ハリー・ポッターは2p完結でいい   作:りなむ

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10話 悪夢

 

【面会謝絶】

 

その四文字が、リリーの脳内を占めていた。

確かに、今日顔を会わせてからずっと顔色は悪かった。「今月はちょっとしんどい方みたい~」なんて言っていたから、ポンフリーにちょっと薬を貰えば良くなるだろうって思っていたのに。

廊下で別れた後、リオは倒れたと聞いた。もしそのまま誰にも気付かれず、放置されていたらと考えるとゾッとする。無理矢理でもついていけば良かった、どうして一人で行かせたりなんか私はしたの、それでもリオの友達なの?

責任感の強いリリーは、後悔の念に蝕まれる。それだけじゃない、心に広がる気味の悪い不安、疑念。

ーねえ。あなた大したことないって言ってたじゃない。なのにどうして、面会謝絶なんてことになってるの?

 

 

 

「顔色が浮かないね、リリー」

「…………………ポッター」

 

勝手にリリーの隣に座ったジェームズ。いつもなら此処で「勝手に座らないでちょうだい!」なんて怒声が飛ぶのに、今の彼女にその元気はなかった。ジェームスはリリーの空っぽなお皿を見て、「食べないの?」と口にする。リリーはそれに首を横へ振った。空腹は感じない。目の前に並ぶ美味しそうなご飯だって喉を通りそうにない。

 

「リオのことかい?」

「……あなたも知っているのね」

「夕食前にみんなと様子見に行ったんだけどね。マダムに追い返されたよ。おかしいよね、リオの言ってた通りの体調不良なら、面会謝絶なんかになったりしないのに」

 

ジェームスはそう言いながら、テーブルの料理を少しずつリリーの皿へと盛り付ける。

余計なお世話だ、とリリーは思いながらも特に何かを言ったりはしなかった。

 

「リオは何か僕やリリーに隠し事をしてるんだ、気にならないかい?」

「……それを貴方に言ってどうなるの」

「簡単さ、リオに会いに行くんだよ」

「ポンフリーが許さないわ」

「ばれなければいい」

「………ちょっと」

「食事を終えたらみんなでリオに会いに行こう。リリー」

 

ジェームズはそう言って綺麗に笑った。

その笑顔が普段とあんまり違ったものだから、リリーは少し瞠目し、そして小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

食事後ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター、リリーの5人はすぐに大広間を抜け、廊下を歩いていた。

 

「扉自体に鍵はかかってない。だから中にいるポンフリーの気を少し逸らして、その間に透明マントを被って潜り込めばいいんだ」

「ああーー新作の出番だな」

「ちょっと、また危ないことをするつもりなの!?」

「今回のは問題ないよ」

「ポッター貴方の言うことは信用ならないわ」

「大丈夫だよリリー、これは廊下で少し大きな音を出すだけだ。僕が保証する」

「…………信じるわよ、リーマス」

「あれ!?僕のときと違う!?」

「っ貴方は自分の胸に日頃の行いを聞いてみなさい!!」

「こ、声が大きいよ二人とも!」

「兎に角、部屋に潜り込むところまではいいけどーー問題はリオのいるベッドだな……」

 

医務室のベッドは全てカーテンで仕切られている。ジェームズ達が医務室にきたとき、ポンフリーはリオのいる場所を分からなくするためか全てにカーテンを引いていた。いくら透明マントを被っていても一人でに開くカーテンはおかしいし、一つ一つ確認している暇はない。

 

「入って左側の、奥から2番目よ」

「え?」

「セブが教えてくれたの。」

「はあ!??」

「私たちと別れた後、廊下で倒れていたリオを医務室まで運んだのはセブなのよ。彼は私に、面会謝絶だって…教えてくれたの。」

「ならスニベリーは何か知ってるんじゃないか!?」

「知らないって言ってたわ。嘘じゃ、ないと思う」

 

彼も何も知らないのだ、でなければあんな顔する筈がない。きっとセブルスはリリーに言う事で、リリーが何か教えてくれるんじゃないかと考えたのだろう。でもリリーも知らなくて、ただただ混乱と不安と疑問だけが残った。「あいつは今、面会謝絶だ」そう言ったセブルスの顔は、とても苦し気だった。

