ありふれた職業と人理の盾   作:やみなべ

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ある意味、ここからがこの章の本番。とはいえ、そう長くはかからない……はず。
次かその次には終わらせたいなぁ。


015

ブルックという町がある。

ハルツィナ樹海から比較的近い位置にある町だが、言ってしまえばただそれだけの町だ。

他にはない特別な産業があるわけでもなく、観光の目玉があるわけでもない。

そのため、周囲を堀と柵で囲まれた小規模なこの町は、特別栄えているわけではないが、かといって寂れているわけでもない。どこにでもある、何の変哲もない辺境の町だ……一見した限りでは。

 

ただ、要所要所でこの町はどこか“オカシイ”。

例えば、本来冒険者ギルドというのは王都近郊でも基本あまり清潔感とは縁がないものなのだが、この町の場合は妙に小綺麗だったりする。さらに、受付のおばちゃんが不自然なまでに有能で、彼女が自作した町の地図……というかガイドブックは金がとれるレベルだったりもする。

さらに、おススメの宿として評判の“マサカの宿”。これもちょっと変だ。辺境の町の宿など、普通そう立派なものではないはずなのだが、多少割高ではあるものの、料理が美味く防犯もしっかりしており、さらに風呂まで入れるという。こんな辺境で、どうしてここまで設備やサービスが整っているのか……。

他にも、高級な礼服店があるなど、辺境の町とは思えない。

 

そして、この町の最も“オカシイ”点、それは……とある冒険者向けの店だった。

 

「えっと……確かこの辺りのはずなんだけど」

 

受付のおばちゃんからもらった地図を片手に街中を歩く香織・ユエ・シアの三人。

結局、なんだかんだあったもののシアはちゃっかりハジメたちの旅への同行を勝ち取ることができた。

まぁ、さすがにその扱いは色々な意味で“雑”だが……多少の不満はあれども同行できることだけでとりあえず満足しているので、文句はないらしい。ただ、今はそれどころではないようだが。

 

「ふわ~……」

 

(のぼ)りさんよろしく、キョロキョロと忙しなく辺りを見回すシア。

亜人族は樹海から出ることすら稀なので、人里の町が物珍しいのだろう。まぁ、それだけが理由ではない。

 

「……シア、しっかり前を見る、余所見しすぎ」

「す、すみません! でも私、町とかって初めてで……」

「ふふっ、まぁ仕方ないんじゃないかな? 樹海にいる間、フェアベルゲンにも入れなかったみたいだし」

「香織、シアを甘やかさない」

「は~い」

「うぅ~、ユエさんはもうちょっと私に優しくしてもいいと思うんですぅ」

「……ん?」

「いえ、何でもありません!」

(仲良いなぁ……)

 

シアと出会ったのはユエも香織も同じタイミングだ。

にもかかわらず、どういうわけかシアは香織よりユエと関わることが多い。

彼女に戦闘のノウハウを仕込んだのがユエだから…というのもあるのだろう。

しかし、一緒に料理をしたこともあるし、訓練に付き合ったこともあるから決して打ち解けていないわけではない。むしろ、香織はハジメやユエよりシアに優しく接しているはずだ。

ハジメに惚れ込んでいるようなので彼に構ってもらおうとするのはわかるのだが、シアはどういうわけか香織よりユエに甘える。普通なら、優しくしてくれる相手にこそ甘えるだろう。

そうしないのは、きっと……

 

(やっぱり、ユエの方が仲間意識を持ちやすいってことなのかな?

 二人とも、魔力操作とか固有魔法とかの関係で色々あったわけだし)

 

二人と違い、香織は“先天的”な能力ではなく“後天的”に獲得した能力だ。

なので、二人と違い特殊な存在であるが故の孤独感や苦労を知らない。

対して、二人は境遇や来歴こそ違えど、そのあたりで共感する部分があるのだろう。

香織もシアのことは仲間兼友人として受け入れている(ただし、恋敵とは思っていない、それはユエだけだ)。

だが、ユエとシアの関係性は「仲間」であり「師弟」であり、そして「姉妹」のように見えることがある。

外見的には立場が逆だが、ユエのつれない態度に反して二人の距離感は結構近い。

そんな二人の様子を見ていると、香織もふっと離れ離れになってしまった幼馴染兼親友を思い出してしまう。

 

(雫ちゃん、元気にしてるかなぁ?)

