面白そうではあるのですが、帰還後がどうやっても血生臭くなり過ぎるのでボツに。悪くないと思うんですけどね…残念。
月曜日。
それは一週間のうちでもっとも憂鬱な始まりの日…だった。
きっと大多数の人はこれからの一週間にため息を吐き、前日までの天国を思ってしまう…のだろう、私もそうだった。
でも、今は違う。人理焼却と人理漂白、二度に亘る人理の危機を経て私は“ありふれた日常”というものの得難さを、尊さ、そしてその儚さを思い知った。
当たり前のように続き、これからも変わることなくあり続けると思っていた日々。だが、その認識が大間違いであったことを今は知っている。日常なんてものは些細なキッカケ一つで脆くも崩れ去り、一度失われたものを取り戻すことは奇跡のようなことなのだと……つまり、こうして失ったはずの日常に帰って来られた私は、文字通り“奇跡”の中で生きているのだろう。
「…輩」
だからだろうか。帰ってきたはずなのに、どうしても“違和感”と言うか、“非現実感”を覚えずにはいられない。
それはふとした拍子で湧き上がる。
例えば、朝目を覚まして視界に飛び込んできた自室の天井に。
例えば、十数年共に暮らしてきた代り映えしない父母との会話に。
例えば、通いなれた通学路を半ば無意識に歩いている今の状況に。
カルデアでの日々が濃厚過ぎた…と言うのももちろんあるのだろう。カルデアが完全解体されてから数ヶ月が経ったはずなのに、今でもつい騒々しいみんなの声を、不穏な気配を、懐かしい誰かの後姿を探してしまう。
契約を、縁を、絆を結んだサーヴァントたちはみな退去した。生き残った職員は十数人程度だが、彼らもそれぞれの道を歩き出している。もう、私たちの道が交わることはないのだろう。
(それは、きっといいことなんだろうけどね)
元々住む世界が違ったというのもあるが、それ以上に“生きて未来へ進める”というのは良いことだ。
死んでしまった人、還ってしまった人、あるいは“無かった”ことになってしまった人々には、それすら望めないのだから。それ以上を望むのは、きっと贅沢なのだろう。
「先…?」
そうとわかっていても、これからも何度も思い返してしまうのだろう。
あの、どうしようもなく追い詰められていながらも、騒々しくて危なっかしい日々を。
本当に、思い返せば思い返すほどに、私のような凡人が良くあの険しい道を歩き切れたものだ。支えてくれた人、道を切り開いてくれた人、背中を押してくれた人…出会った全てに、感謝するばかりだ。私一人だったら、それこそ最初の最初で躓いて終わりだったはずだから。
遠いあの日々、離れ離れになってしまった人たちのことは寂しく思う。
それでも、その一欠片がこうして傍にいてくれるのだから、十分に……
「先輩! そのままだと電柱にぶつかってしまいますよ!」
「ほわっ!? あ、あっぶなぁ…ありがと、
「先輩、またレムレムしていたんですか? もしや寝不足では……」
心配そうにのぞき込んでくるのは、たった一人残されたあの日々を共有できる半身と言っても過言ではない、愛おしき後輩。
そんな彼女が自分と同じ制服を着て、同じ通学路を歩いているのには不思議な感慨が湧いてくる。
「あ~、昨日マシュが寝かせてくれなかったからねぇ。遅くまで、あんなに熱く燃え上がって……」
通学路を歩く、自分たちと同じ制服を着た学生たちが一様に「えっ!?」と言う顔を向けてくる。
ヘイ諸君、特に男子共、今君たちなに妄想した? 怒らないから、正直に白状してみなさい。ご褒美に、邪悪経典に載ってた情報操作で社会的に抹殺してあげるよ?
……まぁ、その妄想が一から十まで間違っている、とは言えないのがちょっとアレだけど。昨夜は違うけど、一昨日はその…ね?
「ご、ごめんなさい。嬉しくて、つい……」
「マシュってさ、無自覚に罪作りだよねぇ。いや、私の言い方も悪いんだけど」
「はい?」
「うん、なんでもない。マシュは学校好きだもんね、嬉しくておしゃべりが盛り上がっちゃうのは仕方ないよね。まぁ、夜中の二時は流石にきついから、もちょっと手加減して欲しいけど」
「気を付けます……」
ションボリ項垂れている後輩の頭を撫でてやれば、はにかみながら潤んだ上目遣いを向けてくる。狙ってやれるほど世間慣れしていないのは良く知っているが、くれぐれも男どもには向けないで欲しい。同性の私ですらグラッと来そうになるのだ、色々持て余している野獣がおかしな気を起こしては事だ。
素の腕力、身体能力なら私の方が上…というか、マシュはどちらかと言えば華奢で非力だから、本気で迫られたら大変だ。裏技がなくもないとはいえ、それは推奨されない。
ようやく帰ってくることができた日常だが、私たちの場合色々と面倒な制約の上に成り立っているのだから。
その後はぼんやりすることもなく、マシュとのおしゃべりを楽しみながら通学路を進む。
ボケッとしてても怒ることなく付き合ってくれるのは嬉しいが、これではどっちが先輩かわかったものではない。だから一部から、“藤丸の嫁”扱いされているんだろうなぁ……まぁ、結果的にこうしてサポートをさせてる私のせいなんだけど。
そのまま校舎に入り、階段を上った三階が私たち二年生のフロア、対してマシュは一年生なのでもう一つ上の階。
というわけで、階段を上ったところでいつも通りに分かれることに。
「さて、それじゃ私はこっちだから」
「はい、お昼にまた伺いますね」
「偶には教室の友達と食べてもいいんだよ?」
「私もできればそうしたいのですが……」
上の学年である私とばかり付き合ってるから…と言うのもあるのだろうが、マシュは芸能界でもめったに見ることのない美少女だ。儚げな容姿、片目を隠すような髪型がミステリアスさを与え、スタイルだって良い。外国人なのに日本語も堪能で礼儀正しいのだが、それがかえって近寄りがたさを生んでいるのだろう。
それこそ、ステレオタイプの似非外国人みたいな喋り方だったら、もう少し親しみやすかったのだろうか?
