「わあたしもひとり~れんらくう船にのりぃ~」
あちこち散らかるガラクタをぽいぽい投げて辺りを漁ってみる。右側から手当たり次第に漁り始めて今2/3くらい進んだ。目的の物はまだ見つからない。
「凍えそうな鴎見つめ泣いていましたああぁ~」
ちなみに私、一人作業をするときは鼻唄を歌うタイプだ。掃除機とか洗濯とか無意識に歌っちゃう奴、心当たりがあるそこのあなた、私と友達になれます。
「つがるかい~きょう、ふゆげ~しきい~」
ーーかれこれ40分程度、流行のポップな曲から恋愛ソング、アニソン、演歌と歌い続けてそろそろ喉が限界を迎えかけてる。げほっ。なんか本の中で場所の描写あった気がしたけどな~。そんな細かいところまで覚えてないのだよ……。ハリーは速攻で見つけてたみたいだけど。主人公補正、わたしも欲しいです。
「リオ」
「シリウスじゃん、どうしたの?」
背中ごしにかかった声に、振り向く。
別段驚かない。だって気配で近づいてきてるの、知ってたので。
「なんだよこの部屋、埃っぽいな」
「ちょっと捜し物をね」
「何捜してたんだよ」
「シリウスこそ何しにきたの?」
そう言うとシリウスは一瞬躊躇い「お前が、また一人でいなくなったから…」と口にした。
目を離したら駄目な幼稚園児かなにかですかわたしは。
ーーそう言いたいけど我慢我慢。ぐっと堪えて「ごめんごめん」と彼の肩に手を乗せる。インフルエンザ事件からシリウスに限らず、仕掛人とリリーは私に対して過保護になった。というより、一人にして廊下で倒れたことを気にしているんだろう。元より医務室に行く気がなかった故、気にされる必要なんてこれっぽっちもないのだがそれを言える筈もなく。仕方なく甘んじて彼等の心配を受け取っている。いやー愛が痛いです。
「じゃあ皆のとこに戻ろっか」
「捜し物はいいのか?」
「うん」
「………俺に見られたくないのか?」
おしい。見られたくないんじゃなくて知られたくないんだな。
「わたし、捜し物するとき歌っちゃうんだよね」
「は?」
「歌、聞かれたくないじゃん。恥ずかしい」
そんなかんじ?でシリウスを丸め込んで必要の部屋を出た。なんだか必要の部屋=シリウスと遭遇の図が出来上がってる気がする。この遭遇率、乙女ゲーかしら?
「おおリオ」
そのままシリウスと二人で談話室に戻るかと思いきや、なんとまあ廊下であらぬ人間に声を掛けられた。顔を会わせて、目を見て、ーーーバレたな、と察する。
「校長先生」
そこに居たのはダンブルドア校長。シリウスが驚いて私を見ているーーいや私だって驚いてるよ。顔に出さないだけで。
時間の問題だと思ってたけど意外とはやかったなーなんて思いつつ、隣のシリウスをどうしようかと考えたところで、相手から思わぬ助け船が。
「実は、お主の教えてくれた"ニホンチャ"が手に入ったのじゃが、どうも儂には淹れ方が分からなくてのう」
教えましたっけ?わたし、寿司やそばが食べたいって言った思い出はありますけど。
相手の狸加減に呆れと尊敬を感じるが、そんな表情は欠片も見せず、こちらとてにっこり笑う。
「あぁ、それなら是非私がお淹れしますよ」
「ほう。それはありがたい」
助け船に乗らない手はないーー泥船ではないことを願うが。
訝しげにこっちを気にするシリウスを置いて、私とダンブルドアは校長室へ足を向けた。部屋に着くまでお互い無言、中に入ると机の上に本当に日本茶ーー正確には緑茶の御茶があった。緑茶なんて久しぶりだ。地味に嬉しい。
「ーーさて。お主ここ一週間入院してたようじゃのう」
「ええ、インフルエンザにかかってしまって」
御茶の準備もそこそこで話を切り出してきたジジイに、何気なく対応する。
「ポンフリーもそう言っておったな。じゃがのう、それにしては少し不可解な所があるのじゃよ」
「なんですか?」
「ポンフリーはここ数日、毒消しの薬を作っていたそうじゃ」
「最近のインフルエンザは強敵ですから」
「しかも大量の傷薬と包帯も発注したとか」
「悪戯仕掛人たちの被害者も増えてきましたしねぇ」
「血濡れの包帯を抱えた姿を見たものもおる」
「全く彼らも困ったものですねぇ」
「さてリオ」
「はい」
「ーーーわしに何か言わなくてはならないことはないか?」
「御茶用意するなら急須と湯呑みも欲しいです」
沈黙。
「今回はティーポット代用ですが、本来日本では急須と湯呑みという専用機器を使います。次回は茶菓子と共にご用意願いますね、校長先生」
やっぱ日本茶は湯呑みじゃなくちゃねえ。ティーカップで緑茶ってどこか味気なさを感じてしまう、これが日本人の風情なのです。
「ーーーリオ」
ーとまあ。こんなことで流されてくれるわけなく。分かってますって。
さっきまでとは違い、ダンブルドアは咎めるような鋭い眼光を向けていた。…多分そこらの人達だったら竦み上がるんじゃないかな?そんな表情。ダンブルドアを、この人を、稀代の偉大な魔法使いとして、まるで神様のように崇めたてる人達にとってこの瞳は怖かろう。
でもわたしとってダンブルドアはただの人で、ただの狸爺で、ただの優しいおじいちゃんだから。ちっとも怖くないーーーだってこの世界は、もっと怖いもので溢れている。
「ーー別に。ちょっと"やんちゃ"しただけです。気にしないで下さい」
その言葉に、ダンブルドアは軽く目を見開いた後、諦めるような深い溜め息を漏らした。この仕草はリリーのものとよく似ている。でも、瞳に映す色だけは違くて。わたしはこの瞳が苦手だった。だから黙ってようとしたのに、大失敗だ。ーー憐れむような、痛々しいものを見るような、そんな色を宿して、ダンブルドアは私を見ていた。
「じゃがその姿を見る限り儂との約束は破ったようじゃのう」
「え?」
「ピアスが外れておる」
おっふ。
分霊箱大捜索の保険に外して、途中シリウスが来たから、つけ直すのをサッパリ忘れてた。だらだらと冷や汗が流れる。思い出すのは以前ホグワーツに通いたいと駄々をこね、交換条件にこのピアスを貰った時の約束事ーー"有事以外は絶対外すな。破れば即強制執行"。
「い、今からつけま~す……それで……」
「駄目じゃ」
「ええっ」
ガーンとリアクションをとるも束の間、ダンブルドアは杖を振るった。ポケットから独りでに出てきたピアスは私の右耳に止まり動きを止める。カチリと小さな音を立て、装着されたソレに、妙な違和感を感じてしまった。………ヤな予感。
「そのピアスはもう、お主自身では外せぬ」
「は!?」
「…これで少しリオの"やんちゃ"が落ち着けばよいがのう」
ダンブルドアはそう言って何故か私の頭を撫でた。
酷く悲しげな瞳をしたまま。
今回は台湾から更新です。色々食べ物が美味しいです。