仕事が忙しかったり、「Detonation」を見てなのは熱が再燃したりして、中々進みませんで……言い訳ですね、すみません。
とりあえず今回は短めです。次あたりで海底遺跡をさっさと攻略して、大森林に向かいたいですねぇ。何とかモチベーションを維持し、完走したいものです。
「私は、その人を知っています」
「……」
「あの時、私もそこにいたから。その人を殺したのは―――――――――」
“私です”、そう口にしようとした香織だったが、最後まで言い切ることはできなかった。
彼女が言い切るより早く、フェリシアの手が固く握りしめられた香織の手をやさしく包みこんだから。
俯いていた顔を上下れば、そこには寂寥を宿したフェリシアの穏やかな顔。
それを見て香織も気づく。自分の浅はかな嘘を、フェリシアは口にする前から見破っているのだと。
「カオリ殿……あなたは、優しい方ですね」
「私は、そんな……」
「そんなあなたが、慣れない嘘をついてまで庇おうとする、そういう方なのでしょう? カトレアを討ったのは」
「マシュちゃんたちに……」
「いいえ、お二人は何も」
そう、二人はフェリシアに何も話していない。フェリシアも、あえて二人に尋ねようとはしなかった。
真相を知るのが恐ろしかったというのもある。高確率で、この先合流する人物たちが関連しているであろうことは予測できた。フェリシアの理想のためには、ユエやティオ、そしてシアの存在は重要だ。そんな人たちとの間に、遺恨を挟むべきではない。知らなければ、有耶無耶にしてしまうこともできたから。
「一つだけ、教えていただけますか。彼女…カトレアの最期を」
「…………わかり、ました」
逡巡の末、訥々と香織は親友から聞いた女魔人族の最期を語る。できるだけ客観的に、その場にいた誰が彼女を死の淵へと追いやったのかはぼかすようにして。あくまでも、「カトレア」という女魔人族がどのように振る舞い、最期を迎えたかだけを伝える。
フェリシアも、あえてぼかした点を掘り下げようとはしなかった。元より、彼女が知りたかったのはカトレアの最期であって、親友を殺した仇ではなかったのだ。
「……そうですか。カトレアは、最期まで己が信義を貫いたのですね」
そのことに、「よかった」と安堵する。誇り高く、気高い女性だった。フェリシアをして、自らを律する規範としていたほどに。まぁ、そう口にすると「嫌味か何かかい?」と文句を言われたものだが。でも、それはフェリシアの紛れもない本心だった。だから、そんな親友が晩節を汚すことなく逝けたのは、せめてもの救いだろうと思う。
後から状況を鑑みるからこそわかることだが、カトレアの置かれた状況は「死地」以外の何物でもない。たとえ勇者一行の手にかからずとも、ハジメたちが現場に向かった時点で結末は決まっていた。
カトレアに生存の道はなく、あるのは誤差程度の終わり方の違いだけ。その中で、カトレアは凡そ最も「マシ」な終わりを迎えたといえるだろう。死の前後で辱めを受けることはなく、彼女の誇りが汚されることもなかったのだから。
むしろ、ダンジョン内とはいえ埋葬してくれたことには感謝すらしている。もしも王国に引き渡されていれば、どのような扱いを受けたことか……。
ただ、やはり当事者…あるいはそれに近しい立場にいる者に、フェリシアのそんな思いを察しろというのは無理な相談というものだろう。
「あ、あの!」
「はい」
「こんなことを言うのは虫のいい話だってわかってます。でも! それでも!! 私が代わりに償いますから! どうか、このことは……」
誰にも言わないでほしい、あるいはこれ以上詮索しないでほしい。そのどちらか、あるいは両方か。
カトレアを討った者を探さず、またフェリシアが
なるほど、普通なら身勝手な願いと思われるかもしれない。
香織もその自覚はある。もしも自分が同じ立場なら、たぶん受け入れることはしないだろう。
それをわかったうえで、香織は願わずにはいられない。どうか、
しかし、フェリシアから返ってきた答えは、あまりにも呆気ないものだった。
「承知しました」
「無理なお願いだってことは……え? フェリシアさん、いま…なんて……」
「ですから、承知しました、と」
「……」
