魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~   作:エルン

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第37話 『ご存知なので』

 

 

 

 

 

 セインはルーテシアをひとまず高架下に届けると、今度はケースを取ってくると少女に伝え、再びもぐりこんだ。

 

 

(今頃、ヘリは撃墜、混乱に乗じてケース奪い、撤退。簡単かんたん~)

 

 

 そうして、片方の指をスコープにして橋の上に指だけ出し目標を定めようとするが、一人がモニターを開き、そこを注視している面々がいるだけであった。

 

 

(ん?)

 

 

「まだ、こっちにいるわ!」

 

 

 一人に気づかれる。

 

 

(しまった!)

 

 

[アギトさん! 脱出しましたか!?]

[してるよ。ったく、こういうこと、だろ!]

 

 

 閃光弾が放たれ、周りは狼狽する。

 

 

[ありがとうございます!]

 

 

 そういうとその目くらましの隙を突き、ケースを奪いさる。

 

 

[おまえのためじゃねぇよ。ルールーのためだ!」

[まーまー]

 

 

 高架下に戻るとルーテシアのそばにアギトがいた。

 

 

「とりあえず、ここから離脱しましょ」

「……うん」

 

 

 少女はアギトをやさしく包み、セインに抱かれながら地面へと姿を消した。

 セインは先ほどのことで疑問とすることがでてきた。

 

 

(ヘリが撃墜されたら、もう少し乱れると思ったんだけどなー。ディエチが目標をはずす……いや、それも考えづらい。クア姉がいるんだし。)

 

 

 というと。と、ルーテシアを抱き移動しながらさらに考えをめぐらせる。

 

 

(防がれたのかな? え、でもヘヴィバレルを防いだら、衝撃波がでて、すこしは相手に不安とか目視確認を遅らせる事ができると思うんだけどなぁ。あ、そっか、話しかければいいんだ)

 

 

 考えてもうまい答えが出ず、直接クアットロに話しかける事にした。

 

 

[おーい、クア姉ぇ、何があったのー?]

 

 

 だが、応答がない。

 

 

[え、クア姉、ディエチ!?]

 

 

 顔に焦りをみせ、強く話しかける。

 

 

[なぁにぃ?]

 

 

 少しの間があって、応答があった。

 

 

[クア姉、そっち、なにかあったの?]

 

 

 ただ、余裕のない受け答えだ。

 

 

[私の、ヘヴィバレルが……]

 

 

 ディエチも応答する。

 

 

[え、はずしたの!?]

[ちがう]

 

 

 おそらく逃げてるのだろう、ところどころ息遣いが伝わってくる。

 

 

[そっち大変みたいだね、なんとか逃げて後で聞くよ]

[……かれた]

[え?」

 

 

 かみ締めたように、ただ勢いがなくうまく聞こえない。

 

 

[何だって?]

[割かれた]

[は、ディエチ、なにいってるの?]

 

 

 要領を得ない、割かれたの意味が捉えきれなかった。

 

 

[まだ、防御壁で防がれたほうがよかったよ! 威力抑えてるし! でも!]

[ごめん、わからないんだけど?]

[あんなに収束させて固めたのに、割かれたんだ!]

[……え、ディエチ待って。割かれたって――]

 

 

 ここでやっと、意味を捉えることができた。ただ、それは考え付きもしなかったのだ。つまり、割かれたというのは、

 

 

「花が咲くみたいにきれいに割けたのよ]

 

 

 クアットロが驚きを隠せないという声色で妹の代返をした。

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~

第37話 『ご存知なので』

 

 

 

 

 

 

 

 もし、表現するなら大水を傘の上にかけた時に出るような音が鳴り、その一撃は割けた。放射上に枝分かれするように細かくぱらぱらと分かれ、ヘリには当たるようなことはなかった。

「対象の目標はヘリと判断しました。これより、ヘリの圏外への退避を第一優先に行動します」

 誰に聞こえるわけでもなくコタロウはつぶやいた。実際はなのはとフェイトには聞こえている。

 傘の柄からは紐がでて手首から離れないよう傘は吊り下がり、先ほどキャロからいただいた煙樹に火をつけ、口で大きく吸い込み、煙を吐く。コタロウは少し身体が楽になるのを感じた。