 

マシュを介して彼女の現状は知ることができたとはいえ、こんなにも長期にわたって会わなかったことはない。

だからほんの少しだけ、“寂しい”と感じてしまうのだろう。

 

「あの、香織さん? どうかしました?」

「え? あ、ううん、なんでも……」

「……会いに行けばいい」

「ユエ……」

 

ユエは香織が親友に背中を押してもらってハジメを追いかけてきたことを知っている。

だからこそ、無二の親友を思って僅かな寂寥を覚えてしまう気持ちを察してくれているのだろう。

ただし、ここで終わりにしておけばいい話で〆られたのだが。

 

「ハジメのことは私に任せればいい。ハジメは、私が、一人で、幸せに、するから。

なんなら、シアも連れて行くといい」

「ユエさん!?」

「もう! またそうやって意地悪言う!! ユエのバカ! アンポンタン! 天邪鬼!」

「……親友に会えるようにと気遣ってあげたのに、何たる暴言。香織のあほ」

「あ、あの~周りの視線が痛いので、止めませんかぁ?」

 

ここにハジメでもいれば二人のケンカも即座に強制終了できるのだが、今のシアには望むべくもない。

すっかり恋敵兼ケンカ友達という関係が確立されてしまった二人であった。きっと、この関係は一生涯続くのだろう。

 

そのままケンカを続ける二人と、ちょっとだけ距離をとるシア。

そうしているうちに、気付けば目当ての店の前に立っていた。

 

「ほらほら! お二人ともケンカはそれくらいにしてください、着きましたよ!」

「……む、一時休戦」

「続きはお買い物が終わったらだね」

(なんだかんだ楽しそうなんですよねぇ……)

 

三人が足を運んだのは冒険者向けの装備品や消耗品、さらには普段着まで取り揃えている店。

ギルドの受付のおばちゃん……キャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だ。

ただ、今回香織たちがこの店を選んだのはそれだけが理由ではない。

 

「……香織、ここで合ってる?」

「うん、『ホーリー・ベル』間違いないよ。立香さんの知り合いがやってるお店、ほら」

「ほえ~、可愛い字ですねぇ」

 

首をかしげるユエに立香からもらった名刺代わりのメモを見せる。

後ろからシアものぞき込むと、そこには女の子らしい丸っこい字体で可愛らしく「ホルアドへお立ち寄りの際は、『ホーリー・ベル』をよろしくねん♪ お友達価格でサービスするわん♡」と書かれている。

 

「……つくづく謎。言葉が通じないのにどうやったの?」

「あ、うん。それは私もすっごく不思議」

 

字体からは溢れんばかりの友愛が滲み出している。

言葉も通じない中、どうやってここまでの絆を短時間のうちに結んだのやら。

 

「まぁまぁ、とりあえず入ってみましょう!」

 

店の外から見てもわかるくらいに豊富な品揃えに、シアのテンションは上がりっぱなしだ。

これ以上我慢させると、そのうち一人で吶喊していきかねない。

 

二人は思い切りハシャぐシアに香織は優しいまなざしを向け、ユエは呆れたように息を吐く。

とはいえ、実を言えばかつては王族だったこともありユエもショッピングは初体験なので、内心ではシアに負けず劣らずウキウキしているし、香織も久方ぶりのお買い物が楽しみで仕方がない。

折角なので、ハジメにアピールできるような普段着も何着か用意したい。

 

そんな感じで店内に入っていく三人の乙女。

この日、彼女たちはある種の運命と出会った。

そう、漢女(クリスタベル)店長という名の運命と。

 

 

 

後に、苦笑いを浮かべつつ香織は語る。

 

「そういえば、店長さんの人柄は聞いてたけど、外見とか聞いてなかったんだよねぇ」

 

さらに、ユエもしきりにうなずきながら語る。

 

