ありふれた職業と人理の盾   作:やみなべ

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忘れがちなこと、フォウ君のセリフ。ふと気づくと「あ、フォウが出てない」と気づきます。いやぁ、困った困った。


022

天魔転変による変貌が「異形」だとするなら、悪鬼変生のそれは――――――――――異類だった。

姿形はむしろ人のそれに戻ったといえるだろう。背中から生えていた節足は落ち、頭部に開いた六つの目は閉じている。強いて言えば、右目の上から突き出した一角が唯一の人ならざる部分だろう。外見的にはその程度の違いしかないにもかかわらず、今の彼女…フェリシア・グレイロードは人から逸脱した“何か”だった。

 

姿形は人のそれでありながら、滲み出す気配が、その身に帯びる空気が、人のものからかけ離れている。

 

もしこの場に何も知らない第三者がいれば、彼女をこう評したことだろう。ただ一言、“バケモノ”と。

 

「ありがとうございました、下がっていなさい」

 

一分という、戦場においては膨大といえる時間を費やして“変成”を終えたフェリシアが小さく告げる。

通常なら誰の耳にも届かない囁き声であるにもかかわらず、それは団員たちの耳にあまねく届いた。

フェリシアを守るため身命を賭して壁となっていた彼らは即座に道を開け、アルトリアと再度対峙する。

 

「お待たせしました。ここからは、改めて私がお相手いたします」

(この気配、どこかで……)

 

静かに、落ち着いた様子で語りかけるフェリシアだが、アルトリアはその変化を見逃さない。

実際に彼女と矛を交え、間近でその気配に触れたアルトリアはその感触に既視感を覚えていた。

どこかで似たような気配に触れたことがある、そんな気がしてならないのだ。

 

「善き兵を従えているのですね。将のために盾となることを厭わず、布石となることを躊躇わない。すべては、あなたへの信頼が故でしょう」

「ええ、私にはもったいないほどに……彼らにはどれほど感謝してもしきれません。だからこそ、私には彼らの信頼にこたえる責務がある!」

(勇将の下に弱卒無し、彼らを率いるあなたの器見せてもらいましょう)

 

いっそ流麗とすらいえる足運びで間合いを詰め、なんのてらいもない突きが放たれる。

後付けで得た節足や異形化した四肢を捨てた分、その動きにはまるで無理がない。ごく自然に、これまでに彼女がどれだけの研鑽を積み上げてきたのかがわかる、そんな一刺し。

確かにそれは美しくすらある。だが……

 

(遅い)

 

そう、遅いのだ。異形化した部分を捨てたからこそ動きそのものは洗練されているが、反面先ほどまでのような人外の速度はない。速度だけなら、サーヴァントの領域すら視界に収めていたのが嘘のように。

当然、そんなものがアルトリアに届くはずがない。あるいは、その技量が彼の“神槍”のように神域に達していたのなら話も別だろうが、フェリシアの技量はその域にはない。当たり前のように弾かれ、あっさり力負けしてたたらを踏む。それは、先ほどの力強い打ち込みからはかけ離れた無様な姿だった。

 

(どういうつもりです。何か策があって稼いだ一分だったはず、あなたはいったい何を狙っている)

 

微かな失望が胸中に湧き上がるが、アルトリアはそれを即座に捨てる。打ち合ったのはほんの数合、交わした言葉も僅か。それでも、アルトリアはフェリシア・グレイロードという騎士をそれなり以上に評価していた。

その胸に如何なる志を抱いているかは知らない。だが、それは彼女にとって一命を賭してでも譲れない、何が何でも貫かなければならないものの存在を、確かに感じ取っていた。

そんな騎士が、なんの見通しもなく挑んでくるとは思えない。アレは、“誇り”ではなく“志”のために生きる勇士なのだから。

 

「いやぁっ!」

 

流れた体勢を速やかに立て直し、フェリシアが再度打ち込んでくる。

それも難なくはじき返すアルトリアだが、彼女は先の一撃との僅かな変化に気付いていた。

 

「む?」

「まだまだぁ!」

「これは……まさか、速度が上がっている? いえ、速度だけではなく威力も……」

 

我武者羅に、遮二無二打ち込んでくる槍撃の数々を時に弾き、時にいなしながらアルトリアは徐々に、だが確実にフェリシアの力と速度が上がっていることに気付く。

打ち込めば打ち込むほど、弾かれる度に増していく身体能力。はじめのうちは僅かな変化だったそれが、段々と上昇幅が上がっていく。

 

(確かめてみますか……)

 

それまで受け身一辺倒だったアルトリアが、初めて反撃に出る。フェリシアの槍を大きく弾き、その隙をついて刺突を放つ。流れた体に回避する余力はなく、難なく穂先がフェリシアのわき腹を貫通した。それは、だれがどう見ても致命傷。にもかかわらず……

 

「それが、どうしたぁ!!」

 

わき腹を貫かれたまま、さらに前に出るフェリシア。当然、ランスは深々と突き刺さり、常人なら致命傷を通り越して即死級の傷だ。なのに、フェリシアは痛みからくる苦悶の表情を浮かべてこそいるが、とても死兵のそれからは程遠い。あれは死を覚悟してはいるが、死に行く者の顔ではない。

 

「むんっ!」

「か、はっ!?」

 

予想外の選択ではあったが、距離を詰め切る前に横薙ぎに槍を払いフェリシアの身体が木っ端の如く宙を舞う。

槍が体から抜け、地面の上を何度も跳ねていく。しかし、槍を地面に突き立てて体勢を立て直すと、彼女は再度疾駆する。その動きは、致命傷を負ったとは思えないほどキレている。それどころか、先ほどよりもさらに動きの速度が、キレが増している。

 

「いったい、これは……」

「つぁぁぁぁぁっ!」

「くっ! また一段と重く……」

 

さらに重さを増した一撃。まだ十分片手一本で捌き切れる程度だが、この調子でいけばどうなるか。

だが、そんな危惧は即座に吹き飛ぶ。彼女は見た、たった今自身が貫いたわき腹の傷が、ふさがっていく様を。

 

(傷が治った? いや、違う。これは……)

「ふんっ! はっ! しぃっ!」

 

矢継ぎ早に繰り出される攻撃。弾くこともいなすことも、それこそ間隙を縫って反撃を加えることも容易い。しかし、それはうまくない。そう判断したアルトリアは、迎撃をやめ回避を選択。

ドゥン・スタリオンの手綱を操ることで巧妙に槍撃を躱し、鎧に触れさせもしない。まさに人馬一体。その身一つでも回避困難な連撃を、ドゥン・スタリオンに跨ったまま軽やかに、危なげなく避けていく。

 

回避に徹した分、余力が生まれる。それをフェリシアの観察に注げば自然、彼女の変化も見えてくる。

 

「グレイロード、あなたはまさか……身体を、作り替えているのか?」

 

そう、それが変成昇華複合魔法“悪鬼変生”の特性。戦えば戦う程、傷を負う度にその身体をより迅く、より強く、より硬く作り替えていく。そして、傷を負えばその箇所を治すのではなく塞ぎ、生存可能な状態に作り直す…否、むしろ破損した箇所をこそより強靭に再構築する狂気の沙汰。

“天魔転変”がサーヴァントのスキル「自己改造」に相当するなら、これは「自己進化」の域に手をかけた、己の破滅と引き換えにする人には過ぎたる力だ。

 

(これではまるで、アタランテの“神罰の野猪(アグリオス・メタモローゼ)”ではありませんか!?)

