駅前広場
計「はーい、みんな集合!! これからバスに乗るから集まって〜」
文「点呼をとりますので名前を呼ばれた人は返事をしてください」
私達は目の前で元気いっぱいにはしゃいでいる子供達に向かって呼びかけた。
私達は今日、子供会の芋煮会に引率者として参加している。
目の前で無邪気にしている子供達を見て私達は心が洗われる思いだった。
例の教会は元々かなりの手抜き工事が施されていたらしく、倒壊もそれが理由ということになり、シスターはそれに巻き込まれて死亡した。ということに一般的にはなっている。
施設にいた子供達は別の施設に移ることとなり、約一名を除きシスターが死んでしまったことでみんな悲しい思いをしているらしい。
もっとも真実を知っている私達にしてみれば、子供達が醜い真実を知らなくて済んだだけでも良かったと思うしか無かった。
「お〜い、緑野、青山」
私達を呼ぶ声に振り返ってみると生徒会顧問の横井先生が息子さんを連れていた。
計「先生!? どうされたんですか」
横井先生「どうもこうも無いだろう。自分の子供を行事に参加させるのと、同行する保護者だよ。俺だってこの町内に住んでるんだからな。それと…」
文「それと…?」
横井先生「自分の受け持ちの生徒のフォローだな。後一人同行させるがいいだろ」
別にそれぐらいは構わないが、猛烈に嫌な予感がした。
文「えっと、どなたが来られるのですか?」
横井先生「ああ、お前らもニュースで見たと思うが最近倒壊した孤児院があっただろ。あそこに住んでた奴なんだ。ん、来た来たおーいこっちだ」
先生が声を掛けた方を見てみると案の定だった。
映子「ふあ〜あ、ねみい。ったく何でこんなんに参加しなきゃなんないの?」
横井先生「まあ、そう言うな。子供達の引率なんて慣れてる方だろ。それに気分転換にもなるぞ」
映子「ま、ただ飯食わしてくれるんなら別に文句は言わねえけど」
確かに横井先生としては、不登校気味である紅さんを行事に参加させることで、社会復帰させようと考えたのかもしれないし、事情を知らないのだから例の事件で気を病んでいるかもしれないと思うのもわかる。でも…
映子「あれ? 生徒会長様ですか。どーもお久しぶりでっす」
計「え、ええ、こんにちは」
文「ど、どうも」
私達は引きつった顔で紅さんに挨拶した。
横井先生「ん? 何だ。最近会ったのか」
挨拶を交わす私達を見て横井先生がなんともなしに尋ねてきた。
映子「うん、最近よくゲームで一緒に遊ぶんです。ね?」
横井先生「ほう、そうかそうか。いや学校の生徒と仲良くなってるならいいことだ。 お前達も気を使ってくれてありがとうな」
紅さんの言葉に横井先生は嬉しそうに微笑んだ。
計「い、いえ大したことはなにも…」
せっかく褒めてくれたというのに私は全然嬉しくなかった。
バスの中
「おーかをこーえゆこーよ♪ くちぶーえふきつーつ♪」
大合唱をしている子供達や私達を乗せて、バスは走っていた。
皆ハイテンションであり実に楽しそうなのはいいのだが、私と文は気が気で無かった。
文(呉越同舟とはまさにこのこと…)
計(神様、どうか何事もありませんように)
もはや神頼み以外ない私達は冷や汗でびっしょりだった。
ちなみに当の紅さんはと言うと
映子「きったねえな、ほれエチケット袋。それから窓の外見てろ」
バスに酔った先生の子、勇太くんの介抱をどこか面倒そうにぶっきらぼうな口調で行っていた。
勇太「おね゛えぢゃんあ゛りがどう」
介抱されている勇太くんは割と紅さんに感謝しているようで、その光景を見ておられた横井先生も
横井先生「はは、なんやかんやでお姉さんらしいことをするんだな」
と微笑ましく見守っておられた。
そんな光景を見て私達は複雑な思いに駆られて顔を見合わせた。
とある河原
バスで二時間ほど揺られ続けて、私達はある河原にやってきた。
男の子A「すっげー!! 水がきれー」
男の子B「魚が泳いでるのが見える。後で捕まえようかな」
女の子A「周りの景色もきれい」
女の子B「ホント空気もおいしい」
子供達は都会から離れた自然が珍しいようで、目が輝いていた。
私達も元々は、都会の喧噪を離れた自然を楽しむつもりでいたのだが
映子「ふあ〜あ、やっとついたか。ただバスに乗ってるだけって退屈で仕方ねえな」
計(た、退屈って…)