 彼は再びしっかりと傘を右手で握り、先ほどロードした魔力に自分の魔力をつなぎ合わせると傘はゆがみ――ゆらゆらと蒸気を帯びているように見えた――それをヘリの進行方向へ突き、そして開く。

 

 

「カームホール」

 

 

 ヘリの進行方向から風力が消えヴァイスでも目視できる空気のトンネルが眼前にできた。

 同時にヘリの中になにかやわらかい空気が固形化したような、はたまた水のようなものに包まれる。

 

 

『――!!』

 

 

 ヴァイスとシャマルは呼吸は普通にできるのになにか言われようのない浮遊感に襲われる。

 

 

[シャマル主任医務官、グランセニック陸曹]

 

 

『コ、コタロウさん!?』

[圏外への退避を優先するため衝撃保護のエアロゲルをヘリ内部に生成しました]

 

 

 さらにコタロウは続ける。

 

 

[今から1分間進行方向へは風の抵抗を受ける事をなく突き進ませますので、1分後の操縦をよろしくお願いいたします。今から私が蹴りこみますが、先ほど述べたとおり衝撃は少ないはずです]

[え、コタロウさんは!]

 

 

 ヴァイスが叫ぶ。

 

 

[今、優先されるのはシャマル主任医務官の担当されている少女、と考えます。でなければ、このヘリが狙うのは陽動が関係していると想定しますが、何より優先は少女の圏外への退避です。カウントします。3、2――]

[ちょっ――]

 

 

 コタロウはヘリの後ろにつき、思い切り足を振り上げた。

 蹴りにあたる部分にも魔力で加工されている。

 そして、

 

 

「ネコあし」

 

 

 蹴り上げた。

 ヘリが空気のないトンネルと突き抜けていく。

 音速には壁が存在するがカームホールによりそれがない。

 

 

「ストームレイダー!!」

 

 

 ヴァイスは愛機を呼ぶ。

 

 

<ただいま時速1351キロ>

「マッハ1.1、か!」

<おそらく、あと55秒ほど続きます>

「おいおい……というか何でGを感じない?」

<この特殊なエアロゲルに魔力でさらに上乗せし、Gをなくしていると考えます>

「つーことは、俺がやらなきゃいけないというのは――」

<50秒後、このカームロードおよび、エアロゲルがなくなったときに衝撃なく運転を再開する事かと>

「コタロウさん、無茶いってくれるぜ……」

<できませんか?>

「あァ!? 腕の見せ所だろう?」

 

 

 無理とは言ってねぇ。と荒げる。

 

 

<失礼いたしました>

「シャマル先生」

「はい!」

「つーことなんで、50びょ」

<あと、42秒です>

「――後も先ほどと同じ操縦いたしますんで、安心しててくだせェな!」

 

 

 外をちらりとみたシャマルはこの速度に驚きつつも、

 

 

「もちろんです」

 

 

 ヴァイスの操縦を信用して疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

「ネコあし」

 

 

 そういってヘリを圏外に蹴りだしたのを目で追い、即座にその蹴りだした人間に焦点を合わせる。

 

 

「……どういうこと?」

「なにを、したの……?」

 

 

 驚くのもつかの間、上空から無数の魔力弾にクアットロとディエチは気づき、飛び降りて回避する。

 

 

「見つけた」

 

 

 しかし、着地してその背後にはフェイトが構えていた。

 

 

「なっ!」

「くっ! 速い」

 

 

 また飛びのき二人はそろってビルからビルへ飛び移って逃げる。

 

 

「止まりなさい! 市街地での危険魔法使用、および殺人未遂の現行犯で、逮捕します」

 

 

 飛行するフェイトの周囲に魔力弾が生成され、二人を捉えた。

 クアットロとディエチは誰かとやり取りをしているようで、「割かれたんだ!」と叫んでいた。

 

 

「もう一度言います。止まりなさい!」

 

 

 その言葉は耳に入ったんだろう。

 

 

「今日は遠慮しときますぅ」

 

 

 と、余裕をみせる言葉を吐く。

 

 

「IS発動。シルバーカーテン」

 

 

 二人は消え、フェイトは目視できなくなった。

 瞬時に彼女は視線を移動させ、

 

 

「はやて!」

「位置確認。詠唱完了。発動まであと4秒!」

 