 

流石に、アタランテのそれほどの性能はないだろうが、自身を秒単位で作り替える様には共通する部分があった。

術が完成した当初こそ素のスペックのままだが、時間経過とともに、打ちのめされるほどに、その戦力は加速度的に増していく。迎撃していた時と比べれば回避に徹している今の方が基本性能の向上速度が緩やかに感じるのは、打ち合うことによる負荷が身体にかからないからだろう。

だが、それでもなお徐々に身体能力が向上しているのは……

 

(常に肉体の限界を超えて身体を駆動している。限界を超えた動きが体を壊し、それを修復する過程でより強く……なんと無謀な)

 

変成魔法の存在を知らないアルトリアにはあずかり知らぬことだろうが、変成魔法の応用で脳のリミッターを意図的に外しているのだ。これにより常に限界以上の動きを可能にし、それを“悪鬼変生”でより強靭に作り直す。

 

そうして、いずれは眼前の敵を駆逐する。たとえ、どれほどの代償を支払うことになろうとも。

それを示すように、既にフェリシアの身体は強制的な進化に悲鳴を上げている。強引に作り替えられた体構造は歪を生み、至る所から血が噴き出し、それを強引に塞ぐの繰り返し。恐らく血管だけでなく骨格や筋肉、神経系に至るまで、全身余すことなくサーヴァントに対抗するために作り替えられているのだろう。事実、彼女の速度と力は天魔転変使用時をすでに超え、着実にサーヴァントの領域に迫ってきている。

 

肉体に限界以上の動きを強制し、壊れた傍から無理矢理強化・修復する。それに伴う苦痛は如何程か。

そんなことを、フェリシアはずっと続けているのだ。

 

「やめなさい! 人の身でそのような力を振るえば、あなたの身体は……」

「それが、どうした!!」

「…………」

「この身一つで未来を切り開けるなら本望! 同胞たちが穏やかに、少しでも血を流さずに生きられる世が来るのなら……惜しむ命など、ありはしない!」

「それほどの、覚悟か……」

「いつかの子どもたちが自由な意思の下、生きられる世のために!! そのためなら、私は捨て駒で構わない!!」

「あなた自身は、それを見ることができないのですよ」

(私は礎、それでいい。例え私が為せなくても、私の後を引き継いでいつか誰かが至ってくれれば!)

 

口角から血を零しながら紡がれる悲壮な、だが誰よりも高潔なる意志。彼女の決意を、覚悟を示すように、振り下ろされた一撃が大地を砕き、轟音とともに空を裂く。

打ち合う分には問題なく叩き伏せることができるだろうが、機動力に優れる反面小回りに欠ける騎乗した状態では、いよいよアルトリアをして回避に徹することが厳しくなってきた。それほどまでに、フェリシアの速度が増してきている。

 

同時に、アルトリアは自身が見誤っていたことを理解する。フェリシア・グレイロードは、一介の「騎士」に納まる器ではない。

 

「より流れる血の少ない、少しでも多くの人が笑える世界が欲しい! それは、決して間違いなどではない!! 誰もが抱く、当たり前の願いだろう!!」

(彼らが、躊躇なくあなたの盾になった理由がわかりました。あなたは、彼らの希望なのですね。あなたが、いつかの誰かに悲願を託すように、彼らはあなたに己が全てを託している)

「私は、いつかの誰かのための道となろう!! 至るための一歩を刻む、それが私の役割だ!!」

「ならば問おう。あなたはいかなる手段をもって、それを為す。他種族の血と骸で世界を平らげてか?」

 

アルトリアの発した問いは、彼女の真意の在り処を計るためのもの。

いったいどのような手段をもって悲願を実現するか、それ次第によってはここでフェリシアを討つべきだと考えたからだ。人間族と魔人族の戦争に介入するのも、狂った神を討つのもカルデアの役目ではない。成り行きによってはそれを為すこともあり得るだろうが、最優先事項は別にある。

 

とはいえアルトリアは、他種族を滅ぼそうなどという蛮行を見過ごせるような人格の持ち主ではない。

この世界の常識で考えるのなら他種族は滅ぼすべき“世界の染み”。されど、フェリシアは解放者縁の集落の出身者。他種族を滅ぼす選択も、それ以外の道を選択する可能性も等しく持ち合わせた存在。

だからこそ、真意の在り処を問うたのだ。いったい如何なる手段をもって理想を叶えるのか、と。

だがその答えは、この状況では語れない。フェリシアは今危うい立場にあり、せめて監視の目がない状況でなければ真意など語れるはずがない。ましてや、今まさに干戈を交えている敵にどうして本心を語れよう。

 

フェリシアの表に苦渋が滲む。様々な理由から語れない真意、本音を発することすらできない状況に歯噛みせずにはいられない。だがその時、アルトリアの横を何かが駆け抜けフェリシアに斬りかかった。

辛うじてそれを槍の柄で受け止めることに成功したフェリシアは、誰何の声を上げる。

 

「……何者かっ!?」

「あらあら、まあまあ……微かに虫に似た気配がするかと思えば、これはどういうことでしょう? 小虫のような、されど人のような……うふふふ、さて、あなたはどちらでしょうか?」

「頼光!? やめなさい、彼女は……」

「ゴメン、アルトリア! 止められなかった!」

「フォ――――ウッ!!」

 

いつの間にか雨足の弱くなった空の下、ハインケルから飛び出してきた立香が声を張り上げる。

羞恥心もプライドもかなぐり捨てて、“どこの怪しげな風俗だ”といいたくなるようなプレイに耐えていた立香だが、フェリシアの気配が変わった段階で頼光が反応した。それでもしばらくの間は何とか気を逸らすべく奮闘していたのだが、彼女の額から生えた一角が頼光の視界の端に写ってしまったのが運の尽き。

 

こうなってはもう立香でも頼光は止められない。

鬼に似た気配と、鬼を彷彿とさせる一角。鬼や蜘蛛といった妖怪が異形であるというだけで退治されることに対しては無体と考える頼光だが、それでも彼女が鬼嫌いであることに変わりはない。鬼に近いものがいるとなれば、確かめずにはいられない。果たしてお前は誅すべき鬼か否か、と。

 

(不味い、これ以上身体に負荷をかければ彼女の命が……マスターに令呪の使用を進言するか? だが、それは……)

 

フェリシアの真意を明らかにするまでは、徒に死なせるべきではないと思う。立香たちもハジメたちもこの世界に深く干渉する意思がない中、同じ大迷宮攻略者である彼女の存在は、場合によってはこの世界を大きく動かす可能性がある。少なくとも、彼女にはそのための力の一端があるのだから。