「そんなに驚かれなくても……というのは、それこそ無理な相談でしょうね。ですが、誓って虚言は弄しておりません。元より、詮索するつもりも、仇を討つつもりもありませんから」
穏やかな、凪いだ湖面を思わせる表情を浮かべるフェリシア。
信じられない、というよりも現実をうまく認識できない。フェリシアの言葉は、香織が望んだ答えそのものだ。だが同時に、そんな都合のいいことがあるはずがないとも思っていた。
だというのに、ふたを開けてみればこの通り。彼女が願った答えは、あまりにも容易にもたらされた。
「無論、あなたに償いを求めるつもりもありません」
「……どうして、ですか。だって、あの人はフェリシアさんの……」
「そうですね。普通なら彼女を手にかけた誰かを憎み、仇を討ちたいと思うのでしょう。ですが、私にその資格はありません。一度大義を掲げた者が、私怨に囚われては示しがつきませんから」
つまりはそういうことだ。彼女が怒り、憎むのは「掲げた大義の敵」だけ。カトレアを討ったことは、フェリシアの大義とぶつかるものではない。そうである以上、彼女にはその相手を憎む道理も資格もない。
しかし、それはあくまでも理屈の上での話だ。理屈で感情を制御できれば世話はない。一瞬呆然とした香織もすぐにそれに思い至り、問い質そうとするがすでにフェリシアは「話は終わり」とばかりに背を向けていた。その背中が、これ以上この件で話をする気はないと何よりも雄弁に物語っている。
「……どうか、その方を大事になさってください。大切な人を亡くすことは、辛いことですから」
それだけ言い残して立ち去るフェリシアの背を、香織は追うことができなかった。
多くを背負うその背中が、悲しいほどに大きく……寂しく見えたから。
「…………………………………………………………………はぁ」
香りの元を離れ、しばらく夜明け前の桟橋を当てもなく歩いた末、フェリシアはようやく顔をのぞかせ始めた太陽に向けて深く息をつく。
我ながら、今回のことは褒めてやりたい「よくやった」と。
「………………………これで、よかったのですよね、カトレア」
本音を言えば、憎くないはずがないのだ。失ったのは無二の友、彼女とその子にこそ願った未来を見てほしかった。だが、それが叶う日は永遠に訪れない。そのことに、どうしようもない虚しさを覚えてしまう。
―――もう言葉を交わせないことが悲しい。
―――カトレアを殺した相手が憎い。
―――仇を赦さねばならない理想が虚しい。
―――何もかも投げ捨てられれば、どれだけ……。
それは紛れもないフェリシアの本心であり、本音だ。しかしそれでも、フェリシアは掲げた大義を捨てるようなことはしない。それは、同じ
カトレアが自らの信義を貫いたように、己もまた自分を通し続けなければならない。そうでなければ、親友に合わせる顔がない。これすらも無くしてしまえば、カトレアの親友であったという事実さえ失ってしまう。
だから、これでよかったのだ。自らに言い聞かせるように何度も反芻するフェリシアだが、そこへなんとも気の抜けた声がかかる。
「お? フェリシア嬢ちゃんじゃん、おい~っす」
「あなたは確か……オリベエ殿」
「オリオンね! 俺の名前オリオンだから! って、もしかして徹夜? 精が出るねぇ~」
「はぁ、まぁ……」
短い脚をポテポテ動かして歩いてくるオリオンに、フェリシアも歯切れが悪い。
大抵の場合彼の近くにはアルテミスがいて、他所の女性に近づこうものなら即座に制裁される。そのため、今まであまり接点がなかった。あと、どうにもその軽いノリについていけないというのもある。
「……まぁなんだ、あんまり気負い過ぎんなよ。人ひとりの手で抱えられるものなんて、そんなに大きくも遠くもないんだからよ」
「え?」
「英霊なんて呼ばれても、俺らも所詮は人だしよ。偶には誰かに寄り掛かるのもいいもんだ。うちのマスターは……まぁ、まったく力にはなれんだろうが相談相手としては上々だぜ。必要なら、力になってくれそうなやつを見繕ってくれるしな。以上、らしくもないことを言ったが義理は果たしたぜ。じゃなー」
フェリシアがその真意を問い返すより早く、至極あっさりとその場を後にするオリオン。
その何とも奇妙な後姿を見送っていたフェリシアだが、少し間をおいてようやく飲み込むことができた。
「私は、励まされたのでしょうか?」
