魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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まどか視点は書けませんでした。すみません。
ママ視点が難しすぎたのが敗因です……。

ちなみにこれは第七十八話と第七十九話の間の日の話です。


まどか編
番外編 不思議な少年


~詢子視点~

 

 

 

 この頃なんだか、まどかの様子がおかしい。

 朝、寝癖を整える時に丹念に髪を()いているし、前までよりずっと鏡の前で自分がどう見えるのか、角度をずらしてチェックするようになった。

 最近はリボンの結び方や色合いまで気にしている。要するにまどかが色気づき始めている訳だ。

 何より、知久によると帰りが遅くなっているとか。

 これは間違いない。これは男だ。

 まどかに気になる男ができたのだ。

 

「ふ~ふ~んふ~ん」

 

 今もこうして、鏡の前で鼻歌を歌いながら身嗜(みだしな)みを整えている。

 浮かれているというか、我が娘ながらふわふわしているなあ……。可愛いけど、少し不安になってきそうだ。

 

「まどか」

 

「ん? 何? ママ」

 

 反応はするもの、まどかは鏡の方を見たままアタシの方を向かない。髪を()くのに集中している。

 ここは思い切って、聞いてるか。

 

「好きな男でもできたのか?」

 

 アタシの言葉をかけると、まどかは持っていたヘアブラシをぽろりと落とす。

 (しば)しの間、硬直した後、まどかは硬い動きで首だけをアタシに向ける。

 

「へ、変な事言うね、ママ。私に好きな人とか……あは、は」

 

 ぎこちない引きつった笑顔のまどかは必死で誤魔化しているようだが、その言動がすでに全てを物語っていた。

 まどかはヘアブラシを拾うと、カクカクと出来の悪いロボットのようにアタシの横を通り過ぎて洗面所から出て行った。

 そうか。まどかもとうとう、恋を知る歳になったのか……。

 いつまでも子供だと思っていたが、アタシの知らない場所で少しずつ大人への階段を上っていっているんだろう。

 それが寂しくもあり、嬉しい。

 ただ、まどかの惚れた男がどんな奴か見ない事には安心ができない。

 まどかに男を見る目がないとまでは言わないが、外面に騙されている可能性も否めない。

 機会があれば一度くらいまどかの意中の相手に会ってみたいところだ。

 

 

 

 そう思っていたのが一週間前の事。

 今日は珍しく仕事が早めに片付き、久方ぶりに定時に家に帰る事ができた。

 ここのところ、残業続きで夕食も(ろく)に食べられなかったから、ようやく家族での団欒も取れそうだ。

 

「ただいま~」

 

 玄関から家の中に声をかける。

 すぐにまどかが迎えに出てきてくれた。

 

「おかえり、ママ。今日は早いんだね」

 

「ほんと、久しぶりだよ……」

 

 と、言いつつ、まどかの格好を見て、アタシは尋ねた。

 

「珍しいね。まどかがそんな服着てるなんて。今日、何かあったの?」

 

 ピンク色のチュニックにチュールミニスカートとなかなかお洒落な服装をしている。

 普段はだいたい制服のままかパジャマくらいしか見ないから、こういう風に着飾っているまどかは珍しい。

 

「あ、あははは、えっとね、ちょっと今……お友達が来てて」

 

 照れながら説明をするまどかの顔を見て、アタシはピンと来た。

 今、家に来ているその「お友達」というのはまどかの意中の男だ。女が着飾る理由なんか、十中八九、男を物にする時ぐらいなものだ。ちなみに言うと残りの一、二は対立した相手への示威(しい)行為だ。

 大体、さやかちゃんや仁美ちゃんならアタシには名前で言うはずだしな。

 

「へえ、じゃあアタシもまどかのお友達に挨拶しなくちゃいけないね」

 

「あ、ちょっとママ……」

 

 まどかの制止を求めるような声を聞き流し、アタシは靴を脱ぐとリビングの方へ顔を出す。

 どれ、どんな男か品定めしてやろう。まどかに釣り合いそうな男だといいんだが……。

 そう思ってリビングを覗くとキッチンに立つ知久と和やかに話している少年が椅子に座っている。

 男の子にしては(つや)のあるさらさらした黒髪に綺麗な濁りのない純粋そうな瞳。顔立ちは特筆するほど整ってる訳ではないが、爽やかで柔和な表情は十分に好感を抱かせる。

 彼の膝の上に居るタツヤは頭を撫でられてご満悦そうだ。

 何というか、家族と打ち解けているというか、完全に溶け込んでいる。あまりにも自然体すぎるので、帰ってきたばかりのアタシの方が戸惑ったほどだ。

 黒髪のその子はアタシに気が付くと知久との会話を中断して、膝に乗っていたタツヤを椅子に座らせて、立ち上がって頭を下げた。

 

