ありふれた職業と人理の盾   作:やみなべ

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また新しいものに手を出してしまいました、反省はしている。ただし、全然懲りていないので、多分意味はない。その結果がこれだし。

とりあえず、なんとな~くプロットを書いてみたら完結までの大筋ができてしまったので、「やってみるか」のお試し精神で起こしてみた次第。

一応目標としては、いつものくどいくらいにねちっこく書くのではなく、いっそ淡白なくらい進行重視で行きたいなぁ、と。
まぁ、のっけから目標を達成できていないんですが。

ちなみにこちら、チラシの裏の「やみなべのネタ倉庫」から昇格した作品です。
他にもいくつかネタが入っているので、気が向いたら見てやってください。


プロローグ

 

「世界座標を観測、極東日本」

「時間軸座標……確定。あら、西暦二千年代初頭だわ。大当たりじゃない」

「こらこら諸君、久しぶりの慣れ親しんだ時代だから浮かれるのもわかるが、それは早とちりってやつだぜ。

 ここでしくじれば、またどことも知れない土地、いつだかわからない時代、下手をするとどこぞの剪定事象や異聞帯(ロストベルト)に流されてしまいかねないってこと、忘れてないかい」

「すみません、ダ・ヴィンチ所長代理」

「至急、証明作業に入ります」

 

僅かに緩んだ空気を若々しく張りのある声が戒める。

威厳とかそういう類のものは感じさせないはずなのに、その声には聴く者の芯に響く何かがあった。

それを示すように決して強くはない声を受けて、即座にそれなりの広さがある室内の空気が引き締まった。

それは声の主への全幅の信頼の賜物であり、彼らが即座に己を戒め切り替えることのできるプロフェッショナルの集団であることの証左だった。

 

「アンカー固定、存在証明……完了」

「お、今回はずいぶん深くいったな。計測したところ、向こう数年留まれそうですよ」

「へぇ、そいつは有難い。大抵、もって数ヵ月、下手すると数日で流されてしまうっていうのに」

「所長代理、申し上げたいことがあります!」

「いや、皆まで言わずともわかっているさ。せっかく長期的に腰を下ろせるんだ、羽を伸ばさなくちゃ損ってもんだ」

「さっすが天才!」

「わかってますね!」

「なぁに、私は万能の天才だからね。人の心理を読み取るくらい訳ないさ。

 とはいえ、それも全ての作業を終えてからだ。さぁ、あとは細々とした雑事だけとはいえ、だからこそさっさと済ませてしまおう」

「「「はい」」」

(とはいえ、本当にこれだけ長期で留まれるのは久しぶりだ。

 何かあるんじゃないかと疑ってしまうのは……考えすぎだといいんだが。

 まぁ、何かあるなら対処するし、何もないなら羽を伸ばす。やることに変わりはないか)

 

『人理継続保証機関 カルデア』それが彼らの所属を示す名称。

かつては国連所属の秘匿機関として活動していたが、それも随分と昔の話だ。

時を超え、世界を超え、虚数の海にすら潜ってきた彼らは、気付くと世界に居場所を失っていた。

 

―――――――――――――どこにでも行ける。

――――――――――――――――――――――その代わりに、どこにもいられない。

 

それが今のカルデアだ。

度重なるレイシフトとゼロセイルの弊害、存在が不安定になってしまったが故の結果。

人類史を救うために繰り返したそれらの代償は、安くはなかった。

 

とはいえ、彼らに後悔はない。

やらなければならなかった。そうしなければ彼らに残された道は“終わり”だけ。

終わるのが嫌なら進み続けるしかなく、進んだ代償が現状だとしても仕方がないと思う。

“終わる”ことに比べれば、まだマシだから。

生きるために戦い続けた彼らは居場所を失ったが、まだ生きている。

 

“ならまぁ、なんとかなるさ”

 

数々の苦難を乗り越えてきた彼らにとっては、これもその一つに過ぎない。

しかし、それはそれとして折角の長期的な安定滞在だ。

次はいつこれほどの長期にわたって留まっていられるかわからない。

ならば、今だからこそできることをするべきだろう。例えばそう……

 

「みなさん、お疲れさまでした。作業はどうですか?」

「ああ、キリエライト君。ちょうど今、最後のシークエンスが終わったところだ」

「折角だし、藤丸君と一緒に外を散策してきたらどう? ついでに、周辺情報も集めてくれるとありがたいんだけど」

「はい。では、先輩を探してきます」

「マシュ、ちょっといいかい?」

「? どうかしましたか、ダ・ヴィンチちゃん」

「うん、ちょっと聞きたいんだが……君、学校に行ってみる気はあるかい?」

「………………………………………………………………はい?」

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

月曜日。それは、一週間の内で最も心身双方が重くなる始まりの日。きっと大多数の人が、これからの代わり映えのしない退屈な時間に、あるいは面倒極まりない試験や仕事に溜息を吐き、前日までの天国を懐かしむ。

