国木田花丸と幼馴染   作:ゆいろう

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最終話

 

 曜さんに相談したあの日から、俺はマルとルビィのどちらの想いに応えるのか、考えに考えた。

 

 考えている時間は胸が締め付けられるような思いで、でも同時に魅力的な女の子二人から好意を寄せられている幸せを噛み締めていた。

 

 だけど、それは一時の幸せに過ぎない。幸せは別のものへと形を変え、再び俺のもとに訪れるのだろう。

 

 そこへたどり着くには、痛みを伴う。二人から一人を選ぶということは、一人を選ばないということ。

 

 

 

 そして俺は、決断を下した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 放課後。俺は人気のない校舎裏に彼女を呼んだ。彼女の気持ちに対して出した答えを、俺は伝えなくてはならない。

 

 待つこと数分、校舎裏に誰かがやって来る気配がした。ゴクリと息を飲む。決断したはずなのに、やけに緊張している。

 

 大丈夫、大丈夫だ。自分にそう言い聞かせて落ち着かせる。

 

 一歩ずつ聞こえる足音が大きくなってくる。もうすぐ、彼女がここにやって来る。

 

 

 そして――。

 

 

 

 

「榎本くん?」

 

 

 

「来てくれてありがとう、ルビィ」

 

 

 

 

 

 黒澤ルビィがやって来た。彼女こそ、俺が呼び出した人物だ。

 

 

「話があるって……あのことだよね?」

 

「そうだ」

 

 

 あのこと。ルビィとマルの想いを偶然聞いてしまった俺は、どうするのかと返事を求められていた。

 

 一旦保留にしていた返事を、ようやく決断した俺はこの場にルビィを呼び出したのだ。

 

 

 

「単刀直入に言うぞ」

 

 

 

 俺の言葉にルビィが緊張の表情を見せる。そんなルビィに俺は――。

 

 

 

 

「俺は、マルのことが好きだ」

 

 

 

 

 これが、俺の出した答え。

 

 

 

「俺はマルと付き合いたいと思った。だから、ルビィの気持ちには応えられない。……ごめん」

 

 

 

 ルビィにとって、俺の言葉は辛いものだろう。俺は下げた頭を上げることができずにいた。今のルビィが浮かべてるであろう悲しい表情を、見たくなかったから。

 

 

 

「――そうだと思った」

 

 

「えっ」

 

 

 

 顔を上げる。そこには悲しい表情は一切なく、普段通りの優しげな笑顔を浮かべているルビィがいた。

 

 

「ルビィは、榎本くんは花丸ちゃんを選ぶと思ってた。だって、幼馴染なんでしょ?」

 

「そう、だけど……」

 

 

 いまいち、ルビィの言葉を上手く理解できない。

 

 

「今までずっと一緒だったってことは、それだけお互いを想い合い、大切にしてきたってことだと思うの」

 

「……」

 

「ルビィは榎本くんのことは好き。あのときは花丸ちゃんに聞かれてそう答えたし、その気持ちに嘘はない。だけどルビィは最初から、大切な友達から好きな人を奪おうだなんて……そんなこと、思わないよ」

 

「ルビィ……ごめん」

 

 

 ルビィがそう思っていても、彼女の気持ちに応えられなかったことに変わりはない。ただ謝ることしかできない。

 

 そんな俺に、ルビィは優しく問いかけた。

 

 

「ひとつだけ、ルビィのお願い聞いてくれる?」

 

「ああ、なんだ?」

 

 

 

 

「花丸ちゃんと付き合っても、ルビィと友達のままでいてほしいの」

 

 

 

 

 そんなの……。

 

 

 

 

「そんなの、当たり前だろ! 俺も、ルビィと友達でいたい!」

 

 

 

 

 俺にとってもそんな当たり前の願いを、ルビィは望んだ。今までとなにひとつ変わらない日常。俺とマルの関係は変わっても、俺たちの関係は変わらない。変えることなんて、俺が許さない。

