歳場中学 生徒会室
あの芋煮会の日以来、私と文は学校生活の大半をこの生徒会室で過ごしている。
別に生徒会長としての仕事が山積みになっているという訳ではない。
何か手を動かしていないと気が滅入ってしまうからだ。
この間の戦いでは自分から戦いを仕掛けた結果、全く無関係の子を傷つけてしまった。それは彼女、キュア・ポイントのやっていたこととほとんど変わりない。
その事実が私の気持ちを追い込んでいた。
それだけではなく、最近は校内での居場所がなくなってきているようにも感じていた。
ここしばらく、プリキュアとして戦い精神的にかなりキツいことが相次いだため、授業中も生徒会の会議中もどこか上の空なことが多かった。
その結果、これまで全国でもトップクラスだった成績は一気に平均以下にまで下がり、生徒会の仕事も大切なことを失念する大ポカをやらかすなど、碌なことが無かった。
その上、あの日横井先生の息子さんが大怪我をしてしまったことは週明けには学校中に知れ渡っており、それがそのまま私達への不信感へとつながっていた。
子供会の引率者として参加していながら、参加していた子供の監督を行わず、あげくに大怪我をさせたから、というのがその理由である。
だから最近では、下手に校内をうろつけば、
女生徒A「あ、会長と副会長よ」
女生徒B「あの二人一体どうしたのかしら、最近暗くなってるし、成績も落ち込む一方よね」
女生徒C「その上、先生の子供さんから目を離して大怪我させちゃったんですって。なんか会長のこと信頼できなくなってきました」
そういったことを、ひそひそと後ろ指を指されている。
これならば、面と向かって罵詈雑言を浴びせられた方がまだましだと思っている。
そんなこんなで、最近の私の気持ちはどん底に近かった。
計「はあ〜」
私は大きくため息をついた。
ここしばらく自分でもため息が多くなったと思う。しかし、どうしようもないことでもあった。
文「計さん、こちらの書類にサインをお願いします」
文もまた、そんな私に付き合ってくれている。傷のなめ合いと言われるかもしれないが、一人だけでも自分を理解してくれている人間がいるというのは心強いものである。
計「文、本当にありがとう。あなたが居てくれて助かるわ」
それはまぎれも無く私の本心だった。
文「いえ、私もこうしていないと、どんどん落ち込むだけですから」
そう、実は文も必死なのだ。
精神的な落ち込みは体にも影響するのか、私達は最近体がやけに重い。
そういった精神的不調と、連動するような肉体的な不調により、文もお稽古に碌に身が入らず失敗の連続らしい。
そのため、この間ついに当分の間稽古に参加しないようにと申し渡されたらしい。
子供の頃からの努力がわずか数週間でパアになってしまったショックは相当なものなのだろう。
文は余計なことを考えたくないと言うように、生徒会の仕事に没頭していた。
そうやって一日を過ごしていると、ふと頭に浮かんだことがあった。
計「私達、最後に笑ったのいつだったっけ…」
そんなこんなで、今日も放課後になった。
はっきり言って、休み時間のたびに生徒会室にくるのはかなりきつい。
おまけに仕事のほうもほとんどなくなってしまっており、最近では資料の整理ぐらいしかやることがないのだ。
文「私達、就職したら書類整理は一級品って言われそうですね」
そんな冗談を苦笑いしながら言うほどである。
そんなこんなで整理を終えた書類を机の上に並べ終え私達は一息ついた。
計「ふぅ~、これで何回目だっけ? この書類の不備の有無の確認と整理整頓」
文「もう数えていません。なんのための作業なのかもわからなくなってきましたから」
ため息とともに漏れたそんな会話が、私達を現実に引き戻した。
それと同時に暗い空気が生徒会室には充満した。
自分たちでもわかっている、こんなことをしてもただの現実逃避でしかないということは。
しかし、どうしたらいいか、他に何をしたらいいのか皆目見当がつかないのだ。
そんな時生徒会室のドアが開いた。
映子「お~い、生きてるかお二人さん」
計「!! あなたは!!」
文「どうしてここに!!」
突然の来訪者に私たちは戸惑った。
映子「ん? 久しぶりに出てきたら生徒会長様がボロボロになってるって学校中の噂だからさ。心配で来てみただけ」
計「ふざけないで! あなたに心配される謂われはないわ!!」
