仮面ライダーW 『Case of Chaotic City』   作:津田 謡繭

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推理も物理も、うまくやるのは難しい


It’s difficult to 『Manage』, about both the reasoning and the physics

 ◇

 

 

 

 探偵がその推理を披露する時、多くの場合、集められた人々は息を呑んでその言葉に耳を傾ける。事件のあらまし、犯人、トリック、動機──それらが語られる間、人々は自らが当事者であることを忘れ、物語を追う観客となる。

 それが探偵の見せ場。真実をつまびらかに暴く賢者の独壇場。観客に許されるのは探偵の想定した予定調和の質問のみ。

 主導権は必ず探偵が握っている。

 

 と、フィクションならばそれが理想なのだが、現実とはそううまくいかないものである。

 例えば、これから推理を披露せねばならないというのに、重武装の看守スケルトン十数体に取り囲まれ周囲180°からぐるりと銃を突きつけられている、現在の翔太郎のように。

 

「どういう意味だ」

 

 突き刺さるような声と視線で翔太郎にたずねたのは、獄長アリス・ネバーヘイワーズだ。背後には仁王像のように二人の看守長を従え、自身も凄まじい威圧感を放っている。今、この場の主導権は完全に彼女が握っていた。

 

「犯人がこの中にいる、だと? 犯人とは何の犯人だ。犯罪者というならば、まず独房から脱獄した最重要SS級囚人とその協力者と思しき不届き者が私の目の前にいるのだが?」

 

 問う口調はまだ理性的だが、獄長のこめかみには大きな青筋がピクピクと動いている。下手な事を言えば本当にハチの巣(というより消し炭か)にされかねない、という緊張感の中で、翔太郎は両手をまっすぐ上げたまま口を開いた。

 

「あの、その辺のことも説明したいんで……できれば銃を下ろしてもらえると……」

 

 ひきつった笑顔にだらだら汗が流れる。

 そんな翔太郎を馬鹿にして、カカカと笑うデルドロ。

 

「オイ、あんまりイジメてやるなよアリス。コイツちびっちまうぞ」

「貴様は黙っていろ!」

「誰がちびるか!」

 

 獄長と翔太郎が同時に声を上げた。

 獄長の視線が一瞬だけ翔太郎に刺さったが、矛先はすぐにデルドロへと戻る。

 

「そして下の名で呼ぶなと何度言えばわかるデルドロ・ブローディ!」

 

 忌々しそうに吐き捨てる獄長はデルドロをにらみつけるついでに、ポカンとした顔で笑っていたハマーにも苛立ちをぶつけた。

 

「貴様も貴様だドグ・ハマー! そもそもこやつに好き勝手させないのが貴様の役割だろう!」

「いやいや、出ていこうって言いだしたのコイツだぞ」

「うん。僕だよ」

「……っ!!」

 

 まわりの看守たちを置き去りにして騒がしさを増していく一同。それを見ている内に、ふと翔太郎は気づいた。

 ハマーとデルドロを感情剥き出しで怒鳴りつける獄長は、なんというか、人間味が増していた。

 さっきまでのネバーヘイワーズはまさに『獄長』であった。職務に忠実に、半ば機械的に事態を処理するプロの顔だった。それが今、目の前で超弩級囚人コンビと言い争う彼女は、怒って呆れて頭を抱える一人の人間、アリス・ネバーヘイワーズだった。

 

(なんつうか、これはこれでバランスの取れた関係なんだな)

 

 そんなことを思う。

 この奇妙なバランスを成り立たせているのは間違いなくハマーの人柄だ。

 超凶悪犯と監獄の長。普通は言い争うことすらない二者をつなぐ橋。いや、緩衝材と言うべきか。

 ハマーはいつもこんな感じなのだろう。間が独特というか張り合いがないというか。悪態も嫌味も怒号も理不尽も、すべて受け入れてあっけらかんとしている。器の深さは底なしかもしれない。

 もっとも、そうでなければ誰が他人の刑期のために獄中生活を受け入れるものか、という話になってくるのだが。

 

「ええい、もういい! まったく付き合いきれん。お前たち、銃を下ろせ」

 