とはいえ、貴重な令呪を使ってまで敵の助命を請うというのもおかしな話だ。その迷いがアルトリアの判断を一瞬鈍らせる。しかしその間にも、状況は斜面を転がる石のように突き進む。

 

「さて、まずはあなたの正体を見極めましょう。やりすぎないよう注意しますが、どうかそれまで果てないでくださいませ」

「私の正体? 何を言って……」

「いざ、御免!」

 

雷光を纏った刃が閃く。繰り出されたのは逆袈裟から左薙ぎ、続いて唐竹の三撃。それらを辛うじて防ぎ、多少の傷はおったが即死だけは免れるフェリシア。如何に悪鬼変生といえど、即死してしまえばどうにもならない。

逆に言えば、多少の傷であればむしろさらなる強化のための呼び水となる。

 

(速い…ですが、防げないほどでは)

「やりますね……手遊びのようなものですが、まさか“半分”も防ぐとは思いませんでした。中々のお手並みです」

「……え? か、はっ……!?」

 

斬られたことにすら気付けない圧倒的早業。遅れて脳髄を貫いた痛みが、その正体を知らせてくれる。

刺突で喉を貫かれ、右切り上げが右腕を断ち、右薙ぎで腹を開かれた。声は出ず、左腕は落ち、腹圧で内臓が飛び出そうとしている。

 

「どうしました。よもや、これで終わりですか? それとも、わたくしの見当違いだったのでしょうか? いくら小虫とは言え、この程度で潰れてしまうなんて……」

「ぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「どうやら、中々にしぶといようですね。ええ、ええ、鬼の端くれならば、そうでなくては潰し甲斐がありません。虫のような敵を丁寧に潰すのは、気が滅入りますからね」

 

喉を貫かれたまま放たれる咆哮。

悪鬼変生をフル回転させ、強引に喉と腹部を修復。全力で後退しながら槍を脇に挟み、切り落とされた腕の断面を押し当てて接続。回復魔法ではなく、変成魔法の応用による“再構築”だからこそできる荒療治だ。

 

(……なんという剣の冴え。とても、今のままでは対応できない)

 

スキル『無窮の武練』。一つの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練は、フェリシアの及ぶところではない。ただでさえ基礎能力で劣っているというのに、武技でまで圧倒されては打つ手がない。

では、どうするか。技量など即席で向上できるものではない以上、やることは一つ。更なる身体能力の向上、基本性能によるごり押しだ。

 

(打ち合う膂力も、追い縋る迅速さも、攻撃を見切る目も、何もかもが足りない。ならば、すべて徹底的に壊して作り直す!!)

 

目を抉り取り、それを眼窩に押し込む。

 

続いて、土属性魔法で四肢を砕く。

 

常人ならば発狂してもおかしくない激痛に耐え、見る見るうちにそれらが復元されていく。

全ては、今この一瞬のため。例え命を削ろうと、ここで死ぬわけにはいかない。その一心で。

 

「なんと……」

 

思わず、頼光の口から声が漏れる。それは感嘆か、それとも驚愕か、あるいは畏怖か。他ならぬ自分自身の手で腕を、脚を、目を潰すという凶行に、頼光ですら思わず足を止める。

 

「…………なるほど。やはり、わたくしの勘は正しかったようです。あなたは既に人ではありません。人ならば、そのように躊躇なく己が身体を砕くことなどできません。

あなたは……心に“鬼”を宿しています。いずれその鬼はあなたを飲み込み、真の鬼と化すやもしれませんよ?」

「……望む、ところです」

「…………」

「とうに悪道に堕ちた身。いまさら、人の道に戻ろうとは思いません。鬼でも魔性でも、なんにでもなりましょう!」

 

徹底的に四肢を砕くことで、根本から作り替えられた肉体は大幅に性能を向上させている。

それを示すように一足で間合いを詰め、渾身の一撃を叩きこむ。すると、これまで容易く裁かれていたフェリシアの槍を、頼光は足を踏みしめて受け止める。

 

「……っ!」

「私には、為さねばならないことがある!」

「くっ……」

「邪魔を、するなぁ!!」

 

フェリシアの一撃を受け頼光の身体が僅かに浮き上がり、そこへさらに畳みかける。

この好機を、フェリシアは見逃さない。技量の差は依然として隔絶し、身体能力もどの程度まで追いつけたか不明。加えて、同等の実力者が後ろに控えている。

眼前の敵が体制を立て直すか、後ろの騎士が参戦するだけでも、形勢は容易くひっくり返るだろう。だからこそ、このまま一気に攻め切らなければならない。ここが、最初で最後の勝機なのだ。

 

(それでも、ようやく一人。ですが、一人でも倒せれば面目も立つ)

 

そうなれば、軍内部での彼女の立場もとりあえずは保証されるはずだ。

一時でも後ろを気にしないで済むようになれば御の字。その間に彼らの危険性を訴え、今度は最大戦力をぶつける。多大な被害を出すだろうが、彼らはそれに見合うだけの脅威なのだ。人間族との戦争など、彼らの前では些事に過ぎない。魔人族の存亡は、彼らを討てるか否かにかかっている。

 

(最も恐ろしいのは彼らと人間族が連携し、双方を相手にしなければならない状況。そうなれば、この戦争の敗者は我々になるかもしれない。それだけは、絶対に避けないと。

その意味では、彼らがこちらの領域に深く入り込み人間族との共闘ができない今は、最大の好機。どれだけの犠牲を払ってでも、彼らを討つならば今しかない!)

 

彼らに話し合いの意志があることが心残りだが、その話し合いとて上手くいくとは限らない。話し合いに応じることができない今の状況と立場では、栓ない事だ。

ならばせめて、同胞たちが最悪の未来に見舞われる可能性をなくすために全力を費やさねば。

例えそれが、最初で最後の好機を自らの手で潰すことになろうとも。

 

しかし、攻めても攻めても押し切れない。遥か上を行く技の冴えが、フェリシアの攻撃を柳に風と受け流す。

馬鹿正直に真正面から受け止めたりはしない。それをすれば、サーヴァントといえど万が一があるほどの域に今のフェリシアは到達している。だが、逆に言えば……真正面から受けて立ったとしてもフェリシアの勝ち目は万に一つなのだ。ましてや、極められた武芸の手練を以てすればなおのこと。

 

それがわからないフェリシアではない。特に、彼女の身体は限界が近い。

 

(これだけやっても、届かないのですか!)

「どうやら、もうこれ以上は先がないようですね」

 

変成魔法を昇華魔法で引き揚げたとは言っても、天井知らずに強くなれるわけではない。物事には限度というものがあり、いずれは終わりが訪れる。

悪鬼変生による疑似“自己進化”もすでに頭打ち。これ以上は、どれだけ身体を痛めつけても、戦える状態に作り“直す”だけで性能が上がることはない。あるいは、悪鬼変生が完成していれば、今少し上があったかもしれないが……。

 

それでも、ここで立ち止まるわけにはいかない。これだけやったのだから上層部の疑念も少しは晴れるかもしれないが、確実とは言えない。小さくとも確かな成果を見せる必要があるのだ。

幸い、全く届かないわけではない。渾身の、命を賭した一撃ならあるいは……!