文「そうです。そもそも誰のせいだと」
映子「自業自得じゃなかったっけ? 少なくともここしばらくあたしは何もした覚えないけど」
芋煮会の時のことを思い出し、一瞬言葉につまったが何とか言い返した。
計「そ、そもそもの原因を言ってるの!! だいたいなんで私達が心配なのよ!!」
映子「だってゲームをしようにも遊び相手がいないと面白くないかんな。対人戦はゲームの基本だろ。それに大勢でやった方が楽しいしさ。何ならお前らもゲームをしたらどうだ。いい気晴らしになるぜ」
その言葉に私達は激高した。
計「いい加減にしなさい!! 私達は絶対にそんなことはしないし、あなたにだって二度とゲームなんてさせないからね!!」
文「私達が命をかけてでも止めてみせます!!」
映子「はいはい。ま、元気が出たみたいで良かったよ」
そんな会話をしていると、会計の山崎君と書記の河合さんが慌てて入ってきた。
山崎「どうしました? 廊下まで聞こえてきましたけど」
河合「何かあったんですか?」
そんな二人を見て私達は少しはしたなかったと反省した。
計「あ、ああ。ごめんなさい。ついカッとなっちゃって」
文「はしたなかったですね。申し訳ありません」
映子「別にいいじゃん。たまにゃ大声出すのもいいことさ」
当たり前のようにいる生徒会室にいる紅さんに山崎君達は疑問を持った。
山崎「えーっと、あなたは…?」
河合「ここは関係者以外立ち入り禁止ですが…」
映子「ああ、会長さん達が心配できたんだよ。ゲーム仲間としてさ」
その言葉に私達はイラッと来た。
計「いいから!! もう出て行って!!」
文「あなたとは話したくないんです!!」
映子「つれないねえ。人の好意は素直に受けなよ」
私達が怒鳴ると、紅さんはやれやれといったように肩をすくめて生徒会室を出て行った。
河合「会長、ちょっとキツすぎませんか? 心配してきてくれた友達なんじゃ…」
そんな会話を見て河合さんが心配するように尋ねてきた。
計「ふざけないで!! あんな人友達なんかじゃない!!」
私は机を叩いて、声を荒げて立ち上がった。
河合「ひっ、ご、ごめんなさい」
怯えたような河合さんを見て私は少し冷静になった。
計「あ、ああ、私こそごめんなさい。ちょっと最近余裕が無くて」
山崎「大丈夫ですか? 最近色々忙しいみたいですし、書類整理ぐらいなら手伝いますよ」
少しは空気を変えようと山崎君が、私達の目の前の書類の山に手を伸ばした。
文「触らないでください!!」
文が珍しく声を張り上げた。
山崎「えっ、あっ、すいません。 そ、そうですよね。整理中の書類はあまりいじらない方がいいですよね」
そうして山崎君は無理矢理自分を納得させていたようだった。
そんな山崎君や河合さんを見て、私達は更なる自己嫌悪に陥った。
イライラがつのり、心配してくれている仲間達にひどいことを言ってしまったのが、情けなかったのだ。
そうして重い空気だけが残る時だった。
計・文「「!!」」
私達の背中に悪寒が走り、思わず立ち上がった。
それと同時に、グラウンドの方から悲鳴が聞こえてきた。
「化け物だー!!」
「助けてー!!」
その声に驚いて窓から外を見ると巨大な鶏といった姿のダムド魔人が暴れていた。
河合「な、なんなのあれ?」
山崎「わかりませんけど、みんなが危険です。早く避難するように伝えないと、会長!!」
山崎君達がそう叫んでいたが、それは私達が一番良くわかっていた。
私達は顔を見合わせ頷き合うと、変身できそうな人目のつかない場所に移動しようと生徒会室を飛び出した。
山崎「えっ会長!? どこへ行くんですか?」
私達は逃げ惑っている生徒達の間を縫って必死に走り、人気の無い場所にたどり着いた。
文「こ、ここは校舎の外れのトイレで、確かに人は居ませんが…」
私も言いたいことはわかっていた。
汚いし臭い。よっぽどでないとこんなところに私も来ない。
計「贅沢言ってられない。行くよ」
私達は鼻をつまみたくなるのを我慢して、心臓の位置に手を当てて叫んだ。
計・文「「プリキュアソウル・インストール!!」」
次の瞬間、光とともに私達の体はドレスのようなコスチュームに包まれていた。
歳場中学 校庭
「ダームー」
鶏魔人は口から巨大な卵を次々と吐き出していた。
そして、卵は地面にぶつかる度に爆発を引き起こしていた。
生徒「うわーっ!!」
