ありふれた職業と人理の盾   作:やみなべ

40 / 48
何とか平成のうちに挙げられました、一安心。
できれば、連休中にもう一話行きたいなぁ……。


033

兎人族。多種多様な特徴を有する亜人族の中でも、とりわけ“容姿”に定評のある兎の耳と尻尾を有した種族だ。

総じて容姿に優れ、“美しい”というよりも“可愛らしい”その外見から、積極的に奴隷の売買を行う帝国などでは“美しい”ことで評判の森人族と並んで愛玩奴隷として人気がある。

 

ただ、森人族と兎人族では“容姿”以外の評価に大きな隔たりがある。それはひとえに、彼らの能力と気質故だ。

兎人族は聴覚や隠密行動にこそ優れているが、他の種族に比べ基本的な肉体性能が低い。身体能力の高さが武器の亜人族にとって、これはある意味致命的だ。ただでさえ、亜人族は魔力を持たないが故に圧倒的不利な立場に置かれているというのに、頼みの身体能力すら低レベルでは……そのため、同じ亜人族からも格下と見られてしまう。加えて、温厚で争いを嫌う気質が災いし、命の危機を前にしても“戦う”ことを選べないことも多い。

脅威を前になす術もなく怯える兎人族の姿は、その容姿も相まって大いに嗜虐心をそそるらしく、彼らの愛玩奴隷としての人気の一因にもなっている。

 

反面、彼らの繋がりは極めて強い。脆弱かつ気弱で争いに向かない種族だからこそ、兎人族は助け合い、守り合う。親兄弟だけでなく、同じ姓を戴く集落の仲間たちも一つの共同体ではなく家族として捉え、一人のために一族全員が危地に臨むことを厭わない。

 

そんな兎人族だからこそ、フェリシアは竜人族と並んで各種族の橋渡しになれるのではと期待していた。

比類ない高潔さ故に厳しく己を律する竜人族が世界とそこに生きる各種族を見守り、誰よりも穏やかな心と絆の強さを知る兎人族が各種族の仲を取り持つ。世界は思うようにはいかないことを知っていながらも、そんな世界を願わずにはいられないフェリシアにとって、彼らは勇猛な熊人族や虎人族などよりも遥かに重要な存在だった。

 

そう、ちょうどこんな感じに……

 

「おお、フェリシア殿。ご覧ください、差し込む爽やかな朝日、小鳥たちの囀り……今日も実に良い朝ではありませんか」

 

イメージです。

 

「まぁまぁ、フェリシアさん。今日は西の花畑に行ってみませんか? ちょうどこの時期、色とりどりの花が咲き誇って、それは見事なものなんですよ。ねぇ、坊や?」

「うん♪ 僕もお花さん大好きなんだ、一緒に行こうよフェリシアお姉ちゃん!」

 

あくまでも、イメージです。

 

「っとと……いや、お恥ずかしい。危うく虫たちを踏んでしまうところでした。すまないな、お詫びに角砂糖でもどうだい?」

 

そしてこのイメージ、基本的にはそう間違っていなかったのだ……そう、ハウリアがハジメと出会う前までは。

だが現実は……

 

「どうした、もう終わりか! 所詮、貴様は“ピー”な子兎かっ! 膝に活を入れんか、この“ピー”するしか能のない“ピー”ウサギめ! なんだ、その“ピー”の様に萎れたそのウサミミは! ハッ、“ピー”な貴様には実にお似合いだ、この“ピー”野郎! どうしたっ! 悔しければガッツを見せろ! 出来なければ、所詮貴様は“ピー”くさい“ピー”にも劣った“ピー”ということだ!」

「なんだ、その腑抜けた殺気は! 生まれたての子猫の方がまだマシな殺気を放てるぞ! 爺ィの“ピー”の方がまだ気合いが入ってる! その調子じゃ、一人前になる頃には魔人族の襲撃が終わっちまうぞ! 腐れ“ピー”の“ピー”野郎共!」

 

爽やかな朝の森には到底似合わない、各所から響く聞くに堪えない罵詈雑言の数々。

 

