ありふれた職業と人理の盾   作:やみなべ

12 / 48
ようやくここまで来たぞぉ~!


009

オルクス大迷宮後半、彼らが深層と呼ぶ領域に突入して数日が経過していた。

 

探索そのものは、一応順調に進んでいる。

生息する魔物は単純に強い以外にも、特殊な固有魔法を有している場合もあり厄介ではあるが、そんなものはカルデアでの任務の数々で最早慣れっこ。その都度適切に対処し、さして障害にはならなかった。

 

むしろ、問題だったのは環境の方。

一寸先も見えない闇などまだマシな方。立香や香織の目には見えずとも、視力に優れたエミヤやクー・フーリンの野生の勘の前では対した問題ではない。

厄介だったのは、何処もかしこもタールのように粘着く泥沼のような環境だったり、薄い毒霧で満たされた環境だったりした階層の方だ。

前者は、前の階層が真っ暗闇だったこともあり魔力の節約もかねて用意した急拵えの松明が仇になった。降りてすぐのところで松明から零れた火がタール状の何かに引火。一気に階層全体に燃え広がり、危うく丸焦げになるところだった。どうやら、外見だけでなく性質もタールに酷似しているらしい。火が零れたのが入ってすぐのところで本当に助かった。灼熱の火山や極寒のツンドラ地帯に踏み込んだこともあるので、過酷な環境にも慣れているつもりだったが限度がある。

後者は、立香やサーヴァントたちには問題はなかったのだが、香織が危なかった。サーヴァントに生半可な毒は通じないし、立香やマシュは毒への耐性がある。しかし、そんなものとは無縁の香織にとってはまさに地獄だ。急いで引き返し、まず立香とマシュ、それにクー・フーリンで階層内を探索。ハジメの姿がない事を確認すると、香織の護衛兼毒から守るための手段を徹底的に施していたエミヤに担がれて大急ぎで階層を突破した。

余談だが、この階層を突破してから何気なくステータスプレートを見てみると、技能「毒耐性」に[+無効化]という派生技能が出現していた。恐らく、通常の毒耐性では防ぎ切れない類の毒もあるのだろう。それすら防げるのがこの[+無効化]と思われる。まぁ、宝具の域に達した毒すら通じない立香なので、それも当然かもしれないが。

 

ただ、そういった環境要因以外ではこれといった問題もなく進むことができている。

強いて言えば、問題というほどではないが気になることが二つ。

一つは深層第一層にいた兎の魔物が一匹、なぜかさらに下の階層で立香たちのことを物陰からチラチラ見ていたこと。襲ってくる気配がなかったので放置していたが、あれはいったい何だったのやら……。

もう一つが、45層を超え折り返し地点を目前にしたあたりでのこと……

 

「ひっ!」

「……おい、今の」

「ああ、何か凄まじい悪寒が……だが、どこか懐かしくもある。なんだ、いまのは?」

(プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル)

「せ、先輩! 先輩がチワワのように震えています!? どうしたんですか、先輩!!」

ヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖いヤンデレ(清姫)怖い」

「重傷だな……」

 

数々の修羅場を潜り抜けて来た一同をして、心胆を寒からしめる謎の気配。

立香はサーヴァント界の正統派ヤンデレ「嘘つき絶対焼き殺すガール(清姫)」に似た気配を感じたのか、すっかりトラウマスイッチが入ってしまっている。普段は問題なく接することができるし、信頼もしているのだが…………怖いものは怖いのである。

 

「あれ、みんなどうしたの?」

 

突然足を止めた仲間たちに、香織は不思議そうに「こてん」と首をかしげている。

実に可愛らしいしぐさであり、大変よく似合っているのだが……この場には不釣り合いだった。

 

そのまましばらく、立香が落ち着くのを待つ。

ようやく悪夢から覚めた彼は、深い深い安堵の息をつくと共に香織から全力で視線を逸らす。

その頬は、誰の目から見てもはっきりとわかるほどに引き攣っていた。

 

「えっと、どうかしました……?」

「ううん、なんでもない。ほんと、何でもないから」

「でも、なんでこっち見てくれないのかな? かな?」

「さぁーっ、南雲君を探さなくっちゃ! はやくみつけないとなぁーっ!」

 

なんとか顔を覗き込もうとする香織から顔を背け、わざとらしい声で強調する。

挙動不審な立香に残る三人も不思議そうな顔をしているが、それも長くは続かない。

今度は彼らも見てしまったのだ。香織の背後に立香が見たものを……。

 

「ひぃっ!?」

「のわっ!?」

「い、今のは……」

「「「般若っ!?」」」

 

香織の背後にヌッと何の前触れもなく出現した、刀を構えた鬼面の白装束……即ち、般若の姿。

これまでは白い靄状……せいぜいぼんやりとした輪郭しか見えなかったそれが、確かな形を得ていた。

ただし、当の本人に自覚はないようで、驚いた様子で自分の後ろを振り返っているが。

 

「え、なに、般若っぽい魔物がいるの!? どこ、どこっ!?」

 

自分の尻尾を追うワンコのようにその場でくるくると回り続ける香織。ゆったりとした法衣のような戦闘服がひらひらと舞い、ダンスのように見えなくもない。

普段なら状況も忘れてそんな香織にほっこりしてしまうところだが、立香もマシュも今はそれどころではなかった。

詳しいことはわからないが、あれはヤバい。出てきてはいけない何か……その一端に違いない、と。

とはいえ、このままなかったことにすることもできない。已む無く、最も親しいマシュが一歩踏み込むことにした。

 

「あの、香織さん?」

「なに? マシュちゃん…はっ、まさかまた私の後ろに何かいるの!? 私、何か悪いものに憑りつかれてるの!?」

 

なにしろ、実際に目の前に大きな括りでは幽霊のようなものであるサーヴァントが二名立っている。

当たり前のように姿が見え、普通に会話できる上に、色々頼りになる……特にエミヤは親友に通じる部分もあることから、まったく怖いとは感じていないのだが……本来香織はホラー系が心底苦手。こんな薄暗い所で、和風な感じの魔物に気付かないうちに接近されていたとなれば、心中穏やかではいられない。

 

「ち、違います! 別に何もいませんから」

「そ、そう? なら、良いんだけど……でも、どうかしたの?」

「その……もしや疲れてはいませんか? 深層に入ってからも、探索に訓練にと頑張っていらっしゃるみたいですし……ここの魔物は強力で環境も過酷です。南雲さんにまだ追いつけないことで焦っていたりは……」

「…………………………大丈夫だよ。そりゃ、確かに焦る気持ちはあるけど、でも深層に入る前よりずっと安心してる。だって、私たちはハジメ君の後を追ってるんだって、その実感があるから」

 