 

「これでっ!」

 

体中の骨と筋国が悲鳴を上げる中、フェリシアは自らを一本の矢として吶喊する。

全身から血を巻き散らし、防御も回避も……後先すら捨て去った捨て身の特攻。例え心臓を貫かれようと、首を絶たれようと、頭を潰されようと、必ずこの一刺しを届かせる。

そんな覚悟と決意を乗せた一撃は…しかし、突如頼光の身体から稲妻が迸ったかと思うその姿を見失い空を切る

 

「なっ!?」

「……思い上がりましたねぇ」

「っ!」

「はっ!」

 

いつの間にか背後に姿を現した頼光の刀が稲妻を帯びる。捨て身のフェリシアにこれに対処することはできない。電撃が身体を貫き、切っ先が深々と背を抉った。

もんどりうって転がるフェリシアに、更に追撃が迫る。矢継ぎ早に放たれる矢が四肢を縫い留め、体中を駆け巡る電撃のせいで力が入らない。フェリシアにできることと言えば、最後の意地を宿して眼前の敵を睨むことだけだった。

 

「ハッ、ハッハッ……」

「鬼に堕ちようとかまわぬといいましたね。ならばせめて、そうなる前に私の手で誅しましょう。あなたがせめて、人でいられるうちに」

(なんだ、アレは……あんなものが、本当に人の業だというの?)

 

生まれてこの方、感じたことのない……しかし、どこか既視感のある畏れに身体が震える。

初めて戦場に立った時、初めてその手で命を絶った時、生きて帰れぬ覚悟で大迷宮に挑んだ時、畏れに身体が震えたことは何度もある。だが今感じている畏れは、そのどれとも違う。

走馬灯のようにこれまでの人生が脳内を駆け巡り、そこではたと思い至る。まだまだ幼く無知であった頃、遥か彼方から響く遠雷に、鳴動する大地に、燃え上がる森を前に覚えた畏怖。人の身では到底抗えない絶対的な力。

眼前の敵に感じた畏れは、それら大自然の猛威への畏怖とよく似ていた。

 

(これは、人の手に負えるものじゃない。どうして人が、天災に抗える。これは、そういう存在……)

 

今日まで彼女を支えてきた矜持が、信念が、悲願が、覚悟が、絶対的強者を前に根こそぎ崩れていく。

残されたのは、二十二年の人生で自分自身のために何一つとして積み上げてこなかった娘が一人。ずっと誰かのために走り続けてきた彼女がそれらを失えば、最早支えるものは何もなかった。

あまりの畏怖に、声も出ない。ただ幼子のように、震えることしかできない。

そんな自分をどこか遠くに感じながら、フェリシアは自分自身の弱さを目の当たりにしていた。

 

(は、はは、ははははははははっ! ああ、私は、こんなにも弱かったのですね……なにが、同胞たちのためだ! こんなにも弱い私に、いったい何が……)

 

心が折れる。何があろうと、せめて何か一つでも後の世に残そうと張り通してきた意地が。

折れてしまえば、フェリシアには何も残らない。そうとわかっていながら、もうどうにもならなかった。

 

だが、忘れてはいけない。フェリシア自身にはなくとも、外には彼女を支えるものがあるのだということを。

 

「団長をお守りしろぉ!!」

「この方を死なせるな!!」

「俺たちが前に出る! 回復魔法が使える奴は団長の下へ!」

 

割り込むように、頼光とフェリシアの間になだれ込む団員たち。

誰も彼もが大なり小なり傷を負っている。いや、むしろ半数以上が満身創痍だ。ある者は体に幾本もの矢を突き立てたまま、またある者は幾条もの切傷を負いながら、またある者は力なく片腕を垂らしながら、中には足を引きずる者もいる。到底、戦えるような状態ではない。それでもなお、彼らはフェリシアを守るために立ちはだかる。

 

「あなた、たち……どうして?」

「団長、死んではなりません。ここは我らが抑えます」

「動ける魔物を! 団長をお乗せしろ!!」

「絶対に落とさせるな!! 縛り付けてでもだ!」

 

四肢を縫い留めていた矢が引き抜かれ、回復魔法の光が傷を癒す。体中余すことなくボロボロのフェリシアにとって、それは気休めに等しい。そんなこと、団員たちとて分かっている。

わかった上で、彼らは誰が指示するでもなくフェリシアを守るために壁となるべく動いたのだ。彼女の真意を知る者も、知らぬ者も、一人の例外もなく。

 

「…だ、め……逃げて、逃げなさい! 私のことは良い、この身体は限界です! でも、あなた達はまだ動ける!だから!!」

「お断り、させて、いただきましょう」

「副長! まさか、あなたの指示で……」

「いいえ、小官は、何も。これは、アイツらが、勝手に動いた、結果です。困った、ものですな。命令、違反は、重罪、だと、いうのに」

 

傍らに立った副長の身体は、フェリシアに負けず劣らず血に塗れていた。仲間の血か、それとも己の血か。

蛇型の魔物の魔石を取り込んだことで形を変えた顔は表情がわかりにくいが、どこか笑っているように見えた。

 

「お逃げ、ください、団長」

「でも……!」

「将を、守るために、兵が、盾となる。ご存じの、ことでしょう」

「それは……」

 

わかっている。将が兵に対し勝利と生存の責任を負うように、兵もまた将を最後まで守る責任がある。

だが、それはまっとうな戦場での話。戦いの趨勢が決し、勝ち目がないとわかれば自らの生存のために全力を尽くすべきなのだ。碌に身動きすら取れない、生きて戻ったところで先のない将のために、まだ生きて帰れるかもしれない兵が犠牲になっていいはずがない。

 

「私は、ここまでです。十名に満たない人間族に敗れたとなれば、形はどうあれ排除されるでしょう。いえ、むしろここで死ぬべきです。神代魔法の使い手をして敗北したという方が、上層部も危機感を覚えるでしょう。

 あなたたちは生きて帰り、この敗北を伝えなさい。フェリシア・グレイロードが死力を費やしてなお、及ばぬ敵がいると」

 

そうなれば、上層部も戦力の出し惜しみはしないだろう。最大戦力で挑めば、あるいは……。

本来ならフェリシアも含めた全戦力で臨むべきだが、今となっては意味のない仮定だ。

 

(それに、私がここで死ねば陛下への何よりの献身となります。そうなれば、私の嫌疑が部下たちに及ぶこともないでしょう。その意味でも、私はここで死ぬべきだ)

「……」

「副長、後事を頼みます。私は結局何も残せなかったけれど、それでもあなた達がいる。どうか、後の世のために……」

「はぁ……団長、失礼」

「え……イタイッ!?」

 

なぜかため息を吐く副長を見上げると、頭頂部に衝撃。

しっかりと握り固められた拳骨が、フェリシアの頭に振り下ろされたのだ。

 