マシュはマシュでかなり…凄く……とてつもなく特殊な環境下で生きてきたから、普通の人間とのコミュニケーションには戸惑ってしまうらしく、こうして入学して一ヶ月が経とうとしているのにまるっきりクラスに馴染めずにいる。
(先輩として、相棒として、そして
首を突っ込んでどうこうなる問題でもないのが悩ましい。
(いっそのこと、うちのクラスの女子とかから交友関係広げるかなぁ……谷口さんとか上手く巻き込めば行けると思うんだけど。でも、中村さんがなぁ……)
今のところは大人しくしているが、不穏なものを感じるクラスメイトの存在が頭をよぎる。
人間大なり小なり人とは違うところがある以上、“完全な真人間”なんていないと思っている私だけど、彼女はかなり危うい気がする。加えて、私に“危うさを正す”なんてマネはできない。今までだって何とか折り合いをつけてやっては来たけど、決して矯正できたわけじゃないし、しようと思ったこともない。
私にできることと言ったら、“受けれ入れ”て“寄り添う”くらいなんだから。
(そして、きっと中村さんはそれを望んでいない。彼女がそうして欲しいのは、きっと……)
「先輩? あの、もしお邪魔なようなら……」
「ああ、いや、そうじゃないんだ。そうだ、今度クラスの友達と遊びに行くんだけどマシュもどう?」
「え、私も? いいのでしょうか?」
「大丈夫大丈夫。それでさ、今日のお昼は教室で食べようと思うんだけど、そこでその子たちに紹介してもいい?」
「はい! 大丈夫です、問題ありません!」
「うん、それじゃまたお昼にね」
そうしてマシュと別れて教室に入れば、既に何人かのクラスメイトの姿が。机にカバンを置き、一通りの支度を済ませてから近場の女子グループに合流する。
「おはよ、優花、妙子、奈々」
「おはよう、藤丸さん」
「見てたわよ~、また今日もあの後輩ちゃんと一緒だったでしょ。仲好いんだから~」
「ほら、あんまり茶化さないの」
「ふふん、何しろ可愛くて可愛い自慢の後輩だからね!」
「うへぇ、朝から惚気られたわ……」
“やってらんな~い”とばかりに手で仰ぐ友人たち。これなら今日も上手いこと誤魔化せそうかな?
別に個人的には隠さなくてもいいと思うんだけど、それで周りからアレコレ言われるのは面倒だし、適当にはぐらかすのが吉ってね。
「……ねぇ、やっぱり付き合ってるんじゃないの?」
「仲が好いを通りこしてる感はあるしね」
「ちなみに私の初恋は、ちょっと軽い感じでチキンのアラサーでしたがなにか?」
「「「男の趣味が悪い」」」
「ほっとけ」
一応言っておくと、これはホント。というか、いつの間にか嘘を吐けない体質になっていたので、私の言動には基本的に嘘がない。まぁ、誤魔化したりはぐらかしたり、言葉のトリックを使ったりはするけど。
あの頃はそれどころじゃなかったから自覚が薄かったけど、今思えば私はドクターに恋していたのだと思う。気付いたのはシバの女王からソロモン王の話を聞いたり、逆にドクターの話をしたりしていた時。
彼女と私はある意味対照的だった。ソロモン王を愛していたからロマニ・アーキマンを知りたかった彼女と、ロマニ・アーキマンに恋していたからこそソロモン王を知ろうとした私。恋敵になってもおかしくなかったのにそうならなかったのは、好きな相手が“同じだけど違う人”だったからだろう。
私が男だったら、もしかしたらダ・ヴィンチちゃんに恋したり…しないな。男女関係なくアレをそういう対象に見るのは多分無理。尊敬してるし大好きな人だけど、恋愛対象は無理だわ。いやでも、ちっちゃくなったダ・ヴィンチちゃんならなくもない? 難しい問題だ、論文一本書けるレベルの難題かも。
でも、我ながら不思議なのはその次がマシュだったことなんだよね。ゴルドルフ新所長とかムニエルくんだって、別に悪くはなかったはずなのになぁ…というか、自分がネロちゃまと同じ
わからん。自分のことなのに全然見当がつかない。
なんて自分でもイミフな思索にふけりながら友人たちと喋っていると、始業チャイム間近と言うところで教室がざわついた。入ってきた男子生徒に他の男子の大半が舌打ちや睨みを向け、女子もあまり友好的な反応を示さない。目の前の友人たちは無関心なだけまだマシな方だろう。中には、あからさまに侮蔑の表情を向ける者もいる。まぁ、この教室では別に珍しくもないことなんだけど。
「よぉ、キモオタ! また徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
(またやってる、飽きないねホント)