痕跡の一つも見つけられず、当てもなく探していた大迷宮前半とは違う。

中々追いつけないことへの焦りはもちろんあるが、それ以上に彼の痕跡を見つける度に安心する。

ハジメはまだ生きている、彼は自分の足で前へ前へと進んでいるのだ、と。

そして、そんな彼に自分も負けてはいられないと奮い断つ。今度こそハジメを守れる自分になるために、この過酷な世界を一人で突き進む彼を守れるようにならなければ。

焦ったり立ち止まったりしている場合ではないのだ。

 

なにより、はじめの内は数日は経過していたハジメの痕跡が、今は精々一日……場合によっては、それ以下の時間しか経過していないことがわかる。

それだけ、ハジメとの距離が近づいていることの証だろう。

 

「そう、ですね。南雲さんに追いつくまであと少し、なら今が頑張り時なのでしょう」

「うん! ぁ、でも……」

「でも?」

「さっき、ちょっと変な感じはしたかな?」

「変な感じ、ですか?」

「うん。上手く表現できないんだけど、なんかこう突然……」

 

その時の感覚を思い起こそうと、腕を組んで「う~ん」と可愛らしく首をかしげながら視線を彷徨わせる香織。

直後、彼女の顔から表情が消えた。一切の感情が消失した無機質極まりない……そう、まさに能面のような!

 

「この泥棒猫!! って叫びたくなった……かな?」

「ど、泥棒猫…ですか」

「フフフ、オカシイネ? フフフフフフフフフフフフフ……」

「香織さん!? しっかりしてください、香織さぁん!?」

「フォ~…ラ~?」

 

能面顔のまま、全く笑っていない笑顔と無機質な笑い声が迷宮内に木霊する。

香織の背後には再度般若が出現し、身の丈もある大太刀を肩でトントンしながら舌舐めずりしていた。

そういえば、さっきから全く魔物が近寄ってこないのだが……ついでに、ようやく正気に戻った立香も、迷宮の壁際でまたもチワワになっている。なぜか、エミヤも一緒になって。

 

「大丈夫か、こいつら?」

 

なんとか香織を正気に戻そうとワタワタするマシュや、抱きしめ合う立香とエミヤを呆れた様子で見ながら一言。

ただし、そのクー・フーリンもちゃっかり距離を取っているので、あんまり大丈夫ではなさそうだが。

 

ちなみにこの瞬間、ここからいくつか下の階層で白髪隻腕の少年がとある吸血姫と出会っていたことなど、彼らにわかるはずもなし。ついでに、さらっと口説き文句を交えながら名前を付けたり(否定できない)、その未成熟な裸体をじっくりたっぷり視覚で堪能したり(これまた否定できない)、協力して難敵を乗り越えたり、少し腰を落ち着けて互いの身の上を話したりしていたのだが、もちろん知る由もない。

 

ただそのやり取りの中で、変わり果てたハジメの心の奥底から浮き上がってくるものがあった。

月の綺麗な晩、オルクス大迷宮に入る前夜のこと。もう遠い昔のような一夜の逢瀬。

オタクで無能な彼を「強い」と言い、「守る」と約束してくれた少女。

クラスメイトのことなど最早どうでも良いと思っていたし、今もそれは変わらない。

ただ一つだけ、彼女との約束“守られてやれなかった”ことが少しだけ引っかかる。

ささやかな感傷を振り払うように頭を掻き、ハジメは奈落の底で出会った吸血姫と共に再度歩き出す。

 

――――――――――――再会の時は近い。

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

香織が謎の情緒不安定さを見せてからさらに丸一日。

中間地点である50層で、それまでと異なる様相の高さ三メートルはある装飾された荘厳な両開きの扉を発見した。しかし、扉の向こうにあったのは謎の立方体と散乱する魔物の死骸。戦闘痕は新しく、相当に激しい戦いが比較的最近行われたことが如実に見て取れた。

 

大迷宮深層にいる者など、ハジメ位しか考えられない。

いよいよ彼との再会の時も近いと感じ、香織は見るからに浮足立っている。

短くなった髪を無意識のうちに弄り、意味もなく服の埃を払い、手にした杖を布で磨く。

少しでも見栄えする格好で想い人に会いたいという、乙女心の現れだった。

 

ハジメの心が自分たちの知る頃とは変わっていることは理解している。

怒っているかもしれない。恨んでいるかもしれない。憎んでいるかもしれない。

 

それでもやはり、香織はハジメに会って想いを伝えたかった。

 

あの日の約束を守れなかったことを謝りたかった。

 

そして、今度こそ彼を守りたかった。

 

ただその思いひとつで、彼女はここまでハジメを追ってきたのだから。

どんな罵倒も、どんな拒絶も受け入れる覚悟はある。彼を守れなかった自分には、それが相応しいと思っている。

その上でもう一度、ハジメとの距離を縮めるのだ。

 

今度こそ、その手を掴むために。

共に元の世界に帰るために。

一緒に歩みたいと望むが故に。

 

 

 

そして、やがてその時は訪れた。

 

オルクス大迷宮後半、深層57層。

これまでにもあった密林などと同じように、脈絡もなく現れた水で満たされた階層。

湖……ではないだろう。水が一定方向に流れていることから川と呼ぶべきだろうが、流れが速く最早急流どころの話ではない。落ちればあっという間に流され、案外さらに下の階層まで行けるかもしれないが……試してみる気にはなれない。今までの様子からして、そんなショートカットが許されるとは到底思えなかった。

確実に、流れの先にはDead end間違いなしな“何か”が待っている。

 

それでなくても足場になる岩は間隔が広く、加えて人ひとりがやっと立てる程度な上、苔生してよく滑るのだ。

これはもう絶対に落とす気満々だろう。実際、水中からは蛇や蜘蛛みたいな魔物が頻繁に姿を現し、襲うというより水中に引きずり込みにかかってくる。自分たちのフィールド(水中)に引き込んでから仕留める気らしい…地味に嫌らしいことだ。

 

そんな階層の中ほどで、遂に香織は大小二つの人影を発見した。

どちらも彼女の知る南雲ハジメとは似ても似つかない。

片や、腰まで届く目にも鮮やかな金糸の髪をなびかせ、薄汚れた少々大きすぎる外套を羽織った小柄な少女。

片や、180センチに迫ろうかという背丈に白髪、細身をしなやかな筋肉で覆う隻腕の男性。

 

香織の知る南雲ハジメは、165センチほどの比較的小柄な背丈と筋肉とは縁遠い黒髪の少年だった。

どちらの後ろ姿ともかけ離れているが、それでも香織には一目でわかった。

あの男性こそが、彼女がここまでひたすらに探し続けた「南雲ハジメ」その人なのだと。

故に、あるいは当然のように、彼女はその名を叫んでいた。

 

「ハジメ君!!!」

 

それまで軽快に足場になる岩を飛び跳ねていた二人の動きが止まった。

続いて、男性…ハジメと思われる人物がゆっくりと香織の方へ振り替える。

やや遅れて少女もそれに倣うが、香織の目に彼女の姿は映っていない。

 

今の香織の視界は、南雲ハジメで埋め尽くされている。

変わり果てた姿、失われた左腕、鋭い眼光。かつての面影などほとんど残されてはいないが、それでもその顔立ちは確かに南雲ハジメのもの。それだけで、香織の胸は歓喜でいっぱいだった。

 

―――――――ようやく会えた!

