ママライブ!   作:ゆいろう

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第3話

 

「ねえ飛鳥、なに描いてるの?」

 

 放課後の音楽室、曲に合わせたダンスの振り付けを踊りながら考えていた輝穂は、スケッチブックを片手にペンを動かしている飛鳥に尋ねた。

 

「衣装のイメージだよ。ライブの曲はこの前決まったから、その曲のイメージに合わせて衣装のデザインを考えているの」

「どんなの? 見せて見せて!!」

 

 輝穂は踊るのを一旦やめて飛鳥につめ寄る。そう言われて飛鳥は輝穂にスケッチブックを見せた。それを見て輝穂は目を輝かせる。

 

「おぉ、かわいい!」

「ありがとうっ」

「ねえ。私も歌詞考えたから、聴いてくれる?」

 

 輝穂と飛鳥がそんなやりとりをしている中、瑞姫が言った。

 

「ほんとに!? 鷲見さん凄いねっ! もちろん聴くよ!!」

「私も聴きたい!」

 

 その言葉を聞いて、瑞姫はピアノで曲を演奏して歌を歌った。

 

 

 瑞姫の演奏が終わって、輝穂と飛鳥はそれぞれ感想を言う。

 

「すごくいいよ鷲見さん!」

「そうだね。なんだか私たち3人の始まりって感じで、私は好きだなぁ」

「あ、ありがと。……それと」

 

 輝穂と飛鳥の率直な意見に、瑞姫は思わず照れる。そしてなにやら言いたげに呟いた。

 

 

 

「……瑞姫でいいわよ。鷲見さんじゃなんだかよそよそしいし。私も名前で呼ぶから……輝穂、飛鳥」

「……瑞姫っ!!」

 

 感極まった様子の輝穂が、瑞姫に飛びついた。そんな輝穂を見て、瑞姫と飛鳥はあきれた表情を浮かべる。

 

「もう、離れて輝穂っ」

「いやーっ」

 

 迷惑そうに瑞姫は言うが、輝穂は聞かずに離れなかった。

 

「あはは……。改めてよろしくね、瑞姫」

「うん。よろしく、飛鳥」

 

 あの音楽室での出会いから3日、こうして3人の距離は少し縮まった。

 

「そうだ、このあと私の家に来ない?」

 

 唐突に、飛鳥はそんな提案をする。それを聞いて輝穂は目を大きくした。

 

「飛鳥の家? いくいく!!」

「でも、迷惑じゃないかしら?」

 

 瑞姫は少し不安げに、声を小さくして言う。

 

「大丈夫だよっ。それに、瑞姫にとっていいものがあるの」

「まあ、飛鳥がそう言うなら。私にいいものっていうのも気になるし」

 

 自分にとっていいものと聞かされて、瑞姫も乗り気になった。

 

「じゃあ決まりだね」

「よーし。飛鳥の家に、レッツゴー!!」

 

 

 

 

 

「すごく、大きいわね……」

 

 無事に飛鳥の家に着いた3人。その外観を見た瑞姫はそんな感想を漏らした。

 

「飛鳥の家はすっごいお金持ちなんだよー!」

「なんでテルが得意げなの……」

 

 輝穂のそんな様子に飛鳥はあきれる。そんな中、瑞姫はポツリとつぶやいた。

 

「いいなぁ……」

 

 そんな瑞姫のつぶやきは、2人の耳に入ることはなかった。

 

「じゃあリビングに案内するね」

 

 

 

 リビングに通された2人の様子は対照的だ。輝穂は何度も来たことがあり、慣れた様子でくつろいでいる。

 一方の瑞姫はどこか落ち着かない様子でソワソワとしていた。

 

「お茶とお菓子もってきたよ」

「わぁ~。ありがとう飛鳥!」

「あ、ありがとう」

「ふふっ、どういたしまして」

 

 それから紅茶とお菓子を堪能してひと段落ついたところで、輝穂がリビングの一角に設置されたあるものに気がついた。

 

「ねえ飛鳥。あれってなに?」

「ああ、パソコンだよ」

「「パソコン!?」」

 

