セブルスは奥の廊下を目にしたところでーー足を止めた。前方、中央。
あのシルエットは間違いない、リオ・タカノだ。反射的に眉が歪んだ。仕方ない、彼の過去の経験が己自身に訴えてる。ーーあいつとここで会うことは百害あって一利なし。時間ロスだが、奴が通り過ぎるまでここで待とう。
セブルスはそう判断した。だが判断を下したところでーーパタリと。まるで糸の切れた人形のように目の前の少女は倒れた。
「おい!?」
突然の事態に、さっきまでの考えも忘れ理央に駆け寄るセブルス。そこに横たわる彼女は顔色が異常に悪く、息遣いを荒かった。
「っなんて熱だ!」
これが人の体温なのかと、驚くほど熱い身体。間違いなく高熱で魘されている。
セブルスはすぐさま気を失った彼女を背負い、医務室へと向かった。
「まぁ!どうしたんですその子は!!」
「マダム・ポンフリー、凄い熱なんです。早く、手当てを!」
「ええ!こちらのベッドへ!!」
マダムはスリザリンの僕がグリフィンドールのリオを背負っていることに一瞬だけ驚き、それでも急患だと理解したのかすぐさま処置へと入った。
「彼女、一体何が?」
「分からない……ただ、僕が廊下で見つけた時には倒れていて……」
「そうですか。…あなたは授業があるでしょう。心配でしょうが、ここは私に任せて教室に向かいなさい」
「…はい」
セブルスは、その言葉にーー意外にもーー後ろ髪を引かれた気がした。
彼にとって、確かにリオ・タカノは騒々しくて図々しくて面倒な奴だがーー嫌いじゃないのだ。むしろ、あまり人付き合いの得意ではない自分に(自覚している)ここまで話しかけてくる根性は見上げたものだし、なにより彼女は馬鹿みたいに自分を好き好き言ってくる。それに反応する自分をからかうところは憎らしいがーー好意を向けられて嫌な気分はしない。
つまるところ、セブルスは友人としてそこそこリオを気に入っていた。本人には口が裂けても言わないが。
そんなリオの体調不良、普段笑顔ばかり見ているせいか余計に不安が心に残る。
だがここに残っていても自分にできることはないーーそう自分に言い聞かせ、セブルスは医務室を出ようとした。
「……ここ、は…?」
「Msタカノ!気がつきましたか?ここは医務室です。あなたが倒れていたところをMr.スネイプがーーー」
「、帰り…ますっ!」
「な!?Msタカノ!?何を考えているのです!貴方は今しがた倒れたばかりなんですよ!?」
「大丈夫です、問題ない、です…!」
「どこがで…ーーーっ、何ですかこの怪我は!?Msタカノ!!」
ーーーー怪我?
ドクリと、セブルスの心臓が嫌な音を立てた。
ベッドのカーテン越し、当然中は見えないが二人の口論する声だけは聞こえてくる。
どういうことだ。マダムの声は焦っていた、ではそんなに大怪我だというのか?何故?一体何があった?
「動いてはいけません!こんなーーこんな身体で!」
「なら、ならこの件について誰にも言わないで、ください!ダンブルドアにも、皆にも、誰にもーー!」
「貴方はなにをっ」
「ーーでなければ、治療は受けません!だから、だからどうかーー」
「ッー!、わかりました。この怪我について誰にも言いません!ですからMsタカノ、安静にしなさい。すぐに腕の手当てをしますから」
ここで、声は止まった。
呆然とその場に立ち尽くすセブルス。彼には、リオになにが起きているのか、今なにが起きたのか、まるで理解できなかった。
セブルスの前で、リオはいつも元気すぎるほど元気で、うるさくて、笑顔でーー。だから初めて聞いたのだ、あんな苦しそうな声を。焦ったような声を。悲痛そうな、悲鳴じみた声をーー。
一度治療道具を用意するためであろう、ポンフリーがカーテンから出てくる。ポンフリーは、セブルスの姿を目に移すとすぐさま此方へ寄ってきて、追い出すようにドア口へと押した。
「さあMrスネイプ。彼女が気づく前に早く出なさい。」
「ポンフリー、リオは一体」
「私からは何も言えません……しかし重体とだけは言っておきましょう。ですが、この件については他言無用です。彼女がそれを望んでいますからね、さあ早く」
そうして、無情にも扉は閉められた。
セブルスはその場から動かない。動けない。ぐるぐると思考と感情だけが身体中を暴れまわる。ーーー彼は、この渦巻く感情の行き場を失っていた。