 

―――――――――――――やっと追いついた!!

 

―――――――――――――――――――――生きていてくれた!!!

 

それだけで、言葉にならないほどの感情が胸を満たす。

話したいこと、かけたい言葉、謝らなければならないことが山とあったはずなのに、もう言葉にならない。

マシュと立香もそんな香織の心情を思い、目尻を拭う。

余計なことは言わない。それは無粋というものだ。それがわかっているからこそ、ただ静かに見守る。

香織の瞳からはポロポロと涙の雫が溢れ出し、こんな場所でなければ今すぐにでも駆け寄って抱きついていたことだろう。

 

だが結果的には、こんな足場の不自由な場所での再会でよかったのかもしれない。

 

「白…崎?」

 

驚愕に目を見開いていたのも一瞬のこと。

間もなく状況を理解したハジメは、「隙あり」とばかりに襲いかかってきた蛇型の魔物を見向きもせずに銃撃。

寸分の狂いもなく額を撃ち抜かれた蛇は水中へと沈むが、それにも見向きもしない。

片割れの少女が気づかわし気な視線をハジメに向ける中、彼は小さく零す。

 

「ったくよぉ。つくづくいい趣味してやがんぜ、ここは」

「ハジメ、大丈夫?」

「ああ、問題ねぇ。少し驚いたが……大丈夫だ。むしろ、心配は……あいつらにしてやれ」

 

そう言って、ハジメは手にした大型の銃…命名「ドンナー」を構える。

まっすぐ銃口を香織に向けて。

 

「南雲さんっ!? なにを……!」

「よりによって、白崎にキリエライトとはな。なるほど、俺にとっちゃ無視できない相手、悪くない人選だ。

 確かにお前らが相手なら躊躇する……前の俺ならなぁ!!」

「まずっ!? 香織さん、こっち!」

 

ハジメのやろうとしていることに気付き、脚力を強化した立香が咄嗟に香織に飛びつき、そのまま抱えて隣の岩に飛び移る。

刹那遅れて香織のいた場所を、轟音と共に何かが走り抜けた。立香が飛びついていなければ、今頃香織の心臓を的確に撃ち抜いていたことだろう。

 

「ちっ、外したか! あの程度の動きで避けられるとは……俺も少なからず動揺してるってことかよ。情けねぇ!」

「やめてください、南雲さん! 私たちは……」

「黙れよニセモノ。あいつらがこんな所にいるわけねぇ。キリエライトならワンチャンあるだろうが、あの力も時間制限付きだ。白崎を連れてここまで来れる筈がない。ならここにいるお前らは、ニセモノ以外の何物でもない! さすが奈落の魔物ってところか? 今度は精神攻撃かよ」

「あ~、なるほどなぁ~……ま、間違っちゃいねぇか」

「確かにな、彼の知る情報だけならその帰結は当然だろう。

 しかし、魔物と思っているとはいえ清々しいまでに容赦がないな。

 随分、深層の魔物に揉まれたと見える」

 

どうやら、香織たちを魔物が固有魔法で化けたか何かと勘違いしているらしい。

言っている内容はハジメの持つ情報が限られていることを考えれば、あながち間違ってもいない。

実際、立香が来る前の状態なら、仮にマシュが全快してもここまで来れなかっただろう。

 

「ハジメ、知り合い?」

「奈落に落ちる前の知り合いだ」

「……ハジメを裏切った人?」

「……………………いや、薄紫の髪の方は結構俺を買ってくれてた奴だ。正直、アイツには感謝してる。

 黒髪の方は……俺を、無能だった頃の俺を守るなんて抜かす物好きだよ」

「……そう。私がやる?」

「いや、確かにやりにくいのは事実だが、むしろ頭に来てる。ユエは手を出さないでくれ。

俺の前にその姿を晒した報い、受けてもらうぜ!!」

 

ハジメからすれば、数少ない味方だった相手を汚された気持ちなのだろう。

それは確かに許せないと思うはずだ。あるいは、傍らの少女と出会う前であれば、そんな怒りすら抱かなかったかもしれないが。良くも悪くも、ユエと呼ばれた少女のおかげでハジメは最後の一線を踏みとどまることができた。

 

代わりに、思い出してしまったものがあるからこそ……許せないのだ。

彼女たちなら、いつか本当に自分を探しに来てくれるかもしれない。

しかしそれは今じゃない。今の彼女たちにそれはできない。

反面、彼女たちならするかもしれない行動だからこそ、ハジメは香織を見た瞬間、僅かに気が緩んだ。

 

“生きる”という、この領域においては著しく困難な願いを叶えるには、恨みなど余計な雑念、その全てを切り捨てたはずの自分が、僅かでも気を緩めてしまった。

それはきっと、嬉しかったから。奈落の底に落ちた自分を探すために追いかけてきてくれたことが。

それはまだハジメが変心する前、あの横穴の中で願っていた“夢”そのものだったから。

 

かつての自分の弱さが燻っていることが許せない。

香織たちを汚されたことが許せない。

ならばやることは一つ。弱さの象徴を砕き、大事だったものを汚した敵を徹底的に排除する!!

 

ただ、そんなハジメの事情は香織にはわからない。

彼女からすれば、突然ハジメが殺意と共に銃口を向け、躊躇なく引き金を引いたという事実だけだ。

そのショックは他者の想像を絶することだろう。しばし呆然とし、やがて悲痛に顔が歪む。

 

ハジメが怒っていることも、憎んでいることも、恨んでいることも覚悟していた。

していてもなお、深く心に突き刺さる。あの日、手の届かなかったことが悔やんでも悔やみきれない。

香織は心がバラバラになりそうな悲嘆と後悔に苛まれる。

 

「マスター、説得の余地は? 私としても、これは流石に見るに堪えん」

「ゴメン、ムリ! 言葉が通じなくても何とかするし、話が通じなくてもやりようはある。それこそ種族が違ってもいける自信はあるけど、どれも相手に話を聞く気があればこそだから……」

 

今のハジメのように意思を固めてしまった相手には、立香ではどうにもならない。

彼のコミュニケーション力も、そもそも相手に「話を聞く気」がなければ意味がないのだ。

今のハジメは、これ以上精神的に揺さぶられないよう完全に心を閉ざしている。

 