「どうも初めまして。僕は夕田政夫と申します。鹿目まどかさんとは友人付き合いをさせて頂いています」

 

「あ、これはどうも。アタシはまどかの母の鹿目詢子です」

 

 思った以上に丁寧な挨拶に少々面食らいながらも、アタシは挨拶を返す。

 夕田政夫君は今時の子には珍しく、礼儀正しい子のようだ。ポイント高いな。

 

「もうママ、勝手に行っちゃわないでよ」

 

 パタパタと足音を立てて、まどかが戻って来る。

 その表情は少し不満げだった。

 

「あー、ごめんごめん」

 

「もう……」

 

 まどかが溜め息を漏らすと、それを(なだ)めるように知久が柔らかく笑った。

 

「まあまあ、まどか。お帰り、ママ。夕食はまだかい?」

 

「うん。今日もたくさん仕事して来たからね。もうお腹ペコペコだよ」

 

 軽く腹を(さす)る動作をする。

 だけど、今は食欲よりも興味のある対象があるせいで、言うほど空腹感は感じていなかった。

 

「あ。僕、手伝いますよ」

 

 夕田君はそういうとカウンターの脇を通り、知久が居るキッチンの方へ回っていく。

 

「え? いいよいいよ。政夫君はお客様なんだから」

 

「いえいえ。夕食をご馳走になったのでこれくらいは手伝わせてください。こう見えて、僕意外に家事得意なんですよ。まあ、さして、今更やることはないでしょうけど」

 

 知久は断ろうとするが、夕田君は案外押しが強いのか手伝う気満々だ。というか、知久は「夕田君」じゃなく「政夫君」と名前で呼んでいるんだな。会ってそれほど時間が経っているとは思えないが、そこまで親交を深められているのは恐らく夕田君の社交性の高さ故だろうか。

 

「じゃあ、お願いしようかな。まずはそこのボール取ってくれる」

 

「任せてください」

 

 知久はああ見えて、専業主夫である事に誇りを持っているのでキッチンに自分以外の人間をあまり入れたがらない。アタシが昔、勝手にキッチンを使って料理をし出した時なんかは、直接口では言わなかったものの不満そうな表情をしていた。

 だから、知久が夕田君がキッチンで手伝いをする事を許可したのは驚きだった。

 

「あ、じゃあ私も」

 

「かな……まどかさんはタツヤ君を見てて。眠そうにしてたから、もう寝かせてあげた方がいいかも」

 

「うん。分かった……じゃあ、たっくん。お姉ちゃんと一緒に向こうの部屋行こっか」

 

 まどかはうとうとと船をこぎ始めたタツヤを抱っこして、リビングを後にする。

 ……夕田君、馴染みすぎだろう。違和感がないせいで会ったばかりのアタシでさえ、夕田君がずっと前から家に居たような錯覚に(とら)われそうだ。

 

 アタシが夕食を取り終えた後に食器洗いまで手伝うと申し出た夕田君だが、これは流石に知久も断り、今はアタシと向かい合ってテーブルに着いている。

 不思議な子だと思う。この家の雰囲気に溶け込み、尚且(なおか)つ、その存在感を失わない。それでいて、嫌味がないというか、完璧に調和を保たせている。一種のカリスマ性すら感じさせる。

 才能ではなく、多分、経験によって(つちか)ってきたものなんだろうな。

 アタシがじろじろ見ていると、夕田君は少し恥ずかしそうにしながら話しかけてきた。

 

「そんな見つめられると照れちゃいますよ」

 

「あ、不躾(ぶしつけ)に見ちゃってごめんね。ただ、まどかが男の子を家に連れてきたのが珍しくて」

 

「ああ、確かにそうですね。年頃の娘を持つ母親としてはどこの馬の骨か分からない男は心配ですし」

 

 夕田君は悪戯(いたずら)っ子のような笑みを浮かべた。

 

「馬の骨って」

 

 自分で言うか、普通。そんな台詞が出てくるのは余程の馬鹿か、大物のどちらかだ。

 この子は前者ではないのは確かだ。アタシが話したいタイミングを見計らって、わざわざ彼は話しかけた。

 こちらが観察しているよりも、夕田君の方がずっと細かくアタシを見ていたのだろう。

 

