さて、これはいったいどうした事だろう……
トロイアが滅びたあの日、ようやく
その瞬間聞こえた謎の声により俺は生かされ、仮初めの自由を手に入れた
魔神柱と名乗るソイツは俺の望みを叶えてくれるらしい
なんでも俺という存在は単体ではなにも出来ないが、力ある存在たる魔神柱が
そこまで本気でもなかった、というより心底世界がどうなろうとどうでも良かった俺は
まぁ、滅ぼせるなら滅べばいいよ
くらいの投げやりな気持ちで身を任せ、晴れて世界の敵になったのだった
もうね、気分はアレです……
ブラック○ャップ……あるいはホウ酸ダンゴ……
俺と融合した魔神柱は目の前にいたメネラウス等を殺した
そしてその後サーヴァントを召喚し護衛とし、自らを俺の霊基の底上げに使いきったのだ
それにより得られた結果とは、俺という存在の「性質」を
際立たせることだった
では俺の性質とは一体なんだろうか
そう、「傾国の魔性」だそうだ
トロイア戦争の原因を皆さんはご存知だろうか
ヘラ、アテネ、アフロディーテの中で誰が一番美しいか、その審判を任されたパリスに3女神はそれぞれ賄賂を囁いたわけだ
ヘラは「アシアの君主の座」を、アテネは「戦での勝利の加護」を、アフロディーテは「世界一美しい者」をそれぞれ与えるとしたのだ
そしてパリスが選んだのは
俺、男なんですけどね……
つまりどういうことかと言うと
俺は
そんな俺の性質を強調するとどうなるのか……
周りの人間全てが俺に群がってくるという訳だ
そしてそれを護衛がわりのサーヴァントが仕留めると……
なぁにこれぇ……
俺を奪おうとする男がいる…………頭を割られて死んだ
俺を求める女がいる…………頚を跳ねられ死んだ
俺の名を呼ぶ子供がいる…………踏み潰されて死んだ
俺に見惚れて呆然とする老人がいる…………上下に分かれて死んだ
あぁ……ドイツもコイツも俺を救わなかった奴ばかり
死んでも構わない、寧ろ清々する
最初はそう思って嗤ってたけど……
やっぱりあんまり面白くない
なんでかな……いや、それもそうか
俺ってグロ系苦手なんだよね
世界がどうなっても知らないけど別に今となっては特定個人が憎い訳じゃない
憎くもないヤツが目の前で死んだらそりゃあ「うわ、嫌なモノみた……」ってなるわ
でも、もう仕方ないんだよね
魔神柱は完全に俺に溶け込んじゃったみたいで反応ないし
諦めて滅べばいいよ
あぁ、そういえばここってFate時空だったっけ
胸に突き立った刃を見ながらぼんやりと考える
なんでこうなったのかな
なにがいけなかったのかな
人理を乱す者を許すわけにはいかないとあの子は言っていた…………知らないよそんなこと俺には関係ない
人を滅ぼそうとする貴方を許せないとあの子は言っていた…………誰も俺を救わなかったクセにあいつ等は救われるのか
人の心を弄ぶことに罪悪感はないのかと彼等は叫んでいた…………あぁ、違和感の正体はそれか
操られて、自分の意思を曲げられて、無為に潰される
そんな人生が嫌で、それを強いる世界が憎くて
みんなみんな滅べばいいと思ったのに
俺は操る側になってたのか
道理でつまんない筈だわ…………
ふふふ……なんて皮肉
何一つ自由にならなくて、楽しいことなんてほとんどなかったけど
今は少し……なんだろう、嬉しい……かな?
人の心を弄ぶ
俺が出来なかったこと
俺がしてほしかったことを
成し遂げて貰えた気がしてちょっとだけ愉快
あぁ、なんて贅沢なんだろう
彼等が泣いている
俺を許せないと言った彼等が
他に道はなかったのかと
俺を許さないと言った彼等が
貴方を救えなかったと
最後のその後
あの日死んでいた筈の俺に
あの日死に損なって殺戮をもたらした俺に
看取って泣いてくれる人がいるなんて
あんまりにも贅沢だから、ひとつ、最後くらい気分よく祈ってみようか
嗚呼、願わくば彼等がその貴き意思を貫けますように……