仮面ライダーW 『Case of Chaotic City』 作:津田 謡繭
Delicious coffee is indispensable to meeting in 『Libra』
◇
──『人狼』と聞くと、一般的にはオオカミ人間を思い浮かべるんでしょうが、HLではしばしば別な種を表す言葉として用いられています。
彼らは『不可視の人狼』と呼ばれ、見た目こそ人間と変わりませんが、その名の示す通り自在に姿を消せるそうです。それだけでなく、匂い、音、重さ、はては存在そのものまで
うわさではその隠密性を利用した、人狼のみで構成された諜報機関が存在する、なんて話もありますね。
まあ、さすがにそこまでいくとほとんどオカルトですよ。エメリナにも「スパイ映画の見すぎね」なんて笑われちゃって。
あ、妻の話します? エメリナは笑顔がホントに素敵な女性で──(割愛)──
──第三種亜人研究の第一人者 ネイト・アンダーソンのインタビューより抜粋
◇
この世で最も恐ろしいものはなんであろうか。
一瞬で数十万人の命を奪う兵器か。
人知及ばぬ闇を体現した魔術の類か。
はたまた、そんな禁忌すら一笑に付す不死身の怪物か。
ある者はこう考えた。
この世で最も恐ろしいものは兵器でも魔術でも怪物でもなく、それらを前にしてなお舌なめずりを止めない人間の欲望そのものではないか、と。
どうやらその考えはこの街の出現によって証明されてしまったらしい。
最初、人類は唐突に口を開けた深淵を恐れるだけだった。しかしやはりと言うべきか、人々は次第に
それはまるで、焚火に群がる羽虫のごとく。その炎が我が身を焦がすことなど考えもしないといった愚かさで。
結果、ヘルサレムズ・ロットは人異種族の区別すらなく、あらゆる凶悪犯罪者、テロリスト、巨大企業、宗教団体、非合法組織、マフィア、難民、そして各国諜報機関がひしめき合う、地球上で最も剣呑な緊張地帯となった。
その危うさたるや。路地裏のチンピラが指をかける銃の引き金が、そのまま世界大戦の引き金となるほど。
だが起こるのが人間同士の
異界との均衡が奇跡的なバランスで保たれているこの世界において、真に危惧すべきはその均衡が崩れることだ。
一歩間違えば人界そのものが
それを許してはならない。
バランスを保つものがいなければならない。
霧に紛れて。人知れず。秘密裏に。
世界の均衡を守るため、暗躍する秘密結社。
それが──
「──我々『ライブラ』だ」
そう説明するクラウスの言葉を、翔太郎とフィリップは半ばあっけにとられながら聞いていた。
大通りからは少し外れた路地を歩きながら行われた、ヘルサレムズ・ロットの現状とクラウス達の組織の解説は、二人が予想していた2,3倍は大事だった。
「ライブラ……天秤を意味する言葉だね。なるほど、世界の均衡を保つ組織にはピッタリの名前だ」
「名前はともかくとしてよ……。そんな情報、簡単に俺達に教えちまっていいのか?」
「ヤバいに決まってんだろアホか」
すぐ後ろを歩いていたザップが耳を小指でほじくりながら口を挟んだ。
「俺達の活動は厄ネタをつかみ次第、そこに押しかけて無理矢理ぜんぶをご破算に持ってくっつう、いわば究極のお邪魔虫だ。当然、俺達を憎んで恨んで殺してえってバカ共がわんさかいやがる。数え始めたらそれこそケタが4つでも足りやしねえ」
小指にフッと息を吹き、頭の後ろで手を組む。
「つーわけで、だ。ライブラの情報にゃ末端でもヘタすりゃ億単位の価値がつく。わかるか? 今この瞬間から、テメエらの脳ミソはいつ誰に狙われてもおかしくねえってこった」
「やめたまえザップ」
大口を開けて舌をミミズのようにビロビロ動かしながら脅かすザップをクラウスがたしなめる。
「安心してほしい。君達の身の安全は我々が保障する」
「だそうだよ翔太郎。よかったじゃないか」