下品な笑い声をあげる男子生徒たちに呆れて言葉もない。
オタクと言う存在への風当たりが強いのが今の社会だが、それにしたって偏見が過ぎる。オタクと呼ばれる人たちが内包する熱量、そこに起因するバイタリティは並外れている。無趣味だったり無為に過ごしたりしているより、彼らの方がよほど“人生”を謳歌しているだろう。
なにより“好きこそものの上手なれ”という言葉があるが、彼らはその体現だ。“好き”の一念で磨かれた技術、育まれた発想力が今や一大産業に成長しつつある。
創作者はもちろん、ROM専だってその一翼だ。生み出された作品に込められたメッセージ、奥に秘められた暗喩を読み解くためには一定の教養が必要になる場合も少なくない。オタクと呼ばれる人たちは、下手な常識人よりよほど優れた知見を持っていたりするのである。彼らを只“オタクだから”と見下すのは、見識の低さを露呈しているとわからないのだろうか……わからないんだろうな。そうじゃなかったらあんな、明らかに頭悪い風に絡まないだろうし。
「……まったく、どうして男子ってこう子どもっぽいかな」
「天之河くんを見習ってほしいわよね」
「どうするの、立香。幼馴染のこと、放っておいていいの?」
「幼馴染って程の付き合いはないんだけど……」
確かに、小学生の頃から度々同じクラスになったりはしたけど、ほとんど話したことはないから“知り合い”以上ではない。まぁ、見てて気分の良い物ではないけど……
「へぇ、やっぱりオタクは好きじゃない?」
「あ、そういうんじゃなくて。もっと単純に“必要ない”だろうから」
「?」
不思議そうな顔をする友人たち。でも、それも仕方のないことだと思う。あの旅を経験する前の私だったら、もう少し別の反応をしたと思う。
だけど、今ならわかる。彼に助けは必要ない。他の誰かだったら心に傷を負ったり、なんなら自分を追い詰めてしまったりするのかもしれないけど…彼は違う。南雲ハジメにはこの場の誰も持ちえないしっかりとした土台と芯がある。だから彼は誹謗中傷を笑って受け流し、飄々としていられるのだろう。
多くの生徒は彼の笑顔が卑屈になり、遜っているが故と思っているようだが、今ならそれが違うとわかる。
アレは単に“どうでもいいから聞き流している”だけなのだ。男子生徒たちの下卑た嗤いなど、彼にとっては“発情したネコの鳴き声”以下、一顧だにする価値もないから反論しないだけなのだ。そんな相手に助け船など、余計な世話以外の何物でもない。
「ホント、見る目がないよね。私も、みんなもさ……」
人類史にその名を刻んだ英傑たちを見てきたからだろう。人を見る目が養われたのか、南雲君が今までとは違った意味でクラスから浮いていることがわかる。誰も彼もが浮足立った子どもばかりの中、彼だけは地に足がついている。
彼はあの年で既に自分の生き方を定め、そのために必要なものを取捨選択しているのだ。授業態度がいい加減かつ成績もギリギリのライン見えるのは、不真面目だからではなく、必要最低限の労力を割くに留め、余ったリソースをより重要な方面に振り分けるため。要は優先順位の問題だ。
そしてこれは、“将来”というものを描けていない大方の生徒たちにはできないことだ。“何をしたいのか”が定まらないから、“どう努力すればいいか”がわからない。万事に真面目に取り組むというのはもちろん美点だが、裏を返せば“どこを目指しても良い様に備えている”ということ。目指す先が定まっている者にとって、それは無駄以外の何物でもない。
彼が大成するかどうかはわからない。だが、大成するだけの下地はある。
皆がスタート地点にすら立っていない状況の中、彼だけは既に全速力でスタートを切っている。このアドバンテージの大きさは計り知れない。多くの生徒は優等生の“天之河光輝”を学年一…あるいは、学校一の優良物件と思っているだろうが、その実南雲ハジメこそが“隠れ超優良物件”なのだ。彼の前では、完璧超人と名高い天之河君ですら一人の子どもに過ぎない。男子が彼に突っかかるのは、南雲君が自分たちとは違うと感じ取ってるからって部分もありそう。このあたり、天之河君も似た様な理由なんじゃないかなと思ってる。
異質な存在を排除したがるのは、生き物として当然の本能でもあるし。
まぁ、あの旅を経験するまでそれに気づけなかった私も、大概人を見る目がない。
しかし、気付いたのなら今からでもアプローチをかけるという手もあるにはあるだろうが…そんな気は微塵もない。
一つは私には既にマシュがいるから、浮気なんてしませんよ?