 

 その先にははやてがおり、準備を整えていた。それを聞いて、フェイトは翻しこの場から退避する。

 

 

「……離れた、なんで?」

「――まさか」

 

 

 シルバーカーテンを解き、上空をクアットロが見上げると、そこには、

 

 

「広域空間、攻撃!!」

「うそぉ~」

 

 

 信じられない大きさの魔力の生成が目視できた。ディエチはひるみ、クアットロは本当に焦っているのかもわからない声を上げる。

 

 

「遠き地にて、闇に沈め」

 

 

 はやては目標を定め、

 

 

「デアボリック・エミッション!」

 

 

 魔法を発動させた。

 大きく周りがその魔法に飲み込まれていく。

 二人は自分たちが考えているよりも危険が大きいものと判断するも、その判断が遅く一度は飲み込まれる。が、何とか脱出できた。

 

 

<投降の意志なし……逃走の危険ありと認定>

 

 

 とある電子性の声が聞こえたと思い、見上げるとそこには金色の髪の執務官。

 

 

<砲撃で昏倒させて捕らえます>

 

 

 背後には二つに結んだ空尉がデバイスを構え、取り囲んでいた。

 

 

[……さすがに、まずいわね]

[どうする?]

 

 

 追い込まれた二人は何とか脱出を試みようとするがすぐには案がでない。

 

 

「――ディエチ、クアットロ。じっとしてろ」

 

 

 どこからか二人にだけわかる声が頭に入ってきた。

 

 

「IS発動。ライドインパルス」

 

 

 その女性はエネルギーを込め、目標を定めると腰を低くかがめて構える。

 同時にフェイト、なのはもまた魔力を練り上げ、

 

 

「トライデント……スマッシャー!」

「エクセリオン……バスター!」

 

 

 ディエチとクアットロに向けて砲撃を打ち出した。速度は速く、二人は先ほどの声を聞かなくとも動けそうにない。

 なのはとフェイトの魔力砲が二人に向けられ当たったとき、通信室では「ビンゴ!」と声が聞こえたが、なのはとフェイトは当たったという感触は得られなかった。

 

 

「ちがう、避けられた!」

「直前で救援が入った」

「アルト、追って!」

 

 

 その言葉にアルトはすぐ行方を追った。

 

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ヘリは無事なんだな」

 

 

 ヴィータは光以上のものは確認できず、もう一度通信にて確認する。誰が助けたかよりも無事である事に彼女は息を漏らした。

 

 

「じゃあ、こっちの報告をする」

 

 

 ヴィータは悪いという言葉から、相手を逃がした事とケースも取られたことを報告した。

 リインはスバルたちの責任ではなく指揮官の不始末である事を合わせて伝える。

 

 

「副隊長、あのぅ」

「なんだよ! 報告中だぞ!」

「いや、あのずっと緊迫してたんで切り出すタイミングがなかったんですけど……」

「レリックには私たちでちょっとひと工夫してまして……」

「あぁ?」

 

 

 ヴィータが報告の中断でスバルたちに注意しようとするも、スバルとティアナがおずおずと言葉を選んでレリックについて話し始めた。

 

 

「ケースはシルエットではなく本物でした。私のシルエットって衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから」

 

 

「なので、ケース開封して、レリック本体に直接厳重封印をかけて――」

 

 

 ティアナとキャロの説明にスバルが行動で示し、キャロの頭上の帽子をとる。

 

 

「その中身は」

「こんな感じで」

 

 

 するとキャロの頭上にはちいさい花が咲いており、ティアナが魔法解除を行うと、その花は赤く光るレリックに変わった。

 

 

「敵との直接接触の一番少ないキャロに持っててもらおうって」

「……なるほど~」

 

 

 リインの感心とヴィータの乾いた笑いをする。

 召喚士一味には逃げられたがレリックの確保は遂行されているのが分かり胸をなでおろした。

 

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

「バカ共が、お前らの目は節穴か」

『……??』

 

 

 とある地下の機器の張り巡らされた研究所のような場所で、集団の中ではトーレと呼ばれる短髪の女性の怒りとも取れる言葉に皆が疑問を持つ。

 

 

「ここだ」

 

 

 そこでは多くのあらゆる角度が映し出された画面が開かれ、エリオやキャロ、の映像が映し出されていた。

 

