紅魔館につき、門番の美鈴に声をかけられた。
『おかえり咲夜。 …あれ、その猫は?』
いつもなら居眠りをしていて、居眠り門番なんて呼ばれているのに
今日はサボらず眠らずきちんと門番しているんだな、と
皮肉を心の中で呟いた。
『ただいま。道中に倒れていたから拾ってきたのよ。死んじゃったら可哀想だし。』
『…やけに小さい猫ね。まだ子供みたいだけど…親猫はそばにいなかったの?捨て猫かしら。』
『いなかったわ。捨て猫なのかしら…。』
幻想郷で動物を飼っている人なんて聞いたことがない。
捨て猫かもしれないが、だとしても誰が捨てたのだろう。
全く検討がつかない。
『…というか、この猫、なんか変に汚れてない?』
と、美鈴が白い仔猫を指さした。
言われるまで気にしていなかったが、確かに少し変かもしれない。
綺麗に半分だけムラもなく汚れているのだ。
もう半分は水に濡れ、吸い込まれそうなほどきらきらと白く輝いているのに。
『…まあ、洗えばわかるわよ。』
『そうね。じゃあ。』
洗えばわかる。こういう汚れなのか、それとも模様なのか。
そうして私は、紅魔館の中へ入った。
『ただいま戻りました、お嬢様。』
『早かったのね、咲夜。…あら?それはなにかしら。』
『道中に倒れていた仔猫を保護したのです。死んでしまっては可哀想ですし…』
『ふぅん、仔猫なんて珍しいわね。』
テーブルに頬杖をつき微笑みこちらを向く、私の主
レミリア・スカーレットお嬢様。
『未だに目を覚ましませんが、呼吸もしており命はあるので、洗ってご飯を与えたら、また元の場所へ帰します。』
『どこに寄り道しているのかと思ったら…。』
『すみません、お嬢様。すぐに紅茶を…』
『違うわ、早くその猫を洗って来なさいと言っているのよ。
雨水にさらされていたからわざわざタオルに包んでいるのでしょう?』
『…ありがとうございます、お嬢様。すぐに洗ってまいります』
お嬢様の心遣いに甘え、買ってきたものをキッチンに置き、
タオルに包んでいる仔猫を優しく手の上に乗せ、
バスルームへと向かった。
ガシャン。
流石に仔猫を湯船に入れるのは危険だと判断し、
底が少し深い、大きめの容器に微温湯をはった。
しかし、未だに起きない仔猫に少し不審感を覚える。
呼吸はある、雨水にさらされていて体温は多少下がっているものの命が危険になるようなものではない。でもここまで眠っていると、少し心配になってくる。
仔猫に微温湯を手で優しくかけてみる。
片手で収まってしまうほどに小さいその仔猫。
汚れを落とすように、身体を温めるように微温湯をかけていく。
『あ…汚れじゃないんだ…』
身体を優しく擦ってみても全く落ちないこの汚れ。
多分これは猫の毛の模様なのだろう。
「にゃ……ぅ…」
目を覚ました、と胸をなでおろし安堵したその時。
『っ!?』
眩い光が猫から発し、バスルームを覆い尽くした。
あまりにも眩しく、目も開けられない状態だった。