 

だが、中にはそうではない者がいる。

学業や職務に生き甲斐を見出す者、一般的な就業または学業の形式に捉われない者、あるいは…………社会生活そのものに対し、未だ新鮮な感性を抱いている者。

 

マシュ・キリエライトもそんな一人。

生まれてからの14年を特殊機関の無菌室で過ごし、以降も過酷な訓練や任務に従事してきた彼女にとって、多くの者にとっての「ありふれた日常」こそが「刺激に満ち溢れた非日常」なのだ。

それは仲間たちの粋な計らいで入学した、極々ありふれた公立校での一年間の学生生活を経た今でも変わらない。

 

いったいどうやって調達したのか不信極まりない資金を元手に、金策に長けたキャスターやアサシン、または黄金律持ちのアーチャー(小)などの力を借りて得た活動資金。

これにより買い上げたマンションでの日々は、かつての雪山とは比べるべくもない鮮やかな色彩に満ちている。

 

―――季節の変化と共に移り変わる自然の草木と花々が

 

――――時に青く澄み渡り、時に暗く閉ざされる空が

 

―――――通学路ですれ違う多種多様な年齢、服装の人々が

 

――――――休日に友人や同僚、あるいは仲間……そして何よりも信頼する先輩と出かける街並みが

 

どれだけ経験しても、色褪せることなく飛び込み彼女の心に(いろどり)を与えていく。

 

かつて、長い永い旅路の中で触れた事柄も少なくない。

だが、それらはすべて断片的だった。まるで季節の、人々の営みの、時間の一部を切り取ったような欠片たち。

しかしいま、彼女はその大いなる流れの一部に身を置いている。

 

ある魔術師には、世界は一枚絵に映るという。

その意味が、少しだけ分かったような気がした。

 

そんな一年。

カルデアでの観測では向こう数年滞在が可能という事だが、具体的な数字ははじき出されていない。

既に一年が経過した以上、もしかしたら明日にでもその時は来てしまうかもしれない。

 

それはもう、どうやっても抗えないものであることをマシュは知っている。

少なくとも今のカルデアの技術では、流されようとする自らの存在を固定し続けることはできない。

いつかは何らかの方策は見つかるかもしれないが、現状では“ない”のだから。

 

そのことをマシュはよく理解しているし、これまでに何度も繰り返してきたことだ。

だがそれでもあと二年、あと二年だけで良いからと……そう、願わずにはいられない。

 

(叶うなら、どうか皆さんと一緒に卒業を迎えたい。贅沢な願いなのかもしれない。でも、わたしはそれでも……この人たちと一緒に、この学び舎を巣立ちたい。私は確かに、それを望んでいる)

 

ほぼ同年代の年齢の少年少女たちだけで構成されたコミュニティに身を置いたのは、初めての経験だった。

外交的であり能動的な彼女だが、生来の弱気さもありどう立ち振る舞えばいいかわからず、初めて尽くしの「教室」で立ち尽くしていたのは記憶に新しい。

しかし、クラスのムードメーカー的な少女が率先して話しかけてくれたことに救われた。

後から知ったことだが、日本では外国人の同級生と言うのは珍しく、件の少女も相当な勇気を振り絞ったらしい。

そんな初めての“学友”への感謝の念は、きっと生涯忘れない。

 

彼女がきっかけとなり、よく話し遊びに出かける友人ができた。

クラス全員と打ち解けたとは生憎言えず、ほとんど話したことのない生徒も少なくない。

特に男子とは、なかなかうまくコミュニケーションが取れないのが目下の悩みだ。

 

(あとどれだけここにいられるかはわかりませんが……必ず皆さんと打ち解けて見せます! 単一民族の国である以上、人種の違う私は遠巻きにされてしまうのは仕方ないのでしょう。ですが、それでも!!)

