さくら荘と河合荘な僕らの宴   作:チャッピー4510

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さくら荘side はじまり

スイコー祭で無事「銀河猫ニャボロン」の披露を終えた俺はさくら荘の103号室で生ける屍となっていた。

 

ニャボロン製作によって3日連続の徹夜、それに加えて多くの観客の前でさくら荘みんなで作ったゲームを披露した時の緊張と疲労が一気に押し寄せて来た。

 

「ははは…これが勤労の痛みなのか…」

 

そんな乾いた笑い声が自身の口から漏れてさらに疲れが増した気がした。

これからゆっくりと瞼を閉じてこの3日間取れなかった睡眠を心置きなく堪能しようと思ったが、それを許さない宇宙人がベランダから舞い降りて来た。

 

「グッドモーニングだよ!こーはいくん!私たちの輝かしい朝がやってきたぞ!」

 

俺が住むさくら荘の201号室住人、上井草美咲だ。個人でアニメ製作を行なっており、その才能は業界の人々が一目置いている。美人でスレンダーで、見た目は芸能人にだって負けていない自慢の先輩である。

 

しかし、そんな才能のある人間だからこそ欠点もあるのだと俺は思い知らされる。上井草美咲は俺たちが通っている水明美術高校の中で一番有名な問題児だ。

 

一年の頃には運動場に大きなミステリーサークルを描いたり、校舎裏に奇跡の壁画を描いたり、理科室の人体模型がヴィーナスになっていたり…

 

その犯人がこの変人、上井草美咲なのだ。

 

「美咲先輩、今は午後の5時ですよ?輝かしい朝どころか日が沈み始めてる時間です」

 

「なにを言っているんだこーはいくん!太陽はいつだって私たちの上にあるんだよ!30秒もすればピッカピカに照らしてくれるよ!」

 

「太陽がそんな動きしたら天変地異の前触れですよ!太陽だって疲れてるんだから休ませてあげてください!」

 

「よし、ならば太陽君には休んでもらってこーはいくんには起きてもらおう!さあグッドモーニングだよこーはいくん!私たちの輝かしい朝がやってきたんだよ!」

 

「だから美咲先輩…今は五時ですから…ニャボロンも終わったんですし少しは寝かせて…」

 

「なにを言っているんだこーはいくん!太陽はいつだって私たちの上にあるんだよ!30秒もすればピッカピカに照らしてくれるよ!」

 

「おかしいな!?その台詞さっき聞いたことある気がするんだが!」

 

「全く、寝ぼけてないでさっさと起きるんだもーん!ほらズボンも脱いで、洋服も!今日は打ち上げで外食だぞー!」

 

美咲先輩はそう言って俺のズボンに手をかけ力任せに引っ張り始めた。何故ここで服からではなくズボンから引っ張るのか、健全な男子高校生に女子高校生がやっていいことではない。

 

「ちょっ、先輩ストップ!」

 

「急げこーはいくん!誰も待っちゃくれないぜ!」

 

俺の抵抗も虚しく宇宙人にズボンを脱がされてしまった。

 

パンツと一緒に。

 

「変態」

 

「脱がしたのはあんただぁぁ!」

 

なんとか美咲先輩からズボンを取り返し部屋から追い出した後、俺は大人しく外に出かける格好に着替えた。

着替えている途中にドタバタと隣の部屋から聞こえる。

 

何事かと廊下に顔を出すと黒髪ロングの少年が俺の部屋に入ってきた。

 

「か、神田!助けろ!」

 

入ってきたのは102号室の住人、赤坂龍之介だ。高校二年生にして天才プログラマー、ゲーム業界では知らない人はおらず、「銀河猫ニャボロン」でもプログラミングをしたのは赤坂だ。

 

「どうしたんだよ赤坂、今日は珍しく騒がしいな」

 

普段は部屋に引きこもって、学校の授業にも出ず、会社相手にゲーム製作の仕事を行なっているこいつが今日はやけに騒がしかった。

 

「どうしたもこうしたも、何故あの居候娘がまださくら荘にいるんだ!」

 

そう言って赤坂が指差した先を見ると金髪の美女がそこに立っていた。

リタ。さくら荘に住んでいる帰国子女の友達だ。

つい先日からさくら荘に泊まりに来て帰国子女を連れ帰ろうとしていたのだが、本人の説得により本国イギリスに返すのを諦めたらしい。

 

空港で見送ったはずなのになんでまだここにいるのだろう?

 

「リタ、イギリスに帰ったんじゃなかったのか?」

 

「はい、そのつもりだったんですけど美咲に打ち上げをするからリッタンもおいでよ、と言われて引き返してきました。親には連絡済みです」

 

「泊まるところは大丈夫なのか?」

 

「はい、今日は龍之介の部屋に泊めてもらいます」

 

「僕はそんなこと許可した覚えはないぞ!」

 

「では今許可をいただけないかと…」

 

「誰がそんな許可だすか!」

 

「普通私みたいな超美少女と同じ部屋で寝れるとなったら靴を舐める勢いで承諾するものですけど…」

 

「そんな考えを持ってる時点で危険だと言っている!そもそも女と一緒の部屋でなんて寝れるか!なにをされるかわかったもんじゃない!」

 

二人の夫婦漫才を見てると何故かほっこりするのだが、いい加減俺の部屋でやらないでほしいので声をかけようとした。すると、また部屋に別の住人がやってきた。

 

「空太」

 

「ん?なんだ椎名」

 

