僕は、暁美が現れた後、なんとか鹿目さんと美樹を説得して
「これでいいんだろ。それじゃあ、僕も帰らせてもらうよ。あとは魔法少女同士でご勝手に」
「ま、待って……夕田くん」
僕もこの場からさっさと立ち去りたかったが、巴先輩に引き止められてしまった。
一瞬、制止を振り切って帰ろうかと考えたが、一応巴先輩は僕の命を救ってくれた恩人なので仕方なく留まる。
「……何でしょうか?巴先輩」
今こうしている間も、暁美は僕に銃口を突きつけている。お前はもういい加減で銃下ろせよ。
「友達としては……友達としては私と一緒にいてくれるの、よね?魔法少女としてではなくて」
巴先輩は
僕は答えずに暁美の方を見る。巴先輩の意見はありなのかと彼女に言外に問う。
「駄目よ。絶対に駄目。巴マミに関われば、必然的に魔法少女にも関わってしまう」
駄目だったらしい。だが、それは巴先輩には納得できなかった。
「何で貴女にそこまで決められなくちゃならないのよっ!!関係ないじゃない!」
ヒステリックに巴先輩は
涙をにじませながら怒る巴先輩は年相応の女の子で、普段の先輩然としていたのは見栄(みえ)を張っていただけにすぎなかったようだ。
正直言って逃げたいな~、この空気から。何ていうか、女子特有のピリピリした空間が周りに充満している。もう魔法少女がどうとか関係ないよね。
ん?ふと、この状況から逃避したくて視線を巡らしているとあることに気がついた。
巴先輩の持っているソウルジェム、前に見た時よりも色が
間違いない。僕の目の錯覚でもない。この前は一点の
「……っ!!巴マミ!早くグリーフシードを使いなさい!」
僕に向けていた銃を下ろし、暁美はクールな表情を一転させて、慌てたようすで大きな声を出した。
それに対して、巴先輩は暁美の言葉を聞こうとせず、耳を
暁美はとうとう
どういうことだ?ソウルジェムが魔力の源なのなら、暁美の行動の意図がまるで分からない。敵に塩を送るようなものだ。まさか、ソウルジェムが濁ると魔法が使えなくなるだけじゃなく、他にも何か起きるのか?そして、それは暁美にとって不都合なことなのか?
僕は暁美と巴先輩を観察しながら、状況を脳内でまとめる。
まず、暁美は支那モンを瞬殺した。これは暁美が何らかの魔法を使ってやったのだろう。それがどんなものかは気になるところではあるが一旦置いておこう。
支那モンが言おうとしていたことは、普通の女の子が魔女になる原因と理由。
これを僕らに聞かせたくなかったので、暁美は支那モンを殺した。ならば、暁美はそれを知っているということになる。
次に暁美は、巴先輩から僕と鹿目さんと美樹を引き離そうとしていた。これは鹿目さんがメインであって、僕と美樹はおまけのようなものだろう。転校初日でも鹿目さんにあの意図のよく分からない厨二病っぽい説教をしていたことからも分かる通り、こいつが大事なのは鹿目さんだけだ。
鹿目さんが魔法少女になることを極端に忌避している。
この件に関しては、暁美が異常に『会って間もないはずの』鹿目さんに固執しているところが不可解だが、
巴先輩には悪いが、少なくても僕は何度も何度もこんな異常なことに付き合わされたくはない。
最後が巴先輩のソウルジェムが
これが謎だ。分かるのは、ソウルジェムが濁りきるとただ単に魔法が使えなくなるだけではないということだ。
ふと。
ふと、僕の頭で単語同士が線のように繋がった。
『魔女』は元は『普通の人間の女の子』。そして、『魔法少女』もまた『普通の女の子』が元だ。
『魔女』は『グリーフシード』から生まれる。『魔法少女』も『ソウルジェム』を契約時に生み出す。
これは余りにも似すぎてはいないだろうか。
(『普通の女の子』⇒『魔法少女』)≒(『普通の女の子』⇒『魔女』)
どこから来たのか分からない『グリーフシード』。濁りすぎると危険な『ソウルジェム』
(『ソウルジェム』+『穢れ』⇒・・・・・・・・・『グリーフシード』?)