「その言葉だけで心から安心できるほど、俺は能天気じゃねえってフィリップ……」
路地の壁に大量に飛び散っている赤と青とショッキングピンクの模様を「どうかこれが血痕じゃありませんように」と横目に見つつ、翔太郎は深くため息をついた。
話を続けながら歩くうちに、道はどんどん狭く入り組んでいった。
常人に比べて二回り以上の体躯をもつクラウスにはなんとも窮屈そうである。
秘密結社というからにはその本拠地が目立たぬ路地裏にあるのは納得ではあるが、もう少しまともな通り道の確保はできなかったものか。
そんな疑問の浮かんだ翔太郎だったが、どうやらフィリップも同様に感じていたらしい。
「いつもこんな道を? 大変だね……」
突き出した低い屋根に頭をぶつけないよう身をかがめながら、前を歩くレオにたずねる。
「あ、いや、いつもはもっと通りやすい場所の『入り口』を使うんですけど、ちょうど先週からここ以外メンテナンス中で使えなくなってて……」
「……? まるで事務所への入り口がいくつもあるみたいな言い方だ」
「実際その通りなんすけど……僕も理屈はよくわかってないんで詳しい説明はちょっと。こればっかりは体験してもらった方が早いんじゃないかな」
そう言ってレオは足を止めた。前を見ればクラウスとザップも立ち止まってこちらを振り返っている。
どうやら目的地に到着したらしい。
「……ここか?」
嘘だろ、という顔の翔太郎。
5人がたどり着いたのは狭い路地の行き止まり。錆びついた鉄のドアの前だった。
ドアがくっついているのはどう見ても築30年は経っていそうな崩れかけのアパートだ。いくらカモフラージュが必要とはいえ、これを世界を守る秘密結社の本部というのはさすがに無理があるのではないか。
そんな翔太郎の様子を気にも留めず、ザップがドアノブに手をかける。
「5人だとさすがに狭苦しいからな。俺と旦那が先に行ってる。お前は後からそいつら連れてこい」
「うぃーす」
ギギイ、と蝶番を軋ませながらドアが開く。
その先にあったのは予想していたようなコンクリートの玄関ではなく、木製の扉で三方を囲まれた1m四方の小さな部屋だった。
もう何がなんやらという顔の翔太郎とフィリップを尻目に、クラウスとザップは部屋に入り中からドアを閉める。
「んじゃ、僕らも行きましょうか」
レオが二人を振り返り、再びドアを開けた。
クラウスとザップが中に入って数秒。しかしすでに二人の姿はない。
「どうぞ」
ここまで来たらもう何も言うまい、と。
翔太郎とフィリップは部屋の中へと足を踏み入れた。
レオがドアを閉める。
その瞬間、錆びついた鉄のドアは、他の三方と同じ木製の扉へと姿を変えた。まるで最初から自分はこうであったと言わんばかりに。違和感なく、当たり前のように。
「えっと、今日は……」
そうつぶやいてレオが手をかけたのは、あろうことか正面の、今まさに閉めたばかりの扉だった。
部屋が動いた様子は一切なかった。エレベーターのように上下に動いた感覚も、向きが変わったような違和感も、わずかな振動さえ。
当然、扉を開ければさっきまでの路地があるはずだ。
だが──
「ようこそ翔太郎君、フィリップ君。歓迎しよう」
クラウスの声が出迎える。
目に飛び込んできたのは汚く狭い路地ではなく、洒落た雰囲気の広い部屋だった。
いかにもモダンなつくりの、チェス盤のようなチェック柄の床。赤を基調とした壁。そこに並ぶ無数の本棚。
奥の壁には数か所に大きなガラス窓がはめ込まれ、霧深い空からも十分な量の光を部屋の中に取り入れている。
そこに映る景色は、周囲の建物を一様に見下ろす超高層ビルのそれだ。
「……」
翔太郎は言葉を失っていた。
といっても、「裏路地のドアを開けて中に入って閉めてまた開けたらそこは地上数百mでした」という摩訶不思議な現象それ自体に驚いていたのではない。