「な、何するんですか!?」

「団長が、あまりに、情けない、顔を、しておられるので」

「だ、だからってグーはないでしょ! グーはっ!」

「団長、勘違い、なされるな。我らは、あなたの、理想に、ついてきた、のでは、ありません」

「え?」

「確かに、あなたの、理想は、美しい。それは、仰ぐに足る、ものでしょう。ですが、我らは、あなたにこそ、心酔、したのです。あなたで、なければ、我らは、ここまで、しようとは、思わなかった。ですから、理想が、残っても、あなたがいなければ、意味が、ないのです」

 

彼らは、理想のためについてきたのではない。『フェリシアが掲げた理想が美しかった』だからついてきたのだ。

フェリシアと理想、どちらが欠けても意味がない。だがそれでも、もしもどちらかしか選べないのだとすれば、彼らはフェリシアを選ぶ。元より、フェリシアがいなければ、その理想に意味はないのだから。

 

「理想を、残すも、捨てるも、あなたの、自由だ。ですが、どうか、ご自愛を。あなたは、十分、戦った、のです。例え、理想を、捨てても、我ら一同、異論は、ありませぬ。生きて、いただきたい。叶うなら、あなたが、笑顔で、生きられるよう。

あなたは、我らにとって、良き主君であり、仰ぐに足る旗手であり……そして、可愛い娘、あるいは、妹だったのです。娘や妹の、笑顔を、望まぬ、家族が、おりましょうか」

「いや、いやです! あなた達には、本当の家族がいるではありませんか! 彼らの下に帰りなさい! 私のために死ぬなど、許しません!」

「初めて、我儘を、言ってください、ましたな。できれば、聞いて差し上げたい、ところですが、御許しを。時間は、ないようです」

「っ!」

「良き忠義です。あなた方の忠節に敬意を払い、あなた達がいる限り、彼女には手を出しません。存分に挑み、耐えて見せなさい」

「や、やめて…お願い、やめてください。みんな、なんで……」

 

有象無象の如く蹴散らされる部下たち。力の差は歴然、そうでありながら及び腰のものは一人もいない。誰も彼もが、決死の覚悟で立っているのがわかってしまう。

 

(わ、私は、私はどうしたら……)

 

もし、この逃避の先に理想への道が繋がっているのなら、どれほど心が痛んだところで彼らを見捨てることを決断できただろう。しかし、今はそれができない。この先に、理想が繋がっているとは到底自分を騙せない。

掲げた理想を失った自分に、彼らの命を犠牲に生き延びる資格があるのか。生き延びたとして、彼らの、今までに費やした犠牲に見合う何かを、為せるのか。

フェリシアは俯き、自分自身を抱きしめて震えることしかできない。その姿はかつての毅然とした、力強い姿からはかけ離れた、泣き崩れる寸前の幼子の様だった。

 

「逃げて、どうなるのです。逃げたところで、私には何もない! 先へと続く道は断たれ、あなた達もいない!この手には、何も残らないではないですか! 犯した罪だけが残り、償う術も、報いる道もない。なら、ここで死なせてください! せめて、あなた達と……っ!」

 

死なせてくれ、そう叫ぼうとしたフェリシアの視界の隅、西の空に一条の線が飛び込む。

反射的に視線を向ければ、そこには……雨足の弱まった今だからこそ辛うじて見える、一本の黄色の煙。

その意味を、フェリシアは即座に理解する。理解、できてしまった。だからこそ、彼女の心をさらに追い詰める。

限界以上に追い詰められていた心はその情報を受け止めきれず、頭は混乱の極み。

 

「どうしたら、一体どうしたらいいの……なにか、何かできることは……でも、私にできることなんて……」

(いかんな。ただでさえ状況は最悪に近いというのに……ええい、悪いことは重なるということか!)

 

いつも飄々として、こんな時でもどこかゆとりのあった副長からも余裕が消える。

やるべきことがある。だが、この状況では何もできることがない。

 

(すまん! 何もできない我らを許せとは言わん。だがせめて、団長だけでも……)

 

フェリシアを除くすべてを切り捨てる、その決断を下そうとしたその瞬間。彼らの頭上に影が落ちる。

 

「え?」

「な、なんだ……」

「グルルルルルル」

「団長、御下がりください!」

「……副長、アレを」

「は……首が、ない?」

 

降り立ったのは体高3メートルを超す巨大な狼と、その背に跨る首のない騎士。

魔物が跋扈するこの世界にあっても、なお異質な存在。だが、そんなことは些事に過ぎない。首なしの騎士ですら問題にもならない。狼の爛々と光る目の奥からは、種族を超えた底知れない憎悪が溢れている。その目を見ただけで、二人は巨大な咢で食い殺される己を幻視した。いくつもの戦場に立ち、覚悟などとうの昔に済ませたはずの二人をして、思わず身を竦ませるほどの底知れない憎しみ。

 

「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!」

(ああ、これが私の終わり、ですか。もっと惨たらしいものと覚悟していましたが、存外呆気ないものですね。いえ、むしろ仲間たちと死ねるのなら……)

 

天地を揺るがすかのような咆哮を前に、二人は己の死を受け入れる。ただ、二人にはそれぞれ心残りがあった。

 

(せめて、団長だけでも……)

(ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

結局私は何もできなかった、何も残せなかった。犠牲となってきた彼らに、何と詫びれば……いいえ、それどころか、今まさに助けを求めている同胞たちにすら、何もできない。なんで、私はこんなにも……)

 

弱いのか。フェリシアにはもう、己の弱さを呪うことしかできない。

しかしその瞬間、フェリシアはあり得ないものを見る。自身にとっての死神であるはずの巨狼の背から延ばされた、頼りない掌。

 

「……………………………………………え?」

 

フェリシアの瞳に微かな光が戻る。ゆっくりとその手を頼りに視線を上げれば、そこには……自身よりいくらか年下であろう黒髪の少年がいた。決して力強くはない、特別聡明そうな印象もなく、際立って整っているわけでもない。

どこにでもいそうな、ありふれた顔立ち……だがどこか、人を惹き付ける何かがある。

 

二人の目が合う。フェリシアは、少年の漆黒の瞳から目を離せなかった。

深い、と感じた。同時に、重い、とも。なにが、かはわからない。ただ、今まで出会ってきた誰とも違う、不思議な目をした少年だった。

 

「あな、たは……」

「…を、貸してください」

「え?」

「手を貸してください! あなた達の協力が必要なんです!」

「フォ――――――――ウッ!」

 

言葉の意味が分からない。少年が何を言っているのか、理解が及ばない。

しかしそれでも、その言葉はフェリシアの胸の奥深くに染み渡った。

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

頼光がハインケルから飛び出した後、立香は令呪を使うタイミングを計り続けていた。

アルトリアが躊躇ったように、敵を助けるために令呪を使うなどおかしな話だ。

 

