ママライブ!   作:ゆいろう

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第11話

 

『それでは新生徒会長、お願いします』

 

 

 

 全校集会で生徒が集まった講堂。先日行われた生徒会選挙によって新しい生徒会が発足した。

 

 全生徒が固唾を飲んで見守る中、進行役に呼ばれた新生徒会長が緊張した面持ちで舞台袖から出てきた。

 

 講堂全体が静寂に包まれる中、カツカツとローファーで歩く音だけが響き渡る。

 

 生徒会長は壇上の中央に辿り着き、そこにあるマイクを強く握った。

 

 

 

「皆さん、おはようございます! 新生徒会長の、織部輝穂です!」

 

 

 

 新生徒会長に選ばれたのは、音ノ木坂のアイドル。織部輝穂だった。

 

 

 

 

   *

 

 

 

 

「まさか、テルが生徒会長になるなんてね」

 

 全校集会が終わって、その日の昼休み。

 

 琴宮飛鳥は同じアイドルグループ“Lyra”のメンバー、織部輝穂、鷲見瑞姫と共に昼食を摂りながら会話に花を咲かせていた。

 

「本当にね。生徒会長に立候補するって聞いた時は驚いたわ」

 

 プチトマトを口に運びながら、瑞姫も話に混ざっていく。

 

 話題となっているのは今朝の全校集会。晴れて生徒会長となった輝穂なのだが……。

 

「それで最初の挨拶で盛大にやらかしたんだよね。テルらしいけど」

「先が思いやられるわ。輝穂らしいけど」

 

 それぞれ言いたい事を言う飛鳥と瑞姫。一方さっきから話題となっている輝穂は、机に突っ伏して黙っている。ただの屍のようだ。

 

「まさか最初の挨拶で詰まるなんてね。テルらしいけど」

「この学校、大丈夫なのかしら。まあそれもテルらしいけど」

 

 

 

「うがーっ! 2人とも、さっきから私らしい私らしいって何回言うの!」

 

 散々に言われて我慢ならず、輝穂は身体を起こした。

 

「あ、起きた」

「起きるよ! 私らしく起きるよ!」

「テルもノってきたね」

「ええ、輝穂らしいわね」

「もう瑞姫、それ言い過ぎ!」

「ごめんごめん」

 

 おちゃらけた様子で謝る瑞姫。その表情が一変して、真剣な顔つきで輝穂と向き合った。

 

「でも真面目な話、本当に輝穂で大丈夫なのかしら」

「確かに、テルが生徒会長って心配になるよね」

 

 瑞姫の言葉に飛鳥も概ね同意する。気分屋な輝穂の性格からして、生徒会の仕事を面倒くさがってやらない恐れがある。

 

 自身がそういう風に2人に心配されていると理解したのか、その事に輝穂は憤慨した。

 

 

 

「そんなに心配だって言うなら、みんなが楽しめるような物凄いイベントを考えてやるんだから!」

 

 

 

 飛鳥と瑞姫を指差し、輝穂はそう言葉を吐き捨てて教室を出て行った。おそらく生徒会室に向かったのだろう。

 

 

 残された飛鳥と瑞姫。微妙な空気が2人の間に流れる中、食べかけだったお弁当にそれぞれ箸を伸ばす。

 

「おいしいね」

「そうね」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 時は経って1週間後。

 

 放課後のアイドル研究同好会の部室。練習前でそれぞれが着替えている中、いち早く練習着を纏った輝穂が、1枚の用紙を長机に強く叩きつきるように置いた。

 

 いったい何事か。そんな目で絶賛着替え中の飛鳥と瑞姫。着替えの途中であるがそのまま机の前まで来て、輝穂が置いた用紙を見た。

 

 

 

「「クリスマスパーティー?」」

 

 

 

 飛鳥と瑞姫は口を揃えて言う。その用紙のタイトルはそう書かれていた。

 

「生徒会で企画して、クリスマスの日に学校でする事になったんだよ!」

 

 えっへん、と胸を張って輝穂は自慢気に言う。

 

「へぇ、楽しいイベントになりそうね」

「すごいね、テル」

「えへへ、褒めて褒めて」

 