「ハジメとの出会いに次ぐインパクトだった」

 

あの日のことを思い出しながら、シアは羞恥に真っ赤になりながら呟く。

 

「…………………………………………………………チビりました」

 

最後に、後から件の店長と遭遇したハジメは激怒する。

 

「なんつーもんを紹介してくれやがったんだ、アイツ(立香)は!!!」

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

地平線の彼方まで続く大地。

起伏に乏しく、視界を遮るものはなく、右を見ても左を見ても同じ景色ばかり。ぐるりと見まわせば、さて最初に見ていた方角がどちらだったかすらわからなくなりそうだ。

 

それくらいに代わり映えしない風景。

大地の褐色と、天空の青。たった二色だけで満たされた世界。それはもう、モノクロ(白と黒)の世界と大差ない。

 

いや、色彩に乏しいのは何も視覚だけではない。

嗅覚をくすぐるのは乾燥した土の匂いだけだし、聴覚が捉えるのは時折吹き荒ぶ風の音だけ。

五感のうち三感から得られる情報は、あまりにも乏しい。

 

そんな色彩に欠ける世界にも、僅かばかりの例外があった。

 

ザクッ…ザクッ……ザクッ! ザクッ……ザクッ!!

 

決してリズミカルとは言えない調子で繰り返される、大地を掘り返す音。

その音色は乾ききっており、“潤い”からは程遠い。

事実、踏み締める大地はひび割れ、軽くつまむだけでボロボロと崩れてしまう。

 

生命の息吹の絶えた、不毛の大地。

何しろ、地平線のどこを見ても緑の一欠片すらないのだ。とても、人が生きていける世界ではない。

 

しかし、そんな世界の只中でそれでも彼は鍬を振り下ろし続ける。

今の彼にできることは、それしかなかったから。

 

いったいどれほどの時間そうしていただろう。

腕の筋肉が張ってきたところで、彼は鍬を下ろして一息つく。振り返れば、今日の戦果ともいうべき掘り返された地面。とはいえ、この広大な荒野から見ればそれは猫の額に等しい。

 

「……これは、いよいよヤバいかもなぁ」

 

言ってもどうにもならない言葉が、つい口から洩れてしまう。

為すべきことはわかっている。だが、あまりにも遠すぎる。実現できるという確信が持てない。

仲間の一人はよく言っていたものだ。

 

「進み続けてさえいれば、望む場所には必ず辿り着ける」

 

「終わるまでは、どんなことも、終わっちゃいねぇんだ。だから、諦めない限り“夢は必ず叶う”」

 

その信念そのものには共感していたつもりだが、今回ばかりはさすがに諦めてしまいそうだった。

 

―――いったいどこまで進めば、望む場所はあるのだろう。

 

――――――いったいどうすれば、この大地に命の息吹を蘇らせられるのだろう。

 

―――――――――いったい、ここはどこなのだろう。

 

目に見える敵、確かにあるとわかる障害なら乗り越えることもできる。

しかし、目に見えない敵、あるかすらわからない障害を前に、どう動けばいいのだろうか。

 

正直、皆目見当がつかない。

今できることを一つずつ、着実に。それが彼……藤丸立香の基本方針だが、それだけではどうにもならないことも、ある。ちょうど、今がまさにそうであるように。

できることは一つしかない。だが、それをいくら繰り返してもまるで進んでいる気がしない。

いや、事実として何も進んでいないのだろう。なにしろ……

 

「もう、三ヶ月も経つっていうのに」

 

そうだ、この三か月間ずっと、毎日毎日鍬を振るい大地を耕し続けてきた。

うろ覚えの農耕の知識を引っ張り出し、何とか大地を豊かにしようとしているが、まるで進展がない。

相変わらず不毛の大地は不毛なまま、触れれば崩れてしまう程に脆い。

これでは、この大地に息吹が宿るより早く彼の命が尽きてしまうだろう。

 

「先輩」

「マシュ? どう、そっちは」

「はい。駆除は終わりました、これで数日は問題ないでしょう」

「フォーウ!」

「はい、フォウさんも頑張ってくれました」

「へぇ……」

 