「そんな……これでは、香織さんがあまりにも……悲しすぎます」

「やむを得んな。多少手荒になるが制圧させてもらおう。話はそれからだ」

「おっ、ようやく話がまとまったか」

「ああ、私が少年とやろう」

「なら、俺はあっちのお嬢ちゃんか。んじゃ、行くぜぇ!!」

「ハジメ、男の方も知り合い?」

「いや、知らん。大方、昔ここまで来た冒険者か何かのコピーだろ。気をつけろよ」

「……ん、手強そう」

 

そのままハジメとエミヤ、ユエとクー・フーリンの間で戦端が切って落とされる。

ハジメとて、目の前の男の厄介さは肌で感じていた。

元は平和な国で育ったとはいえ、オルクス大迷宮深層を50層まで単独で踏破したのは伊達ではない。

その感覚が物語っている。相手は、今までに戦ってきた魔物たち以上の難敵だと。

 

しかし、それでも認識が甘いことを彼は知らない。

順調に階層を下げてきたハジメたちだが、それでも彼らにとって魔物たちとの戦いは悪戦苦闘の日々だった。

それに対し、エミヤとクー・フーリンにとっては「多少歯応えのある」程度の敵に過ぎない。

如何に実力を上げてきたとはいえ、地力の差は歴然。今尚、ハジメたちは圧倒的不利な立場にいるのだ。

 

(弾丸をマジで切って落とすとか、どんな腕してやがんだ、こいつ!)

(隻腕の割によくやる。狙いは正確、照準も早い。立ち回りに粗さはあるが、瞬間的な判断力も上々だ。

 なるほど、ここまで進めたのも納得がいく。

 しかし、空中を跳ねるか。たしか、そんなことができる魔物がいたが……話に聞いた容姿からの変貌と併せて考えるなら、魔物を食ってその能力を得たか?)

 

歴戦のエミヤから見ても、ハジメの動きは悪くない。魔物由来と思われる技術を次々と繰り出し、それらをしっかり使い熟している。

手に入れてからの時間を考えるなら、驚異的な習熟速度だ。

 

「いやはや、末恐ろしい事だな、小僧」

「ぬかせ!」

「どうせなら銃の使い方を少し教授してやりたいところだが、生憎手持ちがなくてな。今はこれで許せ」

(弓? つーか、あんなもんどこから出しやがった!?)

「そら、避けてみろ」

「どこに……ぬぉっ!?」

 

あらぬ方向へと射られた矢が、軌道を変えてハジメに襲い掛かる。

あらかじめ矢羽を千切っておき、軌道をズラすという妙技だ。

しかも、それだけでは終わらない。

 

「ふむ、大した危機回避能力だが……いいのか、そこは死路だぞ」

「ちぃっ! 何手先まで読んでやがんだ、こいつ…がぁっ!?」

 

避けた先で、狙いすましたように頭上から降り注ぐ矢の数々。

あらかじめ回避先を予想し、そこに矢を射ていたのだろう。

単に腕が良いだけではなく、百戦錬磨からくる圧倒的なまでの経験の差による先読みだった。

 

ハジメもそれを何とか迎撃するが、すべてを落とすことはできない。

風の爪を纏わせたドンナーの隙間を抜け、二本の矢が肩と脹脛に刺さる。

肩の傷は元より先のない左なのでさほど問題はないが、脹脛の傷が痛い。

ただでさえ押されているというのに、ここで機動力が損なわれるのは手痛い損失だ。

 

(ユエは……)

 

視線を向ければ、そこには同じく押され気味の相棒の姿。

次々に魔法を放ってはいるが、野生の獣染みた俊敏な動きを捉え切れていない。

あえて槍の間合いに捉えようとはしていないからこそ無傷だが、その表情は苦い。

自分が遊ばれていることを理解しているのだろう。

 

(相性が悪いな。俺の方がまだマシか……そこも含めて判断して当てたんだとすれば、始める前から詰まれてるも同然じゃねぇか!!)

 

詠唱も魔法陣も必要としないため、魔法の発動が異常に早いユエだが、それでもハジメの銃撃には及ばない。

攻撃が到達するまでの速度もハジメの方が上回るだろう。反面、攻撃の多様さはユエに軍配が上がる。

 

そういった二人の特徴を看破し、相性の良い相手をぶつけてきたらしい。

ハジメなら、まだクー・フーリンの動きに対応できる可能性がある。まぁ、実際にはスキル「矢避けの加護」があるので、ハジメでは致命的に相性が悪いのだが。

 

逆に、ユエは足を止めて戦うエミヤの方が戦いやすい。範囲攻撃系の魔法を使えば、あの気障な顔を崩すこともできるだろうに。

ただ、それも全て後の祭り。

戦う前、戦術ではなく戦略の段階で敗北を喫しているのだ。この現状も当然のものだろう。

 

(何とかユエと合流して……いや、そうじゃねぇ! 信頼するのと依存するのは違うだろ! この程度の敵乗り越えられないで、どうして迷宮の外に…元の世界に帰れるってんだ!!)

 

そう、ハジメとてやられっぱなしでいるつもりはない。

相手が強いことは最初からわかっていた。想像以上ではあったが、想定以上ではない。

まだ、出し抜くための秘策は残っている。

 

「さて、そろそろ諦めてはくれないかな? 私としても、香織の手前あまり君を傷つけたくないのだが」

「ぬかせ!」

「……不屈の闘志は結構だが、その銃の威力が如何に高くとも私には届かんよ」

「だろうな。お前相手じゃ切って落とされるのがオチだ……このままならなぁ!!」

「む? ……なにっ!?」

 

突如としてハジメの腕からドンナーにかけて、赤い光がスパークする。

同時にハジメが引き金を引くと、赤い閃光がエミヤ目掛けて突き進む。

エミヤは咄嗟に回避しようとするが……間に合わない。

 

「…………」

(どうだ!)

 

確かな手応えに、ハジメが獰猛な笑みを浮かべる。

念のためにと隠しておいた固有魔法「纏雷」を用いたレールガン。

それが起死回生の一手となり、エミヤの右肩を深々と貫いた。

 

レールガンの威力なら、右肩から先が吹っ飛んでいるはず。

これで弓は使えないし、双剣の戦力も半減。

仕留めきれなかったのは口惜しいが、それでも逆転には十分だろう。

そう、思っていたのだが……

 

「まったく、とてつもない小僧だ。数週間前まで一般人だったとは思えん」

「なっ……当たって、ないのか?」

「いいや、しっかり私の右肩を捉えていたよ。だが、通常の物理攻撃は私には意味がない。まぁ、固有魔法とやらが乗った一撃だっただけあり、それなりのダメージにはなっているがね」

 

逆に言えば、決定的なダメージにはなっていないという事。

実際、痛みもあれば動かしにくくもあるとはいえ、動かせないほどではない。

 

(倒しきれないまでも、戦力を削ぎたかったんだがな……)

