立香と出会わなければDead Endまっしぐらな人ですけど、何かの奇跡で生き延びても闇堕ちして魔王様にピチュンされそう……お先真っ暗にも限度があるだろう。
数は力だ。
如何にハジメ一行やサーヴァントたちが数の差をものともしない、一騎当千を地で行く圧倒的な個であろうとも、その事実は変わらない。
真っ向から戦う分には、彼らは戦の鉄則を踏み砕く絶対的な理不尽の化身だろう。だが、その身一つでできることにはどうしても限界がある。
かつてハジメたちが経験した、湖畔の町ウルの防衛戦など顕著だろう。あの時、襲撃してきた魔物たちが広範囲に分散していたら、あるいは魔物たちを率いていた清水が戦術に通じていたなら、もっと苦戦を強いられていたやも知れない。
彼らがどれほど強くとも、一つの身体と一つの命を有した、一個の生命であることに変わりはない。広範囲、あるいは複数個所を同時に守るという状況になれば、どうしても手が回らなくなる。
ハジメなどは、自身が作り出したアーティファクトでこの点を補いつつあるが、それもまだ完全とは言えない。
これに関しては、その弱点を突かれる状況になるというのが想像できないのが大きいだろう。そもそも、先のような状況にでもならない限り、その弱点が浮き彫りになることはまずない。そして、彼にとってこの世界で身を挺してまで守りたいものなどほとんどない。
ウルの時は一応守るために戦ったが、対処しきれないと判断すれば彼はあっさりウルの町を放棄しただろう。まぁ、住民の避難の手伝いくらいはした可能性も無きにしも非ずだが。
とはいえ、ハジメにとってこの弱点はさほど緊急性の高いものではない。
しかし、フェリシアはそうはいかない。彼女の悲願成就には、どうしても“数”という力がいる。
だからこそ魔王国時代、ハジメたちにも比肩しうる力を持っていながらも秘密裏に同志を募り、一人でも多くの仲間を守るために腹心を手にかけ、裏切り者の烙印を甘んじて受け入れたのだ。
故に、フェリシアは旅の間も考えた。今の彼女の状況では、新たな同志を得ることは極めて難しい。先々のことを考えるのなら、自身を強化するだけでは足りない。
“さて、どうしたものか”
しかし、その旅の最中で一つの着想を得る。
未だ自分一人では実現しえないものだが、何もすべてを自分一人でやる必要はない。“できる者に任せる”、それが集団の強みだ。まぁ、それはそれとして他者の手を煩わせることなく実行可能にする当てもあるので、しっかりそれは手にするつもりでいるが。
「リツカ殿! ハジメ殿! フェアベルゲンより協力要請をいただきました。助力を、お願いできますか」
「もちろん」
「……」
二つ返事で同意した立香に対し、隠す気など微塵もないとばかりに「かったりぃ……」という顔をするハジメ。
シアやティオ、そしてミュウとの出会いを経て丸くなった部分もあるとはいえ、面倒事や厄介ごとにわざわざ首を突っ込むような博愛精神など、オルクス大迷宮に捨ててきた。そうしなければ生き残れないほど、彼の原点は過酷だったのだ。一度捨てたものを、早々拾い上げられるものではない。
そういったハジメの内面を理解しているだけに、立香もため息交じりに「ハジメ……」とボヤキはしてもことさら非難しようとは思わない。自分が「助けたい」と思ったとしても他人がどう思うかは別の問題であり、その考えを押し付ける権利などないことを理解しているからだ。
その点においては、フェリシアもまた同じ。「困りましたね」とばかりに思案顔だ。
つい先日魔人族侵攻への対策に動き始めたフェアベルゲンだけでは、到底この状況を切り抜けられよう筈がない。あちらは多少強引でも勝算があって仕掛けているのに対し、フェアベルゲンにはあまりにも時間が足りな過ぎた。立香側には“サーヴァント”という一騎当千を地で行く大戦力があるとはいえ、マシュとフェリシアを含めても数としては微々たるもの。戦場の一局面としてなら負けはないとしても、彼らのいないところで敗北してしまえば意味はない。だからこそ、ハジメ一行とハウリア族の助力は必要不可欠なのだ。
