我が家は今までにないほどピリピリしていた。
僕は唇を噛みながら背筋を伸ばし、目を泳がせながら正座。
真横には足を崩してはいるものの、怖い顔で前を睨んでいる咲さん。
そして咲さんのにらむ先、机の向こう側には声を出さないように下を向いて泣く一人の女の子。
なぜこんな状況になったのか。時は数刻遡る……
「咲さん!!」
そう叫ぶも遅かった。
しゃがみこんだ咲さんはそれにゆっくりと手を当てた。
既に極度の緊張の中にあった僕の頭の中は考えるという行為を放棄した。
自然と体が動く。足を前に出しながら必死に右手を前に伸ばす。
届け……届け…届け!
「大丈夫だよ、樹来君」
咲さんまであと数センチ……というところで咲さんは声を発し、顔を上げた。その顔はまだ僕が見たことのない様々な表情が混ざった不思議な顔だった。
「この子は大丈夫。危険はないよ。んーん、たとえあっても私がさせない」
ぐいっと黒い物体を上に引っ張る。するとその下から出てきたのは茶色の髪に包まれたシミひとつないきれいな肌色。
涙ぐんだ目元や黒い服の上でプルプルと震える手からは小動物のような印象を受ける小さな女の子。
あれ?あの目……どことなく咲さんに似てるような……
黒い女の子と咲さんの顔を見比べる。
うん、似てる。ということは……この子は……
「そう。この子は天城桜。私の……妹だよ」
「い……もう……と……」
「うん……ごめんね樹来君。桜も一緒に連れて帰ってもいいかな?」
「もちろんいいけど……」
そして話は冒頭に戻る。
「何か言うことはないの?どうしてこんな時間にあんなところにいたの?」
口調は優しいが発する空気は尋常ではない。僕が口を挟もうものならすぐに殺されそうな勢いだ。
まだ短い付き合いだが、こんな咲さんは見たことがない。普段は甘々な咲さんからは想像できないほどの怒りよう。これにはさすがの妹さんも黙るしかないようだ。
「ねぇ、黙ってたら何もわからないでしょ?樹来君にだって迷惑かけてるんだからね?わかってるの?」
「ごめ……なさ……」
「謝らなくていいから説明して。何してたの?」
「それは……」
「それは?」
「ぁぅ……」
再び静かになる妹さん。
咲さんの怒りも収まりそうにないし……ここは僕がなんとかするしかない。
「咲さん。少しだけ妹さんと二人きりにしてくれないかな」
「樹来君は黙ってて」
「あ、はい」
ダメでした……余計に怒らせてしまった……
ならば仕方ない。強行手段だ。
「ねぇ咲さん。お風呂入ってきたら?」
「え?なんで今……」
「いいからいいから」
ムリヤリ咲さんを立たせて背中を押す。
抵抗しようとはしていたが所詮は女の子。肩を押せば押しただけ進んでいく。
「待って樹来君。まだ話は……」
「僕がしておくからさ。咲さんは一旦頭を冷やしてきなよ」
まだ怒っていた咲さんを脱衣所に放りこみ、外からドアを押さえつける。
しかしドアが開くことはなかった。それどころか中からは絹の擦れるような音が聞こえてくる。
良かった。大人しく従ってくれて。今のうちに話をつけておかなきゃね。
「えっと、桜ちゃん……でいいんだよね?」
「黙りなさい盛った雄獣が」
えぇ……
「な、何か理由があってあそこにいたんだよね?僕の家に用……とか?」
「は?どうしてそうなるんです?バカですか?え?もしかして私狙われてます?女の子と性交することしか頭にない雄獣ですか?」
えぇぇぇぇ……
「寂しくてお姉ちゃんに会いに……」
「死ね」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………
なぜ妹さんの名前を桜にしたんだろう……
ならば咲さんもお花の名前にすればよかったかな……と思ったり思わなかったり
でも咲さんという名前はしっくりきてるんだよね。きてるからいいや。