 そうねだる輝穂の頭を、飛鳥と瑞姫は優しく、まるで子供を褒めるように撫でる。

 

「どれどれ、イベント概要は……文科系の部活の発表。その後に立食パーティー。なかなか本格的だね」

「参加費は無料って書いてあるわね」

「そうなの! なんとか予算内に収まったから」

 

 輝穂はそう言った直後、そうだ、と何やら思い出して言葉を続けた。

 

「私たちLyraもパーティーで発表するから、新曲つくろうね!」

 

 

「「えぇ!?」」

 

 あまりに唐突すぎる発表に、飛鳥と瑞姫は声を揃えて驚いた。

 

「曲と衣装はクリスマスっぽい感じがいいかな!」

 

 輝穂は2人に対して更に要求を重ねる。

 

「まあ、いいけどね」

「テルが頑張って企画したイベントだから、成功させたいね」

 

 

 

 *

 

 

 

「えみちゃーん!」

 

 翌朝。えみを見つけた輝穂は、教室内に響き渡る声で言いながらえみに抱きついた。

 

「ちょっ、輝穂!? やめっ、暑苦しい、離れなさい!」

 

 突然抱きつかれたことに慌てふためきながら、えみは密着する輝穂を引き剥がす。

 

「はぁ。それで、何か用?」

「なんで分かったの!? えみちゃんエスパー!?」

「それ位分かるわよ。それで?」

 

 改めてえみが問いただすと、輝穂を少し考える素振りをみせた。

 

「ここじゃ話しにくいから、生徒会室行かない?」

「分かったわ」

 

 

 

 輝穂とえみは生徒会室に場所を移した。

 

 2人きりの空間。輝穂は昨日飛鳥と瑞姫にも見せた『クリスマスパーティー』の用紙をえみに見せた。

 

「生徒会でクリスマスパーティーを企画したの。これにえみちゃんにも出演して欲しいんだ」

 

 単刀直入に輝穂は言う。現役の人気アイドルであるえみにこの話を持ちかけるにあたって、人の多い教室を避けて生徒会室に来たのだ。

 

 えみは少し思案して、口を開いた。

 

「事務所に相談してみるわ」

「うん。ありがとうね」

 

 たったそれだけのやりとりで交渉が終わった。えみに用紙を渡して生徒会室を出ようとしたところで、輝穂が再びえみに話しかけた。

 

「クリスマスパーティー。私たちも出演するんだ」

「……あんたたちって、Lyraのこと?」

「うん。だから、えみちゃんと同じステージに立てたらいいなって」

 

 優しく語りかける輝穂。えみはその言葉に続くものが見つからず、押し黙ってしまった。

 

 それ以降の会話はなく、2人は生徒会室を後にした。

 

 

 

 *

 

 

 

 そして時は流れクリスマス。今日は音ノ木坂学院の終業式の日でもある。

 式は午前中に終わり、その後に生徒会が企画したクリスマスパーティーが講堂で行われる。

 

 飾り付け等の準備も終わり、いよいよクリスマスパーティーが開かれようとしていた。

 

 

 

 講堂は生徒で埋め尽くされていた。用事などがある生徒は午前中の式が終わった時点で帰ってしまったが、全校生徒のおよそ半数がこのパーティーに参加している。

 

 ざわざわと観客が騒ぎ立てる中、生徒会長の輝穂が壇上に現れた。

 

「みなさん、今日は来てくれてありがとうございます! ただいまより、音ノ木坂学院クリスマスパーティーを開催いたします!」

 

 パチパチと拍手の音が講堂に響き渡る。

 

「まず最初は合唱部のみなさんです。それでは、どうぞ!」

 

 輝穂が舞台上から捌けると、幕が上がって合唱部の発表が始まった。

 

 

 

 

 

 パーティーの出演部門もいよいよ終盤。会場のボルテージは最高潮に達し、次の出演者を今か今かと待ち構えていた。

 

 

「次はアイドル研究同好会――Lyraです。どうぞ皆さん、拍手で出迎えください!」

 

 

 輝穂に変わって司会進行を務める生徒がそう告げる。すると会場は一気に沸き立ち、今からステージに立つLyraを迎えた。

 

