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転入届
名前 高生遼
年齢 16歳
誕生日 10月10日
転入理由:海外で高卒の資格は取得済みですが、志望大学に行くための足りない教科を補うために転入を希望します。
得意科目:英語、社会、理科
不得意科目:国語?ニホンゴッテムズカシーネ(特に古典)
美術?俺に絵心を求めるのは間違っている。
その時、俺は泣いていた。
「何でだよ。何でリョウまで居なくなっちゃうんだよ!」
人気のない夕暮れの公園で俺は叫ぶ。
「ごめん…」
リョウはそれ以上何も言わずに俯く。
「何でだよ…。トモキやえいじに続いてリョウまで…。何でみんな俺の前から消えて行っちゃうんだよ!何で…」
「ハッチーだけじゃ無い‼」
俺が話し終わる前にリョウが割り込んで来る。
「俺だって今まで通りにみんなと過ごしたかった。ずっとこの幸せな時間が続くって思ってた。俺だって海外になんて行きたくない。このままハッチーとトモキとえいじと4人で楽しく過ごして行きたかった…」
「リョウ…」
リョウも泣いていた。
両目から涙が溢れていた。
「でもな、どんなに言ったって、どんな事をしたってもうトモキは戻って来ない。今までみたいに4人で仲良くなんでできないんだよ!」
リョウが泣きながら叫ぶ。
俺とリョウの間に沈黙が訪れた。
その沈黙を遮るかのように5時の時報がなった。
リョウは覚悟を決めたように俺を見つめて言う。
「ハッチー、俺は明日海外に行かなきゃいけない。けどこれだけは忘れないでくれ。俺はお前と会えて本当に良かったと思っているし、俺はお前を友達なんて軽い関係じゃないと思っていて、心から信頼している。そして、約束だ。今から5年以内に俺は必ずお前の前に戻って来る。だからハッチーも新しい居場所を見つけて俺の事を待っていてくれ」
その時、一台の車が公園の前で止まった。
「迎えが来たみたいだ。じゃあな、ハッチー。必ずまた戻って来て、その時はお前との約束を必ず果たす。そして、4人で過ごせて本当に楽しかった。ありがとう」
そう言うと、リョウは車の方へと歩いていく。
「…頼むよ…行かないでくれよ。お願いだから俺を1人にしないでくれよ…」
俺の声を聞いたリョウが車の前でこちらを向く。
「ハッチー、大丈夫だ。たとえどれだけ離れていようとも、ハッチーの周りが全て敵になっていたとしても、俺はお前の味方だ」
リョウは最高の笑顔でそう言って車の中へ消えて行った。
公園に1人残された俺には分からなかった。
リョウの最後の言葉の意味も、この心の痛みも理解できなかった。
俺の心に、みんなが消えてしまったと言う事実のみが突き刺さる。
心が痛い。
過去にイジメを受けていたことがあるが、その時よりも遥かに痛かった。
大切なものを失う辛さを俺は初めて知った。
心が痛い。
悲しさが心に残る中、俺はリョウと約束した居場所を見つけるために頑張ろうと思った。
が、反対にこれだけ痛くて苦しいなら、大切なものなんて作らなければいい。
そうすれば傷つく事もなくなるんじゃないか。
そう思い始めている自分も心のどこかにいた。
・・・・・
転入生が来る。
それはクラスでワイワイガヤガヤしているリア充達にとってはとても新鮮で楽しみなイベントだ。
ましてや義務教育でない高校での転入生など珍しい。
さらにその転入生が帰国子女だという事を知ればパーティでも始めてしまうかもしれない。
男子は殆どが「女子なのか?」とか「可愛い子だといいな」と言い、女子は「男子かな?」とか「イケメンだといいね」などと言っている。
自分たちに都合のいいようにしか考えられない。
それがリア充。
あー、本当に俺はぼっちでよかったわー。
そんな都合のいい解釈して夢見る集団に入らなくて済むってなんて素晴らしいんだろう。
ぼっち最高。
確かにぼっちだと急な授業変更とか知らなくて遅れて怒られたりするけどさほど問題じゃない…いや、それは結構痛いな。
