仮面ライダーW 『Case of Chaotic City』   作:津田 謡繭

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探偵は並行世界へと旅立つ


Detectives depart into the 『Parallel』

 ◇

 

 

 

 どんな絶望的な状況でも決してあきらめない。何度でも、覚悟とともに立ち上がる。それが風都を守る希望の戦士、仮面ライダーだ。

 だが、相対するパラレルはそれを嘲笑った。

 

「ふははは!」

「罪だと?」

「私の行動に罪など無い!」

 

 18体のパラレルが順に口を開き、歪んだ正当性を主張し始める。

 

「愚かな民衆は誰かが導かねばならん」

「無能な者たちを一部の有能なる人間が管理する」

「それこそが社会の正しい在り方だ!」

「私が選んだ人間がガイアメモリの力で進化し」

「新人類となって旧人類を導く」

「これが我が崇高なる目的」

「理解したまえ」

「これは悪ではない」

「罪でもない」

「愚かな人類への救済だ」

「わが心と行動に一点の曇りなし……!」

「すべてが、『正義』だ!」

「『ミュージアム』の遺志を継ぐこの私が」

「メモリを持つにふさわしい!」

「邪魔をしないでもらおうか!」

 

 パラレルの群れが合計で千本近い腕を伸ばし、臨戦態勢をとる。一斉に光弾を撃たれれば、かわすどころか防ぎきることもできず、間違いなくあの世行きだろう。

 だが、Wはひるみはしなかった。

 

「あきれるぜ。何を言うかと思えば、結局は自分勝手な支配を押しつけてえだけじゃねえか!」

「そんなものは正義じゃない。『ミュージアム』と同じ……人を傷つける、許されないエゴだ!」

 

 立ちはだかるW。

 自分の野望を一蹴されたパラレルは、無数の上半身をざわつかせ怒りをあらわにする。

 

「黙れえええ!!」

 

 再びパラレルが咆哮した、その時──

 硝子の砕け散るガシャアンという音が倉庫内に響いた。『何か』が天窓を突き破り、倉庫内に飛び込んできたのだ。

 それは鳥のような形をした、意思を持って動く()()()()()()だった。

 その名は『エクストリーム』。極限を意味する名の通り、他のメモリとは一線を画す力を秘めた特別なガイアメモリだ。

 

 エクストリームはパラレルの群れへと襲い掛かり、その翼で次々にパラレルをなぎ倒していく。

 

「な、なんだ!?」

 

 突然の襲撃にパラレル達がひるんだ。

 

「ぐっ、なんだこいつは! このっ!」

 

 中心のパラレルが光弾を発射したが、エクストリームは華麗に身をかわし、今度は一瞬でコンテナの陰へと飛んだ。そしてそこに横たわっていたフィリップの体の真上で高らかに鳴く。するとフィリップの体がみるみるデータに分解され、エクストリームに取り込まれていった。

 

「いくぜ、フィリップ!」

「ああ、翔太郎!」

 

 Wがバックルを閉じる。

 そして自分たちの元へと飛来したエクストリームを、サイクロンとジョーカー、二本のメモリの上からかぶせるようにベルトに装着した。再びバックルを展開すると、エクストリームメモリは『X』型に変形し、Wを輝く光が包み込んだ。

 

 《エクストリーム》

 

 まばゆい光の中で、Wは自身の体の中央を走るラインに両手をかけた。

 

「「うおおおお!」」

 

 ラインがゆっくりと左右に展開し、透き通るクリスタルのような結晶状の装甲が広がっていく。それに合わせて頭部にも結晶装甲が現れ、X字型にその形状を変化させた。

 全身を包んでいた光が消えた時、そこに立っていたのは──

 

 漆黒と鮮緑が、結晶装甲を挟み込んだような姿の戦士。

 地球の記憶そのものとシンクロした無敵の形態。

 翔太郎とフィリップが、精神だけでなく肉体までも融合させた究極のW。

 

 ──仮面ライダーW CJX(サイクロンジョーカーエクストリーム)だった。

 

「なんだ……!? その姿は……このエネルギーは……」

 

 パラレル達が後ずさりする。

 その瞬間、CJXの結晶装甲『クリスタルサーバー』が煌めいた。

 そしてフィリップが静かに告げる。

 

「敵のすべてを『閲覧』した」

 

 それは、パラレルの敗北が確定した瞬間であった。

 

「「プリズムビッカー!」」

 

 クリスタルサーバーから、剣と盾が一体化したような形状の武器が現れた。

 同時にCJXは『P』と刻まれたメモリを掲げる。アルファベットは同じでも、パラレルメモリのようなおぞましいものではない。光を反射し煌めく結晶のような、透き通る美しいメモリだった。