生徒「おい、大丈夫か。しっかりしろ」
その爆発に巻き込まれて吹き飛んだ生徒を必死に庇う生徒がおり、
横井先生「みんな急げ。避難が最優先だ!!」
横井先生をはじめとする教諭陣が避難誘導を行っていた。
その時、緑と青の光の玉が舞い降りてきた。
そして、その二色の玉は着地すると少女の姿に変わった。
私は着地と同時に右腕でX字に空を切ると力強くこう叫んだ。
エグゼ「実りをもたらす緑の大地 キュア・エグゼ!!」
ワードもまた右腕でWの文字を空に書くと冷静かつ凛とした声でこう名乗った。
ワード「命を育む青き海原 キュア・ワード!!」
「「闇をはらい未来を紡ぐ光の使者 サイバープリキュア!!」」
そんな私達の姿を見て、横井先生は怒声を上げた。
横井先生「お前らこないだの!! 今度は何しに来たんだ!!」
生徒「えっあいつらが?」
生徒「聞いたことある。変なドレス着たやつが最近の事件を起こしてるって」
その言葉は私の胸に突き刺さったが、歯を食いしばって心に鞭を入れた。
エグゼ「言い訳はしません。ですが、今は私達を信じてください。あなた達を助けたいんです」
横井先生「信じられるとでも思うのか!!」
生徒「そうだ、もしかしたらあの怪物だってお前らの所為じゃないのか!!」
ワード「お願いします。私達を見ていてください」
そう言うと私達は鶏魔人に向かっていった。
エグゼ「はあああ!」
私は鶏魔人の懐に飛び込みパンチを浴びせた。
「ダームー」
悲鳴とともに、鶏魔人は大きくバランスを崩した。
ワード「いけます!!」
ダメージを受けてバランスを崩した魔人に対して追撃をしようとした。しかし
「ダームー」
鶏魔人は大きく羽ばたき猛烈な風を巻き起こした。
エグゼ「うわぁぁぁあ!!」
その風を受けて、今度は私達の方が大きくバランスを崩した。
そんな私を狙って、鶏魔人は卵爆弾を吐き出してきた。
私はジャンプしてかわそうとしたが、後ろに居る生徒達が一瞬目に入り、今まで助けられなかった人達のことが同時に頭をよぎった。
その瞬間私は覚悟を決めた。
エグゼ「キャアアア!!」
私は避けずに爆弾の直撃を受けることを選んだ。
そのため私は大ダメージとともに大きく吹き飛んだ。
エグゼ「がっはっ…」
ワード「エグゼ!! 大丈夫ですか!?」
ワードが声を掛けてくれたが
エグゼ「なんの…これしき…。あの子達の痛みに比べたら…」
私は膝がガクガクになりながらも必死に立ち上がった。
生徒「あいつ、俺たちを庇って…」
「ダームー」
そんな私をよそに、鶏魔人は生徒達に攻撃を仕掛けようと飛びあがろうとした。
ワード「させません!!」
しかしワードが必死に足にしがみつき、それを阻止した。
鶏魔人は足にまとわりつくワードを必死に振りほどこうとしたが、
ワード「何があっても離しません!! もう私達の目の前で人が傷つくのはごめんです!!」
生徒「あの人…」
横井先生「……」
しかし、鶏魔人の動きを止めているワードも時間の問題と言った感じだった。
エグゼ「くっ、動いて!! お願い」
私はなかなか言うことを聞かない体にふがいなさを感じていた。
その時だった。
「ダームー!!」
鶏魔人の背中で大爆発が起き、悲鳴とともに大きく前のめりに倒れた。
見ると背中に大きな焦げ跡が出来ていた。
ワード「ハアハア、い、一体何が…?」
エグゼ「なんにせよ今がチャンス!! 」
ワード「ええ!!」
力強く頷くとワードは両手首を合わせて腰の後ろにもっていき、力を込め始めた。
そして私もまた胸の前で両腕を交差させて力を込めた。
ワード「受けなさい。プリキュア・ウォーターバースト!!」
ワードは両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から強烈な水を放出した。
さらに私も、両腕を戸板をこじ開けるように開くと、エックスの形のカマイタチが発生した。
エグゼ「プリキュア・エクストリームスラッシャー!!」
「ダームー!!」
私達二人の必殺技の直撃を受けた鶏魔人は断末魔の悲鳴とともに消滅した。
エグゼ「ハアハア、やった…」
勝利を確信すると私は片膝をついてしまった。
ワード「エグゼ、大丈夫ですか」
ワードも肩で息をしながら声を掛けてくれた。
エグゼ「うん、なんとかね」
私も微笑みながらそう返した。
横井先生「お前達」