 

 

 

「ありがとう。その言葉が聞けただけで、ルビィは幸せだよ」

 

 

 

 曜さんの言った通りだ。

 

 本物の友情は、そう簡単に崩れたりしない。あのときはマルとルビィのことだとばかり思っていたけど、俺とルビィだってそうなのだ。

 

 

 

「花丸ちゃんのところに行ってあげて。そして、榎本くんの気持ちを伝えてあげて。今、図書室にいるから」

 

 

「ああ、わかった。行ってくる」

 

 

 

 ルビィの横を通り過ぎ、図書室へと向かって走り出す。

 

 

 

「榎本くん!」

 

 

 

 

 背中からルビィの呼ぶ声がして、俺は立ち止まった。振り向かず、ルビィの言葉を待つ。

 

 

 

「がんばルビィ!」

 

 

 

「ああ、がんばルビィ! それと、これからもよろしくな!」

 

 

 

「うん……っ!」

 

 

 

 

 そして俺は再び走り出した。

 

 

 

 マルの待つ図書室へ向かって。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 図書室にたどり着いた。勢いよく扉を開けたら、多くの視線が俺に向けられた。そんなことは気に留めず、俺はマルを探した。

 

 

「……いた!」

 

 

 入口から奥の方、窓際の席で勉強をしているマルの姿を見つけた。

 

 

「マル……!」

 

 

「ハルくん!?」

 

 

 

 俺に気がついたマルが、顔を上げて驚いた表情を見せた。俺は気持ちを伝えるため、マルのもとへと向かう。

 

 そしてマルの前に立った。

 

 

 突然現れた俺を見上げるマル。どうして俺がここにいるのかと、疑問に思っているような顔だった。

 

 

「マルっ!」

 

「ず、ずらっ!」

 

 

 いつもの口癖で呼ばれたことに対する驚きを表現している。

 

 

 

 

 そんなマルに俺は想いを伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルっ! 俺は――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 満開の桜が、俺たちの門出を祝うように咲き誇っている三月末。今日は俺の通う中学校の卒業式。たった今、その式が終わったところだ。

 

 あれから俺は必死に勉強して、第一志望だった沼津の公立高校に合格。水泳部が強い高校で、俺はそこで水泳を頑張ろうと早くも決意している。

 

 マルとルビィも浦の星女学院に合格し、四月から俺たちは晴れて高校生となる。

 

 俺たちは別々の高校に行くことになったが、彼女たちとの関係は変わらないままだろう。俺はそう信じている。

 

 

「ハルくん!」

 

 

 式が終わったあとの教室で、マルが俺の名を呼んだ。これから別々の高校に通うことを考えると、やはり少し寂しい。

 

 

「マル、卒業おめでとう」

 

「ハルくんも、なんとか卒業できたね」

 

「待て、卒業が危ないほど俺は頭悪くないぞ」

 

 

 そんなやりとりをして笑い合う。そんな幸せな時間もこれからは減ってしまうけれど、それでも俺はこれからも幸せでい続けられるだろう。

 

 

「えへへ、ハルくん」

 

 

 マルが甘い声で俺を呼びかける。ここ最近、マルがこうして甘えてくることが多くなった気がする。やっぱり別々の高校に通うのはマルも寂しいのだろうか。

 

 

「どうした?」

 

「言ってみただけずら」

 

 

 屈託のない笑顔を見せるマル。その笑顔が愛おしいと思うようになったのも、およそ半年前からだった。

 

 

「ハルくん」

 

「なんだ? また言ってみただけか?」

 

 

 そう尋ねると、マルは首を横に振った。

 

 

「ううん。やっぱりマル、あの告白はないずら」

 

「……あれはマルが悪いんだろ」

 

「ハルくんにはもう少し、ムードというものを大事にしてほしかったずら」

 