もう一つは、それだけの優良物件である南雲君でもまだ私基準の“イイ男”には物足りないから。いや、これは単に基準がバグってるだけなんだけどね。流石に、英霊レベルを求めるのは間違ってるよ、うん。
そして最後にして最大の理由、それは……「白崎香織を敵に回したくない」これに尽きる。
「ほら見て、白崎さんがまた南雲にかまってる」
「南雲もねぇ、白崎さんの手を煩わせて悪いと思わないのかな?」
「天之河君の注意も全然真面目に聞いてないみたいだし……」
(うわぁ、天之河君の無謀さには頭が下がるなぁ。あの二人の間に割って入るとか、自殺願望でもあるとしか思えないんだけど……自覚がないってのが哀れと言うかなんというか。南雲君も、さっさと腹を括っちゃえばいいのに)
つい先日までの“二大女神”、最近ではマシュも含めて“三大女神”と名高い女子生徒の一角であるところの白崎香織。彼女だけは南雲ハジメの真価に気付いていた。変に彼の自己評価が低かったり、本人も恋愛感情に疎かったりするせいで空回っているが、彼女だけが南雲君との距離を詰めようと懸命にアプローチしている。
何故か、親友の八重樫雫以外はそこに恋愛感情があると思っていないのが不思議でならないが……それはともかく、私は密かに白崎さんを尊敬している。自覚の有無はともかくとして、彼女の人を見る目は本物だ。南雲ハジメを選んだという一点が、何よりの証拠だろう。特に、あんなに派手で目立つ天之河君をスルーして南雲君一点狙いと言うあたり、スゴイとしか言いようがない。
(ただあの子、清姫とかに近い匂いがするんだよねぇ。愛が重いというか、クソデカ感情を秘めてるというか)
重過ぎる愛を向けられるのには慣れているけど、それに起因する敵意を向けられるのはホントに勘弁。私が南雲君に助け舟を出さないのもそれが理由だ。万が一にも好感度稼いだりしちゃったりしたら後が怖い。彼の場合、放っておいても大丈夫そうというのもあるけど。
後になって思い返せば、この時の私はすっかり気が緩んでいたんだと思う。
平穏な日常に帰って数ヶ月、非日常から遠ざかっていたんだから当然なんだろうし、そもそも気を引き締めてたって何ができたとも思わないけど。
でもさ、それにしたって……“
おい神様、アンタそんなに私が嫌いか。流石にこれには抗議…あ、ダメだ。うちの神様全く当てになんなかったわ!? むしろ面白半分に引っ掻き回しそう……。
あ、今黒髭の電波っぽいの受信した。
「デュフフフフ……異世界で“俺Tueeee”こそ王道中の王道。お姫様、ツンデレ騎士、ケモっ娘、クーデレ魔術師に純真無垢な聖女を囲ってハーレムを作るのですぞぉ!!」
女の私にどうしろと? それとも逆ハーでもやれってか? フザケンナ!
・
・
・
で、召喚された場所は場違い感甚だしいどこぞの神殿(?)と思しき場所。
周りには一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い祈りを捧げる信徒のような人々。
この時点で、私の錆付いたはずの危機管理能力が「ヤバイよヤバイよ!」と警鐘を鳴らしている。
挙句の果てに、一際豪奢な格好した教皇を名乗るお爺さん(一身上の都合により名前で呼びたくない)には総毛だった。見た瞬間に分かった、アレ、絶対ヤバい人だ。どれくらいヤバいかと言うと、一見するとまともそうだけど中身はキャスターのジル・ド・レェ並みにイッちゃってる。場合によってはそれ以上。
天之河君も“聞きたいことしか聞かないタイプ”の一歩間違うと狂人まっしぐらな人だけど、アレはもう完全に手遅れ。どれくらい手遅れかというと、バーサーカーと同等かそれ以上だろう。
そんなのが恍惚と自分とこの神様について語るんだよ? 絶対ヤバいって。
基本、カルデアでの経験から神様案件はビタイチ信用しないことにしてるからさ。エレちゃんとかケツァル姐さんとか割とマシな部類だけど、それでもやる時はやっちゃうからね。
しかもその神様、滅びに瀕した人間を救うために私たちを召喚したとか宣うんですけど。
ないわー、マジないわー。ねぇ、バカなの? アホなの? なんでみんなその話鵜呑みにしてるわけ? 幾ら異常事態だからってもうちょっと冷静に…あ、ダメだ。冷静になれないから異常事態なんだった。私みたいに異常事態慣れしている方が普通はおかしいんだった。
にしても、普通異世界人召喚する前に自分とこの人間に加護でも祝福でも与えるでしょ。なんなら降臨するって手もある。それすっ飛ばして異世界召喚って、絶対ワケアリじゃん。神様間のルールで直接干渉禁止ってなってる可能性もあるけど、それで異世界召喚がアリな理由がわからない。これならまだ“人間がやらかして面倒ごと押し付けようとしてる”って流れの方がマシじゃん。
だってこれ、神様側に絶対何かあるもん。しかも超碌でもないヤツ、そうじゃなかったら異世界召喚なんてどう考えてもクッソ面倒くさいことわざわざしない。
その上、「世界を救えばエヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」ってなに?