 

胸の内で誓いを立て、自らを奮い立たせる。

だが、世間慣れしていない彼女は知らない。

自らが秘かに……実は割と公然と校内で“三大女神”と呼ばれ、男子生徒たちの憧れの的になっていることを。

上手くコミュニケーションが取れないのは、偏に彼らがマシュに話しかけられてもドギマギしてしまうからだという事も。

ついでに、彼女に“大学生の恋人がいる”という噂があることも。

そんな彼女の勘違いを知ってか知らずか、教室の戸を開いたマシュに今日も元気な声がかかる。

 

「おっはよう! マシュマシュ!」

「はい、おはようございます鈴さん」

「うんうん、今日もマシュマシュはフカフカだねぇ~」

「っ!」

 

激しい戦いの中で培われた勘……ではなく、某ヒゲ面ダメ人間のせいで養われた女の勘が身の危険を告げる。

マシュは咄嗟に身を引きつつ腕で身体…具体的には胸元をガード。

 

「むむっ……マシュマシュは相変わらずガードが堅いなぁ」

「鈴さん、手つきがいやらしいです」

「え~、こんなのただのスキンシップだよスキンシップ~」

「鈴、目が完全に危ない人になってて説得力ないよ。マシュちゃんをあんまり困らせないの」

「ぶ~、エリリンまでそんなこと言って~」

「ありがとうございます、恵里さん」

 

ホッと一息ついたマシュに、中村恵里はなんとも微妙な表情を浮かべている。

一見すると困った親友への呆れと、迷惑を被った友人への気遣いの混合物に見える。

だが、とにかくひたすらにキャラの濃い連中との対人経験が豊富なマシュは、その表情に引っ掛かりを覚える。

 

(なんでしょう? 恵里さんの表情が時々……作り物めいて見えてしまう。気のせい、でしょうか?)

 

微かな悩みを抱えたまま、比較的仲の良い女子生徒たちとあいさつを交わしながら自らの席に足を運ぶ。

カバンを開き、支度を済ませている間も思索を巡らせるが、答えは出ない。

いっそのこと、人を見る目にかけては怪物染みている関係者に見てもらうべきかとも思うが、それは流石に大事にし過ぎだと自戒する。

というか、某童話作家に引き合わせたりしたら、かえって大変なことになりそうだ。

人を見る目があり過ぎる上に、とにかく徹底的にコキおろすのは如何なものか。

 

とはいえ、そんな思索も長くは続かない。

落ち着いたころ合いを見計らって、次々に女子生徒たちが集まってくる。

三大女神の内、二人は基本的に一緒にいる上に、爽やかな笑顔が眩しいことこの上ないイケメンまでいると来た。

なんというか、結構近寄りがたく感じる時もあるのだろう。

 

その点、マシュは常に特定の誰かと一緒にいるわけではない。

人種が違う事で近寄りがたく感じたこともあったが、それも一年経てば何のその。

むしろ、世間慣れしていないせいか放っておけない雰囲気があるので、「みんな(女子)でマシュを男子から守ろう」みたいなノリすらある。加えて……

 

「それでマシュさん、休みの間はどうしてたの?」

「ほらあの、コンビニとかでバイトしてる先輩さんとは最近どう?」

「わ~、良いなぁ! 私も素敵な彼氏とかほしぃ~♪」

「確か、同じマンションなんだよね。もしかして、よく部屋に通ってたりするの! キャー♪」

 

まぁ、そんな感じで噂の恋人の話が聞きたくて仕方がねぇのである。

ただ、それだけではなく他にも……

 

「ねぇねぇ、花屋でバイトしてるお兄さんと知り合いなの? 良かったら紹介して、お願い!」

「そういえば、料理を教わってるって言ってたあの黒い人、この前お婆さんおんぶして歩道橋渡ってたよ。今時いるんだねぇ、あんな人」

「それより私はこの前一緒に買い物してたっていうお姉さんが気になる! 素敵だよねぇ、若奥様って感じで」

「う~ん、私はむしろあの三つ編みの金髪美人が気になるかなぁ。銀髪のカッコいい人と一緒にいたんだけど、もしかしてあの二人って恋人? 友達がさぁ、失恋したぁってしょげてるのよ」

 

とか、

 

「ところで、大丈夫? なんか付きまとってる人がいたでしょ?」

「ああ、あの人。ちょっと年上だけど、カッコいいよあの人」

「でも私、この前あの人が他の人に声かけてるの見たよ、駅前で」

「あ、私、本屋でナンパしてるの見た。どう見ても結婚してますって人」

 

などという、マシュのちょっとよくわからない交友関係の広さが話題になることが多い。

ちなみに、この話が出たあたりからマシュの機嫌が急速に下降していく。

いや、機嫌が悪くなるというよりも、目が一瞬で氷点下に突入するのだ。

ここにはいない誰かに向けて、心からの軽蔑の念を送りながら。

 

で、全っ然関係ない話なのだが、とあるデパートで見目麗しいご婦人(既婚者)にさらっとコナをかけつつ、ツレの赤髪の優男と「人妻いいよね」「いい」とか無言の会話していた時、某湖の騎士が「違うんだ、誤解だ!」と突然叫んだりしたとか。