 ひとしきり鬱憤を吐いた後。獄長はそう指示を出して、眉間に手を当て頭を振った。

 命令に従い十数人の看守たちがガチャガチャと音を立ててそれぞれの銃口を下げた。

 

「ありがてえ」

 

 ふうっとため息をつき、翔太郎は両手を下ろした。

 

「これでいいのだろう。さっさと状況を説明しろ、左翔太郎」

 

 底なしの器に苛立ちをぶつけたおかげか、獄長の放つ空気は少しだけ柔らかくなっていた。

 翔太郎は一呼吸おいてから口を開いた。

 

「ああ。今から暴いてやるよ。禁断の力に魅入られちまった牢獄の番人──その正体をな」

 

 カチリ──とスイッチが切り替わるように。

 顔を上げた翔太郎は、真実にたどり着いた探偵の顔になっていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「閲覧──完了だ」

 

 漠々と広がる白い空間で、フィリップは読み終えた本をパタンと閉じた。タイトルはもちろん『Magnetism』。本の中身は全て頭の中にインプットされた。

 まわりには磁気や磁力に関係した本が10冊ほど浮かんでいる。その中に閉じた『Magnetism』の本を戻し、フィリップは目を閉じた。

 

「さて、ここからは対抗策だ」

 

 右手を口元に当て、わかっていることをひとつずつ確認するようにつぶやきながら思考を深める。

 

「まず厄介なのは奴の驚異的な頑丈さだ。やはりヒートジョーカーではメモリブレイクに必要なパワーは出せない」

 

 検索してわかったことだが、敵の防御力はとんでもないものだった。

 磁鉄鉱の組成をベースにした体組織は超磁力によって限界まで密度を高められ、ダイヤモンド並みの硬度になっていた。さらに体の表面には強力な磁気バリアが展開されており、飛び道具のほとんどが無効化されてしまうらしい。

 それらの情報を総合して考えると、マグネティズムドーパントの防御力はあのジュエルドーパントに迫る頑強さだった。

 

「ヒートメタルで通用するかどうか……」

 

 データに基づいて脳内でシミュレーションを行ったが、成功率は半々といったところだった。それ以前に、今のままだとヒートメタルは磁力に操られてまともには戦えない。

 そこでフィリップはまずメタルへの干渉をどうにかしようと頭を切り替え、先ほど得た知識から有効そうなものを探すことにした。

 

「手っ取り早いのは……これか」

 

 さっきまで読んでいた『Magnetism』のすぐ横に浮いている一冊を手に取る。タイトルは『Curie temperature』。

 

「キュリー温度。これが突破口になりそうだ」

 

 本を開き、素早く読み進める。

 強磁性をもつ、つまり磁力に反応する金属がその性質を失う温度がキュリー温度である。鉄ならば約770℃。ここまで熱せられた鉄は磁力の影響をほとんど受けない。

 ページをめくるフィリップの口元に笑みが浮かぶ。要するにWを温めればいいのだ。ヒートメモリがあれば実行は容易だ。

 しかし、すぐにその表情が曇った。

 ヒートメタルになったWのキュリー温度を計算してみたのだ。

 

「約4000℃……か」

 

 想像以上の超高温が必要だった。ガイアメモリの力で強化されているのだからある程度大きな数値になるとは思っていたが、まさかここまでとは。本来なら性質が変わりにくいのは強みであるはずなのだが、今はそれが仇となっていた。

 不可能なわけではない。ヒートの力を使った攻撃ではWの表面温度が3000℃に達することもある。マキシマムドライブを使えば4000℃を超えることも一応は可能だろう。

 だが、問題は翔太郎の体がそれに耐えられないということだった。

 いつかフィリップの制止も聞かず、ヒートとトリガーの二本のメモリでツインマキシマムドライブを使った翔太郎が、その反動で死にかけたことを思い出した。

 Wの限界を超えてメモリの力を使うのは暴走と同じだ。そしてガイアメモリの暴走で負ったダメージは通常の治療では癒せない。この街(HL)なら通常でない治療もあるかもしれないが、だとしても──

 

「危険すぎる……」

 

 ため息を吐く。

 どんなに危険だとわかっていても、可能だと知れば翔太郎はやるだろう。

 他人を救うために命懸けの無茶をためらわない翔太郎。フィリップはそんな相棒を誇りに思うと同時に、心の底から心配していた。

 