小動物であるフォウが一体どう役に立ったのかはよくわからない。

だが、フォウはなんだかんだで頭もいいし、得意げにしているので思わぬ形で活躍したりしているのだろう。

 

「それで、今日は何頭?」

「4頭ですね。今は血抜きをしています」

「そっか、エミヤに感謝しないと」

 

この土地には魔物はいないらしく、時折現れる獣は一応食べることができた。

香織と一緒にマシュも血抜きをはじめとした下処理の仕方を学んだことが、今活きている。

 

「それと、いつもありがとう」

「いえ、先輩こそご苦労様です。私もすぐにお手伝いを」

「……ごめん、ありがとう」

「その前に水分の補給を、今ご用意します」

 

あまりアーティファクトを必要としない分、宝物庫にはだいぶ余裕があったことから水や食料はかなりの備蓄がある。それこそ、二人で三ヶ月暮らす分には問題なかったし、もう数ヶ月もたせることもできるだろう。

ハジメが食料や飲料水を補完する上で便利なアーティファクトを作ってくれたおかげだ。

とはいえ、それらの物資も無限ではない。

 

食肉に関しては、食べることに多少不安はあるもののこの土地の獣を食べればいい。

だが、たんぱく質以外の栄養素や飲料水ばかりはどうにもならない。可能な限り節約する必要がある。

 

(食べきれない分のうち、一部は宝物庫に保管して、残りは肥料に回すか。

 はぁ、こんなことなら無人島の時にもっとちゃんと堆肥とかの作り方を覚えとくんだった……)

 

まぁ、この大地の不毛さを思えば、仮に確かな知識があったところでどの程度役に立ったことか。

正直、あまり期待はできない。

 

せめてもの救いは、周りに仲間たちがいることだろうか。

 

「ますたぁ、だいじょうぶ?」

「ああ、アステリオス。うん、そっちはどう、捗ってる?」

「うん、いっぱい、じめん、ひっくりかえした」

「そうか、ありがとう」

 

できれば頭をなでてやりたいが、身長3メートルに迫る彼の頭は立香の遥か上だ。

已む無く、その逞しい背中をポンポンと叩いてやる。

彼、アステリオスはそれをくすぐったそうに受け止め、童子のような笑顔を浮かべて作業に戻っていく。

きっと、他の仲間たちも、あきらめずに頑張ってくれているのだろう。

 

「フォウ、フォ――――ウッ!!」

「どわっ……ああ、フォウもありがとう」

 

頬を張り、弱気を叩き出す。

間髪入れずに、いつの間にか肩に乗り移っていたフォウが、その小さな前脚で額をどついて活を入れてくる。

 

しかし、ふとした瞬間に脳裏をよぎるのは三ヶ月前の出来事。

“空間魔法”という神代魔法を得て、新たにサーヴァントを召喚した立香たちは次なる目的地、「シュネー雪原」の「氷雪洞窟」を目指して動き出した。

その道中、せっかく得た神代魔法を少しでも使えないかと空間魔法をコネコネしていた時のことだ。

 

唐突に、何の前触れもなく、立香の空間魔法と“ここ”が繋がった。

 

右も左もわからない状態で、彼らはこの不毛の大地に放り出されたのだ。

ここがトータスなのか、それとも更なる異世界なのかすらわからない。

当然といえば当然のことながら、霊地ですらないこの場所ではカルデアと連絡を取ることもできない。ついでに、ハジメたちとも連絡が取れない。

それどころか、魔力供給が著しく制限され、サーヴァントたちを現界させるのが精一杯という有様だ。宝具の使用など以ての外。まぁ、宝具を使うほどの敵がいないのだから、それ自体は問題ではないが。

 

強いて言えば、マシュたちが狩って回っている獣くらいだろう。

それにしたところで、サーヴァントたちなら通常戦闘で十分倒しきれるレベルだ。宝具を必要とするほどではない。

 

閑話休題(それはともかく)