とはいえ、今のところハジメを引っ張り出すだけの理由はなく、当然“ボス”と仰ぐハジメが動かないのなら、“部下”を自称するハウリア族もわざわざ動きはしない。
しかし、フェリシアもハジメの人間性はおおむね把握している。ならば、それ相応の対応をとるだけのことだ。
要は、自身や仲間に魔人族の矛先が向くならいざ知らず、あくまでもこれは「魔人族と亜人族の対立」でしかないのが、ハジメが不干渉の姿勢を見せる理由だ。フェアベルゲンやハルツィナ樹海の危機など、対岸の火事に過ぎない。「勝手にやってろ」あるいは、「ま、精々がんばれ」くらいの感慨しかない。が、逆に言えば「魔人族の侵攻」という事実が、「ハジメ自身の問題」につながるよう切り口を変えて考えればいいだけの話だ。
「ハジメ殿の最優先事項は故郷への帰還、そのための手段としての大迷宮の攻略。これに相違はありませんね」
「まぁ、そうだな」
「だから、あちらから仕掛けてこない限り……いえ、敵意を向けるなり、ハジメ殿の邪魔をするなりしてこない限りはご自身とは無関係……果たしてそうでしょうか?」
「…………………何が言いたいんだ?」
「わかっておいでのことを問うのは、少々意地が悪いかと」
とぼけようとするも、穏やかな微笑みと共に言外に「おや、お分かりにならないほど鈍いはずがないのですが……」と
「ハジメ殿」
「チッ……ここらで主導権握っておきたかったんだが、そうもいかねぇか」
はぐらかそうかとも思うが、無駄な足掻きと悟りせめてもの意趣返しに舌打ちするハジメ。
図星をつくタイミングと相手の性質を読んだ上での言い回しの妙、加えて微かな変化を見逃さない洞察力。何より、ハジメが香織に対しては弱味……あるいはカッコ悪いところを見せたがらない事を把握した上での視線誘導。まだまだ、この手の腹芸ではフェリシアに一日の長があることを改めて痛感させられる。
「……
「ご明察の通りかと」
そう、フェリシアが言いたいことなど、ハジメも理解していた。同様に、ハジメがわざわざ不干渉の姿勢を見せた理由も、フェリシアは察していた。にもかかわらずあのような駆け引きをしていたのは、二人があくまでも“旅の道連れ”なのであって、決して“仲間”ではないからだ。
互いに狙いや思惑があるからこそ、優位を取っておきたいと思うのは自然なことだろう。特にハジメの場合、いずれ香織と相性の良い魔石が見つかれば、その施術分の対価として色々要求されるのは目に見えている。そういう事情もあって主導権が欲しかったのだが……対等に近い立ち位置で駆け引きを演じるには、フェリシアとハジメではまだまだ役者が違うと言わざるを得ない。
「わぁったよ。どのみち連中が俺の敵なことに変わりはない。敵は殺す、そのついでにフェアベルゲンに貸しを作るのもいいさ」
「ツンデレ乙」
「てめぇ……いい加減ドタマかち割るぞ」
それまで黙って静観していた立香が、絶妙なタイミングで茶々を入れるものだから“ビキッ”とハジメの額に青筋が浮かぶ。ミレディには及ばないものの、割とうざい。
その腹いせではないと思いたいが、瀑布の如き殺気を立香に叩きつける。常人なら錯乱するか気絶するかするところだろう。無論、立香とてビビっているかいないかで言えばもちろん怖いのだが、「お~こわっ」と零しながら肩を竦めるあたりに慣れを感じさせる。もちろん、前言撤回したりハジメとの付き合い方を変えたりするつもりは毛頭ない。
「それでリツカ殿。念のために確認しますが、仕掛けてきたのは……」
「魔人族で間違いないと思う。百貌達もまだ姿は確認できてないけど、見たことのない魔物が群れを成してるってことは……」