全く微塵も帰れる保証がないんですが? 神託で私たちを召喚するのは伝えたのに、帰れるかどうかについてはノーコメントとは何事? これ、帰れなくても「教皇が勝手に言ったこと、神様関係ありません」ってなる流れなんじゃない? なのになんで天之河君超やる気になってるの? なんでこんな場面で妙な扇動スキル発揮してるわけ? みんなもさぁ…目の前の希望に縋りたい気持ちはよ~くわかるけど、こんなショボい詐欺に引っかかってるのを見ると将来が心配だよ。
まぁ、私の場合帰っても絶対碌な目に合わないってわかってるし、帰還自体は諦めてるから冷静でいられるってのもあるんだろうけど。だってさ、“異世界召喚された人間”なんて絶対魔術協会が放っておかないって。よくて実験動物、下手すると標本にされるのがオチだもん。
なにより、一番気に食わないのは……
「邪悪な魔人族は邪法によって魔物を使役し、エヒト様に祝福された我ら人間族を滅ぼさんとしているのです。この世界を創られた至上の神の御意志に反するなど、許されざる悪に他なりません。どうか、是非そのお力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
別にね、他力本願なことについては何も言わないよ。私だって散々
“至上の神”とか“祝福された人間族”とか、身の毛もよだつような選民思想も、まぁ我慢できる。実際に神様に
問題なのは、魔人族とやらを「邪悪」だとか「汚れた存在」と切って捨ててること。
実際そうなのかもしれない。言葉の通じない、破壊と殺戮が生き甲斐の連中って可能性もある。そういうのも見てきたし、無いとは言わない。
だけど、その判断をこっちに押し付けないで欲しい。別に皆にまで私の考えを押し付ける気はないけど、私は「顔を知らない相手を殺す」つもりはない。半ば以上この世界に骨を埋める覚悟はもうできているから、生きるために戦うことも、そのために奪わなきゃいけない命があることも理解している。それでも、私は「相手のことを何も知らずに殺す」ことはできない。
「いくつか、質問してもいいですか」
「ふむ、何なりとお聞きくだされ。如何様な問いにも答えてご覧に入れましょうぞ」
「藤丸さん?」
「では、遠慮なく。まず、さっき私たちが帰れるかどうかについて“エヒト様は無下にしない”と仰ってましたけど、具体的にはどう“無下にしない”んですか?」
「ま、待ってくれ、藤丸さん! そんなの聞くまでも……」
「言質はちゃんと取るものだよ、天之河君。“きっと”“だろう”は禁物、教皇さんは“帰れる”とは明言しなかった。神様のことだから迂闊に口にできないのもわかるけど、そこはハッキリして欲しいですね。
まぁ、聞いておいてなんですけど、答えられるとは思ってません。仮にそちらの願い通りに全て終わったとして、どうなるか…あなたもわからないんでしょう? だって、ちゃんと明言した方が報酬としての効果は高いですからね。はぐらかしてる時点で……」
「ゴホン、神の御意志を人の身で推し量るなど、あまりに畏れ多いことですな」
「……………そういうことにしておきましょうか」
敬虔な信徒が相手ならそれで黙らせられるのだろうけど、宗教について適当な日本人にはそれでは足りない。私たちは正月には神社を参拝し、身内が死ねばお寺で供養し、結婚式は教会で挙げる人が大半だ。この時点ですでに神道、仏教、キリスト教と無節操ったらない。そんな人間に「神の御意志を云々」と言ったところで、推測することを止められるはずがない。ある程度の人の中には、神様に対する不信感が植え付けられただろう。
「それじゃ次に……」
その後もいくつかの質問をするが、望んだような答えは返って来なかった。大体がお茶を濁すか誤魔化すか…まぁ、あちらにとって不都合な質問だったのは間違いないだろう。何しろ、その度に私に向けられる視線が剣呑になっていくし、クラスの空気も悪くなっていく。
正直、混乱が収まっていないこの時点でまとまりを乱すようなことを言うのは本意じゃない。変に暴走して収拾がつかなくなるのは怖い。加えて、私の立場がどんどん悪くなっていくのが肌で実感できる。こんなのは、正直言って下策も下策だろう。
だけど、私にはどうしても急がなければならない理由があった。
今ならまだ、私にはクラス内にそれなりの発言力がある。天之河君ほどではなくても、そこそこの人に私の声は届くだろう。でも、明日以降はわからない。予定では、明日私たちの能力を調べることになっているらしい。
異世界召喚されたからって、私は自分が特別な能力を授かるなんて夢想できるほど楽天家じゃない。自分の凡人っぷりは自分が一番わかってる。だからきっと、私は大した能力を示すことはないだろう。そうなれば、自然と私のクラス内での発言力は低下する。こんな状況では、より高い能力を持った人が発言力を強めるのが自然な流れだから。それを理性的にコントロールすることを期待するには、私もみんなも子ども過ぎる。いや、大人にだって難しいことだ。
だから今のうちに、私の言葉が少しでも多くの人の心に届くうちに話さなければならなかった。そうしなければ、きっと遠くない未来、みんなは後悔するかもしれないから。それがわかっているのに何もしないなんて、私にはできない。
自分の行動が原因で仲間を失う、自分の選択で誰かの命を奪う…あるいは、何の罪もない人々からすべてを奪う決断を下す。その苦しさを、重さを知るからこそ、“何も知らない”ままでなんていさせられない。
せめて、教皇に食って掛かるんじゃなくて身内だけの場で問題提起するのが賢いやり方なんだろうけど、それができるかもわからない。食事の場であればみんな揃っているはずだけど、果たしてこの話ができるだろうか。それ以降に、どこかで話をする機会があるか。あるかどうかわからない機会に賭けるくらいなら、今この瞬間を逃してはならない。もっとも多くの情報を持っているであろう人物から何の情報も引き出せない、その事実だけでも意味がある。