答えは返ってこない。だが、きっとそういうことなのだろう。
「それに、義理を果たしたとは……まったく、あの方は」
軽く息をつき、すでに青くなった空を仰ぐ。おそらく…というか間違いなく、立香の差し金なのだろう。どの時点でこうなることを予期していたのか知らないが、まったく大した慧眼ではないか。
おそらく、ジャンヌをはじめとした真面目なサーヴァントたちにアドバイスをされても、返って自分の至らなさに沈み込んでいただろう。相手がノリの軽い、ちゃらんぽらんなオリオンだからこそ軽く受け止めることができた。今のフェリシアには、ああいう手合いの方がいいだろうと察したからこその采配。戦術や戦略、あるいは政治については素人に毛が生えた程度で専門家には到底及ばない立香だが、心の問題については見事の一言だろう。
まぁ、それはそれとして、颯爽と去っていったオリオンだが……。
「ダーリン、今のなに? もしかして浮気?」
「ちーがーいーまーすー!!」
「ぷっ……クククククククク」
ふわふわした絶世の美女に詰問されている彼を、果たして弁護すべきか否か、そこが問題だ。
あいにくと男女の仲の機微には疎い。弁護することで、むしろ事態をややこしくしてしまうかもしれない。なので、ここは丁重に無関係を決め込むことにする。たとえ、堪え切れずに笑いを漏らしていたとしても、他意は全くないのである。
その後、少々香織と気不味くなったりもしたが、フェリシアが特に沈んだ様子もないこと、なにより立香の仲介もあって二人の仲がこじれたりすることはなかった。むしろ、大切な誰かのためにああして突撃できる香織にはより一層好感を抱いた。香織としても、フェリシアに負い目こそあるが隔意はない。多少のぎこちなさはあれ、両者の仲が深まるのは自然な流れだろう。
それに香織としても、フェリシアに相談したいことがあった。
「変成魔法を、ですか?」
「はい。明らかに、私はパーティの中で弱くて、みんなの足を引っ張っているから……」
「ですが、カオリ殿は治癒師…むしろパーティの生命線です。皆があなたを守り、傷を負った皆をあなたが癒す。それ本道……というのは、一流の治癒師相手に今更言うことではありませんね」
「わかっては、いるんです。自分の役目とか、やるべきこととか、逆にやっちゃいけないことも。私は前に出て戦えるステータスじゃないし、そういう技能もない。でも、それでも私はみんなと肩を並べて戦いたい。どんなことでも、ユエに負けたくないんです」
「…………………」
「それに、私が強くなればみんなもその分思い切り戦えるはずですよね」
確かに、香織の言うことにも一理ある。香織を守る分の戦力に空きができれば、その分だけ自由度が増す。ステータスや技能を考えれば現実的ではないが、可能になれば確かに効果的だろう。
そして、フェリシアの「変成魔法」にはそれを何とかする「インチキ」が存在する。
「…………わかりました」
「じゃあ!」
「ですが、皆さんとよく話し合った上で、です。私の一存では決められません」
「わかりました。必ずみんなを説得します!」
香織の決意を覆せるようなものなどこの世のどこにもいないわけで……結論は、この時点で出ていたといえるだろう。
一番渋ったハジメですら、最終的には折れてしまって……物は次いでとばかりに、残る面々も変成魔法の恩恵を受けられないか色々試すことに。ただ、ユエ・シア・ティオの三人に関して言えば、フェリシアとしても体に手を加える余地がほとんどないというのが実情だった。少なくとも「天魔転変」を使う余地がないくらいには。
なので、残る香織の身体と適合しそうな魔石を探してはいるものの、今のところ「これは」というものはない。他者にかける「天魔転変」は割と一発勝負なところがある。一度魔石を馴染ませると、他の魔石を使うことが難しくなるのだ。今のところ特に香織と相性の好い魔石は手元にないことから、そういった魔石が見つかるのを待つか、改めてオルクス大迷宮に潜り、そこそこに相性の好い強力な魔石を使用するかのどちらかになるだろう。
ちなみに、ハジメのパーティで唯一除外されたハジメだが、彼については既に色々混ざっているので当然手を加える余地はない。ないのだが……
「は? 俺の身体を調べたい?」
