「蕎麦が食べたいです」
「作った」
「さすが骸!速い!」
「…ありがと」
…
……
………………
…なにこれ?
いやいや、なにこれ何やってんのこの二人!?
なんで蕎麦、というかその蕎麦何処から出したんですか骸君!?
訳が分からない、本当に訳が分からない。
カーリーとのイザコザも終わり、やっぱり日常っていっちばーん!ってほのぼのしていたところに何不思議なことをしてるんですか!?
「…あの、何してるんですか?」
「んー?あ、申公豹ちゃんは知らないんでしたね。
検証ですよ、検証」
検証…?
「蕎麦を出すことがですか?
と言うよりその蕎麦何処から…」
「あー、ちょっと違うんですよね。
…見てもらった方が速いかな。骸、なんか適当に出してもらっていいですか?」
「適当…うん、まぁ了解」
そう言いながら骸君はちゃぶ台を見つめる。
…いや、何もおこらな……!!??!?
「どっからこの蕎麦出したんですか!?というかなんでまた蕎麦!?」
「私あんまり食べる方じゃないんですよね…」
「いや、そこじゃないですよね!?
今絶対注目するところそこではなかったですよね?」
「本当に意味わからないですからね!?いや、本当にイミワカンナイ」
…動揺し過ぎて何処かのアイドルの様な口調になってしまった。
「あぁ…申公豹ちゃんが遂に壊れて…」
「遂に!?何を前から予兆があったかの様に言ってるんですか!
誰のせいですか誰の!!」
「…うーん……申公豹ちゃんぅ…ですかね?」
「そんな訳ないでしょ!?
しかもネタの入れ方雑じゃないですか!?んぅって何ですか!母音の付き方おかしいですし…というか私サーバルキャットじゃないですし!?」
「(…からかい過ぎました)
あぁ…うん、説明するから落ち着いて…ね?」
⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸
「はぁ…それで骸君の能力の検証(?)をしていたんですよね?」
やっとこさ落ち着いた私は、
されどまた首を傾げる。何となく骸君は能力を持っているのだろうなとは思っていましたが、蕎麦に結び付く能力というのが分からない。
なんせそんな現象も能力も今まで聞いたことさえないのだ、私が困惑するのも仕方ないですよね?
「で…どういった能力なんですか?」
「んー…これは私もよく分かってないんですよね…
骸、説明お願いしてもいいですかね?」
老君様は骸君の方に膝をズラし向き直る。
「うん、そうだね…
僕の説明でよければ構わないよ」
「大丈夫ですよ、私理解力ありますし?」
「いや、疑問形なら威張らないで下さいよ…」
私の言葉を聞き終えた後、骸君は唇を指の角で抑え軽く微笑むと、説明を始めた。
「まぁ…といってもそこまで難しい能力なんかじゃないんだ」
「そうなんですか?
…でも蕎麦を出す能力とか聞いたこともないんですが…」
成長を促進させるとか?
いや、それ素材は出来ますけど蕎麦として完成されて出てこないですし…
思い当たりませんね。
「いやいや、蕎麦単体の能力じゃないから…
僕の能力は"再現"、知識を元にモノを再現する能力だよ」
…
「…そ、それはどこまでのことが出来る能力なんですか…?」
「うーん…」
「多分、ほぼ全てのモノを再現出来るんじゃないかな。
この世界にあるモノなら」
「…はい?」
"ほぼ全てのモノを再現出来る"…?
無茶苦茶だとかそんなものじゃない、
私はもちろんとして、仙人、そして神にだってそんな事を出来る存在は聞いたことがない。
鴉恋さんの嘘を真実に魅せる能力。
それでさえかなり無茶苦茶な能力で、神の幻術の域だと言っても構わないほどの力だ。
けれど骸君の能力は…
…森羅万象、その位にさえ届きうる力なのではないか…?
「…そんな能力…代償とかはないんですか?」
「これといってはないかなぁ…」
…代償なし…ですか。
こんなデタラメな能力がこの世に…「あ…」
「…どうかしたんですか?もしかして何か」
「いや、代償はないんだけど制限があってね。
…これッ…なんだけどさ」
首元から"何かを引きずり出すように"手を引く骸君。
ジャラ…
「!?
