味深い能力のメモリだね」
(一人で納得してねえで説明しろよ!)
翔太郎の催促に、フィリップは「わかっている」と肩をすくめながら従った。
「ランゲージは相手の言語を別の言語へと変える力を持っている。みんなの言葉が動物の言葉になったのはその能力のせいだ。そしてもうひとつ──」
(ザップに使った妙な能力か)
「ああ。ランゲージの真の能力。それは
(ハァ!?)
翔太郎が素っ頓狂な声をあげた。同時に「アオン!?」という犬の声も聞こえた。相当に度肝を抜かれて声が出たらしい。
「太古から人間は『言葉には力が宿る』と考えていた。いわゆる、『
少し考えて、フィリップは翔太郎のとっつきやすそうな例を思いついた。
「そう、例えば、キミがランゲージドーパントの前で『俺はハードボイルドだ』と言ったとする。この時にドーパントが能力を使えば、『左翔太郎はハーフボイルド』という現実が『左翔太郎はハードボイルド』という風に改変され、キミは晴れて真のハードボイルドになる」
(なるほど、現実の方を言葉の通りに……って俺は元からハードボイルドだっつの!)
翔太郎の文句をさらりと受け流し、フィリップは続ける。
「ザップの口から出たあの煙のようなものが言霊だ。ドーパントはそれを利用し、因果律に干渉して事象の書き換えを行った。相手の発言に頼る不安定さはあるが、かなり強力なメモリだ」
(……こりゃ相当厄介だな)
現実の改変というトンデモ能力に、翔太郎の声色があからさまに曇った。
おそらくザップは「俺一人で相手してやる」、「逃がしてやる」などの発言をしたのだろう。それによってザップ以外は動けなくなり、ドーパントは血の拘束から逃げおおせたのだ。
「その際にザップが疲弊していたのは、現実の改変に発言者の体力がごっそりと使われるからだ。二度も受ければ過度の疲労で死んでもおかしくない。それが立てなくなる程度で済むあたり、さすがザップといったところだね」
ふと、ページをめくるフィリップの手が止まった。表情がかげり、首をかしげる。
「だが、おかしい。やはりランゲージには身体能力を過剰に強化する力はない。誰かが『このドーパントはとてつもなく強い』とでも言ったなら可能かもしれないが、ドーパントの反応を見るに、力を使ったのはザップ相手が初めてのようだったし……」
考え込むフィリップに翔太郎が声をかける。
(確かに気になるが、まあいったんそこは置いといてもいいんじゃねえか? あいつはザップとの戦いで深手を負ってる。今なら遅れはとらねえよ)
「だが……」
(敵の能力はわかったんだ。とりあえず今、優先なのは敵の正体を掴むことだろ。それに、どれだけ考えても出ねえ答えが意外なとこから見つかることもよくあるぜ。探偵には思考を切り替える臨機応変さがねえとな)
翔太郎の言葉にフッと笑みがこぼれた。
少々楽観的過ぎる気もするが確かに一理ある。
「わかったよ翔太郎。再検索だ。知りたい項目はメモリの使用者」
一度本を閉じ、再び無数の本棚を呼び戻す。
(こっちは簡単に見つかるだろ。なんせ自分で『オッド』って名乗ってるからな)
フィリップもそう思っていた。
しかし、予想に反して本はほとんど減らなかった。
少し考えてフィリップは原因に気づく。
「……そうか。ヤツが名乗った時、『みんなそう呼ぶ』と言っていた。『オッド』というのがあだ名や俗称なら、『
(あー……だったら、『チェイン・皇』、『恋』でどうだ? これは間違いねえだろ)
「やってみよう」
その二つを入れると、確かに大幅に減りはした。が、それでも並ぶ本棚は4つ。本の数は400冊近い。
「あの美貌だ。恋慕の感情を抱いているものは少なくないだろうね」
(おまけにこの街で奇妙じゃない奴の方が珍しい、か。なんかもう一個でも、でかいキーワードがあればなあ)
悩ましげな声から翔太郎がわしゃわしゃと頭をかいている様を想像しつつ、フィリップは軽いため息を吐いた。
「レオ君やギルベルトさんにも意見を聞いてみよう。もしかしたらキミの言う通り、意外な視点からの答えがあるかもしれない」
(だな)
静かに目を閉じて意識を体に戻す。
再び目を開けると、心配そうな顔でこちらを見つめるレオの顔があった。
『どうでした?』
『ああ、敵のメモリについてはわかったよ』
ランゲージメモリについてレオに説明をすると、おおむね予想通りの絶句が返ってきた。相手の発言に合わせて現実を改変するのが敵の能力だと聞けば、そうなるのも無理はない。
だが、意外に早くそれを受け入れて『居場所はわかりました?』と聞いてきたあたり、さすがはヘルサレムズ・ロットの住人である。
『それが、敵の正体には少々てこずっている』
フィリップは翔太郎との考察をそのまま伝えた。そしてなにか思ったことはないか、とたずねる。
『そう言われても……。オッドさん本人への印象はもう、メンタル面の凄さが衝撃すぎて』
口いっぱいに青汁を含んだような顔のレオ。
確かに戦闘になる直前の発言はいろいろと衝撃だった。
『チェインさんへの告白に命かけてるあたりは、ちょっと尊敬すらしちゃいますよ。僕だったら、死ぬかもしれないメモリ使ってまで……』
と、ここまで言ってレオが首をかしげる。
『……あれ? そもそも、なんでオッドさんってガイアメモリ使ってるんですかね?』
その瞬間、フィリップはソファからバッと立ち上がった。
(フィリップ?)
