ありふれた職業と人理の盾   作:やみなべ

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オルクス大迷宮で召喚されたサーヴァントが今回全員登場します。
色々悩んだりプロットを修正したりして、この結果。はじめは考えていなかった人もチラホラいます。

とりあえず、この章はサクサク進めていく予定なので、あんまり長引かない…はず。どうなるかな?


011

立香がオスカー・オルクスの隠れ家にて、改めてサーヴァントの召喚を行って数日。

より迅速な大迷宮攻略のため二手に分かれた彼らは、それぞれグリューエン大火山とハルツィナ樹海を目指していた。

 

道中、縁あって……というよりも、「樹海の案内」を目的にライセン大峡谷で出会った亜人族の「ハウリア族」という兎人族を保護したハジメたち。色々とややこしい事情を抱えた彼らだったが、そんなことはハジメの知ったことではないし、他の亜人族の思惑もまた同様である。

結局、圧倒的戦力差を背景に「ハウリア族」による樹海内の案内を亜人族の国「フェアベルゲン」に認めさせた彼らは…………絶賛、樹海内で足止めを食っていた。

 

「なるほど、大樹『ウーア・アルト』ですか。確かに、亜人族の生活圏が含まれる樹海全体が大迷宮という可能性は低いでしょう。なら、オルクス大迷宮のように最奥に真の大迷宮がある可能性は高いですね」

「うん。ただ、樹海全体を覆う霧なら亜人族の人たちでも抜けられるみたいだけど、そこの周りは特に濃くて、薄まるのを待たないといけないからもう何日かはこのままかなぁ?」

「まぁ、そればかりは仕方ありませんね」

 

諸事情あって結局フェアベルゲンはおろか周辺の集落にも近づけないため、現在ハジメたちは樹海の一角にキャンプのようなものを作ってその時を待っていた。

ついでに、ハウリア族……正確にはその族長の娘であり魔力操作と固有魔法「未来視」を有する「忌み子」シア・ハウリアとの約束もある。彼女と交わした約束、それは「樹海の案内」より正確には「大迷宮への案内」と引き換えに、忌み子であるシアを匿ったがために樹海に居場所をなくしたハウリア族を、「案内が終わるまでの間保護する」というものだった。

その約束が果たされるまでの間、無為に時が過ぎるのを待つのもどうか……袖振り合うも他生の縁ではないが、一応助けておいて後からアッサリ全滅されるのも後味が悪い。かといって、いつまでも彼らの面倒を見てやれる暇もなければ、そんな義理もない。故に、どうせ暇を持て余していることもあって、ハジメによる戦闘訓練が施されている真っ最中だったりする。

 

なにしろ、ハジメの庇護を失った後の彼らに残されるものはあまりに少ない。

樹海の外は、亜人族など商品…すなわち奴隷程度にしか見ていない人間族の領域だ。

そのため、亜人族は天然の迷宮ともいうべき樹海から出ることはまずない。

しかし、忌み子を匿っていたことから、ハウリア族はフェアベルゲンから事実上の追放処分を受けている。まぁ、本来なら一族郎党処刑になるところを、色々あってこの形に収まっただけまだマシなのだが、それでも樹海を頼れないことに変わりはない。

ハジメの庇護も期間限定である以上、自分たちの身は自分たちで守れるようになる必要がある。それを見越しての戦闘訓練だ。

 

ハウリア族…というか「兎人族」自体が聴覚や隠密行動には優れているものの、身体的スペックは決して高くない。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を「家族」と称する絆の深い種族だ。付け加えれば、容姿にも優れており、エルフの美しさとはまた異なる可愛らしさから、愛玩奴隷としての人気が高い。

 

なんというか、このままだと本当に部族丸ごと詰んでしまう未来しかない。

ハジメが自分から戦闘訓練を提案したのも、無理からぬ話だろう。

いくら「後のことなど知ったことではない」とはいえ、詰むと分かっている状況を看過するのは流石に……。

 