それは…鎖…ですか?」
「その通り…鎖だよ。
…僕が作ったものじゃないけどね」
金属がこすれるような音がしたかと思うと、骸君の首には先程までは存在しなかったはずの太い鎖が巻き付いていた。
「…あの」
突如、沈黙を貫いていた老君様が声を上げる。
「どうかした?」
「…私の勘違いなら、申し訳ないんですが…」
「何か気になることでもあるの?」
気になることも何もまだその鎖についてはなんの説明も受けていない、少なくとも私は。
…もしかして、老君様は見ただけでその"何か"に気づいたのだろうか。
「えぇ…まぁそうですね」
「…一応聞きますが、
骸、君の種族は怨霊でしたよね?」
「そうだね」
…今更何の確認をしているのだろう?
確か老君様は骸君と出会った時に、その種族から生い立ちまでを聞いたらしいと言うのに。
…私はざっくりとしか知らないですが。
「そうですよね。
怨霊…本来は魔物側の存在ですね」
「老君様はさっきから一体何を「だったら」…」
「…だったら何で、その鎖からは…
そんなに強い"神力"を感じるんですか?」
…神力?
…いやいやいや、そんな筈はないです。…だってそれは"有り得ない"筈ですから。
魔物の持つ妖力と神や仙人の持つ神力はとても相性が悪い。それなのに強く妖力を持つ彼がそんな物を付ける理由なんてない。
「…確かにそうだったね…僕もあんまり長いこと付けてるものだから忘れてたな。
さっきも言ったけど、この鎖は僕が"再現"したモノじゃないからさ。
僕も出来るなら外したいんだけど…そうもいかなくてね」
「…それを付けたのは誰なんですか」
「…それは分かってるんじゃないかな、
僕が誰に閉じ込められていたか…忘れた訳じゃないんでしょう?」
「…やっぱり、やっぱりそうなるんですね」
何かを確信した様に呟くと、老君様は今まで見た事もないほどに険しく、その表情に怒りを露わにしていた。
⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸
「つまり…その鎖は、あいつが…"森羅万象"が君に付けたんですね?」
「…そうなるね」
言葉が切れるその刹那。
老君様は勢い強く、骸君の肩を掴み背等を見回した後、骸君に目を合わせる。
「大丈夫なんですか!?
身体は!何処かに異常はないんですか!?
早くどうにかして壊さないと!!」
突然語気を荒げる老君様に、動揺を隠せなかった私は急いで仲裁に入る。
「老君様!?
何が…ッ!取り敢えず落ち着いて…落ち着いて下さい!!」
「落ち着いてなんて居られるわけないでしょうが!!
こんなモノが付いていたら何時骸の身体が壊れるか…」
身体は震え、声はその形相から伺える怒りよりずっと弱く聞こえる。
何が彼女をここまで動揺させているのかが全く理解出来ていない私には止める言葉さえ思い浮かばない。
「私はこの子をッ…」
堰を切ったように溢れ出そうとした言葉は唐突に途切れていた。
純白の髪に乗せられた柔らかな手がその温もりを伝えたのか、彼女は憔悴した様な表情で彼を見上げる。
「…大丈夫だよ、大丈夫。
僕がこれを付けられたのは"外の時間"で五億年も前だよ?
もう五億年も耐えたんだ…今更耐えられないものじゃないさ」
「で、ですが!
それに耐えられなくなるのが今かもしれないじゃないですか!
