独裁者な幼馴染みを辱める話   作:まさきたま(サンキューカッス)

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独裁者は甘えたい?

「っはぁ、はぁ」

 

 熱い吐息が、ロレンシアの口から零れる。更に、タラリと彼女の唇から、よだれが一筋流れ落ちた。

 

 そんな彼女は、顔を真っ赤に染めながら、僕の腕に抱き着いて、しな垂れるように立っていた。

 

 鼻と鼻が触れ合う距離。頬を上気させ、僕にすべての体重を預け立っている彼女。僕は、そんな彼女の顔へ、ゆっくりと手を近づける。

 

 そして、やさしく耳元で、囁いた。

 

「はい、ロレンシア。鼻かんで」

「んー!!」

 

 僕の手に持ったチリ紙が、湿り気を帯びる。

 

 すかさずチリ紙を取り換え、僕は鼻水だらけの彼女の顔を、やさしく拭きとって綺麗にしてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロレンシア。今の君の体調で、前線に赴くのは無茶だと思うよ」

「うるさい、良いから支度しろ」

 

 ズビー、と鼻をかんでも可愛いロレンシア。

 

 そんな彼女の愛くるしさとは裏腹に、現在我がハーゲン帝国は絶体絶命の危機に瀕していた。

 

 隣国の宣戦布告。それにあえて勝利せず、外交により停戦に持っていかねばならない現状。

 

 しかも、軍部の人間がロレンシアの方針を正しく理解し、そして実行してくれるとは限らない。なるべく抵抗せず、住民の避難を優先して領地は放棄しろといった命令を、”遠回しに”前線には通達したのだが、その意をくみ取ってくれる将校はいなかった。

 

 

 ロレンシアは、頭が切れすぎる。頭が切れない人間の思考回路を、読み違えたのだ。

 

 

 残念ながら、無線を使って彼らに詳しく方針を説明することはできない。

 

 

 何故なら我が軍で使用している遠距離無線は、すべて傍受され、暗号も解読されているからだ。僕たちは常に、敵に手の内を見せながら戦い続けねばならないのだ。

 

 もっともロレンシアは既にそれに気づき、現在、全く新しい暗号形態とその通信法を開発中である。

 

 それが導入されるまでは、我々は前線に”遠回しな命令で”真意を伝え続けるしかない。

 

 

 そして、残念なことにロレンシアの意をくみ取れなかった将校たちの手によって、隣国との戦線は拮抗してしまっていた。更に最悪な事に、戦況は消耗戦の様相を呈している。

 

 5年後に向けて温存していた資材や金銭を、軍部は自己判断で湯水の如く消費し、無意味に戦線を維持し続けているのだ。

 

 このままではまずい。そう考えたロレンシアは自ら、最前線に赴き司令部に真意をかみ砕いて説明する事にした。彼女の考えは、普通の人間にとってはかみ砕いて説明されなければ理解できないと、彼女は気付いたらしい。

 

 17年一緒にいた僕ですらギリギリ理解できるくらいだからなぁ。彼女の考えを、周りに分かりやすく解説してる僕みたいな役目の人も向こうにはいないらしい。

 

 ……近々、命令の解読役として僕を戦線に飛ばしたりしないよね? それが一番いい方法な気がして怖い。

 

 そんな、国の存亡をかけた非常に大事な時期だというのに。昨日よりロレンシアは、40℃を超える高熱を出して床に伏せっている。

 

 頼れるリーダーは意識朦朧、心身薄弱。隣国は大挙として押し寄せ、軍部は命令を理解せず資源を浪費し消耗戦。

 

 ハーゲン帝国、終わったかもしれん。

 

 

「せめて今日は休養したほうがいい、ロレンシア。今休めば、その風邪は長引かずに済むはずさ」

「馬鹿者! 代わりに、戦争が長引くだろうが!」

「君が倒れたら、この国は終わるんだぞ」

「うるさい! 私は車の中で休めばいいだろう、良いから君は資料をまとめておけ!」

 

 そして、彼女の悪い癖というか、意地っ張りなところが出て、彼女は激高していた。こうなればロレンシアはテコでも考えを絶対に変えない。

 

 殆どのケースで彼女の考えが正しいのだから、彼女は自分の考えをそう簡単に覆さないのだ。これは、彼女の数少ない短所といえるだろう。

 

「今日、何人の我が従僕が、銃弾に怯え、戦火に焼かれ、絶望に沈んでいると思う!? 1日も休んでなんかいられるか! その1日で何人死ぬと思ってる!」

「ロレンシア……」

「私は行くぞ、この体が焼けつくそうと。それが、私の背負ったものなんだ!」

 