以来、立香たちはこの土地(セカイ)からの脱出を目標に行動している。

まぁ、それが何でこんな農地開墾みたいなことになっているかというと……

 

「マスター」

 

ちょうどやってきた白色のローブを纏った、女性と見紛いかねない長髪の美青年……パラケルススの進言だ。

 

「どうしたの?」

「新しい薬を作りましたので」

「……ありがとう」

「申し訳ありません。私の力が及ばぬばかりに」

「別にパラケルススのせいじゃないよ。というか、原因があるとしたら俺だしさ」

「……いいえ、それは違います、マスター。あれは事故、だれに責任の在り処を問うようなものでもありません」

 

色々と胡散臭さがにじみ出ることもあるが、基本的には理知的で物静かな人物だ。

彼の見立てでは、立香の空間魔法で繋がってしまったのなら、脱出の方法も立香の空間魔法にヒントがあるはず、らしい。とはいえ、カルデアから十分な魔力供給が得られない状況では、いつもの魔術行使のように力技というわけにはいかない。

サーヴァントたちへの魔力供給をカットして空間魔法に回すという方法もあるが、サーヴァントは霊体化していても、かなりの魔力を消費する。脱出のための魔力を捻出するには、それこそ一度全員を送還するくらいでなければ意味がない。かといって、このような未知の状況で戦力を削るなど愚の骨頂。

そんなわけで、別の方法を模索することとなり、その結果行き着いたのが“これ”だ。

 

「魔力は……やっぱり湧いてこない?」

「はい。まだまだ、呼び水には到底足りないかと」

「まぁ、このありさまじゃね……」

 

パラケルススによると、この土地には潜在的に相当な魔力が眠っているらしい。

ただ、それを引っ張り出すには呼び水となるものが必要らしい。

オドにしてもマナにしても、魔力というものは基本的に生命力から変換されたものだ。違いは規模を除けば、人間をはじめとした生命体の物か、星の物か程度でしかない。

通常、魔力が豊かな土地は土壌をはじめ様々なものが豊かになる。今回はその逆をやろうとしているのだ。土地を豊かにすることで、眠っている魔力を引っ張り出すための呼び水にする。そして、湧きだした魔力を利用して空間魔法でトータスに戻る。要はこういうことだ。

 

そんなわけで、こうして立香たちは慣れない農作業に精を出しているわけである。

まぁ、三ヶ月かけて進展はほぼないに等しいわけだが。とはいえこのやり方、何もパラケルススだけが考えたわけではない。むしろ、ヒントは外部からもたらされていたりする。

 

(俺たちがまいるのが先か、土地が目覚めるのが先か……分が悪いな)

「あぁ、立香さん。今日も精が出ますね」

 

思案する立香に声をかけてきたのは、この土地で唯一といっていい仲間以外の顔見知り。

セミロングの薄い金紗の髪を靡かせる、中性的な顔立ちの子ども。瞳は朝焼け色をしていて、思わず吸い込まれそうになる。性別は……良く分からない、男にも女にも見える。

一度聞いたことがあるのだが、「見た方が早い」と貫頭衣のような白い服をたくし上げようとしたところでマシュが待ったをかけ、以来真相は闇の中だ。

 

「タス? しばらく見なかったけど、今までどこに?」

「ちょっと野暮用ですよ。それよりほら、これ見てください」

「フォ?」

 

タスと呼ばれた子どもの手の中にあったのは、極々小さな白い花。だが、この不毛な大地に宿った確かな命だった。

 

「生えたの!?」

「皆さんのおかげです。私も、花なんて久しぶりに見ました」

「ですが、摘んでしまっては子孫を残せないのでは?」

「そうだ、どうしよう!?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。この花は……ほら、根の方に種ができるんです」

「あ、ほんとだ。なんか球根とも違うけど、そんな感じのがある」

「では、これを植えてみるとしましょう」

「そうだね。今まではいつの物かわからない種を蒔いてたけど、これなら……!」

「今度こそしっかり育つといいですね」

「ああ、ありがとう。君には助けられてばっかりだ」

「ふふっ、お気になさらず……」

 