「そういうこと、ですね」
苦い表情を浮かべながら、その現実を受け入れる。
この世界で魔物の集団を運用できるのは、事実上ガーランド魔王国…フリード・バグアーしかいないのだから。
彼が直接出向いているかまではわからないが、フェアベルゲンの要請を受けるとなれば戦わざるを得ない。
……いや、逆か。フリードが、同族が出てきているからこそ、フェリシアが戦わなければならないのだ。
「いいの?」
「……是非もありません」
「なら、配置はどうする?」
「う~ん……今のメンバーだと作戦立案とかに向いている人がいないんだよね。強いて言えば青髭が元帥だったけど……」
「セイバーならともかく、キャスターのジル元帥ですと、その……」
「……ん。あの狂人の指揮とか、御免被る」
「え、ジルさんってそんなすごい人だったんですか!? ギョロ目のヤベェ系だとばかり思ってたですぅ」
「うぅむ、人は見かけによらんのぉ……」
本人の日ごろの行いの賜物でしかないとはいえ、散々な評価だった。何も言っていない香織も、全力で目を逸らしているあたり似たような感想なのだろう。
「ユエさんとティオさんはどうでしょう。お二人なら、そういったことも学んだりしたのでは?」
「まぁ用兵術も学びはしたが、妾自身は戦を経験したことはないからのぉ」
「……ん、私もそういうのは部下に任せて魔法をブッパする砲台だったから」
(というか、この二人なら指揮とかしてるより一人で暴れてた方が効果的っぽいもんなぁ)
「なんじゃろう。呆れられておるような、残念がられておるような……いまいち気持ち良くなれない目なのじゃ。これ立香、もちょっと冷たく蔑んだ目で見ておくれ」
「……む、何か失礼なことを考えてる?」
「いえ、なにも?」
素知らぬ顔で首を振る立香に、ユエが普段の三割増しのジト目を向けてくるが……この程度では動じない。
結局、消去法で最後の選択肢……フェリシアがその役を担うことに。なにしろ、フェリシアはユエを除けば唯一の大規模集団戦の経験者であり、騎士団長として作戦立案や指揮を担っていた身だ。知識はあっても経験のないティオ、戦場では専ら砲台となり指揮を部下に任せていたユエよりよっぽど適任だろう。
そして、決まってしまえばそこからは早かった。樹海中に散った百貌に情報を集めてもらい、それぞれの役割と配置を決めていく。
サーヴァントもハジメ一行も一騎当千の猛者揃い。なので、基本的には分散し、ハウリア族をサポートにつけて迎撃に当たる。また、残るハウリア族はいくつかの小集団を作り、ロビンや百貌と共に遊撃としてゲリラ戦を展開。ただし、各サーヴァントが分散することから、立香は前線近くで魔力供給に専念。同様に、貴重な回復役である香織もフェアベルゲンの薬師と協力して負傷者の回復を担当し、マシュが二人の護衛につく。
役割分担には特に異論は出ず、後は具体的な配置だが……まず、殲滅力の高いユエとティオが両翼に回りとにかく数を減らし、ハジメやシア、シグルドにブリュンヒルデ、そして金時が中央付近で迎え撃つ形だ。
「青髭とペイルはどうするの?」
「お二方にはリツカ殿の傍にいていただこうかと。なにぶん、その……」
2騎とも集団戦で猛威を振るうタイプではあるのだが、如何せん人格的・能力的に危険度が高すぎる。何かの拍子でタガが外れでもしたら、それこそフェアベルゲンにまで被害が出かねない。
なので、両者は最終手段として立香の目の届くところで待機させ、やむを得ない場合には出てもらう形に。樹海を海魔の巣窟にしたり、謎の病原菌でパンデミックを起こしたりしてはシャレにならない。
そして、当のフェリシアはというと……
「私は遊撃に回りましょう」
「あの、指揮とかしないでいいんでしょうか?」