そんな私達に後ろから横井先生が声を掛けてきた。
振り返ると先生は神妙な面持ちでいらっしゃった。
すると横井先生はいきなり土下座してきた。
エグゼ「えっ、ど、どうしたんですか?」
ワード「顔を上げてください」
突然のことに私達は戸惑っていた。
横井先生「いや、謝らなければいけない。お前達は悪人じゃない。この間も俺の息子を助けようとしていてくれていたんだろ。なのに暴言ばかり吐いて。本当に済まない」
心の底から申し訳なさそうに先生は謝っていた。
エグゼ「そ、そんな謝らないといけないのは私の方です。息子さんに大けがをさせてしまって」
ワード「そうです。私達は何も出来なかったのですから…」
私達がなおも戸惑っていると
生徒「そんなこと無いよ。俺たちを助けてくれたじゃないか」
生徒「そうだそうだ。おかげで俺たち助かったんだぜ」
生徒「あなた達は立派な人です。正義のスーパーヒロインです」
生徒達もみな口々に私達を褒めてくれた。
私達は心にねっとりと絡み付いたものが急速に解けていくように感じていた。
ワード「皆さん。ご無事で何よりです。私達はこれからも皆さんのために戦います」
エグゼ「私達はサイバープリキュア。闇をはらい未来を紡ぐ光の使者です」
「ありがとう!! サイバープリキュア!!」
私達はみんなの感謝に見送られて光の玉となって飛び立った。
みんなを守れたこと、みんなにわかってもらえたことが、私達はなによりも嬉しかった。
これからもみんなを守るんだと改めて思えた。
そんな彼女達を物陰から見上げる少女が居た。キュア・ポイントである。
ポイント「やれやれあいつらもこれで元気が出ただろう。殺されでもしたらあたしも遊び相手が居なくなるから手を貸してやったわけだが」
ポイントは満足そうに呟くも、続けて真剣な顔つきになった。
ポイント「しかし、あのダムド魔人、一体誰が作ったんだ?」
計「みんな〜大丈夫だった?」
私はしばらくぶりに出す明るい声とともに、みんなのところに駆け寄った。
文「無事に決まってますよ。計さん」
文もまた久しぶりに微笑んでいた。
しかし、そんな明るい気分の私達とは裏腹に、みんなの私達を見る目は冷たかった。
計「ど、どうしたの、かな?」
文「みなさん、変な顔をして…」
そのただならぬ空気を感じた私達は冷や汗をかいていた。
山崎「どこに行ってたんですか」
すると山崎君が一歩前に出て低い声で尋ねてきた。
計「えっ、ど、どこって?」
一瞬何を言われているかわからなかった。
山崎「どこに行っていたんですか!! みんなが怪物に襲われてるってのに自分たちだけ先に逃げて!! 挙げ句の果てに全部が終わってからノコノコと!!」
計「えっ? あ… あ、ああ!」
その怒声に、私達は自分達の行動が周りにどう映ったのかようやく気がついた。
文「ま、待ってください。私達は別に逃げた訳では…」
文が必死に取り繕うとしていたが
生徒「調子いいこと言うなよ!! 怪物が暴れてる間どこにも居なかったじゃないか!!」
生徒「私も見ました。自分たちだけ遠くの方に逃げていくのを」
生徒「サイバープリキュアのおかげで俺たちは助かったけど、怖くなって自分たちだけ助かろうとしたのかよ!! この臆病者」
生徒「もうあなた達なんて信用できません!!」
横井先生「二人とも、別に怖くなって逃げ出すぐらいはわからんでもない。でもな、お前達が真っ先に逃げ出すなんて先生は情けないぞ」
みんなの罵詈雑言は止まなかった。
計「ま、待って話を聞いて。私達は」
河合「言い訳は結構です。ここしばらく思っていたことですが、今はっきりと決心がつきました。緑野会長、青山副会長、あなた達を生徒会からリコールします。すでに署名は必要数を集めてあります。会長達に気合いを入れ直してもらうためだけのつもりだったのですが、私も今回のことには我慢できません」
河合さんまでもが冷たく宣告してきた。
河合「来週に再選挙を行います。その間生徒会室は立ち入り禁止になりますが別にいいですよね。意味の無い書類整理を延々していただけのようですし」
そう言い捨てると、河合さんや山崎君をはじめとした皆は呆然としている私達を置いてぞろぞろと校庭から出て行った。
計「なんで…なんでこうなっちゃうのよ…」
文「私達が何をしたっていうんでしょうか…」
私達は俯きながら呟いた。
To be continued…