(そうだ……そもそもオッドがメモリの力にこだわるのはなぜだ?)
(そりゃ、ランゲージの力を使えばチェインが自分を好きだっつう現実を作れるからじゃねえのか?)
(いや、それには「チェインさんはオッドが好き」という発言がいる。そもそも、オッドがその力に気づいたのはメモリの放棄を拒否した後だ!)
フィリップも翔太郎も、犯罪者がガイアメモリを使うのが当たり前になっていた。風都でのメモリ犯罪に慣れすぎていて気づけなかったのだ。
バイヤーから大金で買ったならともかく、目の前に突然現れたメモリをわざわざ使った理由とは?
考えてみればオッドにはその理由がない。いや、その理由にフィリップ達が気づいていないだけ、か。
(そう考えると、いろいろと違和感がなかったか……聞き流してた発言……他におかしなところは……?)
直立したまま考え込むフィリップ。
翔太郎も何かを思い出すように顔の前で手を組む。
(おかしなとこと言やあ……ザップと戦ってた時のあいつの動きに、なんか見覚えが……)
その時だった。
翔太郎がハッと顔をあげ、フィリップに告げる。
(そういうことか……! わかったぜフィリップ! キーワード追加だ!)
そして、新たなキーワードとして翔太郎が挙げたのは。
普通は考えられない、だが、二人にとっては大いに覚えのある単語。
(なるほど……そうか! それならすべてに説明がつく!)
いきなり立ち上がった翔太郎とフィリップが無言でうなずきあっている光景に、あっけにとられているレオとギルベルト。
それをよそに、フィリップは再び『
並ぶ無数の本棚を前にキーワードを追加していく。
そして──
「これがオッドの正体だ!」
絞り込まれた一冊を手に、フィリップが声をあげた。
(ってことなら、戦い方も考えねえとな)
帽子を押さえニヤリと笑う翔太郎。
そこにレオがおそるおそる紙を差し出した。
『あの、翔太郎さん? フィリップさん?』
『お手柄だレオ君。おかげで敵の正体がわかった』
『はあ』
興奮するフィリップにますます困惑するレオ。
そして次に、翔太郎に従いフィリップが書いた文を見て、レオはさらに混乱した。
『ギルベルトさん、お願いが。コーヒーを淹れてもらえませんか?』
この状況でコーヒーブレイクを? と、さすがのギルベルトも虚をつかれたのか。騒動が始まってはじめて、ギルベルトが声を出した。
えらく渋く、年季の入った──
「メエェ?」
羊の声だった。
遅くなってごめんなさい! でも「パシフィック・リム」も「レディ・プレイヤー・1」もすんごい面白かったのだもの……。そりゃ2回見るよね。しょうがないよね……。
4DXサイコー!!
さて、思いのほか文量がかさんでしまい、決着は次回に持ち越しになってしまいました。
最後のキーワード、予想できた方も多いとは思いますが、感想欄ではなにとぞお口チャックでよろしくお願いします! ごめんね!
次回は5月になっての土曜を目標に書きませう。アベンジャーズもあるしなぁ。
サブタイの元ネタは「空色デイズ」の一節のもじり(ダジャレ?)になってます。