ハジメだけでなくユエはユエでそれなりに忙しくしていることから、今は香織が一手に食事などを担っている状態だ。そんな近況報告も兼ねて、ハジメがカルデアの技術協力を得て作り上げた通信用アーティファクトで、食事の支度をしながらマシュと定時連絡(おしゃべり)の真っ最中の香織である。

 

「それで、戦闘訓練の方はどうなのですか? ハジメさんのことですから、一度請け負った以上しっかり鍛え上げるでしょうが……」

「そうなんだけど……ハウリア族の人たちも筋金入ってるからねぇ……苦労してるよ」

「そうなのですか?」

「うん。なにしろ、毎回毎回『ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~』って殺した魔物に縋りついて泣いたり、刃物持って震えながら『ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!』って叫んだりするんだよ?」

「それは……頭が痛いですね」

「気持ちはわかるんだけど、ねぇ?」

 

命あるものを殺すことへの罪悪感や抵抗感が理解できないわけではない。

心優しい香織も、なんだかんだでオルクス大迷宮深層を生き抜いたこともありその辺は克服済みとはいえ、かつての自分を思い返せば共感する部分はある。

しかし、しかしだ! 何かある度にこの調子で三文芝居を演じられ続ければ、いい加減呆れが勝ってくる。

ハジメの堪忍袋の緒が切れるのも、そう遠くはないだろう。と思っていたのだが……

 

ドパンッ!! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

突如、樹海内に木霊する銃声。

その意味を、香織は寸分たがわず理解していた。

 

「香織さん? 今の音は、もしや……」

「うん。遂にハジメ君がキレたみたい」

 

まぁ、時間の問題だろうと思っていたので、特に驚きはしないが。

恐らく、ここからが訓練本番。ハジメによる情け容赦ない……技術や経験以前、心構えとか精神性とかそういう部分を鍛え直す……というか、洗脳に近い精神魔改造の幕開けである。

 

「…………そうですか。まぁ、兎人族の方たちが生き残るためですから、仕方がない……のでしょうね。

 ところで、ユエさんは?」

「ユエだったら、シアの特訓に付き合ってるよ。私も時々手伝ってたんだけど、身体強化に特化しててすごいことになってるからねぇ」

 

香織では相手にならなくなる日もそう遠くはないだろう。

代わりに、シアと香織で組んでユエやハジメと訓練することは増えるのだが。

 

「そうでしたか。まぁ、香織さんも身体強化はできるとはいえ、あくまでも支援と回復が本領ですからね。孤立しても、応援が来るまでの間自衛できればいいわけですから、それで問題はありませんが」

「そうなんだけど、足は引っ張りたくないから。私も、私なりにできることをしないと…ね!」

 

会話の最後に、妙な音が紛れ込む。ハジメのドンナーほどの重々しさはないが、それは紛れもなく発砲音だった。

 

「大丈夫ですか?」

「うん。木の陰におっきなツチノコみたいな魔物がいたけど、ちゃんと仕留めたから」

「香織さんも逞しくなりましたね」

「ハジメ君について行くためだからね。ユエにも負けたくないし」

 

右手の拳銃を腰のホルスターに収める動作には淀みがなく、だいぶ手馴れてきていることが伺える。

当初は治癒師という天職もあって杖や法衣のような装備だった香織だが、オルクス大迷宮を出るにあたり装備を一新した。これは、ハジメたちのパーティに壁役となる前衛がいないことが大きな理由としてあげられる。近・中距離がメインのハジメ、遠距離型のユエ、支援の香織というやや後衛寄りの構成なため、ある程度自分の身は自分で守れる必要があったのだ。

そこで、攻撃ではたいして役にも立たない杖ではなくハジメ謹製の銃へと持ち替え、それなりに防御力はあるが動きにくい法衣から動きやすさ重視のパンツスタイルへと変更したのである。