 

 《プリズム》

 

 ガイダンスボイスを響かせ、プリズムメモリをプリズムビッカーの柄へと装填する。プリズムビッカーにメモリのエネルギーが満ちる。

 そして、CJXは剣を鞘から抜くようにプリズムビッカーを剣と盾へと分離させた。煌めくひと振りの剣『プリズムソード』と、輝くX字型の盾『ビッカーシールド』へと。

 

「くっ……! ひるむな()! 数ではこちらが圧倒的に有利だ!!」

 

 パラレルが叫び、一斉に攻撃を開始する。

 だが──

 

「それは次の瞬間、やられる奴のセリフだぜ!」

 

 CJXは襲い来る光弾のすべてをかわし、防いでいた。まるでどこに攻撃が来るのか()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだとっ!?」

 

 おののくパラレルの群れにCJXが突っ込む。

 

 《プリズムマキシマムドライブ》

 

 プリズムメモリが輝き、剣の刃にプリズムのエネルギーがほとばしる。

 させるものか、と5体のパラレルが襲い掛かった。

 しかし、それも無駄な足掻きだった。

 

「「プリズムブレイク!!」」

 

 またもパラレルの動きをすべて予知していたかのように身をひるがえし、CJXがプリズムソードを振るった。

 瞬く間に5体のパラレルは切り伏せられ爆散する。

 

「ぐううっ!」

 

 CJXの攻撃は止まらない。

 さらに2体のパラレルをなぎ倒し、隙を見てビッカーシールドにメモリを装填していく。

 

 《サイクロンマキシマムドライブ》

 《ヒートマキシマムドライブ》

 《ルナマキシマムドライブ》

 《ジョーカーマキシマムドライブ》

 

 次々に装填された4本のメモリ。そのエネルギーはビッカーシールドの内部で凝縮され──

 

「「ビッカーファイナリュージョン!!」」

 

 一気に放出された。

 シールドから放たれたエネルギーが、からみ合い渦巻きながら、虹色に輝く光の激流となってパラレルに襲い掛かった。

 その薙ぎ払うような光線に焼かれ、10体のパラレルがまとめて吹き飛んだ。

 

「さあ、残りはテメエひとりだぜ!」

 

 何が起きたのかもわからぬまま呆然と立ち尽くす最後のパラレルに、ビッカーソードを突き付ける。

 

「そ……そんな、バカな……! この私が……なぜだ! 貴様らはたった二人だというのに!」

 

 恐怖と混乱でわめきちらすパラレルに、CJXが、翔太郎とフィリップが答えた。

 

「二人だからだ。俺達は二人だから、どんな相手にも勝てるんだよ!」

「たとえ何十人いようと、きみ一人ではぼくたちには勝てない!」

 

 CJXがプリズムソードをビッカーシールドに納めた。最後の一撃を叩きこむために。

 

 《サイクロンマキシマムドライブ》

 《ヒートマキシマムドライブ》

 《ルナマキシマムドライブ》

 《ジョーカーマキシマムドライブ》

 

 再び抜き去ったプリズムソードに4本分のメモリのエネルギーが収束する。

 

「「はあああああ!」」

 

 虹のように輝く刃を、一気に振り下ろす。

 

「「ビッカーチャージブレイク!!」」

 

 空間ごと切り裂くような閃光の軌跡の奥で、最後のパラレルが爆炎に包まれた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ふぅ……さすがに骨が折れたぜ……」

「あれだけ必殺技を使ったんだ。無理もない」

 

 変身を解除し、翔太郎とフィリップは倉庫の床にへたり込んでいた。

 そのすぐそばには、()()()()()()()()()()()()一人の伊藤田が気絶したまま転がっていた。

 他の22人の伊藤田は最後のパラレルメモリが壊れると同時に消えてしまった。この世界のパラレルがメモリブレイクされたことで力を失い、元の世界に戻ったのだろう。

 

「はあ……。しかし、なんか急に寒くなってきたな」

「当然だよ」

 

 白い息を吐きながら体を震わせる翔太郎の視線を、フィリップが指をさして誘導する。

 

「あー……どうりで……」

 

 倉庫の壁には巨大な穴が開いていた。そこから夜風がビュウビュウと吹き込んでいたのだ。おそらく『ビッカーファイナリュージョン』を撃った際に開いたのだろう。

 

「どうするんだい?」

「だああ! 後始末は照井の野郎に押しつけてやる! もともとあいつが居なかったから、保管してたガイアメモリを奪われちまったんじゃねえか!」

「仕方ないだろう。せっかくの新婚旅行だ。文句を言ってたらまた亜樹ちゃんにスリッパで叩かれるぞ」

 