まぁ、心の底からどうでもいい事だが。

 

そんな具合に、それなりに楽しく、時にあまり愉快ではない話題で盛り上がっていたところへ、お世辞にも品が良いとは言えない笑い声が教室内に響く。

思わずマシュを含めた女子生徒たちがそちらへ視線を向けると、そこには一人の男子生徒がいた。

 

(あれは……)

「あ、南雲だ」

「ま~た白崎さんに面倒かけてるわよ」

「なんで直そうとしないのかしらね、どういう神経してるのよ」

「白崎さんも、なんだってあんなオタクに……」

 

視線の先には、南雲と呼ばれたハッキリ言ってしまえばパッとしな、冴えない少年がいた。

周囲の皆の彼に向ける視線、態度、言葉共に友好的な成分は皆無。

男子の中には舌打ちする者や睨む者もおり、女子の中からも侮蔑の視線を向ける者がいる。

 

ただ、マシュにはその意味がよくわからない。

いや、僅かに漏れ聞こえる「オタク」の意味は分かるし、彼らが南雲少年の正面に立つ後ろ姿しか見えない少女……白崎香織が理由で反感を持っていることも分かっている。正確には、香織の気遣いを受けても少年……南雲ハジメの行動に改善が見られないせいらしい。

 

ただ、それらの事実と彼らの感情がマシュの中では結びつかない。

言ってしまえば、ハジメは「オタク」なだけだし、香織がハジメに話しかけるのは彼女の自由意思で、それをどう受け取るかもハジメの自由意思に過ぎない。

多少避けている風ではあるが、無碍に扱うというほど扱いが悪いわけではないし、香織の方にも不快感はないのは明らか。ならば、あとはもう当人たちの問題の筈だ。

 

(なのに、なぜ皆さんは南雲さんに手厳しいのでしょう?)

 

心の底から首をかしげるマシュ。

彼女は知っている、世の中には本当の意味で“どうしようもない”相手がいることを。

彼女は知っている、人と人がわかり合うのは難しく、一筋縄ではいかないことも多いことを。

まぁ彼女の場合、一般人を相手に比較対象とするには問題ばかりの連中が思い浮かぶので、これはこれで不適切と言わざるを得ないのだが。

 

だが気付けば、いつの間にかハジメの周りにはさらに人が増えていく。

 

一人は凛々しい少女……八重樫雫。

 

一人は甘いマスクの少年……天之河光輝。

 

一人は熊の如き体格の少年……坂上龍太郎。

 

三人が三人とも、校内でも指折りの有名人たちだ。

ただ、男子二人からの受けはあまり良くないらしく、何やら苦言を呈されている。

代わりに、雫の方からは何やら苦労性の気配が滲んでいた。具体的には……

 

(いつもながら、エミヤ先輩を彷彿とさせますね、八重樫さんは)

 

性別も年齢も何もかも違うし、似た点を探す方が外見的には難しい。

ただこう、雰囲気と言うかなんと言うか、面倒ごとを背負い込もうとするところが、某オカンあるいはメシ使い、または家政夫ととてもよく似ている気がする。

 

(あ、そういえば……)

 

とそこで、マシュは一昨日のちょっとした出来事を思い出す。

些細なことではあるが、だからと言ってなかったことにするマシュではない。

まだ感情の機微……と言うほどのものでもないが、この年代特有の幼さに慣れていないマシュは席を立つと、まっすぐハジメの元へと向かう。

そして、何やら真顔で苦言を呈する爽やか少年に、妙にずれた返事を返す香織を尻目にさらっと用件を伝えた。

 

「おはようございます、南雲さん」

「ぇ? お、おはようキリエライトさん」

「先日紹介していただいた小説、大変興味深い内容でした。また、おすすめの本がありましたら教えてください」

「あ、うん」

「ありがとうございます。それと、そろそろ席に着いた方がいいですよ。もうじき予鈴がなる時間です」

「そう、みたいだね」

 

伝えるべきことを伝えたので、さっと踵を返すマシュ。

しかし、振り返ってみればなぜか妙に静まり返った教室と学友たちが彼女を出迎えた。

 

「みなさん、どうかしましたか?」

 

皆の反応の意味が分からず、首をかしげて見せる。

だが、これと言った返事は返ってこない。

それを不思議に思いつつ、マシュはそのまままっすぐ自分の席へと戻っていった。

ただし、その後ろでは……

 

「ま、マシュちゃん! え、南雲君と何があったの!?」

(あ~、この子はまた暴走しなきゃいいけど……)