 飛鳥の口から出た衝撃的な単語に、輝穂と瑞姫はそろって驚愕の声をあげた。

 

「パソコンって、あのパソコン!?」

 

「そうだよ。この前お父さんが買ったの」

 

「すごい、お金持ちだ……」

 

「作曲ソフトもあるから、瑞姫にはこれ使って曲を編集してほしいの。ピアノだけの伴奏だと盛り上がりに欠けると思うから」

 

「い、いいの!?」

 

「もちろん。音楽のことは私もテルもよくわからないから。これ説明書ね」

 

 飛鳥から説明書を受け取ると、瑞姫はパソコンの前に座ってパソコンを操作し始める。

 もともとパソコンで楽曲作業ができること自体は知っていた。しかし学校の授業でしかパソコンを触ったことがない瑞姫にとって、まさか自分がパソコンで楽曲作業ができるとは夢にも思ってなかった。

 

「さて、瑞姫が曲をつくってる間、私たちはなにしようか?」

「それなら、ポスターつくろうよ! 新入生歓迎会でライブをすることを書いて、学校の掲示板に貼ったらみんな観にきてくれるかも!!」

「そうね。じゃあポスターつくりましょうか」

 

 やることが決まったところで、輝穂と飛鳥も作業にとりかかる。

 

 

 数十分ほど話しながら作業をしたところで、飛鳥がふとした疑問を抱いた。

 

「ねえテル、アイドルって普通グループ名があるじゃない?」

「そうだねー」

 

 手を動かしながら輝穂は空返事をする。

 

「私たちのグループ名って、あるの?」

 

 飛鳥がそう告げて、輝穂は雷に打たれたように驚いた表情を浮かべた。

 

「そういえば決めてなかったね。じゃあ今から決めよっか?」

「そうだね。おーい瑞姫、ちょっとこっち来て」

 

 飛鳥が手招きしてパソコンで作業をしていた瑞姫を呼ぶ。

 

「なに、どうかしたの?」

 

「実は私たちのグループ名がまだ決まってなくて。それを今から決めようってことなんだけど」

 

「それは……早くきめたほうがいいわね」

 

「というわけで第1回グループ名会議だよっ!!」

 

 輝穂の声高らかな宣言とともに第1回グループ名会議が、ここ琴宮家で開催された。

 

 

 

 

 

 それから30分ほどそれぞれ意見を出し合ったが、グループ名は決まらなかった。

 

「なかなか決まらないねー」

「そうだね、なかなかピンとくるものがないっていうか……」

「私たちに特徴がないのが問題かしらね」

「名前も性格もバラバラだもんね」

 

 3人はうーんと唸りをあげながら頭を悩ませる。そんな状態がさっきからずっと続いていて、グループ名は決まりそうにない。

 

「私たちだけで決めるのは難しそうだね」

「そうね。他の人の意見も聞いてみたいけど……」

 

 飛鳥の言葉に瑞姫が同意する。自分たちで考えて決まらないなら、外の人間の意見を取り入れたいというもの。

 問題は彼女たちがアイドルをしているということを知っている人間がほとんどいないというところにある。

 

「そうだ!!」

 

 唐突に輝穂が声をあげて勢いよく立ち上がった。

 

「どうしたのテル。なにか思いついた?」

「うん。グループ名じゃなくて、いい方法を思いついたんだ」

「方法?」

「うん、えっとね――」

 

 輝穂は思いついたアイデアを2人に説明する。はたしてそれは、グループ名が決まらない現状を打破するものとなるのだろうか。

 

 

 

 

 

 翌日。音ノ木坂学院内の掲示板に、ひとつのポスターが貼りだされた。

 その珍しさからか目にした生徒がちらほら立ち止まっていた。

 

 そのポスターには可愛らしいイラストを添えつつ、こう書かれていた。

 

『織部輝穂

 琴宮飛鳥

 鷲見瑞姫

 私たち、アイドル始めました! 新入生歓迎会当日、講堂にてライブをします! そしてグループ名募集中!!』

 

 ポスターの前には机が置かれ、その上にはグループ名募集中と書かれた箱があった。

 そう。輝穂が打ち出したアイデアとは、ライブの宣伝とともにグループ名を募集するというものだった。

 