「危険のないギリギリまで温度を上げたとして……磁気モーメントが整列した磁区の減少する割合は……ヒステリシス曲線に……4、いや3割……ダメだ小さすぎる……逆方向の誘導磁気でデガウシングすれば……無理だ……あそこにはコイルも電力もない……」

 

 何か方法は無いか。小さく開いた口からブツブツと思考を漏らしながらフィリップは考え続けた。翔太郎と約束したのだ。必ず突破口を見つけると。

 だが、考えれば考えるほどに出口は遠のいていくようだった。抱える問題が解決しないうちから新たな問題が次々と顔を出す。

 並び立つ壁をすべて越えて、それでもメモリブレイクがうまくいくとは限らない。

 

「こんな時、ファングやエクストリームがあれば……」

 

 思わず弱音を吐く。

 Wの形態の中でもっとも戦闘力の高いファングジョーカーなら、メタルがなくとも敵の防御力を突破できる。そして『地球(ほし)の本棚』と直接リンクしたCJX(サイクロンジョーカーエクストリーム)なら、敵の能力自体を逆位相のエネルギーで無効化できる。

 だが、ファングメモリもエクストリームメモリもここにはない。

 自立稼働するそれらのメモリはいつもなら心の中で呼ぶだけでフィリップのもとへとやってくる。だがヘルサレムズ・ロットに来てからはいくら呼びかけても反応はなかった。

 ということはそもそもこちらの世界には来ていないか、もしくはどこかを破損して動けないということなのだろう。どちらにせよ、今その力に頼ることはできない。

 翔太郎の言葉通り手持ちの戦力だけで、四本のメモリだけでなんとかしなくてはいけないのだ。

 

「翔太郎なら……」

 

 思考が袋小路に入った時、翔太郎はよく別視点からのひらめきを与えてくれた。あのアドバイスが欲しい。

 そういえば、まだ出会って間もないころ。今のようにナーバスになったフィリップが翔太郎の柔軟さをうらやましがった時、翔太郎は笑いながら言っていた。

 

「俺だってお前の力がうらやましくなる時はあるさ。けど、自分にないものばっか欲しがってたってどうにもなんねえ。足りない部分は助け合うのが相棒ってもんだろ。俺たちは『二人で一人の探偵』なんだからな、フィリップ」

 

 今でも一言一句を覚えている。翔太郎を相棒として選んでよかったと、改めてそう思わせてくれた言葉だった。

 

「足りない部分は……助け合って……」

 

 無意識のうちに繰り返していた。

 その瞬間、フィリップはハッと気づく。遠く小さく、だが鮮烈な光が見えた気がした。

 

「そうだ……!」

 

 その目に再び輝きが戻った。 

 カチリ──とパズルのピースがはまるように。

 顔を上げたフィリップは、答えを導き出す探偵の顔になっていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 口元をクンと引き締めた翔太郎に、全員の視線が集中する。

 銃を突き付けられて上ずった声を出していた先ほどまでとは打って変わって、翔太郎は堂々たる態度で言葉を紡ぐ。

 

「この有様を見てわかる通り、ついさっきまで俺たちは敵と戦ってた」

 

 まわりを見回すように、この場の惨状を強調する。

 壁がえぐれ、床が剥がされ、瓦礫が散乱する通路は戦いの激しさを如実に物語っていた。

 

「敵とは、脱獄した囚人どもとは別の敵か?」

 

 獄長がたずねる。

 マグネティズムドーパントによって叩きのめされていた脱獄囚たちは、すでに看守たちに再拘束されて連行されていた。

 大半は安否が定かでなかったが、中には意識を取り戻して悪態をついている者もいたので、マグネティズムはそれなりに手加減をしていたのかもしれない。とは言いつつも、一番元気に喚いていた囚人などは腰から下が全部ちぎれて無くなっていたので、加減のほどは微妙なところなのだが。

 

「俺たちが戦っていたのは囚人じゃねえ。ドーパントだ」

「ドーパント……?」

「あー、えっと、ガイアメモリについてライブラの方から説明は?」

「大まかな機能は聞いている」

 