それで用件は済んだのか、タスは来た道を引き返していく。

いったいどこへ戻っているのか、何度か聞いたことがあるのだが、こちらはいつも笑ってはぐらかされてしまう。

とはいえ、何度か言葉を交わしてある程度タスの為人(ひととなり)はわかったと思う。

 

「マスターは、彼をどのように思いますか?」

「彼なのか彼女なのか、いまだにわからないけど……基本的に、裏表はない気がする。

 なんていうか、すごく自然体なんだよね」

「なるほど……私とは大違いですね」

「フォ~ゥ……?」

「いや、それ自分で言う?」

 

確かに、大変胡散臭いパラケルススと全く違うのは確かだが。

 

「ですが、マスター……くれぐれもご注意を。おそらく……」

「まぁ、人間じゃないだろうね。こんなところで俺たちが来る前から過ごしてて、今もどこに住んでいるのかわからないし、食べ物だって碌にないのに肉付き良いし、そもそもやけに恰好が清潔だ」

「はい。カルナ殿はなんと?」

「『あれはただそこにあるだけの者だ、気にするな』って。相変わらず一言少ないんだからなぁ」

 

人を見る目は抜群なのだが、どうにも一言足りないのが彼の大英雄殿の難点だ。

立香でも、彼の真意を汲み取るのには中々に苦労する。

何しろ、今の一言を引き出すのにも結構手間をかけたのだ。

 

しかし、カルナがそう言うならとりあえず警戒する必要はないのだろう。

彼の前ではどんな虚飾も意味をなさない。対峙した相手の属性や性格を看破し、自らを偽る言動、取り繕う態度や信念などを全て暴き出してしまう。

そんなカルナが太鼓判を押した以上、警戒は無意味だ。

 

なにしろ、タスがこの世界を開墾するという方向性を示した際にはカルナも同席していたが、彼は何も言わなかった。それは、タスの言葉に嘘などが含まれていなかったということだろう。

加えて、フォウも特別警戒していないようだし、特別問題視することはないはずだ。

 

「とりあえずは、この種だね。大切に育てないと」

「ええ。ですが、問題はどうやって育てるか、でしょう」

「水はどの程度やればいいのか? 肥料は? 受粉はいるのか? わからないことばっかりだもんなぁ。

 タスも教えてくれればいいのに……」

「彼も知らない、という可能性もありますが」

「あ~、ありそう」

 

何しろ、この三ヶ月の間に何度かあった時も栽培方法などでアドバイスを求めたのだが、全くアテにならなかった。こんな場所に住んでるくせに、その手の知識は全くないらしい。にもかかわらず、どういうわけか眠っている魔力の引き出し方は提案できる。

 

(知識がチグハグすぎるだろ、ほんとに何者なんだ?)

 

というか、そもそも出会った時からいろいろ不可解な相手だったか。

突然それまでと全く異なる風景の場所に放りだされた立香たちの背後に、前触れもなく現れたのである。

今回召喚したサーヴァントは武闘派が多いのに、彼らに気付かせずに背後に立つ……それがどれだけ異常なことか。だというのに、当の本人は全く武の心得のある立ち振る舞いではない。

立ち姿も歩く姿も、どこもかしこも隙だらけ。本当に、謎ばかりが深まる。

警戒する必要はなくとも、注意が必要なことに変わりはあるまい。

 

「ところで」

「はい」

「今回のはどんな薬? この前は土とか獣の死体を腐らせる薬だったよね?」

「腐敗とはすなわち発酵です。発酵させることで、より効率的に土地を蘇らせられると考えました。

特にこの土地では調達できるものが限られる以上、土でも骨でも腐らせる薬が望ましいでしょう」

「おかげで俺、危うく腐海の中に沈むところだったんだけど」

「……………………………………………………………良かれと思って」

「フォウフォウフォウフォウフォウフォウッフォウ!!」

「ほら、そういうところ! 悪気がないのはわかってるけど、そうやってトラブル起こすから“悪巧み四天王”とか呼ばれるんだって自覚してる!? はい、そこ! 目をそらさない!!」

 

本当に「良かれと思って」やってはいるのだろう。

ただ、どういうわけかそれが割と頻繁に見当外れな方向に飛んでいくのはどうしたものか。

とはいえ、立香も彼との付き合いはいい加減長い。

 

「まぁ、過ぎたことはいいや」

「フォッ!?」

 

良いのだろうか?