「皆さまなら、大まかな配置と役割さえ決めてしまえば、後は各々の判断で行動すればよろしいかと。何分時間がありませんでしたから、付け焼刃の中で綿密な作戦や細やかな指示はかえって混乱を産みます。ならばいっそ、現場の判断に任せるのが次善の策。……まぁ、皆さまほどの実力者でなければ、採用できない策ですが」
香織の問いに答えつつ、策とも呼べない策なだけにフェリシアも苦笑を禁じ得ない。とはいえ、語った言葉は本心だ。フェアベルゲンとの密な連携は望むべくもないし、立香一行とハジメ一行でもそれぞれが個性の塊なだけに共闘は難しい。十分な準備時間と連携の訓練を積んでいれば話は別だが、今はそうではないのだ。
そして、それぞれの為すべきことが決まったのなら、後は迅速に動くだけ……なのだが、フェリシアはその前にある三人に協力を求める。
「ユエ殿! カオリ殿! ティオ殿! お願いします!」
胸中に渦巻く感情に蓋をし、凛とした顔で呼び掛ける。
同時にフェリシアの背後の空間が歪み、立香たちの協力を得てハジメが作り上げた宝物庫が解放された。オスカー・オルクスの隠れ家で手に入れたそれに比べれば容量は小さいが、今はこれで十分。
現れたのは、はっきり言ってしまえば“不気味”なブヨブヨとした三つの肉塊。呼ばれた三人がフェリシアの周囲を取り囲み、それぞれ肉塊に掌を向ける。
「「「“複魂”」」」
「……“転殻”」
三つの肉塊を三人の魔力の光が包み込み、続いてフェリシアの魔法が発動。
瞬く間のうちに肉塊が形を変え、人型を取り、細部が作り込まれていく。光が収まるころには、四人のフェリシアがそこに立っていた。
「配置はわかっていますね」
「「「無論」」」
「では……散!」
フェリシアの指示を受け、残る三人が百貌を一人ずつ伴って姿を消す。
立香たちにとってはそろそろ見慣れつつある光景だったが、それでも未だに違和感がぬぐえない。
「…………フェリシアのアレって、本人的にどうなのかな? 自分と全く同じ存在が目の前に何人もいるって、軽く錯乱しそうな気がするんだけど」
居心地悪そうに肩をもぞもぞさせる立香だが、マシュやシアといった術の行使に参加していない者も似たような感想らしく、いまいちパッとしない表情を浮かべている。
まぁ、彼らの反応も無理ないことだろう。フェリシアが自身の体細胞を“変成魔法”で所謂“万能細胞”に近いものに作り替え、増殖させたのが先ほどの肉塊だ。それに三人の“魂魄魔法”でフェリシアの魂を複写し、仕上げに“再生魔法”でフェリシア自身の肉体を再構築……つまり、先ほど散り散りになった三人のフェリシアは肉体から魂に至るまで、フェリシア自身に他ならないのである。
誰も立香の疑問に答えを見出せないという一種微妙な空気が流れる中、まだ割と抵抗感が薄い方だったらしいハジメがゆっくりと口を開く。
「そういや、サーヴァントの中には同一人物も結構いるんじゃなかったか? なのに、そんな感想なのかよ」
「それはそうなのですが、霊基や年齢が違っているので『自分と同じ存在』という感覚はないそうです。私たちとしても、『同一』ですが『別人』という認識なので」
「百貌もそれぞれ別人格だから、あんまりそういう感じはしないんだよね」
「あ~、それは何かわかる気がするですぅ」
「フォ~ウ」
「そんなもんか……」
サーヴァントの性質上、完全に同一霊基の英霊が同じ時間と場所に召喚されることもありえなくはないので、そうなったら話は別かもしれないが。
とはいえ、フェリシア自身はあまり抵抗感はないらしい。周りが思うほど違和感を抱かないものなのか、それとも『悲願成就』のための『装置』のように自らを捉える彼女の精神性故なのかはわからないが。
(そういえば、よく似た派生技能を持つ天職があると王国の図書館で見た覚えがありますね。確かクラスにも同じ天職の方がいたはずなんですが………………………………誰だったでしょう?)
