仮面ライダーW 『Case of Chaotic City』   作:津田 謡繭

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筋肉の力を侮ってはならない


Must not despise the power of the 『Muscle』

 ◇

 

 

 

 ガイアメモリの相性。ミュージアムでは詳細な研究こそされなかったが、それは確かに存在する。

 おおまかに分類するなら2パターン。

 

 ひとつは、似通った記憶であるが故に優劣ができてしまう組み合わせ。『(ウォーター)』と『大海(オーシャン)』、『司令官(コマンダー)』と『将軍(ジェネラル)』、『(バード)』等の動物系メモリと『動物園(ズー)』などだ。

 

 もうひとつは、メモリに内包された記憶そのものが性質として上下関係を持つ組み合わせ。これには『植物(プラント)』と『氷河期(アイスエイジ)』、『(ゼロ)』と『加速(アクセル)』などが当てはまる。

 

鋼鉄(メタル)』と『磁気(マグネティズム)』も後者だった。

 そして、この二つはあまりにも明確な勝敗をもつ、まさに最悪の組み合わせであった。

 

 

 

「うおおわわわ!」

「くっ……!」

 

 抗えない力に引きずられ、宙を舞うW。

 なんとかその体を掴もうとブローディ&ハマーが手を伸ばすが、丸太のような指はWをかすめるだけで届かない。

 数回、壁と床に激突させられた後、Wは大きく弧を描いてブローディ&ハマーに激突した。

 ゴイイン、と釣り鐘を叩くような鈍い音が響く。

 

「「うっ……!」」

 

 悲鳴をあげたのは翔太郎とフィリップのみ。

 鉄塊のごとき見た目通りの、いやそれをはるかに上回る頑強さのブローディ&ハマー。Wは時速数百キロでみぞおちに衝突したが、大したダメージにはならなかった。

 だが、さすがにバランスが崩れた。

 

「わわわ」

 

 気抜けするような声を出しながらひっくり返り、巨大な筋肉の怪物は派手にしりもちをつく。

 

「ハハハハ! 無様だな罪人どもめ!」

 

 両手を振り上げてWを再び空中へと浮かせながら、マグネティズムが高らかに笑う。

 その笑い声に重ねてデルドロが怒鳴り散らした。

 

「おいテメエ! さっさと左側を黒に戻せ!」

 

 デルドロは一連のわずかなやりとりだけでWの形態変化(ハーフチェンジ)の仕組みとこうなった理由を察していた。粗暴な言動に反して頭はキレる男だ。キレる頭で状況を理解して、かつ心の底からキレていた。

 

「わざわざ持ってきてやってこれかよ! 役に立たねえなクソが!」

「うるせえ! わかってるっての!」

 

 翔太郎が叫び返す。

 言われなくてもメタルのままでは戦えないことはわかっている。だが、なかなかメモリを変えられない。

 と、いうのも。

 

「こんのぉ……あだぁっ!」

 

 メモリを変えようとドライバーに手を伸ばすたびに、ドンピシャのタイミングで壁や床に叩きつけられるのだ。

 おまけに空中でブンブンと振り回されて目も回ってきた。三半規管の混乱がいつもよりひどいのは、強烈な磁場の影響か。

 こうなるとメモリチェンジも楽にはいかない。

 

「フィ、フィリップ!」

「わかっている! けど……くっ!」

 

 フィリップの方もどうにか右手でメモリを抜こうとしていた。だが、やはりあちこちに衝突させられうまくいかない。

 そうこうしている内にも。

 

「「うわわわわわ!」」

 

 なすすべなくブローディ&ハマーに激突する。ドシン、と床を振動させて、再び紅い巨体がひっくり返る。

 もはやWは完全にマグネティズムの投擲武器と化していた。その辺の鉄材よりも重く頑丈なだけに、ブローディ&ハマーもそう軽くはあしらえない。

 

「いい加減にしろや! まずテメエから叩きのめすぞ!」

「それはダメだ。なんとかキャッチしよう」

「んなこと言ったってなァ!!」

 

 イラつくデルドロと、それをなだめるハマー。

 その様子が目に入った翔太郎にある考えが浮かんだ。

 

「……ちっ」

 

 できれば実行したくない考えだったが、このままではジリ貧。背に腹は代えられない。

 

「しょ、翔太郎? まさか……」

 

 その考えを読み取ったフィリップが青ざめた声を出す。

 

