許嫁は生徒会長   作:高崎瑞希

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彼女は生徒会長 2

放課後の図書室。僕は一人ボーッと本を眺めていた。

窓の外では多くの部活が声を張り上げて頑張っている。

そんな外とは対照的に図書室はとても静かだ。まるで今この空間には僕一人しかいないのではないかと思わせるほど。

 

僕が座っているのは窓際。

適度に日光も入り、ポカポカと温かい。とても春を感じることができる良い席だ。

さらにこの席からは図書室の入り口が見える。誰かが入ってきたらすぐにわかるのだ。

 

普段ならこんな席には絶対に座らない。だって入ってきた人と一番に目が合うのがこの席だから。

コミュニケーションを苦手とする僕があえてこの席を選ぶ理由はひとつしかないだろう。

 

その理由を考えているだけで不思議と口角が上がる。

早く会いたい。話がしたい。手を…繋ぎたい。

そんな妄想がどんどん溢れてくる。

まだ数十分しか経っていないのに、もう数時間待っているような気がする。

全然読んでいる小説に集中できていない。

持って開いているだけ。ふふ…ごめんよ小説君。今は君に構っている暇はないんだ。

 

何をしに図書室へ来たのやら…なんて突っ込んでくれる人もいない。

僕は一人、部活動の声をBGMに彼女を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラ…

 

ドアが開く。

そこから覗く緩やかなウェーブがかった茶髪。

整った顔に映えるきれいな顔のパーツ。

待ち望んだ彼女は手を振りながら近くによって来た。

 

「ごめんね。待たせちゃって。」

「ううん。大丈夫だよ。全然待ってないし。」

 

隣の席に座る。

フワッと良い匂いが漂う。朝も感じたこの匂いは本当にリラックスすることができる。

昨日もうちに泊まったはずなのに…どうしてこんなに違うのだろうか。いつか僕も良い匂いになれるかな…? いや、なれなくても良いか。

 

「何の本読んでるの?」

 

横から持っているだけの本を覗きこんでくる。

さらに良い匂いが強くなる。目の前に彼女のつむじが見えた。

心臓の音が聞こえる。どくどくと心拍数が上がっていくのがわかる。

どんな関係になろうとやっぱり緊張するものは緊張する。

手を伸ばせば触れられる距離に女の子がいるというのはきっとこれからも慣れることはないのだろう。

 

「あ、見たことあるタイトルだ。人気らしいね。面白かった?」

「いや…まだ途中だからわかんないや…」

 

入り口に『オススメ!』と書かれて置いてあったからそのまま持ってきてみただけである。

それも持ってきただけで1ページも読んでいないのだから感想なんて一言も出てこない。

 

「そっか。後どれくらいで読み終わるの?」

「えー…っと…まだまだかな…」

「じゃあ私も何か持ってこようかな。読み終わったら私にも貸してね。」

「あ、いや、僕はもう読まないから。咲さんが読んでも良いよ。」

「え?でもまだ途中なんでしょ?」

 

途中と言うか…読み始めてすらいないと言うか…

 

「とにかく大丈夫だから。」

「むー…じゃあ借りて帰ろうか。それで一緒に読もうよ。」

「あー…うん。そうだね。」

 

正直なところまったく興味はない。

世間の人気なんて僕には関係ない。皆が面白いと思うものが僕も面白いと感じるか、と言うと絶対にそんなことはない。

今までだって『このゲーム面白いよ』『このお店凄い』どれだけこの言葉に騙されたことか。

それでも…この本は彼女が興味を持っているものだ。

僕と彼女の趣味も全てが同じなわけがない。きっと同じ本を読んでも反応は違うのだろう。

でも、彼女のことを知りたい。面白いと思うものを僕も面白いと思えるようになりたい。

きっとこの本はその助けとなってくれることだろう。

 

「どうしたの?ほら、行こ♪」

 

気がつくと彼女はすでに席を立っていた。

こちらを見下ろし、笑顔で左手を差し出している。

慌てて荷物を掴み、本を持って立ち上がる。

そして差し出された手をゆっくりと握り、笑いあう。

僕たちは並んで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ」

「ほえ?」

 

家にたどり着く。すると家の前に黒い服を着た、いかにも『執事!』という感じの男の人が立っていた。

 

「えっと…どちら様でしょうか…」

「やっぱり樹来君覚えてないんだね…」

 

横から小さな声が聞こえてきた。

チラリ、と咲さんを見ると少しうつむいていた。

いつもの笑顔が失われている。どことなく落ち込んでいるようにも見えるが…

 

「ううん…お疲れさまです、山田さん。」

「はい、荷物はこちらでよろしかったでしょうか?」

「うん。持ってきてくれてありがとう。」

「いえ、それでは私はこれで。」

 

背筋を伸ばして一礼。格好良いけど…マジでどちら様ですか…?

くるりと180度回転。どこかへ歩き出してしまった。

 

「樹来君?どうしたの?ボーッとして…」

「………誰?」

「うん…いつか思い出してくれると嬉しいな…」

 

どうやら僕はあの人を知っているらしい。

まったく心当たりはないのだが…

 

「とりあえず…家に入ろ?ここに立ってたら邪魔になっちゃうよ。」

「え?あ…」

 

僕たちは家の前に立ちつくしていた。まだ夕方だから外を歩いている人もいるし、咲さんは増えた荷物も抱えている。

表情も少し辛そうだ。何が入っているのかは知らないが、早く家に入った方が良さそう。

 

鍵を開け、咲さんを中に入れる。

僕も後に続く。誰かに後ろから見られているような気がしたが…確認する前にドアは無慈悲にもガチャリと音をたてて閉まった。

 

あえて確認するまでもないだろう。そう思った僕はそのまま咲さんの後を追い、家の奥へと進んでいった。

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