「このクズどもめっ。トロトロと走るんじゃないっ」

「ふざけるな! 声を出せ!! “ピー”落としたか、クソ虫ども!」

「まったく、なんたるザマだ! 貴様らは最低のうじ虫だっ! ダニだっ! この世界でもっとも劣った生き物だっ!」

「口で“ピー”たれる前と後に“Sir” をつけんか、“ピー”ウサギ!」

「気に入ったわ、そこの新米。家に来て弟を“ピー”していいわよ」

「姉ちゃん!?」

 

温厚で平和的、気弱で争い事が何より苦手な森のウサギ……とは、もはや異次元の存在がそこにはいた。

 

「返事はどうしたぁ! この“ピー”共がぁ!」

「「「「「「「「「ッ!? サッ、Sir,Yes,Sir!!」」」」」」」」」

「聞こえねぇぞ! 貴様等それでも“紅き閃光の輪舞曲(ロンド)”、ボスの部下かぁ! 所詮は“ピー”の集まりかぁ!?」

「「「「「「「「「「Sir,No,Sir!!!」」」」」」」」」」

「バッカ違ぇだろ、“白き爪牙の狂飆”だって“霧雨のリキッドブレイク”」

「なんだ、お前は“白派”か“幻武のヤオゼリアス”。わかってねぇな、紅こそがボスの色。これなくしてどうすんだっての。お前らもそう思うだろ!」

「「「「「「「「「サ…Sir,Yes,Sir!!」」」」」」」」」

「ちっ、この決着はあとで必ずつけるからな……野郎共、俺たちの特技はなんだぁ!」

「「「「「「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」」」」」」」」

「俺たちの目的はなんだっ!!」

「「「「「「「「「「殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!」」」」」」」」」」

「研ぎ澄ました殺意の刃で、俺たちの領域に踏み込む愚か者どもを斬り伏せろ!」

「「「「「「「「「「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」」」」」」」」」

 

そうそこには、朝日を浴びながら更なる魔改造に勤しむ新生ハウリアの姿。

 

「くっ……………!?」

「フェリシアさん!? 大丈夫ですか、気をしっかり持ってください!」

「心が、心が折れそうです。どうしてこんなことに……!」

 

もうハウリアの集落に世話になって早数日経つというのに、毎朝打ちひしがれてorzするフェリシア。

ちなみに、先ほどのイメージは丁度今朝フェリシアが見た夢の内容でもある。夢と現実の乖離具合が、余計ダメージを与えてくるのだろう。

 

「ハジメ君……」

「やっぱ、やり過ぎたかな……ってか、なんだ今の? あれまさか、俺の二つ名か? というか、二つ名を持つのが前提なのか?」

 

必滅のバルトフェルドこと“パル”をきっかけに、いつの間にハウリアの間では厨二病がパンデミックを起こしていたらしく、絶賛イタイ二つ名と妙に長くなった名前が彼らの間では大流行。それはハジメにも飛び火し、ハウリアたちは敬愛するボスたるハジメにふさわしい二つ名を巡って、日夜論争を繰り広げている。当然、ハジメと身内であるシアのメンタルをゴリゴリ削りながら。中でも、特にハジメの心を削っているのが二人いる。一人は……

 

「ボス、お気持ちはよくわかります。どちらも大変魅力的な二つ名ですからな、悩むのもやむなしでしょう。この深淵蠢動の闇狩鬼、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアも、実は最後まで悩んだ二つ名がありまして……」

「別に聞いてねぇよ。……いや、ここまでくると逆に気になるけど。どんだけ迷走しているのかって意味で」

「……シア。お主の父、何やら凄いことになっとるぞ」

「……考え過ぎて収拾がつかなくなった感じ」

「うぅ……父様は私に何か恨みでもあるんでしょうか? 娘を羞恥心で殺そうとしてますぅ」

 

シアの父であるカム・ハウリアだ。そう、ただの“カム”である。大事なことなのでもう一度言うが、“カーム……云々”ではなく、ただの“カム”だ。で、もう一人というのが……ハジメたちの後ろで絶賛大爆笑中のこの男。

 