その普通なら頭がおかしくなったのではないかと思えそうな状況を「まあここならそんなこともあるか」と普通に受け入れている自分自身にあきれていたのだ。
「さあ、座ってくれ」
クラウスにすすめられるがまま、柔らかなソファに腰掛ける翔太郎とフィリップ。
「さて、さっそくで悪いのだが話を聞かせてもらいたい。君達について。そして、ガイアメモリについて」
「その前にひとつ質問しても? クラウスさん」
フィリップが軽く手をあげる。
「なんだねフィリップ君」
「なぜアナタと一緒にいたはずのザップが、全身の関節を変な方向に曲げてそこに転がっているんです?」
「ああ」
クラウスは床の上で知恵の輪のようにねじれているザップに視線を向ける。
「彼は隙あらば私を倒そうと襲い掛かってきてね。それも本気で命を狙ってくるので厄介なのだ。おかげでこちらとしても、手加減なく返り討ちにしなければならない」
翔太郎が頭をひねる。
何を言っているのかよくわからなかったが、ようするにザップの自業自得ということだろうか。
「今日は扉を開けた瞬間、後ろから殴りかかってきた」
なので裏拳で顔に2,3発撃ちこんだのだが、あきらめずに関節技を仕掛けてきたのであちこちねじって動けなくした、とのこと。
なるほど、よく見てみれば顔面も大きく腫れていた。初撃の重さがうかがえる。
それを食らってなお攻撃を続けるあたり、やはりザップもそうとう頑丈なのだろう。今回はそのせいでさらに悲惨なことになったようだが。
「まあクラウスさんと先に行くって言いだした時からそんな気はしてましたよ」
ジトっとした視線をザップに向けつつ、レオが口を挟む。
その様子からしてザップのこの惨状は毎度のことらしい。
「そういうわけなので、どうか気にしないでほしい」
「わかりました」
フィリップは今の説明で(どういうわけか)納得できたようだ。
視界のはしで痙攣しているザップのことを本当に気にもかけず、クラウスに向き直って自分たちの状況を説明し始めた。
「簡単に言えば、僕たちは別の世界から来た人間です」
この状況においても変わらないフィリップのその切り替えの早さを、翔太郎は少しうらやましく感じた。
◇
「別の世界から来た?」
淹れたてのコーヒーを口に含みながら
身に着けているのは高級感ただようフォーマルスーツ。装いに一分の遊びもないクラウスに比べると、その着こなしはいくらか余裕があるように見える。
スラリと伸びた長い脚と、若干やつれ気味ではあるが非常に端整な顔立ちは、一見するとまるで高級ブランド専属のファッションモデルのようだ。
だが顔の左側にある大きな傷と、涼しげでありながらもまったく隙のない立ち振る舞いが、彼もまた
男の名はスティーブン・
ザップ曰く、クラウスの補佐でライブラの番頭役。
彼が現れたのは翔太郎たちが事務所へとやってきて30分ほど後だった。クラウスに連絡を受けて、事情を聴くために来たそうだ。
「別の世界っていうのは
「正確には我々の世界とは異なる歴史を辿った世界線、言うなれば並行世界だそうだ」
ソファから少し離れたデスクに座るクラウスが、スティーブンに向かって説明する。
「彼らの世界では『NY大崩落』は起こっておらず、ヘルサレムズロットも存在していない」
「そりゃなんとも平和なことだね。うらやましい限りだ」
スティーブンは話半分に、といった様子でコーヒーを見つめていた。
「二人はその世界の風都という日本の都市から来た。何者かによって持ち去られた、このガイアメモリを追って」
デスクの上にはバラバラになったヘアメモリが置かれていた。事件の後、クラウスが回収しておいたものだ。
クラウスの体格にも見劣りしない立派なアンティーク調のデスクはガラス窓のすぐ前に設置され、差し込む光がメモリの残骸にうっすらと陰影をつけていた。
「君はどう考える? スティーブン?」
クラウスが問いかける。