「また君はなんて無茶を考えるんだ!」

「仕方ねえだろ! 耐えられるか?」

「確実じゃないが……おそらく」

「上等! 覚悟決めるぜ、相棒!」

「フン、何をゴチャゴチャと!」

 

 勝利を確信したマグネティズムが二人の会話を乱暴にさえぎった。

 

「ブローディ&ハマーも仮面ライダーも! 四人まとめて牢へと叩き込んでやる!」

 

 マグネティズムの振り下ろした手に合わせ、再びブローディ&ハマーへと迫るW。

 その時、翔太郎が叫んだ。

 

「やれハマー! デルドロの言う通り、()()()()()()()()()()()()()!」

「ええっ!? ……いや、わかった!」

 

 困惑の声を出したハマーだったが、すぐさまデルドロと共に迎撃の体勢を取った。ただし、拳は固めずに平手で。

 

血植装甲(エグゾクリムゾン)──」

 

 銃弾のようにまっすぐ突っ込んでくるWに向けて、開いた右手を振り上げつつ体を深く沈ませ構える。そして、床を踏み抜くほどの勢いで重心を前方へと加速し、その手を振り下ろした。

 

「超超ハエ叩きっ!!」

 

 子供が2秒で考えたような技名とともに炸裂した平手打ちは、まさしく悪鬼羅刹の咆哮がごとき暴虐の一撃であった。

 逃げきれなかった空気が水面を叩いたようなパァンという音を鳴らしながら爆ぜた。そこから生まれた風の爆弾が床をめくり返し、瓦礫を巻き上げながら衝撃波となって荒れ狂った。

 もちろん直撃を受けたWが無事のはずはない。隕石にでもぶち当たったような勢いで『大』の字の状態で叩きつけられ、押し潰れるように床にめり込んだ。亀裂が放射状に広がり、巨大なクレーターが生まれた。

 翔太郎とフィリップの意識はインパクトの瞬間、その衝撃を認識するヒマもなく彼方へと吹き飛ばされていた。

 床に彫り込まれた人型の()()()に気絶した翔太郎が現れる。フィリップの精神が離れたことでWの変身が解除されたのだ。

 ここまでが一瞬だった。

 

 これが実行したくなかった翔太郎の策だった。メモリを変えられないのなら、強制的に変身を解除()()()()()しかない。

 危険というレベルではないのだが、メタルの防御力ならばなんとか耐えられる、との目算だった。実際、気絶こそしたものの、翔太郎はほぼ無傷だった。

 もちろん、気絶だけですんだのはハマーとデルドロの()()()()()()()のおかげでもある。翔太郎は知らなかったが、ブローディ&ハマーが本気を出せば百トン単位の鉄の塊を街の外までぶっ飛ばすことが可能なのだ。ハマーのひらめきでグーをパーにしていなければ、おそらく全身骨折、運が悪ければあっけない死も十分にありえた。

 それでもさしたるケガもなく、目論み通りにメタルを解除、ドーパントとブローディ&ハマーの一騎打ち(厳密には一騎ではないが)に持ち込めたのはさすがの左翔太郎。何かと引き寄せる悪運の持ち主(ジョーカー)である。

 

 一瞬が終わり、風圧が消えた。同時に巻き上がっていた瓦礫が重力によって落下を始めた。数十キロ単位の瓦礫が生身の翔太郎にも降り注ぐ。

 

「デルドロ!」

「チッ……!」

 

 ハマーに促され、デルドロはその体を大きく広げた。怪物を形作っていた血の装甲を傘のように広げ、大量の瓦礫から翔太郎を守る。

 

「お前もはみ出すんじゃねえぞハマー!」

「ありがとう、デルドロ」

「……チッ」

 

 輝く笑顔で礼を言うハマーにデルドロは何も言い返さず、ふてくされたような舌打ちだけで答えた。「お前が死んだら俺もヤバいからだ」と言い返してもよかったのだが、どうせハマーは笑顔のまま「それでもありがとう」などと言うにきまっているのだ。

 瓦礫の雨がやみ、束の間の静寂が訪れた。

 

「……チッ」

 

 今度の舌打ちはマグネティズムのものだった。

 先ほどの平手打ちの威力でブローディ&ハマーの力を再確認したのだろう。傾いた形勢に思案を巡らすかのように、マグネティズムはじりっと片足を下げた。

 