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ハジメさんマジ厨二病、ワロスww」

「テメッ、ハッ倒すぞ立香ぁ!!」

「後にも先にも、ご主人様を正面から堂々と笑えるのはあ奴くらいじゃろうなぁ」

「……ん、流石いい度胸してる」

「でも、こういう時のハジメさんって年相応という感じですよね」

「あんまり仲のいい友達とかいなかったけど、いたら日本でもこんな感じだったのかなぁ」

 

実力的には月とスッポンな二人だが、立香に危害を加えようとするとサーヴァントたちが妨害するので、実現には至らない。今も、四角四面の超堅物(シグルド)がきっちりハジメの銃撃を捌いている。ちなみにそのさらに後ろでは、ハウリアたちを視界に収めながら「彼らは勇士? いえ、勇士ではない? でも……」とブリュンヒルデが勇士判定に困っていたりする。

まぁそれはともかく、サーヴァントという破格の戦力を有しているからというのもあるだろうが、それでもあのハジメを笑いものにできるというのは尋常ではない。まぁ、ユエたちの目には仲良くじゃれ合っている風に見えるようだが。

 

いや、実を言うとさらにもう一人いるのだが……。

 

「ふっ、そんな恰好はあなたには似合わなくてよ」

「あなたは……」

「ラナインフェリナ、“疾影のラナインフェリナ”と胸に刻みなさい、フェリシア・グレイロード。神に、世界に、時代に抗う者よ」

「いえ、あなたラナさんですよね」

「……シア、ラナなんて女はもういないわ。私は自らの弱さと決別し、生まれ変わったの。そう、ラナインフェリナとして!」

 

凄まじいドヤ顔でジョ○ョ的な香ばしいポーズを取る(自称)ラナインフェリナ。もう何度も繰り返してきたことだが、ツッコミを入れたシアの表情が漂白されていく。ハウリアでもしっかりもののお姉さんといった感じだった姉的存在が、今やこの有様。もう涙も出てこない。

 

「……そう、ですね。私は立ち止まってはいられません。ここは、頼もしい盟友ができたことを喜ぶべきでしょう」

「ええ、ハウリアはボスの名に懸けて来るべき日に備えるわ。そう、あなたが神に挑むその日のために!」

 

特に意味もなく、キレッキレのターンと共に宣言するラナ。その後ろでは、いつの間にか数名のハウリアがそれぞれに香ばしいポーズをとっている。

もちろんフェリシアもそれに気づき「何をしているんだろう?」的な表情を浮かべるが、あえて突っ込まない。きっとそういうものなのだろう、彼女は他の価値観や文化を尊重する懐の広い女性なのだ。

 

「私たちのボスはただ一人、だからあなたの下には就けないし、闇と影に生きる私たちと世界を導く貴女とは並び立つこともできないでしょう。でも、共に未来を切り開くことはできる。これは、そんな貴女への信頼と友情の証よ」

「なんと……ありがとうございます」

「ラナさん、まさかフェリシアさんまで……」

「ぜひ受け取って、この“神殺開闢の戦乙女、フェリエスシア・ムーン……」

「させるかぁ! ですぅ!!」

 

考え過ぎてなんだかよくわからなくなってきたそれを、シアが思いっきりぶった切る。ハジメのことはまぁ自業自得としても、フェリシアまで巻き添えにするわけにはいかない。

いや、ラナをはじめ家族たちに悪気がないのはわかっている。むしろ、彼らは彼らなりにフェリシアに感謝をはじめとした様々な感情を抱いているだろう。その思いを込めているのはわかる、わかるのだが…お願いだからやめてほしい。フェリシアは必要とあらば冷徹にも冷酷にもなれる女性だが、基本的には心優しく生真面目な人だ。そんな人に、親愛表現の一環としてそんなイタイ名称を送ったりしたら……

 

「申し訳ありません。うまく聞き取れなかったので、もう一度お願いします」

「いいえ、私の方こそ妹分の無礼を詫びるわ。まったく、いつまでもお子様で困ったものね。そんなことでボスのおそばにいられるのかしら?」

「……その哀れみに満ちた目、めっちゃ腹立ですぅ」

「ああ、そうだ。あなたを引き立てるポーズもあるのだけど……」

「余計なもんのっけんじゃねぇ! ですぅ!」

「なんと!? それはつまり、ハウリア族伝統の名と舞を授けて戴けると!」

「そんな伝統あるわけねぇだろ! ですぅ! ボケ倒すのも大概にしろや! ですぅ!」

 