「最後に、魔人族について教えてください」
「ですから、先ほども申し上げた通り……」
「“邪悪”とか“愚か”とか、そんな抽象的なことを聞きたいんじゃありません。彼らの生活様式は? 文化は? 何を重視し、何に怒り、何を好み望むのか。私が知りたいのはそういうことです」
「そんなことを知ることに何か意味がありますかな?」
「少なくとも私は、“何も知らない相手なら殺せる”とは考えられません。彼らがどういう“人”なのか、それを知らずには戦えません」
「人って…藤丸さん、魔人族は魔物を使役してるんだろう? それなら魔物と同じような存在なんじゃ……」
「そうかもしれない。でも、
「いや、でも! 人間族を滅ぼそうとしている時点で彼らは“悪”じゃないか!」
「そもそもどうして滅ぼし合うほどの戦争になるのか、っていうのも気になることだけどね。普通なら、適当なところで支配下に置いて搾取するとかじゃない? だいたい、何で敵側のことなのにそんなに確信を持って言えるのかな。相手の事情をよっぽど詳しく分かってないと言い切るのは難しいと思うよ。あるいは、自分たちも滅ぼそうと思ってる、とか?」
「そ、そんな野蛮なことあるわけないじゃないか! どうしてそんな恐ろしいことが言えるんだ!」
「わからないからだよ。何もわからないから、色々考えずにはいられない。考えておけば、備えることができるからね」
「だからって!」
教皇さんに対する質問だったはずが、いつの間にか天之河君との問答になっていたのはどういうことなんだろうね。まぁそれも、彼の主張は願望が混じったものばかりだから切り崩すのはなんてことない。私が口にするのは「そうじゃない可能性」だけでいい。何も情報を持たず、教皇さんも詳しく話したがらないから願望に対して推測をぶつけるだけの不毛極まりない問答だけど、私にとっては好都合だった。
だって、多くの可能性を考えることこそが私のねらいだったんだから。その意味では、天之河君はいい仕事をしてくれた。魔人族に「都合のいい悪役」であって欲しい彼と、「そうじゃない可能性」をぶつけるだけの私、討論としては笑っちゃうくらいにお粗末だったけど、少しずつみんなの間で議論が始まったのを見た時は安堵の息が漏れた。
(これで、とりあえずは大丈夫かな。私の発言力がなくなっても、もう種は蒔かれて芽吹いてる。この先どうなるかは、成り行き次第だけど……)
出来るなら、望む方向に持って行けるだけの力があればよかったんだけど、それは多分無理だろう。それだけの影響力が今の私にはないし、今後は低下の一途だろう。
なにより、私の存在は教皇さんたちにとっては邪魔なものになったはずだ。この先、あの手この手で私の立場が悪くなっていくのは想像に難くない。それこそ、よっぽど強力な力でもない限り。
(………………………………さて、どうやって逃げるかな)
この時点で私は、
いやだってさ、遅かれ早かれ粛清されちゃいそうだし。それに、元々魔人族や亜人族のことを知りたかったから旅には出るって決めてたしね。それが堂々と行くか、それともコソコソ抜け出すかの違いでしかないし。
でも、捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったもの。まさか、思いもよらぬところからヘッドハンティングされるとは思わなかったなぁ。
・
・
・
そんなことがあった翌日、早速訓練と座学が始まった。そこで予定通り私たちは自分たちの能力を“ステータスプレート”なるもので確認することになったのだけど、なんか見慣れたものに近くて懐かしくなったのはちょっと秘密。
それはともかく、一部例外を除きみんなが華々しい天職やステータス、スキルを持っている中、当の私はと言うと……
藤丸立香 17歳 女 レベル:1
天職:
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:星の加護・神々の祝福・聖者の祈り・魔力操作・運命力欠乏・言語理解
まさかの「天職:
……いや、マジでクラスのど真ん中で爆笑したらドン引きされたんだよね。アレはちょっと恥ずかしかった。具体的には、魔術協会の一部から「
ちなみに、「天職:なし」はクラス内で私だけ。やったね、ナンバーワンよりオンリーワン。少ないっていうのは希少価値だ! ……あとは需要があれば完璧だったんだけどなぁ、惜しい。
「……余裕だね、藤丸さん」
「だいたいの状況は楽しんだもん勝ちだよ、南雲君。嘆いたって状況は変わらないんだから、ポジティブにいこうよポジティブに!」
「クソ強メンタルか!? ああでも、多分君みたいな人が最後まで生き残るんだろうなぁ」
「ふふ~ん、なんだかんだと生き残ることにかけては一家言あるのだよ」
「なら、僕もしょげてたらみっともないかぁ」
「ん、どれどれ、見してみんさいハジメン」
「……君、キャラおかしなことになってない?」
「まぁまぁ、知り合いのパリピに倣ってみただけだから気にしないで。でも今思い返すと、凪子さんってある意味最強だったけど一周回って“陽のコミュ障”だったんじゃないかって思う時もあるんだよねぇ。いやでも、分かっててやってた節があるし、違うのかな? ハジメンはどう思う?」
「いや、僕その人知らないし……」
「元気ないなぁ…パンツ見る?」
「見ないよ!?」
「……良かった。ノリと勢いで言ってみたけど、“見る”って言われたらどうしようかと。危うく殺されるところだった」
「恥ずかしいとかじゃないんだ……っていうか、誰に?」
みんなそれなりに気を遣ってくれてたけど、現地調査の最中とかあんまり気にしてなれなかったからね。今更下着や裸見られたくらいじゃ驚かないよ?