 

元々持っていた杖とて治癒師用の一級のアーティファクトではあるが、生成魔法を得たハジメがいれば代用品を作ることも難しくない。パワーに乏しい香織でも扱い易いようにとハジメのものよりやや小ぶりに仕上げた白と黒の二丁の拳銃には、それぞれ光魔法や回復魔法の魔法陣がびっしり仕込まれている。他にも様々な仕込みが為されており、元の杖と比較しても回復・光魔法には何ら支障はない。

また、動きやすさ重視という事もあって薄手かつタイトな衣装ではあるが、これまた徹底的に生成魔法で守りを固めているので、見た目に反して防御も硬い。

つまり、攻撃力と機動力を上げつつ、防御力や魔法方面は据え置きという状態なわけだ。ハジメの拘りと香織への過保護さがうかがえる逸品である。

まぁ、取り回しを優先して銃身が短くなった分、ハジメのドンナーほどの威力はないのだが、それでも身を守るには十分過ぎる。何しろ纏雷も仕込んであるので、しっかりレールガンが撃てるのだから全く問題はない。

 

お揃いの装備(ペアルック)という事で香織が浮かれたり自慢したりして、ユエが羨んだり物凄く睨んできたりもしたが、全くの余談だろう。

 

「それで、マシュちゃんの方はどう? グリューエン大火山だとかなり距離があるし、着くのはもうしばらく後になるよね」

「いえ、このペースなら今日中にアンカジ公国に着くはずです」

「えっ、なんで!? いくらなんでもそんな速度出ない筈じゃ……」

 

マシュと立香の移動手段もまたハジメが作り上げたアーティファクトによるものなので、その移動速度は把握している。なので、グリューエン大火山にほど近いアンカジ公国に着くにはもう数日かかる見込みだったのだが……。

 

「……………………実は、ランスロット卿(お父さん)が張り切ってしまいまして」

(なんだろう? この既視感というか、シンパシーというか……すっごく覚えがあるんだけど?)

 

なんというか、休日に家族サービスに精を出そうとして空回りする父親へ向ける年ごろの娘の生温かな視線というか呆れというか、なんかそんな感じのあれだ。

 

それはともかく、オルクス大迷宮での再召喚の折にセイバーのクラスで召喚されたランスロットのことは香織もよく覚えている。何しろ召喚されるや否や、口上すら述べずにマシュへと吶喊。思い切り抱きしめたかと思えば大号泣、である。

これには香織やユエはおろか、ハジメですらも目が点になっていた。

二人の関係性とかその他諸々については、同じく召喚された黒い外套を着た白髪の理智的な青年が教えてくれた。何しろ、立香はその時色々それどころではなかったから……。

 

まぁ、それはともかく心配で心配で夜も眠れなかったランスロット卿(お父さん)は、本来クラスくらいしか指定できず、場合によってはエクストラクラスが割り込んでくることすらあり得る、ほぼ完全にランダムな召喚を執念で引き当てたらしい。まぁ、他にも似た様なのがいるので、可能ではあるのだろうが……。

 

ちなみに、彼にとってマシュはギャラハッド(息子)の霊基を受け継いだ少女ではなく、もう一人の我が子……まさに娘として認識しているらしい。

普段はランスロット卿(お父さん)に辛辣なマシュも、この時ばかりは慌てふためいていた。あれほどまでにまっすぐな愛情を向けられては、流石に邪険にできなかったのだろう。

とはいえ、まるで休日に娘とドライブに出かけるようなテンションではしゃぐランスロット卿(お父さん)には、やはりどうしても呆れが勝ってしまうが。

 

「え~っと……いいお父さんだよね?」

「……仮にそうだとしても、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)はやり過ぎです」

 