かろうじて「ですぅ」をつけることでキャラを保とうとするシアだが、これはもう事実上の崩壊だろう。

そして、どうやらフェリシアはハウリアたちの二つ名や決めポーズを伝統的なものと解釈しているらしい。異文化とかに興味津々なフェリシアにとって、それはうれしいことなのだろうが……もちろん、シアが言う通りそんな伝統などハウリアにはない。

 

「……違うのですか?」

「むしろ、なんでそう思えるんですかぁ!」

「土地が変われば文化が変わります。例えば、魔人族の服装は肌の露出は避ける傾向にあります。こう言っては何ですが、ハウリアの皆様や海人族の方々の服装は、魔人族的には、その…“はしたない”と称されやもしれません」

(そういえば、海ですごく恥ずかしがってましたっけ……)

 

フェリシアは言葉を選んだようなので、おそらく実際には一般的にはもっと痛烈な評価をされるのだろう。

 

「ですが、そういった文化の違いを受け入れなければ、互いの溝を埋めるなどとても……ですから、まずは相手の文化を知り、歩み寄ることが肝要。というわけで疾影のラナインフェリナ殿、改めてご教授を……」

「だぁ~かぁ~らぁ~! そもそもそんな文化、ハウリアはもとより兎人族にも亜人族のどこを見渡してもないんですぅ!!」

 

むしろ、そんな文化を持つ種族だと思われたら関係各所に怒られてしまうこと請け合いだ。

その後、シアの涙ぐましい努力の甲斐あって、フェリシアの誤解は何とか解消された。どうやら、彼女的にハウリアがハジメの魔改造で物騒になったことはショックだったようだが、蔓延する厨二病はそういう文化という認識だったらしい。危ういところで、ハウリアへの間違った文化認識は阻止された。まぁ、今後のことを考えると、それにどの程度意味があったかは定かではないが。

 

なにしろ、この調子で百年も経てば、厨二病も立派なハウリアの文化になるのだから。そのあたりに関しては、金髪サイドテールの白衣っ娘に期待するとしよう。

ただ、現在進行形でハウリアにさらなる混沌がもたらされていることを知る者はまだ少ない。

 

「旦那、金時の旦那!」

「おう、どうしたラビット…いや、イオルニクス。今日もゴールデンなお天道さんじゃねぇか、お前もそう思うだろ?」

(なるほど、ゴールデンにはそんな使い方もあるのか。これは、バルトフェルドたちに早速教えてやらねぇと)

「へへっ、にしてもここはいいじゃんよ。故郷の山を思い出す、懐かしいぜ。ところでよ、金時じゃねぇ、ゴールデンと呼んでくれ。別に名前に不満は無ぇが、フィーリングの問題なんだよ、わかるか? 道義とか礼節の話じゃなく、魂…ソウルの話なワケ」

「わかるぜ、旦那。俺が“雷刃のイオルニクス”であるように、旦那は“ゴールデン”なわけだな」

「そういうこった。だが、なんだな。ここの奴らとは妙にフィーリングが合うっつーか、なんつーか。あの坊主もイカしたマシン作りやがるし、ライダーで現界できなかったのが残念じゃんよ。俺のベアー号をさらにクールかつゴールデンにしてくれたろうになぁ」

 

金時が木に背中を預けながら煙草をふかせば、イオも金時から一本貰ってそれに倣う。少し前までは煙草を吸う習慣はなかったのだが、絶賛厨二病発症中のハウリア族はすっかり彼のスタイルに魅せられてしまった。

例えば、カッコいい煙草の取り出し方や持ち方の研究が大流行し、さらにはハジメにサングラスやアクセの要望が相次いでいる。特に、精神年齢が近く、にもかかわらず「未成年の煙草! ダメ! ゼッタイ!」と金時が強く主張するために参加できない子どもたちは……

 

「ふふっ、どうしたのバルトフェルド。必滅の名…ではなく、ネーム()クライする(泣く)わ」

 

自身目掛けて襲い掛かる矢を軽やかに回避しながら、なんだかどこかで聞いたような言い回しをする兎人族の少女。

 