まぁそれはそれとして、基本的に見守るつもりでいたけどこういう状況になったんならちょっとくらいは背中押した方がいいかな。そうじゃないと、最悪の場合も考えられるし。
「……南雲君さぁ、早めに腹括った方がいいよ、マジで。でないと手遅れになる」
「なんの話?」
君の後ろから私に現在進行形で“目で殺す”を仕掛けてる般若様のことですよ。なにあれ、スタンドってやつですか? 怖いわぁ…さっきから震えが止まらないんですけど。
にしても、南雲君の天職は「錬成師」かぁ。つまり鍛冶師、案の定というかなんというかクリエイター系だったか…
それと一つ分かったことがある。このステータスの数値、多分身体能力とかじゃなくて上乗せ分だ。だって、そうじゃないともやしっ子の南雲君とレオニダスブートキャンプを突破した私の筋力・体力・耐性・敏捷が同じとかありえない。なんなら、天之河君が相手でも勝てる自信あるし。
「ところでさ、この加護とか祝福とかって……」
それねぇ…メッチャ心当たりがあるんだよなぁ。
え? 運命力欠乏? 一種のバッドステータスです、お気になさらず。あと、魔力操作なんてなかった、いいね?
「は、はぁ……」
あと、ちょっと心配してた「私がみんなを巻き込んだ」説はこれで完全に否定された。己惚れるつもりはないけど、それでも自分がかなりアレな人生を歩いてることは自覚してるから「もしかしたらそうなのかなぁ……だとしたら申し訳ないなぁ」と思ってたんだけど、それならもう少しステータスが別のものになってたはず。
多分、エヒト神の本命はチート揃いのクラスメイトの中でも異彩を放つ“チート・オブ・チート”と言わんばかりの「
とはいえ、これを機に案の定私のクラス内での立場は微妙なものに。
何しろ、「落ちこぼれ」の南雲君以下だからね。どんな効果があるのかよくわかんないスキルはあるけど天職ないし、ステータス低いし、是非もないよネ♪
なので、その後は魔人族や亜人族、各地の情報を求めて図書館に入り浸る日々。
なにしろ、夜逃げをする可能性が日増しに強くなってきている。非戦闘職の南雲君は元より、私まで何故か戦闘訓練させられてるからね。自分で言うのもなんだけど、私直接戦闘には絶望的に向いてないよ?
いや、街の不良くらいだったら適当にいなせるとは思うんだ。サーヴァントの動きに目が慣れたのか、拳に勢いが乗る前に逸らすとか割と余裕だし。まぁ、殴るのとか嫌だからそのまま持久戦に持ち込んで相手の体力切れを待つことになるんだけど…これで戦争とか無理無理。
でも、それが何で夜逃げにつながるかって? だってさぁ……
「南雲君」
「ん~」
「メルドさんはともかくとして、お偉いさんたち絶対私たち殺すつもりだよね」
「あ~……やっぱり?」
「だって、そうじゃなかったら私たちみたいな足手まといを戦場に出す意味ないでしょ。
特に南雲君は生産職っていう利用価値があるのに戦わせるとかイミフ過ぎるし。そうなると、
「つまり、僕たちの役目は魔物…できれば魔人族に殺されてみんなのヘイトを稼ぐことか…ゾッとしないなぁ」
錬成師に求められる役目は強力な武器を作ることだけど、ぶっちゃけみんなに配られた王国秘蔵の再現不可能な“アーティファクト”と比べれば、名刀と爪楊枝も同然。あ、私には何ももらえなかったのあしからず。まぁ、貰っても活かせるとは思えないから別にいいんだけど。それはともかく……つまり、南雲君…というか、錬成師に求められる本当の役割は“普通に優れた武器”を作ることなので、劇的に戦況を変えるような兵器など期待されていないのである。条件さえそろえば、彼なら作れそうな気もするけど…変な期待を持たれると、かえってややこしくなりそうなのでお口にチャック。本人も納得しているので、すっかり二人で旅行計画を立てる大学生みたいなノリで図書館に入り浸っている次第である。
そして、そんな役立たず…特に聖教教会から邪魔者認定されたであろう私を有効に活用するための策が、
要は魔人族の手によって殺されることで「魔人族憎し」の感情を植え付け、仇討ちという名目で戦わせようというのだろう。厄介者もしっかり活用しようとする辺り、とってもエコだね……はぁ、効果的なんだろうけど、捨て駒にされる側としてはたまったもんじゃない。というか、なんで南雲君まで……なので私たちとしては、本格的に実戦投入される前に何とかトンズラせねばならないのである。
(まぁ、その前に南雲君には身辺整理して欲しいところだけど)