 ……ああ。こうなれば仕方がない。

 

「車の準備はできているか?」

「行かれるのですか」

「今のロレンシアを説得できる人間などいないさ。こうなれば、少しでも早く車の中で休んでもらうのが一番だ」

「わかりました、秘書殿。車は既に、用意させてあります」

「そうだ、それでいい。早く私を、司令部の大馬鹿のところへ連れていけ」

 

 

 ゲホ、と湿った咳をこぼしながら。彼女はニヤリと、目の前に走ってくる車を見てほほ笑んだのだった。

 

 ……本当に大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちは狭く臭い自動車に乗り、半日以上をかけて移動した。向かったのは、ハーゲン帝国東部の隣国との領土線付近に展開された、5㎞にも及ぶ巨大な戦線のその司令部が設置された都市ダタイ。

 

 即ち、軍部の最高司令官のいるその場所である。

 

 アポイントもなし、事前連絡もなし(というか、盗聴されているので出来なかった)の体一つで緊急視察。

 

 予想はしていたが、すんなりと最高司令官に面会は叶わなかった。

 

 最初はロレンシアが本物かどうかの尋問から始まり、忙しいだの作戦中だので一向に話が進まない。いろんな場所をたらい回しにされた挙げ句、何度も遠回しに“帰れ”と言われ続ける。

 

 僕が必死でツテを辿って面会を取り次ぎ、粘り強く交渉を進めた。結局、最高司令官ルーデンとの会談が叶ったのは、僕達が到着して5時間は過ぎた深夜2時であった。

 

 時間が経つにつれ、ロレンシアの機嫌が目に見えて悪くなっていく。体調が悪いのを押してきているのに、総統からの面会要請を優先しないとはいかなる重大な仕事なのか、とブツブツ言いながら持ち込んだ仕事を処理する彼女は正直すごく怖かった。

 

 そんな命知らずな司令官ルーデンは、ロレンシアを指令室に招き会釈して。ロレンシアが言葉を発する前に視線を切り、義理は果たしたとばかりに彼女を無視し、隣にいる部下に指示を飛ばし始めた。

 

 呆然とするロレンシアに、彼の秘書であろう女性の一人がロレンシアへ近づき、「要件は私がお伺いします」と一言。

 

 あちゃあ。どういう対応だ、一国の元首に向かって。

 

 ────とうとう、ロレンシアの中で何かが切れる音がした。

 

 

「ルーデン」

 

 要件を紙に書いてくれと白紙を手渡そうとした秘書の女性に一瞥すらせず、ロレンシアは忙しそうにしているルーデンの方へと歩く。

 

「申し訳ありません総統閣下。少々立て込んでおりまして、後程お伺いします。明日には時間を作りましょうとも」

「何がそんなに忙しいのか」

「ええ。東北部の戦線が総攻撃を受けております。ここが崩れてしまえば、戦線の崩壊は必至。しばし時間をいただきたく」

「ルーデン。東北部の予備勢力は、南部防衛に回せと通達しなかったか? 万一、南部の油田地区が奪われたら我らに未来はないぞ」

「恐れながら、ロレンシア閣下は戦争戦略に関しては明るくないと感じまする。素晴らしい政治手腕をお持ちではありますが、戦争に関しては年季と経験に伴った私の采配を信用していただきたく」

「聞こえなかったか、ルーデン。東北部に兵力を集めてどうする。南部に回せ」

 

 二人の間の空気が凍り付いている。オロオロと棒立ちになった秘書さんから、一応僕は差し出された白紙を受け取っておく。

 

「閣下。今は問答をしている時間の余裕はありません。我が采配をもってすれば、東北部の戦線を維持しながら十分に南部の油田をも守り切って見せますとも。ここで予備兵力を引くのは、むざむざ東北を明け渡すようなものであります」

「その結果、燃料は? 弾薬は? 3年後の蜂起の際に、十分な戦闘資源を保つことができるのか?」

「ふふ。燃料や弾薬を惜しんで戦争を放棄するおつもりで? 本末転倒もいいところですぞ」

 

 やりあってるなぁ。僕は変に口を挟まず、おとなしく落書きでもしておくか。

 

 僕はもらった白紙に、自前の筆ペンでロレンシアの似顔絵を描き始める。かわいいロレンシアの肖像画を指令室に飾れば、少しは空気も緩やかになるだろう。

 

