~まどか視点~
私が自分の部屋で待っていると、政夫くんはドアを開け、少し遠慮気味に部屋に入ってきた。
いつも着ている白い制服の上着じゃなくて、Yシャツ姿だったので私は少しドキリとした。
「お待たせ。それじゃあ、僕の学ランを返してもらえるかな」
「ああ、うん。昨日から借りたままでごめんね」
頑張って手で洗濯した政夫くんの制服の上着を本人に返す。
政夫くんは、それを受け取ると早速Yシャツの上にそれを着た。当たり前だけど、学校で会う時はいつも白い学ラン姿なので、やっぱりそれを着ている政夫くんの方がしっくりくる。
今日、政夫くんが私の家に訪ねてきたのは、借りていた制服の上着を返すためだった。
美国さんとの一件が終わった後、私の制服がさやかちゃんの血で染まってしまったので、それを人目に付かせないように政夫くんの制服の上着を
そのまま、制服に付いた血を落とすためにマミさんの家に行った後、私は上着を返すタイミングを逃してしまったために政夫くんが今日家に来る事になった。
「制服の上着。ありがとうね」
私が改めてお礼を言うと政夫くんは首を振った。
「お礼を言うのは僕の方だよ。昨日、君が居てくれなかったら僕は織莉子姉さんを……大切な恩人をこの手で殺すところだった」
言葉と一緒に政夫くんはベッドに腰かけていた私に深々と頭を下げた。
真剣で、どこか痛々しさを感じる彼の声に私も辛くなる。
「そんな事ないよ。私は特に何もしていなって。ほら、それよりも立ったままじゃつらいでしょ? 政夫くんも座って、ね?」
私は隣のスペースをポンポンと軽く叩いて、座ってくれるように促す。
政夫くんは少し考えるような顔をした後、私の隣に座ってくれた。
表情は微笑んでいるように見えたけれど、私には分かった。
これは彼が私に気を遣って浮かべてくれている笑顔だ。
前まではそれに気付かなかったけど、美国さんと話していた時のあの今にも泣き出しそうな表情を思い出せば、政夫くんが浮かべている顔が『作った表情』かどうかが判断できた。
きっと、政夫くんは泣く事ができない。……ううん、違う。泣く事ができても、それを慰めてもらう事ができないんだと思う。
「本当にありがとう、鹿目さん。織莉子姉さんを撃とうとした時、僕は……仕方ないって思っちゃんだ」
政夫くんの作った微笑みにほんの僅かに影が差す。
淡々とした口調だけど、だからこそ、返って彼の痛みが私に伝わってきた。
「仕方ないってどういう事……?」
一度、政夫くんの目が私を見た。
私に話してもいいのかどうか迷っている、そう私は感じた。
「いいよ、政夫くん。大丈夫だから話して」
私がそう言うと、政夫くんは視線を前の方に戻し、言葉を続けた。
「あの時、僕は織莉子姉さんを殺す事を許容したんだ。ここが『妥協点』だと思った。鹿目さんの命を奪われることもなく、織莉子姉さんが殺人を犯すないこともない、一番マシな終わりだってね」
自嘲するような言い方に私は何か言いたくなったけど、それをうまい言葉が見つからなくて、私は黙り込んだまま、政夫くんの話を聞いた。
「汚らしいだろう? 僕は人殺しをしようとしたんだ。織莉子姉さんやそれからほむらさんには殺人を否定したくせに、自分が必要に迫られれば言い訳しながら人の命を奪える。そういう人間なんだ、僕は」
「違うっ!!」
今まで出した事のないくらいの大きな声が出た。
隣に居た政夫くんはもっと驚いたと思う。私を見つめたまま、口を開いて固まっていた。
私はそんな彼の手をぎゅっと掴んだ。
「政夫くんは汚くなんかないよ。政夫くんが美国さんを銃で撃とうとした事だって、ほむらちゃんに美国さんを殺させたくなかったからでしょ!? 誰かが汚れるくらいなら、自分の手を汚そうって、そう思ったんだよね……」