 グループ名に関してだけ言えば、ただの丸投げである。

 

 

 

 

 

 放課後、昨日と同様に3人は飛鳥の家でそれぞれ作業をしている。

 輝穂はダンスの振りつけを考え、飛鳥はミシンを使って本格的に衣装をつくり、瑞姫は琴宮家のパソコンを借りて曲づくりをしていた。

 

「しかしまあ、輝穂はよく学校でグループ名を募集しようなんて考えたわね」

 

 いまだ慣れないパソコンと格闘しながら瑞姫は言った。

 

「ほんとそうだよね。でもテルにしてはいい方法だと思うよ」

「ちょっと飛鳥、それ褒めてるの!?」

「ちゃんと褒めてるよ」

「でも今日はグループ名の紙入ってなかったわね」

「まあ初日だし仕方ないよ。きっと明日か明後日には素敵なグループ名が入ってるはずだよ!」

 

 そんな会話をしながらでも、それぞれの作業は着実に進んでいく。

 

 

「できたー!!」

 

 

 そう大声で叫んだのは、パソコンで曲をつくっていた瑞姫だった。

 

「ほんとう瑞姫!? 聞かせて聞かせて!!」

「落ち着いて輝穂。今聞かせてあげるから」

 

 そう言って瑞姫はパソコンを操作して完成した曲を再生させた。

 

 ピアノ音のイントロが流れると、輝穂は興奮した様子で喋りだした。

 

「おぉぉぉ、カッコいいね!」

「ちょっとテル、黙って聴きなさいよ」

 

 そんな輝穂を飛鳥がたしなめる。それからは輝穂は大人しくパソコンから流れる曲を聴いていた。

 

 曲が終わると、瑞姫は少し不安げな表情を浮かべた。

 

「ど、どうかしら。変じゃなかった?」

 

「いいよ瑞姫! とってもカッコいい曲だったよ!!」

 

「そうだね。なんだか元気のでる曲で、私感動しちゃった」

 

「輝穂、飛鳥……ありがとう」

 

「こっちこそ、ありがとうね瑞姫!!」

 

 

 

 こうして、彼女たちの曲が完成した。

 

 

 

 

 

 翌日、放課後になると輝穂たちはポスターを貼った掲示板の前に来ていた。

 

「グループ名、入ってるかな~」

「ドキドキするね」

「さすがに1日だと入ってないんじゃない」

「もぅ瑞姫、そんなこと言わないでよ~」

「ほら、早く確認しましょ」

「そうだね!」

 

 瑞姫が催促をして、輝穂はグループ名募集の箱の中を覗き込んだ。

 

「あ、あったよ!!」

 

 そこには丁寧に折りたたまれた1枚の紙が入っていた。輝穂はそれを手に取って飛鳥と瑞姫に見せる。

 

「ほんとだ! やったねテル」

「それで、なんて書かれているの!?」

 

 折りたたまれた紙を広げて、3人はそこに書かれた文字を目にする。

 

 

 

『Lyra』

 

 

 

「英語だね。なんて読むのかな?」

 

「たぶん、リラって読むんだと思うけど、意味は解らないかな」

 

「私も知らないわ。でもどこかで見たことあるのよね」

 

「……あ、色鉛筆?」

 

 瑞姫の何気ない疑問に飛鳥は少し考えて、そして思い出した。

 

「それだわ! でも、なんで色鉛筆のメーカーなのかしら?」

 

「さぁ? でもこれしか入ってなかったし」

 

「Lyra……なんだか素敵な響き。ねえねえ、グループ名これにしようよ!」

 

「テルがいいなら、私は構わないけど」

 

「他に入ってなかったものね。私も異存はないわ」

 

「じゃあ決まりだね! 今日から私たちは、Lyraだ!!」

 

 

 

 輝穂の叫びが廊下に響き渡る。それをたまたま通りかかった教師が、うるさいと3人を叱ったりするなんて一幕があった放課後のひととき。

 

 

 

 

 

 Lyra。それは彼女たちのグループ名。

 

 

 

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