 秘書さんがギョッとした目で僕を見ているけど、気にしないでおく。

 

 5歳ぐらいの、聡明さを発揮しつつ甘えん坊な時代のロレンシアを書こう。今思い出しても、彼女は可愛かったなぁ。今は可愛い半分、美しい半分になっちゃった。

 

 どっちにしろ尊いけれど。

 

「はっきり言わなければわからんかルーデン。東北戦線を放棄し、あの近辺の3都市は奴等に占領させてやれ」

「……おっしゃっている意味が分かりかねますな」

「あの辺にめぼしい地下資源はない。重要な施設もない、農村地帯だ。それどころか、畑のイナゴの卵が凄まじい数だと報告されている。イナゴの大量発生が予測され、今年は飢饉になる可能性が高い」

「……」

「東北部から、首都へ直通する道もない。隣国にくれてやるには、あれ以上の土地は存在しないだろう」

「くれてやらずとも、守れますぞ?」

「停戦の条件にする。東北3都市の放棄と、多額の金銭賠償によって無期限の停戦を行う。本当に負けたように見せかけるのと、停戦の餌を兼ねているのだ」

「それはすなわち、我らがハーゲン帝国を隣国の属国として売り飛ばすという意味でしょうか? ならばここで、総統閣下を銃殺せねばならないのですが」

「戦争が貴様の領分なら、政治は我が領分だと知れ。どうせ3年後には世界を敵に回すのだ。口約束で好きなだけ譲歩すればいい、そういう話だ。3年後までに賠償の支払いを行う約定にすれば、実質タダで停戦できるだろう」

 

 2人のにらみ合いが続く。あの剣呑とした雰囲気で、銃殺をちらつかされて一歩も引かないロレンシアは凛々しい可愛い。

 

 そうだ。甘えん坊なロレンシア5歳が、凛々しい今のロレンシア17歳に甘えている構図にしよう。

 

 なんと尊いんだ。この落書きは後世に残る傑作となるだろう。

 

「では、あの土地の住人はどうなりますか」

「住民の避難を最優先させろ、と通達しなかったか? まさか、まだ避難が終わっていないなんてことはあるまいな」

「ほぼ完了しておりますが、一部の住人は意地を張って残っています」

「ならば構わん。自分の意志で残ったのだ、占領され地獄を見ても、自己責任だろう」

「彼らは我らの勝利を信じて、残った民ですぞ。お見捨てになるのですか」

「当然だ」

 

 ────その言葉を聞いたルーデンは、腰元の銃を抜きロレンシアへと向けた。

 

 間髪入れず、僕がロレンシアに向けられた銃を撃ち落とす。ロレンシアを守るために練習した、拳銃早撃ち。これが割と、役に立つ機会が多い。

 

 激昂しているルーデンは、撃ち抜かれ血塗れの手で立ち上がり、なおも懲りずにロレンシアに詰め寄った。即座にロレンシアの護衛がルーデンを取り押さえるが、彼は一歩も引く様子はない。

 

「反逆か、ルーデン。貴様の戦略そのものは評価しているから、殺したくはないのだが」

「……我らに退けと? 勝って、追い返せるだけの戦力を有しながら、民を見捨てむざむざ敵に白旗を上げろと?」

「民を見捨てるのではない。自らの身の危険を察知できぬ愚物を見捨てるのだ」

「愚物ではありません。誇り高き民でしょう。避難せず残ったものは皆、兵たちの家族です」

 

 ルーデンは、ロレンシアを睨みつけ、声高に叫ぶ。

 

「戦地へ赴く戦士たちに! 背後には我らがいるぞと! 我らもともに命を懸けると、我らの士気を高めるためにあえて危険を承知で残ったのですぞ!」

「愚かな奴だ」

「そんな彼らを見捨てるのですか? 私に、私に、妻や子供を見捨てろというのですか?」

「ルーデン」

 

 ロレンシアは、そんなルーデンに一言、呆れたように呟いた。

 

「そんな馬鹿な風習があるのなら、なぜ貴様がやめさせなかった? いや、貴様もそんなふざけた風習に乗っかっている愚物か?」

「愚……物……?」

「戦略上、意味のある撤退は勝利のために必要だと知っているだろう。自ら撤退を封じて戦うとは、ただの阿呆だ」

「違う。これは、共に戦うといった誇り高き……」

「はっきり言ってやろうかルーデン。貴様の家族が残っているから、東北部をそんなに重視しているのだろう?」

 