「はい。ハジメ殿の身体は私のモデル・キマイラの言わば理想形です。是非、参考にさせていただければと」
「……まぁ、アンタには香織たちも世話になってるし、構わねぇっちゃ構わねぇが……」
「ありがとうございます」
「ただし、あいつらの説得はアンタが何とかしろよ」
「説得? ヒッ!?」
後ろを振り返れば、そこには背後に般若や雷雲を纏う龍を背負った香織とユエをはじめとしたパーティの皆さん。
ハジメの身体を隅々まで調べるとなれば、彼女たちが黙ってはいない。たとえ、フェリシアにそう言った意図がないとしても、だ。まぁ、最終的には手に入れたデータを提供することで交渉は成立。ちなみに、データの提供はフェリシアの発案ではない。誰の発案かは……聞くまでもないだろう。
一応発案者曰く、これは自分の天職的に正しい要求だということだが。
「べ、別に他意はないよ? でも、ちゃんとしたデータがあった方が回復魔法もかけやすいってだけだから!」
もちろん、それを鵜呑みにした者はほとんどいない。
また、それとは別に「天魔転変」は使えずとも変成魔法による体の調律は可能ということで、試しに受けてみたところ……最も効果があったのは色々混じったハジメ。フェリシア曰く“雑多”“まともに機能しているのが奇跡”のような状態だったらしく、調律後は目に見えるほど魔力の流れがよくなり、身体のバランスも改善された。ただ、フェリシアからは……
「義手と生身の腕では、やはり重量の差から体に歪みが生じやすいですね。定期的に調律する必要があるので、そのことはお忘れなく。あと、魔物を摂取することによるステータスの向上は体のバランスも変化すると思われるので、その際にも注意が必要でしょう。
私のことは抜きにしても、小まめに経過を観察する必要があります。よろしいですね」
と注意された。それを聞いた香織から「私よりずっと主治医っぽい」とジト目で見られたりもしたとか。
ついでに、ティオやシアもフェリシアの調律をことのほか喜んだ。なにしろ、長年の悩みが緩和されたのだから。で、その悩みというのが……。
「お~、体が軽いですぅ。特に肩!」
「うむ、軽いのぅ。肩が!」
どうして肩を強調するかは、まぁ御察し。二人ほどではないが一部が豊かな香織も同意見で、ユエは共感できなかったということで理解してもらいたい。
その際、ユエが光のない瞳で呪い殺さんばかりに三人の一部分を睨んでいたのは秘密だ。おまけで、フェリシアの手を握り「……ん、同士」「あの、どういう意味でしょう?」なんてことがあったりもしたが、意味は分からない。
そんなこんながあって数日が経ち、皆は【海上の町エリセン】から西北西に約三百キロメートルの海上にいた。
目的は、当然ハジメたちがミレディから聞いた七大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】。
曰く、“月”と“グリューエンの証”に従え。
詳しい場所も、どうすればたどり着けるのかも不明点ばかり。方角と距離だけを頼りに大海原を進み、昼間のうちにポイントまで到着して海底を探索したものの、特に何も見つけることは出来なかった。
立香の方でも手は尽くしているが、海上ならいざ知らず海中行動に適したサーヴァントは今回召喚されていない。
一応、ポイント周辺の水深は他より浅いようなので、何かある可能性はある。あとは、ミレディの言う通り月が出るのを待つしかない。その結論に至った際、「私?」「茶々入れんな!」というどこぞの女神とマスコットのやり取りもあったが、今は関係ない。
とりあえず月が出るのをのんびり待つことにし、立香とマシュは甲板から水平線を眺めていた。
ちょうど、今まさに太陽が水平線に沈みゆく真っ最中。視線の先では空と海が赤とオレンジに染まり、視線を転じれば空がグラデーションを描き、反対側は既に宵闇に飲まれつつあった。中々に壮麗な光景を息をのみながら、二人は静かにグラスを傾ける。中身は酒精ではなく、エリセンで購入したトロピカルジュースである。他の面々も、今は思い思いに過ごしている。
例えばジャンヌは召喚したクジラの背に乗ってジークに膝枕をするのに忙しいし、マルタはすっかりオーバーヒートしたフランを扇いでいる。オリオンは懲りずに女性陣に粉をかけようとしたのを見つかり、“狩猟”の女神が“漁業”の女神になる手伝いをしている。具体的には、簀巻きにされた上で木の棒の先から糸でつるされている。はてさて、いったい何がかかるやら……。