「笑わせ…ゴホン、えっと…スマイル? させるなよネアシュタットルム。俺のアローは、エイムし(狙っ)たターゲットを外さねぇ……ねぇ、外すってなんていうのかな?」

「え? し、知らないけど……」

 

なんだか、ますます大変なことになりつつあった。このままだと、厨二病に加えて「トゥギャザ〇しようぜ!」な面白おかしい人になってしまう。

そして、そんな大変な道を進みつつある子どもたちを見る一対の眼差し。

 

「……………………やべぇな。なんつーか、色々取り返しがつかなくなりそうだ」

「……そんなところで何をしている森の賢人」

「それオラウータンですからね!?」

「そうだったか?」

「まーいいですけど。で、どうかしたんすか、百貌の姐さん」

「いや、隠れ潜むは我らの性だが、随分と深刻な顔をしていたからな」

「いや、まぁ、なんつーか、俺らもちょっと我が身を顧みた方が良いのかなぁと……」

「?」

 

歯切れの悪いロビンの言に、首をかしげる百貌。だが、ロビンもさすがに単刀直入には切り出せなかった。まさか、百貌のような仰々しい話し方がハウリアの間で絶賛流行中の伝染病に通じるものがあった気がした、など。

 

「あ~、ところであいつらどうしてんです? 念のため、マスターには無断で監視してんでしょ?」

「ペイルは大人しいものだ、あれには本来人格も知性もないからな」

「でしょうね。能力的にはとんでもなく危ない奴だが、サーヴァントとしちゃ扱いやすい部類だ。問題は……」

「青髭に関しては、前回の召喚で聖女が喚ばれていたのが功を奏した。海でバカンスを楽しむ写真を渡しておけばいい。まぁ、時々奇声を上げるので、近所迷惑ではあるが」

「まぁ、ガキンチョ共にちょっかいかけないならいいんじゃないっすか?」

 

おそらく、立香はそのあたりも見越して二騎を自由にさせているのだろう。基本、各サーヴァントには行動の自由を認めるのが立香の方針だ。下手に制限しようとしても止めきれるものではないし、場合によっては関係悪化につながりかねない。それなら、彼らが目に余る行動に出ないよう誘導するに限る。

最近では、そのあたりの采配が熟練の域に入ってきた気さえするほどだ。

 

「それで、貴様はこれからどうするつもりだ?」

「大迷宮とらやに入れるようになるまでは、基本好きにしてていいってことなんでね。自由にさせてもらいますわ」

 

と言いつつ、亜人族たちは基本人間族に隔意があるだけに、これではナンパもできやしない。ハウリアの女性陣は……ちょっと困る。実に実目麗しいのだが、言動が……ああなる前だったら、ぜひお近づきになりたかったのだが。

 

「そういう姐さんは?」

「フェリシアに薬草の採取を頼まれている。なんでも、亜人族は魔法が使えない分、草木の薬効に精通しているそうだ。特にここハルツィナ樹海は固有種が多いらしくてな。魔人族や人間族には知られていない効能を持った植物も……」

「ああ、地球の熱帯雨林みたいなもんか」

 

なので、フェリシアは情報・意見交換のために足繁く都をとずれる傍ら、亜人族が持つ薬草知識を学びに薬師の下に度々足を運んでいる。これには治癒師である香織も同伴し、治癒魔法との併用も研究中だ。おまけで、スパイス的な使用もできないかと模索したりしている。

そして、そういう人手がいることに対して無類の力を発揮するのが分身能力を持つ百貌のハサンなのだ。

 

できれば、フェリシアとしても自分の足で直接自生しているものを採取したいところだが、何かと忙しい彼女にはそれは難しい。なので、百貌達には詳細なスケッチやどのような場所に自生しているかといった情報も、綿密に収集してもらっている。特にフェリシアに対して手を貸す理由のない百貌だが、マスターである立香の“頼み”と特にすることもなく暇であること、後は斥候の専門家として周辺の地形などの把握のついでに請け負った。

で、そのフェリシアだが……

 

「……今日の施術はここまでにしましょう。起きていただいて結構です」

「おう」

 