そう、本来ならもっと時間がかかるはずの道程を予定外の速さで踏破できた理由がそこにある。

ランスロットの宝具「騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)」は、手にしたものに「自分の宝具」としての属性を与え扱う能力型の宝具だ。たとえ鉄柱や戦闘機であってもランスロットが「武器」として認識できさえすれば、あらゆる武器や兵器を魔力を巡らせることで擬似宝具と化す。

ハジメが作り上げたアーティファクトは「軍馬」あるいは「戦車(チャリオット)の延長として認識されたことから、疑似宝具化して本来の性能以上の速度と走破力を発揮しているのである。

ついでに、「己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)」も併用して周囲の風景にカモフラージュしているので、周りからは全く怪しまれないという念の入りようだ。

まぁ、それはそれで結構なことなのだが……

 

「……あのドヤ顔はちょっと鬱陶しいです」

「あぁ、何かわかるかも……」

 

娘に対し「パパ凄いだろ!」とはしゃぐ父の姿を思い出してか、香織の表情も微妙なものになる。

映像まではやり取りできないが、きっとアーティファクト越しのマシュも同じような表情をしているのだろう。

 

とはいえ、双方ともに大きな支障がないのは良い事だ。

その後もいくつか雑談やら愚痴やらを交わしたり、ちょうどつい先ほど合流したダビデから聞いた雫たちのことなどを伝えたりして、さてそろそろおひらきにしようか…というところで、香織が思い出したように尋ねる。

 

「そういえば、結構長く話しちゃったけど良かったの? 立香さんのこと放っておいて」

「……今私が近くにいると、かえって話がこじれそうなので……」

「そ、そっかぁ……」

「はい……あ、それとハジメさんにお礼を言っておいてください」

「お礼? なんの?」

「例のサングラスのおかげで、視界の悪い砂嵐の中でも魔物に遭遇することなく進めています。遭遇しても問題なく倒せますが、必要のない戦いを避けられるに越したことはありませんから」

「あ、あぁ、そのこと……」

「? どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ、うん、ホントに。お礼のこと、ちゃんと伝えておくから」

「はい、お願いします。それでは、これで。明日、またいつもの時間に連絡します」

「うん。こっちでも何か変化があったら伝えるから」

 

そうして通話を切ったわけだが、香織の表情は冴えない。

雫たちのことをはじめ、色々考えることがあるというのも理由の一つではあるが、それ以上に躊躇われたのだ。

先ほどマシュに頼まれた、サングラスの件を伝えることが。

 

「ハジメ君、結構ダメージ受けてたけど……大丈夫かな?」

 

マシュの言っていた「例のサングラス」というのは、例によって例のごとくハジメが作ったアーティファクトの一つだ。魔力感知や遠視、夜目など様々な固有魔法を付加し、探知能力の向上を狙って作り上げた品であり、その性能は申し分ないものだった。

反面、それの性能を確かめるために試しにかけてみたハジメは、鏡を見て絶句した。

白髪に義手に黒コートと、既に十二分過ぎるほどに厨二キャラと化していた所へ、一枚レンズの黒サングラスを掛けたらあら不思議……完全な厨二病患者の出来上がりだった。

あまりの衝撃に、丸一日自室で引き籠ってしまうほどにその衝撃は大きかったのである。ユエと香織、二人係でなんとか立ち直らせることには成功したものの、あの傷は未だに深い。この件に触れて、果たしてハジメは正気を保っていられるのだろうか……。

 

「色々デザインは工夫してたけど、焼け石に水だし……」

 

一応少しでも厨二度を下げようと奮闘してはみたものの、最適な鉱石の材質からどうしてもレンズ部分はブラックにならざるを得ず、多少のデザイン変更では全く意味がない。

なので、ハジメ自身は極力このアーティファクトをかけようとしないし、本音を言えば見るのも嫌だったりする。

香織がこの話題に対して慎重になるのも無理はないだろう。

 

「まぁ、それは後で考えるとして……みんなぁ! ご飯できたよぉ!!」

 

