私は正義の味方でもヒーローでもなんでもない。
ただの普通の人、物語でいうならモブだ。
だからどっかのパンみたいに大勢の人を助けたりだとか、どっかのオラオラ言う人みたいに世界を救ったりとか、火影になって里を守るんだとか。そういうことは出来ないし、しようともしない。どっかの英霊みたいに自らを犠牲して、正義の味方を目指したりだってしない。私は自分の限界を理解している。
精々、目の前にいるほんの数人に手を差し伸べるだけで精一杯だ。
私は普通の人だ。生きることで、生かすことで精一杯な凡人だ。
「返す。」
「は?」
あの会合が偶然で、もう関わらないと思っていた。
でも流石に、これは言わなくてはならない。
「こんな高そうなもの、受け取れないわよ」
今朝ふくろう便で届いた個包。中を開けるとそれはべらぼうに高そうな宝石のついたネックレスが入っていた。差出人は書いていない。
なんとなく、察しがついた。
「……女ってのは、こういうもんが好きなんだろ」
図書館にいるせいか、はたまた別のせいか、マルシベールの声は小さかった。個包を押し付けられた彼は戸惑ったように視線を泳がす。
あぁ今までこんな風に断られたことがなかったんだろうな。
その顔が酷く子供らしく、私は目を背けたくなった。
「別にこんなもの受け取らなくても、この間の一件は誰にも言わないから大丈夫よ。」
そうでなくても、私は彼にあまり関わりを持ちたくないのだ。干渉するのはこれ以上避けておきたい。じゃあね、そう一言告げで背中を向ける。
「待て」
「なによ」
「俺は借りを作ることが嫌いなんだ」
「あなたの好き嫌いなんてどうだっていいわよ」
「…ちっ」
「……舌打ちしたいのはこっちなんだけど。」
思わず、手元の地図をぐしゃりと握ってしまった。おおっとまずい。頼み込んで、なんとか仕掛け人達から借りた忍びの地図だ。「ちょっと野暮用でマルシベールに会ってくる。面倒事は避けたいから、1人の時に会いたいのよ」と言った時のシリウスの問い詰めときたらまぁ大変。ジェームズがフォローに回ってくれたほどだ。なるべく手短に、穏便に終わらせなければまたシリウスが面倒くさいことになる。
「なら何が欲しい。ドレスか?髪飾りか?」
「だからなにもいらないわよ。そういうのにも興味ないし」
「…お前ほんとに女か?」
「自分の枠組みだけで物事考えてんじゃないわよ。大体お礼ってもんを押し付けてる時点でそれお礼でもなんでもないから。ただの自己満足だから。あなたの自己満足に付き合う方が面倒くさ、」
しまった。うっかり本音が。
しかもイラついてるせいか、キツい言葉に。
恐る恐る少年を見ると、その表情は心なしか寂しそうに、傷ついたように見えた。ーーあぁもう!苛立ちと焦りが、わたしの心を掻き乱す。
「……兎に角、お礼にしろ借りにしろこれは受け取れない。あなたがこれを借りだと思ってるのなら…そうね、他の生徒に悪質な魔法をかけるの控えてもらっていいかしら?」
「はあ?…そんなもんお前に言われる筋合いねぇだろ」
「…じゃあもういいわよ。はい、この話はおしまい。そろそろマダムの目も痛いし」
これは本当だ。図書館で話している私たちを、さっきからマダムはずっと見ている。
「じゃあね……、あぁ、体調には気をつけて」
「……チッ」
マシビエールはもうわたしを引き止めなかった。図書館を出たところで、私は大きく息を吐く。ーーーこれでいい。これでおしまい。
わたしは彼と関わりなんて持ちたくない。
持ちたくないのだ。
いずれ敵になる、死喰い人なんかと。