とはいえ、魔人族相手に本気で殺し合いにまで発展するのは立香の本意ではない。

魔人族にとって人間族は敵かもしれない。人間族にとっても、魔人族は敵なのだろう。

だが、そんなことは立香の知ったことではない。そもそも、立香たちはこの世界の人間族とも別の区分に位置する存在なのだ。姿形は似通っているが、生まれ育ってきた世界からして違う別種の存在。人間族・魔人族・亜人族のどれにも属さない第4の種族と言ってもいい。

だからか、立香は魔人族に特別敵意がないように、人間族に対しても特に同族意識はない。

 

自分たちの命が脅かされるようなら、どうやっても戦い、殺すしか道がないのならそうするだろう。

しかし、その判断を下せるほどの情報が、関わりが、因縁が魔人族との間にはまだない。

故に、立香は頼光が最後の一線を越えそうになるようなら止めるつもりで待機していた。

殺すことは本意ではない。かといって、攻撃してくる相手に無防備でいようとも思わないからこその判断だ。

 

そうして、フェリシアが戦意を喪失した辺りで、立香は交渉カードとして停戦を持ち出すべく頼光にいったん戻るよう指示しようとした。だが、そこで彼はいち早く気付いた。フェリシアが見つけたのと同じ、西の空に立ち上る黄色の煙を。

 

(あれって、もしかして狼煙?)

 

明らかに通常の煙とは異なる色合いの煙。さらに、その煙には定期的に切れ目が生じている。まるで、何かを知らせようとするように。

もちろん、それが何を意味するかなど立香にわかるはずもない。しかし、今得られる情報を統合して推測することはできる。

 

―――――狼煙の発生源は遠方に見える山の麓辺り

 

―――――ここ何日かずっと大雨がつづいていた

 

―――――ついさっき、かなり大きめの地震が起こった

 

それらの情報が立香の脳内を駆け巡り、一つの可能性に至る。それは論理の末に導き出されたというよりも、彼自身の経験や知識からくる直感に近い。

藤丸立香はその名が示す通り、日本の出身だ。そして日本という国は、世界最大の災害大国なのである。

 

年間で軽く千を超える地震に見舞われ、これは世界で起こる地震の十分の一にあたる。

大規模な風雨を伴う台風が、多い時には年間で二十回も猛威を振るう。

さらに、噴火すれば広範囲に被害を巻き散らす活火山の数は百二十九に及び、国別でみればあんなにも国土が小さいにもかかわらず世界四位。

加えてこれらの影響で津波が生じれば、四方を海に囲まれているため被害は甚大。

地域によっては豪雪地帯もあり、かと思えば夏季は高温多湿で死者も出る。

 

陸海空の全てにまつわる天災に縁があり、あらゆる……というと言い過ぎだが、世界的に見てもちょっと例がないくらいに多種多様な災害が体験できる、全くうれしくないテーマパークなのである。

 

そんな国で生まれ育った立香は、実体験が伴うかどうかはともかく、様々な自然災害に幼いころから触れてきた。

大きな地震があれば津波を警戒し、空気が乾燥すれば火事に気を付ける。そういった連想が即座に繋がる、その下地があった。

 

だからこそ、彼は少ない情報の中でその可能性に思い至ることができた。

山と雨と地震、それらによって連想した狼煙が上がるほどの事態。それは……

 

「地滑り? あるいは土砂崩れ? どちらにしても、ヤバい……!?」

 

雨が続けば当然地面が緩くなる。台風を始めとした大雨の際には、日本でも度々山間部で土砂崩れなどが報道されていた。そこへ先ほどの地震。地滑りが起こる要素は整い過ぎなくらいに整っている。

 

立香の勘違いかもしれない。もしかしたら、もっと別の……例えば天候にまつわる祭事に伴うものかもしれない。

攻撃を仕掛けてきた連中の同族、立香が首を突っ込むようなことではないと言われれば、否定はできない。

ここにハジメがいればそれこそ「知ったことか」と無視していたかもしれない。

しかし、立香にそれはできなかった。もし彼の危惧が正しければ、どれほどの人命が危機に瀕していることか。有事には助け合うのが当たり前という文化で育ち、ハジメのようにそれを捨てるような体験をしていない立香には、そんなことはできなかった。

 

「ロボ! ヘシアン!」

 

立香の声に応じ、それまで霊体化していた最後のサーヴァントが姿を現す。

立香やマシュにならば多少の好意を見せる彼だが、他の人間には基本的に変わらぬ憎悪を抱いている。もし戦闘に参加させれば、問答無用で蹂躙することがわかっていたから参加させなかった。

だが、今は彼の機動力が必要な時。

 

「俺をあの人、白髪の人のところまで!」

「先輩!? 待ってください、なら私も……!」

「ゴメン、先に行く!」

「……」

 

周辺を警戒していたため、マシュとの間に少し距離がある。彼女が来るのを待つ時間すら惜しい。

ロボの巨大な咢が立香の後ろ襟を加え、やや乱暴に背中に放り乗せる。

 

「フォウは降りても……」

「フォウ!」

「わかった、行こう!」

「ウォォォォォン!」

 

礼装のボタンをいくつか開け、そこにフォウが滑り込む。立香も体勢を低くしてロボの毛並みを握ろうとするが、準備が整う直前にロボが動き出す。

 

「ちょっ、待って待って! このままじゃ俺落ちるから!?」

「……」

 

知ったことかと言わんばかりに一気に速度を上げるロボ。

立香は振り落とされてなるものかと、大慌てでしがみつく。

 

ロボはその巨体からは考えられない敏捷性で魔人族たちの間を駆け抜けていく。

瞬く間のうちに彼らの脇をすり抜け、巨狼の進行を阻もうと立ちふさがった騎士たちを飛び越える。

そうして彼は、フェリシアたちの前に降り立った。

「え?」

「な、なんだ……」

「グルルルルルル」

「団長、御下がりください!」

「……副長、アレを」

「は……首が、ない?」

(まぁ、ふつう驚くよね)

 

フェリシアたちの反応に内心同意しつつ、彼らの様子から確信を強める。

ロボが降り立つ寸前、彼らは確かに狼煙の上がっていた方を見ていた。そしてロボの背にしがみつきながら垣間見た表情は……焦燥。立香にとっては、それだけで十分だった。

 

「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!」

 

聞きなれているはずの立香ですら、思わずビクッとなる咆哮。これもう、完全に怖がらせたんじゃ……と思って見下ろせば、案の定二人の顔には恐怖を通り越して死を受け入れた者特有の諦観が浮かんでいた。

しかしそこで気付く。何はともあれ、彼らの意識がこちらに向いていることに。

 

(怖がらせないで、お願いだから! ……って、あぁ、こっちに意識を向けさせるため? な、なんて強引な……とはいえ、せっかくやってくれたんだから文句言ってる場合じゃない!)