「背中のそれにも同じようなことができるとなれば、流石に脅威だな。まぁ、あるとわかっていれば対処のしようはあるが」

(だろうな。こいつならそっちにも対応してくるだろう。他にも固有魔法はあるが、こいつを倒しきるとなると……ド畜生!? どうすれば……)

「ふっ、まだまだ敗北を認める気はないか」

「たりめぇだ! 俺は、何が何でもここから出て……故郷に帰るんだよ!!」

 

圧倒的不利を前にしながら、それでも折れないハジメに皮肉気な笑みを浮かべるエミヤ。

それに食って掛かるハジメだったが、続いて放たれた言葉は彼の予想を大きく裏切った。

 

「そうか……ならば、私が敗北を認めよう。油断があったにせよ、それを含めて策の内、見事だ少年」

「な、に……?」

「そういうわけだ、ランサー。こちらは任せるぞ」

「あん? 情けねぇなアーチャー。こんなガキに不覚を取るとはよ、焼きでも回ったか」

「否定はせんよ。だが、君も努々気を抜かんことだ。この少年、なかなかどうして油断ならん」

「ほぉ……お前がそこまで言うか。……おもしれぇ」

「……させない!」

 

標的をハジメに変更し、距離を詰めようとするクー・フーリンに向けて魔法の弾幕を放つ。

しかしその尽くを回避されてしまい、足止めにもならない。

それどころか、指の間に細身の長剣のようなものを持ったエミヤがそれを投擲し、逆に彼女を牽制する。

 

ハジメもドンナーで迎撃するが、矢避けの加護は飛び道具に対する防御スキル。

狙撃手を視界に捉えた状態であれば、どのような投擲武装であっても肉眼で捉え対処できるこれは、ハジメにとって天敵と言って良い。

 

ハジメは相性を考えてエミヤをハジメに、クー・フーリンをユエにぶつけたと思っていたし、それはあながち間違ってはいない。

ただ、ハジメでは勝ち目がないからこそクー・フーリンではなくエミヤが相手取ったというだけで。

 

「よぉ坊主、ちょいと俺とも遊んでいけや」

「おもしれぇ、やってやろうじゃねぇか!」

「ダメェ!!」

 

あと一度の跳躍でハジメを槍の間合いに捉えられるというとこで、当然の静止の声が響く。

思わず四人は戦う手を止め、反射的に声の主へと視線を向ける。

そこにいたのは、泣き腫らした目のまま涙をぬぐって立つ香織の姿。

 

「嬢ちゃん?」

「お願いします。ここは、私に任せてください」

「クー…ランサー。アーチャーも」

「……………………………………わぁったよ。好きにしな」

「承知した」

 

心を立て直した香織とマスターである立香のとりなしもあって白旗を上げて引き下がる。

エミヤもまた、投擲用の剣「黒鍵」を構えたままそれ以上は動かない。

もしもの時のために香織を助ける用意は怠らないが、今は彼女の意思を優先するつもりのようだ。

 

香織は体の隅々まで魔力を流し、肉体を強化。

少々危ない足取りではあるものの、岩から岩へと跳躍を繰り返しハジメとの距離を詰めていく。

やがて、両者の距離があと飛び石一つ分になったところで、ハジメは香織に改めて銃口を向けた。

 

「キュ~?」

「ありがとう、大丈夫だから」

 

心配そうに、あるいは励ますように香織の顔を覗き込むフォウ。

香織は優しくその毛並みを撫でながら、香織は決然と顔を上げる。伝えなければならないことがあるのだ。

 

ハジメの変わりようや銃口を向けられたことにショックを受けなかったといえば嘘になるが、それでも全く予想していなかったわけではない。

その可能性は、深層第一層の横穴に残されたものを見つけた段階で覚悟していたのだから。

 

香織は込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、グッと奥歯を噛み締める。

しかし、堪えきれずに再度ホロホロと涙をこぼれ始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように、片時も目を離さない。

対してハジメはどこまでも冷徹な視線を香織に向けている。その厳しい目が、決して騙されはしないと物語っていた。

 

「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

「…………言いたいことは、それだけか」

 

香織の言葉が胸を突かなかったといえば嘘になる。

だがそれでも、所詮はニセモノ。この程度で気を許すものかと、ハジメは自分自身に言い聞かせる。

 

香織も、ここにきてようやくこみ上げってくる物が落ち着いてきた。

その言葉はより明瞭になり、同時に確かな意思を宿してハジメへと向けられる。

 

「ぐすっ……あなたに、会いに来ました」

「……」

「雫ちゃんやマシュちゃん、いろんな人に無理を言ってここまで来ました」

「もういい」

「ハジメ君は生きてるって信じてた。信じたかった。だから……!」

「もうやめろ!」

 

そんなわけがないと、目の前の(現実)を振り払おうと引き金にかかる指に力がこもる。

それでも、香織はハジメから目を逸らさない。

そこに怯えはなく、畏れはなく、ただただまっすぐハジメの目を、その奥の心を見据えていた。

 

「くっ……」

 

目を逸らしたのはハジメの方。敵から目を外すなんて言語道断なはずなのに、香織の目を見返すことができなかった。

その意思に、想いに……認めがたい事だが、ハジメの敵意も、覚悟も圧倒されてしまったのだ。

 

とそこで、ハジメの手を冷ややかな手が優しく握る。

香織から逸らした視線を向ければ、そこにはこの奈落で唯一信頼する相棒がいつの間にか傍らに立っていた。

 

「……ハジメ」

「ユエ?」

「……たぶん、この人は本物。嘘は言ってない」

 

ハジメ自身、どこかでそうであって欲しいと思う自分がいた。

そうであったなら、どれほど……。

 

「なんで、分かるんだよ」

「……ん、女の勘」

「なんだそりゃ……」

 

ユエの返事に、思わず苦笑いが浮かぶ。

しかし、ユエの目は真剣そのもの。茶化したり揶揄ったりしている様子はないし、そんな意味も理由もない。

なにより、それが最後の一押しになった。

 

「俺は、正直信じられねぇ。だけど、お前の言う事なら信じられる。信じて……いいんだな」

「………………………………………ん」

「なんか妙に間があったけど、良いんだよな? 信じて」

「………………………………………………………………ん」

 

聞けば聞くほど間が開くのが若干不安だった。ついでに、いつの間にかユエの視線がハジメから外れ、代わりに香織へと向けられている。

そこには警戒心や敵意がふんだんに練りこまれており、顔にはデカデカと「不本意です」と書かれている。

本当は香織のことを擁護などしたくないのだが、しないわけにもいかない…という感じだ。

 

(この女、ハジメのなに? ハジメは私のハジメ、それで私はハジメのもの。これは絶対、世界の掟)

 

それがユエの偽らざる本音だ。ただ、同時にこうも思う。

 

(…………………………………………でも、この女が死んだらハジメはきっと悲しむ。すっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっごく嫌だけど、仕方ない)