寝台の上に横になったハジメの身体から手を放し、手元のボードに何かを記入していく。

白衣を纏ったその後ろ姿はまさに「できる女医」といった感じで、ものすごく様になっている。

ちなみに、当初は同じく専門家ということで治癒師の香織も同席していたのだが、ハジメに施術する場合、目が血走るは息は荒いわでハジメが身の危険を感じたので出禁を食らってしまった。

 

「しかし、あんま実感わかねぇな。今進みはどの程度なんだ?」

「ようやく五割といったところでしょうか。進みが遅いのは誠に申し訳なく……」

「いや、それは仕方ねぇだろ。自分がいろいろ出鱈目なのは自覚してる。それに、別に手を抜いているわけじゃねぇんだろ?」

「はい。慎重に精査したうえで施術しているのは確かですが、そもそもハジメ殿の身体は私以上に多種多様な魔物の複合体のようなもの。正直、奇跡的なバランスで成り立っています。これを崩さずに調律するとなると、どうしても……」

「確か、一番早かったのが香織で、次がユエ、その次がシア、最後にティオだったか。ま、納得はいくな」

 

よりナチュラルに近い身体である方が精査・調律共に早いとするのなら、その流れは当然のものだろう。

肉体的にはただの人間である香織がもっとも自然に近く、基本は人間でありながら吸血能力を有するユエ、兎の特徴を有するシア、そして竜に変身する能力を持ったティオと人のそれから外れていく。

しかしこれは、同時に一つの事実を示していた。

 

「……つまり、アンタの仮説は正しいってことか」

「未だ確証はありませんが、十中八九間違いないかと」

「原種…とでも呼べばいいのか、それが人間で、そこから魔人族や吸血鬼族に派生し、さらに亜人族に分岐して、最後に一番離れているのが竜人族。元を正せばすべて同じ種……多種族間でも子どもを作れるなら納得のいく話だが、普通に進化してああはならないだろ」

「進化論、でしたか。私もそれを聞くまでは思いもしませんでしたが、皆様の身体を精査して疑惑は日に日に確信に近づいています。我らが元は同じ種であり、通常の進化とやらではこのように派生しないとなれば、可能性は一つでしょう」

「変成魔法か。ま、神代魔法の使い手だった解放者たちが神の直系とやらだったなら、神は神代魔法の全てを使えて当然なんだろうから、それも不思議じゃねぇけどな」

「ええ……」

 

とはいえ、今となっては最早その事実にはさほど意味はない。仮にこのことが世界で受け入れられたとしても、種族間の溝を埋める要因にはならないだろう。

強いて言えば、竜人族への「魔物と同じ」という認識を改められるくらいだ。それはそれで意味があるが、状況を抜本的に変える要素にはならない。

 

「しっかし、俺が言えた義理じゃないが、アンタも大概だよな」

 

脱いでいた衣服を身につけながら、何の気なしにそんなことを言い出すハジメ。当然、フェリシアは意味がよくわからず疑問顔だ。

 

「……とおっしゃると?」

「俺が向こうの世界の実在する、あるいは空想の兵器を再現しているように、アンタも向こうの知識を利用しているわけだ。危険度で言えば、いい勝負かもしれねぇなと。特に、今回召喚された奴らはアンタにとっちゃ興味深いサンプルなんじゃねぇか?」

「……そう、ですね。否定はしません。ですが、私のそれはまだまだ不完全。戦えば、個人としても総体としても私の敗北でしょう。なにより、私が戦うべきはあなたではありません」

「生成魔法と変成魔法、無機物と有機物。方向性は真逆だが、案外本質は同じなのかもしれねぇな。それ自体が戦力に直結するわけじゃねぇが、だからこそ他の神代魔法よりも自由度が高い。自分だけじゃなく、自分以外も強化できるしな」

「その点で言えば、生成魔法に軍配が上がるでしょう。生成魔法と違い、変成魔法は他の神代魔法を他者に使わせられませんから。私も使えればいいのですが……」

「オルクスを攻略すれば習得できるぞ。アンタなら問題はねぇだろ」

「問題は適正があるか、ですよ」

 

流石に、こればかりはハジメにもわからないので無言のまま肩をすくめる。ただ、少なくともハジメ程に生成魔法を使いこなすことは難しいだろう。

 

