さくら荘と河合荘な僕らの宴   作:チャッピー4510

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食前の騒ぎ さくら荘side

皆さんは鍋奉行という言葉を知っているだろうか。

 

鍋の火入れ具合、具の分配、ダシの素すら一人で決めてしまい、その場を支配する者のことだ。

鍋に関しては一切手を抜かず、鍋を食べる事に全力をかけている。

 

そんな鍋奉行が今この場にいたらなんというだろう…今回の交流会の鍋はいささか偏りすぎているのだから。

 

「さあみんな食べるんだもーん!」

 

上井草先輩がいつから作っていたのかわからないくす玉を盛大に開けて賑やかな破裂音が河合荘に響く。

くす玉の中からは『この出会いを宝に!』と書かれ、端っこにニャボロンのイラストが描かれた断幕が垂れている。

 

「美咲先輩…それいつ作ったんですか…?」

 

「河合荘に着いてから!」

 

「そんなわけないでしょ⁉︎ここにきてまだ1時間も経ってませんよ!」

 

「時間なんてそんなものに私が縛れると思うのかこーはいくん!」

 

そうだった。この人宇宙人だった…

 

いや、今くす玉の事はどうでもいいのだ。それよりの問題が今俺の目の前に広がっているのだから。

 

「では美咲先輩、次の質問です」

 

「全く…こーはいくは質問ばっかだね?そんなんだから未だに宇宙人になれないんだよ?」

 

「常識を全て捨て切って宇宙人になるくらいなら地球人のままでいいですよ!それより何ですかこの鍋のレパートリーは!」

 

俺の目の前に広がる三つの鍋が異様な雰囲気を出している。

 

まず一つ目、キムチ鍋。キムチ特有の酸味と辛味が食欲をそそるその香りは今にもよだれが垂れそうになるほど美味しそうだ。

 

二つ目、トムヤムクン。キムチ鍋にも似て入るが決定的に違うのはこの複雑でありながら鼻を通るスパイシーな香りだ。この鍋も美味しそうだ。

 

そして三つ目…真っ赤にグツグツと煮込まれた鍋だ。しかし、その鍋からはその赤みからは想像される辛い香りはしない。むしろその逆で食べる前から分かるほど甘い匂いが漂ってくる。

 

「何で鍋が赤しかないんですか⁉︎てか最後のこれ何⁉︎」

 

「赤は勝負時と祝いの時に使われる色だからな。美咲が全部の鍋を赤で染めようって考えたんだ」

 

仁さんが苦笑いしながら説明してくれた。

 

「そうだよこーはいくん!赤は勝負の色だ!私の勝負パンツも赤色だぞ!」

 

「誰もあんたのパンツの色なんか聞いてねぇ⁉︎」

 

「空太」

 

「ん?何だ椎名?」

 

「私は白よ」

 

「ぶふっ!だからお前何を唐突に⁉︎」

 

「赤と白でおめでたね」

 

「勘違いされるからそういうのやめようね!?それと紅白でうまいとか思ってんのか⁉︎」

 

「神田くん最低」

 

「そういうななみんはトラ柄だよね?」

 

「美咲先輩⁉︎」

 

「神田くんは聞かんといて!」

 

「けっ、高校生が色気付きやがって」

 

椎名や美咲先輩が暴露大会をしている中、河合荘の住人である麻弓さんが苛だたしそうにしていた。

 

「こういう優等生みたいな純情っぽい奴ほど後ろでは何人男を手玉にしてるからわかんねぇんだ。(麻弓調べ)」

 

「そんな事してません!」

 

「もー麻弓さんったら嫉妬しちゃって、ダメだよ高校生相手に今の麻弓さんを比較しちゃ…だって、もう(笑)若くないんだし(笑笑)」

 

「彩加テメェ!」

 

この時点で薄々感じていたのだが、この彩加さんという人は少し、というかかなりいい性格をしているようだ。

 

「それにー、麻弓さん下着のセンス全然無いじゃん。ほら今日だって上下揃ってないし、上は白で下は黒」

 

「な⁉︎彩加お前っ!」

 

「神田くん見ちゃアカン!」

 

突然彩加さんが麻弓さんの短パンと襟のゆるいシャツを下にずり落とした。

 

一瞬だけ白いブラと黒のレースが見えた気がしたが目に激しい痛みが出てそれどころではなくなった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

「着てるものが白と黒とか…麻弓さん、心の中はお葬式気分(笑)?」

 

「よしテメェは絶対許さねぇ、この場でそのマスク剥ぎ取ってやる!」

 

「あ、青山さん。今神田くんにやった目潰し俺にもお願いします?」

 

「ヘイ!りっちんは今日のパンツは何色だー!」

 

「へ!?わ、私は…」

 

「ちょっ!?上井草先輩、先輩に何聞いてるんですか!」

 

「なんだ?うさは知りたく無いのか?」

 

「そ、それは…」

 

「お腹空いたわ」

 

「ええい!近くに寄りすぎだ居候娘!こっちに来るな!椎名のところに行け!」

 

「そんなつれないこと言わないでください。ほら、あーんしてあげますから」

 

カオスはより一層濃くなり、既にツッコミが追いつかなくなった。俺はどうしようもないこの状況を前に思考を放棄しかけた。

 

すると、騒がしいなかでパンパンと、小さくもはっきりと手を叩く音が聞こえた。

 

「みんな?とりあえず鍋食べましょ?鍋が冷めちゃうから。後、ご飯を前に下着の話なんて無作法よ?わかった?」

 

そこには笑顔で恐らく大変キレている住子さんの姿があった。

 

『は、はい…』

 

みんなそれを察し、一度静かに席に着いた。住子さんの隣に座っていた千尋先生も呆れたようにこめかみを抑えていた。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

住子さんがそういうと、みんなも手を合わせて声を揃えて言った。

 

『いただきます』

 

 

 

………そういえば三つ目のあの赤い鍋のことをまだ聞いていない気がした。

 


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