椎名ましろ、202号室の住人で元世界的に有名な画家だった。かつてはイギリスにおり、リタと同じアトリエに通っていたらしいが日本の漫画に感銘を受けて自身も漫画家になろうと思い日本に来たらしい。見た感じ、とても儚げでどこか不思議な雰囲気のある美少女。違和感を覚えるほどの可愛さだ。

 

さくら荘の監督教師である千尋先生の姪っ子でもあって、スイコーへの入学はスムーズだったのだが…やはり天才には何かしら欠点があるようで、椎名にも変人としての才能があった。

 

生活破綻者。片付けは出来ず、掃除は出来ず、料理も洗濯も買い物も着替えすらも一人では出来ない。

コンビニではレジで会計をする前にバームクーヘンを食べちゃうし、パンツは男子である俺に選ばせるし、髪を乾かさずTシャツ一枚羽織っただけで身体は濡れたまま俺の部屋に来るしで…

 

そんな椎名の生活補助を任されたのが、ましろ当番である俺なのだ。

 

「美咲が、着替えろって…」

 

「あぁ、そうだな。外に出かけるらしいからちゃんとした服着ろよ?」

 

「空太が選んで」

 

「は?」

 

「空太は選んで」

 

「一体何を?」

 

「空太と選んで」

 

「椎名とか?服を?」

 

「パンツよ」

 

「ぶふっ!」

 

「汚いわ空太」

 

「お前が変なこと言うからだ!」

 

「変じゃないわ」

 

「ほほう?じゃあどこらへんが変じゃないのか言ってもらおうか⁉︎」

 

「…さては空太、わからないのね?」

 

「わかりたくないな!そんなこと!」

 

「もう…何やってるのましろ」

 

そう言って椎名の後ろからまた他の誰かが声を出した。

ヒョコっと出した人物の特徴的なポニーテールが楽しげに揺れている。

青山七海、同級生でクラスメイト、親の反対を振り切ってスイコーには通っているようでバイトと声優の育成所を掛け持ちしながら日々頑張っている努力家だ。

 

「七海」

 

「青山…頼みがある」

 

「ど、どうしたの神田君…そんな真剣な顔して…」

 

そりゃ真剣にもなるだろう。俺は健全な男子高校生なのだ。同級生の女子のパンツを選ぶなんて大役、男の俺には背負いきれない。なんとか青山にその役を押し付けようと思うと、俺より先に椎名が口を開いた。

 

「空太がパンツを選んで欲しいそうよ」

 

「神田君!!?」

 

「何言ってんだお前はぁぁ!」

 

いきなり椎名が身に覚えのない爆弾を放り投げた。

 

「私も空太に選んでもらうわ」

 

「かかかか神田君⁉︎」

 

「違う!椎名が勝手に言ってるだけだ!わかるだろ青山?」

 

「そんな女の子に自分の下着を決めてもらうような変態の考えることなんてわからへん!」

 

「だから違うってぇ!」

 

俺の必死の訴えによってなんとか青山の誤解を解き、ついでに椎名の服装も頼んでおいた。

皆が支度を終えるとさくら荘にいる住人の最後の一人がやっと出てきた。

 

「なんだ空太、やたら疲れてるな」

 

「そりゃそうですよ…ニャボロンで疲れてるってのに美咲先輩に叩き起こされて赤坂とリタも部屋にやってきて、椎名に爆弾落とされて青山の説教くらって…」

 

「なんだ、いつも通りじゃないか」

 

「これがいつも通りってよく考えたらおかしいですよね⁉︎」

 

「まあ空太もさくら荘の住人ってことだろ?」

 

飄々とした様子でそう答えるのが恐らく高校生界で一番マハラジャの男、三鷹仁だ。

美咲先輩の幼馴染でシナリオライターでもあるのだが、本人の端正なルックスとスマートな性格で女性から相当モテているようで…現在6股、朝帰りなんてもう日常となっている。

 

「それで仁さん、何食べに行くんですか?」

 

「ん?美咲から聞いてないのか?」

 

聞いてないどころか会話が成立した覚えすらない。

 

「行くぞこーはいくん!さあ乗りたまえ!りったんとドラゴンは千尋ちゃんに送ってもらってね!」

 

「え、美咲先輩せめてどこに行くか…」

 

「うるさいわよ神田、ほら早く乗っちゃいなさい。遅くなったら面倒じゃない」

 

そう言って未だに独身、可愛そうな千尋先生が俺の頭を掴み美咲先輩が乗っている車に突っ込んだ。

 

「ちょっ、生徒をもっと大事に扱えないのかあんたは⁉︎」

 

「神田なんて雑に扱っても足りないくらいよ」

 

「教師の発言じゃないな⁉︎」

 

「いいから行くぞ!こーはいくん、ほらななみんもましろんも乗った乗ったぁ!」

 

美咲先輩がクラクションを鳴らして早く乗れと急かしてくる。それをいなすように青山が乗車してくる。

 

「ちょっ、上井草先輩!近所迷惑ですよ!」

 

「うるさいわ美咲…」

 

「ほら、ましろ。ちゃんとシートベルト」

 

「七海お願いね」

 

「そういえばまだ行き先を聞いてないんですけど…」

 

「ふっふっふっ…楽しみに待ってるといいよこーはいくん!今日の打ち上げはいつもと一味違うだもーん!」

 

やはりこの宇宙人とは会話が成り立たないらしい。

俺は日が暮れ始めた空を見ながら諦めたようにため息をついた。

 




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