特に苦手な理系科目移動多いし平常点まで下げられると結構やばい気が…。
ま、まぁメリットには必ずデメリットがつきものだから仕方ない。
それにしてはぼっちのデメリットデカすぎる気がするんだが多分気のせいだ、うん。
そんなこんなでクラスの中は転校生の話で持ちきりだ。
日直で朝登校してすぐに転校生の情報を知った戸部が「っべー。海外帰りとかマジパネェっしょ」だの何だのうるさく言っている。
てか声デカ過ぎうざいから早く何処かへ行ってもらいたいまである。
そんなこんなで基本的にこんなリア充のキャッキャウフフイベントとは関わりのないぼっちな俺だが、今回ばかりは転校生のことを俺も知っている。
いや、知ってしまったのだ。
昨日の奉仕部で。
朝のホームルーム開始のチャイムがなり、担任の先生が入ってくる。
「おーいみんな席につけ。突然…のはずだったがみんな知っているようなので端的に言うと、今日からこの2年F組に新しく仲間が入ることになりました。これから自己紹介をしてもらうので静かに聞くようにしてください。じゃ、入って〜」
先生がそう言うと、教室のドアが開き、そこから顔立ちの整った爽やかな少年、リョウが入ってきた。
一部の女子からは「キャー」「イケメンじゃん」とか声が上がる。
若干一名が「おお?これはまさかの三つ巴パターン!?ぐ腐腐」とか言うことを言っていたような気がするが気のせいだ。
てか三つ巴ってなんだよその中に俺入ってないよね?
リョウが黒板に丁度いい感じの大きさで、高生遼と書いた。
「タカオイリョウです。つい先日まで海外にいて日本に帰ってきたばかりなので分からないことが多いと思いますが、これから半年間、F組として頑張っていきたいのでよろしくお願いします」
挨拶が終わるとクラスに拍手が起こる。
「と言うわけで、彼が今日からクラスの仲間になる高生だ。席は…そうだね。比企谷の後ろの空席でいいか」
「わかりました」
リョウがこちらへ来る。
席に向かう時にリョウがこちらを一瞥したが、俺はそれに気がつかなふりをして無視する。
それを見てリョウは軽く微笑んだ。
「グハァッ!!!コレ三つ巴確定じゃん。キーマーシーターワー」
「ギタイしろし。てか姫菜鼻血!ほら、ちーんして」
なんか嫌なやり取りが聞こえたが気のせいだ。
気のせいに違いない。
リョウが隣の席の女子に「よろしく」と爽やかに言うと、女子は頬を赤らめてたじろぎながら、
「こ、こちらこそよろしくね。分からないことがあったらなんでも聞いてね」と言い返す。
それにリョウが「ありがとう」と笑顔で返すと女子は恥ずかしがって前を向いた。
さすが顔面偏差値高い系男子。
爽やかな挨拶1つで女子を惚れさせる典型的なタイプだな。
もし俺が真似しようものなら「何言ってるんですかこの変態!通報しますよ!!」とか言われて本当に通報されるまである。
いやでもあやせたんに罵ってもらえるのならそれはそれで…って何を考えているんだ俺は。
席に着いたリョウが俺の方をみて「よっ」と軽く挨拶をして来た。
ここまできて無視をするのも違うので俺は「おう」と軽く答えて前を向く。
「では、一時間目は移動教室なので、素早く移動してください」と担任の先生が言い終わるのと同時にホームルーム終わりのチャイムが鳴った。
たとえ昔信頼してた奴が居たとしても、俺はぼっちで居続けるつもりだ。
期待したって無駄に終わるだけ。
結局は悲しみが残るだけ。
いつだってそうだった。
小・中学生時代に嫌と言うほど惨めな思いをして、俺は人と関わることを避けるようになった。
高校時代に期待して出だしを失敗して以来、ぼっちになる事に迷いもためらいも無い。
そのはずだ。
それなのに、なぜ心がモヤモヤするのか、俺には分からない。
あれだけ裏切られて失望したのに、まだ何処かで期待している自分がいる。
そんな自分自身に嫌悪感を覚えながらも、約束を守って俺の前に現れたリョウに期待している俺がいた。
一行でわかる次回予告
「悩む八幡」