 

「ま、これから本人に聞けばいいだけさ」

 

分からないことを知るために、僕らはリオに会うんだろ?そう言ってジェームズは笑った。

 

 

 

 

 

左側奥から2番目。

廊下で響いた轟音に「何事ですか!?」と飛び出して行ったポンフリーを横目に、5人は難なく医務室へと侵入した。リオのいるベッドに近づき、思い切りカーテンを開ける。

 

「リオ?」

「…熱があるみたいだね……苦しそうだ」

 

ーーリオは眠っていた。しかし穏やかな呼吸音は聞こえず、荒々しい呻き声だけが部屋に響く。額に浮かぶ多くの汗は高熱に魘されているようで、時々掠れた呻き声を漏らした。

 

「風邪、かな?」

「どうだろう、ただの風邪にしては高熱だし何か感染症とかの可能性もあるよ」

「ったく、なにが生理だーーーッおい!見ろ!これ!!」

「え?」

 

シリウスの焦った声に全員がそちらに視線を向ける。彼の手元、少しめくり上がった布団の下に見えるーーーリオの腕。

 

「なに、………この包帯」

 

呆然と、リリーが呟いた。

肩から腕にかけて巻かれた包帯。何重にも巻かれている筈なのに、その白色は赤く染まりつつある。さっきから魘されているせいで、リオは眠りながら身体を動かし、結果的に傷口を開くという負の連鎖が起きているのだ。

シリウスは、恐る恐るそっとリオの腕に触れた。ーーーなんだよこれ。こんな大怪我、一体なにをしたら出来るんだ。昨日までは普通だった、なのにどうして。いや、それだけじゃない。リオは、こいつはこんな大怪我をしていても、朝まで俺たちの隣で笑っていた。…なんてことないように振る舞って、ふざけて、喋って、怪我を、痛みを隠して、笑ってやがったんだ!!!

 

「〜っ、ふざけんなよッッッ!!」

「「シリウス!?」」

「馬鹿!リオが起きる!!」

「離せリーマス!起こせばいいだろ!?理由を聞くために来たんだろうが!!」

「冷静になれ!この状況で、リオがまともに話せると思うのかい?」

「ーーッ!」

「今僕らが出来るのはリオが早く元気になるよう、彼女を想うことだよ。」

 

リーマスの言葉に、重い沈黙が流れた。自分たちはなにもできない、なにも知ることもできない。

苦しげな友人の表情に何も出来ないのだ、と。リリーはリオの額に手を当て空いているベッドの隙間に座り込む。ーーーやるせなさに、涙が浮かんだ。

 

「……………………リ、リ……?」

 

その時、凍りついた空間に響いた小さな声。リリーは咄嗟にリオの顔へと顔を向ける。目が、合った。けれどどこか虚ろな目で、そこから溢れるように雫が流れている。ーーー泣いている。リオが、泣いている。

 

「リオ…!」

「……き、てる……よか、……よかった、あ………」

「……リオ?」

「みんな、よかっ、………」

 

シトシトと泣き続けるリオ。その表情は安堵したように、喜びにうちひしがれるように、此処にいる子供らにとって、理解できない言葉を告げる。全員が分からない、と顔を見合わせ、不安そうにリオの顔を覗き込んだ。

 

「おいリオ、聞こえるか?」

「……いじょ………ぶ、だから、」

「リオ!」

「………まも、…っ、」

「え?」

「…る……から…ぁ」

 

そう残して、再び目を閉じたリオ。

先ほどとは違い、今度は安らかな寝息を立ててスヤスヤと眠る。恐らくーー今のは寝言だった。高熱で魘されていた先で、なにか悪夢でも見たのかもしれない。でも、そう一言で片付けるには真に迫った表情で。

 

ーーー彼等はなにも分からなかった。

此処へ来たのは分からないことを知るためだった。けれど、彼らが得たのは多くの疑問と、何もできない無力感だけだった。

 

 

 

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