「いくよ」

「オウ」

 

 再び血植装甲(エグゾクリムゾン)を纏い怪物となるハマー。

 刹那のにらみ合いの後、紅の怪物はマグネティズムめがけて走り出した。

 

「フン!」

 

 マグネティズが腕を振る。それに合わせて床に散らばっていた鉄くずが浮き上がり、散弾のようにブローディ&ハマーを襲う。

 だが──

 

「えええい!」

「オラアア!」

 

 ブローディ&ハマーは腕を一薙ぎするだけで鉄くずを吹き飛ばした。攻撃をものともせず向かってくる怪物に、マグネティズムはさらに一歩後ずさる。

 

「くっ……!」

 

 次に宙へと浮いたのは、看守アーマーの重火器だった。

 

「……!!」

 

 それを見たブローディ&ハマーの足が一瞬止まった。

 ただの銃器なら何の問題もない。彼らなら戦艦の主砲だろうと受け止めて投げ返すことができる。

 だが、ここはヘルサレムズ・ロットだ。着弾即爆散は当たり前として、相手を中から食い尽くす呪詛弾や、空間ごと対象を削り取る銃さえ存在する。

 そういった物理的でない攻撃には、鋼鉄の頑健さを誇る血の鎧も太刀打ちできない。そのまま突っ込むのはあまりにリスクが高かった。

 動きが止まったブローディ&ハマーに向け、空中に浮かんだ銃の群れの引き金が引かれた。

 

「何やってんだハマー! かわせ!」

「ダメだ!」

 

 巨体ながら瞬発力は獣並み。かわすことは容易だ。

 だが、背後には生身の翔太郎がいるのだ。避ければ翔太郎が吹き飛ぶ。取れる選択肢はひとつだった。

 瞬時にブローディ&ハマーはその巨大な手を床に突き立て、一気に床材を引き剥がした。

 

「僕流ニンポウ! タターミガエーシ!!」

 

 持ち上げられた床材に数十発の弾が命中する。大半は弾かれるかめり込むかしたが、数発は着弾と同時に甲高い叫び声をあげ()()した。そして次の瞬間には爆発が起こり、その後、床材は黄色い煙をあげてチーズのように溶解した。

 まともに受けなくて正解だった、と安堵しつつ前を向いたブローディ&ハマー。

 しかし、すでにマグネティズムの姿はそこになかった。

 

「「……」」

 

 まんまと逃げられた。

 やり場のなくなった気合を急速にしぼませながら、その場にどかっと座り込む。

 

「逃げられちゃったねえ」

「お前がとろいからだ馬鹿」

 

 どうしたものか、とあぐらをかきつつ、ブローディ&ハマーはとろけた床材を後ろに投げ捨てた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「──はっ!」

 

 のどに詰まっていた空気を吐き出すように、翔太郎の意識が戻る。

 

「俺は……?」

 

 体を起こすと、何かが手に触れた。帽子とダブルドライバーがすぐ横に置かれていた。

 辺りを見回すと、そこは見るも無残な瓦礫の山。力任せに砕かれた、コンクリートでも金属でもない残骸の海。かたわらの大きな塊だけが、なぜかチーズのようにとろけていた。

 

「あ、翔太郎。目ぇ覚めたー?」

 

 のほほんとした声。

 ぐらつく頭をそちらに向けると、ニコニコとこっちを見つめるハマーの姿があった。

 

「あ……ああ!」

 

 一気に意識がはっきりする。なぜ自分が気絶していたのかをやっと思い出し、翔太郎は食いつくようにハマーにたずねた。

 

「ド、ドーパントは!? あれからどうなった!?」

「逃げちまったよ」

 

 答えたのはデルドロだった。すでに血の塊に戻り、ハマーの手首から伸びた頭(?)でモシャモシャとハンバーガーを食べている。

 そんなものどこに持っていたのか、そこの口で食べてどこで消化するのか、などの疑問が浮かんだが、いま気にすることじゃないと飲み込んだ。

 

「そうか。逃げたか」

 

 軽いため息を混ぜてそう言った翔太郎に、残りのハンバーガーを口に放り込んだデルドロが怪訝な声を出した。

 

「なんだクソガキ。知ってましたって面だなァ」

「まあな。逃げるだろうとは思ってたさ」

 