 まだ結界を破られたことを根に持っているのか、獄長はガイアメモリという単語に顔をしかめた。

 

「人間を怪物に変えるというのだろう。フン、この街では別に珍しくもない。ありふれた代物だ」

「あ、そう……」

 

 翔太郎から乾いた笑いがこぼれた。まあ、想定していた反応ではあるのだが。

 咳払いをひとつして、再び口を開く。

 

「その怪物を俺たちはドーパントって呼んでる。ここで暴れてたドーパントはかなり手ごわい奴だった。ハマーたちが来てくれなきゃマジにヤバかったぜ。だからまあ、二人の脱獄は非常事態ってことで──」

「それとこれとは話が別だ。私が必要と判断すれば特例として限定的な保釈を許可するが、勝手は許されん。どんな事情があろうともだ!」

 

 獄長のジロリとした視線がハマーとデルドロに向かう。

 デルドロは「だから言ったろうが、馬鹿」と舌打ちをした。ハマーの方は相も変わらずポヤヤンとした顔で笑っていた。

 

「だがこやつらの処分は後だ。左翔太郎。つまり貴様が言いたいのは、ガイアメモリを保管場所から盗み出し怪物になった人間がこの中にいるということか? 貴様とブローディ&ハマーを除外すればすなわち、私の部下の中にその不心得者がいると」

「ま、そういうことだな」

 

 空気が強張ったのがわかった。統制の取れた看守たちはざわつきこそしなかったが、明らかに動揺していた。

 翔太郎は人差し指でクイッと帽子を押し上げた。

 

「ドーパントの正体は──」

 

 言いかけた、その時だった。

 静まり返っていた通路に銃声が轟いた。

 鉛の弾丸が翔太郎めがけて空を裂く音は、無数の銃口が発砲者に向けられる駆動音にかき消された。

 次に聞こえるのは、銃弾に貫かれた翔太郎の体が床に倒れ伏す鈍い音──のはずだった。

 だが、次の瞬間に響いたのは鋭い撃音だった。

 そして弾かれた銃弾が床に跳ねる軽い金属音。

 

「大丈夫? 翔太郎」

 

 翔太郎に向けて発射された銃弾を防いだのは、片腕にだけ(デルドロ)を纏わせたハマーだった。

 

「あ、ああ。助かったぜ」

 

 誰もが翔太郎に意識を向けていたあの瞬間、誰よりも早く翔太郎に迫る危険を察知し動いたのだ。

 翔太郎が無事なのを確認してほっと息をついたハマーを、デルドロが怒鳴りつけた。

 

「だぁから! もうちっと考えて動けってハマー! ただの鉛玉だから良かったが、もしもこいつがバナルカデス呪術弾頭だったりしてみろ! 俺達そろって塵になってたぞ!」

「ごめんデルドロ。でも、君が協力してくれたから間に合った。ありがとう」

「……っ!」

 

 にっこりと笑うハマーに、デルドロは何も言えなくなった。

 そのやり取りを横目で見つつ、翔太郎は床に転がるひしゃげた銃弾を拾い上げた。

 

「この銃弾は、自白と捉えてもいいんだな?」

 

 そう言って視線を向けた相手は。

 

「マイルズ!」

 

 パンドラム・アサイラム看守長マイルズ・エッジコムだった。

 両手で大口径の拳銃を構えたままのマイルズには、この場にいる全看守スケルトンの全武装が突きつけられていた。わずかにでも動けば、その瞬間にマイルズは跡形もなく消し飛ぶだろう。

 

「どういうことだマイルズ」

 

 獄長が振り返る。

 

「弁解があるならば言ってみろ」

 

 有無を言わさぬ眼光に脂汗をかきながら、しかしマイルズは不敵に笑い口を開いた。

 

「……今しがた左翔太郎の思考を読んだところ、あの男は架空の敵を作り上げることで警備を混乱させ、その隙にブローディ&ハマーを脱獄させようと考えておりました」

「なっ……!」

 

 翔太郎はぞわりと背筋が冷たくなるのを感じた。

 同時にマイルズがにやりと口の端を歪めた。

 

(やられた!)