その後、ハジメが天幕を出ると入れ替わりで香織が突撃してくる。目当てはハジメのカルテ。曰く「治癒師として仲間の健康状態の把握は必須」ということだが、フェリシアは「個人情報です」の一言で斬って捨てる。

言い分は全く持って正しいのだが、私情が入りまくっているのは荒い鼻息と据わった目から明らかだ。

 

しかし、香織もそれくらいでは諦めない。未練たらしくフェリシアの裾にしがみつき、ずるずると引きずられること十数メートル。まったく離す気配のない香織に、流石のフェリシアもいよいよ強引にでも引き剥がすべきかと思ったところで、立香がひょっこりと顔を出した。

 

「あ、フェリシア丁度いいところに」

「リツカ殿、如何なさいましたか?」

「うん。ほら、この前相談されたこと。俺なりに考えてみたんだ」

「ああ、その件でしたか」

「何の話ですか?」

 

一瞬話すべきか思案したフェリシアだが、こと異世界出身である香織たちにはわざわざ隠すほどのことでもないと判断し、念のためハウリアの皆には聞かれないよう場所を変える。

話した内容は、おおむね先ほどハジメと交わしたそれと同じもの。要は、この世界の人型の種族は元は同じ種であり、その源流に最も近いのが人間族であろうということ。そして……

 

「以前から頭の片隅にはあったのですが、この可能性に思い至ってから思いが強くなりました。亜人族は、名称の上でも差別されていると。あ、いえ…厳密に言えば吸血鬼族もそうなのかもしれませんが」

「差別、ですか?」

「はい。魔人族や竜人族は名が体を現しています。人間族は言わずもがなでしょう。吸血鬼族の場合、血を吸うという点から畏れも込めて“鬼”とついたのかもしれませんが。しかし、亜人族は違います。各種族は種族名と姿が一致しますが、総体としては亜人族として括られ、つまりは“人の亜種”とされています。細かな問題ではありますが、放置してよいものでもないでしょう。なので……」

「何か別の呼び名はないかって相談されたってわけ」

「なるほど、言われてみれば……」

 

異世界出身の香織ですら、「そういう名称」として深く考えたことのなかったことだ。ましてや、この世界で生まれ育った者なら疑問に思うことすらないだろう。

だが、フェリシアは長らくこの名称に違和感があった。果たして彼らは、“人の亜種”と呼ばれるような、一段劣った存在なのだろうか、と。その疑問は各種族が元は同じ種であり、変成魔法により意図的に分化された可能性に思い至り、そして実際にシアやハウリア族と交流する中で強まった。彼らは決して、他の種族に劣りはしないと。

 

同時に、いつか融和の時代が訪れた時、この名称はその妨げになると。“魔に長けた人”とも、“竜となる人”とも異なる、名称の裏に隠れた“人の亜種”という根底の認識がある限り。

だからこそ、フェリシアはもっと別の名称が必要だと考えた。彼らと自分たちが同列の存在だと意識できる、そんな名称が。

 

「私たちにも聞いてくれたらよかったのに……」

「申し訳ありません。なにぶん、繊細な問題だったものですから」

「確か、ハジメとアルフレリックさん、それにカムさんには相談してたよね。何か意見とか出てる?」

「ハジメ殿とアルフレリック殿からはまだ何も。カム殿は早々に案を出してくださったのですが……」

「まぁ、オチは見えてるよね」

「はい……きっと捻り過ぎてねん挫した名前を出してハジメ君に説得(物理)されたんじゃないかなぁ」

 

当然ながら、二人の想像は大当たりである。

 

「それで、立香さんは何か案があるんですか?」

「う~ん、俺としてもちょっと微妙かなとは思うんだけど、あんまり捻り過ぎるのもあれだし“獣人族”とかどう?」

「ああ……大方の亜人族に特徴は捉えてますし、魔人族や竜人族と並べても違和感ないですもんね。でも……」

「問題は獣の要素を持たない森人族や土人族がどうとらえるか、ですね」

 

なにしろ、これが原因で亜人族間でのいさかいの種になったりしては笑い話にもならない。

立香が難しい顔をして提案したのも、その可能性を考慮してだ。

 