文(まさか、こんなところで…!? なんとしても阻止しないと)
彼女の一挙手一投足に戦々恐々であり、とてもそんな余裕は無かった。
そんなだから、いざ子供達と料理を始めても
計「痛っ!! 指切った」
紅さんの方に意識が集中してしまい、材料を切っていれば手を滑らせるは
女の子「お姉ちゃん、これ味見して」
と笑顔で近づいてきた子にもまるで気がつかず
女の子「どうしたの? ねえお姉ちゃん」
と体を揺すられてようやく気付いて
文「あ、ああごめんなさい。つい考え事をしてしまって」
と謝る始末である。
そんな私達をよそに紅さんは川辺で寝そべっており
勇太「ねえお姉ちゃん、お芋の皮むき手伝ってよ」
と、ヘルプを求められても
映子「あんまし周りに頼ってばかりじゃなくて、自分でやってみろ」
勇太「だって俺男だもん。いいじゃん出来なくても」
映子「ばーか、男だから料理が出来なくていいってんじゃ無いんだよ。少しぐらいできた方が女にもてるぞ、ねえ先生」
とまあ、サボっているのか子供達に自立心を養わせているのかよくわからない会話をしていた。
そんな彼女に横井先生も苦笑いをしていた。
横井先生「まあ、確かにそうかもな…」
計「はあ、とりあえず今のところは無事だけれど…」
文「ええ、気が抜けませんね…」
食事の最中も、私達はため息ばかりでろくに子供達と会話もできなかった。
そんな私達を見て
横井先生「一体どうしたんだ? ぼんやりしていることが多いみたいだが」
計「いえ、別に大したことは…」
ホントのことが言えないためそう言うしかなかったのだが
横井先生「嘘つけ、悩み事があるなら話してみろ。力になれなくても自分たちで抱え込むよりはいい」
先生の優しい言葉をむげにも出来なかったため、ポツポツと話し始めた。
文「いえ、最近変な事件が多発していますから…」
計「もしかしたら、ここでも何か起きないかと心配で…」
私達は具体的な表現を避け、当たり障りない程度の話をした。
横井先生「ああ、確かにな。何でもネット上じゃドレスを着た変な色の髪の女の子が犯人だって噂もあるが、お前達が気にしても仕方ないことだ。今日はゆっくり楽しめ」
計「はい…」
そんなこんなで芋煮会は進んでいき、食事を終えた後のレクレーションをしようかという所まで来た。
しかし、その前に私はある決心をした。
計「紅さん、少しお話があるんですけれどいいですか」
私達は相変わらず眠そうな目をしている紅さんに話し掛けた。
映子「ん〜な〜に〜?」
実に気の抜けたその返事にイラつきを覚えたが、あえて無視して話を続けた。
文「ここではなんですので場所を変えて話をしたいのですが」
映子「え〜めんどくさ〜い。ここじゃ駄目なの〜?」
実に面倒くさそうに聞き返してきた紅さんに対して
計「いいから来てください! 大切な話なんです!!」
腕をつかんで無理矢理人気の無い方へと連れて行った。
映子「イテテ。暴力反対」
計「うるさい!!」
紅さんの態度にイラつき、最近の出来事から余裕を無くしかけていた私達は気がつかなかった。
勇太「あれ? お姉ちゃん達何処行くんだろう」
勇太君が私達の後をついてきていたことに。
人気の無い林に紅さんを連れてきた私達は、開口一番尋ねた。
計「あなたは何を企んでいるの? 一体何をするつもりなの?」
映子「あのさ〜、このシチュエーションじゃ、普通それあたしの台詞じゃない? 所謂イジメって奴?」
文「ふざけないでください!! あなたが今までしてきたことを考えれば、わかるでしょう!!」
私達は自分でもわかるほどの剣幕で紅さんに詰め寄ったが
映子「はて? なんかやったっけ?」
小首をかしげるだけだった。
その態度に、私はわき上がる感情を必死に押さえて続けた。
計「わからないというの? じゃあ一体あなたはここで何をするつもりなの!!」
すると紅さんは当たり前のことを聞くなというように答えた。
映子「何って…、芋煮会だろ。次にやるのがレクレーションのゲーム。何? なんか特別な余興に付き合えっての?」
『ゲーム』その言葉に私達は敏感に反応した。
文「やっぱりあなたはまたゲームをするつもりなのですか!! 子供達を巻き込むことは絶対にさせません!!」
すると紅さんは、頭を掻きながら面倒そうに返した。
映子「あ〜、そういう『ゲーム』はする気はねえよ。ガキども相手にしても退屈紛らしにもならねえ」