 

 他人の思考を読めるマイルズならば、翔太郎への発砲にいくらでも理由が付けられる。

 獄長の鋭い視線が翔太郎へと向けられた。まずい状況だ。このままではマイルズに突きつけられている銃口が、再び翔太郎へと向くことになる。

 起死回生の一手を探して焦る翔太郎。

 だが、獄長の下した命令は翔太郎の拘束ではなった。

 

「……左翔太郎。マイルズをドーパントとした理由を説明しろ。この場の全員が納得できる理由をな」

 

 強い語気。獄長は翔太郎だけを問い詰めているように見えて、しかし同時にマイルズを牽制していた。それに気づいたマイルズが何かを言おうと口を開いたが、獄長は手のひらを突きつけそれを許さなかった。白か黒かはその根拠を聞いてから判断する。言外にそう宣言していた。マイルズは「ぐっ……」と呻くように口をつぐんだ。

 長年看守長として勤めてきたであろうマイルズと突然やってきた若造。どちらの言い分を信じるかと問われれば、誰もがマイルズを選ぶだろう。

 しかし、アリス・ネバーヘイワーズは違った。

 いっさいの私情を挟むことなく厳正を貫かんとする、その姿勢に敬意を払うように、翔太郎は静かにうなずいた。

 

「最初に違和感を感じたのはドーパントと対峙した直後だ」

 

 その場の全員が、翔太郎の言葉に耳を傾けていた。

 まるでクライマックスを迎えた舞台に集中する観客のように。

 

「ドーパントと戦った時、俺はある特殊な状態だった。簡単に言えば俺の体にもう一人、別の人間の精神が憑依して一緒に戦っていたんだ。ちょうど、ハマーとデルドロみたいにな」

 

 視線を向けられたハマーが「うんうん」とうなずく。

 それを確認して、翔太郎は言葉を続けた。

 

「つまり俺は、いや()()()は二人でドーパントと戦っていたわけだ。ただしさっきも言ったように、相棒は精神だけが俺の体に入ってる状態、見た目には完全に一人の戦士だ。ところが、俺たちを見るなりドーパントはこう言ったのさ。『何者だ()()()』ってな」

 

 その瞬間、マイルズの顔から余裕が消えた。自らの失態に気づいた。そんな顔だった。

 翔太郎はそれを見逃さなかった。勝利を確信し、まっすぐにマイルズを見据えたまま指を突きつけた。

 

「そう。ドーパントは一目見ただけで一つの体に二人の精神が入ってることを見破った。そんなことができるのは、相手の思考を覗けるあんただけなんだ、マイルズ!」

 

 ピンと立てた人差し指がピタリとマイルズを捉える。

 気圧されたマイルズは歯を食いしばり、じりっと一歩足を下げた。

 翔太郎が帽子の下でニヤリと笑った。そして、今度はハマーに向けて声をかけた。

 

「なあ、ハマー。あのドーパント、変身した俺たちのことをなんて呼んだか覚えてるか?」

「……え?」

 

 固まるハマー。

 

「え?」

 

 覚えてねえのかよ! と固まる翔太郎。

 だが幸いにも、ハマーの代わりにデルドロが答えた。

 

「『仮面ライダー』だな」

「ああ、そうそうそれそれー」

「アホみてえな名前だったからよく覚えてるぜ」

「アホみてえとは何だ! 風都の人達が付けてくれた大事な名前だぞ!」

 

 デルドロの余計な一言に脊髄反射で反論した後、翔太郎は咳払いして話をもとに戻す。

 

「……いや、まあそれよりも、だ。仮面ライダーって呼び名をドーパントが知っていたってのも立派な証拠だぜ。ここでは誰にもその名を名乗ってねえからな」

 

 翔太郎だけでなく、ハマーとデルドロも証人だった。もう言い逃れはできない。

 

「さあ、そろそろ観念したらどうだマイルズ」

 

 帽子に手を当て、翔太郎が言う。

 マイルズの顔からは全ての余裕が剥がれ落ち、荒い息が口から漏れていた。それでもマイルズは最後の抵抗と言わんばかりに吠えた。

 

「ふざけるな……! 囚人の言うことなど当てになると思っているのか!」

 