"貴方まで"失ったら…もう…私…は……」
今にも消えそうな弱々しいその声は、この静かな部屋では痛い程に届き過ぎる。
初めて見る表情達が余りにも目まぐるしくて、まるでそれが脳内に焼き込まれる様な錯覚を覚え、私は喉まで焼けてしまったかの様に音を発せない。
その"当然"な理由に、まだ私は気づけないまま。
「大丈夫、これにそんな効力は無いよ」
優しく響く彼の声が今の私には遠く聴こえた。
⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸
「…効力はない?いや、そんな筈…それにどれだけの神力が籠っているか骸が知らない訳じゃないでしょう…?」
私はすぐさま聞き返す。
効力がない?そんな事は無い筈…これだけ神力を持った鎖、彼にとっては害以外の何でもない。
「そうだね…まぁ、これが僕を消す為に作られていたなら僕は今此処に居なかったかもしれないね」
消す為じゃない、
その言葉に少し安心を覚えそうになる。
だけど、それはまるで言い訳の様にも聞こえた、
消す為に作られたわけじゃない、けれど消えたら消えたで構わない。そう言っているようにしか聞こえないのだ。
それを作ったのは言葉を紡いだ彼ではない、けれどそういった意思で作られたのだと私は確信を持っていた。
怒りがもう一度心の底に澱んでいく感覚を覚える、けれど先ずは確認をすべきだと首を振り向き直る。
「それはつまり…それに殺傷能力はない、そういう事でいいんですよね?」
「大凡はそうだよ」
…嘘ではない、こんな流れで嘘を言われて見抜ける程私は心理に詳しくはない。
けれど彼がそういう事をすると思える程知らない訳でもない。
…それでも結局、妖怪、魔物…そしてその側にいる骸にとってその鎖は害にしかならない、その事実に変わりはない。
「それなら…何の為に貴方にそれを森羅万象は付けたんですか?」
私は骸の件で良い印象は持たないが、それでもこの世界の主、森羅万象はこの世界の意思なのだ。
高位の神でも殆どが声さえ聞いたことの無い存在、そんな存在が意味もなく干渉を増やすとは思えない。
「それは多分、僕をあの場所に閉じ込める為…だと思う。
最初に言った通り、あれが僕を敵と認識する頃には消されないだけの力が僕にはあったから。
だから抵抗力を削ぐ為に、力を出させない為の枷として付けられたのがこの鎖なんだ」
森羅万象にすら対抗出来ない存在…
聞けば聞くほど馬鹿馬鹿しくなるような話で頭が痛くなる。
けれどそれに少し安心する。
「…成程、力を抑える為の鎖だから、害はない…と」
「そうだね、僕がこの鎖の影響で直接的な害を受ける事はほぼないよ」
…溜息を吐く。
杞憂で良かった、心の底からそう思う。
だけどこれを本当に杞憂にしておきたい私は無用な念押し…確認をしてしまう。
「…それを私は信じていいんですよね」
呟く様に態と投げかけるその言葉は野暮以外の何でもない。
だけど、それでも私は骸の口から聞きたかった。
もう何一つ失いたくなんてない。
ただその恐怖心から逃れたいが為に。
「大丈夫、
僕は居なくなったりしないよ。」
…あぁ、ずるい。
君は本当にずるい子だ。
こんなにも…私が欲しかった言葉を的確にくれる。
「そんな口説き文句…どこで覚えてくるんですか?」
…ついつい口から溢れてしまった皮肉、
それは勢いで彼を抱き締め、生まれた頬の熱を隠す為の照れ隠しなんだろう。
多分隠せてはいないのだろうけれど…。
だけど…それでも私はこの手を離すつもりはもうない。
⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸
…良かった。
……良かった。
………良かっ…た。
彼女の側に居るようになって早何年過ぎたか分からないけれど、
そんな私でも彼女が意外と心が強くないこと、それに彼女に深い交友関係が殆ど存在しない事も知っている。
彼が家に住むようになってまだ数ヶ月しか経っていないけれど、もう既に私達にとっては大事な居場所の一部になっていた。
だからこそ彼女が彼を失うかもしれないと感じた時の痛みも十二分に分かる。
…私だって同じだから。
なのに、何でこんなにも貴方を遠く感じるのだろう。
貴方は誰にだって優しくて、一人を贔屓するような人じゃないのに。
…なのに何で私は貴方に触れられないのでしょう。
私は貴方の殆どを"知らない"、貴方の年齢を知らない、貴方の交友を知らない、貴方の正体を知らない。
貴方の過去を私は知らない。
なのに何で、彼女に微笑む貴方を見る度に私の心臓はこんなにも痛むのだろう。