「なんでだよ、放課後の図書館とかムード満点じゃないか」

 

「ダメずら」

 

 

 マルは未だに納得していないようで、ことあるごとに俺にダメ出しをしてくる。この話題になると決まって平行線をたどるのだ。

 

 

 

 半年前、俺はマルに告白した。そして俺たちは晴れて恋人同士になった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「マル! 俺はお前が好きだ! 俺と付き合ってくれ!」

 

 

 放課後の図書館。カーテンの隙間から差し込む夕日に照らされたマルは、どこか幻想的な雰囲気だった。

 

 

 ムードは抜群。まるで世界に俺たち二人だけが存在しているようだった。

 

 

 

「ハルくん……」

 

「マル……」

 

 

 

 だけど、世界には俺たち以外にたくさんの人が存在しているのは当然のことで。

 

 

 放課後の図書館は、マル以外にも多くの生徒が利用していた。

 

 

『なにあれ告白〜?』

 

『こんな大勢の前で……』

 

『勇気ある〜』

 

 

 周りからそんな声がヒソヒソと聞こえてくる。マルに告白することに夢中で、全く周りが見えていなかった。

 

 

「ハルくん」

 

「はい」

 

 

 なぜか怒っているような声色のマル。俺は自然と身構えてしまう。

 

 

 

 ――そして。

 

 

 

 

 

 

「図書館では大声厳禁ずらーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

「お前も大声出してるじゃねえかーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺たちは図書館を出て、人気のない場所に移動。改めてマルに告白をし、オーケーをもらって俺たちは晴れて恋人同士になったのだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 恋人になっても、俺たちの間で変わったことといえば少ない。強いて言えばデートを数回したことと、マルが時折甘えるようになってきたことぐらいだろうか。

 

 それ以外はなにも変わっていない。俺とマルが恋人になる以前と、なにも変わらない日常を俺たちは過ごしていた。

 

 

「花丸ちゃん! 榎本くん!」

 

「ルビィちゃん!」

 

 

 俺とマルのもとにやって来たルビィ。俺は彼女の気持ちに応えることができなかったが、それでも今なお俺たちは友達のままだ。なにひとつ変わらない。

 

 

「二人とも、卒業おめでとう!」

 

「ルビィちゃんも、卒業おめでとうずら!」

 

「ルビィも、卒業おめでとう。あとマル、俺のときに比べて態度が違うくね?」

 

「ルビィちゃんはハルくんみたいにバカじゃないから。ねぇー!」

 

「ねぇー!」

 

「お前ら……」

 

 

 俺が合格した高校、浦の星とそんなに偏差値変わらないからな。いい加減俺をバカ呼ばわりするのはやめてほしい。

 

 まあ、二人の笑顔が見れるのならそれで構わないのだけれど。

 

 

「そうだ、二人の写真撮ってあげる! 花丸ちゃん榎本くん、並んで!」

 

「サンキュー。あとでラインで送ってくれ」

 

「ライン……?」

 

「……マルには関係のないことだよ。ほら撮るぞ」

 

 

 ラインに疑問符を浮かべるマルを強引に引き寄せ、俺たちは密着する。そうしてルビィに写真を撮ってもらった。

 

 

「ありがとうルビィ。次はマルとルビィな、俺が撮ってやるから」

 

「ルビィちゃんとも写真撮るずら!」

 

「うん、撮ろう花丸ちゃん! 榎本くん、あとでラインで」

 

「オッケー」

 

「ねえ、ラインってなにずら?」

 

「……撮るぞ。ほらもっとくっつけ。よし、そんなもんかな。はい、チーズ」

 

 

 パシャリと写真を撮る。仲良くくっついて笑い合うマルとルビィが写っていた。いい写真だ。

 

 

「次はハルくんとルビィちゃんで撮るずら!」

 

「花丸ちゃん、いいの?」

 

「もちろんずら!」

 