 その剣幕に翔太郎はハッと気づいた。

 明らかに様子がおかしい。本来のマイルズはここまで攻撃的な性格ではないはずだ。おそらく、ランゲージの時と同様にメモリの浸食が進んでいるのだ。

 一刻も早くメモリブレイクしなければ。焦りがにじむ翔太郎。

 その間もなお声を張り上げ、マイルズは冷静さをかなぐり捨てて獄長へ訴えかけていた。

 

「奴らはここから逃げるために嘘をついています! 左翔太郎も! デルドロ・ブローディも! ドグ・ハマーも! 奴らは──」

 

 引き絞るように声を上げたその瞬間、マイルズが硬直した。二度目の、致命的なミスに気づいたのだ。

 

「誤ったなマイルズ」

 

 振り返ったネバーヘイワーズの目が、罪人はどちらであるかを語っていた。

 

「デルドロ・ブローディだけでなくドグ・ハマーまでが脱獄のため嘘をついていると、貴様は今そう言った。舐められたものだ。この私がそれしきの虚言も見破れん愚物に見えたか! 拘束しろ!」

「「はっ!」」

 

 獄長の命令が下った。

 看守たちがアーマーから一斉に拘束具を展開した。一秒と経たずに対象の自由を完全に奪う、最新鋭の捕縛システムだ。

 だが、看守長としてそのシステムを知り尽くしていたマイルズの方が、ほんのわずかに早かった。

 

 《マグネティズム》

 

 スーツの袖から滑り落ちたガイアメモリがそのまま手のひらに吸い込まれていった。

 マイルズに襲いかかった拘束具の束はそのままピタリと動きを止めた。

 そして。

 

「渡すものか……これは……この力は……私のものだアアアア!!」

 

 咆哮と共に重武装の看守スケルトンがいっせいに吹き飛んだ。半数が床にめり込み、半数は壁に叩きつけられ、そのすべてが一様に機能を停止し、中の人間たちのうめき声が充満した。

 

「全員今すぐそのアーマーから出ろ!」

 

 翔太郎が叫ぶ。

 だが遅かった。

 通路の中央でゆらりと立ち上がったマグネティズムドーパントがその両手を振り上げた。いっせいに浮かび上がったパワードスーツの群れは、中に人間を入れたままマグネティズムの操る兵器と化した。

 

(まずい……!)

 

 翔太郎がそう思った瞬間、隣で別の咆哮が聞こえた。

 

「「血植装甲(エグゾクリムゾン)!!」」

 

 ゴオッと空気を押しのけながら現れた紅い怪物が、次の瞬間には床を砕きながらマグネティズムへと突進していた。大型トラック同士が衝突したような衝撃が轟き、マグネティズムが通路の奥へと吹っ飛ぶ。床にぶつかる音がかなり遠くから聞こえた。

 距離が離れたせいか、もしくはマグネティズムの集中が切れたせいか、空中に浮きあがっていたパワードスーツが磁力から解放され、再び床にめり込んだ。

 それを見た翔太郎が再び叫んだ。

 

「ハマー! デルドロ!」

「なに?」

「なんだ!」

「二人はパワードスーツから看守たちを脱出させて、安全な場所へ逃がしてやってくれ! お前らのパワーなら無理矢理こじ開けられるだろ!」

「わかった! 翔太郎は?」

「俺はマイルズをなんとかする!」

 

 言うが早いか、翔太郎はマグネティズムが吹き飛ばされた方へと駆けて行った。

 残ったハマーはさっそく看守の救出に取り掛かる。

 と。

 

「その前に私を下ろせ!」

 

 右手の方から獄長の声が聞こえてた。そこでハマーはようやく、看守スケルトンが直撃しそうになっていた獄長を間一髪のところで救いあげていたのを思い出した。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 素直に謝り獄長を下ろす。

 囚人に救われたことが屈辱なのか、はたまた別の理由があるのか。獄長は顔を真っ赤にしながら咳払いをした。

 

「……礼は言わんぞ」

「いや言えよ」

「やかましい!」

 

 デルドロを一喝し、獄長は翔太郎が走っていった方へ目をやった。

 