とそこへ、なにやら形容しがたい表情を浮かべたフェリシアがフォウを肩に乗せて甲板に上がってきた。
「フェリシアさん?」
「えっと、どうかした?」
「ぁ、お邪魔でしたか。申し訳ございません」
「いや、別に邪魔ってことはないんだけど……」
久々に眉間に深い皺を刻み込んだフェリシアに一抹の不安がよぎる。最近はだいぶ眉間の皺も薄くなり、リラックスした様子を見せていたのだが……いったい何があったのだろうか、と。
「その、実は先ほど、ハジメ殿の部屋の前を通ったのですが……」
「フォ~ウゥ……」
「あ~……もしかして、なんというか、その……」
「お二人と仲良くなさっていたり、とか……」
「いえ、そういうわけではないのです。というか、部屋にいたのはティオ殿のようで……」
「ティオ?」
「ティオさんだけ、ですか?」
「……いえ、ハジメ殿もご一緒でした」
なんとも歯切れの悪いフェリシア。ティオがハジメに思いを寄せているのは周知の事実だ。まぁ、多少その方向性がアレではあるが…思いは本物だ。だから、彼女がハジメの部屋にいたとしても……まぁ、おかしいということはないだろう。
問題なのは、ティオとハジメが二人で密室という状況だ。まさか、ついに香織とユエだけでなく、ほかにも手を出す気になったのだろうか。それは確かに、フェリシアが難しい顔をするのも無理はないだろう。さすがに、他人の情事を見るか聞くかすればそうなる。
しかし、だとすれば先にシアがそうなるのではと思っていただけに、驚きを隠せない。あとでシアのフォローでもした方がいいかな、と思っていたところで、どうにも様子がおかしいことに気付く。
「フェリシア?」
「ぁ、いえ、わかっています。わかってはいるのです。世の中には様々な愛の形があると。ただ、その……重々しい打撃音が響く度に、艶めかしい声で『もっとぉ』とか『いい』といった叫び声? が聞こえてきて……私は、私はいったいどうすれば……」
「フォウフォウ! フォ――――ウ!!」
「あ~……」
「……それは、その、なんと言えばいいか」
ティオの性癖は既に立香たちの間でも周知の事実だ、というか本人が隠していないのだから、ばれるのは時間の問題だった。立香とマシュは早々に「そういうもの」ということで思考を放棄した。世の中にはさっさと諦めてしまった方がいいことがあることを、二人はよく知っている。
しかし、生真面目なフェリシアはまだその境地には至っていない。初めのうちは若干現実逃避気味に「……なるほど、苦行ですね! 日々自らを追い込むその克己、感服いたしました!!」とか錯乱気味に言っては、「そんな汚れを知らぬ
とはいえ、現実を認めたといっても、彼女にはアレをどう受け止めればいいかわからない。ティオは性癖こそアレだが、思慮深く義に厚い竜人族の見本のような人物だ。だからこそ、その現実に頭を抱えてしまう。ユエあたりはその辺にすごく共感してくれるのだが、「諦めて」としか言ってくれない。当然、他の面々もこれといったアドバイスはなし。というか、「そういうもの」と諦める以外に対応のしようがないのだ。
フェリシアもわかっている、わかってはいるのだが……そもそも、現実を前に簡単に諦めがつくようなら、こんな茨の道のような生き方は選んでいない。彼女は、とても“手を抜く”ということが苦手なのだ。
「諦めるって、どうすればいいんでしょう?」
「……普通諦め方を相談されるって、ないよね?」
「はい……」
「ンキュ~」
諦めない方法には心当たりのある二人だが、諦めるにはどうしたらいいか相談されても困る。多分、他の連中も同じだろう。フォウも困り果てた様子でうなだれている。
そのまま、沈みゆく夕日を前に実のない励ましを送る二人。
気づけば、いつの間にか日は完全に没し、代わりに月と満天の星々が空を彩る。間もなくハジメたちも甲板に上がってきた。ただハジメは忌々しそうに、ティオは艶々した様子で。まぁ、彼女にとってはご機嫌な時間だったのだろう。ハジメの様子から、「いつものこと」だったことは想像に難くないが。
「聞くなよ」
「聞かないよ。それより、ほら」
「ああ」