 

『……あ』

 

 

 その映像は狙っていたものを奪う前のもので、何を閾値(しきいち)にしているか分からないが、奪う対象が赤く、熱源のように表示されていた。

 一つはケース、もう一つは、

 

 

「あの、帽子の中か!」

「してやられたわけだ」

 

 

 キャロの帽子の中が赤く表示されていた。

 

 

「すみません、お嬢。愚妹の失態です」

「……別に、私の探してるのは11番のコアだけだから」

 

 

 ケースには6番と書かれていた。どうやら少女の探している番号ではなく、興味がそがれたのか踵を返し彼女たちと別れた。

 

 

「コアもマテリアルも渡したとなると」

「ウーノ姉様に怒られるぅ」

 

 

 次に、彼女たちの姉の怒りを心配し始めた。セインがため息を漏らし、クアットロが身体をくねらせる。

 

 

「……」

 

 

 そして、ディエチはこの研究所に帰ってきてからいくつか話し合いに参加するも無言が多かった。

 

 

「ディエチ?」

「ウーノ姉さんは見てた? 私のISが割かれたの」

「ああ」

 

 

 見ていた。と、頷く。ディエチは幾分かトーンが低いが理由は分かっていた。

 

 

「ドクターから貰ったデータになかったのもそうだけど、あいつは誰で、何であんなことできたんだ?」

「そうそう。私も聞きたかった。何があったの?」

 

 

 あいつとはディエチのへヴィバレルを細かく割いた性別の分からない人間のことであった。通信傍受はしていたが、聞き取れず、顔もバイザーで隠れ分からなかったのだ。

 ディエチの代わりにクアットロが映像を映し、見事に一撃が割かれたのを見た。

 

 

「え、なにこれ」

「あいつが誰なのかは分からないけど、原理は分かったわよぉ」

 

 

 クアットロが自慢げに言う。

 

 

「一体なに!」

 

 

 ディエチが知りたくてたまらないというようにクアットロに迫る。

 

 

「ちょっと、落ち着いてよぉ。あれはねぇ、紡解点(アンラヴル・ポイント)を突かれたのよ」

「紡解点?」

「そ。魔力とか、私たちのエネルギー生成とかに必ずある、生成上一番弱い部分の(ポイント)のことよぉ」

「そこを突かれると、あんなに簡単に」

 

 

 クアットロがふるふるとかぶりと振る。

 

 

「まっさかぁ。弱いっていっても周りよりってなだけで、威力が弱いところじゃないわぁ」

「じゃあ――」

「単純に」

 

 

 ディエチの言葉を彼女はさえぎった。

 

 

「考えられるのは3つ」

「……うん」

 

 

 ずいと三本の指を立てられディエチは頷く。こぶしを作り人差し指を立て、

 

 

「ひとつめはへヴィバレルはきりもみ状に回転してるから紡解点を見極めるのはほぼ不可能」

 

 

 次に中指を立て、

 

 

「ふたつめは、あの威力を微動だにせず押し返せる物理的な力がないとはじかれるから不可能」

 

 

 最後に薬指を立てた。

 

 

「みっつめは、あの威力に耐えられる堅牢な魔力を瞬時に作れないと不可能」

『……』

 

 

 全員が黙った。

 

 

「つぅまりぃ、高回転するヘヴィバレルの紡解点を見極め、はじき返せる力――非常に強い足腰と腕力――をもち、瞬時に硬く強い魔力生成を持った人間だからできた。ということねぇ」

「……ちょっとまってよ」

「なぁに、セインちゃん」

「例えば、ほら、向こうの隊長たちが間に合ってて防いだらどうなるのさ」

「防げるでしょうねぇ」

 

 

 セインの言葉に即座に答えた。

 

 

「その説明じゃ隊長たちみんなそうだってこと?」

 

 

 彼女は少したじろいでいる。

 

 

「ん~、違う違う」

「え?」

「あちらさんの隊長たちはみんな魔力値が高いでしょ? そんなの魔力量にものいわせれば防げるわ。もちろんこちらも本気なら分からないけど」

「……?」

「私が言ってるのは量じゃなくて質の話」

 

 

 分からないようなので、視点を変えて割く瞬間の映像を見せる。

 遠目の映像をどんどん拡大させた。

 

