最初の被害者はセブルスだった。リリーへの暴言途中に容赦のない蹴り。しかも無言ときた。その悲惨すぎる?光景に呆気にとられたジェームズとシリウス。そんな訳だから無駄にイイ笑顔でこっちへ来る理央に警戒を持てなかった。放たれた股間への攻撃に、二人は声にならない声をあげる。
こうしてものの数秒で、高野理央は同学年男子3人の尊厳とプライドをズタズタにしたのだった。
ーーあれは痛い。
リーマスの口元が強ばった。
凡そ男なら誰でも恐れる攻撃だ。物理的な痛み以外に、精神的なダメージだって計り知れない。リーマスは引きつった顔で地面にひれ伏すジェームズ、シリウス、セブルスを見た。
ーーあれは怖い。
ピーターは震えた。
床で悶える三人も気の毒だが、それ以上に目の前に立つ彼女が怖い。今なら闇の帝王より怖いかもしれない。だって、リオ、怒ってるーー大概のことを笑って許すあのリオが、本気の本気で怒っている。
ーーすごい。
リリーはうっかり感心した。
本当にやる人、いるんだ。以前父に<痴漢に遭ったときの撃退法>として教わったことはある。でも本当に実践される瞬間を初めて見た。彼女はさっきまで自分が幼馴染みに言われかけていた暴言も忘れ、しみじみその実践法を目に焼き付けた。
「ねえセブルス。私、貴方が闇の魔術に興味持とうが学ぼうがどっちだっていいって思ってたわ。だってそれをいつ、どう使うかはその人によって違うから。誰かを傷つける為なのか、誰かを守る為なのか、そこの馬鹿二人みたいに闇の魔術を使わなくても人を傷つけることなんて簡単に出来るしね。だから、私は貴方が自分自身やリリーを、守るために、強くなるために学んでいると思ってた。ーーでも、違ったのよね?その言葉の意味、分かってるんでしょう?あなた今、マグル生まれを、"リリーを殺す"ってそれと同等の言葉を口にしようとしたのよ。」
「ジェームズ、貴方のリリーへの愛は凄いと思う。元来、人が人を愛し続けるのは難しい。だからこそ、その年でここまでの愛を持てる貴方を、私は美しいと思うし羨ましくも感じるわ。でもね、今の貴方の振る舞いは愛ではなくーーただのエゴよ。貴方は愛する人の気持ちを考えていない。自分勝手な都合で、結果的に相手を傷つけてることに気づいていない。貴方は、相手の意志や想いを尊重せず自分の願望を押し付けているだけよ。ーそれは愛とは呼ばない。意味を履き違えないで」
「シリウス、わたし何度も言ったわ、決めつけるのが貴方の悪い癖だって。マグル生まれってだけで嫌悪する純血主義のスリザリンと、スリザリンってだけで敵とみなす貴方に、どれ程の違いがあるのかしら。貴方は虐め紛いの悪戯を、正義のつもりでやっているんでしょう?自分が正しい、相手がおかしいって。ただそれだけで相手を暴力と中傷で貶めている。ただ貴方自身が、気に入らないものを排除しているーーとんだ正義だわ。自分のしていること、貴方の大嫌いな闇側の人間がしていること、いつになったら同じだって気づくのかしらね。」
三人は床に伏したまま顔を上げない。それは痛みからか恐怖からか、はたまた残ったプライドからか。
入学して5年目、今までジェームズが悪質な悪戯をしようがシリウスが慇懃無礼な振る舞いをしようがセブルスが苛立ちに任せた攻撃呪文を使おうがーー理央は決して怒らなかった。注意をしたり諭すことはあった、でもこんな、相手を淘汰するような怒りは見せたことなどなかった。
ここにきて初めて理央は怒りを露にし、今まで見せたことのない絶対零度の冷たい瞳で三人を見下ろしていた。
「世の中には知らなくていいことと、知らなければならないことと二種類ある。あなた達のは確実に後者よ。ーー己を恥じなさい。既成概念と思い込みで判断して、相手を知るための努力を何一つしなかった。相手の痛みを考えようともしなかった。その愚行は、いつか必ず身を滅ぼすわ。私は貴方達にそんな大人になって欲しくない。」
そこまで言うと、用済みとばかりに理央は三人に背中を向けた。「行こうリリー」と声をかける。そうしてひれ伏す三人と、凍りついた二人を他所に、リリーと理央はこの場を去った。
「…もしまた貴方達が馬鹿なことを始めたんならその息子、今度は再起不能にしてやるから覚えておきなさい。」
ーー身が縮こまるような、捨て台詞を残して。
後にこの光景を見ていた一部の男子生徒によって悪魔だの鬼畜だのと噂されるようになるのだが、理央にはどうでもいいことだった。