 

こんな奈落の底までハジメを追いかけてくるほどの想いだ。生半可なものではないだろう。

自分のそれには及ばないまでも、まぁ多少は汲んでやってもいい……と、自分自身の何かに弁明する。

 

なにより、かつてハジメを守ろうとした相手で、ハジメ自身悪くは思っていないらしい。

そんな相手を手にかけてしまえば、ハジメはどうなってしまうのか……という不安もあった。

なので、極めて不本意ながら、香織を擁護せざるを得なかったのである。

 

「………………………わかった」

「……ん」

「白崎……で、良いんだな」

「うんっ! うんっ!!」

「色々訳が分からなくて混乱してるんだが……」

「あ、待って! その前に……『天恵』」

「お? マジか……詠唱をすっ飛ばした? ユエじゃあるまいに……」

「む……」

 

香織の回復魔法を受けて、ハジメの肩と脹脛の傷が一瞬で治癒する。

ハジメの知るころとは比べ物にならない効果だ。加えて、詠唱を破棄しての発動。

一体今日までの間に、彼女に何があったのか。ハジメの混乱に拍車がかかる。

 

ついでに、自分のアイデンティティを若干侵されたと感じたユエの眉が歪む。

 

「……どう? もう違和感とかないかな?」

「あ、ああ。いや、すげぇな。いつの間に……」

「ハジメ君には言われたくないよ」

「あ~、まぁそりゃそうか」

「ふふっ」

 

自分の変わり様には自覚があるだけに、返す言葉もない。

香織は香織でしてやったりと言わんばかりに可憐な笑顔を浮かべている。

まるで、奈落に落ちるより前……まだ地球にいた頃のような感覚だった。

まぁ、あの頃もこんな風に言葉を交わすことはなかったし、そうなるとは思っていなかったのだが。

 

「その…………なんだ。心配かけたな。まぁ、この通りしっかり生きてっから、謝る必要はないし……ありがとよ。探しに来てくれて……正直、うれしかった」

 

そういって感謝を告げるハジメの眼差しは、いつか見た「守ってくれ」と言った時と同じ、香織を気遣う優しさが宿っていた。その眼差しに、あの約束を交わした夜を思い出し、胸がいっぱいになる。

ようやく治まった思いが再度爆発。思わずワッと泣き出し、そのままハジメの胸に飛び込む。

 

「のわっ!? あ、あぶねっ!?」

 

文字通り胸元に飛び込んできた香織に危うくバランスを崩しかけるが、なんとか持ち直す。

代わりに、反射的にしっかり抱きとめてしまった腕のやり場に困る。今更離すわけにもいかないし、そもそも離して香織が落ちたら大変だ。

他の誰かだったら邪険に扱っても全く良心が痛まないのだが、縋り付いて泣く香織の純粋な好意は無碍にできない。

ただその反面、微妙に背筋が寒い。

 

「えぇっと、ユエ…さん?」

(プイッ)

 

冷え切った視線を向けてくる相棒の方を見れば、すっかり拗ねた様子でそっぽを向かれてしまう。

仕方なく、ハジメはぎこちない動作で香織の背中を軽く摩って宥めつつ、助け船を寄越してくれそうな相手に視線を向ける。

 

(助けてくれ、キリエライト)

(南雲さん、もっとしっかり香織さんと思いを交わしてください。私は何も見ていませんから、どうぞ)

(いらねぇよ、なんだよその気遣い!?)

 

一切言葉にせず、アイコンタクトのみにしてはやけに具体的な意思疎通が成立していた。

ちなみに、他の連中はと言えば……

 

(いや、襲ってくる魔物をしっかり落としてくれるのはありがてぇんだけどよぉ……)

 

こんな無防備な姿をさらしていながら無事でいられるのは彼らのおかげだ。なにせ、エミヤとクー・フーリンが水中から姿を現す魔物を、一匹残らず仕留めてくれている。それ自体には感謝しているが、せっかくだからもうちょっと別方面へのフォローもしてほしい。視線が合うたびに「男の見せ所だぜ、坊主」とか「まぁ、心配をかけた報いだ。諦めたまえ」とか言いたげな視線と良い感じの笑顔が向けられるのが、微妙にイラっと来る。

 

立香は立香で、まるでドラマのワンシーンに感動したかのようにハンカチで目元を拭っていた。

 

そうして、香織が改めて落ち着くのを待つことしばし。

今度こそ本当に落ち着きを取り戻した香織は、まだ涙の残った瞳でハジメを見上げる。

密着していることへの気恥ずかしさはあるが、同時にその温もりを感じ、生命の鼓動を聞けることへの喜びが勝っていた。

ただ、ほんのり頬を染めて潤んだ瞳を向けられる側のハジメとしては、大変落ち着かなかったが。

 

「髪、白いんだね」

「色々あったからな」

「腕も、ないんだ。私に治せたらよかったのに……」

「生命があっただけめっけもんだよ。気にするな。

 そういうお前こそ、髪短くなってんじゃねぇか」

「あははは…まぁ、私の方も色々あって」

 

ハジメはこともなげに言うが、きっと想像を絶するような過酷な環境を生き抜いたに違いない。

何度も、心身共に壊れそうになったに違いない。

いや、もしかしたら……一度壊れてしまったからこその今の彼なのかもしれない。

 

香織もハジメと同じ道を歩んできたが、それはあくまでも物理的なものだ。

香織の周りには信頼できる友人がいて、守ってくれる心強い大人がいた。

だが、ハジメにはどちらもいなかった。一人深層に放り出され、多くのものを失い、そこから這い上がってきた。

いったいどれほどの苦難、どれほどの絶望、どれほどの逆境だったのか想像もつかない。

 

人ひとりを壊し、変えてしまうには十分すぎる時間と環境だ。

ハジメが香織に躊躇なく銃口を向け、引き金を引くことに容赦がなかったのはそうしなければ生き延びることができなかったから。

暴力を振るう事をためらわないその変心にショックを受けていないわけではないが、受け入れるための土台はすでにある。

何より、それでもなお彼は香織の言葉に耳を傾け、気遣ってくれている。

 

変わってしまったが、変わっていないところもある。それだけで、香織には十分だった。

自分の想いもまた変わるのだろうかと、思っていたが……どうやらそんなことはないらしい。

 

自分自身の想いと再度向き合い、香織の瞳に決意と覚悟が宿った。

今まで以上に瞳に“強さ”を宿し、その思いを言の葉に乗せる。

 

「……貴方が好きです」

「白崎……」

 

香織の表情には、羞恥と想いを告げることが出来た喜びが宿っている。

 

「もう、あなたを一人にはさせない。ここからは私もいっしょに行く…いつまでも、どこまでだって」

「俺は……」

 