「……………………………………………え?」

 

ロボの背から落ちそうなほどに身を乗り出し、白髪の女性に手を差し伸べる。後ろでは、落ちないようにヘシアンがしっかり支えてくれている。

 

「あな、たは……」

「…を、貸してください」

「え?」

「手を貸してください! あなた達の協力が必要なんです!」

「フォ――――――――ウッ!」

 

信じられないものを見たように目を見開くフェリシアを、立香は真剣な眼差しを向ける。

おおよその状況は立香の推測通りだろう。助けに向かうこともできる。

 

だが、それだけだ。立香たちが助けに行ったとして、いったいどれだけの人がそれに応じてくれるだろう。外見的には、立香たちは彼らにとって不倶戴天の敵である人間族にしか見えない。敵から差し伸べられた手を、いったい何人がとってくれるだろう。下手をすると、その場で諍いが始まってしまうかもしれない。

 

だからこそ、立香はフェリシアに協力を求めた。信用度がゼロどころかマイナスな立香たちと違い、軍に属する彼らには一定以上の信頼があるはずだ。そんな彼らが前面に出て説得してくれれば、救助活動がスムーズになる。

 

「確認します。あの狼煙は救難信号で間違いないですか!」

「え、そ、それは……」

「聞かれたことにはイエスかノー、簡潔に答える!!」

「は、はい!」

「想定される状況は? たぶん地滑りか何かだと思いますが、あなたの意見は!」

「お、おそらくそれで間違いありません。雨季には、稀に山間部で土砂災害が起こるので……」

「ここから向かうルートは!」

「だ、大丈夫です。今の時期通れる道は限られますが、問題なく……」

「物資の備蓄は!」

「よ、余裕はありません。私たちの任務は、あなた達への対処だったので……」

「医薬品は!」

「えっと……」

「ここまで、ほぼ、消費せずに、来ている。十分では、ないが、それなりに、ある」

 

助けを求めるように蛇っぽい顔の人物に視線を向ければ、たどたどしいながらしっかりとした答えが返ってくる。他にも聞くべきことはあるが、最低限得るべき情報は得た。

 

(物資はこっちの宝物庫から出せば問題ない。今回は藤太がいるのが幸いした。薬は……神水がある。パラケルススが残した分と、どの程度まで希釈していいか試してくれていて助かった。問題はテントとかがない事だけど……急拵えで何とかするしかない。

 なにより、ルートがわかっているのが有難い。これで、余計なトライ&エラーをして時間を食うことはない)

 

一番の問題は、進もうとしては足止めされての繰り返しで無駄に時間を浪費することだった。

しかし、その問題さえ解決できるならあとは何とでもなる。

 

「俺たちは今から、救援に向かいます!」

「っ!?」

「そのために、改めてあなた達に協力を要請します! 俺たちだけだと警戒されるでしょうし、最悪拒絶されるかもしれない。でも、あなた達が間に立ってくれれば何とかなるはずです!」

「で、ですが、それは……」

「時間がないんだ!!!」

 

躊躇いがちに視線を彷徨わせるフェリシアに、立香は滅多に発することのない怒声を叩きつける。

 

「七十二時間が境界なんです! そこを過ぎれば致死率が上がって、助からない人が増える。でも、それ以前に助けることができれば……」

「生存者が、増える、と? しかし、物資の、問題が」

「物資ならある! 俺たちにはあなた達に分け与えても問題ない量の食糧があります! 薬もです! 体を休めるテントはありませんが、それでも……!」

 

助けられる命はある。それを真摯に、切実に訴える。今こそが、今日まで培ってきたコミュ力の見せ所。「相互理解の怪物」の出番だ。

そこにきて、それまで呆然と立香の問いに返すだけだったフェリシアの様子に変化が生じる。うつろだった目の光が徐々に戻り、眦に涙が浮かぶ。信じたい、でも信じられない、そんな葛藤が伝わってくるような迷いの宿った瞳。だが彼女は、その葛藤を押しのけて弱々しく、縋るように声を漏らす。

 

「……………助けて、くださるのですか?」

「そうじゃなかったらこんなこと言いません!」

「でも、私たちは、あなた達の……」

「敵とか味方とか、こんな(災害)時に関係あるか! 今行けば助かる人たちがいるんだ! 助けるのは当たり前でしょうが!!」

「当たり、前……」

 

そう、当たり前なのだ。天災の前では人は等しく無力。だからこそ、助け合わなければならない。そこに敵とか味方とか、あちらとこちらとか、そんな小さな区分に意味などない。

助け合わなければ生き残れない、だから助け合う。ただ、それだけの事。小難しい理屈の出る幕はない。

 

(当たり前……そう、当たり前のこと。でも、その当たり前が本当に……)

 

あるのだろうか。信じていいのだろうか。

素直にその申し出を受け入れられない自分がいることに、フェリシアは気づく。無理もない。当たり前のことが当たり前のものとして通らないほど、人間族と魔人族の確執は深い。

フェリシアは立香の言葉を頭では理解できているが、心が足踏みさせる。人間族や亜人族と対立を厭う彼女だが、それはひとえに融和路線の方が最終的に流れる同胞の血が少ないと思えばこそだ。

彼女にも人間族への遺恨はある。それを捨てでも、別の道を行くことが同胞たちのためになると信じればこその選択なのだ。

 

しかしここに、当たり前のことを当たり前のこととして口にし、行動しようとしている人がいる。

彼女がそれこそがあるべき世界の姿だと定め、そのためならすべてを犠牲にしようと決意した在り方。彼女の願いを体現したかのような、そんな少年。

 

(信じて、良いのでしょうか。かかっているのは同胞たちの命、軽々な判断は……)

「団長、なにを、恐れますか」

「恐、れる?」

「我らには、最早、戻る道は、ありませぬ。ならば、なにを、恐れましょうか」

(……あぁ、そうだ。どうせ、私にはもう……戻ったところで、失脚するか、粛清されるか、あるいは……いずれにせよ、私の道に先はない。ならせめて今くらい、私の願ったとおりに、善しとした在り方に殉じよう。失敗したところで、失うものは何もないのだから)

 

どのみち、ここで足踏みをすればするほど同胞たちの命が失われていく。失うものが何もないのなら、あとはもう進むだけだ。最後くらい、自分の心に正直に……。

だとすれば、せめて自分自身の言葉で告げよう。助けられる側が、助ける側に求めることを。

 

「お願い、します。どうか、助けてください!」

「もちろん!!」

「フォ――!!」

 

差し出された手を取る。フェリシアの豆だらけの武骨な手とは比べ物にならない、華奢で薄い掌。なのに今は、それがどうしようもなく頼もしく感じる。

 

(暖かい……知らなかった。人間族の手も私たちと同じで、暖かいのですね)

 

これも、当たり前といえば当たり前のこと。にもかかわらず、フェリシアはその暖かさに涙がこぼれそうになる。こんな簡単なことすら、自分たちは知らなかったのだ。

 

「な、何をしておられる! 人間族に助けを求めるなど…がっ!?」

「おっと、どうやら、お疲れの、ご様子、ですな」

 

これまで一体どこに隠れていたのか、今頃になって姿を現した監視役だが、副長の腹部への一撃で意識を失う。

言ってやりたいことは山ほどあるが、すべて些末事だ。彼などより、優先しなければならないことがある。今は何よりも、天災に見舞われた同胞たちを救うことが先決なのだから。

 

「副長……」

「ハッ、清聴!」

『…………』

「我らは任務を中断し、これより彼らとともに同胞たちの救助に向かいます! 言いたいことはあるでしょう、ですが今はそれらすべて忘れなさい! 最優先事項は同胞たちの命! 異論は!」

『……』

「よろしい! お待たせいたしました……どうか、なさいましたか?」

「あ、いえ、なにも……」

 

先ほどまでの頼りなさはどこへやら。あまりの迫力と威厳に、立香の腰が引ける。

 

「あなた方はあの台車で良いとして、我らは……」

「ああ、それについてはちょっと考えが」

「は?」

「ブーディカ!」

「ええ、お姉さんに任せなさい♪ 女神アンドラスタ……あたしに力を!