 ロレンシアは、ルーデンをそうバッサリと切り捨てた。

 

「どけ。これ以上貴様に任せられない。現時点より、戦線の総指揮は私が執る。はぁ、わざわざダタイまで来た甲斐があったと言うべきか、部下の愚かさを嘆くべきか」

「違う……私は……、勝てる戦争だから……」

「勝ってはいけない戦争だ。その大前提に気付け愚か者」

 

 そう言い、ロレンシアは司令部の席に座り書類に目を通す。

 

「はぁ……。資源運用や戦略眼は悪くないんだけどなぁ、ルーデンよ。家族への情に負け、大局を見失うとは情けない……」

 

 彼の残した書類を見て、ロレンシアは愚痴をこぼす。彼女は本当に、残念そうな顔をしていた。

 

 ルーデンは顔を伏せ、微動だにしない。

 

 んー、後で僕がフォローしておくか。ルーデン指令もまた、我がハーゲン帝国には必要な人材だし。撃ち抜いた僕が言うのもなんだけど。

 

 ロレンシアはその辺の人づきあいとか苦手なのだ。自分で何でも背負い込んで、自分の仕事を増やしていく。

 

 ルーデンの様な、そこそこに優秀程度の人材なら、惜しまず切り捨ててしまう悪癖。我が国では貴重な、優秀で老練の指揮官なのに、勿体ない事この上ない。

 

 甘い言葉で言いくるめて、再利用しないと。ロレンシア1人で抱え込みすぎると、いつかこの国は回らなくなる。

 

「回線を回せ。全部隊に繋げ、作戦を大幅に変更する」

 

 彼女はそう言って、指令室の通信手に指示を飛ばす。僕はルーデンをフォローするため、尊いロレンシアの落書きを手に持って彼に近寄る。

 

 放送が終わったら、ルーデンに声を掛けよう。

 

「えー、マイクテスト。聞こえているだろうか。まずは名乗ろう、私はハーゲン帝国総統、ロレンシアである」

 

 その放送は、戦線の全陣営より受信したことを告げるランプが灯った。感度は良好の様だ。

 

 すべての陣地の状況を把握しながら、全陣地に対しリアルタイムで指示を飛ばしていく方針らしい。ロレンシアならば、それくらいできるのだろう。

 

「えー、現時刻より、ロレンシアの名をもって作戦の変更を通達する。まず、東北司令部のお兄たまの諸君」

 

 ……ん?

 

「……失礼。東北司令部の従僕諸君。ルーデン総司令により出された指示を一時中止し、今から出す方針に従って敵の行動を取ってほしい」

 

 東北司令部のランプが2回点灯する。了解の合図だ。

 

「現時点で残存している市民の避難を最優先。次に自分の命を優先だ。余裕があれば戦闘物資の運び出し、最後に戦線の維持に努めろ」

 

 ……あー、残ってる市民の避難勧告、やっぱりやるのね。ロレンシアは甘いというかなんというか。

 

「予測になるが、次の敵の作戦は南方急襲である。南方へ戦力を結集しろ、第4師団、第5師団は直ちに南方戦線へ向かえ。第6師団は私を抱っこしろ」

 

 通信手が、ギョッとロレンシアを見上げる。

 

 ……東北戦線を崩壊させるため、第4.5師団を南方へ向かわせるのは良いとして。第6師団に何をさせるつもりなんだロレンシアは。

 

「あー、すまない、本当にすまない。言い間違えだ。第6師団は現戦線を維持せよ。以上、作戦通達を終える」

 

 先程から、言い違えが多いな。不審に思い彼女を見上げると、ロレンシアの顔は益々紅潮し、目が虚ろになってきていた。

 

 どうやら彼女の風邪が、悪化してきているらしい。通信を終えると、彼女はフラリと倚子にもたれかかった。

 

 

「ルーデン最高司令官殿。ロレンシアを、憎く思いますか?」

「……」

「今のロレンシア総統閣下のコンディションは、最悪です。そんな彼女が、わざわざ此処に乗り込んできた理由を理解して頂きたい」

「勝てる戦争に負ければ、我が軍の士気は壊滅する。まだ若すぎるあの女には、人の感情の機微が分かっていないのだ。このままでは、ハーゲン帝国は……」

「それを、お頼みしたいのですよルーデン指令」

 

 僕は、負傷した彼の手に包帯を巻き付け、耳元で囁く。

 