なぜか名前と顔のどちらも思い出せないのだが、その天職が『暗殺者』だったことは憶えている。そして、もう百年以上に渡って習得した者のいない伝説的な代物であることも。どうやら、フェリシアもその派生技能からこのアイデアを思い付いたらしい。本人が言うには『分身』ならぬ『分体』とのことで、肉体はともかく中身である魂が複製したものであることから活動時間に制限はあるものの、その間は一個の生命であるため“消える”ということがないのが『分身』との違いらしい。
加えて、大きな違いがもう一つ。あの肉塊は前述したとおり一種の万能細胞、つまり負傷・欠損した箇所に埋め込み然るべき手順で処置すれば、例えば失われた内臓や四肢すらも復元が可能になるのだ。スタイル的にも能力的にも負傷するのが前提の上、香織達ほど再生魔法に適性のないフェリシアなりの回復手段というわけである。
今はまだフェリシア自身でなければ拒絶反応が出てしまうが、いずれは万人に適合するよう調整するのが目標らしい。フェリシア一人の継戦能力が高くても意味がないからだ。
「お待たせいたしました。準備はよろしいでしょうか?」
「……ん、大丈夫」
「魔晶石も持ったしのぉ」
詳細な情報はいまだ得られていないとはいえ、仮にも一国に向けて差し向けられた戦力だ。かつてハジメたちが経験したウルの町での戦いに匹敵する、あるいはそれ以上の数がいるかもしれない。あの頃よりさらに力をつけているが、それを理由に慢心するほど緩んではいない。それぞれに魔力補給用の魔晶石を身に付け、回復役の類も宝物庫には十分なストックがある。
「ところでフェリシア、最後に一つ提案があるんだけど」
「?」
「今回の戦闘方針だけど、“命を大事に”が良いと思うんだ。どうかな?」
「……っ」
立香の言葉に、思わずフェリシアは息を呑む。同時に気付く、自分が思っていた以上に肩に力が入っていたことに。
これから戦うことになるのは同胞たる魔人族であり、ほんの二ヶ月前には当たり前のように肩を並べていた戦友たち。望む未来の為、彼らを止めなければならない。フェアベルゲン側の被害を可能な限り小さく留め、ガーランド軍を撃退する。そのためには、フェリシア自身が前に出なければならない。きっと…いや、間違いなくどこかでそう思っていた。それこそ、自分自身の身体のことなど……。
(ああ、これは確かに諫められて当然でしょうね)
使い捨て前提の『分体』を生み出せるようになってからというもの、己の命の扱いがやや軽くなっていることに、フェリシアはようやく気付いた。いったい何のために自分は故国を離れ、裏切り者の汚名を被ってまで生き延びる道を選んだのか。それを思い出し、自身の認識を改める。
確かに亜人族への被害は最小にとどめるべきだが、ここはまだフェリシアが命を賭す場所ではない。命の使い方を決めているからこそ、軽く扱ってはならないのだ。
「ええ、“命を大事に”。大変良い方針かと」
フェアベルゲンとガーランド魔王国。
これまでにも小競り合い程度ならいくらでもあった。ただ、亜人族は樹海という地の利抜きには劣勢に立たされることから積極的に攻勢に出ることはなく、魔人族にとっては人間族こそが最大の敵であったことから、全面戦争はもちろん大規模戦闘自体ほとんど発生したことがない。
故に、これは数百年で初となる両国・両種族の全面対決。にもかかわらず、その戦端はあまりにも静かに切って落とされた。
最初に接触したのはフェアベルゲンの警備隊。彼らは樹海への侵入者が現れたことを知るや、即座に行動を開始した。樹海を進むその一団を確認した彼らは、かつてハジメたちが足を踏み入れた時とは違い、亜人族の同行者がいないことから姿を現して誰何するような真似はせず、情報を集めて撤退するつもりだった。
所詮、亜人族抜きで樹海を進むことなどできないという確信があったが故の余裕。樹海は広大で、運よく多少進んだくらいではどの部族の集落にも近づけないからだ。また、ハジメたちとの遭遇もあり迂闊に姿を見せるのは危険と考え、マニュアルが更新されていたこともある。その意味で、彼らの判断と行動は限りなく最善に近かった。