せっかく作った食事が冷めてしまっては元も子もない。

丹精込めて作った(ハジメへの)愛がたっぷり詰まった品々だ。一番美味しいうちに食べて欲しい。

というわけで呼びかけてみれば、すっかり餌付けされたハジメが風のような速度で着席。いつの間にかナイフとフォークが握られ準備万端、今にも涎を垂らしそうな様子でソワソワしている。

 

「香織、今日のメニューはなんだ? 香織が作ったものなら旨いのは確実だが、いつも工夫を凝らした飯が食べられて俺は嬉しい。ありがとうございます!!」

「えへへ~! 今日はね、鶏肉とマカロニのグラタンと、コールスローサラダに……」

 

ハジメが実に嬉しそうにしてくれているので、香織の顔もまた綻ぶ。それもこれもどこぞのオカンのおかげである。伝授された技術の数々とレシピ集に、今日もまた感謝する香織であった。

 

「あ、それとさっきツチノコみたいな魔物がいたんだけど、食べる?」

「怪我はなかったか? 俺がいない時に香織を忍び寄るとは……絶滅させるか」

「あははは、大丈夫だよぉ~、ハジメ君が作ってくれたエボニーとアイボリーもあるんだから」

「まぁ、そうだが……」

「それより、食べる? たぶん、固有魔法も手に入らないだろうし、ステータスも上がらないと思うけど……」

「香織が作ってくれたものなら何でも!」

「ふふふっ、じゃあすぐに準備しちゃうね。今回は……フリットにしてみようかな? あ、樹海でしか採取できないハーブもあるって話だし、臭み消しがてら香草焼きもいいかも」

(じゅるり)

 

その後、手早く魔物を解体し調理してしまう香織。その手際は、既に熟練の域に入りつつあった。技能欄に「料理」とかそういうのがないのが不思議なレベルである。エミヤの薫陶は、しっかり彼女の中で息づいていた。

 

まったくどうでも良い話だが、ちょっとは料理に自信のあった某ウサギが香織の手際に絶望したり、ユエと一緒にハジメの両脇を固めて「はい、あ~ん」とかやっているのを血の涙を流しそうな様子で凝視していたりしていたが…………香織は全く気付かなかった(徹底して無視した)。ついでに、ユエも全く気付かなかった(徹底して無視した)

もちろん、料理の腕やハジメとの仲を見せつけようなんて意図は全くない。当然、牽制しようとか所有権を主張しようとか、そういう気もない。ないったらないのである。

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

この世界トータスには「グリューエン」と名のつくものが、大きく二つある。

一つは大迷宮の一つを要する「グリューエン大火山」。

もう一つが、周辺に広がる「グリューエン大砂漠」である。

 

大火山へと至るためにはまずこの大砂漠を越えねばならないのだが、その道程は決して楽なものではない。

 

見渡す限り赤銅色の世界。

砂の色はもちろん、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度、見渡す限り赤銅色一色となっているのだ。

さらに、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と砂紋や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が“生きている”と表現したくなる程だ。

照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、気温は四十度を軽く超え、反対に湿度は一桁に迫る。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ

 

第六特異点では砂漠を歩き回った経験もある立香たちでも、これは決して気を抜ける環境ではない。

気を引き締め、装備を整えると共に十分な物資を揃えて臨まなければならないだろう……本来なら。

 

過酷な環境を「知ったことか」と突き進む黒い箱型の前後に長い乗り物、魔力駆動車が砂埃を後方に巻き上げながら爆走していた。道なき道だが、それは車内に設置した方位磁石が解決してくれている。

ついでに、車体全体を葉脈のようなものが走り、脈打つさまは生物を彷彿とさせてもいた。

ただしそれも、そのさらに外側を覆う霧状の靄が覆い隠し、外部からはその実態がつかめないのだが。

そして、そんな車内の人間たちはただただ快適な環境に身を委ねていた。

 