 幕が上がる。大きな歓声に迎えらながら輝穂、飛鳥、瑞姫の3人は姿を現した。

 

 身にまとっているのは赤をベースにした生地に白のラインが施された衣装。

 

 どこからどう見ても、サンタクロースをモチーフにしたものだ。

 

 その格好にキャーっと黄色い歓声が上がる中、輝穂が一歩前に出た。

 

「みなさんこんにちは、Lyraです! 今日はクリスマスということで、サンタさんの衣装を着てみました! 今から披露するのは新曲なんですが、これも冬をイメージした曲になってます!」

 

 新曲と聞いて観客の歓声はさらに大きくなる。前説の反応は上々。

 

「それではみなさん、ご一緒に――」

 

 

 

 

 

『ミュージック、スタート!!』

 

 

 

 

 

 講堂中に音楽の開始を告げる合図が響き渡る。直後、ピアノの音が聞こえてきた。

 

 それはやがてメロディーを奏でる。

 

 

 どこか切なげで、神秘的な鍵盤の旋律。観客たちが息を呑んで見つめる視線の先は、ステージ上のLyraの3人。

 

 ゆっくりと動きをつけて歌い出す彼女たち。歌詞、メロディー、踊り。そのパフォーマンス全てに見る者たちは魅了されていた。

 

 

 やがてピアノだけの旋律に、ドラム音やギター、ベースが加わって加速する。

 

 軽快な曲調の中に入り混じる儚さ。それを強調しているのは彼女たちの歌声だった。

 

 それでも盛り上がりに欠けることはなく、観客たちはリズムに合わせて手拍子をしたり、声をあげたりしている。

 

 曲はサビへと突入する。

 

 メロディーに乗せて、歌詞を切なげに、力強く歌いあげるLyra。ダンスと歌で表現するものは、冬の旋律。

 

 それは、観客を魅了する。

 

 感動のあまり息を呑む者。気分が高揚し盛り上がる者。観客たちの反応は様々だ。

 

 観客の視線を一身に受け、Lyraは歌い、踊り続ける。

 

 

 

 やがて、彼女たちのステージは終わりを告げた。

 

 演奏が止み、Lyraは最後のポーズをとる。

 

 大きな歓声と拍手が、講堂全体に響き渡る。Lyraのステージを見た観客たちは、心から彼女たちに賞賛を送った。

 

 

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 

 自分たちのステージを最後まで見てくれた人たちに、Lyraは礼を言う。

 

「えー、あのですね」

 

 拍手が鳴りやまない中、輝穂が喋り出す。

 

「プログラムでは私たちが最後になっていますが、今日はなんと、サプライズゲストが来てくれています!」

 

 サプライズゲスト。輝穂が言ったその言葉に、客席からはどよめきの声があがる。

 

「さっそくお呼びしたいと思います。ゲストの方、どうぞー!!」

 

 輝穂が舞台袖を向いて、ゲストを迎える。

 

 カツカツ。と足音を響かせ舞台上に現れた人影に、客席は今日一番の歓声が上がった。

 

 歓声を浴びながら、その人物は舞台の中央にやって来た。

 

 派手な衣装。可愛らしい容姿。特徴的なツインテール。

 

 音ノ木坂学院の生徒で、彼女を知らない人はいないだろう。

 

 

「ゲストは皆さんご存知、七夕えみちゃんです!!」

 

 

 現役の人気アイドル、七夕えみ。彼女の登場に観客たちは黄色い声をあげる。

 

「みんなー、にっこにっこにー!!」

 

『にっこにっこにー!!』

 

 えみの問いかけに、観客たちが応える。お馴染みのそのやり取りも、えみを知る者なら出来て当然となっている。

 

「今日はみんなの為に1曲歌います! バックダンサーは、彼女たち――Lyraよ!!」

 

 七夕えみとLyraの共演。その事実に客席は観客とどよめきが入り混じる。

 

 舞台上ではえみが、輝穂、飛鳥、瑞姫に視線で合図を送る。それに彼女たちはこくりと頷いた。

 

「それじゃあ合図、いくわよ。せーのっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミュージュク、スタート!!』

 

 

 

 

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