流石に、こんなにも真剣な思いを向けられて逃げるわけにはいかない。

覚悟と誠意の込められた眼差しに、ハジメもまた真剣さを瞳に宿して今の自分に出せる精一杯の答えを告げ……ようとしたところで邪魔が入る。

 

「ハジメは私の」

「おい、ユエ……」

「ハジメは私の」

「あの、ユエさん?」

「ハジメは 私の」

「お~い……」

「それで、私はハジメのもの。もう売買契約は成立済み、お前の出る幕はない」

 

どうやら、地味に「一人に」とか言われたのがお気に召さなかったらしい。

あとはまぁ、女の意地的なアレコレもあるだろう。

 

「そういえば……ハジメ君? この子は誰なのかな? かな?」

「あ~、こいつはユエって言って……ほら、上の階になんか場違いな門があっただろ? あそこに封じられていてだなぁ……」

「ううん、そんなことはどうでもいいの」

「いや、よかねぇだろ」

「そんなこと どうでも いいの」

「ぁ、はい」

 

奈落の魔物たち相手に一歩も引かないハジメをすら圧倒する威圧感。

少し視線を上げれば、そこには何故か迫力満点の般若さん。

なぜか、いい具合に裾とかが赤く染まっているのだが……あれは返り血ですか、そうですか。

 

「そんなことより、なんで…裸なの? ハジメ君の趣味なの? 裸コートがブームなの? なら、私だって……!」

「いや、待て。落ち着け! 別に趣味とかじゃない! これは単に、ユエがマッパで封印されてて、これしか着る物がなかっただけで……」

「そう、ハジメが私を丸裸にした。隅々まで見られた。もうお嫁にいけない。ハジメに貰ってもらうしかない」

「ユエさん!?」

 

わざわざ引っ掻き回すようなことを言うユエに、ハジメの顔が驚愕に歪む。

無論、確信犯だ。既成事実(?)を並べ立て、自分の優位を強調しているのだ。

まぁ、この程度で折れるようなら香織もこんなところまで追いかけてきてはいない。

ユエからしてみれば、軽い牽制……ジャブのようなものだった。

ハジメにとっては、既にノックダウン級の幻の左を貰ったような気分だが。

 

「ハジメ君…………………………見たの、見てないの、どっち?」

「………………………………見ました」

「………………………………」

「おい、待て。何ごそごそしてるんだ、何いきなり脱ぎ出そうとしてるんだ白崎ぃぃぃぃぃぃっ!?」

「私も脱げばイーブンだもん! まだ負けてないもん!」

「ふっ、それで私に並べると思うなら甘い。私はもうハジメの初めてを貰ってる」

(クワッ!?)

「は? いや、いったい何のことを……」

「初めては激しくて…熱くて濃厚、この上なく美味だった」

「は、ははははははははははははははははハジメ君」

「落ち着け白崎。なんかよく分からん笑い声みたいになってるぞ。

 それと、ユエの言ってることは別にいかがわしいことじゃない、こいつは吸血鬼で……」

「ハジメ君を脱がせて私も脱ぐ!!!」

「そんな『あなたを殺して私も死ぬ』みたいなノリで何言ってんのお前!?

 誤解だ! 話を聞けっての、おい!?」

 

実際には、ユエが言っているのはハジメから初めて吸血した時のことだ。

まぁ、情報が足らないのはわざとなので、狙い通りなのだろうが。

 

「先輩、これがいわゆる昼ドラという奴なのでしょうか?」

「どこでそんな言葉憶えたの? まぁ、どちらかと言えば修羅場ではあると思うけど……」

「イマイチ深刻さが足らんな。あれではいいとこ痴話喧嘩だろう」

「なに解説してんだ、お前?」

「俺の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

そんなハジメの絶叫が虚しく迷宮内に木霊する。

 

ちなみに、最終的に誤解は全く解けず……

 

「……仕方ない。ホントは私と“私のハジメ”だけで十分なんだけど……お前が泣いて頼むなら特例で同行を認めてあげる」

「お前じゃなくて、香織だよ。あと“私のハジメ君”だから、そこは間違えないでね。あ、泣いて云々は聞かなかったことにしてあげる」

「……いい度胸。なら、私はユエでいい」

「ふふ、ユエ。これからよろしくね?」

「こちらこそ。とりあえず、敗北感に打ちひしがれる心の準備をしておくことを勧める」

「ユエも、負けて泣いても知らないよ?」

「……ふ、ふふふふふ♪」

「あは、あははははは♪」

「もう勝手にしろ、お前ら」

 

この有様だ。

 

告白されたのは自分なのに、いつの間にか蚊帳の外に置かれている現状はもう諦めた。

さっきから散々「人の話を聞け」と言っているのに、二人揃って全く聞きやしない。

『聞かれても答えてやるもんか』と若干拗ねても許されるだろう。

 

「先輩、やはり見間違いではありません! 香織さんの背後に刀を構えた般若が!?」

(プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル)

「ちっこい嬢ちゃんの方は暗雲と雷を背負った龍か……派手だねぇ。俺の見間違いか?」

「……正常だろ? 私にも見えている、頑張りたまえ少年。私は応援している、応援“だけ”している」

 

 

 

ちなみにその後、ようやく立香たち男性陣の紹介や今日ここに至るまでの互いの情報交換が行われた。

一瞬帰れる可能性に期待したハジメだったが、現状不可能なことを知り落胆。

とはいえ、すっぱりと気持ちを切り替え……たのだが、物はついでとばかりに香織が強烈なプッシュを慣行。結果、ハジメは「白崎」から「香織」に呼び方を改められ、なんだかんだで他の面々も名前呼びで統一された。

サーヴァントのことには大分驚いたようだが、そこはサブカルチャーの申し子(オタク)のハジメ、さっさと状況を受けれてしまったのは流石の一言だろう。

 

また、ハジメの現状を確認する中でこんな話が出たりもした。

 

「しかし、話を聞く限りまるで混沌だな。自我の方は問題ないのかね?」

「ああ、特には……ってなんだ、その混沌ってのは?」

「詳細は省くが、君のように様々な生命を内に取り込んだ術者のことだ。その結果、元の人格は薄れていったと聞いているが…その心配は今のところ杞憂なようだな」

「…………一応気を付ける」

「そうしたまえ」

 

他にも……

 

「聖杯?」

「うん。一応探してるんだけど、ちっとも見つからなくてさ。何か心当たりない?」

「つってもなぁ……強いて言えばこれくらいか?」

 

そういってハジメが取り出したのは、バスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石。

神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

 

「キレイ……ハジメ君、これって?」

「こいつから滴る水には回復効果がある。俺がここまでこれたのも、そもそも魔物の肉を食って生きていたのもこいつのおかげだ」

「へぇ~……つまり、生命の恩人ならぬ生命の恩石だね」

「そうなるな……って拝むな拝むな」

「えへへ……あれ? みんなどうしたの?」

「そ」

「そ?」

「「「「それだぁ~~~~~~~~~~~~~っ!?」」」」

 