立香は懐から【グリューエン大火山】攻略の証であるペンダントを取り出しハジメに渡す。サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれ穴あきになっている。
エリセンにいた時に色々試しては見たが、その時には特に何も起こらなかった。だが、今回は違う。
ペンダントを月にかざしてみると、ちょうどランタンの部分から月が顔を覗かせている。特に変化がないので「これも違うのか?」と首をかしげるが、そこでようやく変化が訪れた。
「……ランタンに光が溜まってる?」
「はい、大変幻想的です」
「これは、いったいどういう理屈なのでしょう?」
なんともフェリシアらしい感想に、思わず立香は苦笑を浮かべる。
隣では香織とシアが「綺麗」とうっとりしているが、彼女としてはそちらの方が気になるらしい。
理屈の方はわからないが、どうやら場所と時間によって機能する一種のアーティファクトなのだろう。場所が違ってもダメ、時間が違ってもダメ。この場所で、月の光にかざす、それが道を示す条件なのだ。
やがてランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。
「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」
「全くだ。すんごいファンタジーっぽくて、俺ちょっと感動してるわ」
“月の光に導かれて”という何ともロマン溢れる道標に、心震わされるハジメ。サーヴァントたちですら、「おぉ~」と素直に感嘆の声を漏らしている。ある意味、ファンタジーそのものであるサーヴァントたちからのこの反応は、ある意味最大級の賛辞だろう。
とはいえ、のんびりもしていられない。なにしろ、ペンダントのランタンが何時まで光を放出しているのか分からないのだ。一行は早速、導きに従って潜水艇を潜航させる。
夜の海中は真っ暗…どころの話ではなかった。限りなく純粋な“闇”に近い“黒”で満たされ、潜水艇のライトとペンダントの放つ光が混じり気のない黒を切り裂いている。
指し示すは海底の一点、岩石地帯だ。
無数の歪な岩壁が山脈のように連なった底は、昼間にも探索した場所だ。その時には何もなかったのだが……潜水艇が近寄りペンダントの光が海底の岩石の一点に当たると、音を響かせて地震のような震動が発生し始める。
間もなく岩壁の一部が真っ二つに裂け、扉のように左右に開き出した。その奥には冥界に誘うかのような暗い道が続く、ここが大迷宮への入り口で間違いないだろう。
「むっ」
「どうしたルー…ジャンヌ?」
「もしかして啓示?」
「はい。そのペンダント、少々見せていただいても?」
「ん? ああ」
ハジメからペンダントを受け取り、細部にわたって観察するジャンヌ。
啓示は目標の達成に関する事象全てに適応し、彼女のそれはAランクと非常にランクが高い。その精度は信頼に値するが、他者に説明するには少々難がある。なので、最終的には一つの事柄に集約される。要は、ジャンヌの言を「信じるか否か」だ。
その間にも潜水艇は扉をくぐり、内部へと侵入を開始する。
ジャンヌが啓示を受けたということは、逆に言えば啓示なしだと少々面倒な何かがあるということ。少なくとも、このまま真っすぐに進めるわけではないだろう。
「ハジメ」
「まぁ、特に当てがあるわけでもないんだ。とりあえず、頼りにさせてもらうさ」
「はい。では……」
そのままジャンヌの指示に従って潜水艇を操作するハジメ。
ジャンヌの指示がなくても何とかはなっただろう。ただ、気づけないと本当にそこから先に進めない仕様だったので、彼女の啓示はありがたいものだった。少なくとも、おかげで無駄な時間を浪費することはなかったのだから。
そうして一行は第一関門を抜け、【メルジーネ海底遺跡】に足を下す。あるいは、この大迷宮が作られて初めての挑戦者として。
実はなのは熱再燃に伴い、なんと~く「なのは」と「FGO」のクロス案が浮かんでしまいました。というか、だれか「なのは」と「プリヤ」のクロスとか書いてくれねぇかなぁ……と思っていたら、いつの間にか屈折して「FGO」になっていたんですけどね。
そのうち欲求の発散がてら、「やみなべのネタ倉庫」にでも試作品をぶっこむかもしれません。