「まどかさんみたいな気立ての良い純粋な女の子と比べたら、僕なんて馬の骨です」

 

「変わった子だね、君は。でも、嫌な感じはまったくしない」

 

「僕がどんなに嫌な人間だったとしても、友達のお母さんに故意に嫌われるような一面を見せたりしないですよ」

 

 僅かにおどけた調子で言う夕田君にアタシは笑いをこぼした。

 

「あははは。そりゃそうだ」

 

 掴み所のない少年だと思う。今の台詞で組み立てていた人間像がまた変化した。

 真面目で大人しい子かと思えば、随分とユーモアセンスに溢れた面白い子のようだ。

 クラスでもこんな感じなんだろうか。だとしたら、女の子にもモテそうだ。

 でも、そろそろ本題に入らせてもらおう。

 

「まどかとどういう関係なの?」

 

「僕自身は良い友人関係を築けていると思っています」

 

 まどかさんにはどう思われているかは分かりませんけどと彼は最後に付け足した。

 そこに引っ掛かりを感じたが、(おおむ)ね模範解答だったので言及はしない。

 だから、アタシは夕田君に少し意地悪な問いを投げかける。

 

「君は本気で男と女の間で友情が成立すると思ってるの?」

 

 大人気ない質問だ。中学生に言うような事じゃない。

 でも、アタシは彼ならどう答えるのかが気になった。

 夕田君は不敵な表情で当たり前のように答える。

 

「成立します」

 

「成立したとしても、お互いの距離が近付いていけば友情の範囲から逸脱するかもしれない」

 

「そんなこと言い出したら、同性同士でも同じことが言えますよ」

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

 こう話していると中学生っぽくないな、この子。

 (しゃ)に構えている訳でもなく、かと言って何もかも許容している訳でもなく、自分が思うことをこちらに伝えてくる。

 のらりくらりとアタシの質問の意図を分かった上で余裕を持って(さば)いていく。

 こうなりゃ、回りくどい言い方はなしにして真正面から聞くか。

 

「ずばり聞くけど……まどかの事どう思ってる?」

 

「そうですね。優しくて純粋で可愛らしくて、――そして、何よりとても芯の強い女の子だと思ってます」

 

 アタシの聞いた意味合いとは違っていたが、夕田君がまどかの事をよく見ていると言う事は伝わってきた。

 まどかの芯の強いところなんかは傍に居ないと知りえないだろう。

 

「きっと、彼女があれだけまっすぐに育ったのは両親の教育の賜物(たまもの)でしょうね」

 

 夕田君はアタシに向けて微笑む。

 アタシはどこか照れくさい気持ちになって、誤魔化すように言った。 

 

「アタシは大した事なんかしてないよ。あの子が優しく育ったのはあの子が努力したおかげだよ」

 

「それもあるけど、やっぱり詢子の影響も強いと思うよ」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、いつの間にやら食器洗いを終わらせた知久がアタシの後ろに立っていた。

 ああ、なるほど。夕田君が「両親」と言った時にはもう後ろに居たのか。

 知久がアタシの事を「ママ」ではなく、名前で呼ぶのは久しぶりだ。

 

「知久さんもですよ。背中で語る格好いいキャリアウーマンのお母さん、いつも傍で面倒を見てくれる優しい専業主夫のお父さん。貴方方(あなたがた)お二人に手塩に掛けて育てられたから今のまどかさんが在るんだと思います」

 

「ゆう……政夫君。君は本当に掴み所のない子だね」

 

 本当に不思議な男の子だ。

 知らない内に人の心に入り込んで来るようなそんな感じだ。

 多分、まどかもこんなところに惹かれたのだろう。

 

「まどかをこれからもよろしくね」

 

 




まどか視点の話も見たいという意見があれば書くつもりですが、そろそろ本編に戻った方がいいでしょうかね?
見返すと、まどか視点の話は書いた事ないと気付きました。タイトルなのに! 詐欺ですね、これは。


ダイレクトマーケティング
navahoさん作『呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝』の十九話に政夫をモデルにした邪悪なキャラ「柾尾優太」が登場しました。
これ、私のオーダーしたキャラなんですよ! いや、政夫と似て非なる邪悪さがいい。

ついでに、私が並行して書いている『魔法少女かずみ?ナノカ~the badend story~』も良かったら読んでみて下さい。人気がなさ過ぎてやばいです!

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