スティーブンは片手をポケットに突っ込んだままクラウスを振り返り、やれやれという表情で再びコーヒーをすすった。
「どう考えるって。それはそのガイアメモリとやらを持ち去った『何者か』についてかい? それとも、彼らの話そのものの信憑性について?」
口調は軽いがその目は笑っていない。まだ二人を完全に信用しきってはいないのだろう。
番頭役という立場もあってか、純粋でまっすぐなリーダーと異なり、彼は非常に慎重かつ思慮深い男のようだ。
まあそうでなくとも、いきなり現れた並行世界から来たと自称する二人の日本人に不信感を抱くのは、当然といえば当然であるが。
だが、そんな彼にクラウスはきっぱりと言い放った。
「無論、前者だ。二人がいなければ今朝の事件の被害は甚大なものになっていただろう。彼らの協力があったからこそ、被害はわずか3ブロック間にとどまり、さらには危険にさらされた罪なき一人の女性を救えたのだ。この二人が信頼できる人間だと判断するには十分な働きだ」
大きな拳を握り締め、澄んだ瞳で天を仰ぐクラウス。
スティーブンは大きくため息をつく。
「ま、そう言うだろうとは思ってたけどね。OK。ならまあ、
その様子から察するに、彼もクラウスの超がつくほどお人好しな性格をよく知りつつ、半ばあきらめ気味にそれを受け入れて付き合っているらしい。
おそらくは真逆に近い性格のクラウスとスティーブン。それでも二人の間には、長い付き合いを感じさせる互いへの確かな信頼が見て取れた。
翔太郎はほんのりと親近感を覚える。
自分とフィリップもはたから見ればこんな感じなのだろうか。
「しかし……並行世界からやってきたというのが本当だったとして、だ」
スティーブンが翔太郎とフィリップの正面に腰かける。
「それもその、ガイアメモリの力だって言うのか?」
「ええ。並行世界の概念をプログラムしたメモリ、パラレルメモリの力で」
「もっとも、メモリブレイクで閉じた裂け目をもう一回こじ開けたのは、こっち側のやつみたいだけどな」
「うーん……」
ひざの上で手を組み、神妙な顔つきでうなり始めるスティーブン。
「その様子じゃ、ヘルサレムズ・ロットでもあり得ないことなのか? 並行世界うんぬんってのは」
「あり得ないかと言われれば、答えはNOだろうな。まったく辟易することこの上ないが、世界はなんでも起こる。ヘルサレムズ・ロットに限ったことでもなく、ね」
「でも逆に言えば」
前のめりになって、フィリップ。
「あり得ないことではないが、そう簡単じゃないということだね?」
「まあなぁ。以前、時間を超えて十年後の未来から来たって人間ならいたが……」
なぜかザップを横目で見るスティーブン。
ザップはバツが悪そうに、口をとがらせてそっぽを向く。口笛を吹きたいのだろうが、まだ顔の腫れがひいてないせいで歯の隙間からスースーと空気が漏れるだけだ。
スティーブンは目線を戻し。
「それを可能にしたのは人間じゃ観測すらできない次元超越的神性存在だ。契約した輩もそれなりの代償を支払ったんだろうに」
彼の言わんとしていることはなんとなくわかる。
すなわち、それをさしたるデメリットもなしで可能にしているガイアメモリには──
「限定的にとはいえ、神にも迫る力があるってことだ。このスニッカーズサイズのUSBメモリに」
深く深くため息をつくスティーブン。
そんな中、レオが首をかしげた。
「でも、そんな危険なものをどうして壊さずにわざわざ保管してたんですか? さっきの話だと壊そうと思えば物理的に壊せるんですよね?」
「そりゃおめー、利用価値があるからに決まってんじゃねーか」
答えたのはザップだった。
「うまく使やあ、それこそ莫大な利益と力になる。おまけにそれを作れるミュージアムとかいう組織はそこの二人が潰しちまってるときた。おいそれと壊せるかよ。もったいなくて」
「そんなもんですかね……」
「だから
フッと息をつくように、皆が一様に黙り込んだ。