 

「で、今回の薬は?」

「成長促進薬を作ってみました」

「へぇ、ピンポイントな」

「一匙かければ、通常の数倍の速度で成長する……はずです」

「まぁ、実地で試すしかないから『はず』なのも当然だろうけど……大丈夫?」

「……………………」

「ねぇ、答えて? その間がすっごく不安感を掻き立てるんだけど」

「成長が早い分、枯れるのも早くなるかもしれません」

「あ~なるほど。当然といえば当然か、でもそれぐらいなら……」

 

許容範囲だろう。

というわけで、さっそく種を一つ植えて一匙かけてみる。すぐに結果は出ないだろうが、まずは様子見をすべきだろう。

 

(それにしても、もう三ヶ月なんだよな。ハジメたち、今頃どこまで進んだかな)

 

当初の予定では、ハジメたちはハルツィナ樹海とライセン大峡谷の大迷宮に挑戦し、立香たちはグリューエン大火山とシュネー雪原の大迷宮を攻略したところで一度合流する手はずになっていた。

もしそれまでに新たな大迷宮の情報が手に入れば、逐次修正していく前提で。

 

だが、今立香たちはこうしてこの不毛の大地で三ヶ月も足止めを食っている。

それこそ、ハジメたちは自分たちの代わりにシュネー雪原に向かっていたりするかもしれない。

 

(やむを得ない状況ではあるけど、せめて連絡くらい取れたらなぁ……)

「マスター」

「どわっ!? せ、静謐? びっくりした……気配遮断して近づかないでよ」

「ごめんなさい」

「ところで、近くない?」

「そうでしょうか?」

(めっちゃ密着してるんですけど? というか、背中にや~らかい感触が……)

 

立香も健全な青少年なので、その感触を無視することはできない。

しかし、彼としてもここで若さに流されるわけにはいかないのだ。だって、流されたら後でマシュの視線が怖い。

 

「と、ところで! 何か用があってきたんじゃ……静謐は狩りの当番にはならないし」

 

そう、この土地ではかるべき獣が現れること自体が稀なのだ。

そのため、基本狩りは当番制になっている。

武闘派が多い分、鍬を振ったりしているよりそっちのほうがやりがいがあるらしい。

とはいえ、狩るべき獲物が限られる以上、こうして当番制にするしかなかったのだ。

まぁ静謐の場合、体質の問題があるので除外されている。立香はまだしも、多くのサーヴァントは彼女の毒に耐えられない。彼女が触れて毒に侵された獣を食べたりしたら、それこそ大事だ。

 

「そう、でした」

(忘れてたのか?)

「あちらに、馬車が倒れていました。騎士の他に、冒険者風の服装の人も」

「ちょっ!? それ早く言おうね!」

 

持っていた鍬や肩にかけていたタオルを落としながら、大急ぎで駆け出す立香。

そんな立香を見送りながら、静謐はもう一言付け加える。

 

「あと、スーツを着た女性(ヒト)も」

「それは、もう少し早く言うべきだったかもしれませんね」




オリキャラその2、色々と謎の多い性別不明の「タス」。重要なような、そうでもないような……そんな立ち位置ですね。たぶん、この章が終わったら7章最後まで出番ないんじゃねぇの? という程度。
状況が状況で、手段が手段なので牧歌的にいきたい……のですが、メンツがメンツなのでたぶんそうはなりません。

というか、三ヶ月もこんなところで足止めされてるのが一番の問題なんですけどね。

ちなみに、大火山で召喚されたサーヴァントは「アタリ」が多いです。
カルナ以外にも、強力なサーヴァントが数名来ています……が、こんな状況なので宝の持ち腐れ。強い奴がいるからと言って戦えると思うなよぉ!!!


























































ほんとはYARIOで揃えたかったのは秘密。
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