計「信じられるもんですか、そんな話が!!」
文「絶対にあなたを止めてみせます!!」
そう宣告すると、私達は心臓の位置に手を当てて叫んだ。
計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」
次の瞬間、光とともに私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。
私は右腕でX字に空を切ると力強く叫んだ。
エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」
ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声で名乗った。
ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」
「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」
変身完了した私達を見て、紅さんはため息をつきながらペンライトを取り出した。
映子「はあ〜。どう言うつもりか知らねえけど、売られたケンカなら買ってやるよ」
そしてペンライトをクルっと回し高々と掲げた。
映子「プリキュアソウル・インストール!!」
そう叫んでライトのスイッチを入れると、彼女の体は赤黒い光に包まれた。
その光が収まった時、そこにいたのは血のように赤い髪をなびかせた黒いドレスの少女だった。
ポイント「真っ赤に染まった血の池地獄 キュア・ポイント!!」
エグゼ・ワード「「はあああ!!」」
お互いに変身が完了すると私達はポイントに向かっていった。
しかし、ポイントは私達のパンチやキックをのらりくらりとかわすだけでいっこうに攻撃を仕掛けてこなかった。
エグゼ「どうしたの? かかってこないの?」
ポイント「だってさぁ、別にやる気も無いし。下手に暴れて疲れるだけ損だろ」
と私の問いかけに実にやる気のない口調で返事をした。
ワード「敵を前に戦わないというのですか!!」
というワードの詰問にも
ポイント「敵? お前らが? ばーか違うよ。お前らはゲームをするときのお邪魔キャラであって、敵じゃない。倒しちゃったら後のゲームがつまんなくなるじゃん」
との返事だった。
ポイント「大体さぁ、あたしは退屈紛らしにゲームしてる訳だけど、お前らは何の得があって戦ってるわけ? フレアってやつに頼まれでもしたの? 戦えって? もしそうなら、そいつも結構身勝手だよな」
ワード「だまりなさい!! フレアさんの悪口は許しません!!」
エグゼ「のらりくらりとそんなことをよくも!!」
ポイントの態度に私達はイライラし、躍起になって追いかけ回したが、やる気をいっこうに見せない彼女に適当にあしらわれるだけだった。
ワード「くっ、この!!」
ポイント「あのさあ、鬼ごっこがしたいならガキどものレクレーションでやりゃいいだけだろ。早く戻ってやった方がいいんじゃない」
そんな私達を見てポイントはそう言った。
エグゼ「ふざけるのもいい加減にしなさい!! あなたをこの場で倒して二度と変身できないようにするんだから!!」
ワード「そうです!! 力を持ったからってそれで人を傷つけるような人に力を持たせられません!!」
ポイント「どっちがふざけてるんだか。あーもう付き合いきれねえ」
頭を掻きながらうんざりしたように、そう言うとポイントは片手で小さな赤黒い玉を作った。
ポイント「あばよ。プリキュア・プレッシャーボール!!」
そしてそのままその玉を地面に叩き付けた。
当然玉は爆発して、目もくらむ光ともうもうとした煙が舞い上がった。
エグゼ「くっ、ゲホゲホ。煙幕!?」
ワード「どこにいったかわかりません!!」
目の前で起きた爆発の起こした光と煙に、私達は完全に視界を奪われた。
しかし、耳を澄ませるとがさごそと何かが動く音が聞こえた。
音のした方に振り向くと、煙でうっすらとしか見えないが誰かが木の影にいるようだった。
それを確認するや否や、私は両腕に力を込めた。
エグゼ「見つけた!!」
両腕を、戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生した。
エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」
???「うわあー!!」
エグゼ「えっ?」
必殺技が炸裂した時に聞こえた悲鳴に私達は耳を疑った。
その声がどう聞いても男の子の声だったからだ。
そして、煙が晴れるとそこに倒れていたのは…
エグゼ「ゆ、勇太君!?」
ワード「なぜここに!? そ、それよりも!!」
私達は大慌てで勇太君のところに駆け寄った。
不幸中の幸いにして私の必殺技は直撃だけはしなかったようだったが、勇太君は血まみれになって気絶してしまっていた。
エグゼ「な、なんでこんなことに…」
目の前のあんまりな現実に私の頭は混乱していた。
ワード「落ち着いてください。まずは応急処置を。早く止血をしないと!!」
ワードは気絶している勇太君の服を破いて包帯を作ろうとしていた。
しかし次の瞬間
横井先生「お前ら、俺の息子に何をするんだ!!」
横井先生が飛び込んできてワードを突き飛ばした。
エグゼ「なっ!? せ、先生」
横井先生「勇太! しっかりしろ勇太!!」
先生は勇太君を抱きかかえて必死に叫んでいた。
そして私達に凄まじい憎悪の目を向けてきた。
横井先生「お前らが…よくも勇太をこんな目に…」
私達はその目と低い声に慌てた。
ワード「ま、待ってください。私達はその子を助けようと…」
横井先生「黙れ!! こんな大けが、こんな林の中じゃ誰かにさせられなきゃする訳が無いだろう!! 俺は見たんだ、お前達が勇太を襲っているところを!! それにお前らみたいな奴らが最近事件を起こしてるってこと知らないとでも思うのか!! 」
おそらくさっきのワードの行為は遠目には襲っているように先生には見えたのだろう。
おまけに事実として勇太君を怪我させたのは私だ。
エグゼ「ち、違うんです…ワードは本当に…」
私の否定の言葉はどこかぎこちなく、それが先生の感情を逆なでしたらしい。
横井先生「黙れ、人殺し!! こんな子供を傷つけて何が嬉しいんだ!!」
そう怒鳴ると先生は足下の石を私達に投げつけてきた。
エグゼ「わっわっわっ、ちょっと話を…」
なんとか話をしようとした私だったが
ワード「仕方ありません。ここは…」
話が通じ状態ではないとばかりに、ワードは私の手をつかんで光の玉になって飛びあがった。
横井先生「逃げるのか!! ってええいそれどころじゃない。勇太すぐに病院に連れて行ってやるぞ!!」
当たり前だが、この後芋煮会は中断。救急車が来る大騒ぎになってしまった。
病院
子供A「勇太君大丈夫かな」
子供B「なんでこんなことになったんだろう」
横井先生「勇太…、頑張れよ…」
勇太君は緊急で手術を受けることになり、私達を含めて横井先生や子供達は手術室の前で沈痛な面持ちでいた。
心配そうにしているみんなを見て、私はいたたまれない思いで俯いていた。
ここに来る前、紅さんに言われた言葉が胸に突き刺さっていたのだ。
映子「ったく、お前らセーギのミカタのつもりなんだろ。周りにガキどもが大勢居るんだ。巻き込むかもしれないとか考えないで戦うからああなるんだよ。言っとくけど、そもそも今回ケンカ吹っかけたのはそっちだからな。そこんとこぜ〜ったい忘れんなよ」
そうして一日にも感じるような一時間ほどが経過したころ、手術室のランプが消えた。
横井先生は手術室から出てきたお医者さんに大慌てで駆け寄った。
横井先生「せ、先生!! 勇太は、息子は!?」
するとお医者さんはにっこり笑って答えた。
医者「大丈夫、命に別状はありません」
その言葉に横井先生は喜びのあまり膝から崩れ落ちた。
横井先生「よ、よかった…勇太…本当に…」
心の底からほっとしたのは私も同じだった。
しかし、それが気休めの自己満足でしかないともわかっていたため、すぐに暗い気持ちになった。
計「私、自分勝手なのかな…」
ぽつりと呟いた言葉だったが、それが聞こえたらしく二通りの返事が返ってきた。
文「計さん、元気を出してください。あれは偶然の事故だったんです。私が霧子さんを死なせてしまったときと同じ、ただの事故です」
映子「な〜に当たり前のことをご大層に言ってんだか。人間なんざ突き詰めれば自分のことが必ず主体になってるんだよ」
その二つの言葉はどちらもしばらく私の耳に残った。
計「私、いったい何してるんだろ…」
To be continued…