 

「当たる前にカートリッジをロードしてるけど、本人自体の魔力は武装局員にはなれないものしか持ち合わせてないわ」

 

 

 ぎりぎり数値化できるくらいと説明する。

 

 

「ここでこの人間がやったのは」

 

 

 コマ送りで映像を進め、

 

 

「当たる瞬間にこの(デバイス)に内包してある魔力を僅かに使い、バレルをはじく堅牢なものを瞬時に生成したということなのよぉ」

 

 

 説明をしているクアットロは口調とは裏腹に表情が険しい。

 

 

「この人間がやったのは、どんなに魔力が小さい人間でも、さっきの三点をクリアすればディエチちゃんのISを幾度となく防ぐことができる証明をしてみせたのぉ」

 

 

 声色が段々荒々しくなっていった。

 

 

「局には」

「いるわけないでしょこんなの。私も最初は理論上は可能だと思ったけど、考えて解析すればするほど実現不可能だと結論づけたんだからぁ」

 

 

 さらによ。と続ける。

 

 

「さっきの三点をクリアしても、実行すればデバイスは使い物にならなくなるはずよ。なのにこのデバイス、終わった後もまるで傷ついた形跡がないの。もちろん、遠目で画質が粗いからまるでという表現は間違いだけど」

「……」

「……んとさあ、クア姉さんのことだからほかの視点のもあるんでしょ? 下から見ればバイザーの中の顔が見れるんじゃ」

「もちろん、やってるわよ?」

 

 

 なら。とセインはクアットロを気遣うが。

 

 

「デジタルだとジャミングが入る特殊なバイザーだったわ。私たち目視ではできるけど、機械を通すとジャミングが入って表情がわからないようになってるの」

 

 

 忌々しいといわんばかりの顔をしている。その時、背後で気配がするのを感じて振り向くと、

 

 

「……ルーお嬢様?」

「その人、知ってるかも」

「お嬢様、どちらで?」

 

 

 ディエチとクアットロがルーテシアの発言にぱちくりと目をしばたいた。

 

 

「でも、そのひと傘は持ってたけど、左腕がなかったって。ガリューが」

「ガリューが?」

 

 

 こくりと少女は頷く。

 そして、もう一度目をモニターに向けると、その人間の着ている服装は袖が長く、隠しているようにも、無いようにもみえる。

 

 

「……ちょっとまっててくださいねぇ」

 

 

 クアットロはキーを叩くと、映像が反転する。

 

 

「左腕、ないわねぇ」

 

 

 生体反応を軸に切り替えたようだ。

 

 

「ということは、お嬢は、いえ、ガリューは顔を見たことあると?」

「うん」

「ど、どんな顔でしたか?」

「……見たのガリュー」

 

 

 トーレの質問で、見たのはガリューであるというのは焦って聞くディエチには耳に入っていないらしく、顔立ちを聞くが、少女は冷静に映像は残っていないと答えた。

 

 

「それに、あの傘がデバイスなんて分からなかったし、魔法なんて使わなかったって。あ、あとその人、男の人だって」

「……んと、はい」

 

 

 セインが手を上げる。

 

 

「ガリューさんはその人間と戦ったんですか?」

「うん」

 

 

 一拍おいて、これ。と映像を見せると、

 

 

「気づいたら転ばされて、踏み抜かれたって。それで私が転移させて退避させたの」

『……』

 

 

 全員の顔が驚きに変わった。ガリューの腹部の装甲を破り、くっきり足跡が残されていた。

 

 

「とりあえず、分かったのは、えーと」

 

 

 セインが頭をフル回転させてなんとかまとめようとする。

 

 

「……目が良くて、力があって、魔力が弱くて、でも制御はうまくて、傘を持った、片腕の男?」

『……』

「だって、それしか言い方ないじゃんか~」

 

 

 みんなが呆れ顔でセインをみると、ぶーぶーと不満をあらわにした。

 

 

「まあ、でもそれしか言いようないか」

 

 

 ね、そうでしょ? とセインが胸を張る。それ以外に言いようがないのが納得できないが、実際そうなのだ。男の不明点が多すぎる。顔が分からないうえ、エース級の評判があるわけではないし、特別魔力が高いわけではないし、特殊な能力を持っているわけでもない。さらに過去の有名な事件に関わっているわけでもない。情報があまりにも少ないのに、ガリューを打ち据え、ヘヴィバレルを割いたという事実。

