許嫁は生徒会長   作:高崎瑞希

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許嫁は生徒会長 6

       きて!」

 

すぐそばで声が聞こえる。

と同時に体も揺さぶられる。誰かがすぐそこにいるようだ。

いや、ありえない。オヤジはまだ戻ってくる予定はないし…この家には今僕しかいないのだから…

 

「樹来君!」

「んー…ん?ん!?」

 

ゆっくりとまぶたを開ける。すると女の子の顔で視界が埋めつくされていた。

 

「あ、やっと起きた。おはよ。」

「え?あー…おはよう…ございます…」

 

………誰?

 

「うん。よく寝てたね。でもそろそろ朝ごはん作らないと…」

「えっと…あ、そっか…」

 

思い出した。この子は咲さんだ。昨日出会って…許嫁らしくて…ご飯作れな…

 

「朝ごはん」

「作ってくれる?」

「うん、もちろん。ちょっと待ってて。着替えたら行くよ。」

「そっか。よろしくね。」

 

顔を離し、部屋を出ていく。

んー…夢じゃないよね…昨日初めてあった女の子が部屋にいて朝起こしてくれて…しかも許嫁って…このご時世に許嫁って!

咲さん…嫌じゃないのかな…僕なんかと…学校ではできるだけ話しかけないようにしよう。

とりあえず…咲さんを学校に遅れさせる訳にはいかない。早く着替えて朝ごはん作らなきゃ。

そういえば咲さん制服着てたな。昨日一応アイロンとかはかけたけど…し、下着乾いたのかな…

 

そんなことを考えながら制服に着替える。

時計を見ると時刻は6時30分。まだまだ時間はある。

 

「ふわぁ…」

 

何時間寝れたのだろうか。

3時くらいまでは起きていたはずなのだが…いつのまにか寝落ちしていたらしい。

あー…ねむ…

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー…」

「おはよう。食パンで良かった?トースターで二枚焼いてるけど。」

「ありがと。じゃあベーコンエッグでも焼こうか。」

「やった!楽しみ~!」

 

笑顔で手を叩いている。

は・や・く!は・や・く!という声が聞こえてきそうだ。

 

「フライパンと…サラダ油と…」

「ふむふむ…」

「あ、油引いて…ベーコン焼いて…卵を…」

「おー…すごーい…」

「………」

「どうしたの?しばらく待機?」

「いや…ずっと見てるつもり…?」

 

真横に咲さんが立って、前のめりでフライパンの中を覗きこんでいる。

 

「ダメ?」

「ダメってわけじゃ…」

 

昨日はこの家のお風呂に入ったから使った石鹸は同じはずなのに…なんなんだこの嗅いだことのない匂いは…!

一緒に寝たときは感じなかった。否、緊張しすぎて嗅覚がおかしかっただけかもしれない。

 

「見ててもいいかな…?」

 

両手を握りしめ、上目遣い。その顔はズルい…

 

「別にいいけど…」

 

逆らえないもん!

 

 

 

 

 

 

 

「あー…美味しかった!」

「それはよかった。歯ブラシはストックがあったから使っていいよ。」

「ありがと。今日は一旦家に帰って色々持ってくるから…

明日からはできるだけ迷惑かけないようにするから!」

「いやいや…迷惑なんて…」

 

ふと昨日の夜のことを思い出す。

お風呂上がり。火照った体を隠す布は白いセーター一枚のみ…

 

ガンッ!

 

「え?だ、大丈夫?」

「うん…ちょっと自分に罰を与えただけだから…」

「そ、そうなんだ…男の子って難しいんだね…」

 

荷物を持ってくるってことは今日も泊まるのか…

その時僕はふと思ったことを口にしてしまった。

 

「咲さん…突然この家で過ごせって言われて嫌じゃない?」

「え…?なんで?」

「いや、だって数日前まではお互いのことは知らなかったんだし…

いきなり『知らないやつと許嫁』とか『一緒に住め』とか…普通なら嫌じゃない?」

やっぱり覚えてないんだ…バカ…

「え?何か言った?」

「ううん。なんでもない。別に嫌じゃないよ。樹来君優しいし。」

「あ…そっか…」

 

僕ならどうなっていただろうか。

いきなりオヤジが『○○さんとお前許嫁な。明日からそいつの家で同棲してこい。』

うん。間違いなく親父を殴る。そしてその女の子には声をかけないだろう。他人のフリをすると思う。

凄いな。咲さんは。可愛いだけじゃなく格好いいや。

 

「よし、学校行こうか。」

「え?あ、うん。そうだね。」

 

気がつけばもういい時間だ。

そろそろ出なければ。

 

「じゃあ咲さん先に行っていいよ。僕は後から行くから。」

「え?なんで?」

「え?いや、だって一緒に学校行ったら迷惑かかるし…」

「誰に?」

「誰って…咲さんに…」

「迷惑じゃないよ?」

「え…でも…」

「行こっ!」

 

右手をこちらに伸ばしてくる。

掌を上に向け、こちらの目をじっ…と見つめる。

まさか…!

 

「手、繋ご?」

「ムーリーでーすー!!!」

 

そんなことしたら僕は殺される!

昨日僕は咲さんがどれだけ人気か知った。

一緒に住むって知られただけでもどうなるかわからないのに…手を繋いで登校なんてしたら確実に死ぬ。

 

「えー?恥ずかしいの?」

「まぁ…それでいいよ。恥ずかしいからダメ。」

「ふーん…じゃあまた今度ね。でも…一緒に行ってくれるよね?」

「はぁ…わかった…」

 

手を繋ぐ…に比べればよほど…言い訳考えとかなきゃな…

 

 

 

 

 

 

 

なんてのは杞憂でした。

 

「あ、咲!おはよう!」

「おはよ!久しぶりだね!」

「ねー!春休み会えなかったから一ヶ月ぶりくらいかな?」

 

きゃっきゃっと女の子同士のお話が始まる。

僕のことは見えていないような素振り…まぁそうか。

バス通学というのもあるのだろう。

僕と咲さんが一緒に通学している…とは思っていないようだ。

おそらく『たまたまバスが一緒の男の子』くらいか。

僕の考えた言い訳のひとつも『バスが一緒だっただけだよ』だったのでちょうどよかったが。

 

それにしても…やっぱり咲さん人気なんだな…

バスの中だけでなく、歩いている今も結構挨拶をされている。

しばらく咲さんの数歩後ろを歩いているが声をかけに来る人は絶えない。

 

結局教室まで僕は咲さんと話すことはなかった。

いや、いいんだけど…僕が望んだことなんだけど…なにか…腑に落ちないというか…

 

   ん。   君。」

 

「樹来君。」

「ひゃいっ!」

 

ボーッとしていた…

目の前に咲さんの顔がある。横から覗きこまれていた。

 

「どうしたの?ボーッとして。」

「あ…なんでもないよ。」

 

気がつくと自分の席に座っていた。

横は咲さんの席だ。周りには咲さんを慕うクラスメートたちが集まっている。

その中心人物である咲さんに話しかけられている。

皆の視線が僕を突き刺す。

さっき僕は咲さんに下の名前で呼ばれていた。それがまた周りの人達の意識を集中させる。

こんなに注目されるのは初めてだ。今まで積極的に他人と関わろうとしなかった僕はどうすればいいのかわからず…寝た。

 

 

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