「そんな綺麗なものじゃないよ。仮にそうだとしても、僕は鹿目さんの言葉がなかったら織莉子姉さんを殺していたんだ。お世話になった人を、尊敬していた人を簡単に諦めて殺そうと……」
政夫くんの言葉を私は
「でも、それだって、私の事を護るためだったよね」
「……大層な理由があれば人を殺してもいいって考えは間違ってるよ」
そう呟くと政夫くんは押し黙った。
ようやく、私は彼の心に触れられたような気持ちになった。
政夫くんは人に厳しい。けど、それ以上に自分に厳しい。
常に正しくあろうとする。そして、少しでも間違えた自分を
誰かに許してもらおうと考える事さえできない。
だから、政夫くんはほむらちゃんよりも、マミさんよりも一人ぼっちなんだ。
嫌だな、と思った。
私が悩んでいた時には平然と、話しかけてきて当たり前のように一緒に考えてくれたくせに自分の事だけは隠して誤魔化そうとする政夫くんは見ていて、とても嫌だった。
「ねえ、政夫くん。辛かったらさ、もっと話してよ。私なんかじゃいい答えでそうにないけど……でも」
「鹿目さんまた『私なんか』って言葉使ったね。もう言わないって約束してたのに。あ~あ、約束守ってくれない人には相談できないなぁ」
私の言葉のあげ足をとって、政夫くんは話をうやむやにしようとする。
私はそれが許せなかった。
「政夫くん!!」
声を上げて怒ったけれど、政夫くんはそんな私を見て、小さく笑うだけだった。
「強くなったね、鹿目さん。前はここまで踏み込んでくることはなかったのに。でも、僕は平気だからさ。そういう優しさは僕以外の誰かに向けてあげて」
立ち上がって、私に背を向けた彼は無言でこの話は終わりだと語ってくる。
私は何も言えなくなり、仕方なく続きの言葉を飲み込んだ。
でも、絶対に私は政夫くんを一人ぼっちのままにはさせてなんかあげない。
「政夫くん……じゃあ、また明日ね」
「うん。また明日、学校でね」
こちらを振り向いた政夫くんの顔には、いつもどおりの柔和な笑顔が乗っていた。
弱さを覆い隠す彼の仮面は、引き剥がそうとした私の手を跳ね除けて去っていく。
政夫くんが居なくなった後、私はベッドに背中を預けて倒れ込んだ。
溜め息を吐きながら、電灯が
『魔法少女にならなくてもできる事がある』。
彼が教えてくれた言葉が頭の中でリフレインした。
そうだ。諦めちゃ駄目だ。私にできる事がある限り、それを頑張るって決めたんだ。
政夫くんが心を開いてくれるまで何度だってぶつかって行けばいい。
「負けないよ、私」
だって、この想いは政夫くんが私に教えてくれたものなんだから。
ベッドから、起き上がると私は椅子に座って、机と向かい合う。
私は机の上に一冊のノートを広げた。
中に描かれているのは私が考えた『魔法少女の衣装を着た私』。
その次のページには魔法少女の姿のマミさん、さやかちゃん、ほむらちゃん、杏子ちゃんの絵。
さらにその次のページには美国さんと呉さんの絵。
私はもう一枚ページを
全部私が描いた絵だ。
それを見ながら、鉛筆と色鉛筆を取り出し、絵を描き足してく。
政夫くんの絵を中心に魔法少女姿の皆を描いた。今度は皆笑顔の表情をしている。
そして、最後に制服姿の私の絵を彼の絵の隣に描き込んだ。
不思議と制服姿の政夫くんが最初の時よりも嬉しそうな顔をしているように感じた。
皆に囲まれている彼はどこにも逃げ場がない。一人ぼっちになんてなりようがない。
この輪を作ったのは政夫くんだ。
だから、政夫くんが中心に居なくっちゃ駄目。
私はこの絵を現実にするように頑張ろう。
「一人でなんか、抱え込ませないんだからね。政夫くん」
いや、まどかの視点だけ書いてないのはあれだったので書きました。
短いのはご愛嬌という事で。
彼女も彼女で強くなりました。きっと、まどかが一番政夫の核心に触れている気がします。
大学のサークルでの小説執筆に本腰を入れているので当分は更新できないかと思います。