なにしろ、現在進行形で首筋が寒い。二階の本棚の影からこちらを見ている般若がいる。彼女が心配しているようなことは全くないので、早いとこ安心させて欲しい…と思っていたところで、読んでいた本に影が差す。
「ほぉ、アンジカ公国ですか。過酷な旅になりますが、良い国ですよ。物流の要衝でもあるので、各地の文化が混ざり合い独自の文化を築いているので一見の価値がありますね」
見上げてみれば、そこにいたのは男子である南雲君よりも頭半分は背の高い白髪の美女だった。
「あの、あなたは……」
「失礼しました。私は……」
「フェリシア! 勝手に動き回るんじゃねぇって言ってんだろうが!」
「メルド、図書館では静かに。常識ですよ」
「……お前に常識を説かれるとは思わなかったよ」
豪放磊落を地で行くメルドさんには珍しく頭の痛そうな様子を見せている。
とはいえ、気の置けない間柄のようでもあるので、もしや……
「恋び「違う!」ですか」
「こいつは俺の古い知り合いというか、腐れ縁でな。召喚された勇者一行に興味があるってんで、こうして案内してるわけだ」
「まぁ、体のいい監視ですね」
“クスクス”と笑う姿には品があり、そういう扱いをされていることに対する不満は見られない。
「当然だろ。いくら金級冒険者とはいえ……」
「金級って、確か冒険者の最高位じゃないですか!?」
「はい。若輩の身ではありますが、金級に叙していただきましたフェリシア・グレイロードと申します。以後、お見知りおきを」
「そら、これで目的は果たしただろう。さっさと帰れ」
「まだお二人だけなのですが……」
「いくら金級冒険者とはいえ、そうホイホイと城の中に入れられるか」
「まぁ、当然ですね。それに、二人だけとはいえ十分な収穫です。お二人とも、これも何かの縁。何かお困りのことがありましたら、こちらにご一報を」
「あ、ありがとうございます」
そう言って渡されたのは、地球で言うところの名刺のようなもの。南雲君は目を白黒させながら受け取っていたけど、正直私はそれどころじゃなかった。
(うわっ、何この人。こっちで会ってきた人の中で間違いなく一番“只者じゃない”)
別に威圧感があったわけじゃないし、見てわかる何かがあったわけでもない。
でも、古今東西の英傑と出会い、語らい、彼らの振る舞いを見てきた私の直感が告げている。この人は間違いなく、当代きっての傑物だと。金級冒険者が実際どれくらいすごいのかはよくわからないが、それでもこの人を評価するには不足だろう。
なんというか、もしかしなくてもとんでもない人とのコネができてしまったのではなかろうか。
「フェリシアさーん! そろそろ帰りましょうよー! ジロジロ見られていい気がしないんですぅ」
「そら、ツレがお待ちかねだぞ」
「そのようですね。では、お二人ともまたどこかで」
まさか、この時出会った人と各地を旅することになるとは、夢にも思わなかったけれども。
そしてこれからさらに数日後。訓練を目的としたオルクス大迷宮で、私たちは人生で何度目かになる転機を迎えることになる。
この世界だと、フェリシアは割と早い段階でガーランドに見切りをつけて出奔しています。世界を放浪し、情報を集めたり仲間を集めたりしながら、大迷宮を攻略する日々。この時点で三つか四つは攻略してるかも? でも、そのやり方はミレディたちのそれに近いので、このまま進んでいってもいずれは詰む…この人、どうやっても人生バッドエンドばっかりだな。
ただ、そんな彼女の転機はいつだって藤丸立香なのでしょう。メルドとは密かに連絡を取り合う仲だったのですが、そのツテで召喚された子どもたちを見に来たらなんか面白そうな男女を見つけてヘッドハンティングした次第。まさか、それが自分の人生を大きく変えるとは、この時は夢にも思わなかった事でしょう。
余談ですが、協力者の中にはほぼ確実にシア…というか、ハウリアがいるでしょうね。ハジメと関わっていないので、厨二病を発症することなく強くなってるかも。ただ、その分突き抜けてはいなさそうですが。
場合によっては、先にオルクス大迷宮も攻略している可能性があるので、ユエもいるかもしれませんね。ただ、ティオは多分いないと思う。里から出て来ないとまず会わないし、フェリシアも竜人族が生き残ってるとは思わないだろうから。
ちなみに、マシュの扱いについては未定。一緒にいるのか、それとも地球に取り残されたのか…どうするのがより面白いんでしょうね。あと、こっそりロリンチちゃんはマシュと一緒に藤丸家に転がり込んでいる…なんて可能性もあったり。彼女、普通のサーヴァントとも違う状態になったので、そういう可能性もありだと思います。