 

 俺と写真を撮ることに少し躊躇いを見せるルビィだったが、マルから許可を得たことでパァッと明るくなる。

 

 

「ハルくん、すまーとふぉん? マルが撮ってあげるから貸して!」

 

「……大丈夫か?」

 

「大丈夫ずら!」

 

 

 マルはなぜか得意げに言う。いやスマホ持たせた瞬間「未来ずら〜!」とか言いそうだし、操作できないっぽいし。

 

 まあやってみないとわからないので、俺はマルにスマホを渡す。もちろんカメラアプリを起動させたまま。

 

 

「未来ずら〜!」

 

「いいか、ここを押したら撮れるから」

 

「わかったずら!」

 

 

 予想通りの反応を見せたマルに念押しして、俺はルビィと並ぶ。マルと撮ったときに比べて少し距離があるが、こればかりは仕方がない。

 

 

「えーっと、ここをこうして……ずらっ!?」

 

「どうした!?」

 

 

 慣れないスマホに手間取っていたマルが、突然驚きの声をあげた。

 

 

「画面が変わったずら……」

 

「どれどれ」

 

 

 近づいて確認してみると、カメラアプリがタスクキルされていた。いったいどう操作したらこうなるんだ。

 

 

「マルには任せられない。俺とルビィは自撮りで撮るから」

 

「自撮り?」

 

 

 またもや聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべるマル。そんなマルをよそに俺はスマホを持ってルビィに顔を近づけた。

 

 

「はい、チーズ」

 

 

 こうしてルビィとも無事に写真が撮れた。やっぱりマルにスマホを貸してはいけない。

 

 そう思っていたらマルが頬をぷくりと膨らませていた。

 

 

「マルもさっきので撮りたいずら」

 

「さっきのって……自撮り?」

 

「ずら」

 

 

 どうやら俺とルビィの自撮りが羨ましかったようで、マルはご機嫌斜めになっている。

 

 

「ほらハルくん撮って!」

 

 

 マルが俺の隣、ルビィとは反対側にやってきて顔を近づけてくる。突然のことに俺は慌てながらも、手に持ったスマホでなんとか写真を撮ろうとした。

 

 

「ちょっ、マル動くな! あとルビィ、それだと写らないからもっと近づいて!」

 

「で、でも……」

 

「いいから!」

 

「わ、わかった……!」

 

「あ、ルビィちゃんズルい! マルももっとハルくんにくっつくずら!」

 

「おいマル近いって! ちょっ、頼むから動くなって! ……あっ」

 

 

 パシャリ。

 

 ドタバタしているうちに手がシャッターボタンを押してしまい、写真が撮られてしまった。

 

 撮れた写真を三人で見てみると、奇跡的にピントは合っていたものの、俺たち三人の慌ただしい様子がしっかりと収まっていた。

 

 ルビィは顔を赤くしながら俺の腕に抱きついていて。マルは俺の胴に両手をまわして楽しそうに抱きついていて。俺はただただ慌てた表情をしているだけだった。

 

 なぜマルとルビィはこの状況でバッチリカメラ目線ができているのか、疑問は残るけど。

 

 

 それでもこの写真、これはこれで良い写真が撮れたと思う。

 

 

 

「ハルくん、ルビィちゃん」

 

 

 

 マルの声に、俺とルビィがマルを見る。

 

 

 耳を傾け、マルの次の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

「これからも三人で、楽しい思い出をたくさん作ろうね!」

 

 

 

 

 

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

 

 

 俺とルビィはマルの言葉に強く頷いた。俺は二人とは別の高校になってしまうが、放課後や休日なんかに集まって三人で楽しく遊ぼうという、マルの強い意思が込められているような気がした。

 

 

 

 高校を卒業して大学生になっても。

 

 

 働き出して大人になっても。

 

 

 

 

 

 

 俺たち三人は、いつまでも繋がっているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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