気がつくと公園に立っていた。
目の前には二人の子供。
男の子と女の子。この男の子は…昔の僕だ。
「ねぇ、じゅーくん。」
「なに? ちゃん」
ところどころ聞こえない部分がある。
それに相手の女の子の顔がぼやけて見えない。
これは…僕のはるか昔の記憶。もう思い出そうとしても思い出せない。
きっとこれからも…
「私、大きくなったらじゅーくんと結婚するの!」
「じゃあ ちゃんは僕のお嫁さんだね!」
「うん!約束だよ!」
「約束!」
こんなこともあったっけ…子供の頃だからな…
「 ! 君!」
おや…知らない声が…こんな声の人、昔近くにいたっけ…?
「一ノ瀬君!」
「っ!はい!」
よくわからずにとりあえず起立!
椅子が後ろにガタンと音をたてて倒れる。
ここは…教室?
「一ノ瀬君。新学期初日の朝から寝ないでくれる?」
「あ、すいませんでした…」
そうだ。学校に来て…昨日の『家に行ってもいい?』事件や今日の『咲さんに名前で呼ばれる』事件があって皆に注目されてたから…とりあえず寝たんだった。
てことはさっきのは夢か…なつかしい夢だ。どうして今ごろ思い出したのだろう。
相手の女の子は誰だったのだろうか。全然思い出せない。顔も…名前も…
「樹来君。寝不足?」
「え?あ、あぁ…そんなことないよ。学校ではいつもこうだから。」
咲さんが話しかけてくる。
今は先生が話しているというのに…生徒会長なら僕なんかに構わずにちゃんと先生の話を聞かなきゃ。
「いつもって?」
話を広げるのか。手っ取り早く終わらせよう。
「僕は学校ではいつも一人だったからね。授業中以外は基本いつも寝てるんだよ。」
「ふーん…」
そのタイミングで先生の話も終わる。
「起立!姿勢!礼!」
「ありがとーしたー!」
「一時間目は総合。役員とか決めるから、何委員したいとか決めておいてね。」
先生が教室を出ていく。
僕はいつも通り机に伏せて…
「ねぇねぇ。何委員する?」
…伏せて…
「おーい。聞こえない?樹来くーん。」
………
「咲ー!こっちおいでよ!この画像見て!」
「んー…うん!どれどれー?」
足音が離れていく。よかった。やっと僕に平穏が訪れたようだ。
これでゆっくり眠れる…
と思っていた。
「咲って一ノ瀬君のこと好きなの?」
こんな言葉を聞くまでは。
「え?なんで?」
「いやさ、だって昨日は家行ったんでしょ?それに今日は一緒に登校してきたってちょっとした噂になってるよ?」
なんでだよ。なんで今日の朝のことが数分後の今すでに噂になってるのさ。
え?女子の情報ネットワークってそんなに早いの?光なみだね!
「それに下の名前で呼んでるじゃん。咲が男の子とそんなに親しくするなんて…よよよ…私悲しい…」
「なんであーちゃんが悲しむの?心配しなくても私はあーちゃんのこと大好きだよ。」
「咲ー!私も大好きー!」
「もう…抱きつかないでよ…びっくりするじゃん。」
「ふふふ…ほれほれ!うりうりー…ん?咲…おっぱい大きくなった?」
「ふぇ!?」
うぉぉぉ!?!?教室が一気に騒がしくなる。
「おー…春休みに何かあったね?じゃないとこんなに育たないでしょ!」
「ちょっ…あーちゃん…やめ…んぁ…らめ…」
「ついにBに…」
「あーちゃん!?」
なにやら楽しそうなことに…!見たい。見たいけど今僕は周りから見ると寝ているように見えている…はず。
起きれない…でも見たい…うぅ…
「そっか…やっぱり恋か…咲にも好きな子ができちゃったのか…ついに私から巣立つ時が来たのね…」
「あぅ…揉まないでよ…」
「うーん…うん!やっぱり親友としては応援するべきだよね!頑張れ!咲!」
「わ、わかったから…やめて…」
教室で大音量でする話ではないと思うのだが…
それにしても咲さん…好きな人いたのか…
てことはやっぱり僕の家にお泊まりとかするべきじゃないよね…
最初にこのあーちゃんさんは咲さんが僕のことを好き…なんて言ってたけどそれはない。だって僕には好きになられる要素がなにもないから。
たいして咲さんは可愛いし人気者だし生徒会長という完璧な女の子だ。料理は…ちょっと苦手らしいけどそれは練習すればなんとでもなる。
うん。やっぱり僕とは釣り合ってない。許嫁なんて断るべきなんだ。僕には荷が重すぎたんだ。
咲さんには好きな人がいる。ならば僕は邪魔をしないべきだ。咲さんは…いや、天城さんはただのクラスメート。これでいいんだ。これでもとの生活に戻る。僕はいつもひとりぼっち…
「授業始まるから席についてね。」
先生が入ってきた。重い頭をゆっくりと起こす。
「おはよ。数分ぶりだね。」
「ああ。おはようございます。」
天城さんが横に戻ってくる。
この笑顔とももうすぐお別れか。一日だけだけど楽しかったな。こんな非リア充DTな僕に優しくしてくれてありがとう。
「では授業を始めます。」
放課後に言おう。はっきりと。好きな人と…うまくいくといいねって。許嫁は解消するようにオヤジを説得するからって。
これからは………
いや、もう関わるのはやめよう。の方がいいのかな…
そんなことを考えていて、授業に集中できるはずがない。
気がつくと放課後になっていた。
「樹来君、行こう。」
「天城さん…話があるんだ。」
まだ教室には多くの生徒が残っている。
それにも関わらず教室はシーンとしていた。
そんな雰囲気の中…僕は話し始めた。