だがしかし、現実には彼らが情報を持ち帰ることはなかった。その前に、侵入者の姿を確認して引き返そうとしたところで、全員が引き連れられた魔物の餌食となってしまったからだ。
無残な骸を晒す亜人族の戦士たち。ある者は頭蓋を砕かれ、またある者は臓腑を貫かれ、中には現在進行形でハラワタを貪られている者までいる。目を逸らしたくなるような惨憺たる有様だが、その中を進む魔人族の若者は興奮を抑えられない様子で斜め前を進む上官に語り掛けていた。
「隊長。圧倒的ではありませんか、我が軍は」
「…………」
「所詮は薄汚い混ざりもの風情、我らの敵ではありません。このまま……」
「ベルゲン班長。報告は簡潔に、だ」
「失礼いたしました、セレッカ副隊長。周辺の亜人共の掃討は完了、とりこぼしはありません」
「よろしい。このまま粛々と進軍せよ。獣如き、正面からぶつかったところで何ほどのものでもないが、我らは神に選ばれし種。勝って当然、勝ち方にも品格が求められるのだということを肝に銘じておくように」
「ハッ! 承知いたしました」
敬礼し、足早にその場を去っていく部下の背を見送るセレッカの目には、ありありと侮蔑の色が宿っていた。
(小物が。偉大なのはこれらの魔物を生み出したフリード将軍であって、貴様ではないというのに。その程度のことすらわからんとは……)
気が大きくなる気持ちがわからないわけではない。しかし、そんな己を引き締めてこその優良種ではないのか。
その自負があるからこそ、自分自身を律することもできない部下に苛立ちが募る。
「ダヴァロス隊長、なぜあのような者を……」
「口惜しいが、手が足らんのが実情だ。我慢しろ、セレッカ副隊長」
(グレイロード…あの裏切り者めが……!!)
現在、ガーランド魔王国軍内部はガタガタだ。元フェリシア直下の神衛騎士団の団員は全員が国内での任務に従事し、国外への派遣部隊には一人も参加していない。なぜなら、彼らの全員がフェリシアと通じている裏切り者の可能性があるからだ。腹心を殺して逃げた上に追随する者がいないことから、謹慎や処分を受ける者はいなかったが、だからと言って無条件に信用されているわけではない。さらに、フェリシアの交友関係は神衛騎士団内部に限った話ではない。フリード直属の特務部隊にも彼女の親友がいたし、数こそ多くはないが疑わしい者はそれなりにいる。そういった事情から、現在軍内部は疑心暗鬼に囚われてしまっているのだ。
当然、大事な作戦に疑わしい者を参加させられるはずがないことから、こうして兵の質は相対的に下がらざるを得なかった。そういった諸々全てと、その原因たるフェリシアに対しセレッカは苛立ちを通り越し、憎悪すら抱いていた。
「ギチギチギチッ」
「ジージーッ」
「ヂヂヂヂッ」
小さく金属がこすれるような鳴き声をあげる魔物たちもそうだ。本来なら、王国や帝国にも彼らが差し向けられるはずだった。ところが、フェリシアの裏切りと共に行われた妨害工作のおかげで、多くの魔物が失われた。その結果、当初の作戦を大幅に変更せざるを得なかったのだ。
できればフェリシアが身を寄せたであろう王国が準備を整える前に潰してしまいたかったが、ハルツィナ樹海と違って気付かれずに大部隊を移動させることは困難。そのため、ライセン大峡谷に隣接するハルツィナ樹海内のフェアベルゲンから攻めることに。
スマートに進められるはずだった大いなる戦いが、このような苦肉の策に貶められて納得がいくはずがない。
各地の大迷宮攻略にしてもそうだ。オルクス大迷宮やライセン大峡谷にあると思われる大迷宮の攻略も進めるはずが、そちらに回す戦力がないことから作戦は凍結。場所が分かり、なおかつ人間族の領域にありながら手が入り切っていないグリューエン火山の攻略を、フリード単騎で行うことになってしまった。予定では、一人でも多くの魔人族に神代魔法を習得させ、魔人族全体の戦力底上げを図るはずだったというのに。