「彼女は優秀過ぎます。だが若く、経験が無い。それが故に、感情の機微を理解できない」

「その通りだ」

「ルーデン指令。軍部に名を轟かせる英雄たる、貴殿のお力をお借りしたい。何とか兵士達を慰安し、士気を保って頂きたい。彼女の描いた絵が実現すれば、我が国家は世界を統べる。それは、保証します」

「……」

「彼女の足りないモノを全て持っておられる貴方にしか、頼めないのです。我がハーゲン帝国の未来のため、どうか、お力をお貸し願いたい」

 

 ルーデン指令の顔は渋い。ロレンシアに面目を叩き潰された形なのだから無理はないだろう。

 

 だが、彼はまだまだ利用出来る人材だ。僕が上手く、人間関係を緩衝してやればまだまだ働いてくれる。

 

 特に、軍事関係ならば彼に出来ないことの方が少ないのだ。ルーデンは、伊達に最高司令官として任命されている訳ではない。

 

「少しでも国民の犠牲を減らすため、あの体調を押して前線まで出向いた彼女の意を、僅かで良いので汲んで頂けませんか」

「……無論、我が忠誠はハーゲン帝国にある。命令であれば、従うだけ。それが、軍人だ」

「感謝します、偉大なるルーデン指令」

「よしてくれ」

 

 ルーデンは、忌々しそうに倚子で眠っているロレンシアを睨む。

 

 ロレンシアはもう限界のようだ。そろそろ、彼女をベッドに運ぶべきだな。

 

「僕は彼女を寝室に運びます。ルーデン指令、彼女の方針は聞きましたね? 指揮権を再びお任せして、宜しいでしょうか」

「ああ、任せたまえ。それが命令であるのなら」

「では、現時刻を以てロレンシアの代行である、僕からルーデンに指揮権を委譲します」

「謹んで承ろう」

 

 自分が指揮するつもりだったのだろうが、意識を失ってしまったロレンシア。彼女は決して、万能で無敵な存在ではないのだ。

 

 そんな彼女を、宝物を扱うかの如く優しく抱き竦め、僕は彼女を貴賓室へと運ぶ事にする。

 

「健闘を祈ります」

「ああ」

 

 ルーデン指令にそう一言述べ、僕達は司令室から退室した。彼は内心では憎悪で煮えくり返っているだろうけど、ハーゲン帝国への忠誠は本物。

 

 出された命令には、正しく従ってくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして僕は、前線の兵士に案内された貴賓室のベッドに、魘されている彼女を横たわらせた。

 

 その細い肩には、何十万もの兵士の命が乗っている。そんな重圧に耐えながら、彼女は日々身を粉にしてハーゲン帝国に尽くしているのだ。

 

 これで戦争の指揮まで抱え込んだら、過労で死んでしまう。これで、良いのだ。

 

 魘されている彼女の頭を、優しく撫でる。小さな頃は、ロレンシアが風邪を引くと、付きっきりで頭を撫でてやったっけ。

 

 少し、彼女の顔色が良くなった気がした。親衛隊の面々の見守る中、僕は昔の様に、ロレンシアを撫で続ける。

 

 

「また、されるのですか」

「ああ。魘されるよりマシだろう」

 

 

 行きの車の中でも、僕はこうやってロレンシアを癒やしていた。ロレンシアにとってほんの僅かな休息では有るが、なるべく質の良い休息にしてやりたい。

 

 

 ────そして。

 

 

「お兄たまに抱っこして貰いたくなーる、お兄たまに抱っこして貰いたくなーる、お兄たまに抱っこして貰いたくなーる、お兄たまに抱っこして貰いたくなーる……」

 

 

 

 彼女の耳元で、僕はそう囁き続けた。

 

 

「その行程、必要ですか?」

「ふふん、これはサブリミナル効果という奴だ(大嘘)。こうする事により、ロレンシアは夢の中で僕に抱っこして貰えて、そして現実世界のロレンシアも僕を見て堪らず抱っこして欲しくなる」

 

 

 別名、催眠とも言う。意識のはっきりしないときに囁かれた言葉を、脳は現実と誤認してしまうのだ。

 

 

「そう! 熱が冷め、健康体になったロレンシアは、何故か無性に僕が恋しくなり、強気な態度を取りつつも人目のないところで僕に甘え始めグッハァ!!!」

「妙な単語が頭に浮かんでくると思ったら!! 貴様の仕業か大馬鹿者!!」

「ウワーー!? ロレンシアが起きてた!!」

 

 

 

 この後めっちゃ説教された。




クール妹系強キャラパンツ丸出し独裁者幼馴染みヒロイン
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