「あれがドーパントか。まったく度し難い。最新鋭の看守スケルトンがこの様とは」

「どうも磁力を操るんだとよ。ハッ、こいつら揃いも揃っていいオモチャだ」

「奴はマイルズをなんとかすると言っていたが……可能だと思うか」

「さあな」

 

 ブローディ&ハマーは返事をしながら、床にめり込んでいた看守スケルトンを引っ張り上げた。

 

「さっきはものの見事にボコボコにやられてたがな」

「……だというのに、奴はいっさいの迷いなく走っていったのか」

「馬鹿なんだろ」

「ううん、違うと思うよデルドロ」

 

 怪物のみぞおちからハマーが顔を出した。

 

「翔太郎言ってたじゃん。救いたいんだって。きっと翔太郎は、そうしないと『辛い』んだよ。あの時のデルドロみたいに」

「お前……」

「そう望むから、()()はいくんだと思う」

 

 どこか遠くを見るような目のまま、ハマーは看守スケルトンの装甲をメリメリと力任せに引き剥がした。

 そして中の看守が生きていることを確認して、フッと微笑んだ。

 

「それが『一心同体の仮面ライダー』なんじゃない?」

「……」

「……」

 

 デルドロも、獄長も、何も言わずに翔太郎の駆けて行った方を見つめていた。

 

「さ、デルドロ! 早く終わらせて翔太郎たちの応援に行こう!」

 

 ハマーは今度はにっこり笑って元気に言った。

 そして次の看守スケルトンをつまみ上げ、またメリメリと装甲を剥いだ。

 

「……それを馬鹿だっつうんだ」

 

 デルドロは小さくつぶやいたが、その声はちぎれたアーマーが床にぶつかる音でかき消された。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 足を止めた翔太郎の前で、マグネティズムがゆっくりと起き上がった。

 

「グググ……」

 

 もはや人の言葉さえ忘れたかのように低い唸り声をあげるマグネティズム。メモリはより深くマイルズを侵食し、明らかにその凶暴性を増していた。

 しかし戸惑いはなく、まして恐怖もなく。

 翔太郎はまっすぐにマグネティズムを見据えたまま、ダブルドライバーを装着した。

 

「いけるか。フィリップ」

(ああ。いこう翔太郎)

 

 揺らがない意思を互いに確かめ合い、ガイアメモリをかかげる。

 

 《ルナ》

 《ジョーカー》

 

「(変身!!)」

 

 ドライバーからほとばしった光に、マグネティズムが思わず顔を背けた。

 

 《ルナジョーカー》

 

 光の中から黄色と黒のWが現れた。

 このWは自分に勝てない。朧げな意識でそう感じ取ったマグネティズムは唸るような笑い声をあげた。

 だが、それでもWは怯まなかった。

 

「この野郎、余裕って顔だな。で、突破口は見つかったのかフィリップ?」

「攻略法は必ず見つけると言ったはずだよ翔太郎。もっとも、今回は確かに手間取った。改めて物理学の奥深さを学んだ気がするよ」

「物理学ねえ。物理学って聞くと思い出す顔があるな」

「ああ彼か。きっと彼ならこういう時、ビシリとキメてあの台詞を言うんだろうね」

「けどまあ、俺たちがキメるのはやっぱこっちだろ」

 

 咆哮するマグネティズムに向けて半身に構えたWは左手をスッと掲げた。

 そして示した指の先に敵の姿を捉え、言い放った。

 

「「さあ、お前の罪を数えろ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おかげさまで、総合評価が2000を超えました!
お気に入りも1000に迫る人数の方に入れていただいて、うれしい限りです!
本当にありがとうございます!
これからもどうぞ、仮面ライダーW「CCC」をよろしくお願いします!



中盤、フィリップがぶつぶつ言っていた電磁気学の用語は基本的に作者の超にわか知識です。まあ、その、なんとなーく雰囲気でお願いします笑

あとキュリー温度4000℃もかなりぶっ飛んだ数値になってますがご容赦ください!いや、最初は1000℃ちょっとにしようと思ったんですけど、ヒートの攻撃3000℃って聞いて、いやじゃあ余裕で耐えれるやーんってなっちまったんですよ。まあ、ガイアメモリのメタルだし、これくらいぶっ飛んでてもいいよね。答えは聞いてない!


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