「とはいえ、他に両案がないのも事実。とりあえずは、アルフレリック殿に提案してみるとしましょう」

「まぁ、当事者に意見を聞くのが一番か」

「ちょうどこれから会談の予定なので、そこでうかがってみましょう」

「あ、じゃあ俺も行くよ。一応提案者なわけだし、香織は?」

 

そう尋ねたところで、甲高い音がハルツィナ樹海に響き渡った。

それは部外者である立香たちの耳にも明らかな、緊急事態を知らせる警報音。立香たちが訪れた時ですら鳴らされなかったそれが鳴り響く。その意味を、立香たちは即座に理解した。

 

「百貌! ペイル!」

「ココニ イル」

「用件はわかっている。取り急ぎ、十名が情報収集に向かった」

「流石! ペイルも念のため索敵をお願い」

「ショウチ シタ」

「私、ハジメ君たちと合流してきます!」

(まさか……ですが、いくらなんでも早すぎる)

 

一つの可能性がフェリシアの脳裏をよぎるが、即座に否定する。彼女たちが彼らに与えた被害は決して小さなものではない。とてもではないが、これほどまでに短期間のうちに行動できるはずがない。

だが、現状でフェアベルゲン側に緊急事態を知らせるほどの“ナニカ”があるとすれば、心当たりは一つだけ。

 

「フェリシア、どう思う?」

「……まともな神経をしていれば、ありえません。ですが、海底遺跡のあれを見た後では……」

「ありえない、とは言えないか」

 

メルジーネ海底遺跡で目の当たりにした過去の悲劇と当事者たちの狂気。

アレがいずれ再度世界に広がることは覚悟していた、だからこそ受け入れなければならない。

あの狂気の前では“有り得ない”などという言葉に意味はないのだと。ああなった者たちは、道理も何も無視して、ただ“神の為”に突き進むのだから。

 

(師よ、よもやそこまで……)

 

覚悟はしていた。していてもなお、師と仰いだ人物がこのような無謀に打って出たことに対し衝撃を受ける。本来のフリードなら、このような短絡的な行動に出るはずがない。

しかし、それでも彼が打って出たとするのなら……

 

(……それくらいの理性は、残っていると信じたい)

「俺たちもどう動くか、考えた方が良いかもしれないね」

「……はい。まずはマシュ殿やハジメ殿たちと合流し、カム殿とも意見を交えるべきでしょう。フェアベルゲンに委ねるのが最善ではありますが……」

 

それが最も混乱が少ない方法だろう。ハウリアは厳密にはもうフェアベルゲンの一員ではないし、立香たちにしてもハジメたちにしても部外者だ。下手な手出しは余計な混乱を招く。

だが、想定される相手が相手なだけに彼らだけで対処しきれるかというと……。

 

「リツカ殿、百貌殿をお一人お貸しいただきたいのですが」

「それは別にいいけど……」

「ハジメ殿はもとより、カム殿達も今はフェアベルゲンとは袂を分かった身。我らが介入するとすれば、ある程度形式を整える必要があります」

 

その時点で、立香もフェリシアの言わんとすることを理解する。そして、その必要性も。

 

「わかった。俺はそういった政治とか全然だから、任せる。聞いたね! 一人、通信機を以てフェアベルゲンまで! 指示はフェリシアが出す!」

「承知!」

(……私も、リツカ殿の様にありたいものです)

 

話の分かる上司というのは得難いものだ。特に立香の場合、必要とあらば権限をはじめ、責任以外の全てを委ねてくれる。要は、「責任はとるから好きなようにやれ」と丸投げしてくれるのだ。その能力がない者からすれば重荷になるだろうが、サーヴァントやフェリシアのような能力のある者にとってはその方がありがたい。

 

そして、そこまで信頼されたからには応えねばなるまい。

仲間として、騎士として。なにより、一人の……




全然関係ありませんが、事件簿ガチャ呼札十枚回したら特効礼装各一枚、新鯖各一騎引くという神引きでした。

すげぇ……呼札も石もまだまだ余ってるぜ。
これなら次のイベントも余裕だね! と言って爆死しそうで怖いですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。