 マグネティズムはWがメタルになったと知るや、瞬時にそれを利用してきた。翔太郎の印象では、かなり頭のキレる人物だ。そのマグネティズムがブローディ&ハマーと正面からやりあうことはおそらくない。

 実のところ、それも考慮して二人にWを攻撃させたのだ。

 Wは戦闘不能になるが、ブローディ&ハマーは残る。そうなればマグネティズムは必ず退く。翔太郎はそう確信していた。

 

「あの場ではいったん仕切り直すしかなかった。俺たちがメモリブレイクしねえと、たぶんアイツは助からねえからな」

「ケッ、甘ちゃんが過ぎるな」

「わかってるさ。でも──」

 

 翔太郎が帽子を拾い上げる。 

 

「それが俺の信念だ。これ以上、ガイアメモリのせいで人が傷つくのは見たくねえ」

 

 深くかぶった帽子の影で翔太郎の視線が研がれる。

 愛する風都の闇の遺産、ガイアメモリ。それがヘルサレムズ・ロットへ持ち込まれてしまったことは、翔太郎にとって大きな自責となっていた。

 だからこそ、一人でも多くを救いたい。仮面ライダーとしての力で。

 

「翔太郎は優しいね」

 

 ハマーが微笑む。

 対しデルドロは、やはり翔太郎を嘲笑した。

 

「それが甘いっつってんだボケ。ヒーロー気取りたいのは勝手だがな、綺麗事も大概にしとけ。ぶっ殺してでもコトを治めるって覚悟もなしに正義の味方できるほど、この街は甘かねえぞ」

「……ああ、わかってるさ。それがヘルサレムズ・ロットで、それが……ライブラなんだろ」

 

 翔太郎は静かにうなずく。

 一人の犯罪者と、大勢の善良な人々と。どんなにもがいても、重さの違う命を天秤にかけなければいけない時が存在してしまう。

 その前提から逃げることは許されない。人を救いたいと願う、その信念がエゴにならないために。

 

「だからこそ、少なくともいま目の前で起こってる事件がそうならねえよう戦うのさ。綺麗事かもしれねえけどよ、それが俺たちの戦いだ。綺麗事で解決できりゃ、それが一番いいじゃねえか」

「……」

「だからアイツは、必ず俺たちが倒す。これ以上被害が出る前に、な!」

 

 翔太郎の言葉には、決して目を背けはしないという覚悟があった。

 それを感じ取ったのか。ハマーもデルドロも、もう何も言わなかった。

 

「さて、となると戦い方を考えねえとな」

 

 土埃をはらいながら立ち上がる翔太郎。

 先の結果通り、マグネティズムにメタルで挑むのはあまりに無謀だ。かといってジョーカーではパワー不足。マキシマムドライブでもメモリブレイクに至るかは怪しい。

 こういう時はフィリップの分析力が必要だ。

 翔太郎はダブルドライバーを拾い上げ、どこも壊れていない(これも奇跡に近い)と確認して腰に装着した。

 

「どうだフィリップ? もう起きてるか?」

(やれやれ、やっと目を覚ましたと思ったら。一言目がそれとは、居眠りしていたことをまだ根に持っているのかい?)

 

 明るいフィリップの声に安心する翔太郎。

 

「そうじゃねえよ。さっきはかなり無茶しちまったからな。純粋に心配だっただけさ」

(いい加減、君の無茶には慣れた。それで翔太郎。ぼくに頼みがあるんだろう?)

「わかってるくせに。手持ちの戦力であのドーパントの倒す方法を考えてくれ。メモリの能力についてならお前の方が何倍も詳しい」

(了解した。少し時間をくれたまえ。必ずマグネティズムの攻略法を見つけてみせる)

「オーケー。信頼してるぜ相棒」

(信頼には応えよう)

 

 それだけ言ってドライバーを外す。

 短い会話。だが、フィリップならばやってくれると確信できた。

 

「さて、俺は情報収集だな……」

 

 翔太郎は腕を組む。

 ドーパントが再び翔太郎達の前に現れるとは限らない。こちらから探す方が確実だ。だが、この非常時に全看守を総当たりで調べるわけにもいかない。今ある情報だけでなんとかドーパントの正体にたどり着かなければならない。

 考えこむ翔太郎。そこに。

 

「オイ」

 

 デルドロが声をかけた。

 

「何やってんだお前」

 