 

 

「この男を調べる方法はないの?」

「ないことはないけどぉ」

 

 

 クアットロは眉根を寄せた。

 

 

「六課にハッキングする労力と今やらなければならないことを考えるとねぇ。やったのはすごいことだけど、私たちの興味とは今は関係ないことでしょ~?」

「当たり前だ」

 

 

 クアットロ、トーレも興味はあるが私的な好奇心をドクターの願いより上にすることはなかった。

 

 

「確かに、そーだけど」

「……次ぎ会ったら、確実に撃ち抜く」

「そゆこと、今度果たせばいいのよぉ」

 

 

 ひとしきり考えた後、技に磨きをかければよいという考えに至り、この話題は流れた。

 しばらくの間、クアットロとディエチは納得のできない顔をしていたが、ウーノと呼ばれる女性の険しい顔によってしゅんと肩を下ろすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ヴィータたちよりも高い位置から見下ろしているシグナムと隣のシャッハ・ヌエラは問題なさそうなやり取りを遠目から見守り安堵する。

 

 

「我々の出番はどうやらなくなったようですね」

「任務は無事完了のようです。喜ぶとしましょう」

 

 

 そういうと二人は武器を納めた。ただ、それから思い出したようにシャッハは「あ」とシグナムを見た。

 

 

「どうかしましたか?」

「……先ほどのヘリの砲撃回避をみて、もしや、と思ったんですが」

「はい」

「そちらに、えーと……」

 

 

 うろ覚えなのかシャッハは眉を寄せ、少し考え込む。

 

 

「コタ……コト……コトローさん? という、人がいませんか?」

「……はぁ」

 

 

 頭の中でシグナムは検索をかけて即座には出てこなかったが、砲撃回避で気がついた。

 

 

「コタロウ、ですか?」

「あ、そうです! コタローさんです!」

 

 

 はじけたというにシャッハは声を大きくする。シグナムに一歩近づき、

 

 

「その人は、なんていうか寝ぼけ目で、勘違いされそうな……あと、傘をぶら下げている……」

 

 

 まだ、歯切れが悪そうであるが、特徴からまず間違いがなかった。

 

 

「コタロウ・カギネ三等陸士で間違いないと思います」

「局員だったんですね……」

「それが、どうかしたんですか?」

「いや、あの、実は一年ほど前に」

 

 

 

 

 

 

――『強盗だー! あいつ、大事な売り上げを!』

――『この聖王教会本部のあるベルカ自治領で、不届きな。ヴィンデルシャフト!」

――『……あの、ナイフとお金、全部拾いきれて……行っちゃった』

――『見つけた! この地で不届きは許しません! 現行犯で――』

――『あの! その人、ぶつかっただけで、関係な――』

 

 

 

 

 

 

「……なんとか寸止めで事なきを得たんですが」

「はぁ」

「ほ、本当ですよ! 誓って当てては!」

 

 

 彼女はぽりぽりと頬を頬をかき、そして必死に弁明する。

 

 

「それはわかりましたが、それでコタロウは……」

 

 

 それからどうしたんですか? というようにシグナムはシャッハに訊ねる。

 

 

 

 

 

 

――『え、違う……?』

――『はい! そちらの方はたまたまそこでぶつかっただけで』

――『そうだったんですか。てっきり……あの、すみません!』

――『先ほどの方は強盗だったんですね。それより、よろしければその武器をおさめ――』

――『遅れました! シスター・シャッハ、強盗は』

――『そいつですね! 直ちに連行します!』

――『え、いやあの』

――『貴女の寸止め、お見事です』

――『不殺の精神は我々も見習わなくてはなりませんね。ほら、来るんだ』

――『その、違……というか、あなたも否定を』

――『私は強盗ではありません』

――『犯罪者はみんな始めはそういうんだ』

――『そういうのは向こうで聞くから』

――『……なるほど』

――『え、なるほどじゃ――』

 

 

 

 

 

 

