半透明の世界   作:雀興梠

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知っている事と分かっている事。


空っぽの器

「放ち縛れ!蠍薔薇!」

 

蠍薔薇…骸様のよくお使いになる呪いの一つだ。

そしてこの力、この雰囲気は間違いない…。

 

「(骸様の呪符を使ったのかッ…。

なんて、考えてる場合じゃないな。)

避けないと……なッ!?」

 

避けたはずだ。

なのに何故、私の足に黒い蔦…蠍薔薇が絡まっているの!?

 

もしかして…

 

 

 

「(…怨念の自動追尾か)」

 

 

 

呪いに宿した怨念が余りにも強いが故に標的となる存在に自動的に引き寄せられる。

これは紛れもない骸様の呪符であるからこそ出来る芸当だ。

 

「不覚…ですわね…」

 

思考をまとめ終える頃にはもう、私の身体は茨の毒で指先一つ動かせなくなっていた。

 

⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸

 

「よっと」

 

土煙を払うと、カーリーが近づいてくる。

一暴れして落ち着いたんだろうね…多分、今回は周りの破壊もそう多くないからマシな方かな。

 

…後で直しておこう。

 

「落ち着いたかな?」

 

そう問うと、首をパキパキ鳴らしながらカーリーは不機嫌そうにこちらを向く。

 

「まあまあだ」

 

…満足していないらしい。

だけど今回はこれで引いてくれるみたいだ、

割と機嫌はいいのかな。

 

「で…結局何がしたかったの」

 

「…ムカついただけだ」

 

「何にさ」

 

「はぁ!?最初に言っただろうが…

あぁ…クソッ!!」

 

目を尖らせ顔を逸らす。

言いづらいのかな。

 

「いや、言い「お前がッ!!」…うん」

 

「…お前が」

 

顔を俯かせ拳を震わせながらも言葉を紡ごうとするカーリー。

 

……あぁ、やっと分かった。

 

 

彼女が何故こんなに怒っていたのか。

最初から彼女は伝えていたのだ、僕がちゃんと受け取ってあげられなかっただけで。

 

「カーリー」

 

「…なんだよ」

 

そう言って薄く目を開けるカーリーを僕は…

 

「あ……?」

 

強く抱き締めた。

 

「何すんだよ。なぁ…何がしたいんだよ!今更!」

 

「…ごめんね、待っててくれてたんだね」

 

「…」

 

「長かったよね、君と僕が過ごしたのは数千年。

君が僕を待ってくれていたのは外の時間で5億年」

 

「本当にごめんねカーリー。

また会えて、心から嬉しい」

 

君が何に傷ついたのか、僕には分からないけれど。君はきっと僕が傷つけたのだろうから。

ちゃんと僕の言葉で言わなきゃいけなかったんだ。

会えて嬉しいよ、またよろしくねって。

多分、これだけで良かったんだろう。

 

「クソッ…」

 

僕は人の心が分からないから。

君の感情の温度がこの掌には伝わらなくて、だからいつも君の言葉を掴み損ねた。

その度に君は傷ついたのかもしれない、それを僕は今も分からずにいるんだ。

 

あの日君を裏切るずっと前から。

 

「…待ってたさ。

5億年間1日たりとも思い出さない日なんてなかった。忘れたいとさえ思えた、むしろ憎いとさえ思う事もあった…だけど帰ってくるって信じてたんだぜ?」

 

僕と目を合わせ言葉を続ける。

 

「なのに何なんだ!お前の気配を感じた日、私がどれだけ喜んだか分かるか?お前と会うことに恐怖と歓喜が渦巻いて、それでも会って伝えたいことは溢れるんだ…

 

…お前が最初に会いに来てくれるのは私だと思っていたから」

 

僕が彼女に会った頃の事は今でも覚えてる。

第一印象は幼いなと、ただ純粋にそう思った。その時既に数千年歳ではあった彼女だが、その思考は幼く破壊神としての力を持て余していた。

 

「私は信じていたんだ。

"あの時"だってなんだかんだでそばに居てくれるはずだ。そんな風に思ってた。」

 

僕はただ相槌を打つだけ、返す言葉なんて最初から持ってなかった。

 

「なぁ…

お前は私の傍に居てくれないのか?また傍から消えるのかよ…?

なぁ、骸。

 

お前はずっと"知らない"ままなのか?」

 

 

知らない…人間やその他の感情の多くを僕は知っている。

けれどその全てが僕には"他人事"だ。知ろうと考えたことなんて一度もない、知らなくたって生きていける、知らないからこそ離れてゆけるから。

どうやら相手の気持ちが分からない存在を好く存在は殆どいないらしい。

僕の記憶にある誰かの記憶、だけどそういった記憶は確かに多いし事実なのだろう。

 

 

 

なれば世界にとって必要のない僕にはそれを知る必要もないのだろう。

 

 

 

 

 

カーリー、彼女に言われるまで考えもしなかった。

…だからだ、だから僕は少しずつ知らないといけないらしい。

それを彼女が望むなら、それだけだ、それだけが全てだ。

 

…だから今言える僕の全てを言おうって思うんだ。

 

 

 

「ずっと傍に居るよ、ずっと。

もう君の前から消えたりしないから、だから君が望む限りは絶対に僕は傍に居ると約束する」

 

 

 

 

 

 

分からないままの過程を彼女に吐露する事が正しいのかは分からないけれど、

僕が正しかった事なんてきっと一度もないから。

 

 

 

 

 

 

 

「…おっせぇんだよ…クソが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

…彼女が望むなら、それは正しい。




「…あ、あの…老君様、私達空…」

「私もそう思ってはいましたがやめましょうね?
…大丈夫、帰ってからでも骸とは話せますよ」

「…そうですね

(あれ…?そういえば鴉恋さん大丈夫かな)」
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