その場の全員が経験として知っていた。なにかしらの事件が起きる時、その規模にかかわらず、根底にあるのはいつだって人間の欲望なのだ。
と、訪れた空白をそっと埋めるように。
「コーヒーのおかわりはいかがですか?」
老練さただよう穏やかな声が翔太郎とフィリップにたずねた。
テーブルの上には二人の分のカップが置かれていたが、すでに中身は空だ。
「あ、いただきます」
「僕ももらおう」
返事をするとすぐにカップにコーヒーが注がれた。
湯気と一緒に、ふわり、と香ばしく甘い香りがあふれる。上品でいてなおかつ力強く、鮮烈だがけっして主張しすぎない。心が安らぐ香りだ。
翔太郎はふと、今は亡き師の淹れてくれたコーヒーを思い出した。このコーヒーとはまったく違うものではあったが、彼の淹れるコーヒーも飲む人に安らぎを与えるものだった。
「ありがとうございます。ギルベルトさん」
「いえいえ、お気になさらず」
コーヒーサーバーを持ったまま微笑んだのは、なんとも特徴的な容姿をしている老執事だった。
一言で言えば、ミイラ男。
優しげな目元と口髭をたくわえた口まわり以外は、首まで包帯でぐるぐる巻きだ。ピンと燕尾の伸びた執事服の下も、おそらくは同様に包帯が巻かれているのだろう。
だが不思議なことに、そんなインパクトの強い外見ながらも彼にはまるで存在感がない。最初にコーヒーを持ってきてくれるまで部屋の中にいたのに気づかなかったほどだ。
ちょうど窓際に並べられた観葉植物のように。静かに主に仕え、そよ風のような自然さで客人をもてなす。けっして出しゃばらず影のように、それでいてあたたかに。執事として、崩れることのないだろうその姿勢はある意味、究極に誇り高いとも言える。
初見でその見た目にぎょっとはしたが、すでに翔太郎はこの老執事に敬慕の念を抱いていた。翔太郎の憧れるハードボイルドとは少し違うが、その静かなプロ意識はなんとも格好が良いではないか。
ついでに言えば、自分も彼のレベルでコーヒーを淹れられるようになりたい、とも思っていた。脳裏に(一方的に対抗心を燃やす)ライバルのコーヒーを淹れた時の(翔太郎からすればそう見える)ドヤ顔がちらつく。
「私の顔になにかついておりますでしょうか?」
翔太郎の視線に気づき、首をかしげるギルベルト。
「あ、いや別に……」
「ああ。そういえば包帯がついていましたね」
「んっぶ……!」
すっとぼけたような顔で言うギルベルトに、思わずコーヒーを吹き出しそうになる。
自分から見た目のことを持ち出してくるのはずるい。
こういう茶目っ気もある人だったか。
空気が少し和やかになったところで、「話の続きですが」とフィリップが口を開いた。
「実はヘルサレムズ・ロットに持ち込まれたメモリは、さっき話した普通のガイアメモリとは少し違うものだ」
スティーブンが顔の前で手を組む。
「と、いうと?」
「クラウスさん達には説明したことだけれど、ミュージアムとして活動していたのは風都の名家
ほんの一瞬だけ、『園咲』と口にしたフィリップの目線が揺れた。
だがそれに気づいた人間は、特別な目を持ったレオと、事情を知る翔太郎だけだった。
「そのガイアメモリが見つかったのは、園咲家の屋敷の地下。無数のセキュリティで守られた特殊金属製の金庫の中に」
「厳重に保護されていたって言うより、あれは封印されていたって言った方がいいかもしれないな」
「封印?」
スティーブンが顔をしかめる。
「つまり、作った本人達ですら持て余していたガイアメモリか」
「その通り」
うなずく翔太郎とフィリップ。
「ミュージアムの研究記録からもデータが削除されていたメモリだ。正式な名称は『Type‐
「通称『
「──ミュージアムが作り出した、
お察しの通り、ギルベルトさんの大ファンです笑
あまり山のない回でしたが、お楽しみいただけましたでしょうか。