「あの時は、あれよあれよという間に話が進んで……それで、見送ってしばらくしてから我に返り……」

「……シスター・シャッハ?」

「ち、違うんです! あの後、弁解しにって、犯人も捕まって、あ、いや、先に犯人を捕まえてその後釈放で……あと、凶器扱いで傘も取り上げられてまして……」

 

 

 あわてすぎてて、釈放は後回しにされ、逮捕後に彼は釈放されたらしい。

 

 

「……それで?」

「それで、私は向こうが一度連行されているので名前を知ることができたんですが」

「あなたの名前をコタロウは知らないと」

「……はい。あ、いやでも、間接的にシスター・シャッハとは」

「謝罪はされたんですよね?」

 

 

 

 

 

 

――『証言、ありがとうございました』

――『いえそんな、私のほうこそ』

――『なんとお礼を申し上げていいのか。それとこの傘も』

――『あの、謝るのはわた――』

――『そして、度重なる失礼をしなければなりません、実は急いでいまして……』

 

 

 

 

 

 

「……シスター・シャッハ、それは……」

「ち、違うんです! どうも、拘留されたために時間がなくなってしまったらしく」

 

 二度目の否定は最初よりも小さくなっていた。そして、この時傘が大変大事なものであるということを聞いたらしい。

 眼下のスバルたちなら間違いなく大きなため息をつく内容であった。シグナムは整理するために少し考え、

 

 

「つまり、貴女の勘違いで捕まりそうになった彼は、そのさらに勘違いで本当に連行、拘留され」

「……」

「それで、犯人を捕まえて彼を釈放させて自分の勘違いで拘留された事を謝罪しようとしたが、逆に感謝されてしまったと」

「……はい」

 

 

 もう言わないでくださいといわんばかりにうなだれている。

 

 

「あの、普通なら『証言、ありがとうございました』なんて私に対する嫌味じゃないですか。それは言われても仕方ないですし、言われたほうがすっきりするんですけど」

 

 

 なんとか話し出すが、

 

 

「でもそれは」

「そうなんです。顔には出ませんでしたが、本当に感謝の念を込めて『ありがとうございます』って言われたんです」

 

 

 シグナムはそうだろうと頷く。

 

 

「だから多分、私は彼には『犯人を捕まえ、自分の釈放のために尽力してくれて、さらに傘も取り返してくれた人』だと思われてると思うんです」

「それは間違いないと思います」

「う……ですよね」

 

 

 それで、とシャッハはさらに、

 

 

「一応、別れ際に連絡先をメモ書きでいただいたんですが、そのまま仕事に行ったところ途中で雨が、その、降って、しまって……文字がにじんで、ですね、連絡先がよめなくなりまして、タ(ta)かト(to)かも――」

「それでコトローと」

「あう……はい……」

 

 

 メモ書きを自分の不注意でダメにしてしまったことを吐露し、シグナムの指摘に、消え入りそうな声で前で手を組む。

 

 

「はじめは口調からよい出会いかたと思ったのですが」

「違うんです……彼を見つけた喜びで、全くそんなことは」

 

 

 三度目の違うには力がない。

 そしてシャッハはシグナムの目を見ながら、

 

 

「それでですね、今日はこんなこともありましたが、機会がありましたら改めて謝罪の場を設けていただきたく……」

 

 

 泣きそうなのか恥ずかしいのか分からない顔で懇願した。シグナムはその真剣なまなざしを逸らすことはできず、少し顎を引いて、

 

 

「わ、かりました」

 

 

 と頷くしかなかった。

 

 

「本当ですか!?」

 

 

 シャッハの目が輝きに満ち、

 

 

「はい」

「ありがとうございます!」

 

 

 深々とお辞儀をする。

 

 

(まあ、仕方あるまい。それに……)

 

 

 普段の彼の行動を思い出すと、僅かながら胸がちくりとし、

 

 

(勘違いされたままのコタロウを見るのは、嫌だしな)

 

 

 自分の中にある思いが主の為なのか自分の為なのか分からなかったが、勘違いされたままの彼を見るのは腑に落ちなかった。

 

 

「それで」

「え、それで?」

 

 

 今度はシグナムがシャッハに訊ね、なんでしょう? と彼女は首をかしげた。

 

 

「カリム少将とアコース査察官はご存知なので?」

「あ、う……」

 

 

 なるほど、話さないほうがいいのか。と、思いつつ相手には冗談ともとれる笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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