 

ぽか~んとする周囲を尻目に、「トンビに油揚げを持ってかれた!?」とばかりに動転する香織と、そんな彼女の勘違いに呆れる雫の姿があったとさ。

 

 

 

そんなこんなで時間は過ぎ、なぜか周囲から「南雲に何されたの!?」「大丈夫だった!」と、的外れな心配をされたりしつつ、時刻は昼。

弁当組に属するマシュは、鈴をはじめ仲の良い友人たちと一緒に机を囲みおしゃべりに花を咲かせていた。

 

「わぁ♪ 毎日のことだけど、キリエライトさんのお弁当キレイ!」

「ホントだよね、その上野菜多めでバランスも良いし」

「ねぇマシュマシュ、今度鈴にも……」

「鈴、流石にそれはちょっと」

「いやぁ、でもうちのママのより断然美味しそうだもん、その気持ちはわかる」

「「「「確かに」」」」

「そ、そうでしょうか? 盛り付けも味付けも、まだまだだと思うのですが」

「え~、マシュちゃん理想高過ぎぃ」

「こりゃ彼氏さんは幸せ者だねぇ~」

 

マシュとしては、自信を持てるのは栄養バランス位なので、皆の評価に恐縮しきりだ。

まぁ彼女の場合、目標が家事の達人である紅い弓兵なので、無理もないのだが。

実際、自作の弁当を一口食べた感想と言うのが……

 

(……やはり、まだまだです。なかなかエミヤ先輩やブーディカさん、キャットさんのようにはいきません。

 先輩にお弁当を作るのは、まだ先ですね)

 

自身が納得のいかないものを出すわけにはいかないという拘りでもあるらしく、そんなことを考えている。

外野から見れば、今でも十分売り物になるレベルなのだが……特に、マシュの手作り弁当となれば、男子あたりが月のお小遣いを全額突っ込みそうなプレミアがつくこと請け合いだ。

 

で、それはそれとして、教室の片隅では朝と似た様なやり取りが再開していた。

 

(南雲さん、また白崎さんや天之河さんに……)

 

距離があるとはいえ、色々な意味で人間離れした身体スペックを持つマシュにとってはこの距離でも会話の内容を拾うことは難しくない。

 

(昼食の内容について、のようですね)

 

とはいえ、マシュが変に口出しするのも良くないだろう。

理由こそよくわかっていないが、今朝の不自然な沈黙は自身に原因があることくらいはわかっている。

ただでさえどういうわけか立場の悪い彼に、余計な波風を立てるのは忍びなかった。

 

だがそこで、地震速報に偽装した緊急アラームが携帯端末から発せられ、マシュは弾かれたように立ち上がる。

 

「はい、マシュ・キリエライトです!」

『マシュ! 今すぐその場を離れるんだ! 説明は後、とにかく大至急!!』

「っ!? ですが、ここには……!」

「え?」

「マシュマシュ?」

「いったい、どうし……」

 

友人たちの存在により生じた、一瞬の逡巡。それが、運命を分けた。

端末から声が聞こえるのと前後して、足元が輝きだす。

 

(これは、魔法陣! でも、こんな形式は見たことが……!?)

 

古今東西の魔術に触れてきた彼女をして、未知の術式。

それだけで事の緊急性の高さは明らか。

しかし、彼女にはどうしても友人たちを見捨てて自分ひとりが逃げ出すことはできなかった。

 

その結果、マシュは脱出の機会を失ってしまう。

加速度的に増す魔法陣の輝きはやがて最高潮に達し、目を開けていることすらできなくなる。

 

(先輩!!)

 

声に出すことすら叶わず、マシュは友人たち諸共光に呑まれこの世界から消失した。




一応カルデアの調査で、この世界にも神秘が少なからず残っていることは判明しています。
また、局所的に空間の揺らぎがあることも観測済み。
ただし、現状大きな問題にもなっていないし、所詮異邦人の自分たちが関与することではないとして放置の方針。が最重要人物の一人であるマシュの失踪を機に、カルデアも本気になることに。

ちなみに、一部サーヴァントたちも息抜きがてら現代生活を満喫中。一部例外を除いたバーサーカーや色々と現代での社会生活に問題のあるサーヴァントはその限りではありませんが。
で、金髪三つ編みの美人さんと銀髪のイケメンのカップルと言うのは、言わずもがなでしょう。きっと、いつか必ず来てくれると信じています。個人的には三姉妹で取り合ったりして欲しいなぁ。長女は恋人として、次女は騎竜として、三女はトナカイさんとして、な感じで。
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