――――――――“約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)”!!!」

 

ブーディカが真名解放すると共に無数のチャリオットが出現し、一同の周囲を囲む。

高い耐久力を誇り仲間を守る「盾」として機能させるのが正しい運用方法だが、ケルトの神々の加護を受けることで飛行能力もある宝具だ。まぁ、今回は数優先なので、飛ばす余裕はないだろう。突進力はさほど高くないが、何より数がある。彼らを分乗させて運ぶくらいは問題ない。

 

(これは、固有魔法? それとも、神代魔法? だとしたら、一体いくつの……)

「手の空いてる人はパラケルススの薬を配って! 出発は五分後!」

「あ、あなたたちも負傷者の手当てを! 薬と魔法の使用は最小限に!」

 

二人の指示で、負傷者の救護のために場が動き出す。助けに行く側がボロボロでは話にならない。

 

「アルトリアはハインケルの運転をお願い!」

「ええ、お任せをマスター」

「みんなは作業が終わったらハインケルに戻って! 俺はこの人と一緒にロボと先行するから、後に続いて!」

「……ん? あの、今私と一緒にと?」

「ええ、そうですけど? 行き方とかわからないので、指示してください」

 

その言葉に、フェリシアは唖然とする。確かに助けてくれるとは言った。フェリシアも、一応ではあるが信用した。しかしだからと言って、つい先ほどまで敵対していた相手と同乗するなど……。

 

「正気、ですか?」

「あ、もしかして不意打ちされる心配とか……」

「していません。他の方々ならともかく、あなたには全く脅威を感じませんので」

「ですよね~」

「むしろ、その心配をすべきはあなたの方では?」

「?」

「どれほど弱くても、あなたは彼らのリーダーでしょう! 私があなたを害すれば……」

「ありがとうございます」

「な、なにを……」

「心配してくれているんでしょう? そうじゃなかったら、わざわざ言わないじゃないですか」

「それは……」

 

実際、フェリシアにその意思はない。様々な思惑や打算あってのことではあるが、ここで立香を害すれば同胞たちを助けることができないのは明白だ。なにより、見ず知らずの同胞たちを助けるために手を差し伸べてくれた相手を積極的に害するような真似はしたくない。

そんな諸々すらも見抜かれたかのような気がして、思わず視線を逸らす。

 

立香はそんなフェリシアの反応に苦笑いを浮かべているが、その間にも着々と準備は整っていく。

 

「先輩、準備できました!」

「負傷者の手当ても終わったぞ、マスター!」

「はいはーい! いい、君たち。スピード重視で行くから、しっかりつかまってるように!」

「マスター、心境を聞いて回ろうとしていたシェイクスピア殿を捕らえておきました」

「ナイス!」

 

そうして準備ができてしまえば、あとは動くだけ。今は何よりも行動の時なのだから。

 

「あ、そうだ。フェリシアさんもケガの治療をしないとですよね」

「い、いえ、ケガはもう……」

 

悪鬼変生は今なお効果を継続している。今ここで術を解けば、その反動が一気に襲いかかるからだ。

まぁ、そのおかげで傷もとりあえずは塞がっているのだが。

 

「そうですか? でもまぁ、念のため……」

「っ! 何を……え?」

 

警戒を解くべきではなかったと後悔するが、時すでに遅し。立香の手から放たれた光がフェリシアを包み……完治とはいかないまでも、全身の痛みが和らぐ。魔術礼装を介した治癒魔術の中でも、特に強力なものだ。これならば、悪鬼変生を維持したままもうしばらく活動が可能になるだろう。

 

「…………」

「さっ、行きましょう」

 

あっけにとられるフェリシアだが、立香はそれに気づいた様子もなくロボに跨り直す。

少し身を乗り出すように手を差し伸べてくる立香を見上げて……フェリシアの胸に言葉にならない感慨が芽生える。

 

(なぜなたは、こんなにも自然に、私に手を差し伸べてくださるのですか……?)

 

あれほどまでに求め、何をしてでも欲し、届かなくとも近づこうとしたものが、目の前にある気がした。こんな簡単に、まるで初めからそこにあったかのように。

空は厚い雲に覆われ今なお雨は降り続けている。にもかかわらず、フェリシアにはそれがどうしようもなく眩しかった。

 

(ああ、私が欲しかったものは……)

「どうかしました?」

「……お名前を、聞かせていただけますか?」

「ああ……立香です、藤丸立香」

「リツカ殿……」

 

噛み締めるように、ようやく手に入れた宝物のように、その名を呟く。

 

「遅ればせながら、フェリシア・グレイロードと申します」

「あ、はい」

 

まぁ、知ってたけど……とは雰囲気的に言えない。

その間にフェリシアは立香の手を支えにロボの背に乗る。一瞬ロボが不満そうにしたのは、ヘシアンと立香だけが気付いたことだった。まぁそれも、立香の指示なら我慢できる範囲のようだが。

 

「頼むよ、ロボ!」

「フォウ!」

「ウォォォォォン!!!」

 

雄叫びを上げると同時に、ロボがその強靭な四肢で大地を蹴る。瞬く間に速度を増し、吹き荒んでいるはずの風すら置き去りにして突き進む。

フェリシアは立香の腰に手をまわし、彼に倣って身を低くしながら視線だけを上げて進路を指示。それに従いロボの身体が右に左に傾き、時に障害を飛び越えて速度を緩めることなく疾駆する。

 

変わらず雨は降り続け、しっかり掴まっていなければ振り落とされそうなそれは、決して乗り心地が良いとは言えない。にもかかわらず、言葉にできない爽快感が胸を満たす。

 

「ありがとうございます、リツカ殿」

 

聞こえないとわかっていながら、零れた言葉。それは本当ならすべてが終わった後、団員たちを代表して正式に述べるべき言葉だった。

 

でも、どうしても今、告げたかった。今でなければならなかった。

立場も責任も、何も絡まない唯の“フェリシア”として。この、どれほどの言葉を費やしても伝えきれないであろう感謝を。

 

 

 

後にフェリシアは語る。

この邂逅こそが、彼女が進むべき道を示す「標」との出会いだったのだと。




改めて調べると、日本の災害大国ぶりにびっくりしました。簡単にしか調べていないのに、これですからね。どんだけだよ、日本。
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