 フィリップがくすくすと笑った。

 それを見て翔太郎も笑う。

 

「さて……はやいとこ、伊藤田とメモリを回収して戻るか」

「ああ、賛成だ」

 

 そう言ってガイアメモリの入ったアタッシュケースの方を振り返った時──

 

 二人は同時に凍り付いた。

 

 アタッシュケースのすぐ上の空間に、()()()が広がっていた。

 見覚えのある、ついさっき見たばかりの裂け目だ。

 

「まずい! 翔太郎!」

「ああ、なんとなくマズいってのはわかる!」

 

 二人がアタッシュケースに駆け寄る。

 と同時に、裂け目から『何者かの腕』が、ぞるり、と現れた。

 

「「──っ!」」

 

 人間の腕ではなかった。ミイラのような、黒焦げの焼死体のような、蜘蛛の脚のような、その腕がアタッシュケースを、がしり、とつかむ。

 そしてそのまま裂け目の中へと──消えた。

 

「ま、待ちやがれっ!!」

 

 翔太郎が叫び、裂け目に手を伸ばす。

 

「翔太郎っ!!」

 

 危険を察し、フィリップが翔太郎のベストをつかんだ。

 次の瞬間──

 

「「────っ!?」」

 

 二人の体は裂け目へと吸い込まれた。

 同時に裂け目もスゥっと閉じ、消えた。

 

 後にはただ、気を失った伊藤田と無機質なコンテナ達が、天窓から差し込む風都の月明かりに静かに照らされているだけだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……い……おい……」

 

 誰かの声が響く。

 

「おい、兄ちゃん。兄ちゃん! だいじょうぶかよ?」

 

 体をゆすられ、翔太郎は目を覚ました。

 どれくらい気を失っていたのか、あたりはもう明るい。だが快晴ではないようで、霧に覆われたような、どんよりとした明るさだった。

 

「兄ちゃん、平気か?」

「……ああ、すまねえ」

 

 親切な声に返事をして気づく。それは()()だった。

 

(……なんでだ?)

 

「こんなとこで寝てっと、臓器がいくつあっても足んねえぞ」

 

 親切な声が笑う。

 

(臓器? なんのことだ?)

 

「ほらつかまれ」

 

 ぼやけた意識のまま、翔太郎は差し出された手をつかんだ。

 ひんやりぐにゃりとした感触が手に伝わり──

 

 その瞬間、翔太郎の意識は覚醒し、同時に悲鳴をあげた。

 

「うぉ、おわぎゃぎゃおああああああ!!」

 

 つかんだのは手ではなかった。いや、『手』という言い方をしてもいいのかもしれないが、正確に言うならばそれは──『触手』であった。

 

「なんだよいきなり……」

 

 見上げた先にあったのは、クワガタムシとナメクジを一緒くたにしたような、見たこともない生物の心配そうな顔だった。

 

「な、な、な、な……ド、ドーパントか!?」

「ドーパント? なんだそりゃ。人違いか種族違いだぜ。俺はヌェガルブってんだ」

「……は? ……は?」

 

 理解がまったく追い付かない。

 10秒前に浮かんだ「なぜ英語で会話しているのか」などという疑問はもはや大気圏外にまで吹き飛んでいた。

 

「酒か薬か知らねえが、あんまりやり過ぎてっと知らねえ間に脳ミソまでパクられちまうぞ。じゃあなヒューマー」

 

 そう言うと、ヌェガルブと名乗ったクワガタナメクジ人間は通りの向こうへと去っていった。

 それを目で追い、翔太郎は絶句した。

 

 歩道を見れば、服を着こんだ百鬼夜行。

 車道を走るは、車輪の付いた魑魅魍魎(ちみもうりょう)

 そのほとんどが、妖怪とも宇宙怪獣とも深海生物とも見える、異形ばかりであった。

 

「な……な……」

 

 翔太郎、たまらずの絶叫。

 

「なんなんだココはああああっっ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはかつてのNY(ニューヨーク)

 一夜にして崩壊、再構築されたその区画は、今や異界(ビヨンド)と現世の交わる境界都市。

 

 その名は──HL(ヘルサレムズ・ロット)

 奇怪生物、神秘現象、魔導犯罪、超常科学、その他諸々(もろもろ)すべてが(うごめ)く、霧(けぶ)混沌の魔都(カオティック・シティ)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お気づきの方も多いと思いますが、伊藤田の元ネタはSBRのあの人です笑

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