「いやぁ、砂漠の中でガンガンに冷房をかけるとか風情も何もありませんけど……冷たい水は正義ですねぇ~!」

「フォ~フォ~!」

「私の時代にもこれ、欲しかったですぅ~! 商売繁盛、ウハウハに違いありませんから!」

 

車内備え付けの冷蔵庫から取り出した冷え切った水をグラスに注ぎながら、褐色肌の肉感的美女(フサフサの耳と尻尾付き)が車窓から見える風景を見て上機嫌に宣う。ついでに、白い小動物もご機嫌だ。

ただし、チラッと横目で後ろの席に視線を送る瞬間だけ、不機嫌そうにしているが。

 

「まぁ、そこの『ダ』のつく人がいなければ、もっとよかったんですけどぉ~」

「ハハハ! 今日の女王はご機嫌麗しくないらしい。まぁ、いくら快適でも、狭い車内に閉じ込められていては無理もないね」

「……自分に原因があると全く思わないあたり、ほんと良い神経してますねぇ~」

 

物凄く白い目を向けていたが、意味がないと諦め改めて視線を外へと向ける。

ただし、『ダ』のつく人はそう言っているが、実の所この車は決して狭くはない。

むしろ、縦幅や横幅だけでなく、高さも含めて通常の車の倍以上ある。

 

当初はワゴン車か精々マイクロバス程度のサイズを考えていたのだが、サーヴァントの中には規格外の体格を有する者もいることから作り上げられたのが、この「魔力駆動車ハインケル」だ。

外観・内装共に最早キャンピングカーに近く、運転席と助手席の後ろは広々として快適な生活空間が形成されている。冷蔵庫はおろかマッサージチェアや二階部分には風呂まで完備されている。まったく、これでどうしてストレスがたまるというのだろうか。

 

「もう! なんでこの車カラオケすらついてないのよ! 普通、車で長距離移動するならカラオケは必須でしょ!! ちょっと子イヌ(マスター)…いえ、AD! そのなんとかってブタに、カラオケの用意させておきなさいよね!」

 

何度出てきても羞恥心を刺激されないドラゴンガールは、カラオケが設置されていないことに憤懣やるかたない様子だ。とはいえ、今の立香は色々それどころではないわけだが。

 

「あぁ、ますたぁ。新婚旅行が異世界だなんて、わたくしは世界一の果報者でございます」

「違います。新婚旅行じゃなくて、迷宮攻略の旅ですから。ほら、みんなもいるし」

「次に立ち寄る街は砂漠のオアシス…素敵です。オアシスの夜景を背に、愛を囁いてくださるのですね!」

「お願い、話し聞いて……」

「一人目は珍姫なら、二人目は安清、でしたら三人目、四人目は……」

 

召喚してからこっち、ずっと腕にしがみついて離れようとしない嘘つき絶対焼き殺すガール(清姫)に、何度目になるかわからない状況説明をしようとするが、テンションが高過ぎて全く耳に入っていない。

いずれ少し落ち着けば理解させられると思うのだが、その時がいつになるかはわからない。マシュも、色々と思うところがあったり、やたらとくっついてくることに不機嫌そうになったりもしているが、とりあえずは待ってくれているので頑張るしかない。

 

「うふふ、スゴイわ。どこまで言っても砂の海が続いている……砂紋がまるで波のよう……貴方もそう思わない、サンソン?」

「そうだね、マリー。確かに、この光景は壮観だ」

「ええ、本当に! 急ぐ旅でなければ、一度あの砂丘を登ってみたいのだけど……」

「それはやめた方が良い。外は乾燥しているし、風に吹かれて砂も舞っている。この車内だからこそのんびりしていられるけれど……」

「あら、私たちはサーヴァントなのよ、サンソン。乾燥も舞う砂も、私たちには何の問題もないわ」

「それは、そうだけど……」

「でも、あなたのお気遣いはとても嬉しいわ。ありがとう、ムッシュ」

「……いえ、当然のことです王妃」

 