どうもエミヤが調べた限り、この石の魔力容量は“聖杯”と呼ぶにふさわしいレベルらしい。

 

立香たちは知らないことだが、実はこの石は【神結晶】と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したもの。結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。その液体を【神水】と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。

欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。ハジメが生命を繋いだのもこの力があったからだ。

 

「ん? でも、聖杯ではない?」

「ああ、少なくとも願望機としての機能はないようだ。とはいえ、下地となる魔力容量は膨大。優れた術者なら願望機として作り替えることもできるだろう。言うなれば、聖杯の原石だな。

 まぁ、実際に願望機として使うには魔力を満たし、“願いを叶える”という機能を付ける必要があるだろうが」

「へぇ~」

「ですが、ハジメさんがこれを確保していてくださり助かりました。上手く使えば、あるいは元の世界に帰る一助になるかもしれません」

 

なんてことがあった。

そして現在、一同が何をしているかというと……とりあえず、休息をとるには全く向かない階層を抜けて一つ下へ。周辺の魔物を適当に掃討し、安全を確保したら一休み。

今はシェフ(エミヤ)の指示の下、助手のマシュと香織が手伝いながら夕餉の準備中。

ただし、そこからやや離れたところでは、ハジメが倒した魔物をこんがり焼いて野生児的にモグモグしていた。

 

「…………美味しいの?」

「いや、不味い。だが、ステータスは上がるし固有魔法は手に入るしで食わない理由がねぇ」

「ハジメ君も魔力操作できるんだよね」

「ああ。あの妙にエプロンの似合う白髪の話だと、魔物の魔力が閉じてた経路を無理矢理開いたみてぇだな。香織とはやり方が違うが、結果的には似たようなものらしい」

「なら、俺たちなら食べても大丈夫ってことかな?」

「試してみるか?」

「身体の構造から替わってるんだよね……痛かった?」

「発狂するかと思うくらいにはな」

「………………………………………やめとく」

「ま、賢明だな。俺だって好きで食ってるわけじゃねぇ」

 

いくら毒への耐性があり、既に魔術回路を開いているとはいえ、試してみたいとは思わない。

身体を作り替えるのもそれに伴うすさまじい痛みもご免だ。

元々直接戦闘には向かないので、固有魔法やステータスの向上にも興味はない。

ハジメの場合は上手くハマったようだが、立香が得ても宝の持ち腐れだろう。

 

「…………何をやっているのかね、君達は」

「あ、エミヤ。いや、魔物肉の感想をちょっと……」

「……あんだよ」

「不味いと聞こえたが?」

「まぁ、不味いな。固いわ臭いわで、正直食えたもんじゃねぇ」

「…………………………………………………………………貸せ」

「あっ!? てめっ、何しやがる!」

「少し待っていろ」

 

まだ捌いていない魔物を一頭丸々持ち去っていくエミヤ。

しばらくすると、なんとも言えない香ばしい匂いが立ち込めてきた。

脳内の食欲を司る部位をダイレクトに刺激する匂いに、ハジメの腹が「グ~ッ」となる。

 

久方ぶりのまともな、そして文明的な食事だ。腹の虫も元気になろうというもの。

しかし、香織たちの調理が終わるより前に、エミヤは一枚のステーキを持ってきた。

 

「? まだ準備は終わってねぇんだろ?」

「食え」

「は?」

「良いから食え。まずはそれからだ」

「…………」

 

訝しみながらも、「ジュウジュウ」と肉が焼ける音が滑り込んでくる。

焼き色、香り、全てが食欲のスイッチを連打していた。

もう、とてもではないが辛抱できない。そして、意を決して一口頬張ると……

 

「ウメェ―――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!!!」

 

と絶叫。あとはもう滂沱の涙を流しながら一心不乱に齧り付く。

気付けば、500グラムは下らなかったであろう肉がものの3分で消えていた。

 

「旨かったか?」

「………………………悔しいが、超旨かった」

「エミヤはカルデアの食を預かってるからねぇ」

「……アンタいったい何の英雄だよ」

「それは置いておけ」

「で、今の何の肉だ?」

「先ほど持って行った亀の肉だが」

「やっぱりか…………つーか、どうやったんだ? 俺も同じ魔物は食ったが、全然味も歯応えも違うし、臭みもなかったぞ」

「たわけ、血抜きもしないで旨いわけあるか。料理は下拵えが肝心、それさえしっかりしておけば余程の大失敗でもしない限り不味くはならん」

「マジか……いや、確かに碌に血抜きも下処理もしなかったけどよ。やり方知らねぇし」

「もう一皿あるが……」

「くれ! あるだけ全部!」

「はぁ…………待っていろ」

 

目を爛々と輝かせるその姿は、奈落の魔物と渡り合い、倒して喰らうバケモノからはかけ離れている。

むしろ、幼い腹ペコ少年のようだ。

 

そんなハジメの様子を微笑ましそうにチラチラ見守りつつ、「さすがです!」とエミヤの手腕に感銘を受けていた香織だったが……同時にこうも思う。

 

(もしかして、一番のライバルは先生!?)

 

性別を超越した、その圧倒的女子力に戦慄を隠せない。

とはいえ、それならそれでやることは一つ。

 

「……あの、先生?」

「なんだね」

「今度、魔物の美味しい料理の仕方、教えてくれませんか?」

「………………………………………なら、まずは捌き方からだな。血抜きに始まり、筋や臭みの処理……覚えることは多いぞ」

「はい!」

「ぬぬぬ……」

「どうかしましたか、ユエさん?」

「……私も憶えた方が良いかな?」

 

着々と戦力(女子力)を整え外堀を埋めにかかる恋敵に、チート吸血姫のユエも対抗心を燃やすのだった。

まぁ、女子力という意味ではすでに大幅に後れを取っているのだが。

 

そんなこんなで、再会と合流を果たした一行はさらに下へ下へと進んでいく。

ハジメを探すという目的は達成し、聖杯らしきものも見つかった。

なら後は、最深部を目指すのみ。

 

当然攻略のペースは劇的に向上し、まもなく第100層へと到達する。

 




ハジメさんの胃袋は見事に鷲摑み…ただしエミヤに、良いのかそれで?

それはともかく、なんとか合流するところまで来ました。
ハジメ的には香織もユエも特別な存在ですが、それでも一番をはっきりさせる責任はあると思っています。なので、実はすでに一応の順位はあるのですが……二人とも話を聞かないで勝手に戦ってしまうので、ハジメさんは拗ねておられます。いつかそれを告げる日は来るのだろうか?

ちなみに、現在のハジメのステータスだと基本的にはエミヤたちには及びません。ただ、例えば腕相撲とかするとエミヤだと苦労します。この先もステータスが上がり続けるので、最終的には…すごい事になりますねぇ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。