なにより、かつて神衛騎士団長“フェリシア・グレイロード”は大将軍“フリード・バグアー”に続く者として、魔王と多くの同胞たちから期待と尊敬を一身に集めていた。この二人がいる限り…いや、この両名をきっかけに、魔人族は
セレッカ自身、フェリシアを畏怖すると同時に憧憬の念を抱いていた。そして、魔人族の若い世代になるほどそういった傾向は強い。誰もが彼女を目標とし、その背に続き、いずれ並び立つのだと奮起していた。
だからこそ、初めて「フェリシアの裏切り」の報を聞いた時は、むしろ伝令部隊が誤情報を持ってきたのではないかと思ったほどだ。
だが事実としてフェリシアは自らの副官を手にかけ、部下たちすら置き去りにして人間族と共に姿を消した。それを知った時の彼らの落胆と失望、そして憤怒は如何程だったことだろう。あれほど目をかけてくれたフリードの信頼を裏切り、同胞たちの未来への確信を損なった罪は計り知れない。何度思い返しても、煮えくり返るような怒りがこみあげてくる。そんなセレッカに気付いたのか、ダヴァロスは軽く肩を叩いて気持ちの切り替えを促す。
(ポンッ)
「隊長……」
「今は目の前の作戦に集中しろ、セレッカ副隊長。勝つにしても品格が重要なのであろう?」
「ハッ……お恥ずかしいところをお見せしました」
副官の気持ちは理解できる。選ばれし種族に生まれながら、劣等種と通じていた愚か者であり、種の栄光に影を差した背信者。この手で八つ裂きにしてもあまりあるというものだ。だが、怒りに囚われ任務に綻びが生じては本末転倒。軍における古強者であるダヴァロスは、そのことをよく理解していた。
「……近いか」
「ハッ、間もなく亜人共のテリトリーのようです」
「よろしい。聞け、勇敢なる同胞たちよ! 現在、フリード将軍は大火山に向かわれ、間もなく吉報がもたらされることに疑いの余地はない。また、本国では着々と王都侵攻作戦と帝都破壊及び皇帝暗殺作戦が進行している。これは、その先駆けとなる重要な作戦、魔人族が統べる真正なる世界への第一歩である! その自覚と、本作戦に名を連ねる栄誉を胸に己が使命を完遂せよ!!」
作戦行動中故に
しかし、彼らは気付かない。自分たちに向けられる、冷めた一対の眼差しを。
(はいはい。意気軒高、結構なことで。兎連中が来るにはまだちょいと時間がかかるし、マスターに連絡がいくのもまだ先、か。やれやれ、当分は孤軍奮闘ですか。ま、慣れてますけど)
立香のところにいても特にやることがなく、かといってナンパに精を出すこともできず暇を持て余していたことから、当てもなく樹海を散策していた結果、ロビンフッドは一早く魔人族の侵攻に気付いた。
予想よりはるかに速い……早すぎて不自然ではあるが、事実は事実。完全にオフのつもりでいたため通信用アーティファクトも持っていなかったので、偶々同道していた百貌の一人に伝令を任せたが、このまま静観というわけにはいくまい。なんのかんの言ったところで、彼は「自分のためではなく人々のために戦った」英霊なのだから。この状況を、見過ごせるはずもない。
(そいじゃま、ちんけな弓兵は分相応に……毒に暗殺、奇襲とトラップでせせこましく行きますかね)
そして、悪夢が始まった。
ギル祭、お疲れ様です。皆さんは何箱開けられましたかね? 私は200を目標にし、一応達成したのですが……素材が旨い反面、QPが溢れて勿体なかったです。まぁ、スキル上げに使ってあっという間に底をつきましたが。にしても、四桁いった人とかどうしてるんでしょうね?
ところで、さっぱり関係ありませんが、唐突にコラボの復刻イベントがあった時の追加鯖が「カウレス(事件簿コラボ)」「フィオレ(アポコラボ)」だったら面白いなぁと思ったのですが……結構ありそうじゃないですかね。
あと、懐かしのサクラ大戦の新作の話を耳にし、「あ、そういえばバベッジとか喜びそうな世界観だなぁ」「特異点、下手したらロストベルト扱いにできるかも」とか思ってしまった人はそれなりにいるはず。
一応、次で本章は終わり。その次から新章の予定です。まぁ、少なくとも一話は「リリなの Order」の方を先にあげるつもりではいますが。