 見ればハマーもデルドロもキョトンとした顔で翔太郎を見つめている。

 それもそのはず。二人にしてみれば、さっきのフィリップとのやりとりは翔太郎の盛大な独り言にしか見えていないのだ。

 それに気づいて翔太郎は慌てて釈明をした。

 

「あー、こいつを着けると離れたとこにいる相棒と頭の中で会話ができるんだよ。フィリップっていうんだが……」

「ああ、さっき翔太郎と一緒に戦ってた人?」

「そうそう。俺たちは二人で一人の──」

 

 そこまで言って翔太郎は「アレ?」と首をひねった。

 

「ハマー、お前なんでそのこと知ってんだよ?」

 

 ハマーとデルドロにはWの説明はしていなかった。なのになぜ、Wの中に二人分の精神が入っていたとわかったのだろうか。

 いや、思い返せばそれ以前に、戦闘中のWを見て躊躇なく翔太郎と呼んだこともいまさらながら不思議だった。

 もしかするとハマーは凄まじい洞察力の持ち主なのかもしれない、と思った翔太郎だったが、帰ってきた答えはなんとも拍子抜けなものだった。

 

「んー、なんとなく。気配で」

「野生動物かお前は!」

 

 思わずツッコむ。

 ハードボイルドでありたい翔太郎が最近この漫才のようなノリに慣れてきているのは、やはり大阪出身の所長の影響だろうか。

 思わずため息を吐く。

 ハマーの方は笑いながら、「それドクターにも言われたね」とデルドロに話しかけていた。

 

「よくまあ初見で俺たちの──」

 

 と、何かが引っかかった。

 

「待てよ……」

 

 この小さな違和感はきっと大きな手掛かりだ。そう確信した翔太郎は、必死に記憶をたぐって違和感の正体を探す。

 そして。

 

「そうか……」

「え?」

「あん?」

 

 目を見開いてつぶやいた翔太郎に、ハマーとデルドロが振り返った。

 

「わかったぜ。ドーパントの正体が」

 

 帽子を押さえつけた翔太郎がにやりと笑ってそう言った、その時だった。

 

「いたぞ! こっちだ!!」

「全員動くな!!」

 

 突然、4mほどのパワードスーツに身を包んだ看守たちが十数人、押し寄せるようにして現れた。

 

「おおおい、なんだなんだ!?」

「チッ、なんだ早かったな」

「いいことじゃない」

 

 当然と言えば当然であった。

 翔太郎はすっかり忘れていたが、ブローディ&ハマーは弩級監視体制必須のSSクラス囚人なのだ。それが独房の扉を破壊して脱走などしていれば、こうなるのはごく自然な成り行きである。

 

「説明してもらおうか、左翔太郎」

 

 瓦礫を避けてカツカツと歩いて来たのは、獄長ネバーヘイワーズだった。後ろには看守長マイルズと、もう一人デーモンのような外見の部下を連れていた。

 

「なぜ貴様がここにいる。なぜブローディ&ハマーが外に出ている。返答次第ではただではすまんぞ」

 

 重武装の看守スケルトンにぐるりと取り囲まれ、詰問を受けているこの状況でなお、翔太郎は帽子の下で笑った。

 

「ちょうど良かったぜ」

「なに?」

「フフ……」

 

 言いたいことは決まっていた。

 探偵をやっているからにはぜひともこのセリフを言ってみたい、と翔太郎は常々チャンスを探していたのだ。憧れのハードボイルド探偵をしっかりとイメージし、渾身のキメポーズで言ってやろうと内心で心躍らせた──のだが。

 

「はんに──」

「動くなと言っている!!」

 

 帽子に手をかけようとした翔太郎に、一瞬で無数の銃口が突きつけられた。もちろん即座にホールドアップだ。

 現実は案外こんなものである。

 心の中でハーフボイルドという言葉がぐるぐるとまわる。

 けっきょく、翔太郎は小さな声でこう言った。

 

「あ……は、犯人は……この中にいる……と、思います……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと短めです。
さて次回は解決編ですが、今回の謎解きはけっこう簡単でしたかね。
あ!でも感想欄ではお口チャックでお願いしますよ!約束ですよ!

※コマンダーメモリは司令官の記憶なので一概にジェネラルと比較は出来ないのですが、コマンダーという言葉自体に中佐という意味もあるそうなのでジェネラルの下位と勝手に位置づけさせていただきました。
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