俺ガイル。if 〜比企谷八幡の『本物』〜   作:神代時雨

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3話目投稿から約1年半。
まだ見てくれている人がいるかどうかはわかりませんが、もし待ってくれている人がいたらごめんなさい。
今後も不定期更新となる可能性が高いです。
待たせてしまい本当に申し訳ありませんでした。


4.斯くして、比企谷八幡は関係を考える。

午前中の授業が終わり、昼休みになる。

大半のクラスメートはそのまま教室で友達と昼食をとるが、あんないかにもリア充ですオーラが漂う場所で昼食を食う気になれない俺はいつものベストプレイスへと向かう。

決して一緒に食べる奴がいないからというわけじゃない。

俺にだって一緒に昼食を食べる奴ぐらいいる。

例えば戸塚とか、戸塚とか、あと戸塚とか。

戸塚は昼食を食べた後に昼練があるから、俺なんかに時間を取らせたくないと思い、極力一人で食べている。

まぁ雨などでどうしてもベストプレイスが使えない日は一緒に食べることもあるが。

今日は快晴だしベストプレイスはさぞ気持ち良いだろうと思いながら渡り廊下のドアを開ける。

 

「ジャジャーーーーン。俺の読み当たり!やはりきたなハッチー!」

 

ドヤ顔で仁王立ちしながら人差し指を俺に向ける不審人物を見て、俺はそのまま静かにドアを閉めた。

 

 

•••••

 

 

「酷いなぁ。いきなりドアを閉めることはねーだろ」

 

リョウが少し機嫌を悪くした口調で言う。

 

「てかなんでお前居るんだよ。俺は授業終わってトイレ行ってからすぐ来たんだけど」

 

「お前が教室を出た時点でここだと予想できたよ」

 

え、何それ怖い。

もしかして心読まれた?

どこかの幼女と同じく超能力者なの??

俺は少し驚きつつ「ここがわかった理由は?」と尋ねる。

 

「簡単だ。まず最初にお前の机の横にあった昼飯がなくなっていた。これはどこか別の場所で昼食を食べると予測できる。そしてぼっちのお前が一人で行く場所となれば、昼休みに人気のない体育館裏か、教務棟屋上か、理科棟3階の休憩スペースのどこかに絞り込まれる」

 

いや俺がぼっちの前提で考えられてるの酷くない?

俺にだって友達はいるぞ?

戸塚とか戸塚とか…いやでも戸塚は天使だから友達には入れられないか?

ふと頭にむさ苦しい材モザイクの顔が思い浮かんだがすぐに振り払う。

お前が戸塚のことを考えている俺の思考に割り込んでくるなんて万死に値するぞ。

そんな思考を巡らせている俺に構うことなくリョウは続ける。

 

「そして理科棟3階は教室棟の窓から丸見えで昼休み他の生徒に見られる可能性があり、教務棟屋上は教務室近辺を通るため、平塚先生に見つかると面倒くさい。よってお前はこの特別棟裏で昼食を食べると予想したわけだ」

 

「いや確かにその通りなんだけどなんで平塚先生を面倒くさがっているのがお前に分かるんだよ」

 

「いやぁ、昨日話したときに確かにいい先生だとは思ったけど結構しつこそうだったから絶対ハッチーは絡まれたく無いとか思うだろうなぁと」

 

いや少し話しただけでそれとか人の思考読みすぎだろ。

将来探偵でもやればいいんじゃね?と心の中で感心する。

 

「相変わらずの洞察力だな」

 

俺が呆れたように言うとリョウは苦笑する。

 

「海外帰りなめるなよ?最初は言葉も分からず行動で何を言っているのか理解していたんだぞ俺」

 

「それは凄いな。まぁお前はあの頃からずっと観察力とか洞察力とか高かったしな」

 

まぁ俺もぼっちのおかげで今は洞察力とか結構ついたけどな。

その結果相手の顔を見るだけで敵意があるのかないのかすら分かるようになったし。

いや、周りが全員俺を嫌っているから分かるだけですね。

自分で思っていて悲しくなってくる。

 

「で、お前は何の用でここにきたんだ?教室のやつらと交流しないと馴染めなくて俺みたいにぼっちになるぞ」

 

「教室で食べても良かったんだけど、クラスメイトと関わるよりハッチーと昼飯を食べる方が楽しそうだと思ったからさ」

 

「俺なんかと食べても別に楽しくはないだろ」

 

てかほとんど人と食べたことないから何を話すのかすら分からないし。

 

「少なくとも5年振りに日本に帰ってきた俺にとって、お前は俺の唯一の友達みたいなとこあるし」

 

「友達、ねぇ…」

 

ふと、昔のことを思い出す。

俺がいて、リョウがいて、そしてあと2人。

4人でよく会っていた時のことだ。

確かにあの頃であれば、俺とリョウは確実に友達だったのだろう。

だが、今の俺にはリョウが本当に友達と呼べるのかはよくわからない。

そんな俺を見て、リョウが口を開く。

 

「やっぱり、もう俺のこと友達なんて呼べないよな」

 

そう言ったリョウの表情は、哀しみと後悔が入り混ざったようなものだった。

 

「確かにあの時、傷ついたハッチーを助けられなかった、置いていくしかなかった俺に、友達を名乗る資格なんて無いのかもしれない。でも、これだけは言わせてくれ。俺は今でもお前を信頼している」

 

信頼。

その言葉がなぜ自分にここまで突き刺さったのかはわからない。

リョウ自身が言っていたように俺の心のどこかにはリョウを友達と見れない自分がいるのかもしれない。

だが、リョウから信頼という言葉が発せられた時、何故かわからないが、まるで奉仕部に居るような心地良さを感じた。

両者の沈黙の中、「なぁ」と自信なさげにリョウが口を開く。

 

「俺がハッチーとまた友達になるためにはどうすればいいかな」

 

リョウがゆっくりと訪ねてくる。

4年前、俺と離ればなれになったリョウ。

それが、リョウの本心ではない事も、リョウが俺たちのことを一番大切に考えてくれていた事も知っていた。

4年前の自分であれば、少しはリョウを責めたのかもしれない。

なら今の俺はどうなんだ?

自分がほとんど忘れていたような約束を守って、リョウは俺の前に現れた。

そんなの、決まっている。

 

「ま、いいんじゃねーの?」

 

その言葉を聞いて、下を向いていたリョウの顔が上がる。

 

「お前が居なくなった件に関して言えば、お前は約束をしっかり守って俺の前に現れた。少なくとも俺はそんなお前を拒んだりする気はねぇよ。だからお前はお前らしくしていればいいと思うぞ。それに…」

 

急に言葉を詰まらせた俺を、リョウが不思議そうな顔で見てくる。

 

「それに、俺もお前のことは…嫌いじゃないし」

 

自分で言っていて恥ずかしくなってくる。

リョウは俺の話を聞き終わると、先ほど見せた哀しそうな表情ではなく、嬉しそうな表情でこちらを見てきた。

 

「そっか。ハッチーがそう言ってくれるならそうさせてもらうかな」

 

そう言いながらリョウが笑いかけてくる。

俺は、少しだけ4人でいた頃の雰囲気を感じつつ、昼食を食べ始めた。

 

 




一言でわかる次回予告
奉仕部ふたたび

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