これらのことを組み合わせて、最悪の考えが組みあがる。
(『普通の女の子』⇒『ソウルジェム生成』⇒『魔法少女』⇒『グリーフシード生成』⇒『魔女』・・・・・・)
魔法少女のソウルジェムが濁りが一定を越すと、グリーフシードになり、魔女を生み出す。
あくまで僕の推測に過ぎないが、この考えならば、暁美の不可思議な行動に説明がつく。
だとするなら、今僕が取らなければならない行動は一つ!
うずくまる巴先輩に近づいて、その手を握り締める。
「巴先輩!僕と友達になりましょう!」
巴先輩は目の端に涙を溜(た)めた顔で僕を見つめた。
「ほ、ほんとう・・・?ほんとうにわたしとおともだちになってくれるの?」
たどたどしい涙声で僕に聞き返す。完全に幼児退行してる。この人、本当に上級生か疑問になってきた。
僕は優しくだけど力強く巴先輩の手を握りながら、笑って言った。
「当たり前じゃないですか。巴先輩、いえ、巴さん。貴女と僕はもう友達ですよ。一緒にケーキだって食べた仲じゃないですか」
自分で言ってて何言ってんだと思うが、この際関係ない。グリーフシードで濁りがなくなったとはいえ、ストレスによってまた濁るならここで魔女になるかもしれない。だったら、こうするのが一番生存率が高い。
ここで巴さんに魔女になられたら危険だし、何より後味が最悪だ。
「ちょっと夕田政夫。私との約束は……」
「そうだ!暁美さんも巴さんと友達になろうよ。仲良くなるチャンスだよ?」
暁美がまた銃を僕に突きつけて喋りだしたが、強引に言葉をかぶせた。
そして、巴さんに聞こえないように暁美の耳元で
「……じゃないと巴さんに魔法少女が魔女になるって教えちゃうよ?」
「なッ!何でそれを貴方が……」
反応から見て、僕の推測は正しかったらしい。ならば、ここで
「そんなことより、君の答えは?ねえ、暁美さん。ここで巴さんが魔女になったら色々と困るんじゃない?倒したとして、鹿目さんにどう説明するつもり?」
「それは……」
最後に駄目押しの台詞。
「もし巴さんが急に居なくなったら、鹿目さん、魔法少女になってでも探すだろうなぁ」
「くッ……分かったわ。巴マミ、今までの非礼、お
暁美は、巴さんに頭を下げて、ソウルジェムとグリーフシードを返した。
うんうん、いいよね。素直に謝れるって。
その光景を見て
「暁美さんが・・私と友達に?」
巴さんはいきなり暁美さんの態度が急変したことに戸惑っていた。無理もないけど。
ここで僕はあえて空気を読まず、携帯を取り出して二人に向ける。
「よし。それではお互いの番号とメールアドレスを交換し合おう。まずは巴さんから。僕が受信しますんで赤外線送信お願いします」
未だに少し呆然としている巴さんにテンションを「早く早く」と急かす。
言っといて気づいたが、巴さん携帯持ってるんだろうか?親も友達もいないなら、必要ないから持ってない可能性もあるな。
しかし、僕の心配は余計だったようで、巴さんはポケットからちゃんと黄色い携帯電話を取り出した。
僕は携帯を赤外線受信の画面にして待つが、しばらくしてもデータが来ない。まさか・・・。
「巴さん、ひょっとして赤外線機能分からない、もしくは付いてないんですか?」
「・・・えっと、赤外線って何かしら?」
もじもじと恥ずかしそうに僕に尋ねた。
そうか・・・使ったことなさそうですもんね。
仕方なく、僕が巴さんを渡してもらい操作すると赤外線機能自体はちゃんと付いていた。
操作している時、見せてもらったが着信履歴が間違い電話とチェーンメールしかないのと、登録件数がゼロなのが見ていて僕の心をえぐった。この人、本物のぼっちだ。そりゃ友達欲しくて喚くわけだよ。
無事に巴さんとお互い登録を終えると、今度は暁美とも登録をする。暁美はしぶっていたが、大人しく電話番号を交換に応じた。
こいつも、クールな表情を保っていたが赤外線機能をいじる時やたらたどたどしかった。僕と巴さんの見よう見まねでやっているが明らかだ。案外かわいらしいところもあるんだね。
ちょっとにじふぁんの時より改良しました。
でも大筋の内容は変わってません。