すっかり外遊気分の王妃とフランス紳士の所だけは実に平和だ。

平和過ぎて、少しはマスターを手伝ってやって欲しい位に。まぁ、基本説得の通じる相手ではないし、二人ともそこまで口が達者なわけではないので、下手に手を出さない方が無難なのだろう。

 

「ハハハ、流石のサンソン殿も王妃殿下が相手では形無しだな。しかし、目を輝かせる王妃殿下もまた……」

「また、なんですか?」

「いや、なんでもない。別に、実にチャーミングだとかそんなことは思ってないぞぉ」

(思い切り本音が漏れていますが、聞かなかったことにしておきましょう)

(堪えろ私。今回は、今回だけは自重すると誓ったではないか! マシュの無事を確かめた後は、サーヴァントとして、騎士としての務めを果たすのみだと! …………だが、それはそれとして王妃も女王も実に…いや、待て待て! たったいま自重すると自戒したばかりではないか!? 私の意志力はそんなにも弱かったか! 否、断じて否だ! 円卓の騎士の名に恥じぬ働きを以て、マシュの信頼を勝ち取るのだ!!)

(まったく、せっかく少しは見直したらこれです、この人は……)

 

百面相している湖の騎士に、知らず溜息がこぼれるマシュ。

色々暑苦しかったり鬱陶しかったりすることも多いが、それでも心底から身を案じてくれていたことは嬉しかった。だからではないが、少し位は態度を軟化させてもいいかなぁ…なんて思った矢先にこれである。

一応今回は聞かなかったことにしておくが、それもいつまで続けられるやら。

折角上がりかけた評価が、また下がるのも遠くないかもしれない。

 

(もう少ししっかりしてくれていれば、私も……)

「むっ? マスター、どうやら見えて来たようです!」

「あれが、アンカジ公国……」

「フォウッ!」

「あらあら、綺麗な街ねぇ」

「ええ、オアシスに作った街と聞いていたのでもっと、その……開放的かと思っていたのですが」

 

赤銅色の砂塵のヴェールの向こうから見えてきたのは、高い外壁に囲まれた乳白色の都だった。

外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しい。

また、不規則な形で都を囲む外壁の各所から光の柱が天へと登っており、上空で他の柱と合流してアンカジ全体を覆う強大なドームを形成している。時折、何かがぶつかったのか波紋のようなものが広がり、まるで水中から揺れる水面を眺めているような、不思議で美しい光景が広がっていた。

 

「そうですねぇ。私の国とはだいぶ様式が違いますが、それでも確かに見事な都ですねぇ~(そわそわ)」

「どうやら、あのドームは一種の結界のようですね」

「そのようだ。アレなら砂嵐に見舞われても都の中は安泰だろう。ところで女王陛下、何やら落ち着かないご様子ですが、如何なされた?」

「ひわっ!? い、いいえぇ~、別に何もぉ~」

「ああ、全然関係ない話だけど、そういえばここまでラクダを見なかったね。あそこにはいるのかな?」

「っ!? そ、そうですねぇ~。いますかねぇ~。ま、まぁ、私は全然興味とかないですけどぉ~」

(((……カワイイ)))

 

あからさまに目が泳ぐ女王に、マシュやランスロットだけでなく、ダのつく人までほっこりしている。

本当はすごく気になっていることは、忙しなく動く尻尾やぴくぴくと小刻みに揺れる耳から明らか。

まぁ、分かった上でいじってくるどこぞの羊飼いも良い性格をしているが。

とはいえ、そんなゆとりのあるやり取りも長くは続かない。

 

「へぇ? 本当にいい街ね。ふふっ、ちょっと小さいけど、新天地での初ライブには悪くないわ」

「「「「「「え゛っ……」」」」」」

「さぁ、子イヌ! 街に着いたらさっそくライブの手配よ! サーヴァント界のトップアイドル、このエリザベート・バートリーが異世界のブタ共にとびっきりの時間をプレゼントしてあげるわ!」

「え、いや、それは……」

「あの、エリザベートさん? 私たちは急ぎの旅度の途中で……」

「フォウ、フォ――――ウッッッ!!」

「ほら、フォウさんも『先を急ごう』と仰っています!」

「わかっているわ。だから一日……いえ、一晩だけのシークレットライブにするの。一夜限りの夢だからこそ、今夜のことはきっと伝説になるわ! そうして噂が噂を呼び、幻のアイドルとして歓呼の声で迎えられる私……素敵! まさに最高のサクセスストーリーね! なんなら、あなた達にマネジメントを任せてあげても良くってよ?」

「お任せしま~す」

「いやいや、僕の方こそここは譲ろう。うん、砂漠での商売は独特だ、ここは専門家に任せるべきだろう」

「いえいえいえ! 私なんて所詮コツコツ稼ぐのが性に合う小売業者ですから~。羊飼いから王になっちゃうような人の足元にも~」

「いやいやいやいや!!」

「いえいえいえいえいえ!!」

「いやいやいやいやいやいや!!!」

「いえいえいえいえいえいえいえ!!!

(お二人とも、そんなに関わりたくないのですね……)

(まぁ、彼女の歌声を知っていれば当然の反応か)

(ふむ、焦る女王も大変絵になる。できれば今夜、一献共にしたいものだが……)

(また妙なことを考えていますね、このヒトヅマニア)

 

儲け話が大好きな二人が、揃って首を振っている段階で自分の歌の評価に気付いてほしいものだが……。

そう思う一同の想いをくみ取ったわけでもあるまいに、まさかの人物がストップをかける。

 

「おやめなさいな。あなたの趣味(遊び)にかまけている暇はマスターにはないのですよ」

(清姫さんが……!?)

(まともなことを言っているだって!?)

「はぁ? どうせ今晩ここで宿をとるんでしょ? だったらその間にライブの一つくらい別にいいじゃない」

「よくありません。あなたが歌えば騒動になるのは確実、それはマスターのお望みに反します」

「……なるほどね。確かにこんな田舎にあたしみたいなトップアイドルがいきなり現れたら大混乱になるのも無理ないわ」

「……あなた、実はバーサーカーでは?」

「あんたに言われたかないわよ、このヤンデレ蛇女!」

「言いましたね、血液拷問フェチのど変態」

「言ったわね、言ってはいけないことを言ったわね~!!」

「あら、怒りまして? ですが、事実ではありませんか」

「事実だから言われたくないのよ! アナコンダ!」

「レインボウアガマ」

「ヤマカガシ!!」

「アシナシトカゲ」

「あるわよ! 足ならあるわよ! このラッセルクサリヘビ!!」

「ハナブトオオトカゲ」

「そんな大きくないわよ!」

(なぜお二人とも、こんなにトカゲや蛇に詳しいのでしょう……?)

 

結局、そのままアンカジ公国に着くまで二人の口喧嘩は続くのであった。

まぁ、無事立香は清姫から解放されたので、良しとしよう。




この時期、まだアンカジは魔人族が暗躍していないので、多分さっさと抜けて大火山に向かう事でしょう。
危うく、エリちゃんの音波兵器の餌食になるところでしたが。
しかし、レア度無視して組み合わせ優先で考えたのですが、こうして見ると良い塩梅にレア度が散ってるなぁ……☆5ゼロ、☆4四人、☆3二人、☆2一人。悪くないと思うんですよ。☆2以下は19騎しかいませんし、滅多に増えない以上一つの章に一人か二人出せれば上出来ですよね?

ちなみに、香織は大幅にイメチェンを果たしております。
作者のイメージ的にはFFXのヒロインである「ユウナ」が元ですね。あの装備のままだと、色々大変そうですから。
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